口ではぶーたら言いつつも、ミサカは真面目に言うことに従い、意識を集中させるためにその目を閉じた。すると、彼女の座っている四角形の模様上の空中に変化が起きる。宙に細く黒い線のようなものが無数に出現したのだ。
その黒線の正体は、ミサカの磁場に反応して集まった、空気中に浮遊させた砂鉄だった。そして、通常は小動物にしか感知できない程度の磁場に砂鉄が寄り集まってきたのは、彼女がその中心に座る四角形状の模様のせいだ。これは俺が描いたものだった。
黄色のチョーク粉によって描かれたそれは二メートル四方の空間のほとんどをしめている。四角形の頂点には赤・白・青・黒の水が入ったコップがそれぞれ配置されていて、対角線を描くバッテンは正確に東西南北の四方角を指している。
どういう仕組みなのかはさっぱり分からないのだが、なぜかこの空間内では磁場が強化されるのだった。これは俺の両親が咒(さぎ)を行うときに利用していたものだ。怪しげに薄暗くされた部屋(薄暗く怪しげな部屋ではない)の中で、俺のお袋は磁石を隠しもった手に砂鉄をまとわせて『悪霊を引きずり出しました』と猿芝居をしていたものだった。その間に親父は白装束を舞わせて何かの神舞を舞っているフリをしながら四角形を成す線の一部を崩す。お袋は霊媒役、親父は退魔師役というわけだ。四角形を崩され、強化されていた磁場を失って落下した砂鉄(弱った悪霊)に向かって、親父は最後の仕上げとばかりに真っ白な巨大扇子を振り回す。跡形も無く飛び散った砂鉄(悪霊の残骸)をみて、まじないの依頼者(詐欺被害者)は地面に額をこすりつけて感謝したものだった。
そんな場面を、俺はつばでも吐きたいような気持ちで吐き気がするほど見てきたわけだが、まあ用は使い道だ。俺はこれを学園都市の猫好き電撃使い救済のために使うため、日々研究を積み重ね、数週間前にやっと理論だけは完成したのだった。時間と才能をもてあます猫好きだからこそなせる業だ。原理不明の現象をこれに取り込んでいるわけだが、まああれは水イオンの空気との干渉とか四方角を示す四色が地球の磁場とぶつかる紫外線とかとオーロラ的な(ry)みたいなかんじの科学的な現象なのだろう。効果がはっきり分かってるんならあとはどうでもいいや。これを使っている間はちょっと体が重くなって疲労感を覚えたりするのも気のせいだろう。
とにかく、ミサカはこの訓練を受ける記念すべき第一号というわけである。
「よし、んじゃいつもの通り自分の体から発生する磁場を把握したら増幅してみろ」
その言葉に小さく頷き、ミサカは自分の体から出る黒線を太くした。指示通りに磁場を強めたのだ。これは正確に磁場を把握したかどうかを確認する作業なのだが、彼女はここ数日の間に一瞬でこなすことが出来るほどに上達していた。能力は異能力者(レベル2)程度らしいのだが、細かな作業は比較的得意とするようだ。
「もうこれは完璧に近いな。それじゃ本番行くぞ~」
ちょっとだけ得意げな表情を浮かべたミサカだが、すぐにまた表情を引き締めた。
「了解しました。自発的に磁場を発生させ、磁場の相殺を実行します、とミサカは今日こそ成功する期待を込めて宣言します」
ミサカはこの上なく真面目な口調で言い、凄まじく集中し始めた。猫のためならまっしぐら!という様な殺気にも似たオーラが漂ってくる。俺は毎度の事ながら感心した。寅之助とイチャイチャしてても気付いてくれないのがちょっと寂しいけど。
と、見ているうちに砂鉄が次々と崩壊し、落下し始めた。磁場の相殺が始まったらしい。最初は2m四方の空間一杯に広がっていた黒線は、見る見るうちに1メートルほどの頼りない糸になってゆく。磁場が弱まっているのだ。
だが、その速度が急に落ちた。ミサカの形の良い眉がかすかに歪められる。磁場相殺を続行させようとしたものの、黒い糸は再び伸び始めており、彼女の顔が苦渋に染められ―――
ビシュン、と。2メートル四方の空間に、再び黒線が張り巡らされた。
その黒線の正体は、ミサカの磁場に反応して集まった、空気中に浮遊させた砂鉄だった。そして、通常は小動物にしか感知できない程度の磁場に砂鉄が寄り集まってきたのは、彼女がその中心に座る四角形状の模様のせいだ。これは俺が描いたものだった。
黄色のチョーク粉によって描かれたそれは二メートル四方の空間のほとんどをしめている。四角形の頂点には赤・白・青・黒の水が入ったコップがそれぞれ配置されていて、対角線を描くバッテンは正確に東西南北の四方角を指している。
どういう仕組みなのかはさっぱり分からないのだが、なぜかこの空間内では磁場が強化されるのだった。これは俺の両親が咒(さぎ)を行うときに利用していたものだ。怪しげに薄暗くされた部屋(薄暗く怪しげな部屋ではない)の中で、俺のお袋は磁石を隠しもった手に砂鉄をまとわせて『悪霊を引きずり出しました』と猿芝居をしていたものだった。その間に親父は白装束を舞わせて何かの神舞を舞っているフリをしながら四角形を成す線の一部を崩す。お袋は霊媒役、親父は退魔師役というわけだ。四角形を崩され、強化されていた磁場を失って落下した砂鉄(弱った悪霊)に向かって、親父は最後の仕上げとばかりに真っ白な巨大扇子を振り回す。跡形も無く飛び散った砂鉄(悪霊の残骸)をみて、まじないの依頼者(詐欺被害者)は地面に額をこすりつけて感謝したものだった。
そんな場面を、俺はつばでも吐きたいような気持ちで吐き気がするほど見てきたわけだが、まあ用は使い道だ。俺はこれを学園都市の猫好き電撃使い救済のために使うため、日々研究を積み重ね、数週間前にやっと理論だけは完成したのだった。時間と才能をもてあます猫好きだからこそなせる業だ。原理不明の現象をこれに取り込んでいるわけだが、まああれは水イオンの空気との干渉とか四方角を示す四色が地球の磁場とぶつかる紫外線とかとオーロラ的な(ry)みたいなかんじの科学的な現象なのだろう。効果がはっきり分かってるんならあとはどうでもいいや。これを使っている間はちょっと体が重くなって疲労感を覚えたりするのも気のせいだろう。
とにかく、ミサカはこの訓練を受ける記念すべき第一号というわけである。
「よし、んじゃいつもの通り自分の体から発生する磁場を把握したら増幅してみろ」
その言葉に小さく頷き、ミサカは自分の体から出る黒線を太くした。指示通りに磁場を強めたのだ。これは正確に磁場を把握したかどうかを確認する作業なのだが、彼女はここ数日の間に一瞬でこなすことが出来るほどに上達していた。能力は異能力者(レベル2)程度らしいのだが、細かな作業は比較的得意とするようだ。
「もうこれは完璧に近いな。それじゃ本番行くぞ~」
ちょっとだけ得意げな表情を浮かべたミサカだが、すぐにまた表情を引き締めた。
「了解しました。自発的に磁場を発生させ、磁場の相殺を実行します、とミサカは今日こそ成功する期待を込めて宣言します」
ミサカはこの上なく真面目な口調で言い、凄まじく集中し始めた。猫のためならまっしぐら!という様な殺気にも似たオーラが漂ってくる。俺は毎度の事ながら感心した。寅之助とイチャイチャしてても気付いてくれないのがちょっと寂しいけど。
と、見ているうちに砂鉄が次々と崩壊し、落下し始めた。磁場の相殺が始まったらしい。最初は2m四方の空間一杯に広がっていた黒線は、見る見るうちに1メートルほどの頼りない糸になってゆく。磁場が弱まっているのだ。
だが、その速度が急に落ちた。ミサカの形の良い眉がかすかに歪められる。磁場相殺を続行させようとしたものの、黒い糸は再び伸び始めており、彼女の顔が苦渋に染められ―――
ビシュン、と。2メートル四方の空間に、再び黒線が張り巡らされた。
「……………………………………………………………………………」
……何故だろう?俺は別に感情探知系の能力者でもないのに、ミサカのその無表情な瞳に膨大な感情を認めることが出来た。
それは、絵に描いたような、OTL
「あ~、いや、その~……」
俺はあわてて、必死で慰めの言葉を探った。
「いや、初めの頃と比べればメチャクチャ進歩してるって!猫に50センチも近づけばアウトだったけど、今なら触らなければ15センチぐらいは―――――――」
言いかけて、墓穴を掘ったことに気付いた。
――――あれ?それって生殺し?
「……………………………………………………………………………」
ミサカの感情の矛先は俺に向いてしまったようだった。蛇でも睨み殺すような目をしてこっちを向いてくる。向いてきているのだが、何故かその目端には涙が溜まっているような雰囲気があって、それは思わず小雨の降る中に捨てられた子犬を連想させる程のもので……
「……………………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………………」
俺はその瞳に、あっさりとKOされた。
「……………………………今日の猫缶は俺が買います」
負けた。女の子を相手に。睨み合いで。
ああ、見事に負けたよ。
……何故だろう?俺は別に感情探知系の能力者でもないのに、ミサカのその無表情な瞳に膨大な感情を認めることが出来た。
それは、絵に描いたような、OTL
「あ~、いや、その~……」
俺はあわてて、必死で慰めの言葉を探った。
「いや、初めの頃と比べればメチャクチャ進歩してるって!猫に50センチも近づけばアウトだったけど、今なら触らなければ15センチぐらいは―――――――」
言いかけて、墓穴を掘ったことに気付いた。
――――あれ?それって生殺し?
「……………………………………………………………………………」
ミサカの感情の矛先は俺に向いてしまったようだった。蛇でも睨み殺すような目をしてこっちを向いてくる。向いてきているのだが、何故かその目端には涙が溜まっているような雰囲気があって、それは思わず小雨の降る中に捨てられた子犬を連想させる程のもので……
「……………………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………………」
俺はその瞳に、あっさりとKOされた。
「……………………………今日の猫缶は俺が買います」
負けた。女の子を相手に。睨み合いで。
ああ、見事に負けたよ。