会場北西に位置する牧場。
普通ならこの時間帯は、牧場の門も山羊小屋も鍵がかけられているはずだが、どちらも開いており、家畜のいない小屋の中はランプが内部を照らしていた。


「外道が……。」
拳を一発壁に撃っただけで、小屋全体が揺れる。
首より下は、大柄な人間の体格をしている。
ただし、上は人間のそれとはまったく異なる。
顔の周りに立派な鬣を生やし、その顔つきは狼を彷彿とさせる。


大雀蜂コロニーの将軍、奇狼丸は鋭い歯をギリギリときしませる。
別に戦いが怖かったり、嫌いなわけではない。
彼は繰り返されるバケネズミ同士の戦争で、将として戦い抜いてきた。
だが、それは自分のコロニーと、崇拝する女王の為だけ。
間違ってもあんな得体のしれない生き物を楽しませるために戦うつもりなどない。


あの主催達は、願いを叶えると言っていた。
自分には人間たちの覇権をバケネズミの物にするという、願望はあるが、そんなものを叶えてくれるはずなどない。


鞄を探ってみると、立派な剣が出てきた。
ただ切れ味鋭いだけではなく、何か特別な力を秘めていることが感じられた。
奇狼丸は過去に、自分のコロニーの強化や、ともすれば人間に反旗を翻すために、人間の遺物である強力な武器を求めて、東京に出向いたことがある。
結局その探査では、大したものは見つからなかったのに、その辺りの刀や槍とは一線を画す業物が、こんな戦いで手に入るとはどんな皮肉だ、と笑いたくなる。
後は2種類の麦菓子だけだったが、量より質、ということなのだろう。


続いて、参加者名簿を漁ってみる。
眺めると、驚きの顔があった。
その顔は特に覚えている。
悪鬼を使い、自分のコロニーを壊滅させた野狐丸の顔だ。
名簿では将の名を鬻ぐ前の、スクィーラという名前だったが、間違いない。
他にも、かつて筑波山に迷い込んだ人間の姿や、神栖66町で会った人間の姿があった。
人間の中で、秋月真理亜と伊東守の方は筑波山で会えた14年前の記憶であるため、極めて朧気だが、確か名簿に書いてあるような名前だった気がする。
なぜあの時と同じ姿をしているのか、正確にはなぜ早季という少女だけ子供の姿をしているのか分からないが、考えていても仕方がない。


恐らくスクィーラはこの戦いでも、人間に取り入り、ひっそりと勝利を狙うはずだ。
それ以上に、奴は自分の同胞の仇だ。
先程刃は戦いには使わないと誓ったばかりだが、奴だけは別だ。
奴の良く回る二枚舌を、是が非でもこの剣で切り落とさねばならない。
だが、懸念すべきはそれに扇動された人間だ。


バケネズミが人間に反抗できない唯一にして最悪の理由。
それは、人間には特別な呪力が備わっているからだ。
普通の人間一人分の呪力でも大変な脅威になるし、呪力が卓越した人間なら、一人でバケネズミの巣ごと殲滅させるのも不可能ではない。
実際に人間の怒りを買い、コロニーごと焼かれたバケネズミの勢力もある。


この戦いにも、そのような呪力を持った参加者、つまりは人間がいる。
そして、その中には積極的に他者の殺害を企てる者もいるだろう。
野狐丸の始末はするとして、問題はその人間をどうするかだった。

いや、最悪なパターンというのは、考えてばかりで、何もせず突っ立っていることだ。
武将に求められるのは、戦ってばかりの粗暴さでも、考えてばかりの青白さでもない。
支給された刀、政宗を鞘にしまい込み、山羊小屋から出ることにした。



ここは牧場から離れてすぐの場所。
ピンクのドレスに、金髪にティアラを乗せた女性、ピーチは一人、怯えていた。
彼女は思いだす。
すぐ近くで少女が、地面に落ちた熟れた果実のようになる様を。
もし、自分もああなったら……。

かつて1000年のトビラの先にいた魔物の依代にされた経験がある彼女でさえ、認めるのに憚られる異質な状況だった。
だが、首から感じる金属の冷たさが、現実であることを語っている。


「マリオ……。」
自分を何度も助けてくれた、大切な人の名前を呟く。


この戦いに参加させられているのかいないのか分からないが、きっと彼は助けに来てくれる。
だから、それまで自分の身は守らなければならない。
ピーチはそう心で強く思った瞬間……。

後ろでザッという草の音が聞こえ、後ろを向くと、人ではない異形な存在が立っていた。
身体はクッパと同じか、少し小さいくらいのサイズ。
二本足で歩いていたが、その姿はどう見ても人間ではない。


しかし、ピーチにとってさほど恐ろしい存在でもなかった。
彼女は何度もさらわれ続けたし、彼女が少し前に滞在していたゴロツキタウンは貿易町の顔も持つため、様々な人種がごった返している。


「あなたは、この殺し合いを止めようと思っているの?」
先に声を出したのは、ピーチの方だった。
「無論。貴方もそうなのですね?」


思ったより丁寧な口調で、ピーチの質問に答える。
「思ったより話が通じるのね。でも、逆に怪しくもあるわ。」
「疑っているというなら、これでどうでしょうか。」


怪物は鞘に納めた剣を捨て、ザックも地面に置いた。

軽い自己紹介の後、ピーチと奇狼丸は情報交換を行った。
またその際に、ピーチは今まで確認していなかった名簿も、奇狼丸の提案に従って確認してみた。

「姫ですと!?バケネズミならばともかく、人間の中での王政はとっくに途絶えたものだとばかり……それにキノコ王国というのも気がかりですな。」
「私の世界では有名だけどね。とはいっても私も『カミス』とか『ツクバヤマ』なんて地名は聞いたことがないわ。呪力が使える人間というのもおかしな話だし……。」
「なんと。では、以前人間の作製した資料で読んだ「パラレルワールド」というものなのか?」

奇狼丸は、過去にディスク化された資料から、様々な人間の歴史や作品について学んだことがある。
敵を知り、己を知れば百戦危うからずというものだ。

「にわかには信じがたいけど、そうなのかもね。しかしそれに気づく奇狼丸さんは、中々頭がいいのね。」
「かたじけない。」

ピーチに褒められ、少し口元を吊り上げる奇狼丸。
今まで彼らは人間のために働くのが当然と思われ、酷い扱いは受けても、賞賛を受けることは殆どなかった。


「ところで、あなたはどこへ向かうつもりなのですか?」
「私はここから南東の、「ゴロツキ駅」に向かうつもりよ。私達が知っている場所はここだけだから、マリオや、他の仲間も来るはずだわ。」

奇狼丸がこの会場で唯一知っているのは、清浄寺だけ。
しかも自分のコロニーが壊滅して、どうにか逃げ延びた際に、保護という名のもと、人間に囚人のような扱いを受けた思い出がある場所だ。
そんな所へ向かうくらいなら、この女性と共に目的地へ向かおうと考える。

それに、結局の所良く分からないが、ピーチは姫という高貴な身なりで、彼女の知り合いも参加しているため、人間を味方につける際の、仲介役になるはずだ。


いずれスクィーラ、ひいてはオルゴ・デミーラ達と対峙する際に、きっと助けになるだろうという、期待があった。

一方でピーチも、頼れる武人が仲間になり、一人だけの時よりずっと心強い想いをしていた。


「では、参りましょう。」
「うん、そうね。」

目的地も決まった。
早速二人は歩き出す。
姫と武人、生まれも姿も立場も違えど、目的こそは変わらない。
未来を切り開くため、決意と共に進む。



だが二人は知らない。
この会場に招かれたマリオは、彼女の知るマリオに非ず。
奇狼丸には言わずもがな、ともすればピーチにもキバを剥く存在であることを。
その違いが、2人にとって何をもたらすのか、今はまだ知らない。


【A-2 トアル牧場付近/一日目 深夜】

【ピーチ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品&ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:ゴロツキ駅へ向かい、マリオを探す
1:奇狼丸と共に行動する
2:列車の駅が近くにあるけど、まだ出発してないかしら?
3:なぜか生きているバツガルフ、およびスクィーラに警戒

※参戦時期はクリア後

【奇狼丸@新世界より】
[状態]:健康 主催、スクィーラへの怒り
[装備]:正宗@FF4
[道具]:基本支給品 ナンシークッキー@ペーパーマリオ たべっ子どうぶつ@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本行動方針:ピーチを守る
1:この戦いに協力できる人間を探す
2:スクィーラは絶対に殺す

※参戦時期は大雀蜂コロニーが壊滅してから、清浄寺で早季達と再会するまでです。(アニメ22話)


支給品紹介
[正宗@FF4]
奇狼丸に支給された刀。
ただ強いだけでなく、持ち主の動きを持っていない時以上に俊敏に動くことが出来る。
また、使うとヘイストの効果。

[ナンシークッキー@ペーパーマリオ]
奇狼丸に支給された食べ物
食べると僅かながら傷や魔力を癒すことが出来る。

[たべっ子どうぶつ@ジョジョの奇妙な冒険]
奇狼丸に支給された食べ物
こちらは食べても空腹をしのげるだけ。
「靴のむかで屋」の主人の大好物


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最終更新:2021年03月15日 10:32