とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 1-699

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匿名ユーザー

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ゴミを全て捨て終わり、戦争の跡地と化した部屋は妙に平然としていた。
「んー、スッキリしたわ」
 結標は肩に手を当てて首を何度か鳴らしたり、ついでに改めて伸びをして、腰を曲げたりしてみる。
 それと同時に気づいた事があった。
 脇腹。
 そこに接している寝間着の生地に少し変化がある。
 そこだけ、赤く変色しているのだ。
「………ッ」
 それを見た直後、結標の身体が嫌な汗を出しはじめた。
 急いで押入れに押し込んであった救急箱を取り出し、寝間着を捲り上げる。
 赤の色がこびり付いた白い自分の肌。
 どうやらほとんど固まっているようだが、あの事件で白井につけられた傷が開いたようだ。
 少し何も考えずに動きすぎたか、と結標は眉を顰めつつ救急箱を開けて治療を始める。
 傷が痛むのを我慢して傷に薬を塗りつけ、その上から包帯を巻きつけるだけの簡易作業。
 こんな状態ではあの最強の能力者に勝てる筈が無い、などという弱音は吐かない。
 万全を期すまで待てばいい、などという作戦をとることも無い。
 というよりもそもそも、結標は"それすら"も思いついてはいないのだ。
 重度とは言えないが、決して結標が心に負った傷は浅くは無い。
 あの事件を境に、色々な意味で結標は既に"壊れている"のだから。
 治療を終え、余った包帯を鋏で切り取って救急箱に収めて蓋を閉める。
「お気に入りだったんだけど……ねぇ」
 脇腹部分が生地の青色に反逆するように赤くなった寝間着を見て結標はため息をつく。
 クリーニングに出すわけにもいかないし、結標には残念ながら衣服についた血痕を落とすような技術は無い。
 何故かテーブルの上に置いてあった【爆熱殺菌掌】という商品名の上にむさ苦しい男性がプリントされた洗剤は、
 使うと落とせるとか落とせない以前に、生命の危険とかそういう方向でやばい気がする。
 というか、何故そんなものを買ってきたのか。
 思い返すが、見事なまでに記憶に無い。
 恐らくあの事件から数日も経っていない錯乱した精神状態の時に買って来たのだろう。
 明らかに混ぜるな危険の雰囲気を醸し出すサムズアップした筋肉質な男性の絵が目立つ洗剤を横目で見やり、
 一瞬見た後視線を逸らすと、服を手に入れるため結標は一枚扉を挟んだ隣の部屋へと向かった。
 扉を開ければ、そこはクローゼットだけが一つ隅に置いてある寂しい部屋。
 そこにも達磨の形をしたカキ氷機や他にも使用法不明の謎の商品が幾つか床に転がっていた。
 錯乱状態の自分は本当に何を考えていたのだろうと今更ながら自己嫌悪に陥る。
……大丈夫。私は大丈夫。
 罅割れた心に何とか言い聞かせて立ち直るまで数秒。
 すぐに気持ちを切り替えて、クローゼットの扉を開けた。

 即座に閉めた。

「……他の服、あったかしら?」
 今日は絶好の買い物日和だ。
 対一方通行用の作戦を考えるついでに服を調達するのも良いだろう。
 向きを変えて歩き出した結標の後ろには、どす黒い空気を放つクローゼットがただ静かに鎮座していた。

 結局他の服は見つからず、床に落ちていた学校で使う様な紺色のジャージを着る事となった。
 今日何度目の溜息かしら、とぼんやり考えつつ他に必要なものをチェックする。
 布団などは問題無し。寝間着とクローゼットの服は捨てるしかないだろう。
 と、冷蔵庫を覗いてみれば、丁度食料もほとんど切れて居る状態だった。
 恐らくは昨日食べたものでまともな食材は最後だったのだろう。
 なんともタイミングが良いものだ、と結標は偶然に感謝する。
「お腹もすいたし……っと?」
 自らの腹に手を当てたトコロで結標は気づく。
 そういえば最後にお風呂に入ったのは何時だろう、と。
 その日数を考えて戦慄しつつ恐る恐る自らの髪に触れる結標。
 触れた髪はとてつもなく乾燥しており、手入れも何もあったものではない。
 何かに例えるとするならば、それはミイラの様な状態だった。
 髪は女の命というが、結標もその例を漏れずそれなりに大切にしていたのだ。
 まずはお風呂か、と肩を落とし項垂れつつ風呂場へと向かう結標。
 最近項垂れる回数まで多くなっている様な気がする、と更に落ち込むような事を考えつつ足を動かす。
 ふと自分の脇や肩に巻かれた包帯を見やる。
 包帯は表面防水仕様なので問題無いとしても、まだ湯船に浸かるのは控えたほうが良いだろう。
 そんな事を思っている間に脱衣所に到着。
 すぐさまジャージと下着を脱いで風呂場へと足を運ぶ。
 そして、扉を開けて正面に設置してあるシャワーを手に取りお湯を出し始めた。
 温度を調整して、近場に置いてあったシャンプーを取り、頭を濡らしてからそれをつければ準備完了だ。
 瞬く間に頭の上半分が白い泡に包まれる。
 暫くの間。
 その間はずっと丁寧に、それでいて豪快に洗う音が風呂場に響き渡っていた。
 更に水の勢いを強くしたシャワーで勢い良く髪を洗い流す。
 その際に泡が目に入ったりして少々痛くなったが、それもご愛嬌というものだろう。
 余韻に浸りつつ、ついでとばかりに検討していた対一方通行用の作戦を改めて頭の中に走らせる。
……真っ向勝負では間違いなく一瞬でやられる。かと言って人質作戦も私のプライドに反するのよね。
 一番簡単なのは、恐らくだが一方通行を支える少女を人質に取る事だ。
 だが、それは僅かばかり、情け程度に残った結標のプライドが許さない。
 戦いの場にあるものは何でも利用するのが結標の基本的なスタイルだ。
 しかし、流石にこの様な少女を人質に取るまでは落ちぶれてはいないと結標は自負している。
……まあ、利用する事には変わらないんだけど……となると他に考え付く方法は……。
 少女を手なずけてコッチの味方にしてしまう。
……。
 少しでも良いかも、と思ってしまった雑念を振り払うようにガシガシと音を立てて頭を強く掻く。
 というか、場合によっては人質に取るよりもかなり情けない様な気もする。
「まぁ、取り敢えずは……買い物しながら考えるとしましょうか」
 軽い足取りで風呂場から出て、下着などを入れる棚の上に積んだバスタオルを一つ取り身体を拭い始める。
 ドライヤーを使って髪を乾かして櫛を入れて念入りに整え、お気に入りの後ろで二つに結う髪型に整える。
 よし、と最後に脱衣所に設置してある鏡で何度か左右を向いておかしいところは無いか確認。
 問題無し。
 下着を付けてジャージを着込み準備完了。
 ジャージの上着の方は前を開けておくのがポイントだ。
 中には白のインナーを着込んでいるので、動きやすさの面でも他人の目の面でも問題は無い。
 後は財布を持って買い物に行くだけだ。
 そういえば財布はどこにやっただろうか、と多少御機嫌になりつつ脱衣所を出て行く結標であった。

 ...To Be Continued

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