1
戦火が容赦なく世界の全土を覆う。ロシアからの宣戦布告を真正面から承った学園都市は科学の粋を
極めた兵器、戦略、民兵を駆使し、圧倒的な人的力量差を埋め尽くた結果、対等、
いやどう贔屓目に見たとしても明らかに学園都市はロシアの戦力を確実に抉り、戦況を当然のように
有利に持ち込んでいく。無理もなかった。ロシア側は右方のフィアンマという男に煽動されるが故に
自分達を騙し騙し戦っている。逆に学園都市には自陣の防衛という大義名分が存在する。
技術の差では無く精神的な力量の壁が二つの陣営に影響を与え、暴動、制裁、死闘が円満していく。
科学サイドの勝利。その結末が近い未来として訪れるであろう。それほどまでに大差が連綿としていた。
戦火が容赦なく世界の全土を覆う。ロシアからの宣戦布告を真正面から承った学園都市は科学の粋を
極めた兵器、戦略、民兵を駆使し、圧倒的な人的力量差を埋め尽くた結果、対等、
いやどう贔屓目に見たとしても明らかに学園都市はロシアの戦力を確実に抉り、戦況を当然のように
有利に持ち込んでいく。無理もなかった。ロシア側は右方のフィアンマという男に煽動されるが故に
自分達を騙し騙し戦っている。逆に学園都市には自陣の防衛という大義名分が存在する。
技術の差では無く精神的な力量の壁が二つの陣営に影響を与え、暴動、制裁、死闘が円満していく。
科学サイドの勝利。その結末が近い未来として訪れるであろう。それほどまでに大差が連綿としていた。
だが、そのような大局的結果とは裏腹に、学園都市に勝る軍もあった。
ノリリスクと呼ばれる、シベリア高原北西部に存在する鉱山地帯。
この周辺ではニッケル、胴、コバルトといった重工業に欠かせない金属資源が採掘されている。
当然、この地から供給されるそれらは戦争においても重要な兵器の材料となる。
ここを学園都市に奪われれば、新規の兵器の製造に歯止めが掛かり、不利な位置に居るロシアには
痛手となる。そのためにもここの拠点にはロシア軍の中でも選りすぐりの人員が配属されている。
学園都市も襲撃の一手に全力を注ぐが、ロシア側も馬鹿では無い。既に学園都市が誇る、
時速七〇〇〇キロオーバーの輸送機かつ戦闘機であるHsB-02への対策も不完全ながら用意されていた。
ノリリスクと呼ばれる、シベリア高原北西部に存在する鉱山地帯。
この周辺ではニッケル、胴、コバルトといった重工業に欠かせない金属資源が採掘されている。
当然、この地から供給されるそれらは戦争においても重要な兵器の材料となる。
ここを学園都市に奪われれば、新規の兵器の製造に歯止めが掛かり、不利な位置に居るロシアには
痛手となる。そのためにもここの拠点にはロシア軍の中でも選りすぐりの人員が配属されている。
学園都市も襲撃の一手に全力を注ぐが、ロシア側も馬鹿では無い。既に学園都市が誇る、
時速七〇〇〇キロオーバーの輸送機かつ戦闘機であるHsB-02への対策も不完全ながら用意されていた。
超音速爆撃機による物資供給は確かにロシアにとっては脅威だ。しかし、その物資は降ろさなければ
『物資』として働かない。つまり、大量の重火器、食料、軍兵を戦場に堂々と音速で運び込んでも
敵拠点に到着した際にはパラシュートで降下する必要がある。
これが学園都市の穴だった。この物資降下を妨害する、または横取りすればロシア側も
必要な武具等に困る事が無くなる。むしろ学園都市側の最新型兵器を奪取出来ればこちらでもそれを
製造出来る余地がある。そのため物資降下時を狙った奇襲に全力を費やせば勝機が見えてくるのだ。
『物資』として働かない。つまり、大量の重火器、食料、軍兵を戦場に堂々と音速で運び込んでも
敵拠点に到着した際にはパラシュートで降下する必要がある。
これが学園都市の穴だった。この物資降下を妨害する、または横取りすればロシア側も
必要な武具等に困る事が無くなる。むしろ学園都市側の最新型兵器を奪取出来ればこちらでもそれを
製造出来る余地がある。そのため物資降下時を狙った奇襲に全力を費やせば勝機が見えてくるのだ。
ノリリスクでもその作戦は有効に働き、屈強な男達がまた徒党となって輸送機の訪れを待つ。
タイムテーブルも事前に確認し、軍用時計で照らし合わせた後にロシアの強兵達が遭遇ポイントまで
移動した。一人、また一人と軍用車を降りてポイントまで接近する。
それに加え今は夜。超音速機も敵を味方と誤認して物資の補給を間違えるのにも期待出来る。
五十人程の大群が声を潜め、供給機の到来を心待ちにしていると、それは来た。
男達の口が歓喜で歪む。物資を受け取る一軍を狩る時間がやってきた。この戦法を続ければ勝てる。
早くも勝利の余韻を感じた彼らは輸送機の着地地点を確実に見定め、手元の殺人兵器に発破をかける。
タイムテーブルも事前に確認し、軍用時計で照らし合わせた後にロシアの強兵達が遭遇ポイントまで
移動した。一人、また一人と軍用車を降りてポイントまで接近する。
それに加え今は夜。超音速機も敵を味方と誤認して物資の補給を間違えるのにも期待出来る。
五十人程の大群が声を潜め、供給機の到来を心待ちにしていると、それは来た。
男達の口が歓喜で歪む。物資を受け取る一軍を狩る時間がやってきた。この戦法を続ければ勝てる。
早くも勝利の余韻を感じた彼らは輸送機の着地地点を確実に見定め、手元の殺人兵器に発破をかける。
だが、もう、ここで、彼らは間違っていた。
まず、降りて来たのはたった一つの飛来物。明らかに食料や弾丸が詰まった箱などではない。
また、それの落下速度は物資降下のそれを凌駕する。まるで隕石が天から落下してきたかのようだった。
そして、雪積もる大地にヒビを入れる程の衝撃が喚起されたにも拘らず『それ』は優雅さを秘めている。
ロシア兵達にも異変を感づくチャンスがあった。もっと考えを厳しく持てば生還する事も出来た。
そう、学園都市の超音速機HsB-02が輸送してくるのは物資や人員だけでは無い。決して無い。
ごく稀に、少なくとも後五回はその『別の物』を投下する機会があった。
『それ』には影があった。超音速機からのライトで頭部、胴体、脚部が正確に大地に投影される。
だが、一部は抜け落ちている。右腕はかろうじてあった。左腕はどうかとロシア兵達が見定めるとーー
まず、降りて来たのはたった一つの飛来物。明らかに食料や弾丸が詰まった箱などではない。
また、それの落下速度は物資降下のそれを凌駕する。まるで隕石が天から落下してきたかのようだった。
そして、雪積もる大地にヒビを入れる程の衝撃が喚起されたにも拘らず『それ』は優雅さを秘めている。
ロシア兵達にも異変を感づくチャンスがあった。もっと考えを厳しく持てば生還する事も出来た。
そう、学園都市の超音速機HsB-02が輸送してくるのは物資や人員だけでは無い。決して無い。
ごく稀に、少なくとも後五回はその『別の物』を投下する機会があった。
『それ』には影があった。超音速機からのライトで頭部、胴体、脚部が正確に大地に投影される。
だが、一部は抜け落ちている。右腕はかろうじてあった。左腕はどうかとロシア兵達が見定めるとーー
横一線に光が走った。雪を切り、大気を両断し、存在する量子を押退けて、
戦火が迸る。
その攻撃の前兆すら捉えられない未熟な男達は黒ずんだ炭になる。
襲撃だと把握した熟練の戦士達は後退していた。焼き払われた仲間に助けの手をかける余裕は無かった。
「あれは何だ!?」
「よせ!手を出すなッ!!」
一人が不安と好奇心に駆られ、『それ』に発砲してみる。
最近実用化されたAK-200型短機関銃だ。装填された六〇発の弾丸を全て標的に撃ち込む。
ダダダダダッ!!とキーボードをタンピングする音を一段低くしたような銃撃音がなる。
人肉を弾き飛ばし、生半可な鉄製防具なら余裕で食い破れる威力を秘めた銃弾が山のように着弾する。
だが、カカカカッ!と軽い火花が飛ぶだけで、『それ』は怯みもしなかった。
まるで、SFに出てくるようなバリアでも張ったかにも思える。
「何で、何で効かないんだ!こっちは完璧に武装してるのに素手で受けき」
ヒュン、と風を切った音が鳴る直前、発砲した兵の首が飛んだ。
天高く血のリングを描きつつ回るその人の首は現代的な芸術的オブジェに見える。
主人の脳が削ぎ落とされた胴体が地に着くのを見届けた残兵達は『それ』の異常さに漸く気付き、
「ぜ、全軍撤退だぁあああああ!!!」
戦火が迸る。
その攻撃の前兆すら捉えられない未熟な男達は黒ずんだ炭になる。
襲撃だと把握した熟練の戦士達は後退していた。焼き払われた仲間に助けの手をかける余裕は無かった。
「あれは何だ!?」
「よせ!手を出すなッ!!」
一人が不安と好奇心に駆られ、『それ』に発砲してみる。
最近実用化されたAK-200型短機関銃だ。装填された六〇発の弾丸を全て標的に撃ち込む。
ダダダダダッ!!とキーボードをタンピングする音を一段低くしたような銃撃音がなる。
人肉を弾き飛ばし、生半可な鉄製防具なら余裕で食い破れる威力を秘めた銃弾が山のように着弾する。
だが、カカカカッ!と軽い火花が飛ぶだけで、『それ』は怯みもしなかった。
まるで、SFに出てくるようなバリアでも張ったかにも思える。
「何で、何で効かないんだ!こっちは完璧に武装してるのに素手で受けき」
ヒュン、と風を切った音が鳴る直前、発砲した兵の首が飛んだ。
天高く血のリングを描きつつ回るその人の首は現代的な芸術的オブジェに見える。
主人の脳が削ぎ落とされた胴体が地に着くのを見届けた残兵達は『それ』の異常さに漸く気付き、
「ぜ、全軍撤退だぁあああああ!!!」
一人が手榴弾を投げ捨て、煙幕を張る。『それ』に追尾されずに逃げ切れるように。
男達は走る。先程まであった勝機など思い出すのにも無理があった。
一分、それだけの時間を費やして、ロシア兵達は移動用に使っていた軍用車に辿り着き、乗り込めた。
(こ、これで大丈夫だ。ヤツの戦力は未知だが時速二〇〇キロで振り切れば…………!)
凍えるような寒さの中、運転席に収まった男は汗をかいていた。これは焦りからくる汗だ。
そう思っていた。
男達は走る。先程まであった勝機など思い出すのにも無理があった。
一分、それだけの時間を費やして、ロシア兵達は移動用に使っていた軍用車に辿り着き、乗り込めた。
(こ、これで大丈夫だ。ヤツの戦力は未知だが時速二〇〇キロで振り切れば…………!)
凍えるような寒さの中、運転席に収まった男は汗をかいていた。これは焦りからくる汗だ。
そう思っていた。
「おコンバンワー♪」
その汗は、恐怖からくる物だった。
「……え…………」
正常な判断力を失った運転者がその不自然なコトバがする方向を反射的に目で追ってしまう。
「馬鹿野郎!さっさと出せ!下手すればこのまま全滅するぞ!!」
そのせいで発車に遅れが生じ、ケージの中にいる仲間から罵声が轟く。
だが、もう何も耳に入らない。
軽く開いたサイドドアの隙間に在ったのは、
整っている顔。茶色の長い髪。不自然にまで白い肌。甘い感触がするであろうピンクの唇。
それらの調和を乱す、悪鬼のような残酷で歓楽的で刺々しい破顔の笑顔。
そして顔の右側を真っ二つに埋め尽くす鋭い傷跡。
その中心には腐った精肉のケロイドで覆われた発光体があり、そこから鈍い輝きが発せられていた。
「……え…………」
正常な判断力を失った運転者がその不自然なコトバがする方向を反射的に目で追ってしまう。
「馬鹿野郎!さっさと出せ!下手すればこのまま全滅するぞ!!」
そのせいで発車に遅れが生じ、ケージの中にいる仲間から罵声が轟く。
だが、もう何も耳に入らない。
軽く開いたサイドドアの隙間に在ったのは、
整っている顔。茶色の長い髪。不自然にまで白い肌。甘い感触がするであろうピンクの唇。
それらの調和を乱す、悪鬼のような残酷で歓楽的で刺々しい破顔の笑顔。
そして顔の右側を真っ二つに埋め尽くす鋭い傷跡。
その中心には腐った精肉のケロイドで覆われた発光体があり、そこから鈍い輝きが発せられていた。
「お客さまだよ?」
強引にドアの開閉部分に頭部を食い込ませた『それ』は、
禍々しい狂気をただ、シンプルに、与えて、
怯え、恐れ、泣き叫ぶ、カワイイカワイイ子羊ちゃんを、
禍々しい狂気をただ、シンプルに、与えて、
怯え、恐れ、泣き叫ぶ、カワイイカワイイ子羊ちゃんを、
「オオカミさんでーすよぉ☆」
不気味な光を宿した左手のアームでその頭を『掴む』。鉄をも溶解させる高温のアームで。その結果、
「ぎゃ、ぎゃぁああぁぁあぁあああああああああああああ!!!!!」
素敵に運転者の顔表面が焼き爛れ、肉がこんがりとした風味の匂いと蒸発した血液の鉄臭さが
軍用車に充満していく。
「ぎゃ、ぎゃぁああぁぁあぁあああああああああああああ!!!!!」
素敵に運転者の顔表面が焼き爛れ、肉がこんがりとした風味の匂いと蒸発した血液の鉄臭さが
軍用車に充満していく。
「か弱い子豚さぁん?出てこないのぉ?だったらそんな藁葺き、吹き飛ばしちゃうよぉーん?」
『それ』の放つ無造作な光の束が爆発的に展開され、軍用車ごと乗組員を焼却処分する。
抵抗する間は、圧倒的な力で蔑ろにされ、ただただ屈服と苦痛に満ちた絶叫が続く。
真っ黒。ただの炭素の塊と化したゴミらを踏みつぶして、『それ』は呟く。
恋人の耳元に囁くように。唯一の幸福を噛み締めるかのように。
抵抗する間は、圧倒的な力で蔑ろにされ、ただただ屈服と苦痛に満ちた絶叫が続く。
真っ黒。ただの炭素の塊と化したゴミらを踏みつぶして、『それ』は呟く。
恋人の耳元に囁くように。唯一の幸福を噛み締めるかのように。
「どぉーこにいるのかなぁ…………は、ま、づ、らぁー?」
麦野沈利。学園都市第四位の超能力者『原子崩し』は、問題無くロシアに到着した。
2
日本海を抜け、オホーツク海を迂回して飛ぶ超音速機があった。
学園都市は建前上は日本一帯をロシアからの中距離弾道ミサイルから守り通す義務を負っている。
そのためのHsB-02だが、件の一機は当たり前の様に巡回ルートから外れていた。
ユーラシア大陸の拠点に物資を送る機体にしてもその航空ルートは絶対におかしい。
だが、学園都市側はそれを百も承知で黙認していた。理由は一つ。
日本海を抜け、オホーツク海を迂回して飛ぶ超音速機があった。
学園都市は建前上は日本一帯をロシアからの中距離弾道ミサイルから守り通す義務を負っている。
そのためのHsB-02だが、件の一機は当たり前の様に巡回ルートから外れていた。
ユーラシア大陸の拠点に物資を送る機体にしてもその航空ルートは絶対におかしい。
だが、学園都市側はそれを百も承知で黙認していた。理由は一つ。
幻想殺しの監視。必要な場合には個体を回収しアレイスターの絶対的管理下に置くという任務のためだ。
そのために幻想殺しの弱点である『多人数』と『無効化出来ない重火器』を輸送させて、
上条当麻を無力化するために、警備員とは違う学園都市の暗部に所属する実行部隊が控えていた。
そのために幻想殺しの弱点である『多人数』と『無効化出来ない重火器』を輸送させて、
上条当麻を無力化するために、警備員とは違う学園都市の暗部に所属する実行部隊が控えていた。
「あ~あ。音速越えの戦闘機も直に乗ると不便ねー」
とされていても、実際に操縦席の背面で指揮を取っているのは、この場では不相応な少女。
学園都市第三位の超能力者『超電磁砲』たる、御坂美琴本人だった。
艦長席に深く座り、足を組み、腕を広げて伸びをする。
「まったく、真っ直ぐ向かえば三十六分であのバカの目的地に先回り出来るのに、
戦闘空域はなるべく避けないといけないなんて慎重にも程があるわよ」
とされていても、実際に操縦席の背面で指揮を取っているのは、この場では不相応な少女。
学園都市第三位の超能力者『超電磁砲』たる、御坂美琴本人だった。
艦長席に深く座り、足を組み、腕を広げて伸びをする。
「まったく、真っ直ぐ向かえば三十六分であのバカの目的地に先回り出来るのに、
戦闘空域はなるべく避けないといけないなんて慎重にも程があるわよ」
そう、御坂美琴がこの超音速機を『お借り』した理由はただ一つ。
あのツンツン頭の少年を助けに行くためだった。
ロシアと学園都市の正面衝突。
その裏で蠢く人々の中に上条が紛れているのを知った美琴は、居ても立ってもいられなくなり、
ロシア、正確にはあの少年が現在目的地として定めたノヴァヤゼムリャへと辿り着く道を選んだ。
もう、あの少年に傷ついてもらいたくない。何かを失ってまで戦ってほしくない。
この戰いで、今度こそ上条が大切な物を取り戻せなくなるような予感があった。
彼が嘗て持っていた筈の、記憶。それ以上に大事な物を。
それだけは嫌だ。自分が彼に会う事に意味があるかはわからない。
むしろ、上条なら美琴が戦地の中心に参戦するなどと聞いたら絶対に反対するだろう。
美琴を巻き込みたくない。きっと、必死に、優しくそう言ってくれるはずだ。
それでも、美琴は力に成りたい。
上条の負担や苦悩がもし加速していく一方ならば、それを和らげてあげたい。
あのツンツン頭の少年を助けに行くためだった。
ロシアと学園都市の正面衝突。
その裏で蠢く人々の中に上条が紛れているのを知った美琴は、居ても立ってもいられなくなり、
ロシア、正確にはあの少年が現在目的地として定めたノヴァヤゼムリャへと辿り着く道を選んだ。
もう、あの少年に傷ついてもらいたくない。何かを失ってまで戦ってほしくない。
この戰いで、今度こそ上条が大切な物を取り戻せなくなるような予感があった。
彼が嘗て持っていた筈の、記憶。それ以上に大事な物を。
それだけは嫌だ。自分が彼に会う事に意味があるかはわからない。
むしろ、上条なら美琴が戦地の中心に参戦するなどと聞いたら絶対に反対するだろう。
美琴を巻き込みたくない。きっと、必死に、優しくそう言ってくれるはずだ。
それでも、美琴は力に成りたい。
上条の負担や苦悩がもし加速していく一方ならば、それを和らげてあげたい。
だから、この選択に後悔は無かった。
(……もう、これ以上アンタ一人で背負い込む必要は無いのよ。
…………頼ってよ。もう、私を、『守りたい人』の枠に留めるのは、やめて)
そう願った時には、いつも重傷のまま戦場に飛び込んでいった彼の顔が浮かぶ。
自分がどれだけ地獄に堕ちても、大切な人を守り抜くために、その人に安堵を齎す笑顔。
優しくて、思い出すだけで心が体に保温を乱すよう信号を出してくる。
胸に手を当て、加速する鼓動に身を委ねたくなる。でも、今は、まだその時じゃない。
頬に朱が入った美琴はすぐに頭を切り替え、席から立ち、配線機のケーブルと自分の携帯を
繋いで、特殊な波長で連絡を取る。その相手は、
『また、お姉様によるあの人の目的地の再確認ですか、とミサカはお姉様の強迫観念に呆れます』
御坂妹。妹達の中の一人、ミサカ一〇〇三二号だった。
(……もう、これ以上アンタ一人で背負い込む必要は無いのよ。
…………頼ってよ。もう、私を、『守りたい人』の枠に留めるのは、やめて)
そう願った時には、いつも重傷のまま戦場に飛び込んでいった彼の顔が浮かぶ。
自分がどれだけ地獄に堕ちても、大切な人を守り抜くために、その人に安堵を齎す笑顔。
優しくて、思い出すだけで心が体に保温を乱すよう信号を出してくる。
胸に手を当て、加速する鼓動に身を委ねたくなる。でも、今は、まだその時じゃない。
頬に朱が入った美琴はすぐに頭を切り替え、席から立ち、配線機のケーブルと自分の携帯を
繋いで、特殊な波長で連絡を取る。その相手は、
『また、お姉様によるあの人の目的地の再確認ですか、とミサカはお姉様の強迫観念に呆れます』
御坂妹。妹達の中の一人、ミサカ一〇〇三二号だった。
いくら超能力者第三位の美琴であっても、テレビの端に一瞬映っただけの上条の現存位置を
正確には把握しきれない。この超音速爆撃機を襲撃する直前に不正に入手した
上条討伐計画のレポートを読了しても、『上条が今どこにいるか』といった至極具体的な
情報は得られなかった。そのため、全世界に撒かれた妹達の情報網を頼ったのだ。
リアルタイムであらゆる噂、情勢を手に取り続けられる彼女達の助力が無ければ、
上条の目的地すら耳に入れることも不可能だっただろう。
「ええ、ってかまだ一回しか聞いてないハズだけど?本当にノヴァヤゼムリャで合ってるのよね」
『はい。最近ミサカネットワークに新規者が現れ、その二〇〇〇二号の掴んだ情報、
また最終信号の二〇〇〇一号も同種の情報ソースを持っています、とミサカは説明します。
不透明ですが、ロシア在中のミサカ達も断片的にこの情報を肯定する噂を耳にした、
とミサカは補足します』
妹達の新規者とは誰かが非常に気になるが、問題があれば他の妹達が反応すると思われるから
危険な存在ではない。と美琴は素早く考える。
「やっぱりそこか。ありがと。ああ、後アイツになんか伝えたい事とかある?会えれば言えるし」
『…………無事に帰って来て下さい。その後は一発ぶん殴らせていただきますと伝えて下さい、
とミサカはあの人の安否に一抹の不安を感じます』
「……同感。じゃ、言っとくね」
と、美琴は通話を切り、航空経路の微調整を指示しようとしたその時、
正確には把握しきれない。この超音速爆撃機を襲撃する直前に不正に入手した
上条討伐計画のレポートを読了しても、『上条が今どこにいるか』といった至極具体的な
情報は得られなかった。そのため、全世界に撒かれた妹達の情報網を頼ったのだ。
リアルタイムであらゆる噂、情勢を手に取り続けられる彼女達の助力が無ければ、
上条の目的地すら耳に入れることも不可能だっただろう。
「ええ、ってかまだ一回しか聞いてないハズだけど?本当にノヴァヤゼムリャで合ってるのよね」
『はい。最近ミサカネットワークに新規者が現れ、その二〇〇〇二号の掴んだ情報、
また最終信号の二〇〇〇一号も同種の情報ソースを持っています、とミサカは説明します。
不透明ですが、ロシア在中のミサカ達も断片的にこの情報を肯定する噂を耳にした、
とミサカは補足します』
妹達の新規者とは誰かが非常に気になるが、問題があれば他の妹達が反応すると思われるから
危険な存在ではない。と美琴は素早く考える。
「やっぱりそこか。ありがと。ああ、後アイツになんか伝えたい事とかある?会えれば言えるし」
『…………無事に帰って来て下さい。その後は一発ぶん殴らせていただきますと伝えて下さい、
とミサカはあの人の安否に一抹の不安を感じます』
「……同感。じゃ、言っとくね」
と、美琴は通話を切り、航空経路の微調整を指示しようとしたその時、
ドォォオン!!と、地盤を揺るがす程の衝撃が超音速機に大打撃を与えた。
慣性の法則が狂い、乗組員がベルトを付けているのにも拘らず席から転がり落ちる。
だが美琴は一歩も崩れる事無く仁王立ちのまま振動に耐え切る。
(……もうバレたか)
こうなるであろう、と美琴は事前に察知していた。学園都市も上条討伐船が超電磁砲に簒奪された事情に
ようやく気付き、そのまま航空機ごと陸に叩き付けて始末するつもりなのだろう。
現在地はプトラン高原上空。後十分ほどでノヴァヤゼムリャに着くはずだったが、
「クソッ!推進エンジンを二基やられた!不時着しようにも学園都市側は確実に撃墜する気だぞ!」
電撃で黙らせたパイロットが叫ぶ。やれやれ、と美琴は歩み寄り、
「アンタ達は投降しなさい。私が死んだ事にすれば、向こうも責任を追及してこないでしょ」
は……?と乗組員達が邪推する。超能力者を殺したなんて報告をすれば、間違い無く首を切られると
決まってるのに、何を言ってるのか、と疑問視するが、
「あー……言い方が悪かったわね。要は私がこの機体から降りれば問題無しって事よ。
ハッチだけ開けといて」
「ば、馬鹿言うな。今の高度は五〇〇〇〇フィートだぞ!パラシュート程度じゃ
落下速度を相殺出来るわけがない!本当に死ぬ気か!」
何で脅迫した人間を弁護するのか美琴には意味不明だったが、
「ま、確かにこのまま降りれば死ぬけど、それでいいのよ。
どうやら仕事はちゃんとうまく遂行出来たようね。褒めてあげる」
と、下船ハッチに美琴はいそいそと走って行ってしまった。
残された乗組員達はもうどうしようもないと思いつつ、攻撃側に投降シグナルを出す。
ついでにハッチも繰るようにしたが、超電磁砲が何を狙っているかは不明のままだった。
慣性の法則が狂い、乗組員がベルトを付けているのにも拘らず席から転がり落ちる。
だが美琴は一歩も崩れる事無く仁王立ちのまま振動に耐え切る。
(……もうバレたか)
こうなるであろう、と美琴は事前に察知していた。学園都市も上条討伐船が超電磁砲に簒奪された事情に
ようやく気付き、そのまま航空機ごと陸に叩き付けて始末するつもりなのだろう。
現在地はプトラン高原上空。後十分ほどでノヴァヤゼムリャに着くはずだったが、
「クソッ!推進エンジンを二基やられた!不時着しようにも学園都市側は確実に撃墜する気だぞ!」
電撃で黙らせたパイロットが叫ぶ。やれやれ、と美琴は歩み寄り、
「アンタ達は投降しなさい。私が死んだ事にすれば、向こうも責任を追及してこないでしょ」
は……?と乗組員達が邪推する。超能力者を殺したなんて報告をすれば、間違い無く首を切られると
決まってるのに、何を言ってるのか、と疑問視するが、
「あー……言い方が悪かったわね。要は私がこの機体から降りれば問題無しって事よ。
ハッチだけ開けといて」
「ば、馬鹿言うな。今の高度は五〇〇〇〇フィートだぞ!パラシュート程度じゃ
落下速度を相殺出来るわけがない!本当に死ぬ気か!」
何で脅迫した人間を弁護するのか美琴には意味不明だったが、
「ま、確かにこのまま降りれば死ぬけど、それでいいのよ。
どうやら仕事はちゃんとうまく遂行出来たようね。褒めてあげる」
と、下船ハッチに美琴はいそいそと走って行ってしまった。
残された乗組員達はもうどうしようもないと思いつつ、攻撃側に投降シグナルを出す。
ついでにハッチも繰るようにしたが、超電磁砲が何を狙っているかは不明のままだった。
美琴は跳ね上げ式扉に腰掛け、開閉するのを待った。確かにこのまま外に落下すれば
空気抵抗、衝撃波諸々の影響で粉微塵になるだろう。
「アイツに会うまでは、死ねないのよ。この私は」
ガコン!!とハッチが抉じ開けられ、凄まじいエネルギーが籠った風が美琴に叩き付けられる。
しかし、笑顔のまま、彼女は超音速機から飛び降りた。
その瞬間、空気中からありったけの砂鉄を能力で集結させ、美琴の全身を包み込ませた。
鉄のカプセルのような殻で覆われた美琴はその形状を保ったまま投下していった。
摩擦熱を外側に放出するよう調節し、雲を抜きさって、安定航路まで落下した後、
バッ!と砂鉄の包みを開け放つ。
まるで、翼を広げた渡り鳥の様に砂鉄を展開し、風を捉え、美琴はハングライダーの要領で飛んで行く。
空気抵抗、衝撃波諸々の影響で粉微塵になるだろう。
「アイツに会うまでは、死ねないのよ。この私は」
ガコン!!とハッチが抉じ開けられ、凄まじいエネルギーが籠った風が美琴に叩き付けられる。
しかし、笑顔のまま、彼女は超音速機から飛び降りた。
その瞬間、空気中からありったけの砂鉄を能力で集結させ、美琴の全身を包み込ませた。
鉄のカプセルのような殻で覆われた美琴はその形状を保ったまま投下していった。
摩擦熱を外側に放出するよう調節し、雲を抜きさって、安定航路まで落下した後、
バッ!と砂鉄の包みを開け放つ。
まるで、翼を広げた渡り鳥の様に砂鉄を展開し、風を捉え、美琴はハングライダーの要領で飛んで行く。
「『超電磁砲』にかかれば、こんなもんよ」
推進する燃料も機構も持ち合わせていないが、しばらくは距離を稼げるだろう。
ロシア特有の冷風が何故か心地良い。
ロシア特有の冷風が何故か心地良い。
御坂美琴。学園都市第三位の超能力者『超電磁砲』は、問題無くロシアの上空を駆けて行く。
2.5
プライベーティアの攻撃ヘリによる襲撃を撃退した後、浜面と滝壺はディグルヴ達がいた集落から
旅立っていた。怪我人の配送や滝壺への出来る限りの処置、といったやるべき義務を果たし果たされた
事で下地は既に整ってしまっていた。あそこに留まるといった選択肢もあるにはあったし、魅力的で
甘えてしまいたかったが、それでは滝壺を救う手段にまでは行き着けない。
やはり、『体晶』によって汚染される滝壺の体を治すには学園都市の技術が必須。
そして、その技術を借りるには何らかの交渉材料が必要だ。
それを求め、浜面は再び車を出した。戦乱の中心たるノヴァヤゼムリャに向かうため。
プライベーティアの攻撃ヘリによる襲撃を撃退した後、浜面と滝壺はディグルヴ達がいた集落から
旅立っていた。怪我人の配送や滝壺への出来る限りの処置、といったやるべき義務を果たし果たされた
事で下地は既に整ってしまっていた。あそこに留まるといった選択肢もあるにはあったし、魅力的で
甘えてしまいたかったが、それでは滝壺を救う手段にまでは行き着けない。
やはり、『体晶』によって汚染される滝壺の体を治すには学園都市の技術が必須。
そして、その技術を借りるには何らかの交渉材料が必要だ。
それを求め、浜面は再び車を出した。戦乱の中心たるノヴァヤゼムリャに向かうため。
珍しく雨が降りしきる中、ひたすら車を走らせる。ディグルヴから拝借してもらった一台だった。
彼や他の人々からの好意から貰った恩賞には、他にもある程度の食料や金銭、また幾らかの銃器も
含まれている。これらを無駄には出来なかった。
助手席で静かに眠りにつく滝壺を横目で見たり見なかったりしながら浜面は考える。
(とにかく、やれる事を確実にやっていくしかないんだ。ノヴァヤゼムリャに行って何が得られるかは
わからない。もしかしたらもっと危険な目に遭うかもしれねぇ。でも、滝壺のためになるなら、
どんな戦場にでも殴り掛かってやる)
そうして、ひたすらアクセルを踏む。その前進が滝壺を失うという恐怖を削ぐ道に繋がる事を信じて。
彼や他の人々からの好意から貰った恩賞には、他にもある程度の食料や金銭、また幾らかの銃器も
含まれている。これらを無駄には出来なかった。
助手席で静かに眠りにつく滝壺を横目で見たり見なかったりしながら浜面は考える。
(とにかく、やれる事を確実にやっていくしかないんだ。ノヴァヤゼムリャに行って何が得られるかは
わからない。もしかしたらもっと危険な目に遭うかもしれねぇ。でも、滝壺のためになるなら、
どんな戦場にでも殴り掛かってやる)
そうして、ひたすらアクセルを踏む。その前進が滝壺を失うという恐怖を削ぐ道に繋がる事を信じて。
「うむ、覚悟を決めた高邁な男の顔である。
やはりこの後方のアックアの目に料簡違いは無かったであるな」
「…………あ、ああ」
そう、戦場に向かっているのは浜面と滝壺の二人、だけではなかった。
後方のアックア。
浜面達の生死の行き先を決定する要諦の時に颯爽と現れた男。
攻撃ヘリを得体の知れない大剣と水を操る様な能力で叩き落とした怪物。
やはりこの後方のアックアの目に料簡違いは無かったであるな」
「…………あ、ああ」
そう、戦場に向かっているのは浜面と滝壺の二人、だけではなかった。
後方のアックア。
浜面達の生死の行き先を決定する要諦の時に颯爽と現れた男。
攻撃ヘリを得体の知れない大剣と水を操る様な能力で叩き落とした怪物。
その男が、浜面が操縦する車と並走していた。
自身の足だけで。しかも全長三・五メートルもの大剣を背負ったまま、でだ。
ターン、ターン、と地面を軽快に蹴りつつ、大幅に立ち跳びながら進んでいる。
自身の足だけで。しかも全長三・五メートルもの大剣を背負ったまま、でだ。
ターン、ターン、と地面を軽快に蹴りつつ、大幅に立ち跳びながら進んでいる。
どうやら雨を弾いて走っているようだ。水の流れに干渉して濡れないように
能力を行使しているのかもしれない。だが、そんな未知のチカラよりも、目で捉えられない程の
高速で両足を作動させている事実の方が、浜面にハッキリとした恐怖を与えていた。
(この人、一体何なんだよ……凄く強いし、尊敬するけどさ、幾ら何でも絶対おかしいだろ。
超人とかそういうレベルを超えてるんじゃないか?)
「? どうかしたであるか」
「い、いやっ!何でも無いですはい!!順調結構健康ですッ!!」
とにかくこの現実を受け入れる心の準備を慌てて完了させた浜面は、おかしな挙動を押さえつけて
アックアに目的地の確認を行った。
「そ、それで、ノヴァヤゼムリャとかいう孤島にこの戦争の『カギ』になる重要な品があるんだよな?」
アックアが、うむ、と答える。
「その通りである。この戦争の首謀者、右方のフィアンマは『プロジェクト=ベツヘルム』に必要な
技術や儀式を例の基地で既に遂行させ、本格的な天使降臨をその地で行うようなのである。
そこにはあらゆる人員、武力、思惑が複雑に絡み合い、確実に戦況を揺るがす大業が起こるであろう。
学園都市も一枚噛んでくるのは明白である。ならば行く他あるまい」
よくわからない単語が多々飛び出すが、
浜面にもその孤島で戦況を覆すような大事が発生することだけは理解出来た。
「じゃあ、その争乱の中で学園都市が一番欲する物を俺達が頂けばいいってワケだな」
「確かにそうである。そして学園都市の最大の目標物は既に判明している。
これを掠めとれば貴様の目的も果たされるというわけであるな」
最大の目的の物。それとは何だろうか。浜面にもわからないが、アックアの見解に従ってみると、
能力を行使しているのかもしれない。だが、そんな未知のチカラよりも、目で捉えられない程の
高速で両足を作動させている事実の方が、浜面にハッキリとした恐怖を与えていた。
(この人、一体何なんだよ……凄く強いし、尊敬するけどさ、幾ら何でも絶対おかしいだろ。
超人とかそういうレベルを超えてるんじゃないか?)
「? どうかしたであるか」
「い、いやっ!何でも無いですはい!!順調結構健康ですッ!!」
とにかくこの現実を受け入れる心の準備を慌てて完了させた浜面は、おかしな挙動を押さえつけて
アックアに目的地の確認を行った。
「そ、それで、ノヴァヤゼムリャとかいう孤島にこの戦争の『カギ』になる重要な品があるんだよな?」
アックアが、うむ、と答える。
「その通りである。この戦争の首謀者、右方のフィアンマは『プロジェクト=ベツヘルム』に必要な
技術や儀式を例の基地で既に遂行させ、本格的な天使降臨をその地で行うようなのである。
そこにはあらゆる人員、武力、思惑が複雑に絡み合い、確実に戦況を揺るがす大業が起こるであろう。
学園都市も一枚噛んでくるのは明白である。ならば行く他あるまい」
よくわからない単語が多々飛び出すが、
浜面にもその孤島で戦況を覆すような大事が発生することだけは理解出来た。
「じゃあ、その争乱の中で学園都市が一番欲する物を俺達が頂けばいいってワケだな」
「確かにそうである。そして学園都市の最大の目標物は既に判明している。
これを掠めとれば貴様の目的も果たされるというわけであるな」
最大の目的の物。それとは何だろうか。浜面にもわからないが、アックアの見解に従ってみると、
答えは、シンプルかつ、
「右方のフィアンマの身柄。これを学園都市に差し出す立会人となれば、問題あるまい」
手に入れるのが、この世界で最も難儀な物だった。
「右方のフィアンマの身柄。これを学園都市に差し出す立会人となれば、問題あるまい」
手に入れるのが、この世界で最も難儀な物だった。
「え、つまり、そのフィアンマっていう、世界を牛耳ってるヤツを俺が倒すって事?」
「倒すとまでは要求しないのである。だが奴を屈服させる一端には参加しなければならないであろうな。
奴はこのアックアをも凌ぐ武力を持つが、やるしかあるまい」
どうやら、事態は浜面の甘い考えを遥かに凌駕する状態まで達してしまったようだ。
右方のフィアンマを倒す一因になる。そんな力量が自分にあるのだろうか。浜面は一考する。
「……無理かも」
「泣き言を吐く段階はもうとっくに過ぎてしまったのである。……確かに今の貴様では
これから起こる闘いで生き残るのも難しいかも知れぬ。そこで一つ提案がある」
提案とは何だろうか。と浜面は期待と予感に身を構えていると、アックアが車を止めるように指示した。
車から降りて、雨を拭いつつ、アックアに真意を尋ねる。
「この剣を貴様に貸そう」
ゴン!と大地にヒビを入れるような轟音を響かせつつ、アックアが大剣を地に突き刺した。
「……これを、俺に?」
「そうだ。このアスカロンは魔術的要素をあまり内包しておらん。
よって魔術を扱う能力を持ち合わせておらずとも手懐ける余地が貴様にもある。
これを従えれば、必ず貴様の力となり逆境を退ける切り札にもなろう」
浜面が喉を鳴らす。この大剣、これほどまでの巨大さからすれば重量もそれ相応にあるはずだ。
振るどころか、持ち上げることすら、浜面の筋力では不可能だろう。
だが、浜面は辟易しなかった。剣の前に律して立ち、アスカロンの取っ手を力強く握りしめる。
(……滝壺一人を守れるだけの力が欲しい。それ以上は何も求めねえ。
力に成るなら何でも利用してやる。例え数百キロあるかもしれない大剣でも、俺は)
「倒すとまでは要求しないのである。だが奴を屈服させる一端には参加しなければならないであろうな。
奴はこのアックアをも凌ぐ武力を持つが、やるしかあるまい」
どうやら、事態は浜面の甘い考えを遥かに凌駕する状態まで達してしまったようだ。
右方のフィアンマを倒す一因になる。そんな力量が自分にあるのだろうか。浜面は一考する。
「……無理かも」
「泣き言を吐く段階はもうとっくに過ぎてしまったのである。……確かに今の貴様では
これから起こる闘いで生き残るのも難しいかも知れぬ。そこで一つ提案がある」
提案とは何だろうか。と浜面は期待と予感に身を構えていると、アックアが車を止めるように指示した。
車から降りて、雨を拭いつつ、アックアに真意を尋ねる。
「この剣を貴様に貸そう」
ゴン!と大地にヒビを入れるような轟音を響かせつつ、アックアが大剣を地に突き刺した。
「……これを、俺に?」
「そうだ。このアスカロンは魔術的要素をあまり内包しておらん。
よって魔術を扱う能力を持ち合わせておらずとも手懐ける余地が貴様にもある。
これを従えれば、必ず貴様の力となり逆境を退ける切り札にもなろう」
浜面が喉を鳴らす。この大剣、これほどまでの巨大さからすれば重量もそれ相応にあるはずだ。
振るどころか、持ち上げることすら、浜面の筋力では不可能だろう。
だが、浜面は辟易しなかった。剣の前に律して立ち、アスカロンの取っ手を力強く握りしめる。
(……滝壺一人を守れるだけの力が欲しい。それ以上は何も求めねえ。
力に成るなら何でも利用してやる。例え数百キロあるかもしれない大剣でも、俺は)
恐れない。
地に伏すアスカロン。全長五〇フィートの悪竜を斬り殺す事すら可能な剣。
その剣は浜面を認めるのか。
滝壺の命に全てを懸ける覚悟を決めた浜面は、一人の少女のためならヒーローになれる少年は、
奇跡に頼らず、ただ自分の力を信じて、新たな力に手を掛けた。
地に伏すアスカロン。全長五〇フィートの悪竜を斬り殺す事すら可能な剣。
その剣は浜面を認めるのか。
滝壺の命に全てを懸ける覚悟を決めた浜面は、一人の少女のためならヒーローになれる少年は、
奇跡に頼らず、ただ自分の力を信じて、新たな力に手を掛けた。
3
点々と続く血痕。雪原に残されるのは足跡だけではない。ましてや、ここは戦場。
当然の様に犠牲者は兵器と暴力によって量産され、
この山一つ聳えもしない平和の地だった平原にも重い爪痕が残る。
人為的な手法で自然は破壊され、星の寿命は確実に六〇億の生命体によって削られていく。
それを認めるのなら、この『集落』も自然破壊の一つ、とも言えなくも無い。
生物が生存するとは、地球に存在する下位のモノを消費する事なのだから。
カラーン、と門を開けた拍子に備え付けられていた鈴が景気の良い爽快音を小さく鳴らす。
点々と続く血痕。雪原に残されるのは足跡だけではない。ましてや、ここは戦場。
当然の様に犠牲者は兵器と暴力によって量産され、
この山一つ聳えもしない平和の地だった平原にも重い爪痕が残る。
人為的な手法で自然は破壊され、星の寿命は確実に六〇億の生命体によって削られていく。
それを認めるのなら、この『集落』も自然破壊の一つ、とも言えなくも無い。
生物が生存するとは、地球に存在する下位のモノを消費する事なのだから。
カラーン、と門を開けた拍子に備え付けられていた鈴が景気の良い爽快音を小さく鳴らす。
一人の少女が、集落にある酒場に踏み込んだ。
実は戦場において、酒が飲める場所とは割と民衆に重宝される。
自国の同胞がとある地で殺し殺される辛い現実を歪曲したい、忘れ去りたいと、アルコールが施す
一時の快楽的な錯乱を欲して訪れる人間達が多々現れるからだ。
また、戦時中あってか自主規制によって飲酒が制限される事も有り得る。
それでも非合法であっても人々はつい足を運んでしまう。
例え酒を口にするのを禁忌とされる未成年の少年少女であっても、戦場の酒場はそれを許容してしまう。
そのため、その少女が入店するのも不自然では無い。
新たな客の来訪にバーも活気つく。
実は戦場において、酒が飲める場所とは割と民衆に重宝される。
自国の同胞がとある地で殺し殺される辛い現実を歪曲したい、忘れ去りたいと、アルコールが施す
一時の快楽的な錯乱を欲して訪れる人間達が多々現れるからだ。
また、戦時中あってか自主規制によって飲酒が制限される事も有り得る。
それでも非合法であっても人々はつい足を運んでしまう。
例え酒を口にするのを禁忌とされる未成年の少年少女であっても、戦場の酒場はそれを許容してしまう。
そのため、その少女が入店するのも不自然では無い。
新たな客の来訪にバーも活気つく。
そう、『その少女の左腕がすっぱり抜け落ちていても』。
麦野沈利はちょこんと木製の椅子に腰掛け、右肘をカウンターに引っ掛ける。
何人かの小男たちが麦野に目を向ける。アジア人だが相当の別嬪だ、と同席で飲まないかと誘うが、
その喪失した麦野の右目でギッ、と睨まれると臆病風に吹かれて断念する。
戦闘の影響で体の部位を欠損した者はそれなりに存在するが麦野の損傷はそれらを無下にする程の物だ。
店主も麦野の形相に目を背けるが、何を飲むかをロシア語で尋ねる。
「ご注文は?」
麦野が潜めたか細い声で、はっきりと答える。
「私を噛んだ犬の毛」
流暢なロシア語で返答されるのが意外だったと店主は驚くが、
「バーボン・オン・ザ・ロックだな」
注文通りの酒類を作って麦野に差し出す。……英語でのジョークをロシア語で話すとはどうなんだ?と
疑問は尽きなかったが、麦野は店主の動揺など気にも留めずにバーボンを口に運ぼうとする。
反射的に左手でグラスを取ろうとするが、ここで麦野は軽く笑った。自分に『左腕』など無い。
全く笑えるジョークだ。含み笑いを堪えつつ、酒を少量口に含んだ。
一気に飲み干すのは素人がやる失敗だ。
あのバカな浜面のように。
ふとその思考が頭を駆け抜けたのをきっかけに、麦野は酒を肴に追憶に浸った。
何人かの小男たちが麦野に目を向ける。アジア人だが相当の別嬪だ、と同席で飲まないかと誘うが、
その喪失した麦野の右目でギッ、と睨まれると臆病風に吹かれて断念する。
戦闘の影響で体の部位を欠損した者はそれなりに存在するが麦野の損傷はそれらを無下にする程の物だ。
店主も麦野の形相に目を背けるが、何を飲むかをロシア語で尋ねる。
「ご注文は?」
麦野が潜めたか細い声で、はっきりと答える。
「私を噛んだ犬の毛」
流暢なロシア語で返答されるのが意外だったと店主は驚くが、
「バーボン・オン・ザ・ロックだな」
注文通りの酒類を作って麦野に差し出す。……英語でのジョークをロシア語で話すとはどうなんだ?と
疑問は尽きなかったが、麦野は店主の動揺など気にも留めずにバーボンを口に運ぼうとする。
反射的に左手でグラスを取ろうとするが、ここで麦野は軽く笑った。自分に『左腕』など無い。
全く笑えるジョークだ。含み笑いを堪えつつ、酒を少量口に含んだ。
一気に飲み干すのは素人がやる失敗だ。
あのバカな浜面のように。
ふとその思考が頭を駆け抜けたのをきっかけに、麦野は酒を肴に追憶に浸った。
酒を呷ったのはこれが初めてでは無い。昔、日日にすれば二週間くらい前にもあった。
確か、『アイテム』での任務を見事完遂させ、新しく加えた下部組織のパシリの入隊記念も兼ねて、
自分の奢りで高級バーに五人で行った時の事だ。
学園都市では酒、とはあまり価値のある商品とは認識されていない。
人口の八割が学生という特殊な街だ。残り二割の大人達のために酒場を開くのは
商売としてはリスクがある。その分、学園都市に参入してくる大人向けの店とは全般的に
商業として安定している企業の傘下にある事が多い。超能力者第四位の麦野や『アイテム』の権限が
あれば、そんな場所を貸し切るなど朝飯前だ。そのおかげで、本来未成年の飲酒を静止すべき大人達の
目も届かなくなり、麦野や滝壺、フレンダももちろん、多分一番年齢的に危険な絹旗も酒を思いっきり
飲みまくる好機が整ってしまったわけである。
一番高年齢の浜面が保護者扱いになるんだし、責任は全部コイツに押し付けてバンバン飲むぞー!と
一晩明けるまで酒地獄を五人で堪能しまくった。
麦野はアルコールに耐性があるため問題無いが、フレンダは何故か泣き上戸になって麦野に対する不満を
涙ながらに訴えたりしてきたり、滝壺は一滴喉を通っただけでダウンしたり、絹旗は逆に有頂天になって
もっと超強い酒を持ってくるべきですッ!と果敢に挑戦したりして、
それはさすがにヤバいだろーがー!!と慌てて浜面が止めに入ったりと、
バカバカしい、平和な時間だった。麦野にとっては、掛替えの無い思い出でもあった。
確か、『アイテム』での任務を見事完遂させ、新しく加えた下部組織のパシリの入隊記念も兼ねて、
自分の奢りで高級バーに五人で行った時の事だ。
学園都市では酒、とはあまり価値のある商品とは認識されていない。
人口の八割が学生という特殊な街だ。残り二割の大人達のために酒場を開くのは
商売としてはリスクがある。その分、学園都市に参入してくる大人向けの店とは全般的に
商業として安定している企業の傘下にある事が多い。超能力者第四位の麦野や『アイテム』の権限が
あれば、そんな場所を貸し切るなど朝飯前だ。そのおかげで、本来未成年の飲酒を静止すべき大人達の
目も届かなくなり、麦野や滝壺、フレンダももちろん、多分一番年齢的に危険な絹旗も酒を思いっきり
飲みまくる好機が整ってしまったわけである。
一番高年齢の浜面が保護者扱いになるんだし、責任は全部コイツに押し付けてバンバン飲むぞー!と
一晩明けるまで酒地獄を五人で堪能しまくった。
麦野はアルコールに耐性があるため問題無いが、フレンダは何故か泣き上戸になって麦野に対する不満を
涙ながらに訴えたりしてきたり、滝壺は一滴喉を通っただけでダウンしたり、絹旗は逆に有頂天になって
もっと超強い酒を持ってくるべきですッ!と果敢に挑戦したりして、
それはさすがにヤバいだろーがー!!と慌てて浜面が止めに入ったりと、
バカバカしい、平和な時間だった。麦野にとっては、掛替えの無い思い出でもあった。
それが、今になってはどうだ。
麦野は一人、しかも左腕と右目を無くし、フレンダは体をぶち撒かれて死亡し、
絹旗は学園都市で反乱分子の粛正に追われ、滝壺と浜面は未だロシアを放浪している。
クソったれな命令に追われてでも、まだあの頃は居心地が良かった。
一週間に一回は悪人を始末する、反吐が出そうな日常でも、仲間が居れば息も晴れた。
だが、今この寂れた辺境の地の酒場で酒を飲んでいる『アイテム』の人間は自分一人。
麦野は一人、しかも左腕と右目を無くし、フレンダは体をぶち撒かれて死亡し、
絹旗は学園都市で反乱分子の粛正に追われ、滝壺と浜面は未だロシアを放浪している。
クソったれな命令に追われてでも、まだあの頃は居心地が良かった。
一週間に一回は悪人を始末する、反吐が出そうな日常でも、仲間が居れば息も晴れた。
だが、今この寂れた辺境の地の酒場で酒を飲んでいる『アイテム』の人間は自分一人。
麦野沈利だけ。
浅い絶望だった。何故こうなったのか。こうなってしまったのか。
後悔が脳裏を走る。
自分がもっと強ければ、自分がもっと甘ければ、自分がもっと普通だったら、
こんな下らない場所で寂しく酒に浸る未来など、避けられた筈だったのに。
握ったグラスに力が入る。麦野の握力ならばこんな安物のガラス製の物などいとも容易く粉々に出来る。
だが、そこで気付く。自分は何に憤激しているのか?
…………。
後悔が脳裏を走る。
自分がもっと強ければ、自分がもっと甘ければ、自分がもっと普通だったら、
こんな下らない場所で寂しく酒に浸る未来など、避けられた筈だったのに。
握ったグラスに力が入る。麦野の握力ならばこんな安物のガラス製の物などいとも容易く粉々に出来る。
だが、そこで気付く。自分は何に憤激しているのか?
…………。
フッ、とまた軽く笑い、冷静さを奪還する。そのまま麦野は目的のために再び動く。
「ねぇ、この男を知らないかしら?」
麦野がそうして店主に提示したのは、
浜面の顔が入った一枚の写真。
『アイテム』の四人、麦野沈利、滝壺理后、絹旗最愛、フレンダと浜面の五人で撮った集合写真。
学園都市製の最近のデジタルカメラで激写し、出力したため、画質は最高峰だった。
「ねぇ、この男を知らないかしら?」
麦野がそうして店主に提示したのは、
浜面の顔が入った一枚の写真。
『アイテム』の四人、麦野沈利、滝壺理后、絹旗最愛、フレンダと浜面の五人で撮った集合写真。
学園都市製の最近のデジタルカメラで激写し、出力したため、画質は最高峰だった。
そして、運命は、加速していく。
「ああ、ついこないだ、ここから出て行ったヒーローだよ。
全く、アイツの助けがなかったら俺達は軽く全滅してたな。どうやら厳つい大男と一緒に……
ああ、ノヴァヤゼムリャに行くとか言ってたな確か」
最高の答えを手に入れた麦野は礼を言い、代金を払って出店していった。悪魔の笑顔をぶら下げて。
資金は麦野が元々持ち合わせていた大金に加え、学園都市側から大量の軍資金を得ていた。
それほどの出費までしてでも、学園都市は浜面というイレギュラーをどうしても潰したいらしい。
「ああ、ついこないだ、ここから出て行ったヒーローだよ。
全く、アイツの助けがなかったら俺達は軽く全滅してたな。どうやら厳つい大男と一緒に……
ああ、ノヴァヤゼムリャに行くとか言ってたな確か」
最高の答えを手に入れた麦野は礼を言い、代金を払って出店していった。悪魔の笑顔をぶら下げて。
資金は麦野が元々持ち合わせていた大金に加え、学園都市側から大量の軍資金を得ていた。
それほどの出費までしてでも、学園都市は浜面というイレギュラーをどうしても潰したいらしい。
麦野は集落を後にして、また一人雪原を歩いて行く。足跡と、血痕を残しながら。
もう、『アイテム』の仲間にも、浜面にも、容赦の心など、とっくに消え去っていた。
もう、『アイテム』の仲間にも、浜面にも、容赦の心など、とっくに消え去っていた。
4
「あ~あ。ここから先はひたすらマラソンね……」
砂鉄で取り繕ったハングライダーによって滑空し続けた美琴だったが、それにも限界があった。
誤って無風地帯に突っ込んでしまったために、推進力が全て損なわれてしまったのだ。
バランスを完全に崩した美琴は、空飛行を諦め、仕方無く地面に降り立った。
着地における衝撃をかろうじて残留した砂鉄で押し殺し、無傷で着地する。
そうして、目の前に広がる、無限の大地に問う。
どれだけ走れば、上条に出会えるのか。
「…………あ、の、バカーーーーーーーーッ!!!!」
周囲は針葉樹だらけ、方角も何もわかったもんでは無い。
完全に八方塞がりだった。
「あ~あ。ここから先はひたすらマラソンね……」
砂鉄で取り繕ったハングライダーによって滑空し続けた美琴だったが、それにも限界があった。
誤って無風地帯に突っ込んでしまったために、推進力が全て損なわれてしまったのだ。
バランスを完全に崩した美琴は、空飛行を諦め、仕方無く地面に降り立った。
着地における衝撃をかろうじて残留した砂鉄で押し殺し、無傷で着地する。
そうして、目の前に広がる、無限の大地に問う。
どれだけ走れば、上条に出会えるのか。
「…………あ、の、バカーーーーーーーーッ!!!!」
周囲は針葉樹だらけ、方角も何もわかったもんでは無い。
完全に八方塞がりだった。
……と、一式調子の乱れた美琴だったが、冷静に落ち着いた後は最善の策を練り、実行し続ける事で
この森の迷宮を拍子よく抜ける事に成功した。方角は太陽の位置と時計で知り、邪魔な林は電撃で薙ぎ払って道を無理矢理開拓し、襲いかかる野生動物達も電撃で追い払い……と、超能力者としての力を
最大限生かす事で、一般人のサバイバル技術を全てあざ笑う様な強引さで森林を抜け去った。
この森の迷宮を拍子よく抜ける事に成功した。方角は太陽の位置と時計で知り、邪魔な林は電撃で薙ぎ払って道を無理矢理開拓し、襲いかかる野生動物達も電撃で追い払い……と、超能力者としての力を
最大限生かす事で、一般人のサバイバル技術を全てあざ笑う様な強引さで森林を抜け去った。
その奥にはこざっぱりとした平原が延々と地平線まで続く。美琴はハァ、と溜息をつく。
(電流操作の応用で高速移動でも出来たらなぁ……)
なんて夢物語を連想しつつ、冷たい雪景色を足で踏みつけながら前進する。
と、その内、
「げ、雨だ」
ロシアでは珍しい雨が降りしきる。それも無視出来る様なほどの小雨などではない。
(うう……準備はちゃんとしてきたけど、傘なんて持参する程余裕なかったしな)
ここまでの大雨だと、寒さ対策に着込んで来た冬服が逆に重荷になる。雨宿りできる場所でもあるか、
と雨を手で拭いながら当てずっぽに走ると、
金網にぶつかった。痛さが体に堪えるが、しかと双眸で全景を確認すると、
このクソ広い平原に、一つだけ建物がぼっちで佇んでいた。どうやら形状からして研究所のようだ。
小規模だったり、半分寂れていたりと、不満はあるがとにかく雨宿りにはちょうどいい。
(電流操作の応用で高速移動でも出来たらなぁ……)
なんて夢物語を連想しつつ、冷たい雪景色を足で踏みつけながら前進する。
と、その内、
「げ、雨だ」
ロシアでは珍しい雨が降りしきる。それも無視出来る様なほどの小雨などではない。
(うう……準備はちゃんとしてきたけど、傘なんて持参する程余裕なかったしな)
ここまでの大雨だと、寒さ対策に着込んで来た冬服が逆に重荷になる。雨宿りできる場所でもあるか、
と雨を手で拭いながら当てずっぽに走ると、
金網にぶつかった。痛さが体に堪えるが、しかと双眸で全景を確認すると、
このクソ広い平原に、一つだけ建物がぼっちで佇んでいた。どうやら形状からして研究所のようだ。
小規模だったり、半分寂れていたりと、不満はあるがとにかく雨宿りにはちょうどいい。
美琴は中で少し休養を取ろうと、正門に回る。その横の看板に目を向けると、
(……人類基盤史研究所……?)
人類基盤史研究所とは、学園都市の『外』での企業では随一を誇る医療組織だ。
完全なる不死の生命体を独自に研究し、そのデータを元に最新鋭の医療技術を開発して
世界の医療体制の向上に大いに貢献したとされる。噂では学園都市にも密かに参入し、
『見えないビル』に鎮座する生命維持装置の開発の助力となった前歴があったとも言われている。
しかし、それらは『新』人類基盤史研究所での話だ。以前の研究所には暗い話しか聞かない。
とある実験のために全人類を壊滅に追い込んだとか、そんな眉唾モノの荒唐無稽な冗談ばかりだ。
(何で、こんな辺境の地に研究所がぽつんとあるわけ?……まぁ、細かい事情はどうでも良いし、
雨宿り出来るならどんな建物でも良いしね)
と、不用心に美琴は施錠された門を強引に破壊して中に土足で入り込んで行く。
(……人類基盤史研究所……?)
人類基盤史研究所とは、学園都市の『外』での企業では随一を誇る医療組織だ。
完全なる不死の生命体を独自に研究し、そのデータを元に最新鋭の医療技術を開発して
世界の医療体制の向上に大いに貢献したとされる。噂では学園都市にも密かに参入し、
『見えないビル』に鎮座する生命維持装置の開発の助力となった前歴があったとも言われている。
しかし、それらは『新』人類基盤史研究所での話だ。以前の研究所には暗い話しか聞かない。
とある実験のために全人類を壊滅に追い込んだとか、そんな眉唾モノの荒唐無稽な冗談ばかりだ。
(何で、こんな辺境の地に研究所がぽつんとあるわけ?……まぁ、細かい事情はどうでも良いし、
雨宿り出来るならどんな建物でも良いしね)
と、不用心に美琴は施錠された門を強引に破壊して中に土足で入り込んで行く。
中は空っぽだった。椅子や机も、機器も、人がいた形跡すら何一つ残っていない。
ただただ、壁の白、床の白、ガラス張りの透明さ、
とここだけあらゆる人間の形跡を全て処理したような雰囲気だった。
ここで美琴はかつての『実験』が頭に過った。美琴があの実験を中止させようと研究所に襲撃し
メインコンピューターを破壊して、全ての計画が終了した後に同じ研究所をまた訪れてみたが、
その場合はいつも例外無く、このような白く空っぽな一室だけが存在するのみだった。
嫌な予感がする。単なる雨宿りという目的などもう忘れ、美琴は研究所の奥の奥へと入り込んで行く。
すると、何故か音楽が聞こえて来た。あまりに小さく、弱々しい音なので気付きにくいが、
どうやら歌……なのだろうが、一音一音ずれていたり、テンポがぐちゃぐちゃと、聞き惚れるには
力不足な代物だ。人の声にしては、復唱が正確すぎる。おそらくだれかがBGMを鳴らしっぱなしで
ここから去り、狂ったロムだけが狂った旋律を繰り返しているのだろう。
一貫性が保たれていても、構成される音程はどことなく僅かな不安を誘発してくる。
(地下から聞こえてくる……)
狂った歌の音源を仄聞した美琴は、嫌な予感に従ってしまった。
『あの時』と、同じ疑惑、同じ違和感、同じ吐き気が脳から全身に染み渡ってくる。
よく室内を見渡すと、一番奥のワンフロアに敷かれたタイルが一枚だけ躄っているのを発見した。
美琴は何故か固唾を飲んで、そのタイルを剥がしてみる。
この行為に至った誘因は何か、美琴本人にも理解し辛かった。
「…………うっ」
タイルの下には重層的な隠し階段が設けてあった。この真っ白な部屋とは裏腹に、ただ暗黒だけが
静かに鎮座している。それに加え、何だか生臭い。どこか『人間臭い』。
ただただ、壁の白、床の白、ガラス張りの透明さ、
とここだけあらゆる人間の形跡を全て処理したような雰囲気だった。
ここで美琴はかつての『実験』が頭に過った。美琴があの実験を中止させようと研究所に襲撃し
メインコンピューターを破壊して、全ての計画が終了した後に同じ研究所をまた訪れてみたが、
その場合はいつも例外無く、このような白く空っぽな一室だけが存在するのみだった。
嫌な予感がする。単なる雨宿りという目的などもう忘れ、美琴は研究所の奥の奥へと入り込んで行く。
すると、何故か音楽が聞こえて来た。あまりに小さく、弱々しい音なので気付きにくいが、
どうやら歌……なのだろうが、一音一音ずれていたり、テンポがぐちゃぐちゃと、聞き惚れるには
力不足な代物だ。人の声にしては、復唱が正確すぎる。おそらくだれかがBGMを鳴らしっぱなしで
ここから去り、狂ったロムだけが狂った旋律を繰り返しているのだろう。
一貫性が保たれていても、構成される音程はどことなく僅かな不安を誘発してくる。
(地下から聞こえてくる……)
狂った歌の音源を仄聞した美琴は、嫌な予感に従ってしまった。
『あの時』と、同じ疑惑、同じ違和感、同じ吐き気が脳から全身に染み渡ってくる。
よく室内を見渡すと、一番奥のワンフロアに敷かれたタイルが一枚だけ躄っているのを発見した。
美琴は何故か固唾を飲んで、そのタイルを剥がしてみる。
この行為に至った誘因は何か、美琴本人にも理解し辛かった。
「…………うっ」
タイルの下には重層的な隠し階段が設けてあった。この真っ白な部屋とは裏腹に、ただ暗黒だけが
静かに鎮座している。それに加え、何だか生臭い。どこか『人間臭い』。
しかも、その腐臭は長年蓄積したかの如く、濃厚だった。
この金属階段の奥底には何が隠れているのか。美琴はここで一度躊躇する。
この下には、美琴が知ってはならない、深甚たる深淵が眠っているのだろう。
だが、もう美琴の第六感は悟っていた。
ここには、学園都市に関わる重要な物が偏在しているのだと。
絶対能力進化実験と同レベルほどの闇が。
頬を伝った汗が『穴』に吸い込まれていった。それに背中を後押しされ、美琴は階段に足を踏み入れる。
この金属階段の奥底には何が隠れているのか。美琴はここで一度躊躇する。
この下には、美琴が知ってはならない、深甚たる深淵が眠っているのだろう。
だが、もう美琴の第六感は悟っていた。
ここには、学園都市に関わる重要な物が偏在しているのだと。
絶対能力進化実験と同レベルほどの闇が。
頬を伝った汗が『穴』に吸い込まれていった。それに背中を後押しされ、美琴は階段に足を踏み入れる。
その『穴』は美琴の想像以上に地下へ地下へと続いていた。
一切の照明がヒューズ飛びしていたが、美琴は電流を無意識に発生させ、一つ一つの電球に光を灯しつつ
降りて行く。もう降り始めてから三十分は経過しただろうか。
あの狂ったBGMも地下に潜る程、音量が上がり、音質もクリアになってきた。
美琴は全身の悪寒を強い意志で押し殺しながら、段差を確実に足蹴にする。
その内に、階段地獄も何時の間にか終了していた。最深部に到達したようだ。
「寒い……地下だし仕方無いけど」
床は階段と同じ金属板が敷かれているらしい。一歩進むごとにカン、カン、と精神を揺るがすような
不愉快な高音がしつこく鳴る。
それでも、美琴は狂った音楽に誘われるように、さらに奥へと進んで行く。
通路だけが用意されていた。所々には電気が生きており、能力を使わずとも視界は確保出来た。
自分は何をしているのだろう。本来なら今頃、あのツンツン頭の少年と再会していたであろうに。
上条に会えたら何をまず伝えようか……そう思案している内に、暗闇以外の物質が目に飛び込んでくる。
「何よコレ?……試験管?」
実験の痕跡だろうか、通路の横一線に並べてあるのは、大量の試験管とスポイト。
それらが天井まで届く程高い棚にぎっしりと納められている。数は、千の単位を超えるぐらいか。
一つを手に取ってみると、試験管の外装部にラベルが張ってある。霞がかっているが、そこには、
トキソプラズマ、と拙い文字で書かれていた。
トキソプラズマとは、胎児の脳内の扁桃体に寄生する原生生物だ。
軽い風邪、重い場合には脳炎を引き起こす危険な原虫感染症を発現させる。
しかし、トキソプラズマには扁桃体に嚢胞を発生させる生態があるため、それを逆手に利用して
脳内にどんな影響を与えるか、どんな障害が脳に出来るかを調べる事もあるらしい。
(どうやら、ここでも実験がされていたってワケか。一体何を?)
手にある試験管を棚に戻し、さらに通路の奥に進む。
まだ狂った旋律は止まらない。ここまで長時間聞いていたがために、もう慣れてしまった。
今度の道程は長くは続かなかった。美琴はまた実験に関わったであろう機具を発見した。
一切の照明がヒューズ飛びしていたが、美琴は電流を無意識に発生させ、一つ一つの電球に光を灯しつつ
降りて行く。もう降り始めてから三十分は経過しただろうか。
あの狂ったBGMも地下に潜る程、音量が上がり、音質もクリアになってきた。
美琴は全身の悪寒を強い意志で押し殺しながら、段差を確実に足蹴にする。
その内に、階段地獄も何時の間にか終了していた。最深部に到達したようだ。
「寒い……地下だし仕方無いけど」
床は階段と同じ金属板が敷かれているらしい。一歩進むごとにカン、カン、と精神を揺るがすような
不愉快な高音がしつこく鳴る。
それでも、美琴は狂った音楽に誘われるように、さらに奥へと進んで行く。
通路だけが用意されていた。所々には電気が生きており、能力を使わずとも視界は確保出来た。
自分は何をしているのだろう。本来なら今頃、あのツンツン頭の少年と再会していたであろうに。
上条に会えたら何をまず伝えようか……そう思案している内に、暗闇以外の物質が目に飛び込んでくる。
「何よコレ?……試験管?」
実験の痕跡だろうか、通路の横一線に並べてあるのは、大量の試験管とスポイト。
それらが天井まで届く程高い棚にぎっしりと納められている。数は、千の単位を超えるぐらいか。
一つを手に取ってみると、試験管の外装部にラベルが張ってある。霞がかっているが、そこには、
トキソプラズマ、と拙い文字で書かれていた。
トキソプラズマとは、胎児の脳内の扁桃体に寄生する原生生物だ。
軽い風邪、重い場合には脳炎を引き起こす危険な原虫感染症を発現させる。
しかし、トキソプラズマには扁桃体に嚢胞を発生させる生態があるため、それを逆手に利用して
脳内にどんな影響を与えるか、どんな障害が脳に出来るかを調べる事もあるらしい。
(どうやら、ここでも実験がされていたってワケか。一体何を?)
手にある試験管を棚に戻し、さらに通路の奥に進む。
まだ狂った旋律は止まらない。ここまで長時間聞いていたがために、もう慣れてしまった。
今度の道程は長くは続かなかった。美琴はまた実験に関わったであろう機具を発見した。
いや、それは、『機具』と呼んで良かったのだろうか。
美琴は闇に関してはある程度の耐性が自然と身に付いていたという自信が在った。量産能力者実験、
絶対能力進化実験、人が踏み入ってはならない残酷で機械的な惨状に触れてしまった美琴は、
もう、あれ以上に慄然とするような悪魔の所業など無いだろうという確信が在った。
だが、そこに置かれていた『機具』は、美琴の知る常識外の存在すら赤子に帰す、凄惨なモノだった。
美琴は闇に関してはある程度の耐性が自然と身に付いていたという自信が在った。量産能力者実験、
絶対能力進化実験、人が踏み入ってはならない残酷で機械的な惨状に触れてしまった美琴は、
もう、あれ以上に慄然とするような悪魔の所業など無いだろうという確信が在った。
だが、そこに置かれていた『機具』は、美琴の知る常識外の存在すら赤子に帰す、凄惨なモノだった。
人のミイラ、だろうか。両手を上げて、壁に鉄槌で固定され、中腰のまま磔にされている。
両手の先端は肘の辺りから両断され、その延長部分には直接、何本ものコードの束が埋め込まれ、
背後に点在する機械と繋がっている。
ミイラに眼球は無い。皮膚は完全に水分が失われ、辛うじて申し訳ない分だけ筋肉と骨のみが残り、
何万もの枯れ果てた血管が浮き彫りになっていた。
両手の先端は肘の辺りから両断され、その延長部分には直接、何本ものコードの束が埋め込まれ、
背後に点在する機械と繋がっている。
ミイラに眼球は無い。皮膚は完全に水分が失われ、辛うじて申し訳ない分だけ筋肉と骨のみが残り、
何万もの枯れ果てた血管が浮き彫りになっていた。
美琴は戦慄する。思わずショックで両手で口を覆った。瞳は小さく縮み、眼孔が細くなり、
呼吸を忘れ、心臓だけが鼓動を早めていく。狂ったリズムが、狂った音楽と同調する。
ただのミイラだけなら、美琴は悪寒のみで留まり、冷静に調査を続けられただろう。
だが、ミイラの骸骨のような頭部には、少女の心をメッタメタに無慈悲に切り裂く絶望が根ざしていた。
呼吸を忘れ、心臓だけが鼓動を早めていく。狂ったリズムが、狂った音楽と同調する。
ただのミイラだけなら、美琴は悪寒のみで留まり、冷静に調査を続けられただろう。
だが、ミイラの骸骨のような頭部には、少女の心をメッタメタに無慈悲に切り裂く絶望が根ざしていた。
茶色く、短く、それにはまるで、『美琴によく似た人物が持つであろう毛髪』が伸びていた。
間違い無い。このミイラは、
妹達の一人だったモノの、成れの果てだ。
妹達の一人だったモノの、成れの果てだ。
美琴は想像という名の汚染に身を震わせる。五感が不必要な情報たる現実を確実に脳内に感知させ、
心身が弾け飛びそうになるまでの恐怖が美琴を苛む。
実験は、まだ、終わっていなかった。未だ解決していなかったのだ。
あの少年の救いの手が届かなかった妹達が、この辺境の地で、地獄に生きていたのだ。
血を抜かれ、脳内電気を引っ掻き回され、得体の知れない薬品を打ち込まれ、
心をズタズタにされた、美琴の妹が一人、実験という厭世に喰い破られていたのだ。
実験。何の目的でこのクローンは贄にされた?ただの少女を食い物にした研究者達はどこに行ったのか?
美琴は畏れをどうにか正気が保てるギリギリまでに抑え込み、周囲に詳細を求める。
妹達のミイラの周りには、インクが霞んでいる資料が書かれた無数の紙、壊れた注射器や電極、といった
実験の証拠が幾つも転がっている。しかし、これだけでは美琴が望む情報は一切得られない。
そこで美琴はミイラの背後の機械に近づいた。後ろに回る形で、機械の液晶部分に着眼する。
どうやらコンピューターなのだろう。学園都市のそれと同機種だと思われる。
電源は死んでいるが、美琴は無理矢理能力で電気を供給し、機械を起動させる。
パスワード等の承認は能力で素通りし、力づくで突破した。そして全データを閲覧出来る場面に進んだ。
割れかけた液晶画面には、一つだけファイルが生き延びていた。美琴は迷わずそのレポートを開く。
そこには、それには、こう、端的に書かれていた。
心身が弾け飛びそうになるまでの恐怖が美琴を苛む。
実験は、まだ、終わっていなかった。未だ解決していなかったのだ。
あの少年の救いの手が届かなかった妹達が、この辺境の地で、地獄に生きていたのだ。
血を抜かれ、脳内電気を引っ掻き回され、得体の知れない薬品を打ち込まれ、
心をズタズタにされた、美琴の妹が一人、実験という厭世に喰い破られていたのだ。
実験。何の目的でこのクローンは贄にされた?ただの少女を食い物にした研究者達はどこに行ったのか?
美琴は畏れをどうにか正気が保てるギリギリまでに抑え込み、周囲に詳細を求める。
妹達のミイラの周りには、インクが霞んでいる資料が書かれた無数の紙、壊れた注射器や電極、といった
実験の証拠が幾つも転がっている。しかし、これだけでは美琴が望む情報は一切得られない。
そこで美琴はミイラの背後の機械に近づいた。後ろに回る形で、機械の液晶部分に着眼する。
どうやらコンピューターなのだろう。学園都市のそれと同機種だと思われる。
電源は死んでいるが、美琴は無理矢理能力で電気を供給し、機械を起動させる。
パスワード等の承認は能力で素通りし、力づくで突破した。そして全データを閲覧出来る場面に進んだ。
割れかけた液晶画面には、一つだけファイルが生き延びていた。美琴は迷わずそのレポートを開く。
そこには、それには、こう、端的に書かれていた。
「学園都市超能力者第六位『X番雷霆(ミコトバースト)』、
正式名称、個体名妹達〇〇〇〇〇号(フルチューニング)における経過報告」
正式名称、個体名妹達〇〇〇〇〇号(フルチューニング)における経過報告」