とある晴れた日。イギリス清教女子寮にて。
二人のシスターが寮にたった一台のテレビの液晶画面を凝視していた。
「......シスター・アニェーゼ。これはかなり凄いですね......」
「......ええ。アンジェレネも解ってきたみたいですね。確かにコレはかなりヤバい代物です」
少々、猥談に聞こえなくもない声色で二人がコソコソと画面を見ながら語り合っていた。
「......シスター・アニェーゼ。これはかなり凄いですね......」
「......ええ。アンジェレネも解ってきたみたいですね。確かにコレはかなりヤバい代物です」
少々、猥談に聞こえなくもない声色で二人がコソコソと画面を見ながら語り合っていた。
同時刻。そんな怪しい二人のいる小部屋の扉に向かい合う一つの影あり。
「あの二人(アンジェレネ、アニェーゼ)は掃除当番だと言うのに、こんな所でサボっていましたか。全く、だからテレビなどと要らない物を用意するなとなんども......」
ルチアがそう言いながら扉の戸ってに手を掛ける。このまま扉を開け放って一斉摘発じゃぁ!!、という勢いで戸を開こうとすると、
「あの二人(アンジェレネ、アニェーゼ)は掃除当番だと言うのに、こんな所でサボっていましたか。全く、だからテレビなどと要らない物を用意するなとなんども......」
ルチアがそう言いながら扉の戸ってに手を掛ける。このまま扉を開け放って一斉摘発じゃぁ!!、という勢いで戸を開こうとすると、
「あ、アンジェレネ!! 今のプレイ見ましたか!? アレが”本物”という奴です!!」
「み、みましたみました!! あ、あんな凄いテクニックで攻められたら相手も卒倒しちゃいますよ!!」
「み、みましたみました!! あ、あんな凄いテクニックで攻められたら相手も卒倒しちゃいますよ!!」
中から物凄くアレな感じの会話が聞こえてきた。
思わず硬直して絶句したルチアは、とりあえず戸ってから手を離し、頭の中で状況を整理する。
思わず硬直して絶句したルチアは、とりあえず戸ってから手を離し、頭の中で状況を整理する。
(ま、まさかあの二人は仕事をサボった上に二人でひ、ひわ、ひひ卑猥な映像をぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!???)
大混乱するルチアは、一分ほど戸前の通路をのた打ち回った後、ゼーハーと息を吐きながら再び扉の前に降り立つ。
中からは相変わらず「イ、イケル!! これなら余裕でイけますよー!!」「そのままブチこめー!!」などと無駄にハイテンションな声が聞こえてきた。
色々と我慢の限界が来たルチアは戸ってに再び手を掛け、怒りに任せて開け放つ!!
中からは相変わらず「イ、イケル!! これなら余裕でイけますよー!!」「そのままブチこめー!!」などと無駄にハイテンションな声が聞こえてきた。
色々と我慢の限界が来たルチアは戸ってに再び手を掛け、怒りに任せて開け放つ!!
「ゴルァァァ!! テメェら何してんだ仕事中にぃぃぃぃ!!!」(注;ルチア)
「な、バレた!! どうしてここが!?」
「中から色々と垂れ流しまくりまんですよ、色々とぉ!!」
「べ、別に悪いことなんてしてませんよぉ!?」
涙目で訴える二人を纏めて殴り飛ばしてやろうかとも思ったルチアだが、そこでふと部屋の隅に置いてあった二人が観ていたと思われる液晶画面が目に入った。
32インチの液晶画面に映っていたその映像は、
「な、バレた!! どうしてここが!?」
「中から色々と垂れ流しまくりまんですよ、色々とぉ!!」
「べ、別に悪いことなんてしてませんよぉ!?」
涙目で訴える二人を纏めて殴り飛ばしてやろうかとも思ったルチアだが、そこでふと部屋の隅に置いてあった二人が観ていたと思われる液晶画面が目に入った。
32インチの液晶画面に映っていたその映像は、
「......サッカー?」
ルチアは、体躯の良い選手たちがボールを取り合う映像と、怯えて小動物のように縮こまっている二人を見比べる。
どうや自分は結構恥ずかしい勘違いをしていたようだ。
どうや自分は結構恥ずかしい勘違いをしていたようだ。
「わ、わたしたちはただ単にサッカー観戦していただけなのに......どうしてこんなに怒られなきゃならないんですか......?」
「いくら仕事をサボっていたからと言って、あんな鬼の形相で乗り込んでくることねーじゃありませんかルチア」
「い、いえ、私も少し取り乱したようで......」
ゴホゴホと咳払いをして誤魔化すルチア。口が裂けても勘違いの理由は言えない。
「いくら仕事をサボっていたからと言って、あんな鬼の形相で乗り込んでくることねーじゃありませんかルチア」
「い、いえ、私も少し取り乱したようで......」
ゴホゴホと咳払いをして誤魔化すルチア。口が裂けても勘違いの理由は言えない。
あの後、二人を並べて事情聴取を行った所、二人が観戦していたのは『プレミアリーグ』なるものらしく、アニェーゼがアンジェレネを誘って録画した映像を観ていたらしい。最初は少し気晴らしに程度の意識だったが観ているうちに二人とも熱中してしまい、すっかり当番を忘れてしまった、とのこと。
「まぁ、あれです。ちょっとした『ひゅーまんみす』ですから気にしないでください」
「使い方が微妙に違うような気もしますが、まぁ良いでしょう。とりあえず二人とも早く仕事に戻ってください」
「「はーい」」
「まぁ、あれです。ちょっとした『ひゅーまんみす』ですから気にしないでください」
「使い方が微妙に違うような気もしますが、まぁ良いでしょう。とりあえず二人とも早く仕事に戻ってください」
「「はーい」」
適当な返事を残して二人は当番場所である食堂へとトボトボと歩いていく。その間も「やっぱりアーセナルは観ていて楽しい試合しますね。負けちゃいましたけど」「わ、わたしはさっきのがサッカー初観戦なのでどうにも...」などとそれっぽい会話が聞こえてきた。
そんな二人を見送りながらルチアは一息吐いたようにただ一つのテレビ部屋のイスへ腰掛ける。
部屋のテレビには二人が観戦していた試合の映像が止まる事なく流れていた。颯爽と進む試合展開もルチアには理解できないのだが。
そんな二人を見送りながらルチアは一息吐いたようにただ一つのテレビ部屋のイスへ腰掛ける。
部屋のテレビには二人が観戦していた試合の映像が止まる事なく流れていた。颯爽と進む試合展開もルチアには理解できないのだが。
(しかし、あの二人が仕事を放り出してまで観たかったもの...ですか)
ルチアは液晶画面を観ながらふと思った。
ルチアは液晶画面を観ながらふと思った。
(そんなに面白いものなんでしょうか...?)
展開的に色々フラグ立ちまくっている事など、彼女には気づきようがない。
展開的に色々フラグ立ちまくっている事など、彼女には気づきようがない。
画面の右上には【マンチェスター・U×アーセナル】の文字。中央付近には目まぐるしい程に素早く動き回る選手たち。それを飾るように流れる激しい実況。
そして、手に汗握って熱く観戦する自分。
そして、手に汗握って熱く観戦する自分。
結論から言うと、ハマった。
サッカーと言えば、以前聖書配りで立ち寄った孤児院で子供達が楽しそうに遊んでいる位しか見たこと無かったが、”実物”を観るとレベルの違いに驚かされる。華麗な足さばきで敵を抜いていく者もいれば、そんな素早い選手までも完膚なきまでに静止させる選手まで、全てが全てルチアには新鮮で衝撃的だったのだ。
(......ま、まずいですね......コレは思ったよりも面白い...かも。ああ、でもそんな事言ったらあの二人を怒った自分は何なんだと言うことに...)
実はルチアの観ている試合は、実際のプレミアリーグをよく知る者なら熱狂しすぎて倒れてしまうかもしれない位の高レベルゲームなのだが、それに気づいていないルチアは、
(わ、私はサッカーが好きだったりするんでしょうか? こんな単なる一試合で興奮してしまう位ですから......)
などと微妙な勘違いをしていた。恐らく蹴球(もといサッカー)を知っている人なら誰でも見入ってしまうくらい素晴らしいゲームだと言うのに。
「しかし......あんなサイズの球をあんなに自由自在に動かせるなんて、一体どのような身体能力で...? まさか何らかの身体強化術式でも施しているのでしょうか?」
色々な意味で失礼なことを呟きながら画面に見入るルチア。もはやあの二人を怒った理由など忘れてしまっている彼女は、さらにさらにと入り込む。
実はルチアの観ている試合は、実際のプレミアリーグをよく知る者なら熱狂しすぎて倒れてしまうかもしれない位の高レベルゲームなのだが、それに気づいていないルチアは、
(わ、私はサッカーが好きだったりするんでしょうか? こんな単なる一試合で興奮してしまう位ですから......)
などと微妙な勘違いをしていた。恐らく蹴球(もといサッカー)を知っている人なら誰でも見入ってしまうくらい素晴らしいゲームだと言うのに。
「しかし......あんなサイズの球をあんなに自由自在に動かせるなんて、一体どのような身体能力で...? まさか何らかの身体強化術式でも施しているのでしょうか?」
色々な意味で失礼なことを呟きながら画面に見入るルチア。もはやあの二人を怒った理由など忘れてしまっている彼女は、さらにさらにと入り込む。
「なるほど......あえて右に切り返すフリをしてそのまま正面へ進む。フェイント、というヤツですね。しかし無防備で敵陣へ突き進んでいるのに、どうしてボールを維持したまま抜けられるんでしょうか? あれは相当のテクニックが必要......いえ、もしかすると運び屋オリアナ=トムソンの『表裏の騒静(サイレントコイン)』のような術式を使用して......?」
努力を重ねた選手達を逆上させかねない発言を連発中なルチアは、そこで扉、つまり部屋の入り口である戸のほうから何かの視線を感じた。
何かと思いそちらの方向へと振り向くと、
努力を重ねた選手達を逆上させかねない発言を連発中なルチアは、そこで扉、つまり部屋の入り口である戸のほうから何かの視線を感じた。
何かと思いそちらの方向へと振り向くと、
「へぇ。怒ってたわりに随分楽しそうですねルチアww」
アニェーゼ=サンクティスが扉の隙間からニタニタしながらルチアを観察していた。
ルチア、一生の不覚。
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「いやぁ、まさかあんなに気に入ってくれるとは。部隊長アニェーゼ=サンクティスとしてはとても嬉しいですねぇww」
「......(汗)」
「あれ? どうしたんですかルチア。さっきまであんなに楽しそうにしてましたのに。選手たちのテクニックまで細かく分析してw」
「......(涙目)」
「あれぇ? もしかして恥ずかしいとかですかぁ? まぁ私とアンジェレネを叩き出しといて、結局自分がハマっちゃうとか羞恥の極ですもんね。あ、て言うかもしかして、それが狙いで私達二人を追い出したとかです? 勢いに任せてテレビを独占、そのまま仕事をサボって一人でサッカー観戦。最高のシナリオじゃねーですかww」
「......(泣)」
「......(汗)」
「あれ? どうしたんですかルチア。さっきまであんなに楽しそうにしてましたのに。選手たちのテクニックまで細かく分析してw」
「......(涙目)」
「あれぇ? もしかして恥ずかしいとかですかぁ? まぁ私とアンジェレネを叩き出しといて、結局自分がハマっちゃうとか羞恥の極ですもんね。あ、て言うかもしかして、それが狙いで私達二人を追い出したとかです? 勢いに任せてテレビを独占、そのまま仕事をサボって一人でサッカー観戦。最高のシナリオじゃねーですかww」
「......(泣)」
法の書事件以来の鬼畜モードに突入したアニェーゼを止める手段などあるはずもなく、ルチアは涙目で聞き流すしかない。
穴があったら入りたい、と言うか周囲全部をそこにブチ込みたいくらいの勢いで羞恥の嵐に苛まれる彼女は、もはや厳格頑鉄なイメージを残しておらず悪戯がばれた子供みたいにシュンと小さくなってしまっていた。
穴があったら入りたい、と言うか周囲全部をそこにブチ込みたいくらいの勢いで羞恥の嵐に苛まれる彼女は、もはや厳格頑鉄なイメージを残しておらず悪戯がばれた子供みたいにシュンと小さくなってしまっていた。
「(私が悪かったです......すいませんでしたグス)」
「は? もっと大きな声で言ってもらいませんと、コッチも理解できねぇんですよ。大体アナタみたいな...」
「わたしが悪かったです!! すいませんでしたぁ!!(号泣)」
遂に泣き出してしまったルチア。さすがにやり過ぎたかと若干罪悪感の湧き出たアニェーゼは「ま、まぁわかりゃいいんですよ」と自分なりの自己完結へと走る。自分もサッカーは大好き(←重要)なので、深く深くとは追い込めないのだ。
「は? もっと大きな声で言ってもらいませんと、コッチも理解できねぇんですよ。大体アナタみたいな...」
「わたしが悪かったです!! すいませんでしたぁ!!(号泣)」
遂に泣き出してしまったルチア。さすがにやり過ぎたかと若干罪悪感の湧き出たアニェーゼは「ま、まぁわかりゃいいんですよ」と自分なりの自己完結へと走る。自分もサッカーは大好き(←重要)なので、深く深くとは追い込めないのだ。
「シスター・アニェーゼ。このことはくれぐれも他の者たちには言わないように...いや言わないでくださいお願いします。特にアンジェレネ辺りには”絶対”」
最後の辺りにもの凄く力が入っていたような気がしたが、アニェーゼは深く言及しないようにした。何か恐そうだし。
そんな何だか可愛らしいルチアを見ながら、アニェーゼはふと思った。
(しかし、ルチアの弱みを握ったっつーのは、結構強みなんじゃないですかね...? んーと......よし。試してみましょう)
最後の辺りにもの凄く力が入っていたような気がしたが、アニェーゼは深く言及しないようにした。何か恐そうだし。
そんな何だか可愛らしいルチアを見ながら、アニェーゼはふと思った。
(しかし、ルチアの弱みを握ったっつーのは、結構強みなんじゃないですかね...? んーと......よし。試してみましょう)
「ルチア」
「は、はい!!」
もはや従順な犬みたいになってしまったルチアを少し哀れんでから、アニェーゼはニヤッとしながら告げる。
「このことを黙っておく代わりに、ちょっとお願いがあるんですけど」
「な、なんですか?」
「いやぁ、この寮って何故か私達が来る前から色んな物が置いてあるんですよね」
「はぁ。まぁ恐らく元々住んでいたイギリス清教徒のものでしょうけど」
「ほんと色んな物があってですね。例えば使えなくなった掃除機とか、でっかい墓石とか......サッカーボールとか」
「............」
「は、はい!!」
もはや従順な犬みたいになってしまったルチアを少し哀れんでから、アニェーゼはニヤッとしながら告げる。
「このことを黙っておく代わりに、ちょっとお願いがあるんですけど」
「な、なんですか?」
「いやぁ、この寮って何故か私達が来る前から色んな物が置いてあるんですよね」
「はぁ。まぁ恐らく元々住んでいたイギリス清教徒のものでしょうけど」
「ほんと色んな物があってですね。例えば使えなくなった掃除機とか、でっかい墓石とか......サッカーボールとか」
「............」
何か猛烈に嫌な予感がした。アニェーゼが次に何を言うのかと、いやてか何言うかなんて分かっているのだが、とりあえず確認を取る。
「......それで、シスター・アニェーゼ。お願いというのは一体」
「いやいや、大したお願いじゃねーんです」
「......なんですか?」
「いやいや、大したお願いじゃねーんです」
「......なんですか?」
「ちょっと気晴らしに『皆』でサッカーでもしませんか?」
コイツは本当に修道女か、とルチアは心の底から思った。