服装を頭からつま先まで黒で統一させた長躯の男、ゴルベーザが荒地を闊歩する。
彼の使命は、終わったはずだった。
月の民、ゼムスに操られ、青き星の侵略者として先陣を切っていた彼は、何の皮肉か生き別れた弟、セシルに助けられた。
その後、弟とその仲間達と共にゼムス、そしてその怨念ゼロムスを倒し、ゆっくりと眠りにつくことにした。
だが、どういうわけか不意に目覚めた上で、殺し合いへと参加させられていた。


(ザントにオルゴ・デミーラだったか。だがこれ以上私は悪の言う通りになる気はない。)
自分に罪を犯せと命令されたのは、かつてゼムスに操られた時と似ている。
だが、既に罪の重さを知った彼は、悪の命令など聞く耳を持たなかった。

ここでやることは既に決めていた。
自分の命を投げ捨ててでも、この殺し合いを破壊する。
そのために、この不可思議な世界を壊すカギを、この会場を巡ってでも探し出す。


この会場に飛ばされて、真っ先に目に入ったのは、やたら背の高い建物だった。
地図を眺めてみると、「展望台」といかにもな名称がついてある。
弟、セシルの第二の故郷であり、まだ操られていたころの自分が拠点にしていた『バロン城』があったのも気になったが、それは展望台を見た後に行くことにしようと決める。


彼が展望台に関して、最も疑問に感じたのは、その名称と地形だ。
確かにこのような未知の場所、全貌を高い場所から見てみたくなる気持ちは大いに納得できる。
だが、バロン城以外にも、『山奥の塔』やら『大魔王の城』やら、屋上からの眺めがよさそうな建物は多くある。
他にも展望の用途として用いることが出来そうな建物はあるはずなのに、「展望台」とはどういうことか。


加えて、地形はもっと疑問だ。
展望台への道は、湖に囲まれており、一本の橋でしか行くことはできない。
自分の部下であったカイナッツォのように、水を操る力か、はたまたバリバリシアのような空を飛ぶ力でも持ってない限り、行き方は極めて限られる。
こんな所に出入りすることは、殺し合いをしようとしている誰かに追い詰められてもおかしくない。


従って、最も立ち寄る必要がない場所なのだ。
一見、立ち寄る必要がない場所と思えるからこそ、そこには何かあるのではないかと逆に考える。
敵に襲われる覚悟こそはあったが、腕には自信があった。
たとえ敵に襲われようと、返り討ちにしてみせんと、辺りを伺いつつ、丸木橋を渡る。


勿論、水を操る何者かがいるかもしれないので、地上だけではなく、水面にも注意を配っていた。
普通にわたるより時間こそ費やしてしまったが、警戒の必要もなく、展望台へとたどり着く。


そこは木製のやぐらで三階建てになっていた。
平らな木材に、乱暴にくぎを打ち付けた、簡素なデザインの階段を上り、2階へと上がる。
ここからでも、十分見晴らしがいいが、まだ上がある。


3階に上った時に、ゴルベーザの目を引いたのは、外の風景ではなく、謎のモニターが付いた、機械だった。
まるでカジノのスロットのような機械を、ゴルベーザが見つめると、そこから女性の声が聞こえた。

『参加ナンバー♢ジャック ゴルベーザ様ですね。この度は展望台へお越しいただき、誠にありがとうございます。』
「!?」

かつて月の民の技術で、バブイルの巨人や機械兵のような、戦闘機械にも精通したゴルベーザは、一瞬身構える。

『当システムは、6時間ごとにこの戦いを有利に進める道具を、提供することが出来ます。』
少なくとも敵では無いようだと安堵する。

『今回ゴルベーザ様が選ぶことが出来るのは、こちらのうちから一つ!
  • 地図1マス分の参加者の場所が分かる 首輪レーダーA
  • 参加者一人の場所が地図のどこへいても分かる 首輪レーダーB
どちらでございますか?』

モニターに映ったのは、片手に収まるくらいの赤と青のレーダーだった。


小回りの利きやすさなら、断然Aだが、ゴルベーザはBを取った。
この会場で恐らくいるであろう、危険人物を追跡するには、間違いなくBの方が有用だからだ。

『ありがとうございました。なおレーダーAは30分使うと、レーダーBは2名指名するともう使えなくなるので、考えて使ってくださいね!!
それでは、生きていればまたお会いしましょう!!殺し合い、頑張ってくださいね!!』



購入してから欠点を指摘するなど、厄介な機械だ、と呆れながら、機械から吐き出された青いレーダーを手に取る。
ともあれ、この展望台に何かあるという予想は、正しかったと実感する。
早速ボタンを押すと、マークと数字も連なって、リスト化された参加者の名簿が出てくる。
自分のマークは、♢のジャック。
なるほど、さっき言ってたことはそういうことかと、名簿を見てなかったゴルベーザは納得する。


しかし、ゴルベーザがさらに驚いたのは、リストを斜め読みした際に見つけた名だった。
♡の9、『セシル・ハーヴィ』。
間違いなく自分の弟の名前だ。


慌てて2人しかサーチできないのに、セシルと書かれた名前のボタンを押してしまう。
しかし、レーダーに出たのは、大きな『ERROR』の文字だった。
「な!?」

騙されて不良品を掴まされたのかと怒りそうになるが、レーダーには衝撃的なメッセージが表示された。

      その参加者は死亡しているため、首輪の機能も停止しています
      従って、場所を特定することは出来ません



「………なぜだ。」
瞳をかっと見開いて、半開きの口から零したのは、疑問だった。
確かにここへ来るのに時間はそれなりに費やした。
だが、この殺し合いが始まって2時間経過した経過してないかの短時間で、弟が殺されるとは予想だにしていなかった。

彼の心を揺さぶったことは、更に出てきた。
すぐ展望台から見えるほどの森の中で、火の手が上がっていたことに、今さらながら気づいた。
それは【C-8】で、美夜子が放った魔法の爪痕だということを、彼は知る由もない。
だが、あの場所で殺し合いに乗った者がいるということだ。
あの煙は、火を起こして出来るものでは無い。
黒魔法に長けた彼だからこそ分かることだ。


そのため、慌てて鞄に手を突っ込み、支給品の、呪われた剣を掴んでしまった。



ザックの中で乗り移る相手を今か今かと待ち望んでいた邪剣は、ゴルベーザの心に問いかける。

「これは!?」
幼き頃に味わった感覚だが、極めてはっきりと覚えている。
父であるクルーヤを失った時の喪失感で、空洞になった心に、決して心に入れてはならぬ、苦く甘い何かが喉から入り込んでくる感覚。
焦点の合わない両目で、月を仰ぐ。


『憎いか?弟を殺した相手が』
「……違う!!」
剣の声を、聴いてしまった。

『私に心を寄越せ、そうすればこの殺し合いを止めてみせるぞ。』
紫の剣は、なおも甘く囁く。

「やめろ!!」
『拒否することはない。拒否することは、死んだ弟もどうでもよかったことになるぞ?』

既に心の奥深くまで入り込まれてしまった。
まだ辛うじて意識があるうちに、舌を噛んで自殺しようと考えた。

だが、歯に当たったのは、柔らかな舌ではなく、固い剣の先だった。

『死を拒んだな?それでいい。それは、貴様が死んだ弟を大事に思っていたことだからだ。
償いたいと思っていたからだ。』
「そうか………。」



短い言葉を最後に、男は意識を手放した。
そして、ゼムスに操られた時と同じように、再び悪の道を進むことになった。




【C-6/展望台3階/一日目 深夜】
【ゴルベーザ@Final Fantasy IV】
[状態]:健康 呪い
[装備]:皆殺しの剣@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0~2 参加者レーダー青
[思考・状況]
基本行動方針:参加者を全滅させ、セシルを生き返らせる
※参戦時期はクリア後です
※皆殺しの剣の呪いにかけられており、正常な思考ではありません。
防御力こそ下がっていますが、魔法などは普通に使えます。


※展望台上には、6時間ごとにこの殺し合いを有利に進められる何かが、先着1名限定で置かれています。
幾つかある選択肢の中で1つだけで、誰かが選んでしまうと6時間ごとにリロードされるまで手に入りません。

支給品紹介
【皆殺しの剣@ドラゴンクエストVII】
ゴルベーザに支給された、呪われた装備。
長剣のためか、装備すると高い攻撃力と広い攻撃範囲を得られる反面、守備力はゼロになる。
本ロワオリジナル要素として、持ち主を強制的に殺意の衝動を植え付ける効果がある。


【首輪レーダー青@オリジナル】
バトルロワイヤルすっかりお馴染みの首輪レーダー。
参加者を一人指名すると、マップ上のどこにいるか参加者が死ぬまで示してくれる。もちろん移動しても分かる。
ただし、死者は教えてくれない。
2人指名すると、それ以上は指名できなくなる。



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最終更新:2021年03月12日 22:29