とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 1-974

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匿名ユーザー

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◇◇◇

 「・・・・・・・・おーい、クソガキィー、3秒やるからいますぐ出てきやがれィ!!」

誰も座っていないベンチに向かって[一方通行]の声が響く

シーン

[打ち止め]にわたあめの入った袋を渡した後、[一方通行]はすこし離れた自販機まで缶コーヒーを買いに公園を離れたのだが戻ってきたら少女の姿は無く

呼びかけても返事は無かった。好奇心旺盛なあの[打ち止め]の事だ、活気溢れる学園都市の空気に当てられてフラフラっと探索に出たのだろう。

(俺は、ここで待ッてろって伝えたはずなンだがなァ)

[一方通行]の頭には悪い予感ばかり浮かび、チッと舌打ちして彼はその考えを止めようとしたが、無理だった。

楽観的に世界の性善説が信じられない。彼はその程度には悪意に触れすぎていた。

 自分が缶コーヒーを買ってきた自販機の方向を見る。自販機まで約50m―歩いて数分の出来事だ。

(ほんの数分でもこれかよ、あのガキには首輪でもつけてやる必要があるな)

今でこそ中止されているものの[打ち止め]も[一方通行]も莫大な利益を生む研究材料としての共通点がある。

あの[幻想殺し]の少年の乱入で研究機関も凍結され、彼らは解放されたはずだった。


全盛期のようにはいかないまでも、やはり彼は学園都市最強の能力を持つ7人の1人、超能力者(レベル5)[一方通行]であり。

同じように[打ち止め]も1万人近い超能力者(レベル5)[超電磁砲]御坂美琴のクローンである[妹達]が形成するミサカネットワークを統括する[最終信号]なのだ。

 いやそういった損得の計算など必要ないのだ。 「あの一方通行の顔見知り」であるというだけで、すでに何らかの攻撃対象にされていてもおかしくない。

彼はもう[学園都市最強]の名を失ったターゲットの一人なのだから。

 彼は自分を支える近代的なデザインの杖に力を入れなおし、缶コーヒーをぐびぐびと飲みながら、面倒くさそうに学園都市の町並みに消えていった。

(あのガキがいきそうな場所ォ・・・・・)

 彼は[打ち止め]が行きそうな場所の想像なんてつかないのだ。

 後ろを見ずに[一方通行]に投げ捨てられた空になった缶コーヒーの缶が公園に設置された白いくずかごの淵にあたり、アスファルトで舗装された公園の地面にあたり、甲高い音を立てた。

◇◇◇


 からからからから

大覇星祭に賑わう学園都市の公園をスポーツ車椅子の軽やかな音が響く。学園都市の外の世界とは30年は技術の差があるという最先端技術によって作られた

新素材で作られたスポーツ車椅子は軽くて、丈夫でまたデザインも普通病院にあるような無骨なものではなく、障害者用のオリンピックで使われるような近代的な

デザインをしていた。

「ああ、もうすぐお姉様に会えるのですね、黒子は黒子はこの瞬間を待っておりましたぁぁぁぁ!!」

スポーツ車椅子に乗った学園都市屈指の名門常盤台中学の制服を着たツインテールの少女―白井黒子が屋台で賑わう大型の公園の真ん中で身悶えしながら瞳を輝かせる。

「白井さんは風紀委員のお仕事をしに行くんですけどね~。まずは何をしてもらいましょうかね、大能力者(レベル4)を遊ばせておく余裕はうちの支部には無かったりするんですよね、残念ながら」

そんな白井の[お姉様に会いにいく]という至上目的をさらりと受け流す風紀委員の腕章をつけた初春をジトっと背中越しに睨みながら

(この怪我が無ければわたくしの[空間移動(テレポート) ]でひとっとびなのですがね)

静養して大分回復しているとはいっても白井の能力である[空間移動(テレポート)]は11次元応用分野を利用したレアで制御が難しい能力なのだ。

3次元の世界に存在する自分や対象物、目標物の3次元的な座標を11次元の座標へと置き換えるというワンクッションをおく必要があり、その計算式も複雑でデリケートなものになってしまうのだ。

そのため白井自身が想定してないような[痛み]や[驚き]によって集中を乱してしまうと発動に失敗したり本来の効果が発揮できなかったりするのである。

「さっ、この公園を横断して30分ほど歩けば現在開催中の競技場につけますよ。常盤台中学も次の競技の為に来ている筈ですよ、いまは総合借り人競争っていうのをやってますねぇ」


借り人・・・・?白井は聞きなれない競技に疑問を覚えつつも

「普通に借り物競争でいいじゃないありませんこと? 先程お姉様がやってらした競技のように」

「ああ、四校合同借り物競争ですか? あれは人間だけじゃなくて物を借りてくるってルールですから、物を借りてくるに当たればラッキーって競技らしいですね」

スポーツ車椅子をからから、と押しながら初春飾利は丁寧に説明してくれた。

借り人競争は先のそれを特化させた競技らしくなんでも借り[者]の指定が厳しいということだ。

「なんでも前年の競技では完走率30%とかいう過酷の極みだったって話です。運営委員の趣味で書かれてる条件は多種多様、あとこの競技にでる男性競技者と協力者の間で競技終了後によく恋が実るらしいですよ、ロマンチックですね」

 白井は興味なさそうに、へーへーへーと投げやりに相槌を打つ。

ガッ、へぶぅ――べちゃ

白井の背後で変な金属音と悲鳴のような音が聞こえた。

 そのままカラカラカラっと軽快な音をさせながら公園と外部をつなぐ階段に差し掛かり白井の乗る車椅子は動きを止めた。

その階段は約40段ぐらいのアスファルト製の階段で高さは5mほどあった。車椅子用のスロープは無く完全に歩行者用の階段のようだ。

 階段の先は普通の歩道になっており、往来を歩く人の姿も見受けられる。

視線を泳がせて見ると車椅子用に緩い傾斜になった出入り口が少し先にあったのだが

「初春さん・・・この階段を車椅子で下りるのはちょっとデンジャラスな気が致しますのですが・・・」

最後の[が]を強調して後ろの少女に話しかける。

返事が無い

 不審に思ってスポーツ車椅子の小さな背もたれ越しに背後を見ると白井のスポーツ車椅子からたっぷりと30mはなれたところで初春飾利が自分の鼻を押さえてなみだ目になっていた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?


たっぷりと30秒以上思考が停止し、いまだに歩く速度で進むスポーツ車椅子は誰が押しているんだろう?と考えた瞬間


 ガッ・・・そんな音と共に白井の視界は一面の青空になり途端に襲う浮遊感がどこか現実離れして感じられた。


◇◇◇



 「―――さん!!、――な―――でしたー!!」


「って・・・・きゃああああああああああああああ!!」

上条当麻は公園の横に据えられた自販機の陰から出て、あついなぁ、とか思いながら一歩踏み出したところで

自分の上から聞こえてきた悲鳴に、なんだよ、っと視線を上げるとそこには

うだるような日差しを背に迫り来る人影、あと悲鳴。隣接する大型公園の高台の階段の上から落ちてくる近代的なデザインの車椅子、その後で息を切らせて駆けてきた頭に花のような麦藁帽子を被った少女。




「不幸だ・・・」



緊急事態のはずなのにどこか冷静に上条当麻は告げた。

主に自分に。

その次の瞬間、上条の体に衝撃が奔り。上条当麻の意識は沈黙した。


◇◇◇



ゆっくりと目を開けて辺りを見渡す。

目に映るのはありふれた学園都市の町並み

どこか近代的な趣のある風景は白井がよく知る風景でもあった。

 「白井さん、大丈夫ですか!?」

酷くあわてた様子でテテテテと後ろにある階段から初春が降りてきた。

 よくみると彼女の鼻は赤くなっており、着ている制服も少し汚れている。

トレードマークの麦藁帽子は健在だがその鍔の部分に少し折れが見えた。

「突然空き缶を踏んづけたみたいで、足捻って転んじゃいました」

あははは、バツが悪そうに頭を書きながら初春が言う。

すっかり混乱していた白井の頭脳は、衝撃の事件からたっぷり5分以上たって、事態を把握した。

(えーと、つまり・・・・)

?マークをいっぱい浮かべながら考え込む。記憶を探っているのだ。

(初春が落ちていた空き缶を踏んづけてバランスを崩し、すっころんだところでわたくしの車椅子を放してしまい、そのうえ丁度運が悪くて惰性で進んでしまいそこの階段の上から突っ込んでまっさかさまにここまで落ちたってことですの?)

「階段まで緩い傾斜になっていたみたいですね、白井さん、どこか痛い所はありますか?」

言われてみても特に痛いところは見当たらない。

(変ですわね・・・・あの高さから落ちて無傷なんて、いや無傷に越したことはないんですけど)

 とりあえず立ち上がろうとして白井は自分の居る場所の違和感に気づいた。

「ところで白井さん、早くどいてあげたほうがいいですよ、ほら、その下の人」

自分の体の下に視線を移すと彼女の下にはうーーんとか唸ってる例の殿方―上条当麻がそこにいた。

「ナッ!!?ちょっと放してくださいまし!!??」

「がっしりって感じですよね―」

道路に隣接する歩道に倒れた上条はあろうことか上から落ちてきた白井黒子の体をがっしりとホールドしていたのである。

これでは空間移動(テレポート) を使って脱出することも出来ない。上条当麻の右手はあらゆる異能を打ち消す[幻想殺し]なのだ、たとえ空間を飛び越える白井の能力も彼の右手

に触られていてはその効果は発揮できない。

「ちょ!!ビクともしませんわよ!!??むー」

上条の体の上で白井がもぞもぞとかぐいーとかいろいろと脱出を試みるが、自分の両手は白井と上条の体の間に挟まれていて十分な力を発揮できない。

腰に左手、後頭部に右手を回されており、傍目には往来の真ん中でいちゃついて勢いあまって倒れたカップルにしか見えない。

(ぐぁぁ、なんたる不覚、こんなところをお姉様に見られたら!?ガクブルですわ。)

落下した先に上条がいて結果的に白井はそのおかげで無傷で済んだといったところだろうが

「ドキドキのシュチュエーションですね、これがお嬢様の恋愛なんでしょうか・・・おもわずパシャリと」

白井黒子と上条当麻の顔の距離は実に約2cm弱しか開いてなかった。後頭部も抑えられてるので逃げれないのだ。

「飾利!?携帯電話のカメラで写真なんて撮ってないで、早く助けてくださいまし」

怒った感じでツインテールお嬢様が抗議すると、えー、もったいないとかいいながら初春は渋々といった感じで白井ではなく、倒れた上条の顔を覗き込んで・・・・数秒

そしておもむろに上条の鼻を右手でつまみ、その口を左手で塞いだ。

「エイっ!!ギュム!!」

満面の笑みを浮かべて酸素の供給を断った。

◇◇◇


 苦しい・・・・

誰か助けてくれ・・・・・

激しい痛みと酸素不足で頭がはっきりしない。

まるでコールタールの海でも泳いでるように体が重い。

「―――ましー、――!!」

「えー――、も――ですよ、――せっかく―――なんですから」

耳元で聞こえる声がどこか遠いやら近いやらはっきりしない。

その癖自分の鼻のあたりにやたらとくすぐったい感触があるのだ。


すると突然、息が出来なくなった

息を吸おうとしても一向に肺に酸素が供給されない。

なにかが押さえつけてるような感触を覚える。

このコールタールの海を掻き分けるように上条当麻の意識は水面にでた。

「ぶはぁぁぁぁ!!?」

「あ、実験成功しましたよ――さん」

上条は肺いっぱいに酸素を送り込み、おもいっきり吐いた。深呼吸だ。

そしてまぶしい日光に目を細めて目を開けると、上から覗き込んでくる中学生ぐらいの少女がいた。





さらさらの長い茶髪、まだ幼そうな感じの残る目・・・・超見覚えある。

てか数日前にあったような少女だ。―白井黒子・・・常盤台中学の1年生、御坂美琴の後輩でルームメイト、大能力者(レベル4)の風紀委員で空間移動(テレポート) の使い手

「「・・・・・・・」」

上条は自分の体の様子を確かめるべく各部を軽く動かした。

まず足、腕・・・首・・・・そのたびに白井が「ヒッ!」とか「ちょ!!」とか抗議の声を上げる。

もう一度超至近距離の白井の目を見て上条は告げた。

「奇遇だな、白井、怪我はもういいのか?」

さらりと上条当麻は語化すことにした。

「殿方・・・遺言はそれでいいんですの?(ごごごごごごご)」

にこっ、と笑いながらツインテールのお嬢様はそんなことを告げた。

顔こそ極上の笑顔に[見える]が目が笑ってない、その視線に上条当麻はかつてないほど戦慄した。


(現状確認!?考えろMY脳!!現在位置、さっきまでいた公園沿いの歩道・・OK
自分の体の状況、軽く打撲してるもののさしたる怪我はなし、強いて言えば打ち身・・・OK
自身のおかれてる状況確認開始、上条当麻は公園沿いの歩道に仰向けで倒れており、その上には何故か白井が乗っかってる・・・O・・・NO!!
なにこの状況!?しかも左手とか白井の腰に回ってるし右手は白井の後頭部をガシっともってて・・・・ああ・・・えーと)

とか高速で思考して思考の迷路に迷い込んだ上条に白井が顔を赤くして目を逸らし

「と、とにかく、手を放してくださいますかしら、その人目もありますし」

言われた瞬間にババッと両手を離して白井の顔から少しでも遠くに逃げようと一生懸命顔を反らす。

 白井はパンパンと衣服についたほこりを手ではたいて上条の上からどいて歩道に座り込むと上条の方を向いて

「さきほどはどうもありがとうございました、おかげさまでご覧のように無傷で済みましたわ」

と丁寧にお礼を言ってきた。その仕草が普段の彼女の印象とかけ離れて見えて

「あ、あぁ、怪我が無くてよかったな、その、な、なんだ抱きしめたみたいな感じで受け止めてたみたいでその、ごめん」

バツが悪く、赤くなってドモってしまう。

上条も体操服についた埃をパンパンと払い、スクっと立ち上がり無言でまだ歩道に座り込んでいる白井黒子に左手を差し出した。

「立てるか?」

白井は何故か真っ赤になって下を向き、やはり無言で右手を上条の左手に重ねた。

「よっと、っうわ」

「わたたたたっ」

上条がグイっと力を入れて白井を立ち上がらせるが立ち上がった後に白井はバランスを崩して上条の方向に倒れこんできた。

(ちょ・・・なにこの桃色空間・・・回避不可能?)内心ドキドキしつつふらつく白井の肩を両手で支える。

 そんな様子を一部始終見ていた、初春飾利はグっと白井に向かってガッツポーズをして携帯電話のムービー機能を使ってその一部始終を撮っていた。


◇◇◇


 競技トラックと競技場に設置された大画面のモニターを交互に見ながら御坂美琴は自分の学校の待機スペースから離れた場所で競技の中継に耳を傾けていた。

実況を聞く限り、どこの学園も借りるべき人が見つからずに割りと苦労しているようだ。 あわよくば彼の拾った紙に自分が該当するような条件が書いてあれば

 もしかして・・・という淡い期待もあったのだろう。 ちょっと不機嫌そうだ。

実際、彼女が該当するような条件があったにしてもそれを1万人以上の選手の中からあの少年に渡るという確立はほとんど奇跡に近いのだが。

 この競技場は先ほど美琴が参加していた競技場より一回り小さく観客席もすこし少ない。

が各学園から駆けつけている選手やその父兄、もしくは大覇星祭の取材を行うTV局のカメラマンなのでそれなりに賑わっていた。

美琴は自分の着ている陸上選手のようなユニホームのポケットからカエルのストラップがついた丸っこい携帯電話を取り出して、アドレス帳を開いて
ピコピコと操作した。

―上条当麻― 該当データ無し 

当然だ、彼の電話番号など美琴は聞いたことが無いのだ。登録されているはずがない。

 「よく考えたらあいつの電話番号知らないわね・・・・でもこっちから聞くのはなんか癪だわ」

素直になれないお嬢様が携帯電話をパタンと閉じると、競技場の一角の集団がモニターを指差して騒ぎ出す。

上条当麻の学校の集団だ。 やたらと大声で騒ぐ人間もおり、静かにブルブルする人間もおり賑やかなことこの上ない。

「旗男だ!!」『旗男め!』「フラグたてまくり」

「所詮は旗男か」「貴様!あれだけフラグ立てておいてまだ足りないというのか!!」

「うん、僕らの絶望やね、って3桁単位でフラグ立ててどう収集つけるつもりやねん!?」

「やっぱりカミやんはカミやんだぜぃ、新たなフラグ伝説はどこまで続くのかにゃぁ」


どう贔屓目に聞いても好意的には聞こえない応援を聞きながら美琴は競技場に目を戻した。

観客のワーーーという声が一層強くなる。どうやら選手が帰ってきたようだ。

次の瞬間に彼女の目に入ってきたものは―――


所々に包帯を巻いたままで常盤台中学の制服を着たツインテールの自分の後輩と


それを抱えて走る――体操姿に短パンの高校生、上条当麻の姿だった。


「な、な、なぁ・・・・!!」


 美琴の顔からビキリ!という変な効果音がして、彼女は口をパクパクと声にならない叫びを叫んだ。

あまりの出来事に愕然とする美琴の目の前で、上条に抱えられたツインテールの後輩―白井黒子は上条当麻と共に白いゴールテープを切った。

 パニック状態に陥っている美琴の目には白いタキシードに身を包んだ上条とウェディングドレスを着た白井黒子が白い教会でゴールインしたように見えた。


それもお姫様だっこで。

◇◇◇

 階段から落っこちた学園都市の新素材で作られたスポーツ車椅子は結局使い物にならなかった。

40段の階段を落ちる際に何度かぶつけた傷はたいした問題ではなかった、上条と白井が激突した後、運悪く車道まで出てしまい、これまた運悪く走行してきた自律バス

によってかるーく再起不能にされてしまったのである。

それでも噂の新素材の強度はすさまじく、とバスに吹っ飛ばされたにも関わらず車輪のひとつがひしゃげ、背もたれ部分のカーボン素材がどこかへ

吹っ飛んだ、その程度の再起不能なのだが。 

「白井さん、これどうしましょう、やっぱり弁償なんですかねぇ・・・・!?」

「不慮の事故といえば不慮の事故ですけれど、報告はしておかないと後が怖そうですわね、わたくしもまだ歩き回れる
ほど回復してるわけではないのでそれがないと不便ですわ。」

 回収してきた車輪がひしゃげたスポーツ車椅子と上条に体を支えられている白井を交互に見ながら初春は困った顔でああでもない、こうでもないと

もはや車椅子として致命的な欠陥を持ってしまったソレを懸命に修理しようとわたわたしていた。

「ところで殿方さん、アナタ競技中じゃありませんこと?」 上条の顔を下から見上げ白井が質問してくる。

(あ・・・そうだった、まだ借り人競争の途中だったんだよ・・・)

「はぁ・・・これは無理そうですね、支部に連絡して代わりの車椅子を用意してもらいます」

その言葉にピク!?と白井が反応し

「それではお姉様の勇姿が生で見られませんわ、そんなこと・・・目の前にご馳走があるのにお預けだなんて・・・」

心底残念そうに『ツインテールのお嬢様』がへたり込む。 なんだか戦意喪失のようだ。

(ん?)

自分の思考に軽く疑問を覚え、反芻するように再思考を開始する。

(ん、いまなんか聞き覚えのあるキーワードがでたような・・・・・なんだっけか)

神妙な顔をして考え込む上条の短パンのポケットから例の借り人指令書がひらりと落ちた。

「殿方、なにやら落ちましたわよ、風紀委員としてポイ捨ては見逃せませんわ」と白井は紙を拾ってその内容を見た。

「・・・?ツインテールのお嬢様?・・・なんですの?これ」

 刹那、上条の頭の中の疑問が氷が解けるようにきれいさっぱり無くなった。

上条は不思議そうな顔をして例の紙を上条に差出てきた。

(いたじゃないですか・・・ここに丁度条件にぴったしなのが・・・)

にやりとあまり品のよくない笑いを浮かべると上条は

 神速の動きで紙を差し出す体勢のままの白井に迫り、その手をガシィっと固く包み込んでこう言った。

「白井・・・俺と付き合ってくれ!!いますぐ」

 風紀委員の支部に連絡していた初春の手から携帯電話がずり落ち、地面と当たって軽い音をさせた。

予想外の上条の言葉に固まった白井を無視し膝の裏と背中に手を回しすばやくお姫様だっこの体勢に移行する。

腕の中で白井がなっ!わたくしにはお姉様というあいてが・・・とかいろいろ抗議していたがそれをすっぱりと無視して

大きく息を吸い込んで、上条当麻は競技場に向かって走り始めた。

◇◇◇


 な、なんなんですのー

白井黒子はいまだに混乱を続ける自分の思考に振り回されて現状が把握できなかった。

いきなり手を掴まれて、一方的に告白されて、強引にお姫様だっこで攫われてしまった、そこまでは分かっている。

 白井自身は[残骸]争奪戦などの経緯で上条と何度か会っており、彼女が敬愛するお姉様[御坂美琴]がこの少年に淡い恋心を抱いていて

しかもそれが美琴の意地っ張りで素直になれない性格のせいでさんざんちょっかいをかけてるのにいつも空周りしていることも当然知ってる。

 自分の命も顧みないで、倒壊しかけたビルを駆け上がり、圧倒的な大質量[座標移動]で殺されそうになっていた白井をこの少年は拳ひとつだけで

助けに来てくれたこともあった。

(はっ!?なにを赤くなってますのわたくしは!?わたくしが照れてどうするんですの!!??)

 上条の腕に抱えられて、普段と違う目線で見る風景は少女自身に不思議な安心感を与えていた。

道行く人々が上条と白井を見て驚きの表情を作るが少年にはそれは目に入ってないようだ。

「ちょ、ちょっと、まってくださいま、へぶ」

「喋ると舌噛むぞ」

 せめて説明だけでもしてもらいたくて抗議の声を上げようとしたら、丁度上条が道路の段差を飛び越えた為、思わぬ衝撃で自分の舌を噛んでしまった。

おもわず涙目になって両手を自分の口に当ててしまう。

傍目には顔を真っ赤にして上目遣いで目をウルウルさせて恥ずかしがる女子中学生にしか見えないのだが。

 上条は走ることに集中しているので腕の中の白井のことは見ていない。

(ま、まぁ殿方にしては頼りになるほうなんですわよね、たぶん)

 なんだかとても自己完結した答えをだして自分を抱えている少年の顔を見上げた。

抱えられて下から見上げる少年の顔は太陽を背に受けて輝いて見えた。

 また舌を噛むのは嫌だったのであとで詳しく聞くことにして、体制を安定させる為に上条の首に自分の細い腕を回した。

◇◇◇

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