とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 9-690

最終更新:

ryuichi

- view
だれでも歓迎! 編集
遭遇して僅かに5秒。
本場イタリアの伊達男ですらそこまでの無茶はしないだろう、という程の速度で姫神秋沙に告白した少年は今、6人掛けの席の真ん中で押さえつけられ、その脇で上条と小萌先生は頭を抱えて相談していた。
どうやら、この少年もまた、小萌先生の少女保護癖に関連する形で先生と知り合ったようなのだが………

「おかしいんです………ベルちゃんは私と会った1年前から最近まで、こんなことをする男の子じゃなかったんですけど……」

「じゃあ………あのいきなりすぎる告白は一体……?」

はぁ、と珍しく溜め息をつく小萌先生。
そりゃつきたくもなるだろう。

この少年………アベル=V=スカーレットは土御門と青髪に脇を押さえられているにも関わらず、向かいの席に座る姫神にめがけて聞いているこちらが恥ずかしくなるような台詞をつらつらと並べ立てるのだから。
現に、口説かれている姫神もしゅうしゅうと顔を赤くして黙りこくってしまい、隣の吹寄がアベルに反撃する口実をばんばん与えていた。
だが、

首締め、正拳突きと吹寄の必殺技が炸裂するにも関わらず、彼はめげない。

「何で倒れない、のよ、この女の……敵め……!!」

ぜいぜいと荒い息を吐く彼女の前で、相変わらず爽やかな笑みを浮かべ続けるアベル。
それだけでも吹寄を逆上させるには十分だったのだが、

「愛の力です」

などと平然と、しかも黙っていれば女が寄って来るような顔立ちで言い放つのだから手に負えない。
じょわり、とその場全員の背筋をなめるような悪感に、吹寄の手はますます加速。傍目にはどっちが悪人だか分からなくなってしまった。

「止めろ吹寄それ以上はこっちが悪いみたいだぜぃ!」

「あかんて!なんか周りの皆サンの目も痛いですて!!」

「ええい止めるな2人とも!!これは正義の鉄拳なのよ!!」

もう吹寄をおさえるのに精一杯の土御門と青髪。その手がアベルから離れた瞬間、

ズバッ!!と。

何か光がよぎったような錯覚すら纏って包囲網を抜け出し、アベルは姫神の隣にいた。

「あう。え………?」

彼女の白いあごをくい、と持ちあげて、真っ赤になった姫神に、

「秋沙さん、このまま僕と―――」

「「「「黙ってろッッ!!!!」」」」

上、中、下、ゲージ溜め必殺(ヘッドバット)。デルタフォース+吹寄のフルコンボによって、何か後頭部から嫌な音を響かせたアベルは姫神の目前で崩れ落ちたのだった。





結局、アベルを小萌先生に任せて第7学区へと逃げ込むのに数時間を要してしまった。
若干は見慣れた風景も交じる夕暮れを歩く上条達。

「全く……幾ら外国人と言えど、あそこまで腑抜けた人間が居るとは思わなかったわ………」

「それには同感だぜぃ。やっぱりあれか。あいつは姫やんの持つヤマトナデシコの雰囲気にストライクをもらったんかにゃー……?」

「…………。う。ん?」

「確かに、姫やんも災難やったなぁ。でもまぁ、姫やんがべっぴんさんやってことの証明になるんとちゃうー?」

「………ん」

しゅうしゅう。

オイこの馬鹿野郎、と吹寄にのされていく青髪を尻目に、ことさらに顔が赤くなる姫神。
その隣で、上条は苦笑いを浮かべて言う。


「でも、良かったじゃねぇか」

その言葉に、ぴくり、と姫神の動きが止まったことにも気付かずに。

「姫神ってさ、どこか近寄りにくい雰囲気出してるだろ?なんていうか、男には特に………、こう、良く言えないけど。でも、中には姫神の良さが分かるああいう良い奴もいるんだなー……ってさ」

「…………」

返事は、無かった。


「あれ?姫神?」

隣を歩いていたはずの姫神が、数歩後ろで止まっていたからだ。俯いたままのその表情は、黒い髪に隠されて見えないが。

「どうしたんだ?どこか具合でも………」

そう言って駆け寄った上条に、姫神は辛うじて呟いていた。

「………君。は」

「?」

聞こえない上条は、耳を寄せる。普通なら、それだけで顔を赤くしそうな姫神なのに、今の彼女はそうならなかった。

「上条君。は」

「……?」

そして、とてもか細い声で、告げた。




「                  」




「え?」

その言葉に上条の耳が反応し、脳が理解し、口が動こうとした時には、姫神は駆け出していた。

「ち……ちょっと待てよ、姫神!」

そう言ったものの、体の方は動かない。普通に追いかければ追い付くことなんて難しくないのに、動かない。

『上条君は―――』

(何で………だよ……)

黒い、長い髪が路地の角に消えるまで、上条は手を中途半端に彷徨わせたまま、金縛りにでもあったように凍りついていた。

『私が。他の男の人に―――』

(何で……俺は…追えないんだ?)

土御門の後ろからの問いかけが上条の耳に届くには、彼の頭をよぎる言葉が整理されるまでに時間が必要だった。

右手でも殺せない、幻想を前に。




『告白されて。良かったの…………?』









姫神秋沙は、もうすぐ闇に沈む街の中で、一人だった。

「私…………」

あの時。
いきなり外国人に告白された時。
上条君があの人……アベル君に殴りかかっていった時は少し、嬉しかった。
アベル君がずっと私を口説いていた時、苦笑いを浮かべている上条君を見て、複雑な気持ちだった。

「私は………」

そして、



『良かったじゃねぇか』



上条君に、言われた言葉。そこから先は、ほとんど彼女の耳に入っていなかった。
実際、音にして聞くとその重さは段違いだった。―――分かってはいたのに。

「少し……。夢を見過ぎたの。かな……」

大覇星祭のフォークダンスは、結局中学生くらいの女の子と一緒だった。
抽選の景品の旅行は、きっといつも一緒のあの子と行ったのだろう。
はう、と空に向けて溜め息を吐く。
何だか、馬鹿みたいだ。

「でも………。やっぱり………」

(諦めたく。無いよ)

その言葉を、彼女は口にしない。口にすればする程、それは霧のように消えていってしまいそうだったから。
だから、夕闇に浮かぶ細い細い月を見上げてこう呟いた。




「上条君の。ばか」



同じ月が照らす、学園都市。そんな弱々しい明りなど無視して輝き続ける、科学の街。
とあるビルの屋上には、一人の男がいた。
一言で表すなら、時代錯誤とでも言うのだろうか。
墨のように黒い着物を緩く着流し、腰には二振りの鞘。模造品とは思えない黒塗りのそれらは、鞘の外にまで刃による殺気をあふれさせているようだった。
ただ、アラビアの血が交じっているかのようにクセのある髪や黒一色の中に精悍な顔立ちと共に目立つ茜色の目が、彼の国籍をひどくわかりづらくしている。
その男の肩に浮かぶのは、蝙のようなシルエット。ぱたぱたという羽の音が付かず離れず漂うことが、それの特異性を既に証明していた。

「水上流士、霜月上音、樹乃紙巽………」

その手にある、和紙でできた紙の束に記されているのは、とある法則に基づいて集められたこの街の能力者の名前。無表情で羅列を口にしていた男は、しばらく読み進めた所にある、一つの名に目を留める。

「…………姫神、秋沙」

そこに浮かんだ一瞬の笑みを捉えた者は、この学園都市にはいなかった。









翌日。
大覇星祭が終わったと思えば、もう一端覧祭の準備である。
特に吹寄制理は今回の大覇星祭の内容に後悔の残る結末を迎えてしまったため、相も変わらず“一端覧祭運営委員”という腕章をまとっては放課後のホームルームで熱弁を振るっていた。

――――その、一方で。

「…………うはぁ」

上条当麻は憂鬱だった。
昨日の帰り道から、姫神はいつも以上に口数も少ないうえに上条を避けているような行動が目立ち、結局今に至るまで一言も謝罪や問い掛けの会話をできずにいたのだ。
実は、その行動の一切は昨日の姫神の言葉に少なからず動揺している上条が、普段のフラグ建てっぷりならば逃がすはずもない彼女との会話の機会を自分の無意識で避けている結果だということに気付いていないだけなのだが。

「………何ていうか、不幸だ」

その言葉が、どうして沸き上がって来るのかも知らず、少年は今もつぶやいていた。
―――記憶喪失にも関わらず吹寄の説明を聞いていないことがどれほど致命的かにも気付かず、ツンツンの頭を机につっ伏して。

程無く、吹寄による説明を終えた上条達クラスメイトは各々開散していく。
その人混みの中で、彼女の黒くて長い髪を上条は見付けた。

そして、いつの間にか追っていた。


(あれ?何で俺はいつも通りに声を掛けられないんだ………?)

当然、一日中自問し続けたその問いに彼が答えられるはずもなく、上条は姫神の後をこっそりつけた。
彼女と共に下校している女子が一人、二人と減り、そして、姫神は一人になる。

そこで、彼女の足が止まった。

「!?」

気付かれたか、と焦る上条は何故か路地の角に隠れる。

(……何でだ?)

自分の行動にそんなことを思いながら姫神の様子を窺うが、彼女の足が止まった理由は上条では無かった。
彼女の視線の、先。学生寮に囲まれた小さな公園の車止め。





――――そこに、赤い髪、白い肌、反則のようなイケメン………アベル=V=スカーレットがいたからだ。





「な……っ!?」

あまりに予想外すぎる登場人物に、上条の足が釘付けになる。
思えば、彼は小萌先生を知っていたのだ。彼女の高校が分かれば、姫神の足取りを追うことには苦労しないだろう。

(あれ、でも何で校門で待ってなかったんだ?)

わざわざ先回りをしたのか?と壁に背を預けて混乱する上条を更に追い込んだのは、踵を返してこちらに駆けてくる姫神だった。

「って!!、わ、……」

上条が立ち去ろうにも、後ろには長い直線の路地。隠れるものなど当然無い。

「これ、は、どうす………」


彼女が別の方向へ走り去ることを期待している間に、姫神は“不幸にも”上条のいる路地へと入って来て、



「「あ」」



気まずい、と言うにも気まずい沈黙が二人に流れる。

「え。と。上条君………?」

「よ、よう、姫神……」

「………………」

「…………………」

普段の上条ならば笑ってごまかせたかも知れないが、昨日の今日でそんな振る舞いができる程、上条当麻は女性の扱いに慣れた人間では無いのだ。
よって、先に口を開いたのは姫神秋沙だった。
最初は呆然とした表情を浮かべていた彼女だったが、顔を伏し、思い、悩み、意を決して、





「上条君。手伝って」

「え………」



大覇星祭の時には顔を赤くした姫神だったが、今度は力強く上条の手を握って、しっかりと言った。




「アベル君をごまかすのを。手伝って」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー