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SSスレまとめ>三日間~Three Days~>3rd-5

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匿名ユーザー

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「神の子、だと?」
 土御門が一体何を言っているかわからないという風に聞き返す。その横のステイルも同じような表情だ。
「左様。かつて一二使徒を率いた十字教の開祖、正確には同等の力を彼に覚醒させるのだがな」
 そう言うサイモンの視線は身動き一つしない篠原に向いている。
 神の子。
 イギリス清教、ローマ正教、ロシア成教を束ねる十字教における最重要人物。その力の強大さは聖人の力がその一端を担ったものであることを考えると想像に難くない。
「はっ、何を言い出すかと思えば」
 そこで口を出したのはステイルだ。
「不可能だな。たかがいち魔術師にそんなたいそれたコトが出来ると思っているのか?」
「ああ、可能だ」
 一笑のもとに切り捨てたはずが、間髪いれずに返された言葉に神父は思わずつり上がっていた口元を元に戻す。
「理論は一五年以上前には完成していた。まあ一番の材料が見つからなかった故、当時は半分諦めていたのだがな。」
 そこまで聞いた土御門の表情が更に一変する。
「材料だと? まさかっ……!?」

「そう、聖人だ」

「まったく、彼を見つけたときには興奮で震えが止まらなかったよ、まさか十字教徒に発見されていない聖人が居たとは。なにせ私の理論では、神の子の身体的特徴をもつ聖人の身体が必要不可欠だったのだからな」
 サイモンは休むことなく軽快に口を動かせる。
「程なくして『必要悪の教会』を抜けた私は、時間をかけて彼に神の子の生涯になぞった魔法陣をかけていった。私の研究成果のひとつである、人体への魔法陣の描画を用いてな。そして今その仕上げが済んだというわけだ。まあ他の者達が刻もうとした魔法陣も補助ぐらいにはなるかと思っていたが、ないならないで別段問題はない」
「待てよ……」
 今まで黙っていた上条が、そこで初めて声を上げた。
「お前の理屈なんか知らない、聞いてわかるもんでもないしな。それより、何で篠原がそんなことに協力してるんだ? あいつの話じゃこれはあいつの寝たきりになった母親を救うための儀式のはずじゃねえのか?」
「無論、それも目的のうちだ」
 肯定はされたが、上条は逆にますますわからなくなる。
「聖母、といえばそこの魔術師達ならわかるだろう」
 その言葉にピクッと二人の魔術師が反応する。
「なんだ、どういうことなんだ?」
「……神の子と親子の関係にある聖母は、無論その身体的特徴が非常に似通っている『聖人』だ。要するに、篠原が神の子となればその母親は聖母としてやはり強大な力を得ることが出来るって言うわけだ、だが――」
 土御門はそこで一度はっきりと言い切らないような口ぶりの言葉を切った。
「ヤツの母親がどんな状態かは知らないが、力を得たところでそれが回復するとは思えないがな」
「そこはもちろん考えてある」
 そう言葉を返すサイモンに、土御門はその力を回復に向けるための術式の説明でもくるのかと思った。だが、歪んだ笑みを浮かべるサイモンから出てきた言葉はそれとは程遠いものだった。
「あらかじめ、彼女の身体に圭様と同じ『罪』を、人間の負の感情を凝縮させた呪いを刻んである。もともと放っておけば程なくして意識が目覚めそうだったのでな。そして圭様が『神の子』となられれば彼女は聖母となり、『聖母の慈悲』によって晴れて彼女は回復し、全ては解決する。きちんとドラマは用意しておいたよ、彼の望む結末と私の望む結果が一致するようにな!!」
 その言葉に上条は絶句する。
 篠原が必死に、それこそ自分の命を賭けてまで目的を果たそうとしていたのを見た。
 だがそれも全てこの目の前の黒いスーツの男によって騙された結果だったのだ。
 リアがぼろぼろになりながら泣きそうな顔で懇願してきたことも、篠原が今死の淵にいることも、全ては。



「……ふざけんなよ…・・・」
 絞り出すような声が無音の空間に響く。
「ふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 その声を一瞬で叫びに変えながら、上条は再び突進していく。
「別にふざけてなどいないが。ともかく、成すべきことは全て終えた。あとは――」
 そう言いながら眼鏡の男は黒いスーツに手を入れる。そこから出てきたのは五本の小さなナイフだ。
「あとは貴様ら不穏因子の排除というわけだ。」
 言うが早いか、その手の中のナイフが一斉に放たれる。
 雷撃ではない攻撃に少し意表はつかれたものの、それでもナイフがこちらに到着する前に上条はその軌道から外れるために横へと動く。ちらっと後方へ視線をやると、さっきまで居た二人がもう見えない。どうやら既に動き出していたらしい。
 そして目線を前に戻した上条は目を疑った。
 三本のナイフの軌道が上条の方へと変わっていたからである。
 慌てて頭を下に振ることで避けれたが、それで状況は終わらない。それらはUターンして再びこちらへと向かってきていた。
「偽小刺剣(リトルスタッブ)といってな。」
 そこでまたサイモンが口を開いた。それを他の二本をかわし続けるステイルが睨みつける。
「刺突杭剣を作る過程で出来た失敗作だが、それでも刺突に関してはかなりの威力を持つ。それこそ、貴様の炎では防げないほどにな。それが貴様らを追尾していく故、出来るのは逃げることだけ、ということだ」
「そうでもねえよ」
 ガキィィィィィッと、突然何かが砕けるような音が響く。
 その音源は右手を前へと突き出していた。手からは恐らく二本のナイフだったのであろうものの破片がばらばらと落ちていく。
「それが魔術の使われているものだってんなら、俺が右手で触れるとそれは簡単に壊せる。こんな風にな!」
 上条はそう言いながら右手を乱暴に振り回す。それと同時にまた固いものが砕ける音がして、上条の右手から逃れて再び襲い掛かってきた最後の一本が粉々に砕かれた。
「あとは横からの攻撃に弱いってところかな。正面からなら確かに驚異的な威力だが炎を回り込ませればどうにかできないこともない」
 そう言い切ったステイルの周辺にも残る二本のナイフが黒く焦げてからんっ、と屋上の床に転がる。
「……たしかに。それが霊装である以上貴様の幻想殺しに触れるだけで破壊される、側面が弱いことも事実だ。だが貴様ら、そうやって傷を負いながら全てを破壊するつもりか? 偽小刺剣はまだいくらでもあるのだぞ」
 そしてサイモンは今度はさっきの倍以上のナイフを取り出す。
 それを見て、上条はくッとうめき声を上げながらさっきできた左腕の傷を抱えて片膝をついた。
 この傷はとり損ねた一本が通過していってできた傷である
 たしかに、こうやってナイフを破壊していっても傷は増える一方だ。しかも今度は本数が増やされている。こんな調子で何本も投げつけられるとひとたまりもない。
 ステイルに関しても、ナイフ自体は打ち壊せてもその衝撃までも捌けるものではないらしい。黒尽くめの服はところどころ破け、そこからは赤いものがにじんでいた。



「なら、こっちはお前の弱点をつかせてもらおうか」
 傷を負った二人の逆側でナイフの射程から逃れていた土御門は、そう返しながら何かを取り出した。
 その黒光りする物体を見て上条は思わずぎょっとする。
「待てよ土御門! ……お前、何するつもりだ?」
 そう聞きながらも、上条は目の前のクラスメイトが取り出したものと言葉から感づいていた。
 あれは拳銃だ。
 無論そんなものでサイモンの霊装に勝てるわけがない。
 ならばすることは?
「決まってんだろ? 篠原圭を先に潰すのさ」
 そう言いながら土御門は拳銃を剣の生えた篠原へと向けた。
 それを見た上条は反射的に土御門に向かって駆け出す。
 だがそれよりも土御門の動く方が早い。その手からパンッと乾いた音が響き、銃弾が血を吹き出させる。
 ただし、その血は篠原圭のものではなく、上条当麻のものだった。
 その光景に、土御門が動く前に篠原の壁になるように立ったサイモンは少し目を見開く。
 とっさに転がったおかげでそれは肩を掠めた程度で済んだが上条の顔に安堵の色は浮かばない。
「……まあ、予想はしてたんだがな。こうなった以上優先順位は危険因子の排除、それはこの場ではあの得体の知れない魔術をかけられた篠原圭だ。」
 未だ硝煙が上る拳銃を上条に向けたまま土御門はサングラス越しに睨みつけている。
「だからもうここから消えろ、上条当麻。貴様にヤツを処分する意志があるとは思えないからな。もし邪魔するなら、容赦はしない」
 上条も土御門を睨みつけたままよろよろと立ち上がった。
「お前はっ……俺がはいそうですかって家に帰るとでも思ってんのかよ!」
「ならお前もヤツと同じように転がっててもらうだけだ」
 そこから両者は一歩も動かない。
 遠くから聞こえていた爆発音もなくなりそこは外とは思えないほど完全な沈黙に包まれる。
 それを破ったのは土御門に向かって飛んできた複数のナイフだった。
 それらをギリギリのところで避けた土御門は、再び襲ってくるであろうナイフから逃れるために駆け出す。
「まさかここで仲間割れとはな」
 ナイフを投げた片方の手をこちらに向けたまま、口元を上げたサイモンが続ける。
「くくく……分が悪そうだな幻想殺し。どうだ、加勢してやってもいいのだぞ?」
 それを聞いた上条が明らかに自分を逸れて傍を飛んでいくナイフの方に右手を振り回す。二本のナイフが砕ける音がしてばらばらになりながら床に転がった。
「ふざけんなっ! お前は俺の敵だ!」
 土御門は残るナイフを傷を作りながらもかわしつつ、それらに側面から銃弾を当てて一つずつ砕きながらサイモンを睨みつける上条の方をチラッと見る。
(ちっ。本当に甘いな、カミやんは)
「『敵の敵は味方』に非ず、か。まあそれもよかろう」
 そしてサイモンは手の中のナイフをしまい、近くにあった入ってきたときに放っていた大きめのトランクケースに手をやる。
「もう一つ、面白いものを見せてやろう」



 そこから上から吊り上げられるように出てきたのは人、いやそれぐらいの大きさの人形だった。

 それが不自然にかくかくと動きながらこちらに手をかざす。それと同時にそこから白い電流が走った。
「なっ!?」
 電流は完全に見当違いの方へと飛んでいき、出入り口付近の壁を砕く。
「ふむ、飛び道具に関してはまだ調整がいるか」
 サイモンがまた淡々とした調子で呟く。
 その一方で上条達は目の前の異様な光景に呆然としていた。
 土御門は目の前の人形に心当たりがあった。あれは実験などで使われる耐衝人形(デコイ)だ。そしてたしか最近それが紛失した事件があったコトを思い出す。
「まさか、一昨日に研究所を襲ったのは貴様らか!」
「ああ、『彼』は第一三使徒、マティアだ」
 かみ合わない返答をしながら黒スーツは続ける。
「まだ若干の調整は必要だが他の者たちよりはるかに優秀だ。まあいずれ、使徒は全て『彼』と同じものに替えるつもりだがな」
 使徒マティア。
 ユダの裏切りおよび死後、一二使徒という完全な形態を保つために新たに選出された事実上一三番目の使徒。
 それが、ギリギリと不快な音を立てながら不自然な歩き方でこちらに向かってきていた。
「『サイモン(ペトロ)』率いる一二使徒と神の子か。どういうつもりだウォーレス!」
 最初に問い詰めたのと似たような言葉で、ただし余裕のない口調でステイルが問いかけた。
「無論、神の子と共に世界を変えるまで」
 ウォーレスという言葉に次は一切の反応を示さず、サイモンは誇らしげに言い切る。
「この世界は社会も人も、十字教ですらもう汚れきっているのだ。ならば今こそ『神の子』が復活するべきだろう、そして私は彼と共に――」
「もういい、わかった」
 演説を途切らせられたことに多少イラついた様子を見せつつも、サイモンはそれを押さえ込み土御門の方を見る。
「ほう、理解したか」
「ああ、貴様がイカレた狂信者だってことがな」
 サイモンが一瞬その表情を明らかに怒りに歪め、そしてその手に再び何本ものナイフを握った。

「――行け」

 そのサイモンの言葉を合図となる。
 不自然な動きの人形が土御門に向かって物凄いスピードで突進していく。それを土御門は拳銃を構えながら後退しつつ迎え撃つ。
 残る二人はサイモンに向かって攻撃を仕掛けた。ステイルは炎の剣を、上条は右手を振りかざしながらそれぞれが突進していく。
 だがそれと同時に既に複数のナイフがこちらに向かって飛んでいた。その量はさっきとは比べ物にならない。
「くっ」
 反射的に二人はナイフの軌道から外れるために横に飛ぶがそれでも避け切れなかった幾本ものナイフが彼らの体の表面を削り取っていく。かつ避けた分が再びこちらに迫ってきていた。
 それだけでは終わらない。
 サイモンがまたもナイフを投げつつ、さらにバヂバヂッと雷撃までも放つ。それは彼らを狙い、また彼らの逃げ場を失くしていく。
(くそっ、このままじゃ……)
 上条は一方的なこの状況を打破しようと考えるが何も思いつかない。それどころかこの状況をしのぐことで手一杯だ。
 どうやらステイルや土御門も同じようで、攻撃を避けつつも確実に傷は増えていっている。それでも土御門は拳銃で、ステイルは炎剣でそれぞれサイモンに攻撃を放つが、それらは当たる寸前で全て光のカーテンに阻まれる。
(くそ!)
 上条は覚悟を決めて、右手を盾のようにかざしながらサイモンに向かって突進した。作戦は篠原のとき同様特攻だ。
 だが今は状況が違う。
 かわそうとしない上条を増え続けるナイフが一方的に刻んでいく。それでも上条は止まらない。
 そんな上条を見た土御門は目を見開いた。
「後ろだっ! カミやん!!」
 その声に反射的に振り向いた上条の目に映ったのは何本ものナイフの切っ先だった。それは距離的にももうかわしきれるものではない。
(くそっ!!)



「CR(右方へと変更)!」

 突然聞こえた声と共にナイフは全て上条を逸れていく。上条はその声と出入り口に立つ人影に覚えがあった。
「インデックス!?」
 白い修道服を着た居候の少女。その後ろには黒いスーツの少女の姿も見える。
 たしかこのシスターには後ろの少女の介抱と避難をするように言ったはずなのだが、やっぱりというか約束を守る気はなかったらしい。その表情は自分の非があるというような意識などこれっぽっちもないようだ。
「危なかったねとうま、助けに来たんだよ!」
「お前なんでっ! ……いや、ありがとう。助かった」
 言いつけを守らなかったシスターを一瞬怒ろうとしたが、上条はすぐにそれをやめ素直に感謝することにした。
 今のは多分インデックスが何かしたのだろう、じゃないと今頃自分は額にナイフを生やしていたところだ。
「嘘……篠原?」
 突然、シスターの横にいた少女が声を上げたことに上条はビクッと体を振るわせた。
 サイモンと同じ黒いスーツを着た少女、その目は半年前に再会したという幼馴染に向かっている。
 腹部から剣を生やし、ピクリとも動かない幼馴染を。
「篠原ぁぁあああああっ!?」
「落ち着けリア! 篠原はまだ生きてる!」
 上条は篠原に向かって駆け出しかけたリアにそう答えながらそれを手で制した。
 だが、本当にそう言いきれるのだろうか?
 たしかに篠原はまだ死んではいない。しかし今の仮死状態を崩せばそれだけで命を落とす。
 儀式が完全に成功すればたしかに篠原は復活するだろうが、果たしてそれを篠原といっていいのだろうか。
 『神の子』となった篠原は、本当に自分達の知っている篠原なのか。
 考えて上条は表情を曇らせる。
 それがもう戻らないかもしれない篠原を思ってのことなのか、リアとの必ず助けるといった約束を果たせなかったからのものなのかは上条自身にもわからない。
 と、その手を明らかにリアの方に向けて電流を放ちかけていたサイモンは、その手をすっと下げながらため息をついた。
「招かれざる客がぞろぞろと。人払いのルーンは刻んでおいたはずだがな」
「あの程度のルーンで僕達を欺けると思われているとはね。ましてや彼女は禁書目録だ、あんなものないに等しいよ」
「……ふん、さっきからうるさい小僧だ。まずは貴様から潰しておくか」
 そして眼鏡の黒スーツはその手を今度は赤髪の神父へと向ける。それに反応して上条や土御門の周辺を舞っていたナイフの幾らかが軌道を変えた。
 その軌道の延長線上にいるステイルはチィッと舌打ちしながらその手に炎の剣を出現させる。全てをかわしきることも壊すことも不可能だと分かりながら、それでも彼は身構える。
 だが、
「CU(上方へと変更)!」 
その言葉によって、やはりナイフは強引に吊り上げられたかのように軌道を変化させる。そしてそれらはあるものはそのまま飛んでいき、あるものは互いに正面衝突しあって砕け散った。
 目の前の光景に唖然としつつもステイルとサイモンは先の声の主視線をやる。その当の本人であるシスターはナイフの砕けたステイルの頭上辺りを見上げていた。
「『刺突』の宗教的意味を増幅させた霊装。その威力はたしかに凄いけどその分他の術式を施せなかったみたいだね、遠隔操作なら私の強制詠唱で割り込めるんだよ」
 そしてインデックスは更に口を動かして何かを唱える。
 それに反応するように逸れていった残りのナイフが軌道を変えてまだ動けないままのサイモンに襲い掛かり、サイモンの頭上の球体にぶつかり砕けた。
(クソッ、やはりダメか)
 土御門はあのナイフならばもしかしたら結界を突破できるかもしれないと思ったが、それが失敗に終わり心の中で気落ちする。
 それでも、何か策はないかと思考を切り替えた次の瞬間。
 球体にヒビが入り、そして砕け散った。と同時に、彼を囲む光のカーテンの範囲が狭まる。
「その霊装も境界っていう結界は凄い防御力を持ってるけど、それを作り出してる球体が弱点だね。そして数が少なくなると、必然的にその範囲は狭くなる」
 凄いな、と上条は思わず呟く。
 このシスターの日常を見ているとつい忘れがちになるのだが、彼女は紛れもなく一〇万三〇〇〇冊の魔道書の知識を持つ魔道図書館なのだと改めて思い知る。
 例え、いつもは人を振り回して家事ひとつ手伝おうともせず特技が大食い早食いの腹ペコシスターでも、だ。
 と、いきなりバヂバヂッと物凄い音がして上条は思わずそっちを見る。
 そこには、眉間に皺を寄せて怒りの表情でインデックスを睨みつけながら右手に異常なほど電流を走らせているサイモンの姿があった。
「禁書目録ぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
 叫びながら、サイモンはその手からとんでもない電撃をインデックスに向かい放った。



 それを見た上条とステイルの顔に焦燥の色が浮かぶ。
「インデックスッ!」
 上条はインデックスの前に立つようにその間に割って入り、そして右手を掲げる。固いものを砕いたような音が響き、走った電流は右手に着地して消滅した。
「やはり貴様も儀式の邪魔となるか幻想殺し! いいだろう、厄介な禁書目録もろとも潰してくれるわ!!」
 そう言い放った黒いスーツの男は、これまで抑えてきた感情を開放したかのような表情で懐から持てるだけのナイフを取り出す。それを握る手からは血が流れている、恐らく何本かは刀身を握っているのだろう。
(やばいっ!! あんな数一斉に投げられたらいくらインデックスだって……)
 対処できないかもしれない。
 そう思いかけた矢先、何かブツブツと呟く声が聞こえてくる。それはよく聞くと、何かの呪文のようだった。
「……それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり(IIMHAIIBOD)」
 それを唱えるのは下を向いている赤い髪の神父だ。
 ふと視線を戻すと、異変に気付いたサイモンもナイフを握ったままステイルを見ていた。

「その名は炎、その役は剣(IINFIIMS)
 顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ(ICRMMBGP)!!」

 詠唱が終わる。
 そしてそこに強大な炎の巨人が現れた。
 魔女狩りの王『イノケンティウス』。
 轟々と燃え盛るこの巨人を象った重油の人型はステイル=マグヌスの最大の魔術であり、その力は教皇クラスの威力を持つ。
「なっ……!?」
 サイモンの口から思わずといった風に声がこぼれた。それをステイルは睨みつけるように見つめる。
「僕の任務は君を回収してイギリスまで連れて帰ることだ。だからこの術は使わないようにしようと思ってたんだけどね」
 唸るような低い声で神父は言う。
 あいつ切れやがったな、と上条は思う。
 ステイルにとって一番重要なのはインデックスだ。そのインデックスに向かって電撃を放ち、潰すと言ったサイモンをまあステイルが許すことはないだろう。
 そして炎の巨人はその手を振り上げる。
「もういい、殺す」
 その言葉と同時に、イノケンティウスの振り上げた十字が思い切り叩きつけられた。
 それを目を見開いたサイモンは思わず手からナイフをこぼして手を上にかざす。その周辺に球体が集中し、結界は二重にも三重にも重なって三〇〇〇℃の炎を受け止めた。
 続く爆炎。
 ドゴオオオオオオッという凄まじい爆音と共にあたりが煙に包まれる。
「くっ……」
 煙の向こうからうめき声が聞こえる。
 そして少しづつ晴れていく煙の中からは、傷を負うことはなかったものの片膝を突いて憔悴したサイモンが現れた。それにステイルが冷ややかな目線をやる。
「しぶといヤツだな」
「……大した魔術だ。だがそれをもってしても私はまだ傷を負っていないぞ?」
「それだけ憔悴していてよくそんな大口が叩けるものだね。まあ、それなら何度でも叩くだけだ」
 そして巨人がまた手を振りかざす。

 そのとき、異様な気配を感じてその場の全ての人間は動きを止めた。

 それに真っ先に反応したのはサイモンが焦燥しながら振り返る。
「馬鹿なっ!? まだ儀式が発動するわけがっ!?」
 その言葉に、反射的に他の全員も首を動かす。
 それぞれの視線の先にいるのは、篠原だ。
 その体からは黒いもやが噴出し、彼の体を包み込んでいる。
 唖然としながらもはやその場に立ち尽くす六人。

 そして、キィィィィィィンという音と共に、彼に刺さっていた剣が宙高く舞い上がった。

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