とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

ネクロノミコン

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プロローグ
かつてあれほど人々を苦しめたカラカラの夏空は去り、今では心地よい秋風の吹く背の低い空に変わっていた。夕焼けに染まる川に子ども達の声が響く河川敷。そのもう一段高いところ、真っ黒なコンクリートが敷き詰められた道をいかにも学校帰りですという感じの少年二人が歩いていた。
「しっかしなぁ・・・」
と声を出したのは金髪にブカブカのカッターシャツ。さらに遠くから見てもはっきりその人と認識できるようなサングラスを装着した少年だった。名を土御門元春。表の名はただの学園都市の一学生だが、裏の顔は学園都市とイギリス清教を結ぶマルチスパイ。
「言うな、土御門。分かりきってたことだろ」
半ば泣きそうな声で言葉を返すのは短い黒髪をツンツンに逆立てた少年。名を上条当麻。彼には表も裏もない。ただの一介の学園都市の学生だ。ただ、二つ。その右手にあまりにも異能である超能力を備えていることと、数ヶ月前から記憶喪失であることを除けば。
「いや、だけどにゃ~・・・その点数はないだろ?」
土御門の手に握られているのは『学園都市統一能力判定模試結果』と書かれた薄い紙。その紙面上、上条当麻という名前の左下にある、本来ならば成績レーダーグラフというものは何らかの伸びを示すものだが上条のは全く伸びがない。
知識面でわずかに棒となっている以外、全く波は穏やかであった。
「やかましいいぃぃ!!上条さんは今年の夏休みはドタバタしてたしし、学校が始まってからだって、大覇星祭の時だって病院で寝ていたんですよ~。点数は取れなくて当たり前なのだ!!」
「にゃはは。負け惜しみはいかんよ、負け惜しみは。俺だって大覇星祭の時は入院してたし、その後も色々ドタバタしたからな。条件は一緒のはずですたい。」
「うぐぐ・・・お?」
餌に飢えた獣のように歯を鳴らしていた上条は土御門のポケットがブルブルと震えているのを見た。そんな上条の越えに土御門もその振動に気がついたのかポケットからド派手に装飾された携帯を取り出した。ピカピカと緑色の光が主人に早く出ろ、とでも言いたそうに着いたり消えたりしていた。
「公衆電話から・・・・か。珍しいな」
不審がりながらも電話に出る土御門。スパイである彼にとって電話と言うものは非常に大切なものである。普通ならば見知らぬ番号なら出ないのが妥当だが彼はどこと通じているかすら分からないのだ。
「(いったい誰と話をしてんだか・・・)」
道を歩きながら久しぶりにみた土御門の横顔を眺めていた上条は唐突な土御門の大声に思わず肩をすくめた。

「なんだと!?」
それは半ば怒気混じりの問いかけ。誰に電話をしているのは知らないが相手は何か土御門が怒るようなことでもいったのだろうか?
「どうしてだ!!ローマ正教は今、人員不足で動けないんじゃなかったのか!?」
「っ・・・!?」
その言葉を聞いた時背筋が凍るような錯覚を上条は覚えた。ローマ正教。今まで何度も戦ってきた敵。グレゴリオ聖歌隊、アニャーゼ部隊、オリアナ=トムソンにリドヴィア=ロレンツェッティ。それら全てを上條達の活躍によって失っているローマ正教。あまり大々的に動けないとも言われていたあのローマ正教がいったい何をしたというのか。
「おい、土御門、その電話の相手って・・・・」
言い終わるよりも早く、土御門は周りに人がいないかを確認し、それを確認すると、手馴れた手つきで通話モードをハンズフリーに変更し。途端、携帯の受話部分から聞きなれた若い声が響いてくる。
「というわけで、僕は今・・・・」
「ステイル!!」
聞こえてきた声はイギリス清教、必要悪の教会(ネセサリウス)の魔術師ステイル=マグヌスの物だ。さきほどの上条の声が携帯に入ったのだろうか、一瞬向こうの電話の主は沈黙を続けると
「なんだ、上条当麻もそこにいるのか。ならば話は早い。いいかい、結論から言うよ・・・」
「あぁ~、待て、ステイル。電波が悪い。後で掛けなおすから今は電話切っていいか?」
言われて土御門の携帯の電波バーを見る。そこには何故か土御門の話とは裏腹に元気に三本のアンテナが並んで立っていた。首をかしげる上条に土御門が視線で合図する。「少し黙ってろ」と。
「あ・・・あぁ、問題はないよ。ただ、事は急を要する連絡は早めに頼むよ。」
「わーってるよ。振り払ったらちゃんと掛けなおす。」
「振り払う?・・・君は・・・」
ステイルの言葉を待たずに通話を切る土御門。やはり、上条にはその土御門の意図が分からない。振り払う?何を。
大事な話を何で後回しにする?
「土御門、何でステイルの電話を・・・・いっつ」
言葉の途中で無理矢理歩かされる上条当麻。何が何か分からないまま土御門に文句を言おうとしたその時、逆に土御門が上条の耳元で囁いた。
「尾けられてる。二人、いや三人か。恐らく透明になるような魔術か、気配を消してるんだろうが素人だ。魔力の臭いがが鼻につく」
「は?尾けられてるって誰にだよ?ローマ正教か?」
土御門は少し上条から口を離して、
「さぁ~にゃ。俺には全く分からないぜよ。」
と笑顔になって大きな声でそう言った。
「そうだ、カミやん。ゲーセンでも行こうぜ。やりたいゲームがあるんだぜよ」
そう言い、足早に去っていく背中を上条は困惑した表情で追いかけた。

何がどうなっているかは分からない。何故、自分たちが魔術師に尾行されているのかさえ。それにステイルの電話、ローマ正教。様々に絡み合う事象がなお上条の心を圧迫した。
だが、彼は知らない。これが学園都市を悲劇に落す始まりの晩鐘だたっということを。




「んで・・・何でお前がいるんだ、ステイル」
追尾していた魔術師三人をわざと入り組んだ道を通って攪乱した土御門と上条はとりあえず土御門の提案で上条の家に行くこととなった。当初、上条は魔術関連ならインデックスが危ないと反対したのだが、土御門は
「今回はインデックスが必要なんだ。」
そう言っただけで結局それ以上重要なことは何も話さず、そうこうしている内に我が家へと帰還した上条だったのだが、どうも部屋が焦げ臭い。というより、なんか部屋から煙が出ている。んで、慌てて飛び込んでみたらそこには何故か
「ふぁー、ほふぁへりとうま(あー、おかえりとうま)、ほひくほひひひよ(お肉おいしいよ)」
口いっぱいに焼肉を含んだインデックスとひたすら目の前の女の子の為に肉を焼く魔術師の姿があった。何で、ステイルを勝手に部屋にあげて、勝手に肉食ってんだ、とも突っ込もうとしたがインデックスがあまりにも幸せそうなのでやめた。というよりも、肉を買うのならもちっと高いのを買ってくれ。肉がおいてある袋には『スーパー玉○、100g××円のお買い得商品』と大々的な広告が張り付いていた。
「遅かったな上条当麻。・・・お、土御門も一緒か。」
「にゃはは。なんだかお楽しみのところ悪いけど、こちらとしては電話の手間が省けて嬉しいねぇ」
にゃははは、と笑いながら肉を焼くステイルとひたすらに肉を食い続けるインデックスの間に鎮座する。仕方ないので上条も余っている席に腰を落ち着けた。安物の肉のやける微妙な臭いが鼻に入っては抜けていく。
「で、話ってなんだよステイル。ローマ正教が関係あんのか?」
その言葉にピクっと体を震わし、上条の方を見つめるインデックス。彼女はしばらくそのまま上条を見つめていたが、
次にはその視線はステイルに向いていた。その視線を受けてステイルは肉を焼いている火を止めると、小さく息を吐いて言葉を発した。
「さっきは話の途中で切られたから最初から説明するけど、一度しか言わないし、質問も受け付けない。真実をありのままに受け取ってくれ」
真実をありのままに受け取れ、その不吉な言葉に上条の喉が音を立てる。
「結論から言うと、学園都市と教会の戦争になる・・・と言えば分かりやすいかな」
「なっ!?」
思わず立ち上がり、座ったまま立ち上がった上条に対して目で威圧する。だが、引き下がってはおけない。
「どういうことだよ、ソレ」
言葉に覇気がない・・・と自分で分かる。それほどステイルの言葉は重みがあった。信じているわけではない。ただ、本物の魔術師に言われる言葉にはたとえ嘘であったとしても本当と思わせるような魔力がある。彼らは言葉を魔術として紡ぐからだ。言葉に対してステイルはもう一度、今度は深いため息のような息を吐くと、

「いいか、よく聞け、上条当麻。さっき君はローマ正教と何か関係があるのかと聞いたな。今回のこの事件、ローマ正教だけじゃない。ロシア・イギリス・ローマ・ギリシア・アンティオキア・アレクサンドリア・・・全ての教会が一冊の魔導書を、この学園都市にあると言われている魔導書を狙っている。土御門が驚いたのはローマ正教が動いたっていう事実にだけだ。君だって聞いたことぐらいはあるはずだ。悪魔の書

―ネクロノミコン

の名前ぐらいはね。」

「有り得ないよ!!」
今度立ち上がったのはインデックスだった。
その眼は驚きというよりも怒り。まるで親の仇でも見たかのようにステイルを睨みつけている。
「有り得ない。あの魔導書は伝説だよ。わたしの10万3000冊の中にもネクロノミコンだけは存在しない。あれはあってはならない書。伝説の中だけで伝えられてきた架空の魔導書でしょ?有り得ないよ!!」
言葉を聞いて眉をひそめたステイルは感情を押し殺したような声で続けた。
「僕も聞いたときは信じられなかった。しかし、あの悪魔の書が実在すると分かった以上、各教会が狙わないはずはない。間違いなく、学園都市にネクロノミコンを狙った魔術師たちが潜伏しているはずだ。」
「ちょ、ちょっと待てよ。学園都市には簡単に踏み込めないってお前、前言ったよな。」
「意味が違う。入り込むことはたやすい。ただ、学園都市と正式な取り決めがない教会が侵入した場合、他の教会も同様に侵入し内部で戦いが起こるだろう。」
言われて上条の頭の中に最悪の情景が巡っていく。
「まさか・・・いや、嘘だ。ありえねぇよ。何なんだよ魔導書一冊の為に戦争を起こすってのかよ!?」
「嘘じゃないぜぃ、カミやん。実際に俺達は尾行された。もう数百人単位の魔術師が入り込んでいると見て間違いない。今はまだ消光状態なんだろうが・・・いつ戦闘が起こるか分からないぜい。分かるだろ?それほどヤバイんだよ、ネクロノミコンって魔導書は。」
4人の間に長い沈黙が走る。上条の頭の中で様々な幻想が思い浮かんでいく。
ネクロノミコン。戦争。魔術師。たった一冊の魔導書。危機にさらされる200万以上の命。
「何なんだよネクロノミコンって・・・・何が書いてあんだよ」
ひねり出すような上条にインデックスは平静を装って答えてくれた。
「私もよく知らないけど、ネクロノミコンには『この世の終わりと始まりを繋げる魔術』が書かれてると言われてるの。この意味はよく分かってないけど・・・・伝説ではこの書はギリシアのミケーネ文明を滅ぼしたとも言われているし、ジャンヌ=ダルクが農民の身分でオルレアンを解放し、シャルル7世を励まして百年戦争に勝利したのもこの魔導書のお陰だといわれているの。だけど、そういうのはは全て伝説。結局、誰も分からないの。ただ伝説だけが一人歩きして魔導書になった。だから、言ってしまえばネクロノミコンは、本当は魔導書なんかじゃないかもしれない。けど、これだけは事実。ネクロノミコンは歴史を変えるような力を持ってる。歴史を変える悪魔の書。だから、誰にも渡しちゃいけない。世界が終わってしまう可能性があるの」
歴史を変える。世界が終わる。あまりにもスケールが大きすぎて想像出来ないし、したくもない。たった一冊の魔導書にそんな力があるなんて信じられない。
「今更信じられないってのはナシだぜ、カミやん。俺達は『使徒十字』を知ってるだろ?アレだって十分信じられないものだが効果は絶対だ。まぁ、発動されなかったから実感は湧かないだろうけどにゃ」
「っ・・・・」
何がなんだか分からなかった。否、分かっているのに分かろうとしない。夢だったらいいのにという甘い幻想。
「方法は・・・ないのか?」
だからこそ聞いた。世界を敵に回してでもこの戦争を回避できる方法があるのなら、これを自分の悪夢ですませることができたなら。結局、他人の幸せは守れた事になるのだから。

「正気かい?僕は今回ばかりは君の手に負えないから学園都市を出ろ、と言いに来たんだけどね。戦争は魔術師の仕事だ。」
「ふざけんな!ここまで知らされて逃げることなんてできるかよ!!」
胸の中が燃えている。ここまで知って逃げることなんてできるはずがない。拳を握る。
「俺が止めてやる。戦争なんてくだらない真似はさせない。たとえ、ステイル。お前が戦争に参加して学園都市をめちゃくちゃにするってんなら、今、ここで止めてやる。お前だってイギリス清教の魔術師だろ」
右手を座っているステイルに突き出す。それを
「ふぅ」
と間抜けなほど軽い溜息で返された。


「やめておくよ。ソレに僕はもうイギリス清教の魔術師じゃない。」


あまりにも明るい口調に上条は拍子抜けし
「なんだ・・・イギリス清教じゃない・・・って、えぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!!?」
上条だけじゃなく土御門やインデックスまで声を上げていた。ほんと、どうなってんだろいったい・・・。



2 
―僕はもうイギリス清教の魔術師じゃない
その言葉に驚いたのは上条当麻だけではなかった。土御門にインデックス、共にステイルと同じイギリス清教のはずの二人でさえ驚きを隠せずに口をポカンと開いていた。
「イギリス清教の魔術師じゃない・・・・って、どういうことだよ?」
聞かれたステイルは胸元のポケットからタバコを一本取り出し、ライターも使わずに火をつけると口元に小さな笑みを浮かべてこう続けた。
「なに、簡単な話だよ。イギリス清教にいたんじゃ、僕の目的が達成できないからね。僕には学園都市をどうしても戦場にできないわけがある。分かるかい?学園都市が戦場になってしまえば、間違いなく彼女に危害が及ぶんだよ」
そこまで言われて上条は理解した。コイツ・・・この元イギリス清教の神父は自身の目的の為に『必要悪の教会』に身をおいているにすぎない。そして、そのたった一つの目的はとある学園都市に住んでいる一人の少女を守ること。そして、その学園都市と繋がりのあるイギリス清教は彼にとってその目的を達成するのに都合のいい所であった。無論、そこにいたから少女とも出会えたというのが先に立つが・・・しかし、今回の『ネクロノミコン』事件は今までの事件とは大きく違う。今までは学園都市に協力的だったイギリス清教が、そのネクロノミコンを狙って魔術師を送り込んでいる。それも、イギリスだけじゃない。世界中の教会がこの街にあつまっている。仮に中で戦闘が起こったとすれば警備員(アンチスキル)や風紀委員(ジャッジメント)も動くだろう。その時に、両勢力の抗争になれば恐らく終わりだ。不毛に続く争いは下手をすれば学園都市が崩壊しても終わることはないだろう。となれば、インデックスも大きな危険に晒されることになる。だから、目の前の神父はただ一人の少女を守るためにイギリス清教という強大な敵に戦いを挑む決意をしたのだろう。考えればゾッとする。はたして一体、何がコイツにこんな事をさせるのだろうか。
「じゃあ、味方ってことでいいんだな?」
握っていた拳を閉じる。胸に溜まっている熱いものは消えたわけではないが先ほどよりは幾分マシになったような気がした。
「とりあえずは、ね。僕たちの目的が一致している状態ならば不服だけど味方と思ってくれて構わないよ」
言葉に眉を潜めながらも上条は土御門の方へと視線を向けた。さきほどから何かを考えているのかずっと下を向いて黙っていたが、上条の視線に気がついて顔を上げた。
「どした、カミやん?」
「あ、いや。お前はどうするのかな・・・って。お前も一応イギリス清教だろ?それなら・・・・」
「あぁ~、安心しろい。俺もみすみす学園都市を戦場にする気はない。だって、仕事がなくなっちゃうしにゃー」
笑顔で答える土御門。確かに彼の立場上、スパイとして動いている彼の立場としては両者の争いは避けたい所だろう。
「とりあえず俺はアレイスターに接触して、手は出すなって旨を伝えてくる。ステイル、お前は・・・・」
「僕はネクロノミコンの捜索を続ける。上条当麻」
名を呼ぶと同時、ステイルの顔が上条へと向けられる。
「なんだよ?」
「君も手伝え。なに、学校なんか数日休んでも問題ない。」
言われたなくてもそのつもりだったが・・・命令されるのがステイルだと腹が立つなどと思ったがチームの中が悪くなるのは良くないので壮絶に不本意だが素直に頷いた。


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