とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

4-01

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ryuichi

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とある授業の社会見学 第二章    Dance Dance Fairy-s


 学園都市が熱気に包まれている。
 喧騒の中周りを見回せば、人、人、人。
 上条たちは現在、集合場所となっていた会場の一つから移動しているところであった。
 彼らと同じように別の場所へ移動しようとしている学生たちは、携帯を操作して各種情報サービスを呼
び出しながら次に見て回るところを思案、相談している。
 そんな中、よく見れば分厚い本(と言えるのか疑問は残るが)を片手に不慣れな様子で辺りを見比べな
がら歩いていく大人の姿も見かけることがある。
 なるほど、あれが先程言われていた外部参加者なのか、などと考えながら道を進む上条に対し、横合
いから声が掛かる。
「おーいカミやん。これからどこへ行くつもりなのかにゃー」
 尋ねてきた土御門に対して
「は?」
 と、きょとんとした様子で振り返ると、その隣にいる青髪ピアスから声が飛んできた。
「カミやーん。ウチらはこれから立体映像開発研究機構出向第三技術分室主催の出展ブースに行かな
あかんのやで? そっちは方向が違うやんよー」
「……今さらながらに思うんだが、ずいぶんと怪しげなところだよな、そこ」
「なにゆうてんねん! 立体映像なんやで?! 能力者が見せる幻覚じゃない、れっきとした本物がそこ
に存在するんやで?! 二次元の画面の中でしか動くことの出来なかった彼女たちがそこから飛び出し
て自由に動き回れるんやで?! それを見に行かずして何を見に行くっちゅねん!!」
「とりあえず色々言いたい事はあるけど、立体映像を見に行く目的はそれか。あと、立体映像にしたって、
“本物”にはならないと思うぞ」
「うるさい! 一人だけ抜け駆けしたカミやんにはわからんわ! ウチらはずっと仲間やと思っていたのに
裏切りやがって! こうなったら土御門と二人でモテないもん同士寂しく結束しちゃるワイ!」
「あー、立体映像の中身が何かは分かんないしにゃー。あと、オレには舞夏がいるから別に寂しくは無い
んだぜい」
「なんだとお前もか!」
 血涙を流しながら土御門に掴みかかる青髪ピアスを眺めていたが、あまりにも騒がしくなってきたので、
土御門から青髪ピアスを引き剥がしながら
「分かった分かった。その立体映像の展示してるところに行ってやるからとりあえず落ち着けって」
 と宥めることにした。
 ようやく二人を落ち着かせたのだが、先程言われたことが気になったため、
「けど、一人だけ抜け駆けしたって何の事だ?」
 と、何気なく尋ねると、次の瞬間、目の前の二人から殺気が吹き荒れてきたので慌てて飛び退く。
「え?! 何々?! 何で急にそんな反応してるんですか?! あと土御門! そんな本気出す構えとっ
てんじゃねえ! お前の本気は洒落にならねえんだよ!」
 焦る上条を前にして、ついさっきまでの騒ぎなど嘘のように固い結束で結ばれた土御門と青髪ピアスは
じりじりと間合いを詰めながら語りあう。
「ほほう。カミやんはどうやら周りにあれだけの女の子たちがいながらこんなこと言ってるようやで?」
「自覚なしとはなかなか舐めてるようなんだぜい。それとも、分かった上で敢えてそういってるのかにゃー?」
「いずれにしても」
「ああ。一度天誅をくらうべきなんだぜい」
 どうやら判決が出た模様である。というか、これでは検察側と裁判長の二人が結託してませんか?など
という上条の内心をよそに、二人は絶妙のコンビネーションで距離を詰めてくる。
 何とかしてこの場からの離脱を図ろうと上条が視線を逸らせた次の瞬間、二人が飛び掛ってきた。
 必死に抵抗するも、あっけなく勝負が付いて上条は二人から友情と言う名の拳を受けて地に沈んだ。



                   ◇                    ◇ 



 それからしばらくして、ようやく起き上がった上条は再び目的地に向かって歩いていた。
「しっかし、こないだの大覇星祭の時もそうだったけど、こんな時間から学生が道一杯にいるのを見ると、
つくづく今日は特別な日なんだなぁって思うよなぁ」
 上条が言うとおり、道を行くのはその殆どが学生で占められている。
 時間が午前中ということを考えるとより一層そう感じてくる。
「それにしても、何でみんなこんな外にいるんだ?」
 気軽な感じで尋ねる上条に対し、青髪ピアスが呆れたように言う。
「おいおいカミやん。それを言うたらウチらかてどうなんよ。他の人らも今から違う会場に行くか、それぞ
れの出先元へ見に行ってるんやないの? だいたいこんなのは学園都市に昔から住んでるなら分かりきっ
た事やない。どうかしたんかやー?」
 その何気ない言葉にこそ、上条の意識は反応しかける。それを、絶対の意思でもって身体が反応しな
いようにする
 “学園都市に昔から住んでいるなら”
 言った本人にしてみれば何とも思っていない言葉だろう。実際、青髪ピアスは上条にそう言った後、歩
きながら道中にある様々な催し物を眺めている。
 だが、 上条にとってはその言葉こそ、最も注意しなければならないものだ。
 なぜなら、上条当麻が夏休みより前の記憶を失っている事は誰にも知られてはいけないのだから。


 あの夏の日、あの病室であの少女に語った日からこれまで築いてきた日常。
 それを守り、続けていくためには僅かなミスも許されない。


「あー、そうだったよなー。なんかお前らにやられたせいでまだちょっと頭がボーっとしてたみたいだわ」
 だから、自分も気楽な調子で返す。
 だって、今のは本当に何でも無い事の筈なのだから。
 自分は今、何でもないように笑えているか? ぎこちなくは無いか? どこかおかしいところは無いか?
 そう自問しながらも必死に気持ちを落ち着け、普段どおり振舞うようにする。
 その上条に対し、
「んー、カミやん本当に大丈夫かにゃー?」
 隣から土御門が声を掛ける。
「だ、大丈夫に決まってるだろ。大した事無いって、ちょっと大げさに言ってみただけだから……」
 そう答えても、土御門は何も言わずにこちらを見ているだけだ。サングラスに隠れた目に自分がどう映っ
ているのかは自信が無いがそれでも日常を続けなければいけない。
「な、なんだよ……?」
「んー、まあ、カミやんがそう言うのなら大丈夫なんだろうにゃー」
 上条が逆に問い尋ねるとあっさりと返される。
 不安は残るが、あまり追求すると藪をつつく事になりかねないので困る。
 もどかしさを覚えながらも上条は二人と連れ立って目的地までの道すじを過ごすのだった。

 上条たちが集合場所となっていた会場を出て別の目的地に向かっているように、他の多くの学生達が移動しているのには訳がある。
 学園都市内外にある様々な企業、研究機関などを集め、その研究内容を展示し、それを観覧させる事によって自分達が生活してい
る学園都市、並びに 『外』 の環境などに触れさせるための『社会見学祭』ではあるが、さすがにそれら全てを一つの箇所に集めるの
は到底不可能といえる。
 さらに、業種や研究内容によっては会場として用意された建物の中に展示する事自体が無理な場合もある。
 その為大抵の場合、用意されている会場には簡単な展示用のブースを用意して、そこでどんな内容なのかを見てもらい、興味を持っ
た学生たちが自分たちのところに来てもらう、という方法を取っている所が多い。
 つまり、各学区ごとに数箇所用意されている会場は大きな見本市のようなものと言えるかもしれない。
 そして、それを見学する学生のほうにも様々な見学方法がある。
 幼年児や小学校低学年などの低年齢児には、それぞれの学校が学年ごとにあらかじめ見学させる企業や研究機関などを選んで最
初からそちらに行っているために、会場のほうにわざわざ来ることはあまり無い。
 比較的年齢が上がった中学生などでは、前もって幾つかの企業・研究内容を知らせておいたものの中からクラスごとに選ばせて見
学させるために、やはり、会場に足を運ぶことはあまり無い。
 ただし、学校によってはあえて会場に行ってそこで見てから判断させるという方式を取っているところもある。


 ちなみに、過去に学園都市内で行われた社会見学際において見学させる場所を学校側が事前に決定していた例としては、
「学園都市西部に残っている丘陵地帯を利用した高山植物の生態研究」を行っている研究機関。
「広大な敷地内に埋め込んだ特殊複合板水槽内で飼育している大型海洋生物の生態研究」を行っている研究機関。
「学園都市内で消費される食物生産ライン」を管理している研究機関。
 などがある。
 この内、丘陵地帯を利用している研究機関では、敷地となっている場所が用途上人の立ち入りが制限されていることもあり、まるで
ハイキングに来たかのような体験が出来る為、学校の施設内とはまた違う感性を得ることによる能力向上に繋がる事も期待されてい
るようである。
 また、特殊複合板水槽内では、おそらくは世界でここだけでだろうとも言われているシロナガスクジラの飼育が行われており、その姿
を見るのはそこいらにある水族館を見に行くよりも遥かに興奮する為に競争率の高い見学場所ともなっている。
 もっとも、学園都市に幼い頃から生活している生徒達は、大半が『外』においての水族館等を見たことは無い為に施設自体の希少性
といったものには関係なく、純粋にそこで飼育されている生命の姿を見ているようではある。
(もちろん、学園都市にある以上単に水族館として終わる事はなく、飼育にあたって培われてきた技術、例えば水槽内に蓄えられてい
る大量の水による超高水圧に耐えうる特殊複合板や、水槽内の水を浄化するシステム、そしてそこに水槽を埋めるために行われた新
しい掘削工事の方法等は様々な方面に転用できるものとしても注目されている)
 なお、食物生産ラインについてであるが、クローン食肉が管理されている牧場ビルを見学することは過去に理論ばかりを追求するよ
うな典型的なエリート校がよく調べもせずに見学を申し込んだため、その内部で管理、培養されている食肉の様子を見た生徒の多くが
トラウマにより精神に問題を抱え、結果能力開発に多大な損害を出したことがある為禁止されてしまっている。
 まあ、実際一面に広がる培養層に浮かぶ食肉の様子を嬉々として眺めるような生徒がいれば、それはそれで大いに情操面で問題
があるかもしれないのだが、学園都市側としてはあくまで結果を重視するために能力開発で問題となる事が無ければ見学禁止の措置
は取られなかったのではないか、とも言われているのだが。
(もちろんこれは事前の調査を怠った学校側の配慮の欠如が引き起こしたものであり、むしろ学園都市の食事情においては非常に重
要な施設であるのに不遇の目にあっている管理側は毎年不満が募っている)
 野菜の人工栽培を行っている農業ビルについては問題ない為に見学者を受け入れているが、一面に広がる水耕栽培の様子は変化
に乏しい地味なものでもあるために、年々見学申し込みの数が減ってきているようでもある。
 どちらも学園都市にとっては重要な施設ではあるのだが、今一つ人が集まらないために他の研究機関からは低く見られがちになって
いる。
 閑話休題(それはさておき)……。


  土御門たちと歩き続けていた上条だが、ふと違和感のようなものを覚えた。
 具体的に何がどう、という訳ではないのだが、何となくいつもの学園都市の雰囲気とは違うとでもいうのか空気が違うとでもいうのか。
 ともあれ、意識の端に浮かんだその感覚が何なのか明確な形になろうとする前に前を歩く土御門が隣の青髪ピアスに話しかける。
「しっかしあれだにゃー。やっぱしこうやって歩き回ってるのはウチらみたいな学年の生徒や『外』からのお客さんが殆どで、小さい子ら
は殆ど見かけんもんだぜい」
「?」
 そんな土御門に対して青髪ピアスはなにやら勝ち誇ったような感じで答える。
「はっはっは! 何ゆうてんねん。この程度の難易度、どうってことあらへんでー。むむ、告げる、告げるでー、ボクのアンテナがあっち
やって言うとる。ほれ! あそこにおったでー!」
 得意満面な顔で指差す先には5、6人ほどであろうか、中学生らしき生徒たちが一つのグループになって歩いている。 様子を見ている
と、どうやら班長らしき生徒の指示のもと、一生懸命にメモを取りながら見て回っているようである。
「んー初々しいやないの。こう、いかにも自分たちで決めて行動するんだー、って気合が入った感じが出てるところなんかイイやない? 
特にあの班長さんの女の子なんかは『自分が責任を持ってみんなを連れて行かなきゃ!』ってな意気込みが見えてるところなんかポイント
が高そうやでー」
「いいからお前は少し黙れ」
 途中から何だか暴走しだした青髪ピアスはとりあえず放っておくとして、話題に出たそのグループを目で追っていく。
(あーほんとだ。こうして見てると確かにちょっと緊張しながら歩いてる感じがするのがわかるなぁ。それにあの班長さんらしき子も責任感強
そうだしなぁ。張り切ってみんなをまとめようとするところなんかウチのクラスの吹寄みたいだし、きっと苦労するんだろうなー。まぁ無理も
ないだろなー、周りは殆ど大人や高校生とかの年の大きい生徒たちばっかだもんなー。――――……って)


「あれ?」


 思わず声に出してしまう。
 前を行く二人からはまたしても何事かと怪訝な目を向けられたため、慌てて「何でもない」と答えておいたが、今さっき自分が考えていた事
がどうも引っかかる。
 考え込む上条をよそに、土御門が続けていく。
「それにしてもあの子らも大変そうだぜい。大方いくつかの候補の中から見学する所を選ぶんだろうけど、それでも自分たちで判断しないとい
けないだろうしなー。ふむ、自由度と選択肢が限られてはいるけどある程度予定が決められている安心プランと、自由度はあるけど自分たちで
選択していかないといけない判断力と行動力画求められるプランかー。どっちがいいもんかにゃー?」
「あっはー! そんなん決まっとるやん! せっかくこんな面白そうなモンがそこいらにあるんやからいろいろ見て回れる方が楽しいんやで。
……って、待てよ、それともここは敢えて周りが自分たちよりも年上ばかりで慣れていない学区を歩き回らないといかんっちゅー設定を生かし
て、優しそうな年上のお姉さんに親切にしてもらえる方を選んだほうが正解なのか?! なあなあカミやんはどっちの方がええと思うー?」
 そんな二人の会話から、上条がさっきから感じていた違和感のようなものが何だったのかが分かった気がした。
 『歩き回ってるのはウチらみたいな学年の生徒や『外』からのお客さんが殆どで、小さい子らは殆ど見かけない』『周りは殆ど大人や高校生
とかの年の大きい生徒たちばっかり』という状況、つまり、今この通りでは年齢の低い生徒などは注目されやすい、ということになる。
(あれ? 何だか分かんないけど、嫌な予感がするのは何ででせう……?)
 普段は対不幸レーダーなるものの効果はあって無きが如しであるはずなのに、この背筋にゾクゾクときている予感めいたモノは一体何なのか?
 上条がそれでも一応注意を払いつつ見回していると、ふと、右手の方向に小さな人だかりが出来ているのが見えた。
(何だろうあれ……)
 前を行く青髪ピアスと土御門は何やら『年下を優しく教えるのがイイ』という意見と『年上に優しく教えてもらうのがイイ』という意見を激
しく闘わせており、上条の見ているモノに気付いた様子は無い。
 上条が眺めていると、その人だかりはどうやら外部から来た人間が多くその輪に入っているようである。
 それも、少人数が数人が作っている輪から一人が抜け出すと暫くは人が加わらないのだが、やがて何かに気付いたような顔をした大人がそこ
に寄って行くようである。
 しかも輪から抜け出てくる大人は外国人が多く、皆が皆、先程吹寄が持っていた『案内パンフレット』とやらを広げながら歩いていく。
(パンフレットを持ってるってことは何か目的地があったんだろうけど、何であすこに固まってるんだ? どうも目的地は別っぽいし、何があ
ったんだろなー)
 まず人垣の隙間から僅かに見えた背格好からして、どうやら小さな学生のようだった。
 いや、学生『達』と言った方がいいか。少なくとも二人いるようだからだ。
 そして、一人はどうやら中学生のよう、もう一人はそれよりもさらに幼いようだった。
 さらに、時折隙間から見える中に、銀色の光があった。
(…………銀色?)
 何か心当たりがあるような気もするが、思い当たる節はとりあえず、無い。
 自分のよく知る人物は、もっと違う格好をしているからだ。
 人の輪がさらに少なくなったときに見えたのは、ここ学園都市においてもあまり目にすることの無い制服であった。
 それは、人に仕える立場の人間が着る為の制服だった。
 始めは、その制服が珍しい為に人が寄っているのかとも思ったが、どうも違うようだ。
 どうも様子を見ると、輪の中心にいる人間と一言二言話をして立ち去っているようである。
 そうこうするうちに『ソレ』を取り巻く人だかりが少なくなったとき、上条は驚愕の光景を眼にすることになる。


 「ぶっ!!?」


 『ソレ』を見た瞬間、思わず吹いた。
 まず最初に目に入ったのは、前を行く土御門元春の義妹である舞夏の姿であった。
 次に目に飛び込んできたのは、銀色の髪のメイド服の少女だった。
 あれ、何か見覚えがあるよーな? と思ってよくよく見ると、


 イ ン デ ッ ク ス が メ イ ド 服 を 着 て 周 り の 大 人 達 と 話 し て い た 。

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