とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

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とある少女の聖誕祭前夜


これは、幻想殺しと禁書目録が出会う前の物語。

十二月二十四日。午後九時過ぎ。
至る所に立つ風力発電のプロペラが緩やかに回転し、冷えた空気をかき回す様を疎ましげに見詰めていた上条冬蒔(かみじょうとうま)は大きな溜息をついた。
この時期になると街中に出没し、夢見る子供達の部屋に不法侵入する老人をイメージした赤いワンピースの胸元に吐き出した息は白く曇り、手を擦り合わせる上条に今夜の冷え込みの程を感じさせる。
「…寒い。色んな意味で寒い。」
体感温度も、この時期に副業(バイト)に精を出す状況も。
脳裏を過ぎった思考を振り払う様にふるりと肩を竦めた上条は、赤と緑で飾り付けられたテーブルの上に載っている中身の空になった底の浅い盆を重ね、一箇所に纏めながら目の前の通りを行き交う人波に目を向けた。
煌びやかに装飾された街並みは光に溢れ、浮付いた様な賑やかな雰囲気に満ちていた。
聴こえて来るのは楽しげな喧騒と、
「カーミやん!」
それを掻き消す陽気で少し訛った声。
「へっ、ふみゃあ!?」
がばっ、と勢いよく首を締め付ける手と背中に掛かる重みに、不意を衝かれ悲鳴じみた叫び声が上がる。
直ぐに恐慌から抜け出した上条は、不埒にも背後から飛び掛ってきた男を腹に適度に怨念と力を籠めた肘鉄を叩き込むと、短いスカートの裾を翻しながら後ろを振り向いた。
「酷いなー、何も殴ることはないやん。」
ぶつぶつと苦言を陳べながら痛そうに腹を撫でている髪を青く染めた男は、一八〇センチに届く体を暖かそうなトナカイの着ぐるみに包んでいた。
巨体に似合わない夢見がちな装いからさり気なく視線をずらしながら、上条は首を誤魔化す様に首を傾げて呟いた。
「私の背後に立つな?」
「あははー。君、どこの狙撃手さん?」
容赦なく殴られても気を悪くした様子を見せない青髪に、寒さに心が荒んでいたとは言え過剰防衛(やりすぎたか)と、少々ばつが悪くなった上条は纏めた盆を押し付ける様に手渡す。
軽い盆を受け取った青髪はへらりと笑って、本日の任務の終了を告げた。
「今日はもう終わりやけど、明日もよろしくな?」
「はいはい、分かってますよー。そもそも、何でパン屋でケーキ売ってるの?」
だるそうに返す上条と青髪の二人が言葉を交わす場所は、青髪の下宿先であるパン屋の店先だった。

年の瀬も迫り何かと忙しないこの時期に、思わぬアクシデントが重なり、人員の足りなくなったパン屋の臨時アルバイトとして暇を持て余していた為に召集された上条は、小学生にしか見えない担任教師や、旧友の冷やかしにも負けず。
季節感を無視した制服(袖なしミニスカサンタコス)を纏い、店先を通り掛った感情の乏しい長い黒髪の少女や、缶コーヒーで膨れたビニール袋を片手に持った少年など、営業スマイルを振り撒きながら人々にケーキを売り捌いていたのだ。
「さぁ、商売精神旺盛なんやない?…にしても。」
答えを適当にぼかした青髪は一歩下がると、上条の頭の天辺から足の先まで繁々と眺めた。
「あ?」
「貧乳サンタもええな。」
上条は先程した反省を覆し、実にいい笑顔でサムズアップする乙女の敵に渾身の蹴りを繰り出した。


最期まで黒タイツ萌えーなどと叫んでいた変態を駆除し、上条は着替えるために店の裏手に回った。
「ん?ビリビリ?」
「げっ、」
路地の綺麗とはいえない壁に寄り掛かっていた茶色い髪の少女…御坂美琴は、上条の顔を見ると悪戯が見つかった子供の様に顔を歪めた。
名門、常盤台中学のお嬢様がこんな所で何をしているのかと窺えば、その手の上には上条がつい先程まで目にしていたケーキの箱が鎮座していた。
上条の視線がケーキの箱に釘付けになっている事に気付いた美琴は、ズバッと音が立つ勢いで箱を体の後ろに隠す。
その勢いの良さに上条は中身が無事か心配になったが、顔を真っ赤にして此方を睨み付けて来る美琴の髪の毛から火花が散ったのを見て慌てて話題を変えた。
「あっ、こんな日に一人って事は、ビリビリも寂しくクリスマス?」
この真冬に超能力者である電撃使いの暴走で停電になって、暖房機器が使えなくなるのは辛い。
「な、何よ。別におかしい事じゃないでしょ!」
バチィッと、美琴が放った雷撃の槍を、上条は体の前に掲げた右手で打ち消した。
手加減なく思いっきり放電した事で疲労した美琴は、依然赤い衣装に身を包んだままの上条の見詰め、何かを想い付いたのか意地の悪い笑みを浮かべた。
「な、何でせう?」
不吉な予感に完全に腰が引けている上条に、美琴はチェシャ猫の様な笑みを浮かべ迫る。
「せっかくのクリスマスなんだし、少し早いけど何かプレゼントしてくれない。サンタさん?」
「へぁ!?
上条さんはこの時期に大量に出没する量産型サンタの一人で、本物のサンタさんじゃないんだから、ビリビリ中学生に夢と幻想(プレゼント)なんて配れないんだけど。

「あっ、そうだ…。」
温めてあげるからお姉さんの胸の中に飛び込んでおいでと、上条は自棄と冗談で美琴の腕を引き寄せた。
ぽふんと、碌な抵抗もなくピキリと固まった小さな体が上条の腕の中に収まる。
てっきり電撃が飛んでくるとばかり思っていた上条は予想外の反応に驚きながらも、確りと抱き締めた体の温かさに、
「あー。やっぱ、子供って体温高いなぁ。」
本音が漏れた途端、ごきん、と。顎を打ち貫かれた。

顔を真っ赤に染めた美琴は私にそんな趣味はなどとぶつぶつ呟きながら、箱から取り出したイチゴのショートケーキにプラスチック製のフォークを突き刺した。
散々乱暴に扱われたケーキは少し形が崩れてしまっていたが、別に味は変わらないとパクつく。
「ケーキのホール食い。一度やってみたかったのよね」
口の中に広がる甘さに顔を綻ばせた美琴は、隣で顎を押さえ悶絶している上条にあんたも食べる?と、自分が手を付いていない方を差し出した。
「だうー。食べる。」
動く死体のように顔を上げた上条は、もそもそと差し出されたケーキに齧り付く。
人の熱気とざわめきから離れた寒さの厳しい路地で二人、座りもせず十二センチ程の小さなケーキを黙々と貪り食う。
「あー、甘かった。」
「値段の割に美味しかったわね。」
甘い物は別腹な女の子の底力か、蹂躙されたケーキの残骸ができるのにそう長い時間は掛からなかった。
役目を果たし終わったフォークを揺らしながら美琴はぽつりと呟いた。
「明日、雪、降らないかしら?」
「朝見た予報では晴れだったから、難しいかな?」
待ち焦がれる様に暗い夜空を見上げる美琴に、上条はぼんやりと既に予言の域に進化したこの街の天気予報の結果を引き出す。
「それくらい、知ってるわよ。ただ…。ホワイトクリスマスってのも、いいと思わない?」
美琴は答えを待たず空になった箱を小さく潰し、身を責める寒さを思い出したかの様に手を擦り合わせ始めた上条に箱の残骸を手渡して言った。
「門限もあるし、そろそろ帰らなくちゃ。」
ひらひらと手を振って歩き出した美琴は、ふと何かを思い出したように立ち止まり、そうだ。これ、あげるわと、ポケットから取り出した紅茶の缶を上条に投げ渡した。
冷えた指先には熱くさえ感じる生温い缶を受け取った上条は、スピードを上げて離れていく華奢な背中に声を投げ掛けた。

「コレ、ありがと!ビリビリも良いクリスマスと、良い年を!」



「可愛いお嬢様との密会は終ったのかにゃー?」
「はぁ?」
早く着替えようと裏口の扉に手をかけた上条を止める様に、奇怪な声と共に赤い衣装を身に着け白い袋を担いだ大男が何処からともなく姿を現わした。
夜なのにサングラスを掛け楽しげに笑っているその男は、上条と同じく青髪に臨時アルバイトとして呼び出された土御門元春だ。
「お帰り土御門。配達ご苦労様。」
お嬢様と密会という言葉を綺麗に聞かなかった事にして、随分と遅かったなと続けた上条に、
「うーん。配達自体は早く終ったんだけどにゃー。」
カミやんお取り込み中だったから、出て行きにくかったんだぜいと、土御門は苦笑しながら答えた。
土御門は店を出て行く時には持っていなかった白い袋を肩から下ろすと、その中から大きな包みを取り出した。
「あっ、寒い中街頭で頑張ったカミやんに俺からの贈り物だぜい。」

「じゃっ、じゃーん。猫耳付きメイド服ー!!」
いそいそと包みを開き、固まっている上条の頭に猫耳を取り付けた土御門は、少し前に出現した変態を思い起させる満面の笑顔でサムズアップする。
「後はこれに着替えれば完璧だにゃー。貧乳ーメイド万歳!!!!」
「知ってたけど、この馬鹿がー!!」
それと貧乳って言うなー!と、叫ぶ上条の声が聖夜の街に空しく響き渡った。

 

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