とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 9-802

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ryuichi

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 学園都市の、陰の部分。
 一般のイメージとは少々違う、この街の小さくない汚点。
 そんな薄暗いだけの路地裏で、ごく一般的なスキルアウト(ただし忍者の家系)である半蔵は
 缶ジュース片手に空を見上げていた。
 明るい部分があるのは分かるのだが、月は見えない。今日のこの街の空は曇っているようだ。
 そうして感傷に浸る半蔵は、かつては浜面や駒場といった面子と共に活馬鹿なことばっかりやっていた。
 その両名がいなくなった今でも、彼は残党達とスキルアウトとしてほそぼそと活動している。どこか物足りないような気持ちを抱えながら。
 別に現状が特別不満だというわけではない。不満ならあの頃だって沢山あった。
 だが、それでもあの三人で馬鹿をやっていた頃はかけがえの無い時間だった。それが過ぎ去ってしまった今なら、そう思うことが出来る。
「お、半蔵じゃねえか」
「げっ、黒妻」
 そんなくだらない感傷を中断させた声に、半蔵は振り返ってからとても嫌そうな顔で応じた。
 そんな反応にも嫌な顔一つしないこの男、名は黒妻という。
 かつてビッグスパイダーと呼ばれていたスキルアウト集団のリーダーであり、彼が不在の間に変貌してしまったそのグループに自身の手で幕を下ろした男でもある。
「お前例の摘発で警備員にしょっぴかれたんじゃなかったのかよ……」
「なんか情状酌量とかでさっさと釈放されちまってよ。ム所の中であいつらの根性叩きなおしてやろうと思ってたんだがなあ」
 そう言って快闊に笑う黒妻。
 正直、半蔵はこの男があまり得意ではない。というか苦手だ。
 かといってそれは不誠実だからとか、気性が荒いからといった理由ではない。逆だ。
「ところで半蔵、それどうしたんだ?」
 半蔵の飲んでいるジュースを指す黒妻。
「ああ、第七学区の公園の自販機を……自販機『で』買ったんだよ」
「へー、そうかそうか」
 納得したように頷いた黒妻は、おもむろにポケットからケータイを取り出した。
 折りたたみ式のそれを開いて、えーと、と逡巡してから一言。
「あっれ、警備員って何番だっけ?」
「だあっ! だから買ったんだって!! 蹴ってねえよ盗んでねえよ通報するのやめろ!!」
 半蔵は慌てて黒妻のケータイを横からひったくる。
 そう。この黒妻という男は、スキルアウトなのにほっとんど悪事を働かない。ツリ目のクセに一本どころか二本も三本も筋を通すような人物なのだ。
 かくいう半蔵だってスキルアウトの中では比較的良識派だ。かつてのリーダーである駒場の方針を引き継いで、売春じみたことは一切禁止だし、女子供には(たまに例外はあるが)基本的に優しい。
 だが、この黒妻はそれどころの話ではない。もうジャッジメントにでもなればいいのにってレベルである。


「だいたい、ジュースの一本や二本別にいいじゃねえか。この間なんか常盤台のお嬢様が蹴ってたぞ」
「ジュースだろうがうまい棒だろうが、窃盗は窃盗。常盤台のお嬢様だろうが誰だろうが、人様に迷惑かけようってのは感心しねえな」
 あーめんどくせえと嘆息する半蔵。本当何でコイツスキルアウトなんだと真剣に思う。
「そういえば半蔵、駒場の件は聞いたけど、浜面はどうしたんだ? アイツもなんかヘマしたのか?」
「……まあ、色々あってな。今頃どっかで頑張って女の子守ってるんじゃないか」
「おお、そうかそうか、浜面の馬鹿もやっと更正したか。駒場の野郎といい、前からアイツらの居場所はスキルアウトじゃねえと思ってたんだよ、俺は」
 自身はスキルアウトのクセに、何故か嬉しそうに笑う黒妻。半蔵はその台詞をそのまま返してやろうかと思ったが面倒だから止めた。そもそも暗部組織は堅気じゃないと思う。
 半蔵は思わずため息を一つ吐く。
 駒場は場違いで分不相応と知りつつも自分の道を貫いて死んだ。
 浜面だってやりたいことを見つけて、歯を食いしばって頑張っている。
 それに比べて半蔵はダラダラとスキルアウトを続けて、結果折角のクリスマスに隣にいるのはこんな野郎というわけだ。なんかもう悲しいやら空しいやら情けないやら。
 せめて隣に誰かいるなら、もっとこう美人の女が良かったと思う。そう例えば今あそこを通り過ぎたかつてしょっぴかれた際に一目惚れしたアンチスキルで巨乳な黄泉川愛穂とか
「って、黄泉川サン!?」
「おうおう半蔵、どうした自首か?」
 後ろで黒妻がなんか言っていたがそれどころではないと走る半蔵。路地裏から表通りに飛び出して黄泉川を探す。
 幸いにも彼女はすぐに見つかった。が、ちょうどタクシーに乗って去って行くところだった。
「ああ、さようなら俺のリア充クリスマス……」
 再び空を仰ぐ半蔵。空は相変わらず暗く曇っており、月も見えはしない。
 白く息を吐いた後、肩を落として再び路地裏へと引っ込んで行く。
 今日はじき雪が降るだろう。知ったこっちゃ無いが。


 タクシーに乗って家路を急ぐ黄泉川は、今の今まで警備員として子供達を取り締まっていた。独り身の学生がカップルを妬んで能力使って大暴れしたりするので、この街のクリスマスは時々物騒なのだ。
 そう、今日はクリスマスだ。
 とは言っても黄泉川に恋人はいないので、クリスマスデートなんて全く予定にない。
 だが、クリスマスというイベント自体に無縁というわけでもない。
 むしろ今年は例年よりも盛大に祝うことになっている。理由は秋からやってきた居候だ。
 名前は打ち止め。とある実験に関係してたらしいちっこくて可愛いヤツである。
 黄泉川は彼女がこれまでどんな人生を送ってきたのか、あまり詳しいことは知らない。なのだが、彼女はどうもクリスマスを祝うのは初めてらしい。
 なにやら色々と特殊な環境にいたようで、サンタクロースの存在すら知らなかった。
 そんなわけで、記念すべき(?)彼女の初クリスマスということで、今年の黄泉川家では二人(+一人)で盛大に祝う予定なのである。
(プレゼントも買ったし、準備は完璧……とは言えないか)
 黄泉川家の居候は、当初はもう一人いた。これまた少々特殊な環境で育ってきた少年が。
 打ち止めは彼にとても懐いている。今もたまに電話で連絡を取ったりしているが、今のところ彼が彼女達と一緒にクリスマスを祝う予定は無い。
(アイツも、きっと人並みにクリスマスを祝ったことなんてないじゃんよ……)
 折角のクリスマスだが、黄泉川は彼のことが僅かに引っかかっている。
 きっとそれは打ち止めも同じだろうと思う。彼のことを誰よりも思いやっているのは彼女なのだから。
 そしてそれはきっと逆もまた然りで。
 だからこそ。彼女の横に彼がいて、ぶちぶち文句を言う彼を宥めつつ一緒にケーキを食べる。
 きっとそれが彼女にとって、そして彼にとって一番幸せなクリスマスのはずなのだ。
 はずなのに、彼が今何処にいるのかも黄泉川には分からないのだ。
「ああクソ、折角のクリスマスなのにモヤモヤするじゃん!」
 運転手がビクっと震える。しかしにわかにイライラし始めた黄泉川はそれどころではない。
 おもむろにケータイを取り出して、とある番号を呼び出す。
 本当は飲みにいきたいところだが、そうもいかないので仕方ない。


「はいはいー、それでは失礼するのですよー」
 そう言って小萌先生は部屋で電話を切った。居候の結標淡希はどこかへ出かけているので、今この部屋には彼女一人しかいない。
 時刻はもう頂点を回っているが、大人な小萌先生からすれば夜はこれからである。相手もそれを承知の上で電話してきたのだろう。
(しかし、黄泉川先生も若いですねー)
 どうにも彼女は教師としての壁というかなんというか、自分の無力さを嘆いているらしかった。
 理想と現実のギャップというヤツだろう。まあ彼女も彼女で昔色々あったらしいし、その気持ちだって十二分に理解は出来る。
 だが先輩教師として、小萌先生はそんな悩みもどこか微笑ましくも感じられるのだった。
 子供達が心配だという気持ちも、彼や彼女達に何かをしてやりたいという気持ちもよく分かる。
 教師として大人として、しっかり導いてやれない自分を歯痒く思うことだってあった。
 けれど、そういったものは結局のところ杞憂というか、言ってしまえば『過保護』の三文字に変換出来るものなのだ。
 結局大人がどれだけ悩んだところで。
 子供達は、迷いながらでも真っ直ぐに歩いて行くものなのだから。
「うふふふふふー、私の可愛い子羊ちゃん達はどうしているんでしょうねー?」
 今日はもうクリスマスだ、ならば飲むべきだと冷蔵庫へ向かう小萌先生。
 ビールを取り出して一人乾杯する。彼女の愛する生徒達に向けて。


「それで、最後には三人そろって説教されてたわ」
『最初から。あの三人は仲良しだったのね』
 とある高校の女子寮。
 吹寄制理は、自室でクラスメイトの姫神秋沙と電話していた。
 時間はもう十二時を回っているのだが、ついつい話が弾んでしまったのだ。今日がクリスマスだということも影響しているのかもしれない。
「っていうか最初から馬鹿だったのよ。その後もすぐにまた騒ぎを起こしてたのよ?」
『それでも。そんな風に騒げる友達というのは。良いものだと思う』
「まあ、そういう意味ではね。でも夏休みに入る前なんか……って、ごめんね、なんか私ばっかり話しちゃって。それも姫神さんが転校してくる前の話ばっかり」
『ううん。私も上条君達の昔の話。興味あるし。楽しい』


 そう? と答えて話を続けながら、吹寄は別のことを考えていた。
 どうにもこの姫神という少女、デルタフォースの一人、上条当麻に気がある節がある。
 吹寄としてはなんであんなヤツをと思うわけだが、まあ蓼食う虫も好き好きと言うし。
 しかも告白をするつもりは全く無いらしいから面倒臭い。その気があるなら恋のキューピットもやぶさかでは無いのだが。
 とはいえ仕切り屋な吹寄制理、お節介を焼かないと気が済まない。その上消極的な姫神相手とくれば、もどかしさ余ってお節介百倍である。
「ねえ、姫神さん」
『何?』
「姫神さんって、上条当麻のこと好きなの?」
 なにやら電話のむこうでガチャンとかドスンとか派手な物音が聞こえた。少し唐突過ぎたのかもしれない。
 吹寄は大丈夫かと訊ねるが、姫神はそれには答えずに、
『……全く気にならないといえば。嘘になるけど。そういうのとは違う。……多分』
「ふーん。多分、ねえ?」
 どうにも積極的に行くつもりは毛頭無い模様である。吹寄からすれば、何が『そういうのとは違う』なのかというレベルなのだが。
 これでは二人きりにしても埒が明かなそうだ。というか本人が望んでいないシチュエーションというのは、それは最早お節介ではなく余計なお世話と言えるだろ。
 仕方ないか、と吹寄は適当に妥協して、
「まあそれは置いといて。今唐突に思いついたんだけど、折角のクリスマスなんだから明日――と、もう今日か。じゃあ今日の昼か夜にでも、クラスの皆で集まってまた騒がない? ウチのクラスはカップルもそんなにいないみたいだし」
『それは。楽しそう。けど』
「けど?」
『きっと。上条君は来れないと思う』
「どうして?」
『今日は。クリスマスだから』
 電話の向こうで、姫神はくすっと笑うのが聞こえた。
 そこまで聞いて、途中までは怪訝な顔をしていた吹寄もふふっと笑った。
「そっか、クリスマスだもんね」
『うん。きっと今頃「不幸だー」って言って。何か厄介ごとに巻き込まれてると思う』
「そうね、上条当麻だもの。……ところで、わたし今、『クラスの皆で』とは言ったけど、『上条当麻が』とは言ってないわよね? やっぱり姫神さん気になってるんじゃない?」
 再び電話越しにガチャゴチャと物音が聞こえてくる。初々しいその反応に思わず笑みをこぼす吹寄は、何かが視界の隅をかすめたような気がして窓の外へ目をやった。
「あ、姫神さん。外見て、外」
『……外?』
 何か引き続きガチャガチャと音を立てながら、姫神がケータイの向こうで動くのが分かる。
『あ。雪』
「うん、雪」
 吹寄は窓越しに夜の学園都市を見やる。
 どうやら今年のこの街は、ホワイトクリスマスになるようだ。


 場所は戻って、学園都市のとある道端に停まっているワゴン車の中。
 浜面仕上は、仕事用の服装に着替えていた。
 極めて作業的に黙々と着替えを終えた浜面は一言。
「……何この衣装」
「何って、どう見てもサンタでしょ」
「どこからどう見ても超サンタです。何言ってるんですか超馬鹿なんですか浜面」
「結局、衣装はサンタでも浜面の馬鹿面と合わさればただの馬鹿な訳よ」
「大丈夫。私は馬鹿な浜面も応援してる」
 容赦ない糾弾からの滝壺理后の涙が出そうなフォローに、ガックリと肩を落とす浜面仕上。
 ワゴン車が停まっているのは第十三学区の道端。幼稚園や小学校が多い学区で、勿論彼等の寮もこの学区に集中している。
 この学区でサンタの衣装とくれば、即ちまあそういうことなのだろうか。
「……なあ、アイテムの仕事なんだよな?」
「そうよ。統括理事長直々のお仕事ってことだけど」
「何やってんの統括理事長……」
 プレゼントが詰まっているのであろう袋を担ぐ浜面。ずっしりと重たいそれの中身には一個一個付箋で何処の誰宛なのか書いてあるという細かさである。いったいどういう基準で決められているのだろうか。
 そのままワゴン車の外に出た。さっき降り出した雪の白が街を彩っていて、掌を差し出すと触れた灰雪がすぐに溶けた。
「で、これからどうするんだ」
「各寮を回って一部屋ずつプレゼントを超配るそうですよ」
「一部屋ずつって……いつまでかかるんだ、それ。それともチャイルドエラーの施設限定とかなのか?」
「結局、この街の暗部組織総出でやるから問題ない訳よ」
「総出!? なにやらされてんの暗部組織!?」
「さっきから超うるさいです浜面。超近所迷惑です自重して下さい」
「いやだって……」
「はまづら、ほら」
 傍らの滝壺が浜面の肩をちょんちょんとつついて、そのままあさっての方向を指差す。
 それを追った浜面の視界に、人がいた。


但し空中に。
「ハッハッハー! 俺のクリスマスに常識は通用しねえぇぇぇぇぇぇェェェ!!!」
「スクールの垣根提督!? ってかうるさっ!! 絹旗アレはいいのか!? いや駄目だろォォォ!!」
「あんな超メルヘンと関わりたくないです」
「私も、あそこまでメルヘンな人は応援できない」
「辛辣だなオイ……」
 げんなりしながら見ていると、唐突に「すごいパーンチ」という掛け声と共に第二位が撃墜された。
 なんかもう色々相当面倒臭いので全力で目を逸らすことにする浜面。クリスマスくらいはあの手の非常識な連中とは関わらずに過ごしたいものである。
「……しっかし、こんな時間に行っても子供は寝てるんじゃないか」
「そうでしょうね」
「じゃあどうやってプレゼント届けるんだよ。玄関先に置いとくのか?」
 至極当然な浜面の問いに、しかし麦野は何を当たり前のことを、と呆れたように答える。
「んなもんこっそり入るに決まってるじゃない」
「いや犯罪じゃん!」
「だから暗部組織が動いてるんじゃない。何を言っているのかしら浜面は。ボケが始まったの?」
「超老化ですか浜面」
「その辺のジジイよりボケてる訳よ」
「お前ら少し黙れ」
 精神的にボコボコにされて思わずちょっとキレた浜面を物理的にもボコボコにした後、さっさと各々の持ち場へと消える面々。
 その場にはボロ布のように打ち捨てられた浜面。折角のクリスマスなのにこの仕打ちや如何に、と悲しいやら空しいやら情けないやらで涙が出ちゃう。
「大丈夫? はまづら」
 唯一この場に残っていた滝壷が傍らにかがみ込んで心配そうに言う。
 滝壺が差し伸べてくれた手を掴んで立ち上がった浜面は、鼻血を垂らしながら一旦ワゴン車の中に戻る。
 因みに鼻血はボコられたときに出たのであって、決してミニスカサンタな滝壺のきわどいふともものラインとは関係ないので注意して欲しい。
 しかしまあ、クリスマスに恋人が傍にいるというのは、それだけでかなり幸せなんではなかろうか。
 少なくとも駒場が死んで、スキルアウトが解体されて、人生の終わりだと嘆いていたあの頃よりは。
 隣に一番大切な人がいて、その人も自分を一番大切に思ってくれて。こんな幸せは、他に無いのではないだろうか。
「……そうだよな。何を欲張ってやがんだ俺は」
 しかも滝壷はミニスカサンタである。白いふとともが眩しいのである。
 再び垂れてきた鼻血をぬぐい、まあ見られる格好まで復活した浜面がワゴン車の中から出てくる。
 手には、ラッピングされた小箱が一つ。
「本当はもっと後に渡そうと思ってたんだけど、フライングするわ」
 彼女から貰った幸せを形にして還元するように。
 小箱を滝壺へと差し出し、一言。
「メリークリスマス、滝壺」
「……はまづら、どうしよう。私プレゼント持ってきてない」
「いや、いいって。俺がフライングしただけなんだからさ」
「……はまづら。目、瞑って」
 滝壷のその台詞にちょっと吃驚して挙動不審な動作をした後、目を閉じて直立する浜面。
 彼女はその余りの動作の固さに少し笑って、一歩で距離を詰めて首を傾け、彼の首に腕を回す。
 空から舞い降りた雪の一片に、二人の唇は同時に触れた。


 学園都市の暗闇で、暗部組織『グループ』は蠢く。
 物音を立ててはいけない。隠密に事を運ぶのが最優先事項だ。
 法律などは彼らを縛る鎖にはならない。その為の暗部組織である。
 というかサンタクロースである。
「……なンで俺がこンなことやンなきゃならねェンだよ」
「うるさいわよ一方通行。仕事に集中なさい」
「子供達が起きてしまっては本末転倒ですよ?」
「だからなンでテメェ等はそンなに乗り気なンだよ……」
 十三学区のチャイルドエラーの施設で、彼等はプレゼントを配っていた。無論サンタ衣装着用で。
 妙にやる気を漲らせる二人にげんなりしながら、一方通行もなんだかんだでちゃんとプレゼントを配っていた。ちょっと昔と比べると大分丸くなったものである。
(まぁ、たとえ俺達がどンな悪党でも、どンな理由を並べても、それでこのガキ共の期待を裏切って良い事になンかならねェだろォがよ……。よくよく考えたらサンタ服を着る理由にもならねェだろ……)
 なにしろ彼等の仕事は「夜中にこっそり」プレゼントを置いていくことである。子供達に姿を見られないようにしているのに、何故にコスプレする必要があるのか。
(なンつーか、思考放棄は良くねェよなァ……)
 彼は彼なりの善人的なものを目指していた気がするのだが、これは多分何かが違う。
 だが、それに今更気付いたところで彼はもうサンタである。
 一方通行は言い知れぬ虚脱感に包まれながらも、プレゼント配布を終えて二人と共に車へ戻る。
「お疲れ様だにゃー、次で今日の仕事は終了だぜい」
 一足先にノルマをこなして待機していた土御門が迎える。それを聞いて、やっと終わりかとため息をつく一方通行。
 なにか不満そうなあと二人も乗り込んで、車が発進する。
 車は大通りに出てしばらく走り続ける。そして十三学区を出た辺りで疑問を抱いた一方通行は運転手に話しかける。
「なンだ、次は十三学区じゃねェのか」
「ええ、土御門さんからは第七学区のマンションだと聞いていますが」
「……オイ、土御門」
 一方通行が土御門を睨むと、彼はなんとも軽薄な笑みを浮かべて、
「にゃー。ツンデレの世話をするのは疲れるぜい」
「誰がツンデレだくそったれがァ!」
 車内で立ち上がって怒る一方通行だが、土御門はケラケラ笑うだけで話にならない。
 運転手も苦笑するばかりで行き先を変更するつもりは無いようである。
 ここで銃や能力を使って暴れるのは簡単だが、それでは何か人間的に成長が無いようで釈然としない。
 まあどうせ演算能力没収されて強制連行されるわけでもないだろうし、降りたら適当に逃げようと心に決める。
「ってかオイ、そもそもプレゼントがもォ残ってねェぞ」
「あら? 一個大きいのがあるじゃない。ここに」
「オイ」
「にゃー。打ち止めが何を一番喜ぶかを考えれば、自明の答えだにゃー」
「なに人の意見丸無視で話を進めやがってるンですかァァァ?」
 土御門の襟首を引っつかんでガクガクと揺さぶってみるが、土御門はニヤニヤするだけでどうにも埒が明かない。
 一方通行は一回このにやけたツラを潰れたトマトみたいにしてやりたいと常々思っているのだが、なかなかその機会に恵まれなかった。
 しかし今日こそその日ではなかろうかと、チョーカーのスイッチに指をかける。


 だが、そこに海原の声が割り込んだ。
「一番大切に思ってる人と一緒に過ごせるというのは、それだけで幸せなものですよ」
「あァ?」
「そうね。逆もまた然り、自分を一番大切に思ってくれる人とクリスマスを過ごせる人が、この街にどれだけいるのかしら?」
「そういうことだぜい一方通行。それでもお前が幸せを拒もうってんならそれは勝手だが、それで打ち止めの幸せが妨げられるってのもおかしな話だと思わないかにゃー?」
「…………」
 一方通行は土御門の襟首から手を離し、シートに身を沈める。
 自分には幸せになる資格など無い。それは確かだと思う。あれだけの惨状を作っておきながら、幸せになろうとするなんて図々しいにも程がある。
 だが、それが打ち止めの幸せを侵すものならどうだろうか。
 所詮自己満足に過ぎないその贖いで彼女の笑顔を曇らせるというのは、彼の我が侭ではないのか。
 一方通行はこれまでの人生を振り返る。
 冷たい研究室と、誰もいない自宅との往復だけの日常を。
 クリスマスも正月もこどもの日も誕生日も、誰とも祝ったことなどない過去を。
 彼女には黄泉川や芳川がいる。他の妹達だっている。独りではない。
 だが、それでも。彼女が本当に共に祝いたいと思っている人は、彼女の傍にいない。
 それでいいのか。そんな空虚さを彼女に押し付けるのが、彼の償いなのか。
「……ああ、クソッ」
 そんなことも分からない自分に。そしてそんな言い訳をしないと一緒にクリスマスを祝ってやることも出来ない自分に、一方通行は毒づく。
「骨の髄までクソったれの根性が染み付いてやがンのか、俺は」
「実際クソ野郎だろうが、一方通行ァァァァァァ!!」
「うわっ!?」
 一方通行の自虐の一言に、突如として二つの声が重なった。
 一つは運転手の声だ。突然眼前に飛び出してきた人物をみて、咄嗟にブレーキを踏んだのだろう。
 もう一つはその飛び出してきた人物だ。白衣を着ていて顔には刺青、どう見ても堅気には見えないその姿を、一方通行はよく知っている。
「木原数多だとォ!?」
「ヒャッハー!! 再会していきなりサヨウナラってなぁ!!」
 木原がこちら目掛けて携行型対戦車ミサイルを発射する。
 舌打ちと共にチョーカーのスイッチをいれ、身を乗り出す一方通行。


 だがしかし。
「邪魔よ」
 それよりも速く、結標の軍用懐中電灯の光が夜闇を引き裂いた。
 駆け抜けた光の軌跡には、当然ミサイルなど残っていない。
 驚愕に染まる木原のすぐ背後で、ミサイルが爆発する。
 だが木原はそれにも咄嗟に反応して回避行動を取った。
 そして結果、それが致命傷となる。
「邪魔だ」
 爆発で注意を逸らしていた木原の後頭部に、弾丸の如き速度で車から飛び出した土御門の拳が衝突する。
 確実に脳を揺さぶられ、木原の動きが止まった。
「邪魔ですよ」
 そして最早ただの的と化した木原を、海原のトラウィスカルパンテクウトリの槍の光が的確に捉えた。
 流れるような連携の前に、僅か三十行足らずで描写出来ないようなモノに変わり果てる木原数多。
 滅入り苦しみます。
「木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!?」
「少女のささやかな願いを潰そうだなんて、下衆ね」
「ロリの幸せを奪おうとはとんでもない野郎だにゃー」
「全くですね。御坂さんとその周りの世界を害する輩は、片っ端から分解していきたい所存です」
「……だからこいつら何でこンなにやる気なンだよ」
 ロリコン三人とショタコン一人を乗せ、ワゴン車は再び発車する。
 びちゃっという音がしたが気にしてはいけない。
 夜の街をワゴン車は微妙に法定速度を無視して走り、やがてとあるマンションの前で停まる。
 マンションの名前はファミリーサイド。
 一方通行は勿論、他のグループの面子もかつて仕事で訪れたことのある場所だ。
「お疲れ様、一方通行。子供相手にいやらしいことなんてしないようにね」
「お疲れ様です一方通行。もし彼女に変なことをしたら皮剥いで入れ替わりますからね?」
「お疲れ様だにゃー一方通行。避妊は忘れないようにするぜよ」
 ベクトル操作でワゴン車を鮮やかに横倒しにしてから、一方通行はファミリーサイドへと消えた。


 一時おいて車内から這い出してくるグループの面々。余計なことは言わなければいいのに、言わないと気が済まない辺りどいつもこいつも性悪である。
 我先に座標移動で脱出した結標が、這い出てきた土御門に疑問を投げる。
「ところで、魔術師がどうこうって言ってたのはなんだったのかしら?」
「ああ、そもそも今回のプレゼント大作戦そのものがその魔術師達の計画なんだぜい。ちょっと前に学園都市を襲った連中でな、その詫びも兼ねてとか言ってやがったが、ありゃあ絶対半分以上趣味だな」
 とあるローマ正教のシスターと彼女とコンビを組む運び屋、その二人組である。かつて学園都市を陥落せんと暗躍した二人ではあるが、手段はともかく基本目的はあくまで誰かを幸せにすることである。
 そして今回のプレゼント大作戦には、とある少年の父親との会話が関係している。その会話を思い出し「かの学園都市には親元を離れ不幸な思いをしている子羊が沢山いるのでは!?」となった末、テンションがうなぎのぼった告解の火曜が暴走したわけだ。
 因みにその利益は勿論件の少年の元へはいかない。世の中そんなものである。
「でも貴方、“学園都市に魔術師が侵入した”とか言ってなかったかしら?」
「ああ、"侵入”だぜい? その後なんやかんやでアレイスターと取引して、暗部組織を動かすことになったみたいだがにゃー」
 そんなわけで実は一方通行と連絡を取った際にはもう話はついていたのだが、彼に馬鹿正直に「子供達にプレゼントを配るにゃー」なんて言った所で確実に協力しないに決まっている。
 だから本題をすり替えてああ伝えたのである。丁度彼は嘘つきなのだし。
「それと、クリスマスにはとある特別な術式も使用可能になるんです。おそらくそれを利用して彼女達は侵入したのでしょうね」
 特別な術式ねえ、と独り言のように繰り返す結標だが、もうその件についての興味は失せているらしい。
 適当に伸びをしたり首を回したりした後、ひらひらと手を振って夜闇へと歩みだす。
「それじゃあ私もさっさと帰らせてもらうわ。小萌も晩酌してる頃だろうし」
 お疲れ様の一言と共に、あっという間に座標移動で消える結標。
 残った二人の男も、別々に歩きだす。
「それじゃあ僕も失礼します。明日はショチトルのお見舞いに行く予定ですので」
「俺も、さっさと舞夏のとこに帰ろうかにゃー」
 そうして、グループの面々はクリスマスの夜へと消えていった。

「……私はどうすれば」
 横倒しになったままのワゴン車と共に残された運転手が一人呟く。
 因みに彼は、一方通行の初陣を送った善人の甘ったれである。だが別に助けは来ない。


 静かな室内に一方通行は踏み込む。サンタクロースを捕まえるぞと息巻いていた部屋の主は、もうとっくに眠ってしまっていた。
 サンタクロースの衣装を着たままの一方通行は、その寝顔を見る。
 幸せそうな寝顔だ。これでいい。この笑顔を曇らせるようなことはあってはならないと、今一度確認する。
 そこで一方通行は、枕もとに靴下と一枚のメモを見つけた。
 プレゼントの希望が書いてあるのだろうと、拾って目を通す。
 そこには予想の通り、彼女が望むプレゼントが書いてあった。
 ただしそれはモノでは無かった。故に、どちらかというと願い事と言った方が正しい。
 そこには拙い字で“一方通行とずっと一緒に” といったような内容が書いてあった。
 それを読んだ一方通行は深く深くため息をついて、サンタクロースはそういう願いを叶えるもンじゃねェだろ、と毒づいて、そのまま床に寝転がる。
「メリークリスマス、打ち止め」
 靴下にも入りきらない大きなプレゼントが言う。
 サンタ兼任でもある彼は翌朝捕獲され、その事実は打ち止めによってネットワーク中に報告されることになる。
 結果番外個体に死ぬほどいじり倒されるのだが、それはまた別の話。



 風が吹いている。学園都市の冷たい夜風が、全開になった窓から吹き込んでいる。
 その夜風を受けながら、上条当麻は侵入者と向き合う。
「お前は……」
 侵入者は、手に持っていたメモから上条へ視線を移す。その洗練された一挙一動からも、只者では無い雰囲気が伝わってくる。
 事実、只者ではない。上条はその事実をその身をもって、その心をもって深く認識させられている。
 トラウマにも近いその名前を、上条は搾り出す。
「堕天使エロメイドッ!!」
「神裂火織ですっ!!」
 同じくトラウマを抉られた神裂が絶叫する。
 神裂火織。世界に二十人といない聖人の一人であり、『第三の天使』である。
 その実力は相手が片手間であったとはいえ天使と切り結び、アックアとの戦いで身体的にボコボコだった上条の精神をズタズタに引き裂いたことからも窺い知れる。
 武器である七天七刀が、夜光を反射して妖しく光る。それから繰り出される『唯閃』は、神すら切り捨てると言われる強力無比な一撃である。またそのやけにエロいボディと無駄にエロい服装はなんだか扇情的に見えるが堕天使エロメイドの時はそれの比ではなく
「さっきから私の説明と堕天使エロメイドの説明を一緒くたにするのを止めてください!!」
「だってお前堕天使エロメイドじゃん!! もうあんなもん着られたら忘れられるわけないじゃん!! もう俺の中でのお前はイコールで堕天使エロメイドだよ!!」
「このド素人が……ッ! い、いや、しかし今はそんな場合ではありません」
 ごほん、と咳払いをして仕切りなおす神裂。
 それしきでごまかされるほど純粋でもない上条だったが、割とマジ殺意のこもった視線で睨まれて姿勢を正す。
「……で、神裂。こんな夜中になんの用だ? 必要悪の教会のお仕事?」
「いえ、インデックスに用事ではありますが、仕事ではありません。どちらかというと私用です」
「私用?」
 神裂はええ、と頷き 
「ご存知と思いますが、私の、そして彼女の同僚でもあるステイル=マグヌスは十四歳です」
「ステイル? ……ああ。まあ、そうなんだよな」
 ステイル=マグヌス。彼もまた必要悪の教会に所属する魔術師で、まだどこか顔にあどけなさも残る正真正銘の十四歳である。
 もっとも身長は二メートル近くあり、いつもタバコをスパスパ吸っているヘビースモーカーなのだが。
「で、そのステイルさん十四歳がどうしたんだ?」
「これもご存知だと思いますが、彼は幼い頃から魔術師としての訓練を積んでいます。特にここ数年は、彼女を守る為に血の滲むような努力を重ねて来ました」


 神裂は昔を思い出すように遠くを見ながら続ける。
「ですが、その代償として年相応の振る舞いをする機会はほとんどなかったと言っていいでしょう。まだ十代も前半だというのに、彼はいつも血の匂いがする戦場で戦ってきたのです」
 もっともそれは彼が望んだことであり、同僚とはいえ神裂がどうこう言うべきことではない。
 だが、彼女の魔法名は『救われぬ者に救いの手を』なのだ。その『救われぬ者』というのにステイルが当てはまらないのかといわれれば、それは極めて微妙なところである。
「勿論これがお節介だということも承知しているのですが……それでも少しでもどうにかしてあげたい、と思うことがあるのです」
「……まあ、その気持ちは分かるけど」
 上条だってインデックスに対して同じような気持ちを抱いていたのだ。
 “普通”に子供時代を過ごせなかったとはいえ、まだ取り戻せるものもあるのではなかろうか、と。
「でもそれとインデックスとどういう関係があるんだ?」
「だから、インデックスをプレゼントとして持って行きます」
 ………………。
 この堕天使エロメイドは何を言っているのだろう?
 記憶を失う前にはどいつもこいつもインデックスをモノ扱いしやがって、なんて憤ったこともある彼としては、ここで一発説教をかますべきだろうかと思案してしまう。
 だがその表情から彼の思いを読み取った神裂は、誤解を与えたことを知り即座に補足する。
「いえ、実は今日、イギリス清教の方で大規模なクリスマスパーティがあるんです」
「へえ、すげえな。でもそれとインデックスにどんな関係が」
「それがバイキング制なんです」
「……ああ、なるほど」
 つまりアレだ。神裂はインデックスを連れて行くことでステイルを喜ばせ、同時に食欲の徒である彼女をバイキング制のパーティに連れて行くことでそちらにも楽しい思いをして貰おうと、そういう考えなのだ。
 なるほど、一見理想的な計画ではある。上条としても、大食らいな彼女の腹を満たすほどの食事を提供してやれないことは少し申し訳ないと思っていた。クリスマスのケーキだって上条家のお財布事情だとショートケーキを二個買っていくので一杯一杯で(まあそもそも金が無いのも彼女の大食いが原因の一端なのだが)なんだか情けないような侘しいような、と感じていたのである。
 だからまあ、この話は言ってしまえば渡りに船なのだが。
「いや、普通に誘えよ」
「う……それは、こちらにも色々都合があるのです。サプライズにしようだとか、半ば思いつきだとか」
「オイ」
 なんとも行き当たりばったりな話である。それでいいのか神裂火織。


「ってかそれはいいけどよ、起きたらイギリスで隣にいるのはお前らでしたーじゃあ、流石のインデックスも警戒すると思うぞ。まさか今から起こして説明すんのか?」
「何を言っているのですか、当然貴方も来るのですよ」
「……はい? マジデ?」
「ええ。マジです」
「そもそもどうやってイギリスまで行くの?」
「クリスマスにしか使えない特別な術式がありまして。それを使います」
 クリスマス術式。二種類あり、一つは超高速隠密移動術式、別名『プレゼント配布術式』
 もう一つは広範囲の人間の限定的な願望を読み取る術式で、別名『プレゼント選定術式』
 今回利用するのはプレゼント配布術式の方である。地球上ならばどこへでも瞬時に移動できてしまうという凄まじい術式だが、当然クリスマスにしか使えない。
「はあ、でもその術式って俺の右手で消されちまうんじゃあ」
「ええ、多分そうなるでしょうね。なので当初、貴方は皆で運ぼうと思っていたのですが」
「皆?」
「あ、どうも」
「って五和!? それに建宮に、他の天草式の面々も!?」
 突如として部屋に現れた一同に面食らう上条。
 しかも何故か皆サンタクロースルックである。浮かれすぎではなかろうか天草式十字凄教。
「とまあ今日だけはこのように一瞬で移動できてしまうのです。縮図巡礼の要領ですね」
「物凄く便利だなクリスマス術式……。悪さし放題じゃないか、こんなの」
「いえ、クリスマス限定の術式なので、これまで悪さに使われたことはないんです」
「……魔術師ってピュアな連中だな」
 まあ確か前に土御門も魔術師は皆ピュアなんだぜいとか言ってた気もするし、案外そんなものなのかもしれない。
 これまで何度も魔術師にボコボコにされてきた上条としては納得行かないことこの上ないのだが。


「ですがそれでは流石に私達が疲れるので、学園都市にいい人材を借りてきました」
「いい人材って……」
 テレポーターとかだろうかと勘ぐるが、そもそも上条はクリスマス術式と同じくテレポートも右手で無効化してしまうので意味が無いのである。
 音速機でも借りてきたのならまだ分かるのだが、『人材』である。一体どのようなトンデモ能力者だ、と上条は構えていたが、不意に窓が叩かれたのでそちらに視線を移した。
「あ、あの、どうも」
「風斬!? もうなんでもアリかよ!!」
「え、えと、すみません……」
 風斬氷華。細かい説明は端折るが、インデックスの親友にして学園都市製の人工天使である。
 以前神の右席が襲来した時にも『使われた』学園都市の最終兵器であるハズなのだが、その彼女がどうしてそんなに気軽に貸し出されるのか。
 上条はもうワケが分からなくなる。
「聞けば彼女はインデックスの友人だそうですし、移動速度も相当のようですので。貴方は彼女と一緒に来てください」
「いやちょっと待て、風斬は特別なヤツだから、俺の右手が触れちまうと色々やばいんだけど」
「毛布でも括りつけておけばいでしょう」
「適当!? だいたい俺生身でマッハ超えで空飛んだら死ぬって!!」
「え、ええと……そこは私の力で何とか……。周りの大気なんかに干渉して、学園都市の超音速旅客機の乗り心地くらいまでなら……」
「よりによってあの飛行機の乗り心地を再現しちゃうのかよ! 嫌だよじゃあ俺夜が明けてから普通に飛行機乗っていくから!!」
「我が侭を言わないで下さい。子供ですか」
「ああそうだよ! お前に比べりゃあ俺なんか全然ガキさ! でも今我が侭言ってるのは確実にお前だからな!! いいぜそれでもお前が俺のことを我が侭だとか抜かしやがるのなら、まずはその幻」
「いいからさっさと行きなさい。私達はあなた方を見送ってからでも十分間に合いますので」
「人の話遮るなよ! だいたいなんだよその余裕! 他人事だと思いやがって、堕天使エロメイドのクセに、って風斬さんその抱え方はヤバイって色々なとこが当たって、ってぎゃあああああダイナミック寝相!? 貴女今寝てますよねインデックスさんちょっ……あああ不幸だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァ!!!」
 絶叫しながら夜空に消える上条を見送ってから、神裂達もクリスマス術式を使ってさっさと移動する。
 残ったのは神裂が持っていた、そしてその前はインデックスの枕元に置いてあったメモのみである。
 そこにはだいたい打ち止めと同じようなことが書かれているのだが、それを上条が知ることはない。





 学園都市にある、『窓の無いビル』
 その中にある生命維持装置の中に浮かぶ、男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』、アレイスター=クローリー。
 世界最高の魔術師でありながら学園都市の統括理事長を務める彼は、赤い液体の中で静かに呟く。

「……ふむ。いくらいい子にしていたところで、そもそもこのビルには煙突はおろか窓すら無い、か」

 来年のクリスマスまでに煙突を作ろうかと真面目に検討しながら、子供にも見えないことはない教育の街の長は静かに目を閉じる。

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