さて、この状況を説明する前に、一つ、とある二人の叫び声を聞いてみようか。
「んな! なんで!? 何で、〝私〟が目の前にいるの!?」
「どうして!? どうして〝私〟が目の前にいるんだよ!?」
「どうして!? どうして〝私〟が目の前にいるんだよ!?」
叫んだのは二人。
一方は、銀髪碧眼で白い修道服に身を包んでいる少女。
一方は、茶髪のショートカットでベージュ色のブレザーに、紺色チェックのプリーツスカートという学園都市有数の高レベルお嬢様学校・常盤台中学の少女。
しかし、お互い、目の前の相手を見て叫んだのである。
そう。今、インデックスと御坂美琴は、目の前にいる『自分たち』に向かって、言い放ったのだ。
「……なあ、こういう場合、俺はどうりアクションとればいいのかな? 白井さん……」
「……是非とも、わたくしにそれをレクチャーしてくださいませんか? 殿方さま……」
声を上げた後、お互いに指差して、呆然と口をパクパクさせながら固まっているインデックスと美琴を眺めながら、やっぱり、目の前で起こったことが理解できず、愕然と、お互いに問いかける上条当麻と白井黒子。
人とは、得てして、想像外のことが発生し、先に驚嘆のセリフを取られてしまうと、何をしていいものか分からなくなるものである。
ちなみに、場所は、第七学区のとある公園。
かつて、上条当麻の二千円札と御坂美琴の一万円札を飲み込んだことがあり、それ以降、どう考えても、それ以上の飲料を無償で提供してしまっている自販機の前である。
年が明けたばかりの三学期早々。晴れる日が多い学園都市の冬で、珍しく、雪国のような思いグレーの雷雲が稲光を発しながら街を覆っていて、天気予報ではところにより雪が降る、と言っていたそんなある日。
結構近くに雷が落ちて、ふと気がついたら、インデックスと美琴が入れ替わっていたのだ。
普段であれば、こういうことには、上条当麻の方が絡んできそうなものなのだが、今回、彼はまったくの無傷である。
珍しいこともあるもんだ、と、上条は考えたりもしたのだが、目の前の出来事に、そんな思考はどこかに吹き飛んだ。
(何でこんなことに?)
などと、上条当麻と白井黒子は、目の前の異変に同じことを思いながら、原因にはまるっきり繋がらないので無駄なことだとは理解していても、今、この状況に至るまでの今日ことを振り返ってみていたりする。
一方は、銀髪碧眼で白い修道服に身を包んでいる少女。
一方は、茶髪のショートカットでベージュ色のブレザーに、紺色チェックのプリーツスカートという学園都市有数の高レベルお嬢様学校・常盤台中学の少女。
しかし、お互い、目の前の相手を見て叫んだのである。
そう。今、インデックスと御坂美琴は、目の前にいる『自分たち』に向かって、言い放ったのだ。
「……なあ、こういう場合、俺はどうりアクションとればいいのかな? 白井さん……」
「……是非とも、わたくしにそれをレクチャーしてくださいませんか? 殿方さま……」
声を上げた後、お互いに指差して、呆然と口をパクパクさせながら固まっているインデックスと美琴を眺めながら、やっぱり、目の前で起こったことが理解できず、愕然と、お互いに問いかける上条当麻と白井黒子。
人とは、得てして、想像外のことが発生し、先に驚嘆のセリフを取られてしまうと、何をしていいものか分からなくなるものである。
ちなみに、場所は、第七学区のとある公園。
かつて、上条当麻の二千円札と御坂美琴の一万円札を飲み込んだことがあり、それ以降、どう考えても、それ以上の飲料を無償で提供してしまっている自販機の前である。
年が明けたばかりの三学期早々。晴れる日が多い学園都市の冬で、珍しく、雪国のような思いグレーの雷雲が稲光を発しながら街を覆っていて、天気予報ではところにより雪が降る、と言っていたそんなある日。
結構近くに雷が落ちて、ふと気がついたら、インデックスと美琴が入れ替わっていたのだ。
普段であれば、こういうことには、上条当麻の方が絡んできそうなものなのだが、今回、彼はまったくの無傷である。
珍しいこともあるもんだ、と、上条は考えたりもしたのだが、目の前の出来事に、そんな思考はどこかに吹き飛んだ。
(何でこんなことに?)
などと、上条当麻と白井黒子は、目の前の異変に同じことを思いながら、原因にはまるっきり繋がらないので無駄なことだとは理解していても、今、この状況に至るまでの今日ことを振り返ってみていたりする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「とうまとうま。ここ、どこだか分かる?」
「ん? この銭湯か? 覚えてない。俺はここに辿り着けなかったはずだ」
「正解なんだよ、とうま♪」
今日は珍しく補習の無かった放課後。
校門のところで待っていたインデックスに連れられて、上条当麻は学園都市巡りをやっていた。
これは、冬休みが明けて、学校からの帰り道に、いつもインデックスがやっていたことだった。
なんせ冬休み中、上条当麻が、自分は退院したというのに、毎日毎日、まだ入院リハビリ生活を送る御坂美琴のお見舞いに行っていたから、一度も二人で『外』に出かけたことがなかったのだ。
それも、一日の面会時間を目いっぱい使って。
もちろん、病院へはインデックスも一緒に行っていたし、インデックスも、そんな上条の行動を止めることはしなかった。
むしろ、インデックス自身が美琴を見舞わなければ、という責務に駆られていた。
無理も無い。
何と言っても、御坂美琴は、今回ばかりは上条当麻の命の恩人なのだ。しかも、上条よりも重症で、リハビリを経ないと退院できないほどだったし、その主な原因は(フィアンマが最大だと思うのだが)自分にある、とインデックスは思い込んでいるのだ。
それでも、美琴とインデックスが顔を合わせると、前ほどでないにしろ、やっぱりギスギスしていて、上条がいつも愛想笑いを浮かべながら二人をなだめる羽目になっていた。もちろん、上条にはなぜ二人が険悪なのかは理解していない。そのことが余計に二人を苛立たせて、ただでさえギスギスしているものだから、腹いせにインデックスは噛み付いてくるわ、美琴は雷撃の槍をとばすわ、と散々な毎日を送っていたわけなのだが、それでも、そんな騒がしい平穏が上条当麻、インデックス、御坂美琴にとっては心地よいものだった。
そして、明日から新学期、という日に美琴は退院できたのである。
以来、インデックスは上条当麻を放課後に連れ出すようになった。
理由は至極単純。
上条当麻に、本当に自分たちが出会った過去が戻って、それが嬉しくて、ことあるたびに、二人で歩いた場所に寄りたいからだ。
さすがに学園都市の外、わだつみやアドリア海、イギリスには連れて行くことはできなくても、学園都市内でも二人で歩いた場所はたくさんある。
三日前はレジャーお風呂。
一昨日は焼肉屋。
昨日は地下街アミューズセンター。
三沢塾にも行ったし、空港にも立ち寄った。冬なのに(夏に入ることができなかった)アイスクリーム屋も。
てことで、今日は、出会って三日後の夜、神裂火織に襲撃を受けた陸橋の近くにある銭湯に来ていたというわけである。
もっとも、放課後、と言うこともあって回れる数はせいぜい一日一つか二つ、多くても三つだが。
そして、今日に関して言えば、
「今日はここだけか?」
「うん。ちょっと学生寮から遠いからね。あとはスーパーに寄ってご飯だよ」
「了解しました」
言って、二人は歩く方向を変えた。
「ん? この銭湯か? 覚えてない。俺はここに辿り着けなかったはずだ」
「正解なんだよ、とうま♪」
今日は珍しく補習の無かった放課後。
校門のところで待っていたインデックスに連れられて、上条当麻は学園都市巡りをやっていた。
これは、冬休みが明けて、学校からの帰り道に、いつもインデックスがやっていたことだった。
なんせ冬休み中、上条当麻が、自分は退院したというのに、毎日毎日、まだ入院リハビリ生活を送る御坂美琴のお見舞いに行っていたから、一度も二人で『外』に出かけたことがなかったのだ。
それも、一日の面会時間を目いっぱい使って。
もちろん、病院へはインデックスも一緒に行っていたし、インデックスも、そんな上条の行動を止めることはしなかった。
むしろ、インデックス自身が美琴を見舞わなければ、という責務に駆られていた。
無理も無い。
何と言っても、御坂美琴は、今回ばかりは上条当麻の命の恩人なのだ。しかも、上条よりも重症で、リハビリを経ないと退院できないほどだったし、その主な原因は(フィアンマが最大だと思うのだが)自分にある、とインデックスは思い込んでいるのだ。
それでも、美琴とインデックスが顔を合わせると、前ほどでないにしろ、やっぱりギスギスしていて、上条がいつも愛想笑いを浮かべながら二人をなだめる羽目になっていた。もちろん、上条にはなぜ二人が険悪なのかは理解していない。そのことが余計に二人を苛立たせて、ただでさえギスギスしているものだから、腹いせにインデックスは噛み付いてくるわ、美琴は雷撃の槍をとばすわ、と散々な毎日を送っていたわけなのだが、それでも、そんな騒がしい平穏が上条当麻、インデックス、御坂美琴にとっては心地よいものだった。
そして、明日から新学期、という日に美琴は退院できたのである。
以来、インデックスは上条当麻を放課後に連れ出すようになった。
理由は至極単純。
上条当麻に、本当に自分たちが出会った過去が戻って、それが嬉しくて、ことあるたびに、二人で歩いた場所に寄りたいからだ。
さすがに学園都市の外、わだつみやアドリア海、イギリスには連れて行くことはできなくても、学園都市内でも二人で歩いた場所はたくさんある。
三日前はレジャーお風呂。
一昨日は焼肉屋。
昨日は地下街アミューズセンター。
三沢塾にも行ったし、空港にも立ち寄った。冬なのに(夏に入ることができなかった)アイスクリーム屋も。
てことで、今日は、出会って三日後の夜、神裂火織に襲撃を受けた陸橋の近くにある銭湯に来ていたというわけである。
もっとも、放課後、と言うこともあって回れる数はせいぜい一日一つか二つ、多くても三つだが。
そして、今日に関して言えば、
「今日はここだけか?」
「うん。ちょっと学生寮から遠いからね。あとはスーパーに寄ってご飯だよ」
「了解しました」
言って、二人は歩く方向を変えた。
「は? 一端覧祭(いちはならんさい)がまだ終わってない?」
久々の登校。三学期自体は一週間ほど前から始まっていたのだが、とある事情の後遺症があったので、大事を取って、もう一週間休んだ御坂美琴にとっては実に、ほぼ三ヶ月ぶりの登校であり、廊下や教室ですれ違う生徒、先生、全員に気遣われたこともあって、その日の授業は何だか頭に入らなかった気がする放課後、御坂美琴は隣を歩く白井黒子から、そう聞かされた。
「その通りですの。お姉様も知ってのとおり、すぐに終結したとは言え、戦争がありましたし、終わったのが十月三十日だったことで、既に延期を決定していた一端覧祭(いちはならんさい)を再度、開催するにも準備期間が足りず、ましてや学園都市全ての学校は二学期の中間試験を中止して、期末一本にしましたから試験勉強のために十一月に開くこともできず、期末試験が終わりましたら、わずか二週間足らずで冬休み。と言うわけで、一端覧祭(いちはならんさい)は二月第一週になったのですわ」
「なるほどねー」
「ちなみにお姉様は期末試験、どうなさいましたの?」
「んー、何だかよく分かんないけど免除で点数的にもOKだって。良かったのか悪かったのかは判断し辛いところだけどね。だって、みんな十二月に頑張ったんでしょ? 私は意識不明だったからって、免除ってことに悪い気がしてならないのよ」
「レ、レベル5の特権ですの?」
「さあ?」
美琴と白井は知らないことなのだが、もちろん、レベル5の特権などではない。
実のところ、この免除は、ある意味、報奨金みたいなもので、『幻想殺し』の右手を持つ少年を、魔術サイドに渡すことなく、学園都市という科学サイドに持ち帰ってきたことに対する、それも統括理事会のさらにその上、学園都市の長に君臨するアレイスター=クロウリー直々のご褒美だったりする。
フィアンマの一件で、アレイスターが怒りを感じるほど、自身のプランが大幅に遅れるところだったところを、偶然とは言え、救われた形になったのだ。さすがのアレイスターも学園都市無断外出の懲罰を取り消してなおかつ褒美を与えるに足りる、と柄にも無く思ってしまったのだろう。
それゆえ、御坂美琴は、晴れて、二学期の期末試験を受けることなく、三学期の成績がよほど悪くない限り、進級が確定したのである。
さすがにこの処置は、学園都市に住む学生全員が羨ましい、と感じても仕方ないことだった。特に毎日が補修の、とある高校に通う無能力少年は地団駄を踏んで涙をだくだく流しながらあまりの境遇の違いに抗議することだろう。
むろん、そんなことを言えば「じゃあ、レベル5になったら考えてあげる」と返されてしまうこと間違いなしだが。
「はぁ~~~まあ、お姉さまならそれくらいの処置があってもおかしくありませんけど、やはり、羨ましいことこの上ないですわね……」
「だから、それが良いことなのか悪いことなのか判断できないって言ったじゃない」
白井黒子の溜息に、美琴も苦笑を浮かべて答えている。
「そう言えば、お姉様。お姉様は体中の筋肉が萎縮して、目が覚めた直後一週間ほど動くこともできなかったはずですけど、この二週間、どんなリハビリをされたので? 今はもう、ほとんど普段の生活には支障の無いレベルで動けてますわよね?」
右手の親指と人差し指で顎を挟み込み、美琴の体を天辺から足の先まで、どこか探るように見回してから、今さらながら問いかける白井黒子。
もっとも、それは仕方がない話で、美琴が退院して寮に戻ってきたからというもの、本来的には美琴がいないからってことで参加することにした風紀委員(ジャッジメント)の夜間パトロールだったはずなのに、美琴が戻ったから、という理由で止めさせてもらえる筈も無く、パトロールから戻ってみれば、美琴は既に就寝していたので聞くタイミングを逃してしまって今日まで来ていたのだ。
ちなみに、朝は、女の子特有の諸事情により、あんまり長話になりそうな話題はできなかったし、新学期になってから、二人一緒に帰れたのは今日が初めてだった。
久々の登校。三学期自体は一週間ほど前から始まっていたのだが、とある事情の後遺症があったので、大事を取って、もう一週間休んだ御坂美琴にとっては実に、ほぼ三ヶ月ぶりの登校であり、廊下や教室ですれ違う生徒、先生、全員に気遣われたこともあって、その日の授業は何だか頭に入らなかった気がする放課後、御坂美琴は隣を歩く白井黒子から、そう聞かされた。
「その通りですの。お姉様も知ってのとおり、すぐに終結したとは言え、戦争がありましたし、終わったのが十月三十日だったことで、既に延期を決定していた一端覧祭(いちはならんさい)を再度、開催するにも準備期間が足りず、ましてや学園都市全ての学校は二学期の中間試験を中止して、期末一本にしましたから試験勉強のために十一月に開くこともできず、期末試験が終わりましたら、わずか二週間足らずで冬休み。と言うわけで、一端覧祭(いちはならんさい)は二月第一週になったのですわ」
「なるほどねー」
「ちなみにお姉様は期末試験、どうなさいましたの?」
「んー、何だかよく分かんないけど免除で点数的にもOKだって。良かったのか悪かったのかは判断し辛いところだけどね。だって、みんな十二月に頑張ったんでしょ? 私は意識不明だったからって、免除ってことに悪い気がしてならないのよ」
「レ、レベル5の特権ですの?」
「さあ?」
美琴と白井は知らないことなのだが、もちろん、レベル5の特権などではない。
実のところ、この免除は、ある意味、報奨金みたいなもので、『幻想殺し』の右手を持つ少年を、魔術サイドに渡すことなく、学園都市という科学サイドに持ち帰ってきたことに対する、それも統括理事会のさらにその上、学園都市の長に君臨するアレイスター=クロウリー直々のご褒美だったりする。
フィアンマの一件で、アレイスターが怒りを感じるほど、自身のプランが大幅に遅れるところだったところを、偶然とは言え、救われた形になったのだ。さすがのアレイスターも学園都市無断外出の懲罰を取り消してなおかつ褒美を与えるに足りる、と柄にも無く思ってしまったのだろう。
それゆえ、御坂美琴は、晴れて、二学期の期末試験を受けることなく、三学期の成績がよほど悪くない限り、進級が確定したのである。
さすがにこの処置は、学園都市に住む学生全員が羨ましい、と感じても仕方ないことだった。特に毎日が補修の、とある高校に通う無能力少年は地団駄を踏んで涙をだくだく流しながらあまりの境遇の違いに抗議することだろう。
むろん、そんなことを言えば「じゃあ、レベル5になったら考えてあげる」と返されてしまうこと間違いなしだが。
「はぁ~~~まあ、お姉さまならそれくらいの処置があってもおかしくありませんけど、やはり、羨ましいことこの上ないですわね……」
「だから、それが良いことなのか悪いことなのか判断できないって言ったじゃない」
白井黒子の溜息に、美琴も苦笑を浮かべて答えている。
「そう言えば、お姉様。お姉様は体中の筋肉が萎縮して、目が覚めた直後一週間ほど動くこともできなかったはずですけど、この二週間、どんなリハビリをされたので? 今はもう、ほとんど普段の生活には支障の無いレベルで動けてますわよね?」
右手の親指と人差し指で顎を挟み込み、美琴の体を天辺から足の先まで、どこか探るように見回してから、今さらながら問いかける白井黒子。
もっとも、それは仕方がない話で、美琴が退院して寮に戻ってきたからというもの、本来的には美琴がいないからってことで参加することにした風紀委員(ジャッジメント)の夜間パトロールだったはずなのに、美琴が戻ったから、という理由で止めさせてもらえる筈も無く、パトロールから戻ってみれば、美琴は既に就寝していたので聞くタイミングを逃してしまって今日まで来ていたのだ。
ちなみに、朝は、女の子特有の諸事情により、あんまり長話になりそうな話題はできなかったし、新学期になってから、二人一緒に帰れたのは今日が初めてだった。
「ああ、んまあ、過去の回り道が今になって活きた、って感じかな?」
美琴は少し視線を逸らして、気まずい笑顔を返していた。
白井は「ん?」という顔をする。
「私の能力をちょっと利用したの。そうしたらさ、案外、早く回復できちゃって」
「はあ?」
思いっきり端折った説明をする美琴に、いぶかしげな声を漏らす白井。
しかし、白井も『能力をちょっと利用した』と言われてしまえば、それ以上は突っ込めない。何と言っても美琴のレベルは5なのだ。大能力者(レベル4)の自分よりも能力分野において、それ相当の使い方を知っているだろうし、聞いたところで、理解できるかどうか分からない。それゆえ、深くは聞けなかった。
言うまでもなく、御坂美琴が利用したのは『筋ジストロフィー』克服のための自身の能力の活かし方だ。
過去に自分のDNAマップを提供した、美琴の最大の動機は『筋ジストロフィー』患者を救いたい、だったわけだが、その時に、少し、どうやって自分の能力を活かすのかを調べたことがあったのだ。もちろん、今よりも幼い自分が辿り着いた答えは研究者であれば、当然、到達していた答えだったろうから自分の胸にしまっておいた。その知識が今回、活きたわけである。美琴もまた、『筋肉が萎縮して動けなかった』わけだから。
妹達(シスターズ)の一件があっただけに、美琴が複雑な気持ちになるのは仕方がないことだった。
「とりあえず、今日は非番のアンタに付き合ってあげるわ。ずっと寂しい思いをさせただろうしね」
「よ、よろしいのですか?」
「迷惑料だと思ってちょうだい。変態染みたことだけはゴメンだけど、それ以外ならOKよ」
言って、美琴はウインクしてみせる。
一瞬、硬直した白井黒子は、嬉し涙さえ浮かべつつ、愛しのお姉さまの左腕に抱きついた。
(ま、今日くらいは仕方ないか……)
美琴も、苦笑を浮かべながら、今回だけは受け入れることにした。
美琴は少し視線を逸らして、気まずい笑顔を返していた。
白井は「ん?」という顔をする。
「私の能力をちょっと利用したの。そうしたらさ、案外、早く回復できちゃって」
「はあ?」
思いっきり端折った説明をする美琴に、いぶかしげな声を漏らす白井。
しかし、白井も『能力をちょっと利用した』と言われてしまえば、それ以上は突っ込めない。何と言っても美琴のレベルは5なのだ。大能力者(レベル4)の自分よりも能力分野において、それ相当の使い方を知っているだろうし、聞いたところで、理解できるかどうか分からない。それゆえ、深くは聞けなかった。
言うまでもなく、御坂美琴が利用したのは『筋ジストロフィー』克服のための自身の能力の活かし方だ。
過去に自分のDNAマップを提供した、美琴の最大の動機は『筋ジストロフィー』患者を救いたい、だったわけだが、その時に、少し、どうやって自分の能力を活かすのかを調べたことがあったのだ。もちろん、今よりも幼い自分が辿り着いた答えは研究者であれば、当然、到達していた答えだったろうから自分の胸にしまっておいた。その知識が今回、活きたわけである。美琴もまた、『筋肉が萎縮して動けなかった』わけだから。
妹達(シスターズ)の一件があっただけに、美琴が複雑な気持ちになるのは仕方がないことだった。
「とりあえず、今日は非番のアンタに付き合ってあげるわ。ずっと寂しい思いをさせただろうしね」
「よ、よろしいのですか?」
「迷惑料だと思ってちょうだい。変態染みたことだけはゴメンだけど、それ以外ならOKよ」
言って、美琴はウインクしてみせる。
一瞬、硬直した白井黒子は、嬉し涙さえ浮かべつつ、愛しのお姉さまの左腕に抱きついた。
(ま、今日くらいは仕方ないか……)
美琴も、苦笑を浮かべながら、今回だけは受け入れることにした。
「今日のごっはんはなぁにかなぁ♪」
上機嫌な顔で、どこかスキップするように歩くインデックスの後ろを、なんだか、微笑ましいものを見つめながら付いて行く上条当麻。
『ベツレヘムの星』でシリアスいっぱいに記憶喪失のことを打ち明けたときの雰囲気とはまるっきり真逆だな、などと思いつつ、しかし、そんなインデックスを見ていれば和んで和んで仕方がない、としか上条は感じなかった。
今、歩いているのは第七学区の、とある公園。
スーパーに行くためには、普通の道路を歩くよりも、ここを通った方が早いからなのだが、上条はふと思う。
(……なぁんか、ここが描写されるときって、いつもいつも妙な目に合うんだが……)
むろんそれは正解だ。
主に、上条と学園都市第三位の少女が原因で。
もちろん今日も例外はなく、
「ちぇいさー!」
と言う、たわけた掛け声と、その後から聞こえてくるガヅン!という衝撃音。
「ほえ? 今の声って……」
思わず、インデックスがスキップをやめるほどの出来事。
当然、上条は後ろで頭を抱えている。
上機嫌な顔で、どこかスキップするように歩くインデックスの後ろを、なんだか、微笑ましいものを見つめながら付いて行く上条当麻。
『ベツレヘムの星』でシリアスいっぱいに記憶喪失のことを打ち明けたときの雰囲気とはまるっきり真逆だな、などと思いつつ、しかし、そんなインデックスを見ていれば和んで和んで仕方がない、としか上条は感じなかった。
今、歩いているのは第七学区の、とある公園。
スーパーに行くためには、普通の道路を歩くよりも、ここを通った方が早いからなのだが、上条はふと思う。
(……なぁんか、ここが描写されるときって、いつもいつも妙な目に合うんだが……)
むろんそれは正解だ。
主に、上条と学園都市第三位の少女が原因で。
もちろん今日も例外はなく、
「ちぇいさー!」
と言う、たわけた掛け声と、その後から聞こえてくるガヅン!という衝撃音。
「ほえ? 今の声って……」
思わず、インデックスがスキップをやめるほどの出来事。
当然、上条は後ろで頭を抱えている。
(う、うわぁ……何でこう、タイミング良く……つうか、悪いのかもしれんが、美琴に出くわすかなぁ……ひょっとして、俺とアイツって妙な運命の糸で結ばれてんのか? 赤色じゃない、って気がする関わり方だけどさ……)
確かに、この場での彼女と上条の関わり方において、甘い展開というものはほぼ皆無に等しい。
ケンカを売られるわ待ち伏せされるわ窃盗の片棒担がされるわドス黒い学園都市の闇の部分を垣間見せられる羽目になるわフリーキックのボールが後頭部に直撃するわ漏電を抑えさせられるわ。
この公園で、上条当麻と御坂美琴が交差したとき、青春真っ盛りの思春期男女といった展開の物語が始まる、なんてことは一度もなかったと言っても過言ではないだろう。
まあ、それ以外の場所であれば案外そうでもなかったりするのだが。
膝枕したりお互いがお互いを押し倒したり何度も何度も手を繋いだり力いっぱい互いに身を寄せ合ったり一緒にフォークダンスを踊ったり文字通り抱き合ったりという、(それもたくさんの周囲の目があるにも関わらず)そんな状況になることが多々あったというのに。
周りから見れば、確実に殺意と敵意とげんなり感を余すところなく向けられる砂を吐きそうになるくらいのキャッキャウフフ展開を見せ付けてしまっているというのに。
なぜか二人には、その自覚はまったくなかったりする。当人たちは悪友同士の馴れ合いのつもりなのかもしれない。美琴の方は上条当麻を意識していないこともないのだが、こと『二人の行動』となると無自覚なのだ。
(いやまあ、別に甘い展開までじゃなくていいから、せめて、もうちょっと普通の展開でだなぁ……)
などと考える無自覚上条はふと気づく。
「って、インデックス!?」
気づけば、既にインデックスが駆け出していたのだ。
(わぁ! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! 自分から厄介ごとに首突っ込んでじゃねえ!)
焦って、インデックスを追う上条はあるが、もちろん、それは上条自身が御坂美琴と顔を合わせることと同意語である。
「あれ? あんたたち?」
「やっぱり短髪!」
一足先に、御坂美琴とインデックスは顔を合わせてしまっていた。
確かに、この場での彼女と上条の関わり方において、甘い展開というものはほぼ皆無に等しい。
ケンカを売られるわ待ち伏せされるわ窃盗の片棒担がされるわドス黒い学園都市の闇の部分を垣間見せられる羽目になるわフリーキックのボールが後頭部に直撃するわ漏電を抑えさせられるわ。
この公園で、上条当麻と御坂美琴が交差したとき、青春真っ盛りの思春期男女といった展開の物語が始まる、なんてことは一度もなかったと言っても過言ではないだろう。
まあ、それ以外の場所であれば案外そうでもなかったりするのだが。
膝枕したりお互いがお互いを押し倒したり何度も何度も手を繋いだり力いっぱい互いに身を寄せ合ったり一緒にフォークダンスを踊ったり文字通り抱き合ったりという、(それもたくさんの周囲の目があるにも関わらず)そんな状況になることが多々あったというのに。
周りから見れば、確実に殺意と敵意とげんなり感を余すところなく向けられる砂を吐きそうになるくらいのキャッキャウフフ展開を見せ付けてしまっているというのに。
なぜか二人には、その自覚はまったくなかったりする。当人たちは悪友同士の馴れ合いのつもりなのかもしれない。美琴の方は上条当麻を意識していないこともないのだが、こと『二人の行動』となると無自覚なのだ。
(いやまあ、別に甘い展開までじゃなくていいから、せめて、もうちょっと普通の展開でだなぁ……)
などと考える無自覚上条はふと気づく。
「って、インデックス!?」
気づけば、既にインデックスが駆け出していたのだ。
(わぁ! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! 自分から厄介ごとに首突っ込んでじゃねえ!)
焦って、インデックスを追う上条はあるが、もちろん、それは上条自身が御坂美琴と顔を合わせることと同意語である。
「あれ? あんたたち?」
「やっぱり短髪!」
一足先に、御坂美琴とインデックスは顔を合わせてしまっていた。
今日は運よく、二本出たからアンタにあげるわ、と言って美琴はインデックスに『ほっとおしるこ』を渡す。
寒い冬という、この時期であれば、そんなにマズイ飲み物ではない。
実のところ、当初、美琴は、傍にいた白井黒子に勧めたのだが、白井が断ったのである。
本来であれば、美琴からのものなのだから、取り乱して喜びながら受け取りそうなものなのだが、そこはまあ白井も年頃の女の子ということだ。甘々なものには抵抗があるのだろう。
「とうま、ぷるたぶ開けてほしいんだよ」
「……まだ、開けられんのか? お前……」
言いながら、上条はふたを開けて、インデックスに渡す。インデックスは即座に一気に飲み干して、
「ぷはー。あたたかくて甘くて美味しい~~~で、なんで短髪がここにいるの?」
「随分、切り替えが早いわね。ちなみに私が居るのは、帰り道の途中でここに寄ったってだけよ。この自販機に用があったし」
美琴は、スープカレーを一口啜った後、ちらりと自販機を見つめてそう言った。
「お前なあ……前も言ったけど、蹴りはどうかと思うぞ。いくら短パンだからって、太ももの付け根まで見えてるのは変わんねえだからさ」
「う、うるさいわね! ちゃんと周りに黒子以外が居ないことを確認したから良いの!」
「……その前に、無料で自販機から飲料を摂取するのは如何かと思うのですが……」
上条さん、ツッコミどころが違いますわよ、と心の中で付け加えて、白井が口を挟んでくる。
ジャッジメントの白井黒子としては、美琴の行為を見過ごすのはいささか抵抗があるのだが、いかんせん、あの『おばーちゃん式ナナメ四五度からの打撃による故障機会再生法』は常盤台中学内伝である。白井自身もやったことがあるだけに美琴をしょっ引くことはできなかった。
もっとも、この自販機に一番蹴りを叩き込んでいるのは美琴なのかもしれないが、それは言うまい。
寒い冬という、この時期であれば、そんなにマズイ飲み物ではない。
実のところ、当初、美琴は、傍にいた白井黒子に勧めたのだが、白井が断ったのである。
本来であれば、美琴からのものなのだから、取り乱して喜びながら受け取りそうなものなのだが、そこはまあ白井も年頃の女の子ということだ。甘々なものには抵抗があるのだろう。
「とうま、ぷるたぶ開けてほしいんだよ」
「……まだ、開けられんのか? お前……」
言いながら、上条はふたを開けて、インデックスに渡す。インデックスは即座に一気に飲み干して、
「ぷはー。あたたかくて甘くて美味しい~~~で、なんで短髪がここにいるの?」
「随分、切り替えが早いわね。ちなみに私が居るのは、帰り道の途中でここに寄ったってだけよ。この自販機に用があったし」
美琴は、スープカレーを一口啜った後、ちらりと自販機を見つめてそう言った。
「お前なあ……前も言ったけど、蹴りはどうかと思うぞ。いくら短パンだからって、太ももの付け根まで見えてるのは変わんねえだからさ」
「う、うるさいわね! ちゃんと周りに黒子以外が居ないことを確認したから良いの!」
「……その前に、無料で自販機から飲料を摂取するのは如何かと思うのですが……」
上条さん、ツッコミどころが違いますわよ、と心の中で付け加えて、白井が口を挟んでくる。
ジャッジメントの白井黒子としては、美琴の行為を見過ごすのはいささか抵抗があるのだが、いかんせん、あの『おばーちゃん式ナナメ四五度からの打撃による故障機会再生法』は常盤台中学内伝である。白井自身もやったことがあるだけに美琴をしょっ引くことはできなかった。
もっとも、この自販機に一番蹴りを叩き込んでいるのは美琴なのかもしれないが、それは言うまい。
「………………ねえ、とうまちょっといい?」
「どうしたんだ、インデックス?」
「…………………………………………何で短髪のスカートの中が短パンって知ってるのかな?」
ぎっくぅぅぅ!と上条の心臓が飛び出さんばかりの音を響かせた。
そう、美琴のスカートの中身が短パンだ、という事実自体は何の問題もないし、まったくやましさもない。それは間違いない。なぜなら、健全な青春真っ盛りの男子高校生としては、可愛い女の子のミニスカートの中身が短パンでは夢も希望もないからなのだが、だからと言って、スカートの中身が短パンであることを知るにはそれ相応の前段階が必要になってくる。
すなわち。
スカートの中を見る機会が何度もなければならない、ということだ。
しかし今の状況では、上条は衝撃音しか聞こえなかったはずである。衝撃音が聞こえたから、こっちに来たわけなのだが、当然、美琴のスカートの中身など確認できるわけがない。
そんな上条がなぜ、美琴のスカートの中が短パンであることを知っているのか、というところにインデックスは疑問を感じるのだ。
上条当麻は瞬時に悟ってしまった。
決して、インデックスはその原因を好意的に捉えたりはしていないということを。
いつもの上条の悪い癖、と言うか、体質が出たとしか思っていないということを。
「そ、それはだな、インデックス! 前に、御坂がこの自販機に上段回し蹴りを入れているのを見たことがあったからであってだな! お前が思っているようなシチュエーションじゃなくてだ……」
「…………………………………………スカートの中を見たのはそれ一回だけ? それだと、とうまは『いくら短パンだからって、太ももの付け根まで見えてるのは変わんねえだからさ』とは言わないと思うよ。短髪のスカートの中が常に短パンだって知らないと言えないもん」
「う゛……! そ、そりゃ確かに御坂が自販機に蹴りを入れたのを見たのはそれ一回だが……って、ハッ! しまった!」
既に、インデックスが凶悪な笑みで八重歯を輝かせ、碧眼を前髪の影に隠して、いつでも噛み付けますスタンバイOKな態勢になっていることに上条は気づくのが遅れてしまった。
「やっぱりとうまはとうまなんだよ! 何でこういつもいつもいつもいつもいつも女の子の裸見たりパンツ見たりしてるのかな!」
「ま、まて! 俺は御坂の裸は見たことないぞ! 裸どころかパンツだって一度も見たことねえ!」
ぐわぁ!と大口を開けて、飛び上がって突撃してくるインデックスに、咄嗟に防御体制を引く上条。
もちろん、その防御体制は、ほとんど薄皮一枚と言ってもいいくらい貧弱なものに過ぎない。
がちん!「あれ?」
しかし、インデックスの攻撃は上条に届かなかった。
まったく手ごたえのない口に疑問を持って、きょろきょろ周りを見渡せば、美琴が上条の襟首を掴んで自分の方に寄せていた。
百発百中のはずの噛み付き攻撃がかわされたのは、これで二度目である。それも二度とも、美琴が、インデックス以上のスピードで上条を引っ張った結果だった。
上条自身がインデックスの噛み付き攻撃をかわしたことは一度も無い。厳密に言えば、一度だけあるが、その一度でも、正確に言えば、完全に攻撃を避けられたわけではなかった。ちなみに、そのときの話をインデックスにすると、真っ赤な顔になって普段以上の凶暴性と攻撃性を有した噛み付き攻撃が来たりする。
別に、美琴は上条を助けようなどとは少しも思っていなかった。
たまたま、インデックスの牙から救った形にはなったのだが、それは是非とも聞いておきたいことがあったからに過ぎない。
「どうしたんだ、インデックス?」
「…………………………………………何で短髪のスカートの中が短パンって知ってるのかな?」
ぎっくぅぅぅ!と上条の心臓が飛び出さんばかりの音を響かせた。
そう、美琴のスカートの中身が短パンだ、という事実自体は何の問題もないし、まったくやましさもない。それは間違いない。なぜなら、健全な青春真っ盛りの男子高校生としては、可愛い女の子のミニスカートの中身が短パンでは夢も希望もないからなのだが、だからと言って、スカートの中身が短パンであることを知るにはそれ相応の前段階が必要になってくる。
すなわち。
スカートの中を見る機会が何度もなければならない、ということだ。
しかし今の状況では、上条は衝撃音しか聞こえなかったはずである。衝撃音が聞こえたから、こっちに来たわけなのだが、当然、美琴のスカートの中身など確認できるわけがない。
そんな上条がなぜ、美琴のスカートの中が短パンであることを知っているのか、というところにインデックスは疑問を感じるのだ。
上条当麻は瞬時に悟ってしまった。
決して、インデックスはその原因を好意的に捉えたりはしていないということを。
いつもの上条の悪い癖、と言うか、体質が出たとしか思っていないということを。
「そ、それはだな、インデックス! 前に、御坂がこの自販機に上段回し蹴りを入れているのを見たことがあったからであってだな! お前が思っているようなシチュエーションじゃなくてだ……」
「…………………………………………スカートの中を見たのはそれ一回だけ? それだと、とうまは『いくら短パンだからって、太ももの付け根まで見えてるのは変わんねえだからさ』とは言わないと思うよ。短髪のスカートの中が常に短パンだって知らないと言えないもん」
「う゛……! そ、そりゃ確かに御坂が自販機に蹴りを入れたのを見たのはそれ一回だが……って、ハッ! しまった!」
既に、インデックスが凶悪な笑みで八重歯を輝かせ、碧眼を前髪の影に隠して、いつでも噛み付けますスタンバイOKな態勢になっていることに上条は気づくのが遅れてしまった。
「やっぱりとうまはとうまなんだよ! 何でこういつもいつもいつもいつもいつも女の子の裸見たりパンツ見たりしてるのかな!」
「ま、まて! 俺は御坂の裸は見たことないぞ! 裸どころかパンツだって一度も見たことねえ!」
ぐわぁ!と大口を開けて、飛び上がって突撃してくるインデックスに、咄嗟に防御体制を引く上条。
もちろん、その防御体制は、ほとんど薄皮一枚と言ってもいいくらい貧弱なものに過ぎない。
がちん!「あれ?」
しかし、インデックスの攻撃は上条に届かなかった。
まったく手ごたえのない口に疑問を持って、きょろきょろ周りを見渡せば、美琴が上条の襟首を掴んで自分の方に寄せていた。
百発百中のはずの噛み付き攻撃がかわされたのは、これで二度目である。それも二度とも、美琴が、インデックス以上のスピードで上条を引っ張った結果だった。
上条自身がインデックスの噛み付き攻撃をかわしたことは一度も無い。厳密に言えば、一度だけあるが、その一度でも、正確に言えば、完全に攻撃を避けられたわけではなかった。ちなみに、そのときの話をインデックスにすると、真っ赤な顔になって普段以上の凶暴性と攻撃性を有した噛み付き攻撃が来たりする。
別に、美琴は上条を助けようなどとは少しも思っていなかった。
たまたま、インデックスの牙から救った形にはなったのだが、それは是非とも聞いておきたいことがあったからに過ぎない。
「…………………ねえ、アンタって、ひょっとして普段から、女の子のパンツ見たり裸見たりしてるの……? 前に黒子の着替え中に入ってきたことがあったけど、アレだけじゃないわけ……?」
バヂッと帯電しつつ、妙に低い声で問いかける美琴。
「い、いやぁ……美琴さん……随分、回復なされたようで、上条さんは嬉しいですよ? まさか、このわたくしめの体を強引に引っ張れるほどとは……」
思い返してみれば心当たりが多すぎて、苦笑するしかない上条は振り向けない。その背後に居るのが般若か大魔神かと思えば、誰だって振り向きたくないことだろう。
「ええ……おかげさまでね……で、今度は私の質問に答えてくれるかしら……?」
「そ、それはですねーまあ、色々とありまして。上条さんの不幸スキルが呼び込んだ偶然と言いましょうか……そ、そう! 上条さんが不幸体質ですからタイミング悪く、婦女子の着替えの場面に出くわしてしまうことがあるという!」
「それのどこが不幸体質じゃああああああ!! 不幸なのは女の子であってアンタじゃないでしょうがあああああああああ!!」
上条を投げ捨てるように、襟首から手を離して、即座に、ビリビリィィィ!! バリバリィィィィィィィ!!と、心臓に悪い轟音の雷撃を放つが、至近距離にも関わらず、条件反射的に、右手を翳して電気を無効化する上条当麻。彼はしっかり無傷である。
「だあああ! 相変わらずなんなのよ、アンタは! ここは私の電撃喰らって真っ黒こげになる場面でしょうが!!」
「そのリクエストに答えてたら死んじゃいますけどね、俺!」
「……じゃあ、天誅は私の役目かも」
――!!
至近距離で、お互い詰め寄り、ぎゃあぎゃあ言い合う二人の耳が、第三者の、嵐の静けさ前だと断言できる怒気の孕んだ低い声を捉えた。
一瞬で、上条の喉は干上がり、全身の血の気が引く。
即座に踵を返して正対すれば、目の前の聖少女のはずのシスターの瞳が血の色(ブラッド)に輝き、どす黒いオーラを放って両手をわきわきさせている。
文字通り、前門の虎、後門の狼である。
「うがあああああああ!」
しばしの沈黙の後、甲高いが可愛らしくない野獣の雄たけびを上げて、犬歯をむき出しにしたインデックスが飛び掛る。今度は美琴は、上条を引き寄せる、という行動は取らない。
と言うか、美琴にその気はまるっきり無い。
むしろ、インデックスのやることを察知して、背中を向けた上条の両脇の下から手を突っ込み、首根っこを抑える形で羽交い絞めにするという、珍しくインデックスに協力姿勢を見せたくらいだ。
つまり、身動きできない上条に避ける術はない。
「不幸だあああああああ!」
上条当麻が叫んだ直後、まるで、その声に導かれたかのように、
カッ! ガラガラガッガアアアアアアン!
「うわ!」「ひゃっ!」「ひえっ!」「はぅっ!」
直撃はしなかったものの、本当にすぐ傍に。
眩い閃光が走ったと感じた瞬間、風景全体が一瞬震撼したのではないかと錯覚するほどの爆撃音に似た雷が落ちたのである。
その衝撃に四人は吹き飛ばされて――
バヂッと帯電しつつ、妙に低い声で問いかける美琴。
「い、いやぁ……美琴さん……随分、回復なされたようで、上条さんは嬉しいですよ? まさか、このわたくしめの体を強引に引っ張れるほどとは……」
思い返してみれば心当たりが多すぎて、苦笑するしかない上条は振り向けない。その背後に居るのが般若か大魔神かと思えば、誰だって振り向きたくないことだろう。
「ええ……おかげさまでね……で、今度は私の質問に答えてくれるかしら……?」
「そ、それはですねーまあ、色々とありまして。上条さんの不幸スキルが呼び込んだ偶然と言いましょうか……そ、そう! 上条さんが不幸体質ですからタイミング悪く、婦女子の着替えの場面に出くわしてしまうことがあるという!」
「それのどこが不幸体質じゃああああああ!! 不幸なのは女の子であってアンタじゃないでしょうがあああああああああ!!」
上条を投げ捨てるように、襟首から手を離して、即座に、ビリビリィィィ!! バリバリィィィィィィィ!!と、心臓に悪い轟音の雷撃を放つが、至近距離にも関わらず、条件反射的に、右手を翳して電気を無効化する上条当麻。彼はしっかり無傷である。
「だあああ! 相変わらずなんなのよ、アンタは! ここは私の電撃喰らって真っ黒こげになる場面でしょうが!!」
「そのリクエストに答えてたら死んじゃいますけどね、俺!」
「……じゃあ、天誅は私の役目かも」
――!!
至近距離で、お互い詰め寄り、ぎゃあぎゃあ言い合う二人の耳が、第三者の、嵐の静けさ前だと断言できる怒気の孕んだ低い声を捉えた。
一瞬で、上条の喉は干上がり、全身の血の気が引く。
即座に踵を返して正対すれば、目の前の聖少女のはずのシスターの瞳が血の色(ブラッド)に輝き、どす黒いオーラを放って両手をわきわきさせている。
文字通り、前門の虎、後門の狼である。
「うがあああああああ!」
しばしの沈黙の後、甲高いが可愛らしくない野獣の雄たけびを上げて、犬歯をむき出しにしたインデックスが飛び掛る。今度は美琴は、上条を引き寄せる、という行動は取らない。
と言うか、美琴にその気はまるっきり無い。
むしろ、インデックスのやることを察知して、背中を向けた上条の両脇の下から手を突っ込み、首根っこを抑える形で羽交い絞めにするという、珍しくインデックスに協力姿勢を見せたくらいだ。
つまり、身動きできない上条に避ける術はない。
「不幸だあああああああ!」
上条当麻が叫んだ直後、まるで、その声に導かれたかのように、
カッ! ガラガラガッガアアアアアアン!
「うわ!」「ひゃっ!」「ひえっ!」「はぅっ!」
直撃はしなかったものの、本当にすぐ傍に。
眩い閃光が走ったと感じた瞬間、風景全体が一瞬震撼したのではないかと錯覚するほどの爆撃音に似た雷が落ちたのである。
その衝撃に四人は吹き飛ばされて――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、冒頭に戻る。
インデックスと御坂美琴が入れ替わってしまった、という冒頭に。
インデックスと御坂美琴が入れ替わってしまった、という冒頭に。
「うん、やっぱり分からん」
「当たり前ですわ!」
上条が腕を組みつつ、うんうんと頷きながらポツリと漏らした一言に、白井が上条の後頭部をごきんとはたいてツッコミを入れる。むろんグーで。
不意を付かれた上条は突っ伏して地面に顔面を強打する。
「や、やっぱ、不幸だ……」
もっとも、その衝撃音で、ようやく『インデックス』と『美琴』は我に返った。
「とにかく、お二人は別にふざけているわけではありませんのね?」
目の前の上条なんぞに構わず、白井黒子は毅然と問いかける。
「もちろんだよ!」「当たり前でしょうが!」
見た目美琴のインデックスと、見た目インデックスの美琴が、即座に肯定。
しかしだからと言って対策があるわけもなく。
「ふむ。雷の衝撃でお二人の人格が入れ替わったのでしょうか? なにやらお母様が若い頃にそのようなドラマがあったとお話されていたような気もしますが、まさか現実になるとは……まだまだ科学でも証明できないことはあるものですわね」
白井黒子もまた、感想を述べるだけしかできなかったりする。
「で、どうやれば戻るんだ?」
案外、早く立ち直った上条が割ってきた。さすがは不幸慣れしているだけあって、復活も早い。もはやギャグマンガキャラの立ち位置である。
「ううん……まったく見当も付きません。人格だけを抽出して別の人に移す装置、と言うものがあればよろしいのですが、そもそも『人格』をデータとして扱うコンピューターというものがあるのでしょうか」
「クローン技術ならありそうだけど、私たちは天然だし」
ぶつぶつ話し合う白井と美琴を横目に、上条は見た目美琴のインデックスに耳打ちする。
「インデックス。『魔術』で戻せないか?」
「あ、そうか。ちょっと待って……って、あれ?」
「どうした?」
「……変なんだよ? 私の記憶から魔道書のことが無くなってる……」
「は? どういう意味だ?」
「そのままの意味なんだよ。どういうわけか知らないけど、魔道書の記憶が一切無い」
「何だって!?」
「ん? どうしたの?」
上条の思わず叫んでしまった声を聞いて、美琴が問いかけてくる。
「い、いや! なんでもないなんでもない!」
上条は慌てて否定するが、
「ああ、そう言えば、そちらの方は『魔術』に関する知識がありましたね。では、『魔術』でお姉様とあなたを元に戻せないでしょうか?」
あっけらかんと問う白井に、上条当麻はハタと思い出した。
もうすでに、学園都市でも『魔術』という存在は認められているということを。
しかも、つい先日、白井はそれを目の当たりにしたのだ。だから否定しないし、『科学』で分からないなら『魔術』で何とかならないものか、と思うのは、当然の帰結と言える。
科学サイドの人間が魔術サイドの技術に頼るのは、いささか負けを認めているようなものだと言えるかもしれないが、白井黒子はそう考えない。
科学にできないことでも魔術であればできることもあるだろうし、魔術にできないことでも科学であればできることもあるだろう、としか思わない。
「当たり前ですわ!」
上条が腕を組みつつ、うんうんと頷きながらポツリと漏らした一言に、白井が上条の後頭部をごきんとはたいてツッコミを入れる。むろんグーで。
不意を付かれた上条は突っ伏して地面に顔面を強打する。
「や、やっぱ、不幸だ……」
もっとも、その衝撃音で、ようやく『インデックス』と『美琴』は我に返った。
「とにかく、お二人は別にふざけているわけではありませんのね?」
目の前の上条なんぞに構わず、白井黒子は毅然と問いかける。
「もちろんだよ!」「当たり前でしょうが!」
見た目美琴のインデックスと、見た目インデックスの美琴が、即座に肯定。
しかしだからと言って対策があるわけもなく。
「ふむ。雷の衝撃でお二人の人格が入れ替わったのでしょうか? なにやらお母様が若い頃にそのようなドラマがあったとお話されていたような気もしますが、まさか現実になるとは……まだまだ科学でも証明できないことはあるものですわね」
白井黒子もまた、感想を述べるだけしかできなかったりする。
「で、どうやれば戻るんだ?」
案外、早く立ち直った上条が割ってきた。さすがは不幸慣れしているだけあって、復活も早い。もはやギャグマンガキャラの立ち位置である。
「ううん……まったく見当も付きません。人格だけを抽出して別の人に移す装置、と言うものがあればよろしいのですが、そもそも『人格』をデータとして扱うコンピューターというものがあるのでしょうか」
「クローン技術ならありそうだけど、私たちは天然だし」
ぶつぶつ話し合う白井と美琴を横目に、上条は見た目美琴のインデックスに耳打ちする。
「インデックス。『魔術』で戻せないか?」
「あ、そうか。ちょっと待って……って、あれ?」
「どうした?」
「……変なんだよ? 私の記憶から魔道書のことが無くなってる……」
「は? どういう意味だ?」
「そのままの意味なんだよ。どういうわけか知らないけど、魔道書の記憶が一切無い」
「何だって!?」
「ん? どうしたの?」
上条の思わず叫んでしまった声を聞いて、美琴が問いかけてくる。
「い、いや! なんでもないなんでもない!」
上条は慌てて否定するが、
「ああ、そう言えば、そちらの方は『魔術』に関する知識がありましたね。では、『魔術』でお姉様とあなたを元に戻せないでしょうか?」
あっけらかんと問う白井に、上条当麻はハタと思い出した。
もうすでに、学園都市でも『魔術』という存在は認められているということを。
しかも、つい先日、白井はそれを目の当たりにしたのだ。だから否定しないし、『科学』で分からないなら『魔術』で何とかならないものか、と思うのは、当然の帰結と言える。
科学サイドの人間が魔術サイドの技術に頼るのは、いささか負けを認めているようなものだと言えるかもしれないが、白井黒子はそう考えない。
科学にできないことでも魔術であればできることもあるだろうし、魔術にできないことでも科学であればできることもあるだろう、としか思わない。
だからこそ、双方の世界がバランスオブパワーで均衡状態を保っているとしか考えない。
「あっそうか。ねえ、そんな『魔術』ってないの?」
美琴も『魔術』の存在を肯定しているから、笑顔でインデックスに問いかける。
しばし沈黙。
と言うか、インデックスが何も答えない。気まずげに視線を逸らし続けるだけである。まるで悪いことを見咎められた子供のように。
それを察した上条が口を挟んできた。
「わ、悪い、二人とも。なんだかインデックスの調子が悪いのか、思い出せないらしいんだ」
「そうなの? まあ、いきなりこんなことになれば誰だってパニックになるだろうしね。その弾みで、ど忘れしたって仕方ないわよ」
もっとも返ってきた美琴の声には悲壮感は微塵も感じられなかったし、
「なら、仕方ありませんわね。そちらの方の調子が戻るまで、不便ではございますが、このままでしばらく過ごすしかありませんわ」
白井はどこか諦観の溜息を吐いていた。
「……お前ら、随分と冷静だな? 俺はまだ、結構パニくってるし、インデックスだって、ご覧のとおりなんだぜ?」
思わず上条はジト目で問いかける。
「そう? パニくって元に戻れるなら、いくらでもパニックになってあげるけど、そんな訳が無いんだから、今後のことを考える方が賢明じゃない?」
「冷静さを欠いてしまっては、普段の力は出せませんでしょ? わたくしたちはそれをよく理解していますのよ。ですから、そちらの方が落ち着くの待つのが、現時点での最良の選択かと思いますの」
さすがはレベル5とレベル4である。
『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』が確固たるものでなければ、このような発想は生まれない。
この辺りがレベル0との違いなのだろう。
上条は何も言えなくなってしまい、しかし、美琴と白井はそんな上条にはにべもくれず考える。
「とは言え、この姿の私が常盤台の寮に戻るわけにはいかないわね」
「まあ、事情を説明すれば分かってもらえるでしょうけど、この方とお姉様では色々な面でサイズが違いますし、日々の生活に支障が出ることは間違いないですわ」
「なら、とりあえず、あの子の記憶の中に元に戻せる魔道書があるかどうか見極められるまで、私はこの子の住んでるところに、この子は常盤台の学生寮で過ごしてもらうってのはどう? 幸い、黒子と私が同部屋なんだから、あの子も顔見知りのアンタがいれば大丈夫でしょ?」
「それは、あの方次第ではございますが――どうします? わたくしと一緒でよろしいでしょうか?」
黒子が問いかけたのは、もちろんインデックスに、だ。
「あ、うん! それでいいかも!」
どこか条件反射的に首肯するインデックス。
どうやら、しばらくの間、入れ替わり生活になるようだ。
「じゃあ、とりあえず、私のスカートのポケットに入ってる財布ちょうだい」
「えっと、これ?」
「ありがと。ん~~~どれくらいの期間になるか分かんないけど、これだけあれば当面は大丈夫かな? でも、アンタもできるだけ早く落ち着きなさいよ」
「わ、分かったんだよ!」
言って、インデックスと白井、上条と美琴はお互い踵を返して帰路につく。
「あっそうか。ねえ、そんな『魔術』ってないの?」
美琴も『魔術』の存在を肯定しているから、笑顔でインデックスに問いかける。
しばし沈黙。
と言うか、インデックスが何も答えない。気まずげに視線を逸らし続けるだけである。まるで悪いことを見咎められた子供のように。
それを察した上条が口を挟んできた。
「わ、悪い、二人とも。なんだかインデックスの調子が悪いのか、思い出せないらしいんだ」
「そうなの? まあ、いきなりこんなことになれば誰だってパニックになるだろうしね。その弾みで、ど忘れしたって仕方ないわよ」
もっとも返ってきた美琴の声には悲壮感は微塵も感じられなかったし、
「なら、仕方ありませんわね。そちらの方の調子が戻るまで、不便ではございますが、このままでしばらく過ごすしかありませんわ」
白井はどこか諦観の溜息を吐いていた。
「……お前ら、随分と冷静だな? 俺はまだ、結構パニくってるし、インデックスだって、ご覧のとおりなんだぜ?」
思わず上条はジト目で問いかける。
「そう? パニくって元に戻れるなら、いくらでもパニックになってあげるけど、そんな訳が無いんだから、今後のことを考える方が賢明じゃない?」
「冷静さを欠いてしまっては、普段の力は出せませんでしょ? わたくしたちはそれをよく理解していますのよ。ですから、そちらの方が落ち着くの待つのが、現時点での最良の選択かと思いますの」
さすがはレベル5とレベル4である。
『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』が確固たるものでなければ、このような発想は生まれない。
この辺りがレベル0との違いなのだろう。
上条は何も言えなくなってしまい、しかし、美琴と白井はそんな上条にはにべもくれず考える。
「とは言え、この姿の私が常盤台の寮に戻るわけにはいかないわね」
「まあ、事情を説明すれば分かってもらえるでしょうけど、この方とお姉様では色々な面でサイズが違いますし、日々の生活に支障が出ることは間違いないですわ」
「なら、とりあえず、あの子の記憶の中に元に戻せる魔道書があるかどうか見極められるまで、私はこの子の住んでるところに、この子は常盤台の学生寮で過ごしてもらうってのはどう? 幸い、黒子と私が同部屋なんだから、あの子も顔見知りのアンタがいれば大丈夫でしょ?」
「それは、あの方次第ではございますが――どうします? わたくしと一緒でよろしいでしょうか?」
黒子が問いかけたのは、もちろんインデックスに、だ。
「あ、うん! それでいいかも!」
どこか条件反射的に首肯するインデックス。
どうやら、しばらくの間、入れ替わり生活になるようだ。
「じゃあ、とりあえず、私のスカートのポケットに入ってる財布ちょうだい」
「えっと、これ?」
「ありがと。ん~~~どれくらいの期間になるか分かんないけど、これだけあれば当面は大丈夫かな? でも、アンタもできるだけ早く落ち着きなさいよ」
「わ、分かったんだよ!」
言って、インデックスと白井、上条と美琴はお互い踵を返して帰路につく。
『学舎の園』入口まで歩いてきて、もうとっくに上条と美琴は見えなくなっているのだが、なんとなくインデックスは立ち止まって振り返る。
「どうされました?」
「う~~~ん……なんかとっても大事なことを忘れてる気がするんだよ?」
「それは魔道書とやらのことですの?」
「ううん。何か別のこと」
「そうですの? まあ、忘れてしまっているということは大したことではないのかもしれませんわ。思い出したときにでも聞かせてくださいな」
白井は気を使った笑顔を向ける。
「ありがとう、くろこ」
「どういたしまして」
インデックスにとって、今、向かっている場所は自分のまったく知らないところ。
過去にそういう経験が無かったとは言わないが、それでもやっぱり初めての場所と言うものは不安が付き纏うものだ。
特に一人ぼっちのときは。
しかし、今回は隣に白井黒子がいる。
先ほどの公園での美琴のセリフではないが、見知った人間がいるというのはなんとも心強いものだとインデックスは思う。
しかも、白井黒子とは先日、お互いにとって、とても大切な存在を取り戻すために協力し合った仲だ。これほど頼もしい相棒はいないだろう。
再びインデックスは前を見据えて歩き出す。
その表情には、笑顔が戻っていた。
「どうされました?」
「う~~~ん……なんかとっても大事なことを忘れてる気がするんだよ?」
「それは魔道書とやらのことですの?」
「ううん。何か別のこと」
「そうですの? まあ、忘れてしまっているということは大したことではないのかもしれませんわ。思い出したときにでも聞かせてくださいな」
白井は気を使った笑顔を向ける。
「ありがとう、くろこ」
「どういたしまして」
インデックスにとって、今、向かっている場所は自分のまったく知らないところ。
過去にそういう経験が無かったとは言わないが、それでもやっぱり初めての場所と言うものは不安が付き纏うものだ。
特に一人ぼっちのときは。
しかし、今回は隣に白井黒子がいる。
先ほどの公園での美琴のセリフではないが、見知った人間がいるというのはなんとも心強いものだとインデックスは思う。
しかも、白井黒子とは先日、お互いにとって、とても大切な存在を取り戻すために協力し合った仲だ。これほど頼もしい相棒はいないだろう。
再びインデックスは前を見据えて歩き出す。
その表情には、笑顔が戻っていた。
「あれとそれとこれと――あ、これとこれもいるわね」
上条当麻とインデックスの姿をした御坂美琴は第七学区のスーパーで買い物をしていた。
カゴをカートに乗せて、カートを押しているのは美琴だ。
美琴はどこか無頓着に見えるくらいポイポイ買い物カゴに商品を入れていく。
「おいおい、随分、高そうなものを数多くチョイスしているが、その支払い、誰がすると思ってるんだ?」
「は? 私に決まってるでしょ。そのために財布を預かったんだから」
「え? そうなの?」
「はい?」
妙なセリフだ、と、美琴は思う。
どういうわけか、支払いについての問いかけがあまりにナチュラルだったのと、普段からこういうやり取りをしているような話題を覆されたような返事だったからだ。
「何か変ね。まさかと思うけど、アンタ、あの子のヒモでもやってんの?」
実のところ、今、上条が一緒にいることに関して言えば、違和感は感じていなかった。
なんと言っても、このシスターは、なんとなくいつも上条の周りをうろちょろしている気がするからだ。
それは、つまり、このシスターは、上条の学生寮の近所に住んでいることを意味していて、おそらく今、美琴と一緒に居るのは、このシスターの居住しているところに連れて行こうとしているからだろう、としか考えなかったから。
だから、このシスターに住んでいるところを聞かなかったことを、あまり気にしなかったのである。
本当は、住所を聞くのが正しいのだろうが、なんだかんだ言っても、やっぱり美琴も白井も冷静ではなかったのだ。
「いや……そういうつもりはないんだが……そうだよなぁ……そうとも言えなくもないよなぁ……はぁ……」
「? まあいいけど。で、アンタも何か買うんじゃないの? このカゴに入れればいいから」
「あ、ああ……」
イマイチ分かり辛い上条の対応。とりあえず、そのことは置いといて買い物に戻る美琴と上条。
で、買い物を終えて、いざレジに着いてみれば、カゴが二つになっていて、両方ともいっぱいになっていて、なんだか、上条の普段のお買い物と比べるなら、支払いの桁が一つか二つ多い。
(うっだぁぁぁ! お嬢様の買い物感覚ってどうなってるんでせうか!)
後ろにいるので、美琴からは見えないが、後ろ頭に大きな玉の汗を浮かべている店員さんには、頭を抱えて全身を縦横無尽にオーバーアクションでくねらせまくっている上条がばっちり見えている。
しかし、何事も無く美琴はあっさりと、何のためらいも無くカードで支払いを終えた。
とりあえず我を取り戻した上条は、冷や汗をダラダラ流して、後ろで財布の中身を確認していたのだが、美琴の行動に目が点になる。
「ん? 何やってんのアンタ。早く来なさいよ」
呼びかけられる声も、何の揶揄も嘲りも無い。
本物の真っ正直の素で言われたのだ。
「お、おい! 自分の分は自分で払うって!」
「もう払った後に言われてもねえ。面倒だし、今回は美琴センセーの奢りってことにしておきなさい」
「い、いや、あのな……」
「だったら荷物持ち! ハイよろしく!」
「おわっ!」
突然両腕にかかる負荷に思わず腰がやられそうになる上条当麻。
しかしそれでも踏ん張り、なんだかスキップしている美琴の後を追う。
上条当麻とインデックスの姿をした御坂美琴は第七学区のスーパーで買い物をしていた。
カゴをカートに乗せて、カートを押しているのは美琴だ。
美琴はどこか無頓着に見えるくらいポイポイ買い物カゴに商品を入れていく。
「おいおい、随分、高そうなものを数多くチョイスしているが、その支払い、誰がすると思ってるんだ?」
「は? 私に決まってるでしょ。そのために財布を預かったんだから」
「え? そうなの?」
「はい?」
妙なセリフだ、と、美琴は思う。
どういうわけか、支払いについての問いかけがあまりにナチュラルだったのと、普段からこういうやり取りをしているような話題を覆されたような返事だったからだ。
「何か変ね。まさかと思うけど、アンタ、あの子のヒモでもやってんの?」
実のところ、今、上条が一緒にいることに関して言えば、違和感は感じていなかった。
なんと言っても、このシスターは、なんとなくいつも上条の周りをうろちょろしている気がするからだ。
それは、つまり、このシスターは、上条の学生寮の近所に住んでいることを意味していて、おそらく今、美琴と一緒に居るのは、このシスターの居住しているところに連れて行こうとしているからだろう、としか考えなかったから。
だから、このシスターに住んでいるところを聞かなかったことを、あまり気にしなかったのである。
本当は、住所を聞くのが正しいのだろうが、なんだかんだ言っても、やっぱり美琴も白井も冷静ではなかったのだ。
「いや……そういうつもりはないんだが……そうだよなぁ……そうとも言えなくもないよなぁ……はぁ……」
「? まあいいけど。で、アンタも何か買うんじゃないの? このカゴに入れればいいから」
「あ、ああ……」
イマイチ分かり辛い上条の対応。とりあえず、そのことは置いといて買い物に戻る美琴と上条。
で、買い物を終えて、いざレジに着いてみれば、カゴが二つになっていて、両方ともいっぱいになっていて、なんだか、上条の普段のお買い物と比べるなら、支払いの桁が一つか二つ多い。
(うっだぁぁぁ! お嬢様の買い物感覚ってどうなってるんでせうか!)
後ろにいるので、美琴からは見えないが、後ろ頭に大きな玉の汗を浮かべている店員さんには、頭を抱えて全身を縦横無尽にオーバーアクションでくねらせまくっている上条がばっちり見えている。
しかし、何事も無く美琴はあっさりと、何のためらいも無くカードで支払いを終えた。
とりあえず我を取り戻した上条は、冷や汗をダラダラ流して、後ろで財布の中身を確認していたのだが、美琴の行動に目が点になる。
「ん? 何やってんのアンタ。早く来なさいよ」
呼びかけられる声も、何の揶揄も嘲りも無い。
本物の真っ正直の素で言われたのだ。
「お、おい! 自分の分は自分で払うって!」
「もう払った後に言われてもねえ。面倒だし、今回は美琴センセーの奢りってことにしておきなさい」
「い、いや、あのな……」
「だったら荷物持ち! ハイよろしく!」
「おわっ!」
突然両腕にかかる負荷に思わず腰がやられそうになる上条当麻。
しかしそれでも踏ん張り、なんだかスキップしている美琴の後を追う。
「……ねえ、ちょっといい?」
「何だ?」
「…………アンタが案内してくれたのは、このシスターが住んでるところよね?」
「そうだ」
本来であれば、超敏感な不幸センサーが美琴の様子を察してくれるのだが、今回ばかりは両腕の疲労で、そのセンサーも役に立っていないらしい。
上条は平坦な美琴の声に気づかなかった。答える声がとっても投げやりである。
「………………私の目には、この部屋の表札がアンタの苗字に見えるんだけど?」
「そりゃそうだ。俺の部屋だからな」
もし、普段の上条当麻であれば、もうちょっと言葉を選んだことだろう。
しかし、今回は160kmのド直球で、しかも、『そうですが何か?』という雰囲気である。
「ほぉ………………それはつまり、アンタとあのちっこいのは一緒に住んでる、と………………?」
「はっ!」
ようやく、上条は気づく。
上条自身は、いまだに理由を理解できない超鈍感野郎なのだが、美琴もまたインデックス同様、上条当麻が他の女の子と一緒にいるだけで烈火のごとく怒り狂うということだけは知っている。
「ま、待て、御坂! これにはわけがあってだな!」
手をばたばた振って、わたわたと焦りまくりながら言い訳を始めようとして、
(って、あれ?)
ふと、上条はその違和感に気づく。
どうやら美琴も同じことを感じたようで、その怒りが戸惑いに変わっていた。
そう。
普段の御坂美琴であれば、バッチンバッチンと留めなく青白い火花を放ってそうなものなのだが、それがまったく聞こえない。
「みさか……さん……?」
目を丸くして、頬に汗を一滴流しながら、それでも呼びかける上条当麻。
対する御坂美琴は一度、くまなく全身を見回してから、両手を握った状態で胸の前に持ってきて、ふるふる震えながら顔を上条へと向ける。
「わたし……能力が使えなくなっちゃった……?」
インデックスは一〇万三〇〇〇冊の魔道書のことを忘れ、御坂美琴は能力の使えなくなった現実。
上条当麻と御坂美琴は部屋の入口でしばし固まるしかできなかった。
「何だ?」
「…………アンタが案内してくれたのは、このシスターが住んでるところよね?」
「そうだ」
本来であれば、超敏感な不幸センサーが美琴の様子を察してくれるのだが、今回ばかりは両腕の疲労で、そのセンサーも役に立っていないらしい。
上条は平坦な美琴の声に気づかなかった。答える声がとっても投げやりである。
「………………私の目には、この部屋の表札がアンタの苗字に見えるんだけど?」
「そりゃそうだ。俺の部屋だからな」
もし、普段の上条当麻であれば、もうちょっと言葉を選んだことだろう。
しかし、今回は160kmのド直球で、しかも、『そうですが何か?』という雰囲気である。
「ほぉ………………それはつまり、アンタとあのちっこいのは一緒に住んでる、と………………?」
「はっ!」
ようやく、上条は気づく。
上条自身は、いまだに理由を理解できない超鈍感野郎なのだが、美琴もまたインデックス同様、上条当麻が他の女の子と一緒にいるだけで烈火のごとく怒り狂うということだけは知っている。
「ま、待て、御坂! これにはわけがあってだな!」
手をばたばた振って、わたわたと焦りまくりながら言い訳を始めようとして、
(って、あれ?)
ふと、上条はその違和感に気づく。
どうやら美琴も同じことを感じたようで、その怒りが戸惑いに変わっていた。
そう。
普段の御坂美琴であれば、バッチンバッチンと留めなく青白い火花を放ってそうなものなのだが、それがまったく聞こえない。
「みさか……さん……?」
目を丸くして、頬に汗を一滴流しながら、それでも呼びかける上条当麻。
対する御坂美琴は一度、くまなく全身を見回してから、両手を握った状態で胸の前に持ってきて、ふるふる震えながら顔を上条へと向ける。
「わたし……能力が使えなくなっちゃった……?」
インデックスは一〇万三〇〇〇冊の魔道書のことを忘れ、御坂美琴は能力の使えなくなった現実。
上条当麻と御坂美琴は部屋の入口でしばし固まるしかできなかった。