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桃の節句と黒一点  ‐Girls’_Party‐

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「そっか、今日は雛祭りだっけ」
 ぽつりと、助手席に座る金髪碧眼の少女、フレンダが呟いた。
「え、そだっけ?」
「そうですね、今日は間違いなく3月3日です」
 運転席の浜面仕上が答えずにいると、後部座席の麦野と絹旗が反応する。
 ミラーでちらりと覗くと、静かではあるが滝壺も話を聞いているらしかった。
 ―――のんきに見えるこの一団は、ただの女学生の集まりではない。
 学園都市上層部の暴走を未然に防ぐことを目的とする秘密集団、『アイテム』。
 学園都市の暗部の中でも、その行動で科学サイド全体が左右されかねない、重要な組織。
 このときも任務が言い渡され、下部組織の構成員――要するに浜面仕上――の運転で、現場に向かっている
最中である。
 ……余談ではあるが。ここ最近、移動の際の座席配置は流動的になりつつある。
 以前はリーダーである麦野沈利が助手席で、残り3人が後部座席で少し狭そうに座ってる、という構図が定番だ
ったのだが、この頃はその時々で助手席の人間が交代している。
 麦野以外ではナビゲータ担当の滝壺が座ることが多いが、絹旗やフレンダもたまに座っている。そういった場合、
麦野はなぜか必ず運転席の真後ろに陣取っていた。きっと失言に対して制裁を加えるためだろう、と浜面は考えて
いる。一回ホントにチョークされたし。
「日付はわかった。んで、それがどうかしたの?」
「なんか、今気付いた自分が超オッサンくさくて自己嫌悪。仕事人間みたいでさ」
「………まーね。この頃変な仕事押し付けられること多いからね」
 自分も当てはまると気付き、急激にテンションが下がる麦野沈利、『アイテム』最年長(推定)。
「確かにここ最近仕事が増えてますけど、その中身は超どうでもいい雑用ばかりですし。
 正式な指示というより個人的な嫌がらせのような気がします」
 浜面は喉元まで出かかった「そりゃお前らのせいだよ」という言葉を、すんでのところで飲み込んだ。
 ……先月13日、『アイテム』の構成員たちが中心となってちょっとした騒動が起こっている。
 表向きは何事も無かったように取り繕われているのだが、任務放棄未遂とか器物損壊とか一般人への攻撃未遂
とか、実は『アイテム』の存続自体が危うくなるところだったのだ。
 結局、その『騒動』自体は被害者――本人はそう思っている――浜面仕上の尽力によってどうにか終息を迎えた
のだが、当時の行動を本人たちはさっぱり覚えていないのか、その日の出来事についてはまるで話題に上らない。
浜面としても思い返したら正気を保てない出来事なのでつとめて忘れるように心がけている。
 かくして学園都市の危機は去り、それを防いだ少年の活躍は誰にも語られることなく忘れ去られることになったの
であった、まる。
(………っと、いかんいかん)
 頭をふって、脳裏に浮かんだ記憶(きけんぶつ)を追い払う浜面。
 もし彼女達に思い出されでもしたら危険すぎる。あっという間に死の危険、具体的に言うと窒素パンチや不健康色
電子線が迫ってくる。
 せっかく平和に過ごしているのだ、わざわざ乱す必要は無いだろう。


「着いたぞ」
 仕切り直しの意味も兼ねて、浜面は停車しながら到着をアナウンスする。
「よし、それじゃあ行きますか」
 車から降り、目の前のビルに向かっていく『アイテム』の面々。
 ここから先は、彼女たちの領分だ。
「あ、そうそう浜面」
 今思い出した、とばかりに、麦野が振り返る。
「何だ」
「戻るまでの間にさ、お菓子類買い込んどいて」
「む、でしたらコ●ケヤの新作は超確保しておいてください」
「ポテトはコンソメ以外ねー」
「………いちごぽっきー」
 ―――繰り返すが、この一団はただの女学生の集まりではない。
 学園都市上層部の暴走を未然に防ぐことを目的とする秘密集団、『アイテム』である。



         桃の節句と黒一点  ‐Girls’_Party‐


                  1

「遅いよー浜面」
 浜面が手近なコンビニまで買い物に行き、再び現場へ戻ってきたころには、すでに任務は終わって
いたようだった。
「へいへい。で、どこまでだ」
「第3学区のホテルまで」
 助手席に乗り込みながら、麦野が行き先を伝える。
 後部座席にも3人が入ったのを確認して、浜面仕上は目的地に向けて車を出発させた。
 堂々と助手席に座るリーダーは、携帯電話を引っ張り出し、登録済みの番号に発信中だ。
 浜面には知る由も無いことだが、その番号は統括理事会が一人、親船最中のものである。
『ちょっとどこに掛けてるのよ?!』
 そんな番号に掛けたところで当然、別の声によって遮られる。
 普段は一方的に指示を出してくる『電話の声』の、裏技的な呼び出し方だった。
「あ、出た」
『「あ、出た」じゃないわよこいつときたら!! 用事があるときはこっちから掛けるんだから、変な呼び出
し方するんじゃないわよもー!!』
「はいはい判った判った。雑用(しごと)終わったから連絡したんだって」
『そのぐらいこっちでも把握してるわよ、いつもしないでしょそんな事。他に言いたいことは?』
「今日はもう『アイテム』の仕事はオフ。なにかあっても動かないから」
 その一言を聞くや否や、十分大きかった電話の声は『こいつときたらー!!』とさらに大音声を張り上げる。
『ただでさえこの前の件でカツカツだっていうのに! 直接怒られるのは私なんだからちゃんと仕事しろー!!』
 麦野は顔をしかめながら携帯を耳元から離していたが、叫び終わったところでまた電話を近づけた。
「最近は精力的に動いてたから大きな問題は残ってないって。さっきみたいな雑用は下っ端にでもやらせといて」
 それだけ言うと、麦野は尚も続く反論を無視して通話を打ち切った。
「…………いいのかよ、それで」
 無駄とは思いつつも確認する浜面。
「いいんだよ、これで。どうせ単なる嫌がらせなんだし」
 麦野のほうもあっさりと返す。実にいいかげんである。
 それよりさ、と、麦野沈利は言葉を続ける。
「パーっとやるよ、今日は。せっかくの雛祭りだし、最近のうさ晴らしも兼ねてね」




                  2


 ―――外は快晴。
 高級な調度は金銭感覚を麻痺させる。
 空調は常に完璧で、ソファーのクッションが日々の疲れを緩和させる。
 文句の付けようのない快適な環境。
 政治家たちの別荘ともいえそうなその一室は、しかし。

「おーい、はまづらぁ? 次持ってきてつぎー」
「なんだか超ユカイです、フレンダさんが二人になってます」
「ううぅぅ……結局、私なんて…………」
「…………ユゴスから銀の鍵?」

 いつにも増してやりたい放題な四人組によって、近寄りたくない魔境と化していたのだった……!

「……っつーか、なんだありゃ」
 直属の上司ながら目を背けたい状況に一瞬、浜面仕上の脳裏に「逃亡」の二文字がよぎる。
 だが当然、そんなことをしても逃げ切れるわけがない。
 後に残るのは『酔っ払いから逃げ出すも捕まり、粛清』という不名誉極まりない結果のみである。
 溜息と共に浜面はひなあられを口に放り込む。
 ………何が原因でこんな状況になったのか?
 ここに到着してから買い込んだブツを部屋まで運び込み、それでお役御免だろうと思っていた浜面は、
そのままいつものノリで雑用を申し付けられた。それでもこのときは、まだ普通のパーティに過ぎなかったはずだ。
 暫く後に補充命令が下り、パシリとして部屋から出る。このときホテル内部の店には置いていない商品が注文され
たことと、一時的な息抜きも兼ねて、浜面は外のコンビニまでのんびりと向かって行ったのだ。
 そして帰ってきた時には、すでに室内は魔宴の会場と化していたのであった。
(…………理不尽だ)
 外出の間に飲み始めたのは考えなくても分かるし、結果論とはいえ止めるタイミングが無かったわけではないのだ
が、今の浜面にはそこまで考える余裕は存在しなかった。
 ルームサービスで取り寄せたらしい洋酒のボトルが、部屋のあちこちに転がっている。
 四人で飲んだにしても多すぎる量に、浜面は今さらながらに不安を覚える。
(一応、様子を見たほうがいいか?)
 何もせずにいて被害が拡大した場合、その被害はまず真っ先に浜面に降りかかるだろう。それだけは御免こうむり
たい。
 不幸だ、とでも叫びたい気分になりながら、浜面仕上は動き出した。




                  3


 まずは手始めに、浜面は絹旗最愛の元に近づいた。
 『アイテム』内最年少(推定)の彼女は、外見から判断するととてもじゃないが酒が飲める歳ではない。
 健康という観点からすれば、まず真っ先に確認すべき人物であろう。
 深紅の液体をたたえたグラスを、両手に持ってちびちびとすすっている小動物チックな少女へと近づく。
「おい、大丈夫か」
「むむ、浜面ですか。三人に増えてキモさが3倍です。いつの間に超レベルアップしたんですか」
 光学操作(オプティック)ですか、などと、焦点の合わない瞳で呟く絹旗。
 完璧に出来上がっているようだ。
 これ以上飲ませるのはまずいだろう。
「人間大でそれだけの像が作れれば異能力(レベル2)はかたいです。超急成長ですから、頑張ればその
まま『アイテム』入りですね」
「あーはいはい、分かったからそれ以上飲むな」
 絹旗の話を右から左に受け流しつつ、浜面は彼女から手にしたグラスを取り上げる。
「むむむ、何なんですかいったい。いきなり取りあげるなんてひどいです。のこりも超もったいないじゃない
ですか」
「はいはい」
「ひゃっ?!」
 尚も言いすがる絹旗を無視して、浜面はこの酔いどれを抱え上げる。
 触れた瞬間に伝わる人体らしからぬ硬い感触は、彼女の『窒素装甲』(オフェンスアーマー)の自動防壁に
よるものだ。
 本当に無意識に発動してるんだな、と妙なところで感心しながら、浜面は絹旗を手近なソファーへと運んで
いく。
 この間彼女は抵抗らしい抵抗を見せなかった。
(やっぱり飲みすぎか)
 赤ら顔で「い、いきなりですか」とか「超心の準備が」とか支離滅裂なことを呟いているところを見るに、限度を
知らずに相当飲んでしまったのだろう。
 固い感触で少々分かりづらい力加減に苦戦しながら、浜面は絹旗をなるべくゆっくりとソファーに横たえた。
「寝てなさい。そしてもう飲むな」
「……………………………………………………………………え?」
 何故かきょとんとしている絹旗を置いて、浜面は行動を再開する。
 後には、さらにアクの強い三人が待ち構えて(?)いる。


                  4


 次に浜面が向かったのは、滝壺理后。
 いつもフラフラとしている彼女が酔っているとなると、実は相当危険ではないかと思われたからだ。
 決して、酒癖の悪そうな面子を避けているわけではない。
「滝壺?」
 見れば、滝壺はいつもと変わらないぼんやりとした様子で、グラスのワインをくるくると回していた。
 ほんのりと赤く色づいた頬、かすかに濡れる瞳には、普段には無い色気のようなものも漂っている。
(…………って、何見とれてるんだ俺は)
 気を取り直し、改めて近づく浜面。
 気付いていないのか無視しているのか、滝壺からの反応は無い。
 無意味に回していたグラスを止め、ポケットから小さなケースを取り出し、その中身をパラパラと振りまいたあと、
グラスを傾け―――
「待て待て待て待て!?」
 普通に飲んでるかと思えばこいつときたらー! と、電話の声のような感じで怒鳴る浜面。
 それに対して、滝壺の方はグラスが無くなってもすぐには事態が飲み込めなかったようで、
「あ、はまづら」
 などと、どこかピントのずれた返事をよこした。
「………お前、いつもこんな飲み方なのかよ」
「どこいってたの?」
 聞いちゃいねぇ。
 普段からマイペースな少女だったが、酒が入ってその度合いがますます酷くなっているらしかった。
「もう一杯、ついで?」
「……………『体晶』は無しだ」
 さっき取りあげた汚染済みのグラスは使えない。
 浜面はその場に滝壺を残し、予備のグラスを取りに行く。
 少し考えてから、一緒にミネラルウォーターのボトルも携えて戻る。
「…………………?」
 透明な液体……単なる水が注がれる様子に、首をかしげる滝壺。
「……もう一杯……」
「これ以上はやめとけ。体に毒だ」
 聞くかどうか分からなかったが、一応の忠告と共に、浜面はワインではなく水の入ったグラスを手渡す。
 滝壺は手元のグラスと浜面の顔を数回見比べた後。
「うん。はまづらがそういうのなら、そうする」
 柔和に微笑みながら、思ったよりも素直に、忠告を受け止めてくれた。
「――――――――っ」
 普段は表情変化に乏しい滝壺の、滅多に見られない笑顔に目を奪われる。
 だが次の瞬間には、滝壺はいつものぼんやりとした様子に戻って、水の入ったグラスをくるくる回し始めていた。
 なんとも複雑な心境を抱えたまま、浜面は次の行動に移ることにした。




                 5


 さてあとの二人は、と振り返った浜面の視界に、何か変なものが見つかる。
(……………………あれ、フレンダか?)
 場末の酒屋のような雰囲気を漂わせながら、金髪碧眼の少女がテーブルに突っ伏している。
 別に見知らぬ誰かに変身しているわけではなく、普段の女子高生然とした空気からあまりにかけ
離れているせいで、一瞬フレンダだと認識できなかったのだ。
 宙を眺める瞳に力は無く、なにやらブツブツと呟くさまは完璧にアル中のそれだ。
「………おーい、フレンダ?」
 警戒しながら……もはや何に警戒しているのか分からないまま、浜面は恐る恐る接近する。
「――――――」
「………………」
 こちらに振り向いたフレンダと目が合う。
 数秒の間何の反応も無かったかと思うと、
「――――――ぅぅぅうう」
 突如として大粒の涙を浮かべだした。
 思わず後ずさる浜面。だが近寄りすぎたのか、白く細い指が上着の裾をがっちりキャッチ。
「なに?!」
「ぅぅぅぅぅ………」
 服よ伸びろとばかりにぐいぐいと引っ張りながら、「きいてよはまづら~」と絡みつく金髪少女。これは
本当にあのフレンダなのだろうか?
「結局さ、私のポジションよくわかんないんだって。
 切り込み役は絹旗だし、滝壺は追跡役だし、リーダーは押しも押されぬ超能力者(レベル5)だし、雑
用だったら浜面がいるし!」
 雑用決定に異議を申し立てたいものの、勢いに飲まれている浜面ではそれも能わない。
「どうなのよ実際、みんなバンバン能力使ってる中一人だけ道具を常備って正直選考基準おかしくない?
 っていうか結局私にはあわないんだってばこんなハードボイルドな環境は~」
 もはやキャラが崩壊するほどのグダグダっぷり。
 一体なにが彼女をここまで追い詰めていたのだろうか?
「うう~、平和な学園生活を返して~」
 泣き崩れつつも裾を離そうとしないフレンダさん。
 浜面としてはどう対処していいか、見当がつかない状態だ。
 スキルアウトの連中で酒盛りになったこともあるにはあるのだが、その場合大概は襲撃成功の打ち上げ
で、その戦利品の中に混じった酒をチーム内で分けていたときである。学生の集まりであるスキルアウトに
は、自棄酒をあおるほどのアルコールの余裕は無かったのだ。勝利でハイになってる連中ばかりだったた
め、泣き上戸なんてほとんど見かけなかった。こんな少女に泣いて絡まれるなどもはや異次元である。
「ぅぅ……、ぐすっ……」
 どうしていいか分からないまま、とりあえず、浜面はフレンダの肩に手を置き、ゆっくりと頭を撫でてみた。
 フレンダは一瞬ビクッと身を竦ませたが、そのまま払いのけずにされるがままになっている。
 本当に、普段からは想像もつかない変わりようだ。あるいは普段は空元気に過ぎず、涙とともに弱音を語る
この状況こそが、この少女の本来の姿かも知れなかった。
 少しずつ、フレンダの緊張がほぐれてきたのが伝わってくる。
 ずっとこうしているわけにもいかないと、浜面が口を開く。
「……まあ、落ち着くまでは―――っ?!」
「ひぅっ?!」
 浜面が言いかけた言葉は、周囲からの異様な気配によって中断を余儀なくされる。
 フレンダもそれは感じたらしく、あれほどしっかり握っていた手どころか、擦り寄っていた体ごと一瞬で飛び
退いていた。
(な、何だ今のは?!)
 激しく疑問に思いながらも、浜面は振り向くことが出来ない。
 情けないなどと思う無かれ、勝ち負けにこだわったら行きつく先は死である。
 路地裏のルールは冷徹なのだ。
「わ、私疲れたみたいだし、もう寝るね。うん、飲み過ぎかも」
 彼女もそれは良く分かってるようで、早々に隣のベッドルームに退散するようだ。
 てか逃げたなフレンダ。
 残された形になる浜面は、無視するわけにもいかず、先程の気配の方にぎこちなく向き直った。





                 6


「はーまづらぁ」
 それは、地の底から響いてくるような、声だった。
 もちろん実際には麦野沈利の声であり、普段より多少低めでドスが効いている程度なのだが、今の浜面の心境
からすればまさしくそんな感じだったのだ。
 ……どれ程の酒精を飲み干したのか。
 ここに座れと手招きする麦野の目は、完璧に据わっていた。
 これ以上この超能力者(ぼうくん)の機嫌を損ねないよう、ボトル片手に早急に馳せ参じる。
「さっきからわたしが呼んでるってのに、どーゆうつもりぃ?」
 麦野の表情は尚も不機嫌そのものだ。
「わたしが呼んでるんだからさっさとこいっつーの」
「……………………」
 表情は不機嫌そうなまま、なのだが。
 なんかどう聞いても、声にはさっきほどの迫力がない、ような。
「おーい、はまづらぁ? きこえてんでしょー?」
「……………………あ、ああ。聞こえてる」
「んー、ならよし」
 数秒前までの空気はどこへやら。
 最悪とも言えた麦野の機嫌は、『六枚羽』もかくやという速度で急速に良くなっていた。
 おびえて逃げ去ったフレンダが哀れに思えてくる。
「ほら、注いで」
「…………へいへい」
 浜面は結局、お酌担当になったらしかった。
 ここで断って無意味に不機嫌にする必要はないだろう、と判断し、特に反対はしなかった。
 情けないと思う無かれ以下同文。
「んー、なんかさっきまでのワインと今のワイン、味が違う気がする。あれー?」
 いつか聞いたような調子で、麦野は違いなど無いはずのものに対し、本格的に疑問を持って首を傾げだした。
「もういちど飲んだらわかるかも。はまづら、もう一杯」
 まるっきり飲んだくれの言い分である。
 浜面が苦笑しながら注ぎ終わると、麦野が浜面の手からボトルを取り上げた。
「お、おい」
「ほらほら、はまづらもグラスだして」
「グラスってお前」
「あんたも味をたしかめるの。おーけい?」
 言ってることは支離滅裂で、どう評しても酔っ払いのたわごと、なのだが。
 これだけ楽しそうにしている麦野の提案(めいれい)を断る術は、浜面には存在しなかった。

 ―――まあ、たまには羽目を外してもいいか。
 殺伐とした学園都市の暗部にいようが、休息があってはいけないなんて決まりは無い。
 これから明日まで半日ぐらいは、のんびりしていてもいいじゃないか。

 そんなことを考えつつ、後ろからの誰かの視線を勤めて気にしないようにしながら、浜面仕上はグラスをつき合わせた。


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