学園都市第九学区のある研究施設。
いつもなら必要最低限の灯りのみを残し学生もほぼ見あたらないような状態となる時間なのだが、今ここは燃え続ける一部の機材とそれを見に集まってきた野次馬で騒々しい状態だった。
正面では重装備の警備員が出入りし、その周辺は野次馬のそれ以上の侵入を許さないよう「KEEP OUT」と記されたテープで囲まれている。施設の各地ではいくらか消火されたものの、いまだに燃え続ける研究機材などがもうもうと煙を上げていた。
警備員の一人である黄泉川愛穂は施設に到着すると、近くで野次馬を抑えるのに狼狽していた鉄装綴里を捕まえて施設の中へと進んでいく。
「で、状況は」
「は、はいっ! えっとですね、負傷者は研究員七人、警備員十二人の計十九名でいずれも軽傷です。それで情報をまとめると、何者かによる爆破事件ってことになってるみたいです」
鉄装は重装備の警備員のジャケットから小型のデバイスを取り出しボタンをピコピコ押しながらデータを読み上げていく。
「何者か? テロリストってことじゃん?」
「いいえ、侵入者は爆破を起こしてすぐに現場から立ち去ってます」
「そうか、その侵入者ってのは?」
「人数は四,五人。その全員が黒いスーツ姿で発火、発電能力者、それを当時施設で巡回していた警備員の一人がその姿を目撃しています。爆破もおそらく能力によるものだそうです」
「ふーん、じゃあやっぱり『新素材』目的の強盗ってとこじゃん?」
この研究施設では最近開発された素材が話題になっていた。
CHB(硬度と柔軟性の両立)と呼ばれるこの素材は、柔軟性と硬度の従来の数値を大きく更新しさまざまな研究への応用を期待されている。もともと工芸品を作るうえで偶然発見されたものなのだが、その実用性からひとつの研究施設が専用に改築されるほどだ。
「はい、実際に研究室からCHBが数kgなくなっているようです。それと・・・」
「?」
不意に言葉を止めた眼鏡をかけた警備員に黄泉川は立ち止まって振り返る。
「実験用耐衝人形も数体、現場から消えています」
「デコイ?」
(んなもん何のために・・・? 大体、CHBの製法は近々特許をとって大々的に発表されるはずじゃん。それをわざわざこの時期に強盗までして手に入れる? まさかデコイが目当てってわけでもないだろうし。)
あーもうワケわからんじゃんと考えに行き詰った頭をに手をやっていると、あれあれっと言う声が横から聞こえてくる。見ると、焦った様子の鉄装の手元のデバイスからビービーと警告音が鳴っている。どうやら使い慣れないデバイスが何らかのエラーを出たらしい。はぁ、と自分でもよくわからないため息をついた後、身体をさっきまで進んでいた方向へ向けなおす。
犯人の目的がどうにも見えないがここで考えても仕方ない。まず今は自分達にできることをするしかないのだから。
いつもなら必要最低限の灯りのみを残し学生もほぼ見あたらないような状態となる時間なのだが、今ここは燃え続ける一部の機材とそれを見に集まってきた野次馬で騒々しい状態だった。
正面では重装備の警備員が出入りし、その周辺は野次馬のそれ以上の侵入を許さないよう「KEEP OUT」と記されたテープで囲まれている。施設の各地ではいくらか消火されたものの、いまだに燃え続ける研究機材などがもうもうと煙を上げていた。
警備員の一人である黄泉川愛穂は施設に到着すると、近くで野次馬を抑えるのに狼狽していた鉄装綴里を捕まえて施設の中へと進んでいく。
「で、状況は」
「は、はいっ! えっとですね、負傷者は研究員七人、警備員十二人の計十九名でいずれも軽傷です。それで情報をまとめると、何者かによる爆破事件ってことになってるみたいです」
鉄装は重装備の警備員のジャケットから小型のデバイスを取り出しボタンをピコピコ押しながらデータを読み上げていく。
「何者か? テロリストってことじゃん?」
「いいえ、侵入者は爆破を起こしてすぐに現場から立ち去ってます」
「そうか、その侵入者ってのは?」
「人数は四,五人。その全員が黒いスーツ姿で発火、発電能力者、それを当時施設で巡回していた警備員の一人がその姿を目撃しています。爆破もおそらく能力によるものだそうです」
「ふーん、じゃあやっぱり『新素材』目的の強盗ってとこじゃん?」
この研究施設では最近開発された素材が話題になっていた。
CHB(硬度と柔軟性の両立)と呼ばれるこの素材は、柔軟性と硬度の従来の数値を大きく更新しさまざまな研究への応用を期待されている。もともと工芸品を作るうえで偶然発見されたものなのだが、その実用性からひとつの研究施設が専用に改築されるほどだ。
「はい、実際に研究室からCHBが数kgなくなっているようです。それと・・・」
「?」
不意に言葉を止めた眼鏡をかけた警備員に黄泉川は立ち止まって振り返る。
「実験用耐衝人形も数体、現場から消えています」
「デコイ?」
(んなもん何のために・・・? 大体、CHBの製法は近々特許をとって大々的に発表されるはずじゃん。それをわざわざこの時期に強盗までして手に入れる? まさかデコイが目当てってわけでもないだろうし。)
あーもうワケわからんじゃんと考えに行き詰った頭をに手をやっていると、あれあれっと言う声が横から聞こえてくる。見ると、焦った様子の鉄装の手元のデバイスからビービーと警告音が鳴っている。どうやら使い慣れないデバイスが何らかのエラーを出たらしい。はぁ、と自分でもよくわからないため息をついた後、身体をさっきまで進んでいた方向へ向けなおす。
犯人の目的がどうにも見えないがここで考えても仕方ない。まず今は自分達にできることをするしかないのだから。
朝日が昇り、部活の朝練などで朝が早い学生や教員達はもう動き始めている時間。
ホテルの部屋の前の廊下にはすでに学生服へ着替えた篠原が立っていた。
そこに角からゆらっとひとつの影が現れる。
「遅かったな、サイモン」
現れた影に向かって篠原は視線を向けないまま話しかける。
「ええ、昨夜は仕事がありました故」
「仕事ねぇ・・・」
サイモンは大き目のトランクケースを引きずりながら学生服の少年の前を通り過ぎ、彼の立っている前の対面の部屋のドアに手をかける。
「これから作業に入ります。しばらく時間がかかります故、この部屋への出入りはご遠慮願います」
「なら先に言っとく。禁書目録と接触した」
「!!」
眼鏡の黒スーツが今まで崩さなかった表情を明らかな驚愕に変えて振り返る。
「それだけじゃない。その管理人ともな」
「まさか幻想殺しとも接触を!?」
更にかけられた言葉に振り向いた勢いのままサイモンは篠原の両肩を思いきり掴みかかった。それを少年は迷惑そうに払いのける。
「ああ。安心しろ、別に触れたわけじゃない」
気の抜けた顔に変わったサイモンを見ながら篠原は廊下の奥のエレベーターに向かって歩き始めた。
「昨日のことだ。詳しく知りたいならリアに聞け」
朝メシはどっかで食う、と少年は手をひらひら振りながら後ろを見ずに角を曲がっていく。
それを呆然としばらく見送った後、サイモンは足早に早朝の廊下を歩き始めた。その方向には、未だぐっすりと眠り続けるリアのいる部屋がある。
ホテルの部屋の前の廊下にはすでに学生服へ着替えた篠原が立っていた。
そこに角からゆらっとひとつの影が現れる。
「遅かったな、サイモン」
現れた影に向かって篠原は視線を向けないまま話しかける。
「ええ、昨夜は仕事がありました故」
「仕事ねぇ・・・」
サイモンは大き目のトランクケースを引きずりながら学生服の少年の前を通り過ぎ、彼の立っている前の対面の部屋のドアに手をかける。
「これから作業に入ります。しばらく時間がかかります故、この部屋への出入りはご遠慮願います」
「なら先に言っとく。禁書目録と接触した」
「!!」
眼鏡の黒スーツが今まで崩さなかった表情を明らかな驚愕に変えて振り返る。
「それだけじゃない。その管理人ともな」
「まさか幻想殺しとも接触を!?」
更にかけられた言葉に振り向いた勢いのままサイモンは篠原の両肩を思いきり掴みかかった。それを少年は迷惑そうに払いのける。
「ああ。安心しろ、別に触れたわけじゃない」
気の抜けた顔に変わったサイモンを見ながら篠原は廊下の奥のエレベーターに向かって歩き始めた。
「昨日のことだ。詳しく知りたいならリアに聞け」
朝メシはどっかで食う、と少年は手をひらひら振りながら後ろを見ずに角を曲がっていく。
それを呆然としばらく見送った後、サイモンは足早に早朝の廊下を歩き始めた。その方向には、未だぐっすりと眠り続けるリアのいる部屋がある。
まだ目の覚めきっていない学生もいるなか、一時間目を終えた上条当麻は廊下に出て大きく伸びをした。
昨日はいろいろとドタバタしたが、帰りに寄ったデパートで食料を調達したおかげで今日はしっかり朝ご飯を食べることができた。もちろんインデックスのご機嫌を損なうこともなく、おかげで朝から絶好調である。何気に幸せを感じている上条だがいうまでもなくその要因が普通なことのあたり、彼の日頃の不幸具合がよくわかる。
「よーう、上やん。昨日と違って機嫌いいみたいだにゃー」
昨日と、というよりいつもとまったく同じ感じで土御門は廊下の向こうから声をかけてきた。
「まーな、なんてったって今日は朝ご飯は抜かなかったからな」
堂々と言い放つ上条にさすがの土御門も少し気の毒な顔で生返事をする。
「てゆーかお前今来たのか?」
「ちょっと昨日寝たのが遅くてにゃー。さっき起きたばっかぜよ」
おいおいと上条は思うが昨日三時間目の最初にまでがっちり遅刻したヤツがとやかく言う権利はない。
と、土御門が歩いてきた方とは逆から人だかりが歩いてくる。その先頭は昨日転校してきたばかりの茶髪がかった少年だ。上条にとって、昨日自分が先に助けに入ったとはいえその後しっかり不良たちを打ちのめし、しかもインデックスの食事代を半分出してくれた(ここが重要)恩人でもある。
「おーす、しのは」
「ああ、おはよう上条君。昨日は助かったよ」
人の群れの中心に立つ篠原はものすごいさわやかな笑顔である。思ってもみなかった相手の反応に上条は思わずへっと声を出して少しフリーズした。
目の前で取り巻きたちに昨日どうしてたのなどと聞かれ笑顔で答えるこの少年は、昨日のファミレスではどちらかと言うと昨日のチンピラによく似た雰囲気で、言葉遣いも今使われたものとはかなり遠いところにあるモノだった気がする。
ようやくフリーズから抜け出し篠原に話しかけようとした時には篠原はこちらの近くにまで寄ってきた。
(よう、俺は学校ではとりあえずこのキャラで通してんだ。あんま余計なこと言うなよ)
上条にしか聞こえないくらいの小声で茶髪がかった少年は釘を刺してきた。
(キャラって・・・なんでそんなことしてんだ?)
反射的に上条も小声になる。外からみれば会話しているようには見えないが、見つめあっている形なので下手をすれば変な誤解の目で見られるかもしれない。
(別になんだっていいじゃねーか。昨日は出費少なくてよかっただろ?)
うっ、とツンツン頭の少年が小声ではないうめき声をあげる。その正面では後ろからどうしたのというクラスメイトの問いかけにやはり笑顔で対応する茶髪がかった少年の姿があった。
じゃ、またねと爽やかな笑顔を貼り付けて篠原はその場を後にする。それについていく取り巻き達を見送りながら、上条はあいつ昨日実はここまで考えて俺に奢ったんじゃねーだろうなとさっきまで感じていた感謝の気持ちを半分ぐらいにしていた。
「上やん、もうあの転校生と仲良くなってたんだにゃー」
そこで、さっきから黙って廊下の外側に張り付いて腕を組んでいた土御門がようやく声を発した。その表情はサングラスで隠れてはいるが、何かを企んでいるようなそんな感じだ。
「ああ、昨日いろいろあってな」
先ほど釘を刺された手前あまり彼のことをいろいろ聞かれては墓穴を掘りそうだと考えていた上条だったが、こちらが話を適当に変えてしまおうとする前に横から思わぬ横槍が入る。
「いろいろってなんなんやー上やん? 昨日何しとったんやー?」
見ると、教室の横の窓から体を乗り出した青髪ピアスがいつもの調子で体をくねくねさせている。
昨日隣のクラスの前で危ないことを呟いていたこの男に話すことはなおさら気が引けたが、かといってだんまりを決め込むと余計に突っ込まれることは目に見えている。周りには隠しているが実は上条は夏以前の記憶が一切なくなっているため、このクラスメイト達とは一ヶ月ほどの付き合いではあるがそれでもこのくらいのことを察するくらいには彼らの性格を掴めてきているのだ。
当たり障りのない答えを考え、上条は結論を出す。
「たまたま会ってちょっと街案内して飯食っただけだ。インデックスとあっちの連れの女の子と一緒に」
ナニッと案の定喰いついてくる青髪ピアス。土御門は喰いつくまでとはいかないがもともと転校生自体にはそもそも興味はさほどないのか、青髪ピアスにのっかっている。
篠原には自分の性格をばらすなという風に言われているので、リアのことを話すのはさほど問題ではないだろうとやや強引に結論付ける。おかげで上条の目論見どおり話は上手く逸れてくれていた。
ここ一ヶ月でこいつらの性格は掴めてきているのだ。
昨日はいろいろとドタバタしたが、帰りに寄ったデパートで食料を調達したおかげで今日はしっかり朝ご飯を食べることができた。もちろんインデックスのご機嫌を損なうこともなく、おかげで朝から絶好調である。何気に幸せを感じている上条だがいうまでもなくその要因が普通なことのあたり、彼の日頃の不幸具合がよくわかる。
「よーう、上やん。昨日と違って機嫌いいみたいだにゃー」
昨日と、というよりいつもとまったく同じ感じで土御門は廊下の向こうから声をかけてきた。
「まーな、なんてったって今日は朝ご飯は抜かなかったからな」
堂々と言い放つ上条にさすがの土御門も少し気の毒な顔で生返事をする。
「てゆーかお前今来たのか?」
「ちょっと昨日寝たのが遅くてにゃー。さっき起きたばっかぜよ」
おいおいと上条は思うが昨日三時間目の最初にまでがっちり遅刻したヤツがとやかく言う権利はない。
と、土御門が歩いてきた方とは逆から人だかりが歩いてくる。その先頭は昨日転校してきたばかりの茶髪がかった少年だ。上条にとって、昨日自分が先に助けに入ったとはいえその後しっかり不良たちを打ちのめし、しかもインデックスの食事代を半分出してくれた(ここが重要)恩人でもある。
「おーす、しのは」
「ああ、おはよう上条君。昨日は助かったよ」
人の群れの中心に立つ篠原はものすごいさわやかな笑顔である。思ってもみなかった相手の反応に上条は思わずへっと声を出して少しフリーズした。
目の前で取り巻きたちに昨日どうしてたのなどと聞かれ笑顔で答えるこの少年は、昨日のファミレスではどちらかと言うと昨日のチンピラによく似た雰囲気で、言葉遣いも今使われたものとはかなり遠いところにあるモノだった気がする。
ようやくフリーズから抜け出し篠原に話しかけようとした時には篠原はこちらの近くにまで寄ってきた。
(よう、俺は学校ではとりあえずこのキャラで通してんだ。あんま余計なこと言うなよ)
上条にしか聞こえないくらいの小声で茶髪がかった少年は釘を刺してきた。
(キャラって・・・なんでそんなことしてんだ?)
反射的に上条も小声になる。外からみれば会話しているようには見えないが、見つめあっている形なので下手をすれば変な誤解の目で見られるかもしれない。
(別になんだっていいじゃねーか。昨日は出費少なくてよかっただろ?)
うっ、とツンツン頭の少年が小声ではないうめき声をあげる。その正面では後ろからどうしたのというクラスメイトの問いかけにやはり笑顔で対応する茶髪がかった少年の姿があった。
じゃ、またねと爽やかな笑顔を貼り付けて篠原はその場を後にする。それについていく取り巻き達を見送りながら、上条はあいつ昨日実はここまで考えて俺に奢ったんじゃねーだろうなとさっきまで感じていた感謝の気持ちを半分ぐらいにしていた。
「上やん、もうあの転校生と仲良くなってたんだにゃー」
そこで、さっきから黙って廊下の外側に張り付いて腕を組んでいた土御門がようやく声を発した。その表情はサングラスで隠れてはいるが、何かを企んでいるようなそんな感じだ。
「ああ、昨日いろいろあってな」
先ほど釘を刺された手前あまり彼のことをいろいろ聞かれては墓穴を掘りそうだと考えていた上条だったが、こちらが話を適当に変えてしまおうとする前に横から思わぬ横槍が入る。
「いろいろってなんなんやー上やん? 昨日何しとったんやー?」
見ると、教室の横の窓から体を乗り出した青髪ピアスがいつもの調子で体をくねくねさせている。
昨日隣のクラスの前で危ないことを呟いていたこの男に話すことはなおさら気が引けたが、かといってだんまりを決め込むと余計に突っ込まれることは目に見えている。周りには隠しているが実は上条は夏以前の記憶が一切なくなっているため、このクラスメイト達とは一ヶ月ほどの付き合いではあるがそれでもこのくらいのことを察するくらいには彼らの性格を掴めてきているのだ。
当たり障りのない答えを考え、上条は結論を出す。
「たまたま会ってちょっと街案内して飯食っただけだ。インデックスとあっちの連れの女の子と一緒に」
ナニッと案の定喰いついてくる青髪ピアス。土御門は喰いつくまでとはいかないがもともと転校生自体にはそもそも興味はさほどないのか、青髪ピアスにのっかっている。
篠原には自分の性格をばらすなという風に言われているので、リアのことを話すのはさほど問題ではないだろうとやや強引に結論付ける。おかげで上条の目論見どおり話は上手く逸れてくれていた。
ここ一ヶ月でこいつらの性格は掴めてきているのだ。
時刻は正午を少し過ぎた辺り。
昼食をコンビニのおにぎりで軽く済ませたリアは、外に出たついでに周辺を軽く散歩していた。というより、もともと居心地の悪いホテルから抜け出してきたために時間を潰していたのだが。
彼女が半年ほど前から行動を共にしているのは再会した幼馴染と十一人の仕事仲間だが、正直仕事に関しては何をしているのかいまいち理解できていない。他の十一人は裏で何かしているようだがそれが自分に回ってくることはない、それでも強いて仕事と言うなら篠原の我がままに振り回されることだろうか。
ようするに、リアはこの組織内で孤立していたのだ。
「はぁ・・・」
思わずため息が漏れる。やめようかとも思ったが、収入に関して文句はないし別の職を探すのも時間がかかる。それになにより、あの幼馴染からは目を離してはいけない。
リアは孤児院の出身である。
幼い頃篠原と出会い、その母親は自分にとてもよくしてくれた。きれいなロングの茶髪が似合う笑顔の絶えない人。やんちゃだった篠原圭をよく叱っていたがそのあと必ず抱きしめていたのをよく覚えている。
そして自分の顔を見るたび言っていた「この子のコトよろしくね」という言葉。
軽い感じで言ったのかも知れないが、当時のリアにとってその言葉はとても大切な約束として今も忘れることはない。
そして十数年ぶりに再会した幼馴染は、両親から離れてよくわからない正体不明の黒スーツの集団と何かこそこそやっているのだ。彼の両親が今どうしているかと聞いても篠原は答えようとはしない、というより連絡を取り合っているとも思えない。そんな状態だからこそ、今の彼から離れることは約束を破ることになる。リアはそれだけはどうしても避けたかった。
「リア?」
ふと自分の名前を呼ばれてそこで初めて少女は俯いていた顔を上げた。周りの景色はホテル周辺のそれではなく昨日通った学校までの道の途中のようで、どうやら気付かないうちに遠くまで歩いてきていたらしい。
そして彼女の横では真っ白な修道服のシスターが猫を抱えてこちらを見ていた。
昼食をコンビニのおにぎりで軽く済ませたリアは、外に出たついでに周辺を軽く散歩していた。というより、もともと居心地の悪いホテルから抜け出してきたために時間を潰していたのだが。
彼女が半年ほど前から行動を共にしているのは再会した幼馴染と十一人の仕事仲間だが、正直仕事に関しては何をしているのかいまいち理解できていない。他の十一人は裏で何かしているようだがそれが自分に回ってくることはない、それでも強いて仕事と言うなら篠原の我がままに振り回されることだろうか。
ようするに、リアはこの組織内で孤立していたのだ。
「はぁ・・・」
思わずため息が漏れる。やめようかとも思ったが、収入に関して文句はないし別の職を探すのも時間がかかる。それになにより、あの幼馴染からは目を離してはいけない。
リアは孤児院の出身である。
幼い頃篠原と出会い、その母親は自分にとてもよくしてくれた。きれいなロングの茶髪が似合う笑顔の絶えない人。やんちゃだった篠原圭をよく叱っていたがそのあと必ず抱きしめていたのをよく覚えている。
そして自分の顔を見るたび言っていた「この子のコトよろしくね」という言葉。
軽い感じで言ったのかも知れないが、当時のリアにとってその言葉はとても大切な約束として今も忘れることはない。
そして十数年ぶりに再会した幼馴染は、両親から離れてよくわからない正体不明の黒スーツの集団と何かこそこそやっているのだ。彼の両親が今どうしているかと聞いても篠原は答えようとはしない、というより連絡を取り合っているとも思えない。そんな状態だからこそ、今の彼から離れることは約束を破ることになる。リアはそれだけはどうしても避けたかった。
「リア?」
ふと自分の名前を呼ばれてそこで初めて少女は俯いていた顔を上げた。周りの景色はホテル周辺のそれではなく昨日通った学校までの道の途中のようで、どうやら気付かないうちに遠くまで歩いてきていたらしい。
そして彼女の横では真っ白な修道服のシスターが猫を抱えてこちらを見ていた。
「ふーん、よくわからないけど大変なんだね」
通学路近くの公園に場所を移し、二人の少女はゆったりとしたベンチに腰掛けていた。手には近くで買ったたこ焼きの箱を持っている。
リアはいつの間にか、会話の途中でこの銀髪シスターに懺悔ではなく愚痴を聞いてもらっていた。話しながら、昨日出会ったばかりのこの少女に何をいってるんだろうと自分でも内心呆れてはいたものの、それでも誰かに聞いてもらうことによってホテルを出てきたときよりは幾分落ち着いた気がする。
「でもリアがその人を心配してるってことはわかったかも」
その言葉にリアは思わずゴホゴホッと咳き込んだ。
「な、なんで私があいつのコトなんか!仕事をやめないのはあいつの母親と約束してるから仕方なく・・・」
そこまで言って、リアは言葉を止めた。
本当にそれだけなのだろうか、と自問自答する。彼女との約束がなければ自分はここにいなかったのだろうか。
横ではシスターはじっとこちらを見ていた。
「・・・ううん、やっぱり心配なのかも。なんだかんだ言ってもあいつとは古い仲だしね。」
別にこれがあいつのことを異性として好きだとかそういう感情などとは思わないが、それでも無関心になることなど出来ない。もし自分に手のかかる弟でも居たのなら同じような気持ちになったのだろうか。
シスターは特に何も言わずに待つ。それに苦笑いしながら
「せめて裏でコソコソせずに何してんのかくらい聞かせてくれれればいいんだけどね」
「そう! そーなんだよ!」
突然会話に食いついてきたシスターに驚いたリアは思わず手の中のたこ焼きを落としそうになる。当のシスターはといえば、会話に熱くなった様子でありながらもたこ焼きを食べることはしっかり忘れない。
「とうまもさ、わたしの知らないところでいっつもいっつもいーーーっつも何かしてるんだよ。しかも帰ってきたときには大体怪我してて会うのは病院だし。もうちょっととうまには落ち着いてもらわないと困るかもぐもぐ」
ヒートアップしつつも、インデックスは文句を全て言い終わる前に手に取ったたこ焼きを口に放り込み最後らへんはもごもごと喋っている。
昨日から見てて尽きる気がまるでしないこのシスターの食欲に圧倒され、思わずリアは自分の手元のたこ焼きを食べる?と差し出しした。
いいの? と一応言いながらも一切の躊躇なくそれを受け取り満足そうにシスターは食べ始める。それを見ながらリアはサイモンの言ったことを思い出した。
(禁書目録と幻想殺し・・・か)
今朝、サイモンにたたき起こされ昨日のことを根掘り葉掘り聞き出されたときに出てきたキーワード。
『禁書目録と幻想殺しは危険だ、儀式を破壊される恐れがある』
多分禁書目録というのはこのインデックスという少女のことだ。ということは、その管理者である幻想殺しというのはあの上条当麻という少年か、あるいはほかの誰かか。
なんにせよ、この腹ペコシスターさんがサイモンのいうような危険な存在に思えない。ならばインデックスの何らかの能力、あるいは所有物かなにかがあの黒スーツ達が裏で進めている儀式とやらの妨害になっているのだろう。
つまり、このシスターから上手く話を聞くことができれば何かわかることがあるかもしれない。
そこまで考えて、リアはそれをやめた。半端に知ったところでそれを生かせるかもわからないし彼らの仕事に関われるとも思えない。そもそも、一体どう聞けば自分の望む情報が目の前の少女から得られるかも分からないのだ。
通学路近くの公園に場所を移し、二人の少女はゆったりとしたベンチに腰掛けていた。手には近くで買ったたこ焼きの箱を持っている。
リアはいつの間にか、会話の途中でこの銀髪シスターに懺悔ではなく愚痴を聞いてもらっていた。話しながら、昨日出会ったばかりのこの少女に何をいってるんだろうと自分でも内心呆れてはいたものの、それでも誰かに聞いてもらうことによってホテルを出てきたときよりは幾分落ち着いた気がする。
「でもリアがその人を心配してるってことはわかったかも」
その言葉にリアは思わずゴホゴホッと咳き込んだ。
「な、なんで私があいつのコトなんか!仕事をやめないのはあいつの母親と約束してるから仕方なく・・・」
そこまで言って、リアは言葉を止めた。
本当にそれだけなのだろうか、と自問自答する。彼女との約束がなければ自分はここにいなかったのだろうか。
横ではシスターはじっとこちらを見ていた。
「・・・ううん、やっぱり心配なのかも。なんだかんだ言ってもあいつとは古い仲だしね。」
別にこれがあいつのことを異性として好きだとかそういう感情などとは思わないが、それでも無関心になることなど出来ない。もし自分に手のかかる弟でも居たのなら同じような気持ちになったのだろうか。
シスターは特に何も言わずに待つ。それに苦笑いしながら
「せめて裏でコソコソせずに何してんのかくらい聞かせてくれれればいいんだけどね」
「そう! そーなんだよ!」
突然会話に食いついてきたシスターに驚いたリアは思わず手の中のたこ焼きを落としそうになる。当のシスターはといえば、会話に熱くなった様子でありながらもたこ焼きを食べることはしっかり忘れない。
「とうまもさ、わたしの知らないところでいっつもいっつもいーーーっつも何かしてるんだよ。しかも帰ってきたときには大体怪我してて会うのは病院だし。もうちょっととうまには落ち着いてもらわないと困るかもぐもぐ」
ヒートアップしつつも、インデックスは文句を全て言い終わる前に手に取ったたこ焼きを口に放り込み最後らへんはもごもごと喋っている。
昨日から見てて尽きる気がまるでしないこのシスターの食欲に圧倒され、思わずリアは自分の手元のたこ焼きを食べる?と差し出しした。
いいの? と一応言いながらも一切の躊躇なくそれを受け取り満足そうにシスターは食べ始める。それを見ながらリアはサイモンの言ったことを思い出した。
(禁書目録と幻想殺し・・・か)
今朝、サイモンにたたき起こされ昨日のことを根掘り葉掘り聞き出されたときに出てきたキーワード。
『禁書目録と幻想殺しは危険だ、儀式を破壊される恐れがある』
多分禁書目録というのはこのインデックスという少女のことだ。ということは、その管理者である幻想殺しというのはあの上条当麻という少年か、あるいはほかの誰かか。
なんにせよ、この腹ペコシスターさんがサイモンのいうような危険な存在に思えない。ならばインデックスの何らかの能力、あるいは所有物かなにかがあの黒スーツ達が裏で進めている儀式とやらの妨害になっているのだろう。
つまり、このシスターから上手く話を聞くことができれば何かわかることがあるかもしれない。
そこまで考えて、リアはそれをやめた。半端に知ったところでそれを生かせるかもわからないし彼らの仕事に関われるとも思えない。そもそも、一体どう聞けば自分の望む情報が目の前の少女から得られるかも分からないのだ。
ふと横を見ると、ベンチの右側のシスターが自分の手の中のものを全て食べてしまっていた。そしてその視線はリアの右手首のリングに注がれている。
「えっと・・・どうしたの?」
「それ、霊装だね」
霊装?とリアは聞きなれない言葉に思わずそれを反復する。
「まあ平たく言うと魔術的な効果をもつ道具のこと。・・・ルーンが刻んであるね、意味は創造。多分外側に光でルーンを浮かばせて、魔法陣をリングの中に作ってるんだと思う。ほかにも威力をあげるために武器って文字とあとⅩⅡってなんだろ・・・?」
「ちょっ、ちょっと待って?魔術?」
突然理解のできない言葉を並べだしたシスターについていけなくなったリアは思わずインデックスの話を遮る。
「そうだよ。魔術」
言葉としては聞いたことはある。たしか十字教の一部の人間が使えるという噂だがもちろん実際に見たわけでもなく、地元の夜中三時に出没するという時速二〇〇キロで走る老婆と同じぐらい信憑性は低い。
「魔術ってあのオカルトのよね?」
「たしかにオカルトだけど、実際に存在するし法則もある技術なんだよ」
このシスターが嘘をついているようには思えない。かといってその全てを信じきるにはリアのこれまでの世界は余りに平穏に満ちていた。
(霊能者とかと似たようなものかしら・・・?)
テレビなどでたまに見る心霊番組の類を一切信用していないこの黒スーツの少女は、インデックスのことをそれに出てくる自称霊能力者みたいなものと思うことにした。信じることはできないが別にその人の世界を否定しようとも思わない。ならば話を受け流せばいい。
そこでリアはふと気付く。
「えっと・・・じゃあこのリングをくれた人も魔術と何か関係があるのかしら?他にもたくさん持っていたみたいだけど」
「ならその可能性は高いね。その人が作ったものかどこかから見つけてきたものかはわからないけど、このレベルの霊装が魔術師じゃない人にに複数渡るとは思えないかも」
リアは知らなかったみたいだけどと付け加えるシスターに苦笑いしながらリアは考える。
このリングはサイモンに、未だに何をしているのかわからないこの仕事に誘われたときスーツと一緒に渡されたもので他の皆も持っている。ということは彼はインデックスの言う魔術師なのだろう。
ならば『儀式』と『魔術』、この二つが無関係だとは思えない。
しかし、まさか裏でそんな得体の知れないことをやってきていたのかと思うとため息が出る。こんなことで時間をかけて振り回され、挙句国まで渡ってきたことが切なくなってきた。さすがにこれはサイモンか篠原に問いただしてやめさせるべきだろう。そんなオカルトに頼ったところで得られるものなどないのだから。
そしてリアはその場に立ち上がるとシスターの方を向く。
「さて、そろそろ私は帰るね。ちょっと用事思い出しちゃった」
軽く手を振ってもと来た道を歩いていく。
予想外にシスターの方から自分の欲しかった情報が与えられた。篠原とサイモンたちが裏でしていることがオカルトならば拍子抜けではあるが、それでも犯罪とかそんなことを考えていたリアにとってはほっとするところもある。
ホテルを出たときに比べて、少女の足取りは軽かった。
「えっと・・・どうしたの?」
「それ、霊装だね」
霊装?とリアは聞きなれない言葉に思わずそれを反復する。
「まあ平たく言うと魔術的な効果をもつ道具のこと。・・・ルーンが刻んであるね、意味は創造。多分外側に光でルーンを浮かばせて、魔法陣をリングの中に作ってるんだと思う。ほかにも威力をあげるために武器って文字とあとⅩⅡってなんだろ・・・?」
「ちょっ、ちょっと待って?魔術?」
突然理解のできない言葉を並べだしたシスターについていけなくなったリアは思わずインデックスの話を遮る。
「そうだよ。魔術」
言葉としては聞いたことはある。たしか十字教の一部の人間が使えるという噂だがもちろん実際に見たわけでもなく、地元の夜中三時に出没するという時速二〇〇キロで走る老婆と同じぐらい信憑性は低い。
「魔術ってあのオカルトのよね?」
「たしかにオカルトだけど、実際に存在するし法則もある技術なんだよ」
このシスターが嘘をついているようには思えない。かといってその全てを信じきるにはリアのこれまでの世界は余りに平穏に満ちていた。
(霊能者とかと似たようなものかしら・・・?)
テレビなどでたまに見る心霊番組の類を一切信用していないこの黒スーツの少女は、インデックスのことをそれに出てくる自称霊能力者みたいなものと思うことにした。信じることはできないが別にその人の世界を否定しようとも思わない。ならば話を受け流せばいい。
そこでリアはふと気付く。
「えっと・・・じゃあこのリングをくれた人も魔術と何か関係があるのかしら?他にもたくさん持っていたみたいだけど」
「ならその可能性は高いね。その人が作ったものかどこかから見つけてきたものかはわからないけど、このレベルの霊装が魔術師じゃない人にに複数渡るとは思えないかも」
リアは知らなかったみたいだけどと付け加えるシスターに苦笑いしながらリアは考える。
このリングはサイモンに、未だに何をしているのかわからないこの仕事に誘われたときスーツと一緒に渡されたもので他の皆も持っている。ということは彼はインデックスの言う魔術師なのだろう。
ならば『儀式』と『魔術』、この二つが無関係だとは思えない。
しかし、まさか裏でそんな得体の知れないことをやってきていたのかと思うとため息が出る。こんなことで時間をかけて振り回され、挙句国まで渡ってきたことが切なくなってきた。さすがにこれはサイモンか篠原に問いただしてやめさせるべきだろう。そんなオカルトに頼ったところで得られるものなどないのだから。
そしてリアはその場に立ち上がるとシスターの方を向く。
「さて、そろそろ私は帰るね。ちょっと用事思い出しちゃった」
軽く手を振ってもと来た道を歩いていく。
予想外にシスターの方から自分の欲しかった情報が与えられた。篠原とサイモンたちが裏でしていることがオカルトならば拍子抜けではあるが、それでも犯罪とかそんなことを考えていたリアにとってはほっとするところもある。
ホテルを出たときに比べて、少女の足取りは軽かった。