とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

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第一章 悪魔と修道女 Dark_White_And_Bright_White Ⅰ


 夜。


「はァ……」
 最終下校時刻を過ぎ、まともな学生達は殆どいない闇に包まれた学園都市の路地を、白い悪魔は歩いていた。
 まともな学生達は、この路地には殆どいない。
 まともではない学生達は、この路地に溢れている。俗に言う、『溜まり場』だ。
 まともではない学生達。学園都市から、『無能力者(つかえない)』という烙印を押された者達が多い。スキルアウトなどがいい例だ。
 スキルアウト。無能力者達の武装集団。
 学園都市でも七人しかいない『超能力者(ゆうのう)』で、更に『第一位(ぜったい)』な彼は、そんなものたちを塵でも見るような眼で見ていた。
 ――――無能力とかいう言い訳をしている奴等なンざ、何年足掻いたって結果を出せるわきゃねェンだよ。
 そんな事を適当に考えていた矢先。
「おらあっ!」
 叫び声が聞こえた。いや、気合付けの声か。
 第一位は、ゆっくりとも素早くともいえない微妙な速度で顔だけで振り返った。紅い目が、あるものを捉えた。
 鉄パイプ片手に、此方に突進してくる男の姿が、そこにはあった。
 そんな男を、周りの人間は全く気にしていない。
 それは、第一位も同じ事だった。
 男の姿を確認すると、何事もなかったかのように第一位は顔を元の位置に戻した。
 そんな彼の様子に怒ったのか、男は全身全霊で鉄パイプを振り下ろすが、


 鉄パイプが振り下ろされた瞬間、男の体は数メートル後ろへ吹っ飛んだ。


「がっ……!?」
 男が呻き声を上げる。
 周りのものは、その男をただ静かに嘲笑うだけだった。
「まだ襲って来るヤツがいやがるのか……」
 第一位は、そう吐き捨てる。
 彼の能力名は、『一方通行(アクセラレータ)』。能力はベクトル操作。
 彼は常に自分の周りにベクトル操作の一つである『反射』を作用させている。そのため、自らに向かったベクトルは逆に攻撃を放った相手に向かっていくのだ。
 先程を例に挙げると、『目の前の白いのを倒す』という目的で放たれた攻撃は、第一位に当たった瞬間『自らに向かっていく』攻撃に変わる。
 無論、これを行うには非常に高い演算能力が必要になる。故に、第一位は学園都市でも最高の頭脳を持つ。
 第一位は、その能力名と同じく『一方通行』と呼ばれている。
 恐らく、襲ってきた男はそのことを知らなかったのであろう。
 いや、『第一位』『一方通行』という『存在』は知っていても、『容姿』『特徴』までは知らなかったのだろう。
 そして今、『容姿』と『存在』が一致した。
「あ、あ、あ……」
 男が、怯えたような声を出す。
 一方通行は、男を見向きもしない。
 今日の一方通行は機嫌が良かったらしい。普段なら自分に刃向かう者は殺したはずだが、今日はそんな気分になれなかった。
 一方通行自身そのことに驚き、
(だから駄目なンだよ、この程度じゃァ)
 やはり自分の力と存在は未だ『挑もうとするのが馬鹿馬鹿しい』までには達していない、と一方通行は考える。
 このチカラは、必然的に誰かを傷つけてしまう。
 『一方通行』というチカラに、一方通行が目覚めてしまった時点でそれは始まっていた。
 自分を倒す為に、『誰か』が向かってくる。当然、『誰か』は一方通行に勝てるはずはない。



 ゆっくりと、それでも確実に足を進め、思考する一方通行。
 と、
「……あン?」
 ピリリリリ、という如何にも携帯電話が鳴るような音が一方通行の耳に入る。
 彼は周囲を見渡す。
 周りには誰もいない。どうやら『溜まり場』を抜けたようだった。
 音はまだ鳴っている。
「はァ……」
 再度溜め息をつく。目の前にあったのは、学園都市製の最新鋭携帯電話ではなく、『外』にもあるような遅れた携帯電話だった。
 どうしようか。このまま出ないでおこうかと思っていた一方通行だったが、


『気付いてもらうように着信音を鳴らしたのだが、最初からこう喋っておけばよかったかな?』


 声がした。恐らく電話からだろう。電話にしては恐ろしいほどクリアな音質だ。
 聞き覚えのない声だ。どうしようかと迷っていると、


『ふむ。君には学園都市統括理事長といったほうがいいかな』


 また声がした。
 統括理事長。声の主は確かにそう言った。
 だが、悪戯の可能性もある。計画を執行している誰かからの。


『安心しろ。偽者ではない、本物だ』


 信じれるか。この言葉が。
 一方通行自信そう思ったが、そろそろ答えないと延々と話をされるような気がしたので、
「俺を利用しているヤツの親玉って事かァ?そンなヤツがナンの用だァ?」
 皮肉たっぷりにそう言った。
『いや何、渡したいものがあるんだよ。第一位』
「渡したいものだァ?ナンだ、新たな計画表ってヤツですかァ?」
 有り得ない。何故なら、現在計画は執行中だからだ。其処から更に計画を進める、ということは考えづらい。
『後ろを見ろ』
 統括理事会長がそう言う。
 普段の一方通行なら切り捨てる所だった。
 ただ、今の一方通行は機嫌が良かったらしい。
 首だけを後ろに向けた。
 そこには、
「……手?」
『正確には違う。あれは義手だ』
 肌色の、やけにリアルな義手があった。きっと、見るもの全員が本物だと思ってしまうだろう。
『あれの名前は『破壊者の代用(サブブレイカー)』と言う』
「サブブレイカー? ンだそりゃ?」
 全く聞き覚えのない単語だ。というか、あの義手にはそんな大層な名前が付けられているのか。
 破壊者の代わり。何かが引っ掛かる。
 だが、
(まあ、既視感(デジャ・ヴュ)ってヤツだろ)
 首を前に戻しながら、一方通行は一人合点した。
『効果は『異能のチカラを打ち消す』ことだ』
「あ? ンじゃ、俺の能力も打ち消されるって事かァ?」
 だとすれば、対『妹達(シスターズ)』の新兵器かなんだろうか。ということは、これを使って『妹達』を倒すシチュエーションを経験しろ、とでも言うのだろうか。
『違う。これは君用の兵器ではない。これを起動する事ができるのは二人だけだ』
「起動? これは機械かァ?」
 一方通行は嘲る。
『まあ、取り敢えず君が持っていろ。使い方は後々分かる』
 やっぱりこれを俺が使えって事か、と一方通行は考える。
「分かったよ。持ってりゃァいいンだろォ?」
『……まあ、そうだ』
 少し歯切れの悪くなった言葉が帰ってくる。
 一方通行は少しだけ返事を待とうかと思ったが、瞬時に諦め後ろにある義手を取りに行った。
 義手だから軽いか、と思ったら意外と重量はあった。
 取り敢えず部屋にでも置いておくか、と適当に考え、一方通行は電話を踏み潰し、自分のアパートへと向かって行った。




 自らのアパートが目前に迫った、その時。


 一方通行の視界の端に、夜の闇には似合わない白が写った。
 ピタリと、一方通行の足が止る。
(……見間違いじゃァねェよなァ)
 視界の端に写ったものを、視界のど真ん中に持ってくる。
(修道服、かァ? それに銀髪ときたもンだ。シスターかなンかですかァ?)
 『科学』一色で染め上げられたこの都市で、そのような『非科学(オカルト)』は珍しい。何処から入り込んできたか、或いは誰だろうかと一方通行は思う。
 そして、そのシスターらしき人物は地面に突っ伏していた。食い倒れだろうか。
 或いは、気を失っているか。
 取り敢えず、一方通行はシスターらしき人物に近づいてみる事にした。
 近くで見てみると、金刺繍の真っ白修道服だということが分かった。まるで紅茶のティーカップのようだ。
 眼は閉じられていた。シスターらしき人物はうつ伏せで倒れていたが、後ろ髪が長いので銀髪だと分かった事も判明した。
 そして、このシスターらしき人物が纏っている雰囲気は、一方通行のものとは真逆のものだと言う事も。
「何でこンなヤツが倒れてんだ……?」
 恐らく、自分の住んでいる世界とはまったく別の世界の住人だろう。
 一方通行は、これまで五千人近くの『妹達』を虐殺してきた。
 即ち、一方通行は悪人だ。
 だが、このシスターらしき人物は違う。
 こんな路上で倒れなければいけない理由など、ある筈もない。
 抱えてやろうかと思い、しゃがみ込んでシスターらしき人物の背中部分に手を当てた。
 無論、『反射』はオンだ。いつ狙われるか分からない。
 と。


「うん? 君はなんだい?」


 背後から、声がした。
 驚いて後ろを振り返る。
 其処にいたのは。


「……ンだ、テメェ」


 長い赤い髪、手や服には派手なアクセサリー、右目の下にバーコード模様。神父らしき格好はしているのだが、装飾品のお陰でとてもそうは思えなくなっている。
 少し距離が離れていたが、それでも此方には甘ったるい香水の臭いが伝わってくる。
 恐らくは二メートルはあるであろう身長を持っているのだが、何処か幼い。もしかしたらまだ十代なのかもしれない。
 そして、その雰囲気も一方通行とは違っていた。
 何というか、非常に嫌な雰囲気を纏っている。ただ、殺意や敵意は一方通行の方が上だろう。
「僕は、それに用があるんだ。退いてくれないかな?」
 それ、と言い、異様な男は一方通行の後ろを指差した。
 先程の少女だ。
「……ま、事情は大体分かった」
 少女の背から手を離し、立ち上がりながら一方通行は行った。
 この少女の纏う雰囲気と、異様な男の纏う雰囲気も真逆だった。
 恐らくは、この少女が逃げ、それをこの異様な男が追っているということだろう。
 それなら話は早い。
 一方通行のような、異様な男のような雰囲気を持つ人物が、こんな少女を攫っていい理由などある筈がない。


「……ンじゃ、ちょっくら遊ンでやるよ」


 その言葉と共に、一方通行は異様な男に向かって走り出していた。

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