とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

本編

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だれでも歓迎! 編集
   ~~♪~~♪~~~

  初めて知った、真実の重さ。
  時を超え刻まれた、悲しみの記憶。
  過去の痛みは、心の中に静かに溶かれ――、
  あの日、胸に灯った炎を消さなねェように――、
  深い闇に、消えないように――、
  無限の絆を守るために――、
  今、未来へ向かう扉を開く――。

 魔砲少女リリカル・カナミンA‘s 始まりまるぞォ。

   ~~♪~~♪~~~

 学園都市一〇区。
 学園都市内で唯一墓場や実験動物などの廃棄場が存在する学区。
 その人気の無い街中は、今や空爆にでもあったかのようにめちゃくちゃになっていた。
 立ち並ぶビルは軒並み崩れ、辛うじて建っている建物にも無数の亀裂が見え、もはや使用には耐えられないのは明らかである。
 そのビル群が損壊している地区の中心点、爆心地のようなところはアスファルトが捲られ、その下の向き出しの地面も大きく抉れ、
クレーターのようになっていた。
 暴走した禁書目録の防衛プログラムを止めるべく空中で死闘を繰り広げた一方通行の渾身の一撃、風のベクトルを操ってのプラズ
マ弾の直撃を受け、上空から叩き落されたヒューズ・カザキリの墜落地点である。
 その傍らにはその恐るべき所業を成し遂げた一方通行が佇み、更に離れた所には禁書目録の内部空間に閉じ込められていた御坂美
琴がやや疲弊しながらも立っている。
 その後方、やや離れた所には一方通行と同じグループのメンバーである結標淡希と、御坂美琴のパートナーである白井黒子が幾分
緊張しながら身構えている。

 その時、近くに取り付けられている広報用のスピーカーから音声が出てくる。
『禁書目録の主、防衛プログラムと完全に分離しました!』
『皆さん! 前方の白い澱みが、暴走が始まる場所になります。ステイルさんが到着するまで、むやみに近づかないでください!』
 上空に待機していた学園都市の飛行船『アースラ』内からの初春飾利からの通信であった。
「オッケー!」
「チッ、しょうがねえなァ」
 その声にそれぞれ答えるレベル5の二人。
 二人共、未だ緊張感は解かず、目の前を厳しく見続けている。
 その視線の先には、上空からの落下の後に光る繭のようなものに包まれたままの球体がある。
 直径はおよそ四〇メートル。直径が七〇メーター程のクレーターの中心に不気味な存在感を漂わせながら浮かんでいる。
 その光は白くはあるが、まるで太陽からの自然光の中で見る蛍光灯の輝きのようにどこまでも人工的、異質なものであった。
 そして――――。

                      #12
                  夜の終わり、旅の終わり


 そして、白い、不気味な光の球体があるクレーター、その斜面に落ちていくギリギリ縁のところに、それとは別の光があった。
 目の前にある白い光とは真逆の、しかし、磨き抜かれた黒曜石のような、新月の夜の星の光さえ届かない闇のような、どこか見る
者の目を引き付ける輝きの、その内部で――――。

「管理者権限を発動するんだよ――――」
 黒い闇の中、ゆったりと浮かんでいるインデックスが囁く。
 それに答えるように、
「ぼ、防衛プログラムの進行に、割り込みを掛けれたよ。数分ぐらいだけど、暴走の開始を遅らせると思う、よ」
 禁書目録の管理プログラムであり、インデックスから『かざきりひょーか』の名前を与えられた友人がたどたどしくもそれに答える。
「うん。それだけあったら、十分なんだよ。
――リンカーマナ、送還。水属性(ウンディーネ)の守護天使による治癒魔術を開始――――」

 そう呟くと同時に、インデックスが今まで入院していた病院の屋上に倒れ伏したままの四人の魔術師たちの上に光が灯り、その体
に吸い込まれていく。
 ダメージから回復し、一人、また一人と立ち上がる魔術師たち。

「――来て、私の保護者たち――」
 そうインデックスが語った直後、クレーターの縁から天に向かって凄まじい勢いで黒い光の柱が立ち昇る。
 クレーターの周囲にいた一方通行ら四人が一瞬目を庇い、慌ててクレーターの方を見直すと、そこには――――。



「「!!」」
 目を見張る一方通行と御坂美琴。
 その視線の先には――――。



「我ら、禁書目録の主の側(そば)に集いし保護者たち――」
 神裂火織が――――、
「主ある限り、私たちの魂は尽きることは無いのでございますよ――」
 オルソラ=アクィナスが――――、
「この身に命がある限り、私らはあんたの側にいるんだよ――」
 シェリー=クロムウェルが――――、
「ウチらが保護する者、禁書の王、インデックスの名の下に――」
 アニェーゼ=サンクティスが――――、

 輝きを強める黒い光の周り、四人の魔術師が背中合わせにそれぞれの方角を向いて静かに宣言する。

 そして、その黒い光の中で、
「ひょーか、私の杖と甲冑を――」
「う、うん!」
 インデックスの声に風斬氷華が応じ、その身に新しい装束を出現させる。
 白い修道女の服に身を包んだインデックスが目の前に現れた蓮の花の飾りが付いた杖を握る。
 次の瞬間、黒い輝きが粉々に砕け、インデックスがその姿を現す。

「白ィの!!」
 そう叫ぶ一方通行に向かってインデックスは笑顔を浮かべると、手に持つ杖を高々と掲げ、大きく叫ぶ。
「禁書の知識、私に集まって! 氷の華、かざきりひょーか、セーーット・アーーーップ!!」
 杖の先から黒い輝きが迸り、見る間にインデックスの衣装に安全ピンが付け加えられる。

「インデックス……」
 そのインデックスを見てアニェーゼが上目遣いに名前を呼ぶ。
「うん……」
 頷くインデックス。
「すみません……」
「あの……インデックスさん、私たち……」
 神裂が、オルソラが謝ろうとするのを制して、
「いいんだよ。みんな分かってる。ひょーかが教えてくれたんだもん。……けど、細かいことは後で――――。
今は―――お帰りなさい、みんな」
 そう笑顔で言うインデックスに対し、堪え切れなくなったアニェーゼが泣きながら飛びつく。
「あ、ああ、うわぁぁぁぁぁぁ!! インデックス! インデックス! インデックスーーー!!」
 インデックスにしがみ付いて泣き続けるアニェーゼと、その背中をやさしく撫でるインデックス。
 その背後から、一方通行と御坂美琴の二人が近づいてくる。
「白い人も短髪もごめんね。私の保護者たちが、いろいろと迷惑を掛けちゃって……」
「けっ、アンなもン、どオってこたァねェよ」
「べ、別に気になんかしてないわよ。っていうかその呼び名はやめなさい!!」
 三人が話していると、そこに別の人間が加わる。
「すまないね」
「アァ?」
 長髪長身で全身を赤く染めた神父が口を挟む。
「水を差してしまうんだが……。イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』ステイル=マグヌスだ。時間が無いので簡潔に説明させて
もらうよ? あそこにある白い澱み、禁書目録の防衛プログラムが、後数分で暴走を開始する。僕らはそれを、何らかの方法で止め
ないといけない。
停止のプランは現在二つある。一つ、きわめて強力な獄炎魔術で灰にする。二つ、上空三千メートルで待機している飛行船『アース
ラ』にいる『幻想殺し(イマジンブレイカー)』で消滅させる。
これ以外に、何かいい手は無いかい? 禁書目録の主とその保護者たちに聞きたい」
 懐からルーンが刻まれたカードを見せながら説明をするステイル。

 それに対して、
「ええーっと、最初のは多分、難しいと思います。主の無い防衛プログラムは、魔力の、塊みたいなものですから……」
「灰にしても、コアがある限り、再生機能は止まりません……」
 オルソラと神裂の二人が答える。
 さらに、
「『幻想殺し(イマジンブレイカー)』もぜったいダメ!! そんな上空から『幻想殺し(イマジンブレイカー)』撃ち下ろしたらインデックスの家の
家主が死んじまうじゃないですか!!」
 大きく両手を交差させて反対するアニェーゼ。
「よォ、ここへ撃ち込むのってそンなにやべェのか?」
 その様子に何気なしに尋ねる一方通行。
「半径百数○センチの範囲内なら右手で触れるだけでいかなる異能も完全に消滅させるんだけど、それ以外は生身の人間と変わらな
いから……」
「チッ! オイ、俺も反対だぞ。アイツにはまだ借りがアるからなァ!」
「ちょ、ちょっと、私だって反対よ! 何考えてんのよ!!」
 一方通行と美琴の両方から詰め寄られるステイル。
「僕も小萌先生も出来れば使いたくは無いよ……。でも、あれの暴走が本格的に始まったら被害はそれより、遥かに大きくなるんだ」
「暴走が始まると、周囲にあるものを無差別に破壊して、無限に稼動していくみたいですのよ」

「…………」
 ステイルの説明に補足する黒子の言葉に、一同が押し黙る。
『皆さん!! 暴走臨界点まで、後十五分切りました! 代理プランはお早めに決めて下さい!』
 初春からの通信に焦る様にステイルが尋ねる。
「何か無いのかい!?」
「すみません、あまり役に立てそうには無いです……」
「暴走に立ち会った経験は、私らにも殆ど無いからねえ……」
「でも、何とか、止めないといけませんねぇ……。インデックスさんの居候先のお家が無くなっちゃうの、困りますしねぇ……」
「いや、そういうレベルの話じゃ、無いんだけどね……」
 神裂、シェリー、オルソラの口からも芳しい意見は出てこない。
「発射地点をもっと降下させてからは出来ませんの?」
「今から飛行船を降下させても暴走開始には間に合わないでしょう。ビル群を無視した射角を取ろうとした事が裏目に出てしまいま
したね……」
 黒子の発案も神裂によって棄却される。

「「「…………」」」
 重苦しい雰囲気がその場を包み出す。
「あーもう! なんかごちゃごちゃうっとぉしいわね! 皆でズバッとぶっ飛ばしちゃえばいいじゃないのよ!」
 イライラした様子で喋る結標。
「あのね、これはそんなに単純な話じゃ無いんだよ……」
「ふん!」
場を混乱させるだけのように思える発言にステイルも苛立ちを見せれば、意見をあしらわれた結標もそっぽを向く。

「ズバッと、ぶっ飛ばす……、か――――」
「ここへ撃ったら、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の被害が大きいから撃て無いんだよね――――」
「じゃあ、ここじゃなければ――――」
 結標の発言に対して呟く一方通行、インデックス、美琴の三人。

「「「あ――――、!!」」」

 次の瞬間、三人は顔を見合わせて何かを思い付く。

「オイ! そこの赤イの! 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』ってのはどこへ向けても撃ち出せンのかよ?」
「どこでもって……、例えば?」
 ステイルの疑問に、美琴とインデックスは勢い込んで答える。
「今、『アースラ』のいる場所」
「上空三千メートル、同じ高度上に向けて!」

『学園都市の科学力、舐めてもらっちゃ困りますよー。撃てますよー。同一高度上だろうが、宇宙にだって!!』
 上空に待機中の初春からの通信が響き渡る。

「おい! ちょっと待ちたまえ君たち! ま、まさか!!」
 その意図に気付き、慌て出すステイルに対して三人は得意そうに笑顔を見せるのだった。

        □                          □

 その頃、第七学区の上条たちの高校の屋上から第一〇学区の方を眺めながら話す二人の少女たちの姿があった。
「光、収まった?」
「うん。小さくはなったけど。まだ。黒いのがあるみたい……」
「一体何なの? まさかこんなのが、このままずっと続いたりはしないわよね?」
「何となくなんだけど。大丈夫な気がする」
「え……?」
「きっと。戦ってくれてるから……」
「レベル5の二人が?」
「うん」
「姫神さんに真顔で言われると、なんかそんな気がするから、怖いわ……」
 上条当麻のクラスメイト、吹寄制理と姫神秋沙の二人である。
「まぁ、それにしても、よ……。
あーー、もう!! 訳が分からないわよ!!
楽しいクリスマスイブに、一体どういう事態なの!? 何を摂ればいいの? カルシウム? イソフラボンなの!?」
「吹寄さん。あの。落ち着いて……」
 若干テンパリ気味の吹寄とそれを宥める姫神の視線の先には、未だ収集の付かない事態の中心がある。

        □                          □

 上空三千メートル、待機中の飛行船の指揮所の中で、
「何とも、まぁ……、相変わらず物凄いと言うか、ですねー」
 どことなく頭を抱える様子の小萌先生に対して、初春が話しかける。
「計算上では、実現可能ってのがまた、怖いですよねー」
 更にパネルを操作した後、地上に向かって通信を繋ぐ初春――――。


『ステイルさん! こっちの準備はオッケイです! 暴走臨界点まで、あと十分です!!』
 初春からの通信を聞いたステイルが全員を見渡しながら語りかける。
「実に個人の能力頼りで、ギャンブル性の高いプランだけど、まぁ、やってみる価値はあるだろうね」
 それを受けて説明するインデックス。
「防衛プログラムのバリアは、魔力と物理の複合四層式で出来てるんだよ。まずは、それを破らないとだね!」
 それを美琴が引き継ぐ。
「バリアを抜いたら、本体に向けてわたしたちの一斉攻撃でコアを露出させるのよね!」
 続いて一方通行が、
「そしたら結標たちの座標移動で、『アースラ』の前に、転送させるんだな」

 最後に、上空の小萌先生が結ぶ。
「あとは、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』で消滅させるんですねー」
「上手くいけば、これがベストですね!」
 いいプランが見つかったためか、初春の声も弾んでいた。


 それまでのムードから一転、対処の方法が見つかったことによって明るくなった一同から少し離れた位置からクレーターの中心、
光の繭を見つめるステイル。
 咥えたままの煙草を燻らせながらポケットから携帯電話を取り出すと、おもむろにある番号に向けて掛けはじめる。
「アウレオルス、見えているかい?」

 ステイルからの電話に応じている人物は、そこから十数キロ離れたとある進学塾の一室にいた。
「当然。すこぶる鮮明に映っている」
 はるか上空、飛行船『アースラ』から送られてくる監視映像のモニターを見ながら、アウレオルス=イザードは答える。
 その背後に控えているのは、この学園都市にいる学生たち。
 性別も、年齢もバラバラなはずの少年少女たちはだがしかし、何故か皆一様に同じような表情をしていた。


「禁書目録は、呪われた、魔道書だった……。その呪いは、いくつもの人生を喰らい、それにかかわった多くの人の人生をも、狂わ
せてきた。あれのおかげで、僕も小萌先生も……他の多くの人間も、本来関わる筈も無かった人生を進まなきゃならなくなった……。
それはきっと、君も、三沢塾の生徒たちも……」
 携帯で会話をしながらおもむろにポケットからルーンのカードを取り出すステイル
「失われてしまった記憶は、取り戻すことは出来ない。――――だから、今を戦って、僕らは未来を変えるんだよ」
 そう言い切った次の瞬間、ルーンのカードが光を帯び、次の瞬間『魔女狩りの王(イノケンテイウス)』が姿を現す!!

 それをモニターを通して眺めているアウレオルスは、深く息を吐きながら瞠目するのだった――――。


「『幻想殺し(イマジンブレイカー)』、出撃準備を始めてくださいなのですよー」
「「「はい!!」」」
 飛行船『アースラ』内の全スタッフが返答をする。


 作戦開始まで、あと、少し――――。

               C    M
         _ _                  _     ゝ
       ,´ノ从 ヽ                ,'´  `ヽ   / ビリビリ!
      ノノリ从从〉              リソリノ"゙从 ∠  /
      ソ(lリ゚ ー゚ノリ              ノjid゚ ヮ゚ノ  / 
       /i,ミ彡i>              く) Y iつ>    
      ┣ l. T l!               く/_|j〉
      ┃ |__l_j                し'ノ
               C    M

 クレーターの中心で不気味に震動を始める白い繭。

『暴走開始まで、あと二分です!!』
 上空の初春からの通信に、改めて気を引き締める一同。
 そんな中、インデックスがふと気が付いたように一方通行と美琴を見て、後ろにいるオルソラを呼ぶ。
「オルソラ」
「はい、お二人の疲労回復ですね」
 インデックスの呼びかけに、オルソラが返事をしながら近づいてくる。
 そして、どこからとも無く取り出した水筒から中身をコップに空けて二人に手渡し、更にタッパーを取り出して蓋を開く。
「ハーブティーとレモンの蜂蜜漬けでございます」
 唐突な流れに軽く驚く二人に向かって、オルソラは言う。
「イギリス清教預かり、オルソラ=アクィナス。魔道書の解析と料理が本領でございますよ」
 受け取って口に運ぶ二人は素直に口に運んで感想を述べる。
「あ、この香り、ブレンド? なかなかいい組み合わせね」
「ふん。まァまァだな」
 そんな美琴と一方通行の反応にもにこやかに微笑むオルソラ。

 そうした光景をよそに、結標淡希は傍らにいる白井黒子とシェリーに向かって呼びかける。
「あたしたちはサポート班よ、あのウザいバリケードを上手く止めるからね」
「はいですわ」
「わかってるよ」


 各々が準備を済ませていると、目の前のクレーターにある光の球体から、一本、また一本と光が解れ、まるで触手のように天に向
かって伸びていく。
「始まる!!」
 それを見た一同は更に緊張を高める。
「禁書目録を、呪われた闇の書と呼ばせたプログラム……。禁書目録の、闇……」
 そして、光の繭を覆う輝きが一層濃くなった次の瞬間、ついに繭が全て解け、触手の光が一斉に蠢き出す。
 そこに現れたのは一方通行と戦っていた時の女子高生の姿をした『ヒューズ=カザキリ』ではない。
 頭上には発行する輪のような物があり、そこから周囲に向かってジャカジャカと音を立てながら細かい棒が伸縮を繰り返している。
 触手のような翼を背中から無数に生やし、虚ろな目をどこへ向けるとでもなく開いている。

 それが本格的に動き出す前に、結標淡希と白井黒子が同時に動く。
「座標移動(ムーブポイント)!!」
「空間移動(テレポート)!!」
 結標が手に持つ軍用ライトを素早く動かして周囲にある瓦礫の塊を転送させる。
 その周囲では黒子が小刻みに空間転移で跳んでは手に触れた瓦礫を転送させる。
 それらの目的地は防衛プログラムの周りでのたうっている翼。
 その羽の密集部分に転移させられた瓦礫の塊は、座標を重ねる部分の羽を食い込みながら出現する。
「ははっ、崩れな!!」
 ビュバン!!
 その直後、シェリーが手に持つオイルパステルを抜刀術のように振るって周囲に魔法陣を描くと、それらの瓦礫が一斉に泥のよう
に崩れ落ちる。
 その身に食い込ませた羽が消失し、断ち切られていく。

「ちゃんと合わせてくださいよ! 一方通行(アクセラレータ)さん!!」
「はっ、おめェの方こそなァ!!」
 防衛プログラムの周囲を覆う光の羽に穴が開くと、待ち構えていたアニェーゼと一方通行がそれぞれの攻撃を繰り出す。

「イギリス凄教預かり、アニェーゼ=サンクティス! 
――――万物照応。五大の素の第五。平和と秩序の象徴『司教杖』を展開!!」
 彼女の呼び声に応じて手に持つ杖、その先端にある天使の六枚の羽が開いていく。
「偶像の一。神の子と十字架の法則に従い、異なる物と異なる者を接続せよ!!」
 完全に展開した杖を大きく振りかぶりながら詠唱を続けるアニェーゼ。次いで、それを渾身の力を込めて振り下ろす。
「『蓮の杖(ロータスワンド)!!』」
 何も無い眼前に振り下ろされた杖。
 しかし、遥か離れた防衛プログラムからは、とてつもない重量の物がぶつかった時のような破砕音が響き渡り、その周囲に展開さ
れていた不可視のバリア、その一層目が粉微塵に砕け落ちる!

「学園都市、レベル5、一方通行(アクセラレータ)。いくぞォ!!」
 高々と宣言する一方通行。その両手は頭上に掲げられ、周囲から膨大な空気が圧縮されて突風が渦を巻いていく。
 立て続けに攻撃を加えられた防衛プログラムが周囲に展開する者達を漸く敵と認識したのか、断ち切られずに残った羽の何枚かを
一方通行に向かって振り下ろそうとする。
「はっ、遅っせェンだよォォ!!」
 それに対し一方通行はベクトルを操作、圧縮させた空気の一部を叩きつける。
 その暴風を受けて動きが止まった防衛プログラムに対し、一方通行が頭上に圧縮した空気の中心点にあるプラズマをぶち当てた。
 閃光が辺りを焼き、大音響が響き渡る。だが、それに伴う熱波や衝撃波すらベクトル操作されて攻撃と化し、ついにバリアの二層
目が消し飛ばされた!

「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
 防衛プログラムが金切り声を上げる。
 それを見たオルソラが声を張り上げる。
「次、神裂さんと御坂美琴さん!!」

 その声を受けるのはいつの間に回り込んだのか、クレーターを挟んで一方通行たちとは真逆の位置にいる神裂達である。
「イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』、神裂火織。魂に刻み込んだ名を、七天七刀と共に」
 語りながら腰に差した大太刀の柄に右手を添え、左手は鯉口を切る。
「フェイクである『七閃』の奥に隠された、真の一刀を」
 その彼女に対して未だ残る羽の残骸が襲い掛かる。周囲にある瓦礫を崩して神裂に当てようとする。
 しかし、彼女が繰り出す鋼糸の『七閃』により悉く弾き飛ばされ、次いで裂帛の気合と共に彼女の魔法名が唱えられる。
「『救われぬ者に救いの手を(Salvere000)』!!」
 宣誓と同時に膨れ上がった魔力と共に彼女の持つ真の奥義『唯閃』が戦場を奔り、防衛プログラムにぶち当たる。
 一拍を置いた後に激しい震動と共にバリアの三層目が砕け散る!

「学園都市、レベル5、御坂美琴。いくわよ!!」
 次に攻撃に出たのは美琴。その体からは周囲に紫電の火花が溢れている。
 その音色が、重く鋭く変化していき、音階がどんどん上がっていき、それと共に上空には黒く重たい雷雲が立ち込める。
「貫け、雷刃!!」
 音の変化が最高潮に達したとき、遂に美琴から雷撃の槍が発射される。
 それが着弾したと同時に、天から今度は本物の雷が降り、防衛プログラムに直撃する。
 ドォォン!! という腹の底を揺さぶる音が響き渡り、最後のバリアが破られる!

「Kyaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
 度重なる猛攻の直撃、バリアの無効化という事態に、防衛プログラムが絶叫を上げながら背中に残る羽、その一際太い二本を大き
く振り上げる。
 と、その二本の羽の間に青白い光が瞬き始め、見る間に光球が発生する。
「イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』、シェリー=クロムウェル。砲撃なんか撃たせるもんかい!!」
 それを見たシェリーが再び手に持つオイルパステルを再び振るう。
「『我が身の全ては亡き友のために(Intimus115)』――――。エリス!!」
 先の多重召喚による作為的な崩壊とは違い、今度作り出すゴーレムは一体のみ。
 その十メートルの巨体はたちどころに全身を形作ると両手を防衛プログラムに向かって突き出し、放電に似た現象を起こし始めた
羽を鷲掴みにする。
 見る間にゴーレムの両手が崩れていくが、一時的に攻撃手段を封じられた防衛プログラムに対して更なる攻撃がなされる。
「インデックスさん!!」
 オルソラの声に対してインデックスはその小さな口から言葉を紡いでいく。
「――――囁く声、噂の風よ、彼の者の心を暴き立て、その矛盾を糾弾せよ。――――『魔滅の声(シェオールフィア)』」
 呪文が唱えられ、魔術が発動すると、ビクン!! と身じろぎする防衛プログラム。瘧にかかったかのように体を震わせていたが、
その体と翼のあちこちからスパークが起こり、いたる所で体が爆ぜる。
「Cuoooooooooooooooooo!!」
 絶叫を上げながら体を崩壊させていく防衛プログラム。
 しかし、ひとしきり爆発が収まった後に姿を現したのは今までよりも更に姿を変えたものだった。

 頭はグラリと垂れ、半開きの唇からは半端に舌が飛び出している。見開かれた眼球は不規則に揺れ続け、涙と涎が混ざり合ってそ
の胸元をベットリと濡らしていた。
「うわーーーー」
「な、何だか、もの凄いことになっているのでございますよー」
 顔を顰める結標とオルソラ。

 上空で監視している『アースラ』からも初春の通信が入る。
『やっぱり、並みの攻撃じゃ通じません! ダメージを入れた側から、再生されちゃいます!!』

 しかし、地上で戦っている人間たちはそれでも逃げない。
「だが、攻撃は通っている。プラン変更は無しだよ」
 咥えた煙草を揺らしながら言うと、ステイルは手に持つルーンのカードを目の前にかざす。
「いくぞ、『魔女狩りの王(イノケンテイウス)』。――――焼き尽くせ!!」
 その命令に従ってヒトガタの炎が防衛プログラムに組み付き、燃え盛る我が身を使ってその体を拘束する。
「――――神裂がいて助かったよ。限られた時間と枚数でここまで火力が上げられたんだからね」
 その言葉どおり、『魔女狩りの王(イノケンテイウス)』の姿は常のそれとは違い、炎の密度が違い、威圧感が違う。全身から放たれる熱波
は周囲の空気を歪め、その背中から巨大な翼が生えていると錯覚させるほどだ。
 だが、それほどの熱量を持った攻撃を受け続けても、防衛プログラムは尚も稼動し続ける。
 攻撃と再生を続ける『魔女狩りの王(イノケンテイウス)』なればこそ、その体を抑える付けることが出来ているが、それでは決定的では無い。
 その身に『魔女狩りの王(イノケンテイウス)』を組み付かせたまま暴れようとする防衛プログラムを前にして、最後の三人が動く。
「いくぞォ、第三位ィ、白イのォ!」
「うん!」
「了解なんだよ!」
 一方通行の呼びかけに応じる御坂美琴とインデックス。

 一方通行はその場にしゃがむと無造作に右手を地面に突き入れ、アスファルトの塊を掴み取りながらその演算能力を行使する。
 地球の自転エネルギーをベクトル変換しながら大きく振りかぶる――――、
「全開でいくぞォ! ――――『天体制御(アストロハインド)ォォォ――――」

 御坂美琴は右手をポケットに突っ込むとそこからゲームセンターのコインを取り出す。
 ただし、その数は通常の一枚限りではない。ポケットに残るコイン、その数七枚を右手に握り締めたまま叫ぶー―――、
「――――雷光一閃、――――『超電磁砲(レールガン)――――」

 インデックスは暴れようともがく防衛プログラムを見ながら涙を滲ませて呟く。
「ごめんね……。お休み、なんだよ……」
 その目に去来するのは如何なる思いか。
 しかし、数瞬目を閉じ、迷いを振り切るように開くその瞳に映るのは決意の色。
「特定魔術『聖ジョージの聖域』の発動。――――現れよ、絶対なる守護者――――」
 彼女の唱える呪文に呼応して目の前に二つの魔方陣が出現、そして、その二つの中心から空間を引き裂いて暗黒の闇が顔を覗かせる。
「――――『竜王の殺息(ドラゴン・ブレス)――――」
 その亀裂の奥から『何か』が覗き込んで――――、

「――――ブレイカーーーーーー』!!」
「――――ブレイカーーーーーー』!!」
「――――ブレイカーーーーーー』!!」

 三者の声が同時に響く。
 そして、それぞれから自身が持つ最大の攻撃が放たれる。
 一方通行からは天体運行のエネルギーを変換したベクトル攻撃が、
 御坂美琴からは弾核を束ねたレールガンによる収束攻撃が、
 インデックスからは蓄えられた魔道の書十万三千冊の知識全てを駆使した魔術攻撃が、
 三方から防衛プログラムに向かい、直撃する。
 瞬間、音が消えた。
 別系統による同時多重一斉攻撃を受けた防衛プログラムが、今度こそ押し潰される!

 その外殻を構成していたプログラムが弾け飛び、中にあるコアが露出されるのを見た瞬間、オルソラが手に持つロープを勢い良く
投げつける。
 如何なる魔術の働きによるものか、真っ直ぐにコアに向かって飛んでいくロープ。そして、
「本体コア、――――捕まえました、ですよ!」
 ロープがコアを絡め取ると、すぐさま次の行動に入る結標淡希と白井黒子。
「長距離転送!」
「目標、上空三千メートル!」
 共に大能力者である二人による一一次元計算式は直ぐに終了し、直ちに次なる手が打たれる。
「座標移動(ムーブポイント)!!」
「空間移動(テレポート)!!」
 結標は手の軍用ライトを大きく振り上げ、白井はオルソラが飛ばしたロープの端を握り締めて同時に叫ぶ。
 三人がかりによる強制転送により、防衛プログラムの本体コアが天高く飛ばされていく。

「コアの転送、来ます!」
 上空で待機していた飛行船『アースラ』ブリッジ内に緊張が走る。
「転送されながら、外殻データを修復中。すごい速さです!」
 次々と寄せられる報告を処理しながら、初春が指示を出す。
「『幻想殺し(イマジンブレイカー)』、射出バレル展開!」
 飛行船の前面、その先端に突き出ていたパーツが真ん中から分離し、二つに離れていく。さらに、それぞれのパーツが伸張して
十メートルほどの滑走用レールが現れる。
「ファイヤリング・ロック・システム、オープンなのですよー」
 命令する小萌先生の前に卓上のパネルが展開、無骨なスイッチがせり上がってくる。
「命中確認後、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を安全圏にて回収します。準備をよろしくですー」
「「了解」」
 全ての準備を整えた『アースラ』の前に、地上から転送された防衛プログラムの本体コアが現れる。
 外殻データから剥き出しにされたコアが、その三角柱の身を回転させながら処理を行ない、元に戻ろうとしている。

「『幻想殺し(イマジンブレイカー)』、出撃!」
 復元処理の為に動きが止まったそれに対して、遂に『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が出撃する。
 それは、滑空用レールから勢い良く飛び出すと、空中で機動翼を展開、メインエンジンを吹かしてあっという間に距離を詰める。
 その身に纏っているのは頭の上から足の先まで覆うスマートな黒の装束だが、唯一、右手だけが違っていた。
 正確にはその肘より先、腕の中頃から先は一回り大きな機械に覆われている。
 そうして飛来する『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が迫る時には何とか最低限の外殻データが修復し終わる本体コアは、己の手足だけ
を武器にして迎え撃とうとする。
 と、近づいてくる『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の右手を覆う機械が勢い良く開き、そこから剥き出しの拳が姿を見せる。
「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
 落下しながらも腕を振り上げ、叩きつけようとする。
 対する『幻想殺し(イマジンブレイカー)』も右手を後ろに引いて構えながらその懐に飛び込んでいく。
 突き出される拳と拳。互いの攻撃が相手に届いた瞬間、しかし、結果はあっけないものだった。
 その右手が触れた瞬間防衛プログラムの腕は瞬時に消し飛び、それに驚いて目を見開いた顔面にそのままの勢いで拳が突き刺さる!
 そのまま外殻データをまとめて吹き飛ばした右手が本体コアに叩きつけられると、コアを形作っていた三角柱は霧散した。

「「「――――!!」」」
 地上では、上空を見つめる実働メンバー。

「――――」
 三沢塾では、『アースラ』からの映像を見つめるアウレオルス。

 それぞれが、それぞれの胸の内に思いを抱きながら見つめている。

 そして、観測班からの報告が寄せられる。
「効果空間内の物体、完全消滅! 再生反応、ありません!!」
「はいなのですー。準警戒態勢を維持、もうしばらく反応空域を観察しますよー。それと、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』ちゃんの回
収、よろしくなのですよー」
「了解! …………ふぅ」
 まだ警戒中とはいえ、殆ど終わったようなものなので緊張を解いて大きく息を吐き出す初春。
 地上に向けて通信を入れる。

『というわけで、現場の皆さん、お疲れ様でしたー。状況、無事に終了しました!』
 その報告を聞いて安堵する一同。
「――――ふふっ」
「――――へへっ」
 顔を見合わせて笑顔を浮かべ合う結標、白井、オルソラ。
 ルーンのカードを操作し、『魔女狩りの王(イノケンテイウス)』が正常に終了されたことを確認するとそのまま懐から新しい煙草の箱を取
り出して早速一服し始める。
『この後、残骸の回収とか、市街地の修復とか色々ありますけど、皆さんは『アースラ』に戻って一休みして下さい』
 大きく息を吐いてへたり込みそうになるアニェーゼ。
 まだ警戒は解いていないが、それでも緊張を和らげる神裂とシェリー。
 そして、美琴とインデックスは手を打ち合い、一方通行は差し出された手を見て鼻で笑ってインデックスに飛び掛られ、それを見
る美琴は呆れ返っていた。
「――――アァ、そオいやァ市街地にイた一般人はどオなったんだァ?」
 ふと気付いた様子の一方通行からの質問に、情報を検索した初春からの返答がすぐさま返ってくる。
『被害が酷い場所以外の封鎖は解除されていますので、元いた場所に戻れると思いますよ』
「ふン、そォかイ」
 首をぐるぐると回しながら気の無い相槌を打つ一方通行。既にその関心は別の事へと向いているようである。

「――――えっと、ステイル、さん? お、お疲れ様……」
「――――ああ、とっさの申し出にも良く応えてくれたね。ありがとう、御坂美琴、さん」
 異なる世界に属する者同士の間でも事態の終息、といった空気が流れる中、
「インデックス!?」
「インデックスさん!?」
 突然響き渡る悲鳴。
 皆の視線が集まるそこには、突然倒れたインデックスを抱きかかえる神裂火織とそこに心配そうに詰め寄るアニェーゼとオルソラ
の姿だった。
「インデックス! インデックス! インデックス!! インデックスゥゥゥゥ!!!」
 突然の出来事に皆が呆然とする中、アニェーゼの悲痛な叫び声だけが無残にも響き渡っていた……。

「…………白イ、の?」

 ~to be continued~

   ~~♪~~♪~~~

  そして、禁書目録事件が終わりを迎えます。
  出会ったヤツ、触れ合ったヤツ等皆に、笑顔と感謝を。
  それから、旅立ちと、別れと。
  新しい道を進むとき――。

  次回、魔砲少女リリカル・カナミンA‘s 最終話 「スタンバイ・レディ」

  ――終わりじゃなくて、きっと、始まりなんだよォ――。



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