サイトの趣旨/野心のようなもの
というサイトをつくってる(というか、つくりっぱなしになってる)のですが、
このサイトの中心は、A:催眠業者の悪口とB:ブックリストで、あとはオマケのようなものです。
A:の部分では、ネット上の催眠業者の情報提供は、意図的にゆがめられてるし、無自覚的にもレベル低いし間違ってます。
B:の部分では、とりあえずこう言う本があるから、読むのをお薦めします(へんなセミナーに何十万も払わないでください)。
という構成なので、ブックリストにあがってる本に書いてあるようなことは(膨大すぎるし、ヘタにまとめるよりは、原典に当たった方がいいので)、あんまり書いてません。
ところが一方で、催眠の本というのは重要な本でもいろんな意味で(訳されてなかったり絶版だったり)手に入りにくいことが多いということがあります。で、手に入りやすくてよく売れてる本にかぎって、クズのようなものが少なくない(笑)。情報の不足と歪曲のせいもあって、人が知らないことをいいことに、低いレベルやインチキなことを言いながら威張ったりカリスマを名乗ったりドクターを名乗ったり(笑)、低レベルの教材やワークショップを何十万円とかの値段で売りつけたりよくわからない資格や学位を発行したり、といったことが横行してます。
「催眠についての情報を公開するのは(普通の人に知らせるのは)誤解や悪用の恐れがあるからいけない」というのが、催眠の主要な学会の倫理規定でした。流布する催眠についての普通の人々の誤解から科学的な催眠研究を守るために当時は必要な措置だったと思いますが、今の時代にもベターなやり方なのでしょうか。
情報を秘匿する治世者や専門家のスタンスが問い直されています。科学社会学や科学研究や科学のあり方を対象とするサイエンス・スタディーズでは、PUS(公衆の科学理解)が大きなテーマです。催眠のようなマイナー分野でなく、メジャーで巨大な(巨額な費用と甚大で広範なリスクが関わる)科学技術について、「民は之に由らしむべし之を知らしむべからず」(民衆から信頼を得られるように努力せよ。そして無学な民衆に政策や政府の持っている情報を教えてはならない、と誤って解釈されてきた『論語』を出典とするコトバ)といったスタンスは、さまざまな理由から維持され難くなっています。
まず「知らしむべからず」を正しく解釈すれば、「べからず」は、可能の「べし」と否定の「ず」と解するべきで「知らせることができない」となります。通して訳すと「指導者は、自分の人徳を磨き、人々の信用・信頼を得て民衆を導かなければならない。政策や政府の情報を、全て隈なく人々に教え浸透させるのは、大変難しく不可能に近いからだ」ぐらいの意味でしょうか。孔子がこの言葉を説いた時代は、民衆にあまり知識もなく、文字の読めない人が圧倒的多数であり、その後、世界で最初の情報革命を起こすことになる紙も、中国ですら登場していませんでした。あらゆる情報伝達がフェイス・トゥ・フェイスによらなければならない時代、「情報を、全て隈なく人々に教え浸透させるのは、大変難しく不可能」だったのは当然でしょう。そして現在、情報の複製がいたるところで生じ、情報伝達があらゆる方法で行われる時代は、「知らしむべし」=知らせることが可能とある時代であり、情報を秘匿しておいて、「民は之に由らしむべし」=人々から信頼を得るこそ、もはや不可能となっています。たとえば、それまでつぶれるはずがないと信じられていたゴーイング・コンサーンを体現したような大企業が、情報の秘匿にかかわる不祥事と、さらに不祥事についての対応の中ですら情報の秘匿をくりかえしたことで、市場=購入する人々の信頼を得られなくなり、現実に経営不能となって、解体消滅を余儀なくされる例が何度も出てきています。
臨床家の訓練は、医者から臨床心理士、さまざまな施術者にいたるまで、今も情報伝達の大きな部分がフェイス・トゥ・フェイスで行われています。だからといって、あらゆる臨床家がその業界で独占される知識・技能と共に、それを他者に行使する際に持っていなければならない倫理観を身につけるのかといえば、必ずしもそうは言えません。職業倫理の重要性とそこから外れた者に対する専門家=同業者(プロ)集団からの追放という職業倫理を担保するサンクションの必要性は、今も変わらないとしても、専門家=同業者(プロ)集団はただ、その内部での相互批判(ピア・レビュー)に応えるだけでは、プロでない人々の信頼は得られなくなっているし、今後ますます得られなくなると考えられます。フェイス・トゥ・フェイスの訓練と、集団外へのアカウンタビリティ(説明責任)=情報提供がなされなければ、「人々の誤解から守る」ための情報の秘匿は、孤立化でしかなくなり、社会的責任を放棄した「ひきこもり」と比するものになるかもしれません。人々は、すぐれた臨床家はもとめていても、そしてそれを生み出す仕組みとしての専門家=同業者(プロ)集団の存在を容認しても、情報の公開と外部からの批判を仕組みとして担保しない集団ごと、容認しなくなるかもしれません。
もちろん事の是非や今後の方針は、専門家=同業者(プロ)集団自身が判断すべき問題であり、事の結末をどうこう言うのは僭越でしょう。
しかし、すでに(たとえば諸外国では)書籍などで公開されている情報を、手に入りやすくする活動が極めて人々の情報需要に見合わぬ程、行われていないのは事実です。本当なら、これら専門家=同業者(プロ)集団が自らの利益となる活動として行われるはずなのですが、行われないなら結構、催眠についての情報の不足は大いに不満を覚えますから、微力ながらも(現在の情報技術をうまくつかって、できるだけ効率よく)やっていきたいと思います。情報を発しなければ、議論や批判すら生じ得ないのですから。
具体的には、催眠に関する名著/必読書を、できれば読める形に(翻訳や引用が著作権等のせいで難しいなら)、最低でも、どの本のどこにはどんなことが書いてある、といった紹介をできるだけやっていきたいと思います。ほんとならコピーして配りたいものだけでも、相当あるのですが(笑)。
あるサイトに「鍼灸師のための中国語講座」というコーナーがあります。鍼灸師の方が中国語の鍼灸書を読むための必要最低限の中国語を提示するというものなのですが(これがほんとに、すがすがしいほどの最低限なんです)、
これから案を得て「催眠家のための英語入門」というのにすれば、教材というかたちで原文を提示して、どんどん訳しても問題ないかもしれない(たとえば版権関係で怒られない)と考えました。解説をたくさんつければ、原文を掲示するのは、まっとうな引用行為です(笑)。いえ、ほんとは解説メインのブログです。催眠用語も、必要な英文法解説も、やります、やらせてください(笑)。
実際は、どんどん訳せるなんて力は無いんですが、それを晒すのも、「あいつがよめるなら、おれだって」と人に勇気を与えるかもしれません。
本の読み方や探し方など、実際に読むために必要な周辺事項についてもふれていければいいな、と考えています。
最終更新:2009年07月14日 17:21