7
黄泉川の運転する車はとある地下の駐車場で停まった。
学園都市の建物では駐車場はほとんどの場合は地下に作られている。屋根や風雨等の制約も無く、地上に作るよりも遥かに機能的なのだ。きっと、この場所もそうした場所の一つなのだろう。
助手席のドアを開けると、地上よりひんやりとした空気が肌を撫でた。
コンクリートの地面に降り立って黄泉川号によっかかり、
「うぅ、お前の車には二度と乗らない」
心底疲れきった様子で天井が言う。心なしか顔が青い。
黄泉川の運転で激しくシェイクされた胃から、止め処なくもよおす吐き気が天井の頭に相当な不快感を送り込んでいる。
(きもちわるぃぃ゛……)
胃の中に何にも入っていないのが幸いした。中華街で食事をする誘惑を我慢できた自分を少し褒めてやりたい、そんな気分。
と、同時に黄泉川の車に乗った自分を少し責めてやりたい、そんな気分。
天井と黄泉川は、地上へと続くエレベーターの中へと乗り込む。
「何故か私の運転に乗った人間は、みんなそう言うじゃんよ」
黄泉川はそう言うと、慣れた様子でボタンを操作する。押したのは赤い文字で十三階を示す丸いボタン。
針表示の階数時計もだが、学園都市にしては、なんだかレトロな感じがする。
エレベーターの扉は物音一つさせずに閉まる。エレベーターの中はクリーム色に近い配色の照明で明るく照らされていた。どうもこういう配色が好きになれなかった。
まだどこに行くのかも知らされていないのだが、車の中で聞いたとき、黄泉川は答えてくれなかった。
『着けば分かるじゃん』これだけだ。
やがて、これまた静かに動き出すエレベーターの懸架装置。長いエレベーターシャフトの中を天井と黄泉川を乗せた箱が上へと上っていく。
振動はまったく感じられない。が、それでもエレベーター特有の浮遊感はやはり感じてしまうのが車酔いの状態から回復しきっていないので少し堪えた。ぶっちゃけ吐きそうの一歩手前。
「車酔いって、学園都市の科学技術でも何とかならないのだろうか」
「さっき逆月に貰ったの飲めばいいじゃんよ」
「酔い止めは酔う前に飲まないと意味無いだろ……」
なにより、あんな怪しい液体を喉に流し込んで喜ぶ程、天井は自虐的な人間では無い。
例の成分表示の無い実験飲料缶は、未だに天井の学生鞄の中で眠っている。別に取っている訳では無くて、ただ単に捨てる機会が無かっただけである。捨てる機会が無いついでに、使う機会も無ければ、なお一層良いと思う。
何か危険。
幾分か非科学的だが、そんな気配があの缶から滲み出ているような気がする。いうなればトランプのババみたいな何か……。関わらないに越した事は無いと結論付けて、そのまま封印しておこうと心に決めた。
口元とお腹を押さえて吐き気に耐えていると、エレーベーターは目的地へと到着する。
グレネードを撃ち込んでも耐えるという特殊素材のドアが開き、いかにも高級マンションでございますとでも言わんばかりの風景が飛び込んでくる。
長い廊下に並ぶいくつかのドア。やっぱりマンションだ。
「ここって教職員用のマンションじゃないか、」
それならセキュリティのレベルも比較的高く、黄泉川自身もここに住んでいる筈。
「そうじゃん」
ツカツカと歩いていく黄泉川。それ以上の質問に答える気が無いのか、それともわざとか。
ふと、黄泉川の歩みが、ある部屋の玄関の前で止まった。
ドアの表札には住民の苗字なのだろう、三文字の漢字が書かれたプレートが貼り付けられている。天井も良く知っている名前だ。というか黄泉川の方が良く知っている筈である。
「おい、黄泉川」
「しっ、気づかれるじゃんよ」
何に気づかれると言うのか。天井は少々呆れた顔で呟く。
「ここって――」
「しぃぃ。黙って私の後に続くじゃんよ、ほら、壁を背にすると後方の安全は確保できるじゃん、窓の側には立たないのも基本じゃんよ」
その動きはまるで警察や軍隊の特殊部隊の様である。まぁ、警備員もその手の訓練があるのかも知れないが。
「紛争地帯の傭兵か何かか、お前は」
「警備員兼教師&最近は保護者もしてるじゃん」
学園都市の建物では駐車場はほとんどの場合は地下に作られている。屋根や風雨等の制約も無く、地上に作るよりも遥かに機能的なのだ。きっと、この場所もそうした場所の一つなのだろう。
助手席のドアを開けると、地上よりひんやりとした空気が肌を撫でた。
コンクリートの地面に降り立って黄泉川号によっかかり、
「うぅ、お前の車には二度と乗らない」
心底疲れきった様子で天井が言う。心なしか顔が青い。
黄泉川の運転で激しくシェイクされた胃から、止め処なくもよおす吐き気が天井の頭に相当な不快感を送り込んでいる。
(きもちわるぃぃ゛……)
胃の中に何にも入っていないのが幸いした。中華街で食事をする誘惑を我慢できた自分を少し褒めてやりたい、そんな気分。
と、同時に黄泉川の車に乗った自分を少し責めてやりたい、そんな気分。
天井と黄泉川は、地上へと続くエレベーターの中へと乗り込む。
「何故か私の運転に乗った人間は、みんなそう言うじゃんよ」
黄泉川はそう言うと、慣れた様子でボタンを操作する。押したのは赤い文字で十三階を示す丸いボタン。
針表示の階数時計もだが、学園都市にしては、なんだかレトロな感じがする。
エレベーターの扉は物音一つさせずに閉まる。エレベーターの中はクリーム色に近い配色の照明で明るく照らされていた。どうもこういう配色が好きになれなかった。
まだどこに行くのかも知らされていないのだが、車の中で聞いたとき、黄泉川は答えてくれなかった。
『着けば分かるじゃん』これだけだ。
やがて、これまた静かに動き出すエレベーターの懸架装置。長いエレベーターシャフトの中を天井と黄泉川を乗せた箱が上へと上っていく。
振動はまったく感じられない。が、それでもエレベーター特有の浮遊感はやはり感じてしまうのが車酔いの状態から回復しきっていないので少し堪えた。ぶっちゃけ吐きそうの一歩手前。
「車酔いって、学園都市の科学技術でも何とかならないのだろうか」
「さっき逆月に貰ったの飲めばいいじゃんよ」
「酔い止めは酔う前に飲まないと意味無いだろ……」
なにより、あんな怪しい液体を喉に流し込んで喜ぶ程、天井は自虐的な人間では無い。
例の成分表示の無い実験飲料缶は、未だに天井の学生鞄の中で眠っている。別に取っている訳では無くて、ただ単に捨てる機会が無かっただけである。捨てる機会が無いついでに、使う機会も無ければ、なお一層良いと思う。
何か危険。
幾分か非科学的だが、そんな気配があの缶から滲み出ているような気がする。いうなればトランプのババみたいな何か……。関わらないに越した事は無いと結論付けて、そのまま封印しておこうと心に決めた。
口元とお腹を押さえて吐き気に耐えていると、エレーベーターは目的地へと到着する。
グレネードを撃ち込んでも耐えるという特殊素材のドアが開き、いかにも高級マンションでございますとでも言わんばかりの風景が飛び込んでくる。
長い廊下に並ぶいくつかのドア。やっぱりマンションだ。
「ここって教職員用のマンションじゃないか、」
それならセキュリティのレベルも比較的高く、黄泉川自身もここに住んでいる筈。
「そうじゃん」
ツカツカと歩いていく黄泉川。それ以上の質問に答える気が無いのか、それともわざとか。
ふと、黄泉川の歩みが、ある部屋の玄関の前で止まった。
ドアの表札には住民の苗字なのだろう、三文字の漢字が書かれたプレートが貼り付けられている。天井も良く知っている名前だ。というか黄泉川の方が良く知っている筈である。
「おい、黄泉川」
「しっ、気づかれるじゃんよ」
何に気づかれると言うのか。天井は少々呆れた顔で呟く。
「ここって――」
「しぃぃ。黙って私の後に続くじゃんよ、ほら、壁を背にすると後方の安全は確保できるじゃん、窓の側には立たないのも基本じゃんよ」
その動きはまるで警察や軍隊の特殊部隊の様である。まぁ、警備員もその手の訓練があるのかも知れないが。
「紛争地帯の傭兵か何かか、お前は」
「警備員兼教師&最近は保護者もしてるじゃん」
頷く黄泉川。恐らくだが能力者を相手にする時よりも真剣な顔。
天井、表札のプレートを指差して、続いて黄泉川を指差す。
「お前の部屋じゃないか!」
「そうじゃん」
「この部屋では『完全武装の警備員』と『医療担当の保健委員』が必要な事態が起こっているとでも?」
「そうじゃん」
プレートには、はっきりと『黄泉川』と書かれている。
どこの世界に完全武装で帰宅する教師がいるのか。とりあえず目の前に一人いるから。他にも居るのなら是非お会いしたい。文句を言うから。
「どんな事態だよ! あぁっ、もういい! トイレだけ貸してもらうぞ」
「ここには悪魔がいるじゃん」
あくまでも真顔で黄泉川は続ける。
「それも飛びっきりの小悪魔が」
茶番に付き合うのもいい加減限界に近い。トイレだけ借りて吐くもの吐いたら、すぐにでもひの探索の旅に出ることにしよう。そしてここには二度と訪れない様にしよう。
「ただでさえ忙しいのに、全く――」
天井が玄関のドアノブに手をかける。当然だが鍵が掛っている。
「あぁ! もう早く開けろよ、黄泉川」
がちゃがちゃやってると鍵はカチンという音を立てて中から開いた。
「おっ!?」
「あ、危ないじゃん」
黄泉川が慌てて近寄って来る。
「は?」
その次の瞬間、玄関のドアが中からの衝撃で思いっきり開いた。
それこそ、二人ぐらいの人間が思いっきりドアの裏から体重を乗せたタックルをかましたくらい思いっきり開いた。
蝶番と呼ばれる部品を軸に扉は当然百八十度回頭。その進路上にあった天井の顔へも当然ぶつかる=天井の鼻の頭に特大の衝撃が奔る確立は百%。
すごく痛い。
「■★●#$%!?」
痛みで声にならない声は天井の喉から出ていた。涙目で鼻を押さえてぴょんぴょんと飛び跳ねていた天井はドアと壁の間でうずくまる。
と、同時に廊下へと二つの人影が飛び出て来る。
多分黄泉川曰く、とびっきりの小悪魔。
悔しい事に二人とも天井の記憶にある人物でもある。
昔、探した事がある少女とと今現在探している少女。
「ヒット! 目標の殲滅に成功! っとミサカはミサカは大喜びでかちどきの声を道端で拾って来た新たな戦友と一緒にあげてみたりする! イェーイ!」
「イエーイです! 予測通りのタイミングでした! でもひのって拾われてきたんですね! とにかくイェーイ! エンゼル様も『馬鹿みたいだけど、イェーイ!』と言ってますイェーイ!」
余程天井をドアと壁でサンドイッチに出来たのがうれしいらしく、お互いに手を取り合い『イェーイ!』を繰り返して喜んでいる。他に表現が無いのか。しかも天井の存在に全く気付いていない様子。
(なんでこんな所に最終信号とひのが……)
「二人の勝利なのかもなのかも!ってミサカはミサカは、初勝利の快感に酔いしれてみたりする……て、あぁ!! 黄泉川健在!黄泉川健在!ダメージは見られない、どうぞ!」
「そんな馬鹿な、もっと勢い良く行かないといけなかったのでしょうか! それとも警備員の防御力は白い悪魔並? そんな防御力なんて知りません! 最近の警備員は複合爆薬装甲《チョバムアーマー》でも装着してるのですか!?」
「学園都市の科学力は日進月歩! 通常の三十倍の速度で進化しててもおかしくないかも! てミサカはミサカはご近所なんて居ないから大声で叫んでみたり!」
「ならば再度の攻撃を加えるべきでしょうか!? しかしDDA《ダイレクトドアアタック》は命中率とタイミングに大きな問題があります。ここはひのの能力を利用した協力攻撃を!無敵の人間なんてほぼいません。お互いの能力を駆使すればもしや」
「待って、まずは黄泉川の情報を集めないといけないと思うかもっ! ミサカネットワークから情報を補完すれば貴方の能力にいくらかの信頼性が確保できるかも、でも黄泉川の装甲にどれ程の効果があるか分からない! ってミサカはミサカは、戦場で戦慄を感じずにいられないのかも!」
とりあえず戦場というのはどこだろうか。突っ込み所が多すぎてどこから手をつけて良いのか見当がつかない。あと、鼻痛い。
そうこうしているうちに、完全武装で帰宅する警備員が口を開く。
「あ~、打ち止め。あと打ち止めが拾って来たって言う神作ひの」
黄泉川、玄関のドアノブを引っつかんで、
「あんた達式の帰宅の挨拶は嬉しいんだけど、今日は私もお客さん連れてきているじゃんよ」
「お客さん? 黄泉川の知り合いと言うと……」
期待に満ちた目で黄泉川を見る打ち止め。が、「あの子じゃ無いじゃん」との言葉で一気にうなだれる。一体誰なら良かったのだろうか。
「黄泉川の知り合いって、他には芳川と小萌とか言う人しか知らないんだけど……ミサカはミサカは黄泉川の交友関係に危惧を抱きつつ聞いてみる、でも、ミサカはミサカは黄泉川って案外、友達少ないのを気にしてるかも知れないから、あえてそこは突っ込まないでおいてみたりする!」
もう言っている気がするが、黄泉川は華麗にスルー。これが大人の余裕と言う奴だろうか。天井ならゲンコツをくれてやりたくもなる内容だ。
「あんたらがさっき殲滅したのは――」
黄泉川がドアを閉めて、もう一回開ける。
少しの間が空いて、ポンと手を打つひの&打ち止め。
「――こっちの子じゃんよ。しかも大層ご機嫌斜めじゃん」
斜め向いてる機嫌の何度かは明らかに黄泉川が原因だが、そこに突っ込んだら負けなんだろうと思う。主人公として、そして人として。
ともかく、扉が開いた先。そこにはちょっぴり涙の跡がついた顔で佇む天井の姿。
停まる空気。凍りつく表情×二。少し熱の上がった人物が一。普段と変わらないのが一。
「完全武装の理由はこれか……それなら納得………………って、納得出来るかっ! このドタバタトラブルメーカーが! 全員、そこになおれぇ!」
「亜衣!?」
「知らない人! しかもちっこい! この間の黄泉川の同僚の先生といい勝負かも! その人も見た目は小学生だけど中身は――歳っていう類なのかも!」
「違うわ! ちっこいってお前が言うなぁ!」
ひの、滝の様に流れる汗をそのままに、
「あぁ!? なんで亜衣がここにっ! しかも何だか鼻とお腹を押さえてる! 刺されたんですね、一体誰がこんなヒドイ事を……ひのが刺す場所が残ってないではないですか……亜衣、とにかく大丈夫ですか? 随分と探しましたよ! ホームセンターとかコンビニとか。一体どこに行っていたんですか。あまり心配をかけないでくださ――」
「やかましい! 棒読みで言うな! 絶対今思い出したろ、というか私の台詞だよ、それ!」
帰宅の挨拶のお返しとばかりに『起こせ撃鉄 酔い止めDX』の缶をひのへと投げつける。
――ありがとう親切な警備員のお姉さん、缶、役に立ちました。缶だけ。
「あぁ、なんだか懐かしいご無体な仕打ちが再びひのを襲ってくる! やめて下さい亜衣、このおでこはひののチャームポイントなんです。赤くなってるじゃないですか、中身の入ったジュースとか投げないで下さいよ。エンゼル様、エンゼル様、助けてくださいまし、エンゼル様。DVですよ、エンゼル様。ひのは知ってるんですよ、エンゼル様お好きでしょう、DV」
ひのの右手が滑らかに動き、フローリングの床へと涙を使った水文字を描く。
その内容。
『怒ってる亜衣に関わりたく無いの』
薄情な二重人格もあったものだ。
「エンゼル様の馬鹿ぁ」と、ひのが書く。返信も水文字。
「和尚さんに縛られて暇だからって涙で鼠を書く小坊主かお前は……」
半分呆れ、半分同情し、天井。
(黄泉川の言う保健委員の仕事というのはこれの事か)
見ると黄泉川は「早くもって帰れ」的な表情を浮かべていた。
(最初から知っていたな、この女)
黄泉川は、あまり品の良くない笑顔を浮かべているがとりあえず置いておこう。
先にこっちだ。
右手を向けて、指でピストルの形を作りひのに向ける。
「……探したぞ。それこそたくさん、たくさんだ……」
いくつかの青白いスパークが迸り、静電気を帯びた髪の毛がぶわっと逆立つ。
「おお、ミサカ達と同じ発電系能力者なのかも」
天井の能力は電子の操作なので、同系統の能力者には電子の動きで分かるのだろう。ソファーをガッタンガッタン揺らしながら打ち止めがはしゃぐ。
「亜衣……『電子同調《ディアルパルス》』を医療目的以外で人体に向けるのは冥土返しから禁止されてる筈なんでは、その撃ち方だと攻撃モードじゃないですか?」
本来の電子同調は、電子を操作して、対象の代謝能力を刺激し自然治癒を促すという使い方をする。発電系の能力の基本として、電子機器へのハッキングや電子ロックの解除など汎用性も持ち、電子を束ねて発射も可能。
と効果を羅列すると、一見便利そうに見えるから不思議だ。
実は、周囲の電子への呼び水となる自分の生体電流操作にある程度の集中がいる、という欠点を持つ能力である。更に言えば、射程距離も長くない。正直、天井も空間転移みたいな便利な能力が良かった。
とりあえずは一歩。距離を詰めてから、質問に答える。
「うん、“人に撃つと危ないから、控える様に”って言われている」
「ですよね、十万ボルト級の電撃を喰らう事になりますもんね、心臓が弱かったりすると、特に危ないですし」
だからひのには撃ちませんよね、と確認のつもりなのだろう。ほっと、胸を撫で下ろすひの。
「ミサカ達と同じ位なのかも!ってミサカはミサカは会話に入ろうと試みてみたり!」
会話に乱入するちびっ子。この際無視する。出来るだけ関わり合いたくない。彼女よりも彼女に関係する一人の人物が怖い。
「控えるってのは、控えてればいいんだよな」
誰とは無しに零す。確認を取るのは自分に対してのみで充分。
右手だけは未だに水文字を書いている。内容は『危険』の一言。
(どうやらコイツだけは理解している様だな)
「そうですね、痛いですし、亜衣の電撃」
「そうだな、痛いだろうな」
「すごく痛いです」
「わかった。“これから”は撃つのは控えるよ」
照準を固定。目標――神作ひの。髪の毛に帯電していた電子が、体表を伝って指先へと集中し、青白く放電を繰り返すビー玉ぐらいの球体が出来上がる。これが弾丸となる電子の塊。
あとは引鉄を引けば対象に向けて光速で発射される。大気に反応して放電を繰り返すと著しく威力が落ちるので射程は十メーターがいいところ。
首筋など神経が集まっている場所に当たれば気絶は確実。手や足などの末端部分に当たっても相当に痛い。多分強力なスタンガンを喰らうぐらいの威力はあるだろう。
「それ、控えるって言いませんよ! 亜衣!」
少しでも遠ざけたいのだろう。顔だけ逃げてるのだが、ぶっちゃけあまり意味が無い行動に思える。
「ひの」
と、ゆっくりと言葉を吐く。いままでもよおしていた吐き気はいつの間にか失せていた。
確かに冥土返しから“無闇に人とかに撃つのは控えた方がいいよ。でないと自分の生体電流の刺激に耐性が出来て、これ以上背が伸びないかもよ? 君だって成長したいだろう?”とは聞いている。
逆に言えば、冥土返しから受けた注意は、結局その程度の事だけ。
「“撃っちゃ駄目”とも聞いて無いんでな」
笑顔によく似た表情を浮かべ、ひのの目を覗き込む。浮かぶ感情は恐怖で占められていた。
「それは言葉のあやでは……目がすわってます、亜衣……それは笑顔ではありませんね、落ち着いてください、いつもの冷静さはどこに行ったのですか」
「そんなの関係ねぇ、とりあえずお仕置き!」
なりふり構わず全力で窓へと脱出を試みるひの。
「いやぁああああぁぁぁぁぁ嗚呼あぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁ、助けてエンゼル様ぁぁぁぁぁぁっぁあ!」
だが、もう遅い。充分に射程距離に入ってしまっている。
天井、荒んだ笑顔で「バン!」と一声。
と共に指先の電子球が飛翔。光の速さで電子球がひのの背中へと吸い込まれる。
発射さえすれば電子の速さは地上最速。とても回避できる物では無い。
「みぎゃぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁっぁあぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあっぁあ!」
なんだか近所迷惑な悲鳴を上げて、ひのは悶絶。
ポテリ、と転げたひのの首根っこを掴み、再び電子同調を開始。今度は自分の脳内電流を操作。対象設定――右腕部及び脚部。電圧調整――筋力増強モード。
いわゆる火事場の馬鹿力を任意で発揮する状態。
ひのさえ確保できれば長居は無用。厄介なのが目を覚ます前にお暇するとしよう。そうしよう。
「じゃ、黄泉川先生。あと最終信号。お手数おかけしました。今日はもう遅いんでお礼はまた後日にでも伺います」
「え、あぁ、気をつけて帰るじゃんよ」
「その人、生きてるのかな? て、ヤバそうにぐったりしているんだけどもってミサカはミサカはよく気がつく事をアピールしてみたり……」
「いえ、お構いなく」
これ以上の厄介事は御免こうむる。天井亜衣は面倒事が一方通行の次に嫌いなのだ。
後ろ手ですばやくドアを閉め、退出。
天井、表札のプレートを指差して、続いて黄泉川を指差す。
「お前の部屋じゃないか!」
「そうじゃん」
「この部屋では『完全武装の警備員』と『医療担当の保健委員』が必要な事態が起こっているとでも?」
「そうじゃん」
プレートには、はっきりと『黄泉川』と書かれている。
どこの世界に完全武装で帰宅する教師がいるのか。とりあえず目の前に一人いるから。他にも居るのなら是非お会いしたい。文句を言うから。
「どんな事態だよ! あぁっ、もういい! トイレだけ貸してもらうぞ」
「ここには悪魔がいるじゃん」
あくまでも真顔で黄泉川は続ける。
「それも飛びっきりの小悪魔が」
茶番に付き合うのもいい加減限界に近い。トイレだけ借りて吐くもの吐いたら、すぐにでもひの探索の旅に出ることにしよう。そしてここには二度と訪れない様にしよう。
「ただでさえ忙しいのに、全く――」
天井が玄関のドアノブに手をかける。当然だが鍵が掛っている。
「あぁ! もう早く開けろよ、黄泉川」
がちゃがちゃやってると鍵はカチンという音を立てて中から開いた。
「おっ!?」
「あ、危ないじゃん」
黄泉川が慌てて近寄って来る。
「は?」
その次の瞬間、玄関のドアが中からの衝撃で思いっきり開いた。
それこそ、二人ぐらいの人間が思いっきりドアの裏から体重を乗せたタックルをかましたくらい思いっきり開いた。
蝶番と呼ばれる部品を軸に扉は当然百八十度回頭。その進路上にあった天井の顔へも当然ぶつかる=天井の鼻の頭に特大の衝撃が奔る確立は百%。
すごく痛い。
「■★●#$%!?」
痛みで声にならない声は天井の喉から出ていた。涙目で鼻を押さえてぴょんぴょんと飛び跳ねていた天井はドアと壁の間でうずくまる。
と、同時に廊下へと二つの人影が飛び出て来る。
多分黄泉川曰く、とびっきりの小悪魔。
悔しい事に二人とも天井の記憶にある人物でもある。
昔、探した事がある少女とと今現在探している少女。
「ヒット! 目標の殲滅に成功! っとミサカはミサカは大喜びでかちどきの声を道端で拾って来た新たな戦友と一緒にあげてみたりする! イェーイ!」
「イエーイです! 予測通りのタイミングでした! でもひのって拾われてきたんですね! とにかくイェーイ! エンゼル様も『馬鹿みたいだけど、イェーイ!』と言ってますイェーイ!」
余程天井をドアと壁でサンドイッチに出来たのがうれしいらしく、お互いに手を取り合い『イェーイ!』を繰り返して喜んでいる。他に表現が無いのか。しかも天井の存在に全く気付いていない様子。
(なんでこんな所に最終信号とひのが……)
「二人の勝利なのかもなのかも!ってミサカはミサカは、初勝利の快感に酔いしれてみたりする……て、あぁ!! 黄泉川健在!黄泉川健在!ダメージは見られない、どうぞ!」
「そんな馬鹿な、もっと勢い良く行かないといけなかったのでしょうか! それとも警備員の防御力は白い悪魔並? そんな防御力なんて知りません! 最近の警備員は複合爆薬装甲《チョバムアーマー》でも装着してるのですか!?」
「学園都市の科学力は日進月歩! 通常の三十倍の速度で進化しててもおかしくないかも! てミサカはミサカはご近所なんて居ないから大声で叫んでみたり!」
「ならば再度の攻撃を加えるべきでしょうか!? しかしDDA《ダイレクトドアアタック》は命中率とタイミングに大きな問題があります。ここはひのの能力を利用した協力攻撃を!無敵の人間なんてほぼいません。お互いの能力を駆使すればもしや」
「待って、まずは黄泉川の情報を集めないといけないと思うかもっ! ミサカネットワークから情報を補完すれば貴方の能力にいくらかの信頼性が確保できるかも、でも黄泉川の装甲にどれ程の効果があるか分からない! ってミサカはミサカは、戦場で戦慄を感じずにいられないのかも!」
とりあえず戦場というのはどこだろうか。突っ込み所が多すぎてどこから手をつけて良いのか見当がつかない。あと、鼻痛い。
そうこうしているうちに、完全武装で帰宅する警備員が口を開く。
「あ~、打ち止め。あと打ち止めが拾って来たって言う神作ひの」
黄泉川、玄関のドアノブを引っつかんで、
「あんた達式の帰宅の挨拶は嬉しいんだけど、今日は私もお客さん連れてきているじゃんよ」
「お客さん? 黄泉川の知り合いと言うと……」
期待に満ちた目で黄泉川を見る打ち止め。が、「あの子じゃ無いじゃん」との言葉で一気にうなだれる。一体誰なら良かったのだろうか。
「黄泉川の知り合いって、他には芳川と小萌とか言う人しか知らないんだけど……ミサカはミサカは黄泉川の交友関係に危惧を抱きつつ聞いてみる、でも、ミサカはミサカは黄泉川って案外、友達少ないのを気にしてるかも知れないから、あえてそこは突っ込まないでおいてみたりする!」
もう言っている気がするが、黄泉川は華麗にスルー。これが大人の余裕と言う奴だろうか。天井ならゲンコツをくれてやりたくもなる内容だ。
「あんたらがさっき殲滅したのは――」
黄泉川がドアを閉めて、もう一回開ける。
少しの間が空いて、ポンと手を打つひの&打ち止め。
「――こっちの子じゃんよ。しかも大層ご機嫌斜めじゃん」
斜め向いてる機嫌の何度かは明らかに黄泉川が原因だが、そこに突っ込んだら負けなんだろうと思う。主人公として、そして人として。
ともかく、扉が開いた先。そこにはちょっぴり涙の跡がついた顔で佇む天井の姿。
停まる空気。凍りつく表情×二。少し熱の上がった人物が一。普段と変わらないのが一。
「完全武装の理由はこれか……それなら納得………………って、納得出来るかっ! このドタバタトラブルメーカーが! 全員、そこになおれぇ!」
「亜衣!?」
「知らない人! しかもちっこい! この間の黄泉川の同僚の先生といい勝負かも! その人も見た目は小学生だけど中身は――歳っていう類なのかも!」
「違うわ! ちっこいってお前が言うなぁ!」
ひの、滝の様に流れる汗をそのままに、
「あぁ!? なんで亜衣がここにっ! しかも何だか鼻とお腹を押さえてる! 刺されたんですね、一体誰がこんなヒドイ事を……ひのが刺す場所が残ってないではないですか……亜衣、とにかく大丈夫ですか? 随分と探しましたよ! ホームセンターとかコンビニとか。一体どこに行っていたんですか。あまり心配をかけないでくださ――」
「やかましい! 棒読みで言うな! 絶対今思い出したろ、というか私の台詞だよ、それ!」
帰宅の挨拶のお返しとばかりに『起こせ撃鉄 酔い止めDX』の缶をひのへと投げつける。
――ありがとう親切な警備員のお姉さん、缶、役に立ちました。缶だけ。
「あぁ、なんだか懐かしいご無体な仕打ちが再びひのを襲ってくる! やめて下さい亜衣、このおでこはひののチャームポイントなんです。赤くなってるじゃないですか、中身の入ったジュースとか投げないで下さいよ。エンゼル様、エンゼル様、助けてくださいまし、エンゼル様。DVですよ、エンゼル様。ひのは知ってるんですよ、エンゼル様お好きでしょう、DV」
ひのの右手が滑らかに動き、フローリングの床へと涙を使った水文字を描く。
その内容。
『怒ってる亜衣に関わりたく無いの』
薄情な二重人格もあったものだ。
「エンゼル様の馬鹿ぁ」と、ひのが書く。返信も水文字。
「和尚さんに縛られて暇だからって涙で鼠を書く小坊主かお前は……」
半分呆れ、半分同情し、天井。
(黄泉川の言う保健委員の仕事というのはこれの事か)
見ると黄泉川は「早くもって帰れ」的な表情を浮かべていた。
(最初から知っていたな、この女)
黄泉川は、あまり品の良くない笑顔を浮かべているがとりあえず置いておこう。
先にこっちだ。
右手を向けて、指でピストルの形を作りひのに向ける。
「……探したぞ。それこそたくさん、たくさんだ……」
いくつかの青白いスパークが迸り、静電気を帯びた髪の毛がぶわっと逆立つ。
「おお、ミサカ達と同じ発電系能力者なのかも」
天井の能力は電子の操作なので、同系統の能力者には電子の動きで分かるのだろう。ソファーをガッタンガッタン揺らしながら打ち止めがはしゃぐ。
「亜衣……『電子同調《ディアルパルス》』を医療目的以外で人体に向けるのは冥土返しから禁止されてる筈なんでは、その撃ち方だと攻撃モードじゃないですか?」
本来の電子同調は、電子を操作して、対象の代謝能力を刺激し自然治癒を促すという使い方をする。発電系の能力の基本として、電子機器へのハッキングや電子ロックの解除など汎用性も持ち、電子を束ねて発射も可能。
と効果を羅列すると、一見便利そうに見えるから不思議だ。
実は、周囲の電子への呼び水となる自分の生体電流操作にある程度の集中がいる、という欠点を持つ能力である。更に言えば、射程距離も長くない。正直、天井も空間転移みたいな便利な能力が良かった。
とりあえずは一歩。距離を詰めてから、質問に答える。
「うん、“人に撃つと危ないから、控える様に”って言われている」
「ですよね、十万ボルト級の電撃を喰らう事になりますもんね、心臓が弱かったりすると、特に危ないですし」
だからひのには撃ちませんよね、と確認のつもりなのだろう。ほっと、胸を撫で下ろすひの。
「ミサカ達と同じ位なのかも!ってミサカはミサカは会話に入ろうと試みてみたり!」
会話に乱入するちびっ子。この際無視する。出来るだけ関わり合いたくない。彼女よりも彼女に関係する一人の人物が怖い。
「控えるってのは、控えてればいいんだよな」
誰とは無しに零す。確認を取るのは自分に対してのみで充分。
右手だけは未だに水文字を書いている。内容は『危険』の一言。
(どうやらコイツだけは理解している様だな)
「そうですね、痛いですし、亜衣の電撃」
「そうだな、痛いだろうな」
「すごく痛いです」
「わかった。“これから”は撃つのは控えるよ」
照準を固定。目標――神作ひの。髪の毛に帯電していた電子が、体表を伝って指先へと集中し、青白く放電を繰り返すビー玉ぐらいの球体が出来上がる。これが弾丸となる電子の塊。
あとは引鉄を引けば対象に向けて光速で発射される。大気に反応して放電を繰り返すと著しく威力が落ちるので射程は十メーターがいいところ。
首筋など神経が集まっている場所に当たれば気絶は確実。手や足などの末端部分に当たっても相当に痛い。多分強力なスタンガンを喰らうぐらいの威力はあるだろう。
「それ、控えるって言いませんよ! 亜衣!」
少しでも遠ざけたいのだろう。顔だけ逃げてるのだが、ぶっちゃけあまり意味が無い行動に思える。
「ひの」
と、ゆっくりと言葉を吐く。いままでもよおしていた吐き気はいつの間にか失せていた。
確かに冥土返しから“無闇に人とかに撃つのは控えた方がいいよ。でないと自分の生体電流の刺激に耐性が出来て、これ以上背が伸びないかもよ? 君だって成長したいだろう?”とは聞いている。
逆に言えば、冥土返しから受けた注意は、結局その程度の事だけ。
「“撃っちゃ駄目”とも聞いて無いんでな」
笑顔によく似た表情を浮かべ、ひのの目を覗き込む。浮かぶ感情は恐怖で占められていた。
「それは言葉のあやでは……目がすわってます、亜衣……それは笑顔ではありませんね、落ち着いてください、いつもの冷静さはどこに行ったのですか」
「そんなの関係ねぇ、とりあえずお仕置き!」
なりふり構わず全力で窓へと脱出を試みるひの。
「いやぁああああぁぁぁぁぁ嗚呼あぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁ、助けてエンゼル様ぁぁぁぁぁぁっぁあ!」
だが、もう遅い。充分に射程距離に入ってしまっている。
天井、荒んだ笑顔で「バン!」と一声。
と共に指先の電子球が飛翔。光の速さで電子球がひのの背中へと吸い込まれる。
発射さえすれば電子の速さは地上最速。とても回避できる物では無い。
「みぎゃぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁっぁあぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあっぁあ!」
なんだか近所迷惑な悲鳴を上げて、ひのは悶絶。
ポテリ、と転げたひのの首根っこを掴み、再び電子同調を開始。今度は自分の脳内電流を操作。対象設定――右腕部及び脚部。電圧調整――筋力増強モード。
いわゆる火事場の馬鹿力を任意で発揮する状態。
ひのさえ確保できれば長居は無用。厄介なのが目を覚ます前にお暇するとしよう。そうしよう。
「じゃ、黄泉川先生。あと最終信号。お手数おかけしました。今日はもう遅いんでお礼はまた後日にでも伺います」
「え、あぁ、気をつけて帰るじゃんよ」
「その人、生きてるのかな? て、ヤバそうにぐったりしているんだけどもってミサカはミサカはよく気がつく事をアピールしてみたり……」
「いえ、お構いなく」
これ以上の厄介事は御免こうむる。天井亜衣は面倒事が一方通行の次に嫌いなのだ。
後ろ手ですばやくドアを閉め、退出。
黄泉川のマンションを出ると、夜空には満天の星が光っていた。
以前の自分なら星を見上げる余裕なんて物は持ち合わせていなかった気がする。
第二の人生ともいえる自分の状況は果たして幸福なのか、それとも……
引き摺りマスコットと化したひのを見て、
「はぁ、明日から大変だなぁ」
と零し、
「それでも明日も星を見上げる事ぐらいの余裕はあるよな」
と、続ける。
以前の自分なら星を見上げる余裕なんて物は持ち合わせていなかった気がする。
第二の人生ともいえる自分の状況は果たして幸福なのか、それとも……
引き摺りマスコットと化したひのを見て、
「はぁ、明日から大変だなぁ」
と零し、
「それでも明日も星を見上げる事ぐらいの余裕はあるよな」
と、続ける。
冥土返しの用事に加えて保健委員としての公務。それに学園生活。
天井の抱える厄介事は、ここ最近枚挙に暇が無い。それに加えて今日からは、悩み事の種が一つ増えてしまった。
だけど、この状況を天井は、人より少しだけど『幸福』だと感じている。
普通が一番特別で、特別なのが格別に不幸なのだと今の天井は知っている。
天井の抱える厄介事は、ここ最近枚挙に暇が無い。それに加えて今日からは、悩み事の種が一つ増えてしまった。
だけど、この状況を天井は、人より少しだけど『幸福』だと感じている。
普通が一番特別で、特別なのが格別に不幸なのだと今の天井は知っている。
天井亜衣が感じるこの心地良い『普通の幸福』の為なら、多少の面倒は抱えよう。厄介ごともこなそう。悩みも解決しよう。
(願わくば、この『普通で幸福』な時間がいつまでも続きますように)
夜空に輝く星の一つに願いを込めて、天井は自分の部屋に向かって歩き出す。
空の星と月は天井の行く先をほんのりと照らしてくれていた。
(願わくば、この『普通で幸福』な時間がいつまでも続きますように)
夜空に輝く星の一つに願いを込めて、天井は自分の部屋に向かって歩き出す。
空の星と月は天井の行く先をほんのりと照らしてくれていた。