とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 5-852

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 天花が目を覚ましたのは、白い部屋での事だった。
 誰もいない、真っ白な部屋。そこが病室だと知る。
 お気に入りの硝子の置時計が丑三つ時を指している。どうやらしばらく気絶していたようだ。
 そう、気絶――。
(え? ……私、まさか、みんなの、まえ、で……?)
 それだけは避けなきゃいけない筈だった。ばれないように気を使った。ばれる前に色々あって転校したという事にして上条の前から姿を消す。
 それまで後悔しないようにしてきた。
 臆病な自分みたいな女の子達がせめて告白くらい出来るように背中を押したらいいじったりして遊んで。
 でも、本当は、上条当麻は誰にも渡したくなかった。天花は、上条の事が誰にも負けないくらい好きだった。
 一緒に居る為に嘘ばっかついて。でも、その嘘がばれないよう、気をつけた。
 最後に最大の迷惑をかけてしまわないよう、消える。なんにも気付かれないように、分からないように。
 布団を握りしめる。すぐにくしゃくしゃになった白い布団。
 天花は顔を上げた。
 足音が聞こえてくる。誰のだか分かった。
 慌てて窓を開ける。此処は七階、でも天花の力を使えば怪我はしない。
 空を走りはじめた。見つからないよう、最後は一人で――。



「先生、天花は?」
 あれから、しばらくたってカエル医者が上条達の元へ歩いてきた。
 インデックスは疲れて眠っている。美琴は、もうすでに帰った。
「うん? 白船天花さんの事だね?」
「……へ?」
 カエル医者の言葉に、上条は首を傾げた。
 彼女の名字は上条だ。そう言っていた。上条の義理の妹の、天花だと。それを信じて、両親に確認しなかったし、そんな事をしたら墓穴を掘ることになるだろうと思った。
 だけど。まさか……。
「君が連れて来た女の子だね? あの子は――」
「まってくれ、そこから先はおれが話す」
 かつん……、と病院内に静かに足音が響く。
 其処に立っていたのは、土御門元春――、上条当麻のクラスメイト、そして必要悪の教会のスパイ。いや、学園都市のスパイだったか。
「土御門、なんで、お前が?」
「カミやん。あいつからおれには全ての事情が話されている。結構きついことあるかも知れないけど聞くか?」
 いつもと違って、真剣な口調の土御門。
「あいつがカミやんに話さなかったのは知られたくなかったから。それでも聞くか?」
 答えなんて一つしかない。
「当然だ」
 きっぱりと答えた上条に、土御門は小さく笑った。
 頷いて、少し場の雰囲気をほぐすようにいつもの口調になってみせる。
「ま、そういうとおもったにゃー。じゃ、ちょっとちがうとこにいくか」



「――あいつは、呪いをかけられていたらしい。とある魔術結社に、幼い頃……一ヵ月くらいだったか。色々と実験されたそうだ。両親と海に来ていて……自分達が助かる為に天花を差し出したのだとか。結局殺されたらしいけど」
 土御門はよどみなく話す。
 上条の頬が引きつった。とんでもない話だ。
「そこを必要悪の教会がぶっつぶして、ある程度の事情説明されてから学園都市帰ったんだと。まさかその時天花が魔道書持ってて魔術を使えるようになったなんて知らなかったしな。でも、もう手遅れだった。あいつの体は呪いに侵されてた」
「どんな?」
 もしかしたら、幻想殺しで直せるかもしれない。
 だが、土御門はちらり、と上条の右手を見ると首を振った。
「ああ、カミやんの右手じゃ直せない。あいつの体を蝕んでんのは毒だ。毒を一定期間体に貯めて、一気に体に回らせる此処の作業を魔術で行っただけだ。もう、回ってんだよ」
「なら、どうして天花はまだ」
「此処の医者が、その毒の進行をかなり遅くした。だけど、解毒薬は作れない。あれはそういう毒だ。でも、2、30年ぐらい先に希望はあった。でも、天花はその可能性を捨てたのさ」
 助かる見込みはもうない。その小さな呟きを、上条は聞きとる。
 何故、とからからで、上手く舌の回らない口で問いかけた。
「……天花、魔術使ってみせなかったか?」
「ああ、見た。あいつ、能力者なのに、なんで――」
「あいつは薬を飲んだ。『光速再生』、だったか。体がおかしくなっても、すごい勢いで修復される薬。でも、分かるだろカミやん。どんな薬だって副作用がある」
 魔術を使っても平然としていた天花。苦しそうに顔を歪めて倒れた。
 時々、転んでも傷一つ負っていなかったのを見た事がある。
 あれが、薬によるものだとしたら。
「あれは細胞を急速に弱らせる。もってせいぜい一週間」
「じゃ、じゃぁ、なんで天花はそんな薬……!?」
 もはや悲鳴のような声をあげる上条。
 冷静に見つめ返される。土御門は何時これを聞いたのだろうか。
「――二十年くらい、多分生きられたらしい。でも、保証が無い。明日には死んでいるかもしれない。何より、外へ一生でれないかもしれない。毒の所為で、すぐ熱が出るんだと。だからあいつは飲んだ。カミやん……お前に会うために」
「……は?」
「あいつの名字は白船、上条じゃない……っていうかなんで気付かなかった?」
「いや、しらない間に義妹いたのかと」
 冷や汗がたらりと流れた。多分、何故かは知らないが天花は上条の秘密を知っている。
「……まぁいい。ずっと前、お前がたまたま此処にきて、天花に会ったんだと。その時以来、お前は天花にとっての外の象徴だったんじゃないか? 友達なんかずっと入院してりゃいなくなっちまうからな」
 おれの話はこれで終わりだと土御門が立ち上がった。
 上条は、しばらく座っていた。土御門が去って、しばらくしてからもずっと。
 そして、全てを聞くために天花の病室へと向かう。



「天花っ……、あれ?」
 目に入ったのは空っぽのしわが寄ったベット。触れるとまだ温かいベットは、誰かがさっきまで寝ていたことを示す。
 ガラスの置時計が、もう十二時を回っていることを示していた。指紋が付いているのは、天花が触ったからだろうか。
 縫いぐるみなどの私物が置かれていて、それは長い間天花が此処に居ることを示しているように思われた。
 風が強い。薄緑のカーテンが大きく翻る。
 窓を閉めようと近づいていって、嫌な予感がした。
(窓……、いない、まさか、『空中散歩』(スカイフライ)、か!?)
 病室を飛び出した。
 階段を駆け下り、外へと向かう。途中カエル医者にぶつかった。
「先生! 天花がいない!」
「え? ……あの子は、動けるような状態じゃ、ない筈なんだけどね?」
 それを聞くなり、もう一度駆け始めた。
 引き留める声もするが、止まる気なんてさらさらない。
 天花は、消えた。
 だけど、もう一度会わなければならない。訊かなければならない事がたくさん、たくさんあるのだから。


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