句を(湯をかけて)もどす/ほぐす
英語読みの小ワザ その2
英語はコンパクトな表現がつかえる言葉で、短い表現や少ない語数での表現が多い。
たとえば、「your way」と書いただけで、文脈によっては「you will walk on the way」といった意味を込められる。
あるいはよくある「A of B」の表現では、これを文脈によって「BがAする」「BをAする」などとひとつの文のように理解しないと訳がわからなくなる。
英単語との対応を重視した(?)直訳がわかりにくいのは、ひとつはこのせいである。
コンパクトな表現は、ただでさえ長くなりそうな叙述を縮めるために用いられるから、登場するのは複雑で長い文章の中、ということが多い。
上記のような句は、含んでいる情報を文や節にもどしてやることで(長くはなるが)単純かつ何を言っているかが明確になる。
句を節(文)に「展開」してみる
例文としてHypnotic Realities:第1章おまけ1をえらんだ。
(第1文)
Observation is the most important aspect of the early training of the hypnotherapist.
単純な文章だが、補語の部分が、ofの2連になっていて、どれが意味上の主語の役割を果たしているか、動詞的に捕らえるべきはどれか、をきちんと押さえておかないと、訳せはするけど、原文の趣旨が伝わらない(伝わりにくい)ゆるい訳になる。
○the early training of the hypnotherapist
このofは、主語−述語関係を示している。ぶっちゃけトレーニングするのは誰か?hypnotherapistである。trainingを修飾する earlyだが、これは別に朝早くのトレーニングというわけではなく、トレーニングの段階は早期である、つまり習い始め,トレーニングをはじめて間もないということだろう。
(旧訳)催眠療法家の初期トレーニング→(文に展開した訳)その催眠療法家は訓練をうけてまだ日が浅い
○the most important aspect of the early training
このofは、前にaspect(側面)とあるから、この「A of B」は、「AはBの一部である」と考えるのが順当だろう。
(旧訳)その初期の訓練の最も重要な側面→(ofの関係に留意した訳)初期トレーニングのうちでも、最も重要な側面
せっかく句を節や文にもどしたのだから、複数の文や節を、適当な接続詞でつなげていく。たとえば、
「訓練をうけてまだ日が浅い催眠療法家にとって、最も重要なのは観察することである」
「催眠療法家が訓練を始めてまだ日が浅い場合、最も重要なのは観察することである」
これらを改善前の直訳風と比べてみよう。
(旧訳)「観察は、催眠療法家の初期トレーニングで最も重要なものである」
句を節(文)に「展開」してみる つづき
(第3文)
Observation of the invariants and correlations in human behavior is the sine qua non, the stock-in-trade, of the creative hypnotherapist.
これは主語にも補語にもofが出てくる文章。どちらもいろいろくっついて、比較的長い句になっている。
○Observation of the invariants and correlations in human behavior
この「A of B」は、「BをAする」タイプ。ofの後には「観察するobserve」の目的語が来ている。invariants は不変なもの、correlationsは相関係数などでいう相関。ただしinvariantsと対になっているので、対にして訳したい。人間行動の中にはinvariantな人間行動もあれば、correlationな人間行動もある。
(旧訳)人間行動の中の不変的なものと相関的なものの観察→(ofで表現されている主語ー述語関係に留意した訳)人間の行動の中で、どんな行動と行動が相関して変化し、またどんな行動が変化しないのかを観察すること。
○the sine qua non, the stock-in-trade, of the creative hypnotherapist.
ここの「A of B」では、B(hypnotherapist)が主語であることは間違いないが、動詞にあたる単語がない。sine qua non必須条件及びstock-in-trade(これは常用手段、固有の技能、十八番、おはこ、持ち前とすること、と考えるべきだろう)と、 hypnotherapistの関係は如何?
いや,その前にcreative hypnotherapist自体もほぐして戻す必要があるかもしれない。たとえば(when/in order that)the hypnotherapist is creative 催眠療法家が創造的な場合には/催眠療法家が創造的であるためには
こう考えると、sine qua non必須条件及びstock-in-trade商売道具との関係が見えやすい。ただのhypnotherapistならいざ知らず、仮にも催眠療法家が創造的であろうとすれば、〜は必要欠くべからぬものであり、それどころか得意としなければならない代物なのだ。
全体を訳してみると
催眠療法家が創造的であろうとするなら、人間の行動の中で、どんな行動同士がともに変化し、またどんな行動は変化しないのかを見分ける、観察力を欠いてはならないし、むしろ特技のひとつにしなければならない
(旧訳)人間行動の中に不変なものと相関関係とを観察することは創造的な催眠療法家にとって商売道具であり、必須条件である。
最終更新:2009年07月15日 22:51