とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

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だれでも歓迎! 編集
 空もやや青味を取り戻してきた今日この頃。
「やっと着きました、我が家!でも入れない!助けて!」
 オートロックに阻まれてたたずむ緑色ジャージの少女が一人騒ぐ。
「くそっ、そういえばオートロックがあるのを忘れてたよ、上条さん!」
 暴れるものの意味は無い。
 管理人室も実質物置扱いだし、無駄に防音処理が施されているドアは全く反応を示さなかった。
 そしてギャーギャーと騒ぐ事数分。
「ふんぬうううううううう!」
 力尽くで開けようとするが、ピクリともしない。
 どうやら肉体の変化に伴って筋力もかなり落ちているらしい。
「ぜぇぜぇ」
 肩を揺らして荒い息を吐く。
 警報すら鳴らす事が出来ないほど非力。それが今の当麻の状況であった。
 もはや万策尽きた、そんな風に諦めて燃え尽きそうになった時だ。
「天国にぃ、天国にぃ、いざぁ、メイド天国にぃ~♪」
「む、この馬鹿みたいにメイドを讃える歌は――ッ!」
 まるで宇宙で目覚めた超人パイロットの如く頭に稲妻が走る当麻。
 振り返ってみれば、薄いガラスのような物で作られた自動ドアの更に向こう。
 そこには金髪をツンツンと尖らせ、青いサングラスをかけた不良っぽい男が一人。
 彼の格好は首から金色のネックレスをかけ、アロハシャツをYシャツ代わりに着込み、
 更にその上から学校指定の冬服を纏うというものだった。
 朝帰り。
 そんな単語が即座に浮かんで来る。
 つまり、
「俺がこんな目にあってんのにずっと遊んでたわけですかそうですか、このド畜生。
 というかちょっとでもまさか俺を逃がして危ない目あってるんじゃないかというわたくしめの心配を見事に裏切ってくれたな、このシスコン変態軍曹がぁあああ!」
「メイドさんっ!?」
 取り敢えず困ったらドロップキック。これ鉄則よ。
 致命的かつ変態的な悲鳴を挙げてつつ地面を転がる不良っぽい男こと、土御門元春。

「なにするんだにゃー!?」
 しかしダメージは無いようだ。軽過ぎたか。
「どうもこうもあるかぁっ!お前が俺を放っておくから、俺はこんな目に――どう責任をとってくれる!?」
「ぶっ!?責任って何!?ホワイ!?というか、あんた誰って聞きたい俺だったりするんだぜぃ!?」
 どっちもどっちで混乱気味。
 数メートルの距離を持って指を突きつけ合う倒れた男とそれを見下ろす女というのもまた妙な感じだ。
「テメェ、見て分かんねーのか!」
「知るかー!?」
「上条当麻だ!」
「ああ、なーんだカミやんか」
「そうそう、漸くわかってくれたか」
「嘘はいけないぜぃ?」
「えい」
 取り敢えず急所に一発蹴りを入れてやった。
「メイドさんっ!」
 まだ言うか。


  ◇○◇ 


「相変わらずだなぁー」
 あの後二、三回シュートの練習をした結果ギブアップした土御門の部屋に上がり込んで居場所を確保する。
 壁際には色々あって失った筈のメイドの出てくる漫画コレクションの入った本棚も復活している。買い直したのか。
 所々にトレーニング用の機材があったが、随分前よりも数が減っていた。
「つか、トレーニング機材よりメイド漫画優先か」
「当たり前だぜい」
 当たり前らしい。
 取り敢えずは胡坐をかいて床に座る。
 続くようにして土御門も正面に胡坐をかいて座った。
「で、どうなってんだ」
「そりゃ俺が聞きたいぐらいだぜい」
 土御門は上着を脱いで肩を竦め、
「第一、性転換の魔術なんてゴロゴロあるしにゃー。ただ既存の魔術じゃ、どれもカミやんには効かない筈だぜい」
「実際になってんじゃねーか」
「そりゃ間違いだにゃー」
「は?」
「カミやんの右手で消せないとしたら延々と別個の力を送り続けるか、延々と再生させ続けるしかない」
「……アレか」
 不良神父ことステイル=マグヌスのイノケンティウスの姿が脳裏に浮かんで来る。
「でも、あれはカードをそこら中に張らないと意味が無いんだろ?」
「そうだにゃー。というか、学園都市の中でそんな事したら真っ先に俺とかインデックスが気付くはずだぜい」
 ましてや目の前に被害者がいるのに気付かない筈がない、と土御門は付け加える。
「……じゃあ、どういう事だ?」
 疑問に首を傾げる。
「魔術でもない。そして、超能力でもそんな能力は聞いた事ない」
 土御門は言うと同時に立ち上がり。
「じゃあ、答えはただ一つだにゃー?」
「へ?」
 ピッと頬を何かが掠めた。
 それがアッパー気味に振られた土御門の拳だと気付くのに数秒。
 目の前にはサングラスをかけた友人の顔。
「お前は"上条当麻"じゃない」
「―――」
 何を馬鹿な事を、と言おうとするが口が上手く動かない。
「ここまで来る間に言ってたな?今日の昼、地域清掃活動に参加してたと」
 錆びついた機械の様にゆっくりと頷く。
「よーく、思い出せ。それは本当に今日だったのか?」
 全く動かない友人、否、魔術師のものと化した土御門の顔を見つつ当麻は思い返す。
 いきなり告知された地域清掃活動に悲鳴を上げるクラスメイト達。
 清掃活動中に何時もの三馬鹿同士ふざけてて吹寄制理にも殴られた。
 そして、最後に集めた塵をトラックに運ぼうとして――。
 そこで記憶が途切れている。
 しかし、その記憶の中には確かに目の前の男も居た。
「な、何言ってんだお前も一緒にやってただろうがっ!」
 確信をもって土御門の手を払う。
「いいや」
 土御門は僅かに距離を取り、
「"清掃活動をやったのは二日前だ"」
 意味ガワカラナイ事を言ッタ。
「……」
 つまり、
「お前等俺が一日以上居ないのに全く気付いてなかったのか!?」
 という事になる。
 二日経っていたとしても清掃活動をやったのは月曜日。
 まだ水曜日である。火曜日は普通に学校があった筈だし、気付かないのはどう考えてもおかしい。
 あ、いかん、涙が出てきた。
「この薄情者どもがぁっ!」
 目の端に涙を溜めて人差し指で指差すが土御門は――、
「カミやん――否、違うな」
 表情を全く動かしてなかった。
「な、なんだよ……」
 そこにあるのは哀れみの混じった、しかし動かぬ石像の様に冷たい表情を持った男だった。
 指差した指が、全身がその表情に怯え、退く。
「良い加減気付けよ」
 まるで親に悪い事をしたのを諭されているような、思わず縮こまってしまう感覚。
 そして、
「だ、だから何にだよ……」
 なんだ、この寒気は。
「例えばだが」
 酷く無機質に感じられる声が響く。

「製作者本人そっくりの人形があったとする」
 一歩近づいてくる。
「そこに製作者の記憶と各情報を埋め込むとどうなると思う?」
「……」
 なんの話だかわからないが、思い出すのはかつての錬金術師の事。
 あの錬金術師が作った分身は確かに自立して、己を本物と思い込んでいるようだった。
「そりゃ、勘違いするんじゃないか?自分が本物だって」
 でも、"だからどうしたというんだろうか"。
「そう、その通りだ。そして――まだわからないのか?」
 土御門はしゃがみこむ。
 たったそれだけの動作だというのに、何時の間にか全身に嫌な汗が吹き出ていた。
「じゃあ、教えてやる」
 何時の間にか尻餅をついた様な状態になっている当麻と視線を合わせた。
 手を使って僅かに後退る。
 何で自分が逃げているのかすらワカラナイ。
 土御門元春は上条当麻の友人で、魔術師で、いざとなると頼りになる誰よりも義妹を愛する男。
 情報に間違いはない。
 では、情報はどこから仕入れたものなのか。
……そんなの、今まで過ごして来た中で培ったもんに決まってんだろ?
 否定する。
 頭の中にノイズが走るのを否定する。
 土御門は何故あんな例えを出したのか。解かりきっている事だ。
 彼は幻想殺しが効かない魔術、超能力など殆ど無いと言う。
 じゃあ、何でだ。現状の自分は"一体何者なんだ"。
「お前は」
 止めろ。
 拒否の意と共に動いた耳を塞ごうとする手が掴まれた。
 圧倒的な腕力の差に腕が動かない。
 頬を何か熱いものが伝う。それが何かすらも既に認識出来ない。
 喉が渇く。
 目の前の男の口の動きが止まらない。
 止めなくては、止めなくてはならない。
 だが、身は震えで動かない。でも、どうにかしなければ、どうにかしなければ。
「やめ」
 漸く紡げた言葉を待っていたかのように男は口を開く。
 それは、残酷な程単調な音。


「人形だ」


 硝子が割れる様な音が頭の中に響いた。 


  ◇○◇ 


 狭い自室の中、土御門元春は立っていた。
「ふぅ……」
 溜息を吐く。どうやら成功したようだ。
 眼下では小柄な少女が胎児の様に身を丸めて耳を塞ぎ、目を見開き怯える様に震えている。
 探していた目標の方からやって来てくれたのは助かったが、
……ステイルの報告通りというわけでもなさそうだな。
 自分の友人の名を語る少女。
 この少女もまた上条当麻である事には違いない。
 ただ、彼女は上条当麻の記憶のみをコピーし、作られたものである。
 呪術霊装【影鏡死徒】。
 ドッペルゲンガーを作り出す歴史の裏で暗躍して来たとある魔術結社の切り札の一つだ。
 【影鏡死徒】の発動条件は触れる事。
 触れる事によって接触者の最も親しいものの分身を作りだし――接触者を殺害させる。
 一種の暗殺兵器である。
 その事を聞かされたのは昨日の事。
 同僚である魔術師――ステイル・マグヌスから聞いた話だ。
 【影鏡死徒】が学園都市に流れ込んでしまったらしい、と。
 そして、目標は恐らくインデックス、もしくは上条当麻であろう、と。
 それを上条当麻に報告してみればいきなり、
『……俺、もしかしてそれ触っちゃったかも』
 等と青い顔をして言うもんだから慌てたものだ。
 しかし、結果は良い方向へ向かったようだ。
 目の前で震える少女がその証拠である。
……どう見ても――混じってるな。
 インデックスの碧眼に、黒髪は神裂、姫神、その他も沢山いるが確かに面影が見える。
 恐らく"分け隔て無く"親しいと感じている上条当麻故の出力結果なのだろう。
……まぁ、カミやんの右手で触れられたのもあるかも知れないけどにゃー。
 少なくとも目の前の少女は失敗作だ。
 今まで【影鏡死徒】が生み出してきた存在はどれも感情を廃した本当の人形だったという。
 いきなり蹴りを入れてきて驚きを覚えたが、こうして部屋に連れ込む事にも成功した。
……しかし、やはり気付いてなかったみたいだぜい。
 脅威はもう無いと判断し、全身の筋肉を弛緩させる。
 相手の最も恐ろしいところは自分が本物だと思っているところだ。
 その上で感情がないものだから、容赦無くに自己矛盾を解消しようとして殺しにかかってくる。
 だが、目の前の存在は自分が本物と思っているのはともかく、感情はあるようだった。
 それで取り敢えずは自己矛盾を起こさない様に、"自分が偽者である"という現実を突きつけた訳だ。
 暗示も言葉の中に含めて言ったせいもあるのだろうが、
……自閉状態に入っちまったみたいだにゃー……どうしたもんか。
 頭を掻いてみるが眼下の少女は涙を流しつつガタガタと震えるだけだ。
359 名前: かげ☆とま ~とある影達の舞踏会~ [sage] 投稿日: 2007/04/09(月) 02:43:31 jet2edAU
 何か言っているようだが、小声過ぎて聞き取れない。
「……」
 気になったので耳を近づけてみた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「……」
 お前本当に自閉状態なのかと思うが、たぶんあれは真面目に言ってるのだろう。
 それにしても【影鏡死徒】だ。
 恐らく彼の右手で【影鏡死徒】の外郭部分は破壊されたものの、辛うじて核は残っていたのだろう。 
 そこから生まれ出たのが恐らく目の前の少女。
 どうしてこんな服装になっているのかはわからないし、取り敢えず被害者がいないかを探るべきか。
「やる事は意外と多いにゃーって」
 足に重りを付けた様な感触。
 視線を向けてみれば何時の間にか【影鏡死徒】である少女が足にしがみついていた。
「しまっ」
 迂闊。相手も完全に動けなくなった訳ではなかったというのに、油断していた。
 すぐさま迎撃のため、もう一方の足を振りかぶり、
「づぢびがどぉお~」
「へぼぉっ!?」
 鼻水と涙で顔を現在進行形で濡らしている少女の顔を見て思いっきりずっこけた。
「俺はどうずればいいんだぁ~」
 少女は土御門がこけたのを良い事にしがみついたまま上半身へ向けて迫ってくる。
 そして、彼女は上半身を昇り終え、視線を合わせる位置に来てもなおもくっついてきた。
「解かった!解かったから!しがみつくな!?すりよるな!鼻水をつけるな!拭くな!つか、近づき過ぎ――」

 に゙ゃぁああああああ!?


  ◇○◇ 


「ひぐっ、えぐっ」
「落ち着け、わかったぜい。――でも、本当にお前はカミやんの分身なんだ、それはわかるな?」
「うん、うん、うえええええええええ」
 本当に分かってるのだろうか。
 少女こと偽当麻は何故か正座をしながら色々な液体に染まった土御門の前に座っていた。
 バスタオルで顔を拭ってやるが偽当麻の涙は止まる気配が無い。
 自己否定とはそれほどまでにきついものなのか。
 それは本人にしかわからないものだろう。
 かといって、ここで『わかった。お前も上条当麻なんだ』等と言えば自己矛盾発生の鍵にもなりかねない。
 難しいものだ。
 つか、これ以上しがみつかれてベトベトになるのは勘弁だ。
「で、どうするか、だぜい」
 考える事は偽当麻の処遇だ。
 ここまで人間に近いものが出て来るとは思わなかった。
 襲ってくるなら魔術師としてどうにでも出来たが、泣きつかれる等とは思ってもみなかったのだ。
 しかも腕力は人並み以下。
 本物の上条当麻並みの腕力なら苦戦しただろうが、偽当麻は弱過ぎる。
 恐らく武器や毒等を使った殺害が前提なのだろう。
 が、それにしても感情があり過ぎた。失敗作と評したが、まさかここまでとは。
「ちょっと聞くけど良いかにゃー?」
「う?」
 涙をボロボロと流していた偽当麻がこちらを向いた。
 どっから出て来てるんだあんな量の水分と思うが、取り敢えずは、
「もし今ここで"本物のカミやん"に会ったらどうする?」
「わ、わかんねーよ、ぐずっ」
「ふむふむ」
 取り敢えず殺意は無いようだ。
 というか、精神崩壊を起こしかけたせいか幼児退行しているような気がするのは気のせいだろうか。
「だって、いきなり、偽者だって言われて、それが自分でもわかっちまうなんて、もう、俺どうすんだよぉ……」
「?」
 待て。
 彼女の言葉は支離滅裂だが気になる事があった。
「自分で自分が偽者って解かったのかにゃー?」
 それはつまり暗示だけではなく、根本的に理解出来たという事だ。
 対して目を擦りながら偽当麻は、
「お前に言われた後、色んな知識が沸いて来て、偽者だって、偽者だ……ひぐ、ふえぶっ!?」
 泣き出す前にバスタオルで偽当麻の顔を覆った。
 成る程。これで彼女が自閉状態からあれだけ早く復活出来た理由が理解出来た。
 どうやら【影鏡死徒】はとことん幻想殺しに破壊されていたらしい。
「しかし」
 どうしたものか。
 というのも、見る限り偽当麻はまるっきり"一人の人間"だ。
 これでは処理するにも出来ないではないか。
 確かに土御門とて危険があると判断したならば対象を処分するのに躊躇する事は無い。
 だが、
……全くの無害をどうにかするって気にはなれないにゃー。
 腕を組んでバスタオルに顔を埋める少女を見る。

「う?」
 少しだけ顔をバスタオルから出して見返して来た。
 それで良いのか、上条当麻。貴様は萌えキャラでも狙っているのか。否、むしろそれならメイドキャラを。
 いかん、思考がずれた。修正しなければ。
「本当にどうしたもんかにゃー」
「俺、どうなるんだ?」
「ん」
 バスタオルを下ろした偽当麻の顔にあるのは充血した目と不安そうな表情。
「取り敢えず上の指示待ちだにゃー。見た感じでは完全に無害って感じでどうする気にもなれないぜい」
「じゃあ、俺は……元の生活に戻れるのか?」
「いや、それは無理」
 またバスタオルに顔を埋める。
 あ、また泣き始めた。
「まぁ、善処はするにゃー」
 手を振ってなぐさめるが偽当麻の泣き声は止まらない。
 と、そんな困惑する土御門の下にもう一つの音が聞えた。
 それは木を叩く様な音。
 音の発生源は玄関のドアからだ。
 そして、音には声も付いてきた。
「おーい、土御門いるかー?」
「シチュ~」
 響くのは少年と少女の声。
 その声は――幻想殺しの少年、上条当麻と白い魔道図書館シスター、インデックスのものであった。
 ビクゥッと偽当麻の肩が跳ね上がる。
「ど、どうすんだ!?」
 涙もどこへやら、慌ててしがみついてくる偽当麻。
 どうしたもんかと、今日何度目かわからない感想を抱きつつ思考を走らせる。
 結果。
「よし」
 慌てる偽当麻の両肩を持ち離す。
「よ?」
 唐突に離されてキョトンとした顔をする偽当麻。
 土御門はそんな偽当麻へと爽やかな良い笑顔を浮かべ――、
「現実を見ろ」
 同じく爽やかな声で言ってやった。
「この薄情者ぉおおおおおおおおおおお!もう誰も信じられない!実家に帰らせていただきます!」
「おおおお!?待つんだにゃー!?早まったらいけないぜい!?」
 言うなりベランダに走る偽当麻を羽交い絞めにして押さえる土御門。
 背丈の差からか偽当麻は完全に足がつかなくなり、空中で手足をジタバタさせる形となってしまった。
「離せー!俺は星になるんだっ!」
「混乱するな!しっかり現実を見据えないと将来就職がきつくなるぜい!?」
「メイドさんの国に行きたいとか言ってた奴に言われたくねー!?」
 暴れる暴れる暴れる。
 快音。
「――!」
「あ」
 土御門の口から漏れるのは絶叫にもならない悲鳴。
 暴れる足がとある場所にぶち当たったのだが、部位に関しては各位、御自由に想像して頂きたい。
 倒れる。


  ◇○◇ 


 土御門が倒れ込んでくる前に開放された。
 それは良かった。
 しかし、その際に振り向いてしまったのが良くなかったのだ。
「ぎょわ!?」
 結果、白目を剥いた土御門が倒れ込んできて下敷にされてしまう。
「大丈夫か土御門ーっ!?」
 自分でやっておいてなんだが、その痛みは良く解かる。
 良く解かるからこそ看病してやろうとするが、脱出出来ない。
 暴れてみるが非力過ぎてピクリともしやしなかった。なんでこんな体で生まれて来たんだ。
「おい、大丈夫か土御門!なんか今凄い嫌な音がしたぞ!?」
「とうま、とうま、あの音は――」
「言うな、インデックス!というか、それを言語化しちゃったら十八歳以下は閲覧禁止になっちゃうから!?」
 何の話だろう、と思うが身動きはとれない。
 自力で出来ないなら土御門にどいてもらうしかないのだが、
「土御門、土御門起きてくれ!」 
 幾ら呼びかけても土御門は白目を剥きっぱなしで起きてくれない。
 と、その時だ。
「仕方が無い――土御門、すまん!」
 という叫び声と共に――。
「――!」
 快音と共にドアが蹴り開かれた。
 走り込んでくるのは二人の人影。
 片方は何時も見ていたのですぐにわかった。
 白いティーカップの様なツギハギの修道服を着た少女――インデックス。
 そして、もう片方は――、
「あ、あぁ……」
 言葉にならない言葉が口から漏れる。
 そこに立っているのはまるで鏡を見ているような錯覚を与える存在。
 "本物の"上条当麻がそこには立っていた。
 彼等は共に目を見開いた表情でコチラを見る。
……やめろ、そんな目で見ないでくれ――っ!
 その表情は怒りや悲しみ、様々なものが混じった末に出来上がったものだった。
 まるで自分の事を責められている様な感覚が襲う。
 が、彼等はそんな事など知らぬと言う風に口を開いた。
 目を強く閉じて、紡がれる言葉が自らを貫く剣となるであろう事を覚悟する。
 かくして言葉は放たれた。


「土御門が見知らぬ人を押し倒してるだとぉっ!?」
「とうま、これはまいかに知らせないといけないかも!?」


 えー。


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