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とある九月の振替休日

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匿名ユーザー

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「とうまっ、今日こそは私とずっと一緒にいてほしいかも!」
 大覇星祭による振替え休日の初日、上条当麻の部屋に居候をしている少女――インデックスはそう叫んだ。
 そう言いたいのも無理はないかな? とは思う。
 九月十九日から二〇日までの一週間、学園都市では大覇星祭と呼ばれる大規模な体育祭のようなものが開催されていた。学校単位で種目に参加するほどの行事だ。しかも大覇星祭は年に数回しかない学園都市が一般公開される行事なので、その騒動に乗じてローマ正教の襲撃にもあったり、それがインデックスには知られずに対処しなければいけないことだったりで、余計に一緒にいる時間は少なかったのである。
 素直に頷きたくなる衝動を抑えて、
「……よくそんな恥ずかしいことが言えるなぁ」
 瞬間湯沸かし器のようにインデックスは真っ赤になった。
 上条としては露店で食ってばかりいたインデックスにすこしくらい物申したい気分だったのだ。
「ま、昨日まで忙しかったしそれくらい――ってインデックスさん? どうしてそんなに震えてるのでせうか?」 
「――当麻の頭蓋をカミクダクっ!」
 学生寮名物である上条当麻の断末魔が雨上がりの涼やかな空気を響かせる。

 そんなわけで上条たちは午前中から出かけることにした。ちなみにスフィンクスは今日はお留守番である。
「どっか行きたいところとかあるのか?」
 第七学区の大通りを歩きながらインデックスに聞いてみる。
「ばかにしないでほしいかも。この街に来てからもうすぐ二ヶ月近くたつけど、どんなところがあるかなんて全然わからないんだよ。だから今日はとうまがしっかりと私をエスコートするんだよ?」
 へーい、と呟きながらこれから行く場所を考える。
(とりあえず最初に行くとこを決めなきゃいけないな。後は、その場で決めてもいいし、インデックスがなにか言うかもしれないし。どこ行くかなー? 大覇星祭の振替え休日でどこも割引になってるし、すこしくらいなら高くてもいいよな。っても一日中だろ? やっぱ最初はなるべく安く、かつお昼まで過ごせるようなとこがいいな。んー……バッティングセンターとかボーリングとか――)
 上条が自分のお財布と真剣に相談しつつ、今日の予定を考えていると自分の袖が引っ張られていることに気づく。
 インデックスであった。
「どした?」
「二ヶ月近くたつけど、この国の映画はまだ見てないかも。とうまがいない間にテレビはたくさん見たけど映画はまだなんだよ。だからとうまは私を映画に連れてってくれることを考慮してもいいかも」
 それを聞いて、今日はレディースデーだったかなー、と必死に思い出そうとする上条だった。


 この時間の上映内容は――、
 日本中が涙した!! 話題の恋愛小説、感動の映画化。『いま、逢いにゆきます』。
 コンバット・バトル・アクション第三段!! 『リーサル・ウェポンズⅢ』。
 あなたのハートに、ドラゴン☆ブレス! 『劇場版・超機動少女カナミン~ロシアの赤き死神~』。
 見るものは瞬時に決められた。
 料金は割引にならなかったが、サービスとして『お一人様、ポップコーンを一つ無料』だった。ポップコーンを四つとコーラ二つを持って場内に入る。上条としては烏龍茶がよかったのだが,インデックスが「なに血迷ってるのとうま! ポップコーンにはコーラなんだよ!? それは宇宙の真理なんだよ!? そういうわけでお姉さん、コーラ二つとポップコーン六つ!!」とか言いだしたので、なんとかポップコーンを四つに減らしたしだいである。
 しかし……落ち着いて映画を見る、とかそんな余裕は上条にはなかった。
 映画が始まると、インデックスはポップコーン片手に食い入るように夢中になった。
「おぉーっ! さすがは神国日本なんだよ。口の動きで相手に魔術を予想させないように『けーたいでんわー』で擬似的な詠唱をしているとゆうわけだね。でもそれじゃ『声に出す』ってゆう魔術的要素が……はっ! だからこその『けーたいでんわー』なんだね。最後のボタンで変換された詠唱が異なる音で再現されるのかも……これは魔術の新しい形かも」
 それだけならばよかったのだが……戦闘シーンになると腕を振り回し上条に攻撃をしかけ、派手なエフェクトが入るとこれまたバタバタと腕を動かした。家で見ていたときは大人しかったがスクリーンでは迫力が違うからなのか、かなりはしゃいでいる。
「むむっ! あれはどう見ても『あらざる者』なんだよ。さすがのカナミンでもロシア成教じゃないし、ここは――ってあれはもしかして『処刑(ロンドン)塔の七つ道具』? 少し形は違うけど……あの金槌、やっぱり『あらざる者』に効果がある。す、すごいかも……『蓮の杖』だけじゃなく『処刑(ロンドン)塔の七つ道具』まで使いこなすなんて」
 インデックスが他の客の迷惑になるのは避けたいので、仕方なく上条は隣に座るインデックスの手を肘かけに押さえつけた。
 普段は上条ではどうしようもないくらい暴れるインデックスだが、そこはやはり小さな女の子である。その手は上条の掌にすっぽりと収まってしまう。小さな手だな、と思う。
 するとインデックスはもう片方の手がポップコーンで使えないからか、急に静かになって映画を見だした。
 我ながら素晴らしい作戦だ、と上条は満足げに映画を見続けるのであった。

 映画を見終われば、時間はすでに十二時近く。
 朝から動いていたので、ハラペコシスターではないが、上条もかなり空腹だった。
「んーっ! 腹減ったなぁ……インデックス、昼はなに食べたい? ……おーい、インデックスさん?」
 インデックスはなぜか正面を向いたままぼーっとしていた。
 上条が声をかけたのに、なんの反応も返してこない。目の前で手を振ってみたものの無反応だった。
 仕方ないので視線の先を追ってみると――、
 『本日、先着一〇〇組様限り!! 当店自慢の「すぺしゃるじゃんぼぱふぇ」を半額で!』とあった。
(あぁー、お昼じゃなくて今はデザートが食べたい気分だったのね。さすがは欲望に忠実な不真面目シスター。上条さんには理解しがたい思考ですこと)
 時間も時間だったので店内はけっこう混んでいるように見えたが、座れなかったり待たなければいけないほどではなさそうだ。それに上条としても『すぺしゃるじゃんぼぱふぇ』とやらには少しくらい興味がある。
「おっしゃ! じゃ、あそこで昼にすっか。……ってまだぼーっとしてんのかよ? ほら、行くぞ! 一〇〇組限定みたいだし、早くしないとなくなっちまうからな」
 相変わらずなインデックスを引っ張って上条はお昼時で賑わっている店内に入っていった。


「でけぇ……」
 『すぺしゃるじゃんぼぱふぇ』は、その一言に尽きた。
「とうま、さすがの私でもちょっとびっくりかも」
 席に座っているインデックスの顔を隠してしまうくらいに大きいそのパフェは、ジョッキほどのきれいな器にたくさんの具が敷き詰
められていた。下から、バニラアイス、コーンフレーク、生クリーム、フルーツ、生クリーム、コーンフレーク、バニラアイス、チョコソース、生クリーム、フルーツ、バニラアイス、チョコソース、最後にたくさんのフルーツと申し訳程度に添えられたウエハース。
 ひどく甘そうだが、インデックスはキラキラと目を輝かせている。
 パフェがくるまではうわの空だったが、どうやらいつものインデックスに戻ったようだ。
「んじゃ、いただきます」
 上条は自分用に頼んでおいたチキンフィレのハンバーガーにかぶりつく。表面がカリカリでなかなか美味しい。
「――ばくばくもぐもぐむしゃむしゃーっ」
 口の周りに生クリームの化粧をしているインデックスを見ると、少しだけ妹のように思えて微笑ましかった。
(いや、勘違いしないでほしいけど、土御門なんかと一緒にするなよ? あんな「義理じゃない妹なんていらない」的な思考の持ち主とは上条さんは違うんですよ?)
 とはいえ、さすがに鼻先まで化粧をしなくていいと思う。
「ったく仕方ねぇな……インデックス、ちょっと待て」
「んっ? ……んむっーーーーー!?」
 そばにあった紙ナプキンでインデックスの鼻や口元をぬぐってやる。暴れるかと思ったが素直にふかせてくれた。
「――これでよし! なに固まってんだ。もうふき終わったぞ?」
 インデックスは口を開けたままぽかーんとしていた。
 すでに三分の二以上は食べきっていたが、インデックスのことなのでさすがに満腹とゆうわけではないだろう。
(んー、どうしたんだ? そんな大口開けて固まって……って、まさかっ!? いわゆるあのすっごい恥ずかしいことを俺にやれと言いたいのか? いやしかし、この状況からそれ以外に上条さんができることは――)
 上条は試しにパフェをこちらに引き寄せ、インデックスの前で少しだけ食べてみた。
「……」
(無反応っ!? くそっ、本区的にアレな気がしてきた。インデックスのやつ、なに考えてんだよ……はっ! こうやって上条さんを羞恥に染めようって作戦か!? 大覇星祭のときは事故とはいえ、色々と恥ずかしいことさせちまったからな。……しかし、上条さんをなめないでもらいたい。『男なら――やってやれ』だっ!!)
 食べやすい量をスプーンですくってインデックスの口元に運ぶ。震える手を無理矢理に抑えて、空いている口の中へ、
「インデックス、あ、あーん」
「ふぇっ……はむっ!?」
 なんとか食べさせることに成功したので、ゆっくりとスプーンを引っ張って――、
「なぁ、噛みついたままだとスプーンが取れないんだけど。ってかもういいよな? さすがに二回はさせないよな? 上条さんの心の耐久度は一回で限界寸前ですよ?」
 納得したのかわからないが、頷いたように見えたので上条も自分の食事に戻る。
 途中、ペースが落ちたインデックスを見て上条はパフェを少し貰おうとしたが「と、とうまには絶対あげないんだよ!」と真っ赤になりながら叫んで、一気にかきこんでしまった。
 なんにせよインデックスも昼食は満足できたようだ。


 追加で飲み物を頼んで、午後の予定を決めることにしたのだが――、
「――ってわけで、ボーリングとかにしようと思うんだけど……インデックス?」
 出かけようと言った本人はなぜか再びぼーっとしていた。まさに『心ここにあらず』と言った感じだ。
 今日はこんなのばっかりだな、と思いながら上条もぼーっとインデックスの顔を眺める。
 不意にそんな上条に気づいたのか、インデックスが顔を赤くして切り出した。
「とうまは……とうまは、恥ずかしくないの?」
「ん?」
 なんのことだかわからなかったので上条は首を傾けるしかなかった。
「その……さっきのやつとか……」
 もごもごとはっきりしないインデックスは口調で続けた。
 その言葉で上条はなんとなくだが予想がつく。
「――それって、さっきのパフェのやつか?」
 一つのパフェを、二人で、しかも一つのスプーンで――。
 さっきの光景を思い出したのか、インデックスは耳まで真っ赤になってしまった。
(そんな反応されるとこっちも恥ずかしくなるんだけどなー。ってかアレはインデックスが仕組んだことじゃないのか? ……もしかして俺、カンチガイシテマシタカ? でっ、でもでも! ここでそれを知られちゃ余計マズイ展開になるはず! 今日までの上条さんの経験が力強く告げている)
 上条は自分の動揺がばれないように勤めて冷静をふるまう。
「んー、恥ずかしかったのは恥ずかしかったけど……でもまぁ、インデックスって俺とは妹みたいに見えそうじゃん? だからそんなに気にしてないかなー」
「――とうま? もう一回言ってほしいかも」
 インデックスの雰囲気に違和感を覚えながらも上条は、同様の内容をできる限りわかりやすく伝えようとする。
「だから、俺はそんなに恥ずかしいもんじゃなかったぞ? 簡単に言えばインデックスって妹みたいなもんだし――ってことを言ったんだけど……あれ? インデックスさん? どうしてそんなに震えているのでせうか?」
 見ればインデックスは小さく両肩を震わせて手に持っていたコップを握りしめている。
 その視線は上条に向いたものではなかったが、インデックスが発している気配はすべてが上条に向いていた。この感覚を上条はインデックスと知り合ってから何度体験したであろうか。
 予想とは正反対の反応に戸惑いを隠せなかった。
「イ、インデックス!? なにをそんなに怒っているんだって? だから上条さんはそんな気にしてないし、そんな怒ることじゃないって! むしろ周囲の視線が誤解してなくて安堵するとこ――って、どうしてさらに怒ってるんですかぁ!?」
「――と、とうまのばかーーーっ!!」
 インデックスの叫び声で目をつむり、びくぅっと身をすくめた上条……だったが少したっても噛みつかれる気配がない。
「……あれ、インデックスさん?」
 目の前には空になったパフェの器。
 それだけだった。
 インデックスは上条の前からいなくなっていた。


 ファーストフード店を飛び出したインデックスを追ってさまようこと一〇分たらず。
 目当ての人物はそれほど離れていない近くの公園にいた。
 夏の外出でなぜだかインデックスには『臨時発行(ゲスト)』IDがあることがわかったが、当の本人は自動改札や生体認証などの科学らしさあふれる場所を極端に避けているようなので行動範囲はかなり狭い。そのためこうも簡単に見つかったのだろうが――、
(それにしても公園でブランコって……いつの青春マンガだよ。逃げるにしたって脚止めてちゃだめだろ。これじゃ、見つけてくれっていってるもんだぞ?)
 ゆらゆらと振り子を描きながら、インデックスは地面と顔を向き合わせていた。
「――インデックス!」
 近寄る上条をちら一瞥し、再び大地とにらめっこを始めるインデックス。相当に機嫌が悪いようで、隣のブランコに上条が座ってもうんともすんとも言わなかった。
 午後の日差しは九月後半とは思えないほどに強く、上条の頬をつぅっと汗が滑ってゆく。
 このまま黙っていても仕方ないので、上条から声をかけて現状の打開を図る。
「どうしたんだよ? いきなり店を飛び出したりして……今日一日は俺と一緒にいるんだろ?」
「……だって、とうまがいけないんだよ?」
 ぼそぼそと呟くも、なんとなくだが――そこには会話を打ち切るのではなく続行の意思が感じられた。
 相槌をうたないでインデックスの言葉を待つ。
「とうまったら映画館でもさっきお店でもあんな恥ずかしいことしてきて……挙句の果ては妹みたいって……ばかにしないでほしいかも。実際、とうまより若いかもしれないけど、私……そこまで子供じゃないんだよ?」
 今になって上条は今日の自分の行動が少なからずインデックスに影響を与えていたことを知った。
 上条にとってのインデックスは『記憶を無くす前の上条当麻』との知り合いであるため、普段から対応に困る場合がある。
 上条は以前の自分がインデックスにどのような感情を抱いていたかを知らない。
 行きずりの他人か、助け合う友人か、寄り添うべき恋人か。
 インデックスは上条が記憶喪失であることを知らない。
 その出逢いを、投げかけられた言葉を、与えられた未来を。
 いくつもの大切な想いを上条は覚えていない。
 だからこそ上条はインデックスにそれを悟られないように生活してきた。知っていしまえば少女の笑顔が崩れてしまうから。『記憶を無くした上条当麻』では少女の想いに答えることができるかわからないから。
 けれど、インデックスにとっては『記憶を無くした上条当麻』も『記憶を無くす前の上条当麻』も同じ人物なのだ。
 ひたむきな想いは、きっとあの夏の日から決して変わることなく続いているのだろう。
(対等に見てほしい。守る側じゃなくて一緒に戦う――肩を並べて同じ歩幅で歩く位置にいたい。何もできない子供じゃなくて、一人の女性として見てほしい……ってことなのかな? これぐらいの子によくある大人に対する憧れみたいなもんか? だとしたら――)
 だとしたら上条は――『記憶を無くした上条当麻』はどうすればいい?
「……」
 自分の迷いを断ち切るために上条は立ち上がり大きく伸びをした。
 依然として俯いているインデックスに右手を差し出す。どんな出逢いだったのかはわからないけれど……この右手がインデックスと上条を繋ぎ合わせたはずなのだから。
「ほら。正直よくわかんねぇけど、今日一日は一緒にいるんだろ? だったらさ――」
 目の前の少女に負けないように、できる限りの笑顔を向ける。
「その……デ、デートの続きだ」
 上条は自分で言ったそばから恥ずかしくて、どうにもインデックスの顔を見ることができなかった。
 そっぽを向いてインデックスの返事を待っていた上条の右手に、映画館でも触れた柔らかな温度が重なってくる。照りつける太陽よりも、触れ合う体温によって汗をかく。いつもよりインデックスを近くに感じる。
 守るようにゆっくりと握ると、同じような力で返してくれる。
 思い切って振り向けば、インデックスはまっすぐに上条を見つめていた。
「――今度は、しっかりとエスコートしてほしいかも」
 淡く頬を染める異国の少女に、少しだけ胸がしめつけられる。
 あの笑顔を守りぬくと上条は決心していた。
 でも、今はそれだけじゃない。
 一時の想いかもしれない。この場の雰囲気かもしれない。
 それでもこの瞬間、上条は自分の持つすべてでこの少女を守りたいと思った。

 九月の休日。
 一度は離れていった想いが再び交差し始めた。
 上条当麻とインデックスの――二人だけの物語はここから始まってゆく。


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