後ろを振り向く
人の気配は感じない。足音も聞こえない。
きっと人の姿の怪物は襲ってきていなし、気付いてもいない。
あの時、赤い怪物は自分を全く見ておらず、銀髪の青年と赤マントの二人を殺すことに集中していた。
これだけ離れれば、追ってくるわけがない。
恐れることなどない。恐れることなどない。
後ろを振り向く時間は、他にも助けてくれる相手を探すのに使えばいい。


いくら心で考えても、何度も後ろを振り向いてしまう。
ネズミ以外の生物に、ここまで恐怖を覚えるなど、考えたことさえなかった。


何度目か、後ろを振り向く
誰もいない。
憎たらしいくらい見通しのいい草原は、人の姿を映さない。
そう、こんな所で自分はスクラップになるわけにはいかない。
主人、のび太の悲惨な未来を変えるために、帰らなければ。
大丈夫だ、絶対に大丈夫だ。


その先で見えたのは、二人組。
「うわ!あ、あなたは?」
「ぼ……僕はドラえもん……。き……君たちは、この殺し合いに乗ってないよね?」

震えながら、彼は敵意がないことを探る。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



わたしは、チビィと共に、東へ進むことにした。
地図を見ると、その先には「学校」、「ゴロツキ駅」、「山岸由花子の家」がある。
その中で、最も興味を抱いたのは、「ゴロツキ駅」という場所だ。
私がいた神栖66町では、長距離移動を必要としない点もあって、ほとんど乗り物に頼ったことはない。
あるとすれば、キャンプ中に川を渡るためのボートぐらいだ。
だが、和貴園の歴史の授業で、駅について習ったことはある。


元々は当時の乗り物代わりの生き物であった、「馬」という茶色や黒の生き物を置いておく場所で、街道に定期的な距離ごとに配置されていた。
国の中央で重大な命令が発されると、いち早く地方に伝えねばならず、逆に地方で何かしらの事件が起これば、中央に急いで知らせねばならなくなり、そうした時代にあったのが「駅」だという。
やがて馬以上に人を多く乗せ、馬より早く長距離を走ることが出来る「電車」というものが駅を占拠することになった。



そもそも、神栖66町がそうなのか自分達の時代の人間がそうなのか分からないが、どちらかというと時間にルーズな傾向があったため、時間厳守の時代で無くなると共に廃れるのも分かる話だ。
だが、いざこうして、地図に載ってある以上、興味が湧くのが人間というものである。
この首輪といい、奇妙奇天烈な技術を用いている以上、駅というのもただの張りぼてではないはずだ。
最寄りの「ゴロツキ駅」は、扱っているのは馬なのか、電車なのか、はたまた別の乗り物なのかも気になる。
そう言えば、一人乗りなのか、ペット?同伴でもいいのか気になるが、まあそれは付いてから確かめることにして、駅がある方に向かう。


そこから、青い何かが走ってくる。
まさかあれが乗り物……じゃないよなと不安に思ってしまった。


だがその姿が、大きくなるにつれ、参加者だということが分かる。
しかし、わたしが感じたのは疑問だった。
目の前にいるのは、人間なのか、他の生き物なのかということ。


「うわ!あ、あなたは?」
「ぼ……僕はドラえもん……。き……君たちは、この殺し合いに乗ってないよね?」

自分のことをドラえもんと名乗った生き物は、酷くおびえた様子だった。

「落ち着いて。私は乗るつもりはないけど、何があったの?」
わたしはその生き物をなだめ、何があったのか聞こうとした。

「速く逃げるんだ!!あの赤い帽子の男が追いかけてくるかもしれない!!」
彼に急き立てられるまま、草原を走り、南の方へ行く。
最初考えていた駅とは、全く違う方向だ。
ドラえもんの足の短さも相まって、それほど早い脚ではなかったため、ついていくのはそこまで難しくもなかった。
チビィは大丈夫かと思ったら、体を丸め、般球トーナメントの時の球体のように転がっていっている。


逃げた先は、南の島を繋ぐ橋の下。
そこでわたし達は腰を落ち着け、ドラえもんから話を聞くことにした。
彼の話はこうだった。
私が当初向かおうとしていた方向に会った学校で、紅いマントと白い鎧の男が戦っていた。
だが、突如現れた赤帽子の男が、圧倒的な力で二人を殺しに現れた。

白い鎧の男が投げた翼のような何かで、紅いマントの男はどこかへ逃げられたが、彼は抵抗空しく殺されてしまった。



「そんな……」
わたしは座っているのに、平衡感覚がおかしくなってしまった。
人間が人間を殺す。
そんなもの、あるわけがないと思っていた。
だがこの世界は、そのように出来ていることを、まざまざと感じた。


「しっかりするんだ!僕は早くのび太君にこのことを伝えなきゃいけないから行くけど、君たちはここに隠れていて欲しい!!」
「え?のび太君って、ドラえもんの友達なの?」
「そうだけど……早季ちゃんは名簿を見てないの?」


そういえば、と思い出す。
チビィのことであやふやになっていたけど、名簿を覗くのをすっかり忘れていた。

「僕もよく確認してはいないから、のび太君以外は知らないんだ。」
そんなわけで、わたし達は改めて名簿を確認することにした。
めくってみると、最初に見つけたのはドラえもんの友達だというのび太。
こんな姿をした生き物の友達だから、さぞかし友達も奇妙な姿をしていると思いきや、普通の人間の子供の姿をしていた。
しかし、それ以上に気がかりになったのは、のび太の付けていたサングラスに似た装飾品あった。


「ねえ、のび太の顔に付けてるのって、何?」
「知らないの?これは眼鏡と言って、目が悪い人が、物を見やすくするために使うんだ。」
「サングラスみたいだけど、違うのね。」

呪力が生活の基盤になっている私達には、視力は死活問題である。
だからのび太君は、大変だろうなと思った。


(目が悪い人………)
特筆すべき話でもないのに、なぜか頭の中で反芻してしまった。
装飾品に頼らなければならないほど、目が悪い人は知らないはずなのに、どこかで引っかかることがある。


―――私、もう、子供をなくすのは嫌よ!

そして脳裏に浮かんだのは、遠く離れた場所にいる、母の言葉。
目が悪い人のことと、母親の言葉がなぜつながるのか、分からなかった。
だが、何故かその言葉を頭の中で反芻してしまった。


「大丈夫!?」
「プギー!!」
ドラえもんと、チビィの声で意識を取り戻す。

大分話が逸れてしまったが、改めて名簿を確認する。
いたのは、和貴園時代から仲良かった覚、真理亜、そして全人学級時代から仲良くなった守。
瞬がいれば、こんな戦いでも簡単に解決してしまいそうなので残念だったが、のび太の眼鏡以上の疑問が頭にのしかかった。
覚の姿は、紛れもなく大人だった。
これでは幼馴染というより、親戚か何かと言った方が納得されるくらいだ。
守と真理亜も、覚ほど成熟してないが、私より明らかに年を取っていた。
特に真理亜は、元々美しいと思ったが、幼さが抜けて最早絶世の美女と言ってもおかしくない。
文字通りのハダカの仲であり、ありのままの姿を見ながら育ったから、それどころじゃない状況でも少し悔しくなってしまう。


ドラえもんに、自分の友達の姿が違う理由を知っているか、聞いてみようと思ったが面を上げた時に、その顔は引きつっていた。
元々全身が青いが、人間だったら顔が青くなっている時だ。


「どういうことだ……なぜ、生きているんだ……。」
見つめていたのは、全身を黒で覆われ、両の目から炎のような光を放っている、異形の怪物だった。

「誰なの?」
「デマオンって言って、僕たちが倒した奴なんだ……。」
何でもドラえもんとのび太、さらに美夜子と満月博士と、この戦いに参戦していない3人の仲間と共にやっと倒した、地球侵略を企んでいた大魔王らしい。
どこかおとぎ話じみているが、この戦い自体が荒唐無稽なものなので、今さらでしかない。


「とんでもなく強い魔法を使う奴で、おまけに銀のダーツじゃなきゃ殺せないんだ。会ったらすぐに逃げるしかない!!」

この戦いが、名簿の年齢などどうでもいいくらい恐ろしい物だと分かってしまった。
名簿をしまおうとするが、手が震えて思うようにできない。


「でも、僕たちは見つけなきゃいけない人がいるから……。」
「そうね、私も同じよ。」
「プギー!!」

おまけに厄介なのは、二人とも共通して、探さなければいけない人がいることだ。
チビィも誰かの捨て犬……いや、捨て虫なのかもしれない。


二人で支給された道具を見せ合う。
戦いに使えそうなのは、わたしに支給された風を起こすことが出来る杖と、ドラえもんに支給された山羊の絵が描いてある盾。
わたしが盾を持ち、ドラえもんが杖を持って前に立つ。

参加者の刺客となる場所から出て、仲間を探しに行くことにする。


「ところで、あなたは何の生き物なの?」
「僕は22世紀の、猫型ロボットだよ。」
「22世紀!?えーと、2100年のことだよね?」

ロボットというのも予想外だが、220年生まれのわたしにとって、驚きの年だった。
最も、呪力が生まれる前の時代の2100年なのかもしれないのだが。

「猫にも見えないけど……まあ猫だって違う生き物にも変わるかもしれないし……。」
フクロウシなどとは違う姿の牛の姿をイメージし、猫もまた時代を違う姿だったのかもしれないと考える。



【F-5/一日目 黎明】

【渡辺早季@新世界より】
[状態]:健康 恐怖(小)
[装備]:トアルの盾@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品 チビィ@ドラゴンクエスト7 不明支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:仲間(真理亜、守、覚を探す)
1.とりあえずチビィ、ドラえもんと共に移動する
2・名簿の友達の姿に疑問
※参戦時期は夏季キャンプ1日目終了後。そのため奇狼丸・スクィーラとは面識はありません。




【ドラえもん@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
[状態]:健康 恐怖(小)
[装備]:天罰の杖@DQ7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーから身を守る、マリオ・デマオンに警戒
1.のび太、美夜子、満月博士を探す
2.学校で起きたことを対主催勢力に話す

※魔界大冒険終了後です。


【チビィ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康
[思考]:とりあえず早季についていく。


[支給品紹介]
[てんばつの杖@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち]
早季に支給された杖。武器としても使えるが、振りかざすとバギマの力を持つ竜巻を起こすことが出来る。

[トアルの盾@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス]
ドラえもんに支給された盾。表にトアル山羊の顔が描かれている。
頑丈に出来ており、金属の武器の攻撃を防ぐことが出来るが、木製なので炎で燃える。


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027:命、擲って 時系列順 029:心を照らす光
投下順
008:闇に身を委ねた者 ドラえもん 040:想いは呪い呪われ
006:ここから先は語り部なき物語 渡辺早季
最終更新:2021年05月13日 10:17