「たしかに、ヤツはただのイカれた狂信者だったようだ」
学園都市第七学区に位置する窓のないビル。
その中の培養液を詰め込んだ巨大なビーカーの中で逆さまに浮かんでいる緑の手術衣の『人間』がそう呟いた。
学園都市統括理事長アレイスター=クロウリー。
そのビーカーの前では金髪にサングラスの男、土御門元春が苦虫を噛み潰したかのような顔で立っている。
「貴様の言うとおり、街中に展開していたやつらの仲間は全て取り押さえるよう仕向けた。これで満足か、アレイスター」
「どうした? 科学と魔術の戦争を恐れているのなら何も心配はいらない、ヤツらは首謀者であるウォーレス以外は全て魔術的な意味では一般人だ。軍人、十字教徒、教師なんて人種もいたようだが、まあいずれも不法侵入者で片付くレベルだ」
「……何が狙いだった?」
「どういうことかね?」
「とぼけるなっ!! あの連中の進入を許した狙いはなんだと聞いているんだ、アレイスター=クロウリー!!」
土御門がビーカーを睨みながら叫ぶ。
「――実験さ」
しばらくの沈黙の後、アレイスターはこれまでと一切遜色ない口調で答えた。
「実験……だと?」
「ウォーレスが仕組んだ『神の子』の復活はかつて私が考えたものと似ていたのさ。まあそれは三日ほどで破棄した陳腐な内容だったが、それでももし上手くいけば今後のプランの短縮につながる」
「…………」
「結局実験は失敗。所詮あの程度で満足するような男が仕組んだものだということだったというわけか」
「あの程度!? ふざけるなよ、結果的に助かったといえ下手をすれば学園都市そのものが消滅するほどの力だぞ!?」
「それはないさ。所詮まがい物、せいぜい第七学区が半壊するのが関の山、といったところか」
「……ちっ、やはり貴様とは会話にならないな。魔術師アレイスターよ」
その言葉と共に土御門はビーカーに背を向ける。程なくして現れた結標とともに金髪サングラスの姿は窓のないビルから消えた。
「あの程度さ……」
もはや誰もいなくなった空間でアレイスターは呟く。
「いずれ知ることになる。神が持つ力、その本当の意味を」
学園都市第七学区に位置する窓のないビル。
その中の培養液を詰め込んだ巨大なビーカーの中で逆さまに浮かんでいる緑の手術衣の『人間』がそう呟いた。
学園都市統括理事長アレイスター=クロウリー。
そのビーカーの前では金髪にサングラスの男、土御門元春が苦虫を噛み潰したかのような顔で立っている。
「貴様の言うとおり、街中に展開していたやつらの仲間は全て取り押さえるよう仕向けた。これで満足か、アレイスター」
「どうした? 科学と魔術の戦争を恐れているのなら何も心配はいらない、ヤツらは首謀者であるウォーレス以外は全て魔術的な意味では一般人だ。軍人、十字教徒、教師なんて人種もいたようだが、まあいずれも不法侵入者で片付くレベルだ」
「……何が狙いだった?」
「どういうことかね?」
「とぼけるなっ!! あの連中の進入を許した狙いはなんだと聞いているんだ、アレイスター=クロウリー!!」
土御門がビーカーを睨みながら叫ぶ。
「――実験さ」
しばらくの沈黙の後、アレイスターはこれまでと一切遜色ない口調で答えた。
「実験……だと?」
「ウォーレスが仕組んだ『神の子』の復活はかつて私が考えたものと似ていたのさ。まあそれは三日ほどで破棄した陳腐な内容だったが、それでももし上手くいけば今後のプランの短縮につながる」
「…………」
「結局実験は失敗。所詮あの程度で満足するような男が仕組んだものだということだったというわけか」
「あの程度!? ふざけるなよ、結果的に助かったといえ下手をすれば学園都市そのものが消滅するほどの力だぞ!?」
「それはないさ。所詮まがい物、せいぜい第七学区が半壊するのが関の山、といったところか」
「……ちっ、やはり貴様とは会話にならないな。魔術師アレイスターよ」
その言葉と共に土御門はビーカーに背を向ける。程なくして現れた結標とともに金髪サングラスの姿は窓のないビルから消えた。
「あの程度さ……」
もはや誰もいなくなった空間でアレイスターは呟く。
「いずれ知ることになる。神が持つ力、その本当の意味を」
「――ああ、わかった。後で連絡する。じゃあ、また……」
カチャ、と。
篠原圭は病院の公衆電話の受話器を置いた。
少年はそのまましばらくその場で立ち尽くす。
その後彼が再び動き出したのは、足音と共にこちらに向かってくる見知った人影が視界に入ったからだ。
「リアか。上条のやつ、どうだっぶべらぁっ!?」
突然、何の前触れもなく篠原の鼻っ面にリア=ノールズのこん身の右ストレートが突き刺さり、少年の言葉は強制的に中止させられた。
「ちょっ、おまっ、いきなりグーパンとか訳わかん――」
「ウッサイ黙れ喋んな。言っとくけどこれから先、あんたには私が許可しないかぎり発言権はないわよ」
唐突に肉体的、精神的に理不尽をタンデムで叩きつけてきた目の前の少女は、漫画でよく見るような両手を合わせる格好で指をパキポキと鳴らしている。
一見華奢に見える少女、リアだがそう見えて護身術を中心にいろんな武術をかじっていた。
そこから培った経験と筋力により放たれた右ストレートは、その衝撃を理想的なまでにぶれることなく篠原の顔面へと伝達する。
篠原の鼻辺りに熱い感触が走り、やべ、鼻血出たと顔を押さえていると、目の前の少女は次は両拳を震わせていた。
「ちょっとタンマ、やばいって鼻血出てるって! 大体女がグーで殴るとか良くないっていうか、いやかといってパーなら良いって訳でも――」
「…………わよ……」
「へっ?」
「聞いたわよ、あんたが死ぬ気であんなことしたその理由! ふざけてんじゃないわよ、私には一切何の相談もなかったくせに!!」
「……ごめん」
「ごめんで済んだら警察いらないのよこのスットコドッコイ!!」
続いて右ストレート、をフェイクに使っての左のボディブローが実に見事に炸裂し、篠原は遂に昏倒する。
「ボ、ボキャブラリー豊富なことで……」
「この半年暇だったからね。てかんなことはどうでもいいのよ! いい、あんたのおばさんは私にとっても大事な人なの。だからもう勝手に一人で先走るんじゃないわよ!!」
「……ああ、わかった」
妙にすっきりした顔で少し笑って答えた篠原に、リアは少し睨んだ後はぁ、と小さくため息をつく。
「……まいいわ。で、さっき誰に電話してたの?」
「あー、とうさんにな」
わりとケロッとして立ち上がった辺り、やはり篠原も只者じゃない。だがリアは、それとは別なところに喰いついた。
「おじさん!? あんたやっぱ連絡取り合ってたの!?」
「いや、三年ぶりかな」
平然と言ってのける目の前のこの少年に、なんとなくリアはこいつの父親に内心同情する。
「でさ……かあさん、目が覚めたって」
「っ! ほんとに!?」
「嘘ついてどうすんだって」
「よかった……って、なんかあんた反応薄くない?」
「……先に聞いてたからな」
「はぁ?」
リアの怪訝そうな顔を見ながら真っ暗な世界での母親の言葉を思い出す。
カチャ、と。
篠原圭は病院の公衆電話の受話器を置いた。
少年はそのまましばらくその場で立ち尽くす。
その後彼が再び動き出したのは、足音と共にこちらに向かってくる見知った人影が視界に入ったからだ。
「リアか。上条のやつ、どうだっぶべらぁっ!?」
突然、何の前触れもなく篠原の鼻っ面にリア=ノールズのこん身の右ストレートが突き刺さり、少年の言葉は強制的に中止させられた。
「ちょっ、おまっ、いきなりグーパンとか訳わかん――」
「ウッサイ黙れ喋んな。言っとくけどこれから先、あんたには私が許可しないかぎり発言権はないわよ」
唐突に肉体的、精神的に理不尽をタンデムで叩きつけてきた目の前の少女は、漫画でよく見るような両手を合わせる格好で指をパキポキと鳴らしている。
一見華奢に見える少女、リアだがそう見えて護身術を中心にいろんな武術をかじっていた。
そこから培った経験と筋力により放たれた右ストレートは、その衝撃を理想的なまでにぶれることなく篠原の顔面へと伝達する。
篠原の鼻辺りに熱い感触が走り、やべ、鼻血出たと顔を押さえていると、目の前の少女は次は両拳を震わせていた。
「ちょっとタンマ、やばいって鼻血出てるって! 大体女がグーで殴るとか良くないっていうか、いやかといってパーなら良いって訳でも――」
「…………わよ……」
「へっ?」
「聞いたわよ、あんたが死ぬ気であんなことしたその理由! ふざけてんじゃないわよ、私には一切何の相談もなかったくせに!!」
「……ごめん」
「ごめんで済んだら警察いらないのよこのスットコドッコイ!!」
続いて右ストレート、をフェイクに使っての左のボディブローが実に見事に炸裂し、篠原は遂に昏倒する。
「ボ、ボキャブラリー豊富なことで……」
「この半年暇だったからね。てかんなことはどうでもいいのよ! いい、あんたのおばさんは私にとっても大事な人なの。だからもう勝手に一人で先走るんじゃないわよ!!」
「……ああ、わかった」
妙にすっきりした顔で少し笑って答えた篠原に、リアは少し睨んだ後はぁ、と小さくため息をつく。
「……まいいわ。で、さっき誰に電話してたの?」
「あー、とうさんにな」
わりとケロッとして立ち上がった辺り、やはり篠原も只者じゃない。だがリアは、それとは別なところに喰いついた。
「おじさん!? あんたやっぱ連絡取り合ってたの!?」
「いや、三年ぶりかな」
平然と言ってのける目の前のこの少年に、なんとなくリアはこいつの父親に内心同情する。
「でさ……かあさん、目が覚めたって」
「っ! ほんとに!?」
「嘘ついてどうすんだって」
「よかった……って、なんかあんた反応薄くない?」
「……先に聞いてたからな」
「はぁ?」
リアの怪訝そうな顔を見ながら真っ暗な世界での母親の言葉を思い出す。
(「――後で私も行くから」)
あのとき、たしかに彼女はそう言った。そういえば出来ないコトは口にしないような人だった覚えがある、だからこそ安心して待てたのだろうか。
「じゃ、俺も上条の所行ってくるわ」
「あ、ちょっと待って」
リアに肩を掴まれて、んだよと篠原が振り返る。そしてその顔に今度はキレのいい右フックが放たれて篠原は半回転しながら床に転がった。
「ぐはっ!? お、お前な、いい加減にしねーとさすがに怒るぞ!」
「何言ってんの、私はまだ許したとは言ってないでしょうが」
「三発も殴っといて何言ってやがる!」
「最初の二発はおじさんとおばさんの分よ。そもそも、たかが三発ごときで私の怒りが収まると思ってんのあんたは」
再び指をパキポキ鳴らすリアに篠原は思わずひぃっと小さな悲鳴を上げる。
その後、しばらく二つのバタバタした足音と看護婦の怒鳴り声が響いた。
「じゃ、俺も上条の所行ってくるわ」
「あ、ちょっと待って」
リアに肩を掴まれて、んだよと篠原が振り返る。そしてその顔に今度はキレのいい右フックが放たれて篠原は半回転しながら床に転がった。
「ぐはっ!? お、お前な、いい加減にしねーとさすがに怒るぞ!」
「何言ってんの、私はまだ許したとは言ってないでしょうが」
「三発も殴っといて何言ってやがる!」
「最初の二発はおじさんとおばさんの分よ。そもそも、たかが三発ごときで私の怒りが収まると思ってんのあんたは」
再び指をパキポキ鳴らすリアに篠原は思わずひぃっと小さな悲鳴を上げる。
その後、しばらく二つのバタバタした足音と看護婦の怒鳴り声が響いた。
その日は千客万来だった。
あの後上条当麻はやはり怪我のために病院へ直行、入院を余儀なくされ、もはや見慣れた病室で朝を迎えていた。
まず、今朝起き上がると(客ではないが)カエル顔の医者がいつもの調子で
「そろそろここに越してくるかい? 寮より少々値は張るけどね」
というありがたい言葉をかけられたところから始まる。
まず、今朝起き上がると(客ではないが)カエル顔の医者がいつもの調子で
「そろそろここに越してくるかい? 寮より少々値は張るけどね」
というありがたい言葉をかけられたところから始まる。
次にこの病室を訪ねてきたのはステイルだ。
「事後報告だ」
というと今回の事件の後処理について簡単に述べていく。
どうやら主犯であるサイモンは一足先に飛行機でイギリスに送らせたらしい。
「あと篠原圭の今後の処置についてだが、とりあえず彼にはイギリス清教の監視下に入ってもらうことになった。彼が一般人なら多少記憶をいじって放置してもいいかと思ったんだが、彼は聖人だからね。まあそこまで厳しいものではない、せいぜい一ヶ月に二、三回教会に足を運んでもらう程度さ」
それだけ言うと、この愛想のない黒服の神父はさっさと病室から出て行った。
「事後報告だ」
というと今回の事件の後処理について簡単に述べていく。
どうやら主犯であるサイモンは一足先に飛行機でイギリスに送らせたらしい。
「あと篠原圭の今後の処置についてだが、とりあえず彼にはイギリス清教の監視下に入ってもらうことになった。彼が一般人なら多少記憶をいじって放置してもいいかと思ったんだが、彼は聖人だからね。まあそこまで厳しいものではない、せいぜい一ヶ月に二、三回教会に足を運んでもらう程度さ」
それだけ言うと、この愛想のない黒服の神父はさっさと病室から出て行った。
その後、この病室に入ってきたのは何故か御坂美琴だった。
彼女が言うには妹達の様子を見に来たらたまたま見かけた、とのことらしい。
「あんた、どうせ昨日の事件なんか関係してんでしょ」
前触れもなくドンピシャで当てられて、上条はえぇっ、と逃げ場のないベッドの上で後ずさる。
「ていうか私もそのテロリストとやりってんだけどね」
「何やってんだよお前は!」
「うっさいわね巻き込まれたのよ」
若干語弊のある言い方でそれを流して御坂は続ける。
「で、そいつら一昨日の喧嘩の能力者となんか関係あるっぽくて。てかアンタまた動揺したわね、やっぱり何か知ってんじゃないの、洗いざらい白状しなさい!!」
ぐぐっと迫られて上条はうっ、と口ごもる。
今回のことは、説明したくないというよりどう説明すればいいのかまったくわからないというのが正直なところだった。
そのとき、開けっ放しの扉の向こうから
「お姉様?」
という声が響く。
「く、黒子!? なんでこんなところに!」
「以前入院したときの忘れ物を取りに来ただけですの。ってあああああああああああ!? な、何故あなたがお姉様と一緒にいるんですの!?」
「いや俺は入院してるだけであって」
「問答無用ですわ!! お姉様、行きますわよ!」
「ちょ、私はまだこいつに話が――」
よくわからないうちになんとか御坂の尋問からは逃れられたらしい。ただ、これからの白井黒子の対応は更に厳しくなりそうだ。
どうやらこの上条さんの不幸を回避するには別の不幸で塗りつぶすしかないらしいようだ。
彼女が言うには妹達の様子を見に来たらたまたま見かけた、とのことらしい。
「あんた、どうせ昨日の事件なんか関係してんでしょ」
前触れもなくドンピシャで当てられて、上条はえぇっ、と逃げ場のないベッドの上で後ずさる。
「ていうか私もそのテロリストとやりってんだけどね」
「何やってんだよお前は!」
「うっさいわね巻き込まれたのよ」
若干語弊のある言い方でそれを流して御坂は続ける。
「で、そいつら一昨日の喧嘩の能力者となんか関係あるっぽくて。てかアンタまた動揺したわね、やっぱり何か知ってんじゃないの、洗いざらい白状しなさい!!」
ぐぐっと迫られて上条はうっ、と口ごもる。
今回のことは、説明したくないというよりどう説明すればいいのかまったくわからないというのが正直なところだった。
そのとき、開けっ放しの扉の向こうから
「お姉様?」
という声が響く。
「く、黒子!? なんでこんなところに!」
「以前入院したときの忘れ物を取りに来ただけですの。ってあああああああああああ!? な、何故あなたがお姉様と一緒にいるんですの!?」
「いや俺は入院してるだけであって」
「問答無用ですわ!! お姉様、行きますわよ!」
「ちょ、私はまだこいつに話が――」
よくわからないうちになんとか御坂の尋問からは逃れられたらしい。ただ、これからの白井黒子の対応は更に厳しくなりそうだ。
どうやらこの上条さんの不幸を回避するには別の不幸で塗りつぶすしかないらしいようだ。
そしてその次にきたのはインデックスとリアだった。
まず先に来たのはインデックスで、
「なんでとうまは魔術師相手ってわかってるのに私を置いていっちゃうのかな!? 私ほど魔術に関する専門家はいないっていうのに、大体――」
と今回の件に関しての文句をずらずら並べられている最中、
「あ、どうも……」
といったかたちでリアが来てくれたことによりそれは中断した。
助かった、と上条が快くその少女を病室に迎えると、リアは座りもせずにいきなり頭を下げる。
「あの、なんていうか……この度は本当にすいませんでした!」
突然のことにぽかん、として謝罪をされた二人は思わず黙り込む。それを破ったのはインデックスの慌てたような声だった。
「き、気にすることないんだよ。とうまが怪我するのはいつものことだし私はなんてったって専門家だし」
なんとなく引っかかるところがあるがまあ上条もそれに同意する。
「そうだな。きっと俺達は全員自分のしたかったことをしただけだからな」
「え……」
「それについちゃステイルや土御門……ああ、あの時いた後の二人も一緒だ。だから、お前一人が気に病むことはないんだよ」
「でも、私頼ってばっかりで……」
「何言ってんだ、あのときお前が篠原の動きを食い止めてくれたんだろ? あれがなかったら俺は何もできなかったよ、ありがとな」
会話の流れで謝罪に来たはずが何故かその相手にお礼を言われてしまいリアはあれ、と混乱した表情になる。
そのうち、傍らの純白シスターがリアを引っ張って出て行った。
まず先に来たのはインデックスで、
「なんでとうまは魔術師相手ってわかってるのに私を置いていっちゃうのかな!? 私ほど魔術に関する専門家はいないっていうのに、大体――」
と今回の件に関しての文句をずらずら並べられている最中、
「あ、どうも……」
といったかたちでリアが来てくれたことによりそれは中断した。
助かった、と上条が快くその少女を病室に迎えると、リアは座りもせずにいきなり頭を下げる。
「あの、なんていうか……この度は本当にすいませんでした!」
突然のことにぽかん、として謝罪をされた二人は思わず黙り込む。それを破ったのはインデックスの慌てたような声だった。
「き、気にすることないんだよ。とうまが怪我するのはいつものことだし私はなんてったって専門家だし」
なんとなく引っかかるところがあるがまあ上条もそれに同意する。
「そうだな。きっと俺達は全員自分のしたかったことをしただけだからな」
「え……」
「それについちゃステイルや土御門……ああ、あの時いた後の二人も一緒だ。だから、お前一人が気に病むことはないんだよ」
「でも、私頼ってばっかりで……」
「何言ってんだ、あのときお前が篠原の動きを食い止めてくれたんだろ? あれがなかったら俺は何もできなかったよ、ありがとな」
会話の流れで謝罪に来たはずが何故かその相手にお礼を言われてしまいリアはあれ、と混乱した表情になる。
そのうち、傍らの純白シスターがリアを引っ張って出て行った。
そして現在、目の前には不機嫌な顔の小萌先生とその後ろでへらへらとしている土御門がいる。
「なんで上条ちゃんはいっつも一人で突っ走っちゃうんですか! 先生はシスターちゃんを見つけたら一緒に帰ってくるよう言ったのに、なんでわざわざテロリストに近づいて怪我して帰ってくるんです!?」
誰が事情を説明したのかは知らないが、どうもそういう風になっているらしい。
「仕方ないのにゃー小萌先生。カミやんのそれはもう性格っていうより性質なんだから、いちいち気にしてたらキリがないってもんですたい」
フォローのつもりなのか、と土御門を上条はジト目を向ける。だが、それより先に小萌先生の首がまるでフクロウの様にぐるんと後ろに振り向く(ように見えた)。
「土御門ちゃんもなのです! 学校サボってテロに巻き込まれて怪我してたら世話ないのです!!」
「ええっ、流れ弾っ!?」
割と予想外の銃弾を受けたことに土御門は慌てる。
そして完全に小声でぶつくさ言い始めた小萌先生を尻目に土御門は上条に小声で話しかけた。
(おいおい、どうにかしてくれよカミやん)
(言っとくけど今回はお前も怒られてんだからな、第一上条さんにはこんな状況を回避するスキルはありません!)
(何言ってんだ。『マゾなんです、危険があると興奮して近づかずにはいられないんです』とか言っときゃいいんだよ、どうせカミやんが怪我して入院するのなんていつもの事なんだからにゃー)
(……今回の傷にはお前がつけたのも入ってんだぞコラ)
「何コソコソやってるんですか!!」
腕を組んで仁王立ちした小萌先生がその会話を切るように怒鳴る。
普段起こらない人がというヤツなんだろうか、身長一三五ほどしかないこの先生から何故か妙な威圧感を感じて二人は思わず後ろへ引いた。
「まったく……、もういいです、今日のところはとりあえず引き下がってあげます」
と、そう言いながら小萌先生はくるんとこちらに背中をむける。
「シスターちゃんに昼食奢ってあげる約束しちゃいましたからね。早くしないとあの子が空腹で暴れだしちゃうかもしれないのです」
そう言いながら出て行く担任に上条は、あ、なんかすいませんとベッドの中から軽く礼をする。
「じゃあ俺もそろそろお暇するころにするぜよ。カミやん、マゾもほどほどにしとけよ」
そう言いながら出て行くクラスメイトに上条は、やかましいこのヤロウとベッドの中から怒鳴りつけた。
「なんで上条ちゃんはいっつも一人で突っ走っちゃうんですか! 先生はシスターちゃんを見つけたら一緒に帰ってくるよう言ったのに、なんでわざわざテロリストに近づいて怪我して帰ってくるんです!?」
誰が事情を説明したのかは知らないが、どうもそういう風になっているらしい。
「仕方ないのにゃー小萌先生。カミやんのそれはもう性格っていうより性質なんだから、いちいち気にしてたらキリがないってもんですたい」
フォローのつもりなのか、と土御門を上条はジト目を向ける。だが、それより先に小萌先生の首がまるでフクロウの様にぐるんと後ろに振り向く(ように見えた)。
「土御門ちゃんもなのです! 学校サボってテロに巻き込まれて怪我してたら世話ないのです!!」
「ええっ、流れ弾っ!?」
割と予想外の銃弾を受けたことに土御門は慌てる。
そして完全に小声でぶつくさ言い始めた小萌先生を尻目に土御門は上条に小声で話しかけた。
(おいおい、どうにかしてくれよカミやん)
(言っとくけど今回はお前も怒られてんだからな、第一上条さんにはこんな状況を回避するスキルはありません!)
(何言ってんだ。『マゾなんです、危険があると興奮して近づかずにはいられないんです』とか言っときゃいいんだよ、どうせカミやんが怪我して入院するのなんていつもの事なんだからにゃー)
(……今回の傷にはお前がつけたのも入ってんだぞコラ)
「何コソコソやってるんですか!!」
腕を組んで仁王立ちした小萌先生がその会話を切るように怒鳴る。
普段起こらない人がというヤツなんだろうか、身長一三五ほどしかないこの先生から何故か妙な威圧感を感じて二人は思わず後ろへ引いた。
「まったく……、もういいです、今日のところはとりあえず引き下がってあげます」
と、そう言いながら小萌先生はくるんとこちらに背中をむける。
「シスターちゃんに昼食奢ってあげる約束しちゃいましたからね。早くしないとあの子が空腹で暴れだしちゃうかもしれないのです」
そう言いながら出て行く担任に上条は、あ、なんかすいませんとベッドの中から軽く礼をする。
「じゃあ俺もそろそろお暇するころにするぜよ。カミやん、マゾもほどほどにしとけよ」
そう言いながら出て行くクラスメイトに上条は、やかましいこのヤロウとベッドの中から怒鳴りつけた。
「上条、いるか?」
それからしばらくして、ノックの音と共に篠原が病室を訪ねてきた。
「おお篠原……って俺そんなに強く殴ったっけ?」
「気にすんな、別件だ」
何故か病院にいながらこの数日で一番ボロボロになっていた少年はそれをなんとか流そうとする。
そしてベッドの横に腰掛けて開口一番、篠原はバツがわるそうに、今まで見せなかったような顔をしながら頭を下げた。
「なんていうかあれだ……、すまなかった」
「……お前達、似てるよな」
「はっ?」
「リアだよ、あいつもここに来るなりいきなり謝ってきたんだよな」
「そうなのか?」
「まあな。てかあいつにも言ったけど、俺達はそれぞれやりたいことをやったまでに過ぎないんだ」
「……」
「お前だって母親のためにって必死に戦ってたんだろ? 今回はお前はやり方を間違えちまったけど、それならこれからやり直せばいい。ともかく全員無事に帰ってこれたし、もうお前が気に病む必要はないんだよ」
「……大したヤツだな、お前は」
「そうか?」
自覚のないところが特にな、と篠原は心の中で付け加えた。
それからしばらくして、ノックの音と共に篠原が病室を訪ねてきた。
「おお篠原……って俺そんなに強く殴ったっけ?」
「気にすんな、別件だ」
何故か病院にいながらこの数日で一番ボロボロになっていた少年はそれをなんとか流そうとする。
そしてベッドの横に腰掛けて開口一番、篠原はバツがわるそうに、今まで見せなかったような顔をしながら頭を下げた。
「なんていうかあれだ……、すまなかった」
「……お前達、似てるよな」
「はっ?」
「リアだよ、あいつもここに来るなりいきなり謝ってきたんだよな」
「そうなのか?」
「まあな。てかあいつにも言ったけど、俺達はそれぞれやりたいことをやったまでに過ぎないんだ」
「……」
「お前だって母親のためにって必死に戦ってたんだろ? 今回はお前はやり方を間違えちまったけど、それならこれからやり直せばいい。ともかく全員無事に帰ってこれたし、もうお前が気に病む必要はないんだよ」
「……大したヤツだな、お前は」
「そうか?」
自覚のないところが特にな、と篠原は心の中で付け加えた。
「かあさん、目が覚めたってよ」
見舞いのリンゴをシャリシャリと向きながら、篠原は世間話の延長のように口にする。
「ぶっ! ……なんでそんなに軽く言うんだよ」
口にしていたリンゴを思わず吹き出し、上条はつっこんだ。
「んー、いい加減報告が面倒になってきてなぁ」
「なんだそりゃ……でも、良かったじゃんか」
「ああ、でだ」
そう言いながら篠原は向いたリンゴを載せた皿を上条に差し出した。
「俺明日イギリスに帰るから」
それにまたも上条はリンゴを吹き出す。
「だから軽すぎだろ!? っていうか急すぎないか」
「つってもなー、こっちにもう用はねぇし、とうさんがたまたま日本にいるんだよなぁ。で、明日ちょうどあっちに帰るんだと」
「親父さん? あれ、イギリスに住んでんじゃないのか?」
「なんかの仕事で国転々としてるんだよ、それにもそもそ親父は日本人だしゅな」
途中でリンゴを食べだして若干口調がおかしくなりなっても篠原は気にせず続ける。
「イヒリシュ清教の、監視下にも入っちまったし何かとあっちの方が都合がいいんだよ」
「食べながら喋るのは止めなさい」
「んなみみっちいこと気にすんなって、あと言っとくことがもう一つ」
「……なんだ、もう何が来ても驚かねえぞ」
上条はそう言いながらもリンゴを皿に置き身構える。
「聖人の力、なくなったっぽい」
「そう……なのか?」
「あれ、これが一番驚くかと思ったんだけどな」
実際これはステイルなどの魔術師が聞けばかなりの非常事態なのだが、そこらへんに疎い上条としてはへぇ、そんなこともあるんだなというぐらいにしか受け止めることはなかった。
「じゃ、そろそろ行くわ。帰る準備もしないといけないしな」
「せめて仲良くなったやつらに挨拶ぐらいしないでいいのか」
「まあ落ち着いたらまた来るよ、まあとりあえず今は……」
「?」
「母さんの顔、見たいしな」
「……そうか」
じゃあな、と篠原は立ち上がる。そのまま病室の扉まで行き、ふと気付いたように篠原は振り向かずに上条に話しかける。
「そうだ、上条――」
見舞いのリンゴをシャリシャリと向きながら、篠原は世間話の延長のように口にする。
「ぶっ! ……なんでそんなに軽く言うんだよ」
口にしていたリンゴを思わず吹き出し、上条はつっこんだ。
「んー、いい加減報告が面倒になってきてなぁ」
「なんだそりゃ……でも、良かったじゃんか」
「ああ、でだ」
そう言いながら篠原は向いたリンゴを載せた皿を上条に差し出した。
「俺明日イギリスに帰るから」
それにまたも上条はリンゴを吹き出す。
「だから軽すぎだろ!? っていうか急すぎないか」
「つってもなー、こっちにもう用はねぇし、とうさんがたまたま日本にいるんだよなぁ。で、明日ちょうどあっちに帰るんだと」
「親父さん? あれ、イギリスに住んでんじゃないのか?」
「なんかの仕事で国転々としてるんだよ、それにもそもそ親父は日本人だしゅな」
途中でリンゴを食べだして若干口調がおかしくなりなっても篠原は気にせず続ける。
「イヒリシュ清教の、監視下にも入っちまったし何かとあっちの方が都合がいいんだよ」
「食べながら喋るのは止めなさい」
「んなみみっちいこと気にすんなって、あと言っとくことがもう一つ」
「……なんだ、もう何が来ても驚かねえぞ」
上条はそう言いながらもリンゴを皿に置き身構える。
「聖人の力、なくなったっぽい」
「そう……なのか?」
「あれ、これが一番驚くかと思ったんだけどな」
実際これはステイルなどの魔術師が聞けばかなりの非常事態なのだが、そこらへんに疎い上条としてはへぇ、そんなこともあるんだなというぐらいにしか受け止めることはなかった。
「じゃ、そろそろ行くわ。帰る準備もしないといけないしな」
「せめて仲良くなったやつらに挨拶ぐらいしないでいいのか」
「まあ落ち着いたらまた来るよ、まあとりあえず今は……」
「?」
「母さんの顔、見たいしな」
「……そうか」
じゃあな、と篠原は立ち上がる。そのまま病室の扉まで行き、ふと気付いたように篠原は振り向かずに上条に話しかける。
「そうだ、上条――」
「ありがとう」
「気にすんな」
笑いながら、やはり振り返ることなく篠原は病室を後にした。
笑いながら、やはり振り返ることなく篠原は病室を後にした。
それからしばらくして、手持ち無沙汰となった上条はふとベッドの横のナイロン袋に手をやる。
その中にはプリンが入っており、リンゴは少し食べたものの少量の病院食では満たされない満腹中枢を刺激するために上条はそれに手をつけた。
すると、扉が勢いよくガラガラッと開いてそれと同時に
「あああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
と絶叫するインデックスの悲鳴が病室に響く。
「な、なんだよインデックス。急にそんな大声出して」
それに対する答えとして、シスターは上条の手元を指差した。
「私のプリン」
その言葉に、上条は一気に血の気が引くのを感じる。
「ちょ、これお見舞い品じゃなかったの?」
「小萌に買ってもらったのに……食後のデザートに楽しみにしてたのに……」
「い、いやーちょっと待ってよく見て。上条さんは怪我人ですよ、そんな恐ろしいぐらいとがった歯に噛み付かれると治るものも治らないっていうか――」
「とうま」
「な、なんでせうか……?」
「食べ物の恨みは恐ろしいんだよ」
そして白い獣が飛びついて、ツンツン頭に向かって噛み付いて、
その中にはプリンが入っており、リンゴは少し食べたものの少量の病院食では満たされない満腹中枢を刺激するために上条はそれに手をつけた。
すると、扉が勢いよくガラガラッと開いてそれと同時に
「あああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
と絶叫するインデックスの悲鳴が病室に響く。
「な、なんだよインデックス。急にそんな大声出して」
それに対する答えとして、シスターは上条の手元を指差した。
「私のプリン」
その言葉に、上条は一気に血の気が引くのを感じる。
「ちょ、これお見舞い品じゃなかったの?」
「小萌に買ってもらったのに……食後のデザートに楽しみにしてたのに……」
「い、いやーちょっと待ってよく見て。上条さんは怪我人ですよ、そんな恐ろしいぐらいとがった歯に噛み付かれると治るものも治らないっていうか――」
「とうま」
「な、なんでせうか……?」
「食べ物の恨みは恐ろしいんだよ」
そして白い獣が飛びついて、ツンツン頭に向かって噛み付いて、
「不幸だああああああああああああああああああああ!!」
上条当麻の日常が帰ってきた。