とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

第四章-4

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第四章 羽ばたく者たち Cinderella_March



 能力を使用した授業を行うことを前提に設計された体育館は、一般のそれより遥かに頑丈な骨組みとただっぴろい空間を持っている。そのため屋上もかなり広く、上条が着地した玄関側の端からサーシャの立つ魔法陣まで三〇メートルくらい距離があった。
 風に揺れる金の髪。拳銃型霊装を握り締めた制服シスターの足元には、言祝栞が倒れている。
 とりあえず間に合いはしたらしい、と上条は安堵した。
 その一瞬の油断を、突如放たれた爆音とそれに伴う釘の乱打が貫く。
「うおっ!? は! おうわっ!?」
 上条は思わずのけぞったが、初めから当てるつもりはなかったのだろう。十数本の釘は上条の前方二メートルくらいで横一線に屋上の床に突き刺さり、コンクリートをバレーボール大の円形に消失させた。砂と散った建築材の名残が宙を舞う。
 境界線を引かれたみたいだ、と上条は思った。その考えをぐっと飲み込み、叫ぶ。
「おいサーシャ! 何の真似だ!」
「自明のはずであるが回答一。邪魔をしないでもらいたい。これはロシア成教とイギリス清教が下した最重要指令である。貴方の右手は儀式の妨げになると証明済みのはず」
 返事は即答。それほど大きな声でもないのにここまでしっかりと聞こえるのは、演劇の練習の成果か。
 と、息をつぎ、
「宣告一。それ以上近づいた場合、実力で排除する」
 持ち上げられた銃口がピタリと上条を照準した。
 石膏で固めたような無表情は、一人の少女としてではない、「魔術師」サーシャ=クロイツェフとしての顔なのだろうか。
 本来なら対人で用いるべきではない凶悪すぎる術式が少年に向けられる。
 しかし上条はその程度で怯んだりはしなかった。銃と向き合うプレッシャーなどおくびにも出さず、声を張り上げる。
「ふざけるな! インデックスから話は聞いた。その『零時の鐘(ロンドベル)』っていう捜索術式は、“一人じゃ使えないもの”なんだろうが!」
 右の足を前に出しかけ、
「『灰姫症候(シンデレラシンドローム)』から術者の魔力を抜き出す役と、魔法陣を保つ役の二人が必要な魔術なんだろ。本当なら教会からの応援要員を待って、演劇に乗じた『灰姫症候』の走査術式を終えてから使う予定だったから。“お前が焦って無理矢理やろうとしても”、成果なんかでやしないんだ。だから、」
 ダン! と再び足元に打ち込まれた釘弾に止めさせられる。
 前を見やると、やはり貼り付けたような無表情がそこにあった。
「宣告二。次は無い」
「サーシャ! 人の話を聞いてんのか!?」
「回答二。問題なく。続いて回答三。貴方の今の発言は作戦中断の理由にならない。単独で『零時の鐘』を行う方法は存在する」
 なんだって? と上条の思考が凍る。
 サーシャは与えられた台本を棒読みするかのように淡々と、
「補足一。用は魔法陣――『神殿』内に『灰姫症候』に含まれた魔力を波長として放てばいいだけ。わざわざ丁寧に解析せずとも、私の攻性魔術で破壊し、その際に生じる魔力の残響現象を活用すればいい」
 上条は基本的に科学側の人間だ。魔術側の用語を用いられても理解しきれない。それでも聞きかじりの知識で何とか意味を捉えようとする。
 要は、鍵のかかった宝箱のようなものか。
 中身が何であるのかを調べなければならないが、自分には鍵開けの技術もそのための魔法も使えない。箱は完全に密閉されていて、揺らしても音の一つもしない。
 ではどうすればよいか。
 サーシャはこう言ったのだ。
 “宝箱ごと叩き壊し、散らばった破片から推察すればいい”と。
 肝心なのは「中身を手に入れる」事ではなく、「中身を調べる」事なのだから。
 それを現在の状況に照らし合わせた時、壊される「宝箱」とは、
「――――――っ! 言祝ぃ! 起きろぉぉ!」
 そこまで考えが及んだところで、上条の硬直が解けた。声の限りに倒れたままの言祝栞に呼びかける。だが、いつもは頼んでも黙ってくれない行動派文学少女は、まるで置物のように身じろぎすらしなかった。
「くそ、こんなときだけ物静かになってんじゃねぇよ!」
 無茶な文句を言いながら、上条は走り出す。激しい足音に無機質なカチャリという金属音が混じって聞こえた。
「宣告三。次は無いと言った」
 ダン! という強い音に釘弾がはじき出される。
 左の太ももを狙ったその攻撃を右へステップしてかわした。
 上条は再びダッシュしようとしたが、その矢先にまた左足を狙われてやはり右へ飛ぶ。
 転がり、進み、避け、かすめ。
 気づいた時には、まっすぐ走っていたはずなのにかなり屋根の端の方まで追いやられていた。
(まずい……。俺を近寄らせないためだけじゃない、俺の右手(イマジンブレイカー)を使わせないための誘導か!)
 右へ右へと避け続ければ、当然サーシャの側へは左半身が向くことになる。右手に宿るどんな異能も問答無用で打ち消す力、幻想殺しで防御させないための戦術だ。
 だが、頭ではそうと分かっていても体は勝手に避けてしまう。これらの釘が図書室の窓ガラスや体育館の屋根を塵に変えたのを目の前で見ているし、そうでなくとも五寸釘が高速で飛んでくれば普通は怖い。
『確実』に仕留める。そのためだけにロシア成教が研鑽を重ねてきた心理誘導戦術の一つである。
(止まるわけにはいかない。だからってこのままじゃ、いずれは屋根の端から転げ落ちちまう。開き直って右手を盾にして突撃しても、美琴の電撃の槍と違って腕に向かって飛んでくれるわけじゃないし、もし“魔術のかかっていない”ただの釘を撃たれたらアウトだ)
 位置関係が致命的なものになる前に打開策を見つけなければならない。上条は走り転げながら頭の中に優先事項とそのための手段を並べ立てていく。
 今一番しなければならないこと――決まっている。サーシャの魔術を止めることだ。
 そのためにすべきこと。上条当麻の勝利条件。
 ――条件一。『零時の鐘』の魔法陣を幻想殺しで破壊する。
 屋根に白い線で描かれた円と紋様。あれらが『零時の鐘』であることは間違いない。ならばあれらの線を右手で撫でるだけで効果を消すことが出来るはずだ。
 ――条件ニ。『零時の鐘』の起動に用いるあの銃型霊装を幻想殺しで破壊する。
「宝箱」を壊すために、サーシャは魔術で攻撃すると言った。それを使えなくさせれば、少なくとも儀式を中断させられるはず。
 ――条件三。言祝を確保し、幻想殺しで『灰姫症候』を破壊する。
 これはある意味最後の手段だ。確実に『零時の鐘』を中断させられる代わりに、『灰姫症候』を学園都市に放った魔術師を捕まえる手がかりがなくなってしまう。そうなればイギリス、ロシア両宗派から責任を問われるのはもちろん、正体不明の魔術師を野放しにしてしまうことになる。
 ――条件四。術者であるサーシャ自身の意識を断ち切る。
 ……出来ればやりたくない。それに、やるならば最初からサーシャのみを狙わなければならないだろう。迷っている間にズドンだ。
 これは全ての条件にも言える。一から四のどれかに失敗したからといって、別の目標に移る余裕は恐らくない。狙いは一つでなければならなかった。
(――どうする!? 魔法陣か、霊装か、言祝か、サーシャか!)
 上条当麻は全力で走りながら全力で思考する。だが極度の緊張に暴走しかけている脳は全く関係のない記憶を走馬灯のように流していた。
 サーシャとの出会いを思い出す。インデックスとの顔合わせを思い出す。言祝の無茶なスカウトを思い出す。吹寄達のふざけた裁判を思い出す。演劇班の人達との練習の日々を思い出す。小萌先生の気配りを思い出す。

 ――――――あの子達を、お願いします。

 いつか何処かで聞いたことのある、控えめな少女の声が回想に混じって聞こえた気がした。
 その瞬間。
 上条は全てを理解した。
 インデックスの知識、上条の記憶、サーシャの言動。
 “それらの中にただ一つの嘘もないのなら”。
「狙うべきは…………あそこだッ!」
 決断は一瞬。想いは一心。行動は一歩。
 少年は全身に働く慣性を根性で跳ね除け、右に傾いていた体勢を強引に立て直す。
 そして、
 “おもむろに目を閉じ”、何の小細工もなくまっすぐに突撃する――!
「ッ!」
 サーシャの顔色が変わった――ような気がした。
「……くっ!」
 いつ飛んできたのかも分からない釘が、左のふくらはぎを浅く裂いた。が、無視。
 ただ網膜に焼き付いている光景だけを頼りに走る。走る!
 そう、なまじ銃が見えているから無意識に体が身構えてしまい、サーシャの腕の動きに反応して回避をしてしまうのだ。その刹那の恐怖こそが最大の敵。
 目を閉じれば『いつ撃たれるか分からない』。それは即ち恐怖の均一化であり、とっさの回避を行わずにすむ。
 あと必要なのは、多少の傷を無視できる覚悟だけ。
 是が非でもサーシャを止めるという、シンプルな心意気だけだ。
 普通の戦闘では不利にしかならない選択。だがこのような“自身の認識能力を変化させることで相手の優位を封じる”戦法が用いられる戦場は、存在する。
 対幽霊戦闘、だ。
 もちろん上条がそうだと知っていたわけではない。だがサーシャはよく知る戦術が自分に向けられたことと、肉を裂かれる痛みにも怯まず走り続ける少年の異様な迫力に二重に動揺してしまった。
 その結果、銃撃がほんの少しゆるんだ。
 上条はそのわずかな間隙を惜しむことなく前進に費やす。
 記憶にある赤い少女の位置まで、残り三歩。
 サーシャは魔法陣の中から動かず、射撃に徹していた。つまり、術者は儀式の最中に陣の外に出ることは出来ないのだと見ていい。
 だから移動している可能性はない。まっすぐ走り続けるだけで辿り着ける!
 左ももをもう一発釘弾がかすめた。しかし少年は止まらない。止まる訳が無い。
 記憶にある赤い少女の位置まで、残り一歩。
 上条は目を開ける。
 怯えたような、それでいて何処か覚悟を決めたような顔がそこにあった。
(やっぱりな)
 確信する。“この少女は魔術師なんかではないと”。
 ただそう振舞おうと演技していた役者に過ぎない。上条にも見破られてしまうような大根役者だったが。
 けれど。
「お前の役は……『魔法使い(それ)』じゃねぇだろ!!」
 下半身はほとんど使わず、腰の捻りと肩の回転で右手を“撃ち出す”。
 五指は拳を作らず、大きく開かれている。
 交錯の時は一秒もなかっただろう。
 それで閉幕(カーテンフォール)だ。

 鉄以上の強度を持つはずの“銃型霊装”は、砂糖菓子のようにあっさりと幻想殺しによって握り潰されていた。



◇   ◇



 ポロポロと、砂の塔のように崩れ落ちていく自らの霊装を、サーシャは戸惑うような視線で追いかけていた。
 何故。
 どうして。
 そんな思考が見て取れる表情だ。
 上条は五歩後ろに下がり――“もちろん”サーシャにも言祝にも指一本触れていない――赤いシスターに向き直る。
「問一。なんで銃だけを壊したのか、って顔だな」
 返事はなかった。しかし彼女はその代わりに疑問の表情を浮かべたまま見上げてきた。上条はそれに対し、右の人差し指を立てて見せる。
「回答一。まず魔法陣を狙うのは真っ先にやめた。確かに速攻で魔術の発動を止められるだろうけど、やり直しも簡単そうだったから。俺が下で走り回ってる間に準備できた訳だしな」
 続けて中指。
「回答ニ。次に切ったのは『灰姫症候(シンデレラシンドローム)』だ。まあそうだよな、作った魔術師を捕まえなくちゃならないんだから、壊すわけにはいかない」
「でも」
 サーシャが初めて反論した。青い瞳は感情の乱れに同調し、今にも決壊しそうである。
「私は言った。シオリを撃つと。そう言えばトーマは絶対にシオリを優先すると思ったから。だから、」
「んなこと言ってねぇよ。お前は」
 ピシャリ、と突き返した言葉に、
 今度こそ、演技という名の仮面は少女からはがれ落ちた。
「…………な、」
 上条は口を挟む余地を与えないよう畳み掛ける。
「お前はこう言ったんだ。『「灰姫症候」の魔力を解析する役の人間がいないから、「灰姫症候」そのものを破壊することで解析の手順を省略する』って。――それだけだ。“誰”を撃つかってのは一言も言ってない」
 薬指を立て、

「これが回答三だ。銃を壊さなかったら、“サーシャは自分で自分を撃っていた”。『灰姫症候』は今、お前の体の中にある。違うか?」

 サーシャはうつむき、唇を固く結んでしまう。
 その沈黙は何よりも雄弁だった。
 上条当麻は言葉を続ける。幕を引き切るために。
「ふっとな、思ったんだよ。サーシャに本当に言祝が撃てるのかなって。そしたら俺に対しても、絶対直撃しない戦い方をしてることに気づいた。日頃から乱射をかましてる俺にこの調子なら、言祝を撃てるはずがない。……不謹慎かもしれないけどさ、正直安心しちまった」
 二つの巨大宗派から与えられた使命と、
 たった一、二週間程度の知り合いを天秤にかけてしまうような甘い心の持ち主。
 友達を傷つけたくないという意思を最後の最後まで抱いてゆける、弱くて強い女の子。
 サーシャ=クロイツェフというのがそういう少女で、本当によかった。
 だからこそ上条は――卑怯かもしれないが――迷わず釘の嵐の中で目を閉じることが出来たのだ。
「で、言祝でないのなら何を撃つ気なのかって考えたら一発だった。まさか逃がしてる訳もなし、サーシャ本人の体しかないって」
「もし私が最初からそのつもりだったなら、私は一人でここまで来ればよかったのでは? シオリを気絶させてまで連れてくる必要は全くない」
 風に埋もれてしまいそうな、小さな声での反論だった。しかし屋上を流れる風はその声を遮るどころかそっと背中を押すようにして上条の耳まで届けてくれる。
「いや。サーシャは絶対に言祝を連れてこなくちゃならなかった。“俺に追ってこさせるために”」
 きっぱりと断言する。実はほとんどがこの会話の最中に思いついたことだったのだが。銃を壊す直前の数秒はほとんど無心だったから、あの瞬間の閃きを言語化しようとすると結構手間取る。
「自分で自分を撃つなんて裏技、必ず成功させる自信はなかったんじゃないか? まあ人肉プラネタリウムになっても平気で魔術を使ってた変態もいるけど、サーシャはあそこまでぶっ飛んでるようには見えないしな。だからもしも探索の魔術が失敗した時、俺やインデックスがお前の『共犯』にされないように。先走ったサーシャを止めようとしていたと、形だけでもそう見えるように。もし言祝を残していったら、俺は『何か考えがあるのかも』って思って、深く考えずに任せた気分になってたかもしれない。そしたら俺達も叱られる――で済めばいいけど――まああんまり良くないことになってただろ」
 指を立てていた右腕を下ろす。
 そして、
「結局サーシャはさ、全部自分の責任にして、事件を終わらせるつもりだったんだろ?」
 上条は、言った。
 思ったことを、全て。
 考えてみれば簡単な話だったのだ。
 上条達は、少女を友達だと思っていた。
 少女は、上条達を友達だと思っていた。
 ゆえに上条は少女を止めたいと思い、少女は全ての責を負おうと心に決めた。
 たったそれだけの、三文芝居。
 しかし、上条は自分で気づいていた。この推理の穴を。
「……トーマ。貴方には推理小説の主人公は似合わない」
 彼女も同じことに感づいたのだろう、わずかに余裕めいたものが生まれた。
 それは、
「貴方が述べているのは全て状況証拠でしかない。いや、それよりも悪いただの願望だ。私の行動に勝手な理由をつけて、貴方自身が納得するための筋書きを作っているにすぎない」
「…………、」
 言い返そうとして、言葉に詰まる。
 そんなことは分かっていた。
 上条にはサーシャが何をしようとしているのかを推測することは出来ても、何故そこに思い至ったかを推察することは出来ない。彼女には彼女の事情があり、思惑があり、思い出があり、それらの中から生まれた結論を理解しようと思うなら、事情を思惑を思い出を全て知らなければならないだろう。しかしそんなことは読心能力でもなければ不可能だ。
 理解出来ないものを無理に語ろうとすることを、暴論と呼ぶ。
 結局上条の言葉は、彼自身のための、主人公気取りの偽善の押しつけにすぎないのではないか。
(でも、)
 ばらばらになったカケラをでたらめに貼り合せたような、歪な仮面に似た少女の顔を見る。
 様々な感情が交錯し、どんな表情をしているのか自分でも分かっていないに違いない貌を見つめる。
(お前のその顔じゃ……証拠にならないか?)
 ここに鏡があれば見せてやりたかった。もしも演劇がシンデレラでなく白雪姫だったなら、魔法の鏡を用意出来ただろうか。
「貴方に似合うのは――やはり絵本のような、勧善懲悪、荒唐無稽な御伽噺の主役だな」
 少女は夢を見るように、夢に浸るように、夢に溺れるように呟く。
「そして、私は『悪い魔女』だ」
 もしかしたら、その一言が全てだったのかもしれない。
 サーシャ=クロイツェフの迷いも決意も、全てはその一言の中にあったのかもしれない。
 そう思った時には――
 赤いシスターはまるで敬礼をするように、額に右手を当てた。
「トーマ。貴方は私を直接殴るべきだった。そうすれば、こんな結末は見ずに済んだのに」
 え? と問い返す間もなく、滑らかな動作でサーシャの手が何かを引き抜いた。
 そんなところから何を?
 答えはまたも風が教えてくれた。
 ゆるやかになびく金髪。
 “ヘアピン”で止められていた前髪が下ろされたのだ。
「――――――あっ!」
 サーシャの手の中にあるヘアピンの先端は、鋭く尖っていた。“まるで釘のように”。
「十一。遠いいつかの空で」
『図書室から持ち出せた霊装』は、あの銃一丁のみ。
「十二。自由に飛べたなら」
 けれど、『常日頃から身に着けていた霊装』はカウントされない。
『サーシャ』と『ミーシャ』の最もはっきりとした相違点。
 何故、そこに考えが及ばなかったのか――!?
「…………アンコール」
 その囁きが呪文だったのか、指先でつまむように持たれたヘアピンが鈍い魔力の輝きを放ったように見えた。
 細い指が最後の釘を落とす。重力に引かれてまっすぐ落下するその先には、サーシャの足の甲があった。
 一瞬で、上条は思い出す。潜伏段階の『灰姫症候』は、発見されるのを防ぐため、自分の靴に所有者限定をかけるだけの効果にされているという話だった。
 つまり、破壊するために狙うべき場所は――
 飾り気のない上履きは今、まぎれもなく硝子の靴と化していたのだ。
「う――――おおおおおおおおっ!!」
 叫びながら、駆け出しながら、上条は絶望的に直感していた。
 距離が開きすぎている。足の筋力より重力の方が強い。腕の速さより落下速度の方が速い。
 これは、間に合わない。止められない。
 この釘は間違いなくサーシャの足を貫く。
 脳裏に浮かぶ1フレーズ。
 ――――最低の結末(バッドエンド)
 それを払ったのは、やはり、また風だった。

  世界中の大好きを集めても 君に届けたい思いに足りない
  体中の愛がうたいだしてる ぼくらの鼓動は全ての始まりだよ ハレルヤ

 時間が間延びしたように感じる。実際にはヘアピンが落下するわずかな時間だったはずなのに、歌声ははっきりと聞き取れた。
 旋律に気を取られたせいだろう、集中が途切れ、ヘアピンにかかっていた攻性魔術が霧散する。上履きには当ったものの、何の破壊も行わずにコロコロと転がっていった。
 上条とサーシャは空を見上げた。そこに誰かがいた訳ではない。しかし、確かにそこにあった。
 風が運んできた、白い少女の歌う歌が。

  とんでる鳥にはわからない苦労 逃げだしたい気持ちは足かせ
  けってみたけど まわり続けてる ラールルー地球

  つまんないはずだったDANCE 君となら軽くSTEPふめる
  どーして大地が暖かいんだ

(放送室をジャックして海賊放送……お祭りじゃなきゃできませんよねー)
 回転椅子に腰掛けて足をブラブラさせながら、小萌先生は目の前で行われているコンサートを観賞していた。
 舞台道具はマイクのみ。出演者は一人。聴衆は恐らく全校生徒。
 最初このシスターの少女に「学校中に声を届かせる方法はないか」と迫られた時には仰天したものだが、これほどの歌を特等席で聴けるのなら文句は無い。
 祈るように目を閉じ、胸の前で小さく拳を作って歌う彼女の姿は、聖職である教師の目から見ても神聖さを感じずにはいられなかった。
 だがそれでいて、ひどく人間らしい感情も伝わってくるのだから、大したものだ。
 神様に捧げる歌ではない。手を取り合える誰かのための歌なのだと。
 小萌先生は自然に――マイクに届かないように――口ずさんだ。

  ハレルヤ

 歌はそこいら中のスピーカーから流れているらしい。誰もが作業の手を休めて聞き入っていた。
 上条は嬉しかった。シンプルにそれだけを思う。
 きっとこの歌には何の意味もない。
 メロディに乗せて『強制詠唱(スペルインターセプト)』を試みるとか、『零時の鐘(ロンドベル)』の魔力拡散波を打ち消す波を作るとか、そんな下心は存在しない。
 ただ歌い、ただ届けと。
 押しつけじゃなく、あなたが何処で何をしている時にも、私はここにいるんだよと伝えるために。

  世界中の大好きをひきつれて 君に届けたい思いは一つ
  体中の愛がとびだしそうさ ぼくらの鼓動は全てをぬりかえてく ハレルヤ

 彼はサーシャに歩み寄った。少女は空を仰ぎながら耳を澄ましている。
 その邪魔をしないよう、静かに話しかける。
「いい歌だな」
「………………うん」
「俺達の、友達の歌だもんな」
「………………うん」
「じゃ、ここで回答四だ」
「え?」
「サーシャを直接殴らなかった理由。これから舞台に上がる役者の顔に、傷なんかつけられないだろ?」
「………………うん」
 泣いてはいなかった。演技ではなかった。
 彼女の今の表情を説明するのに、これ以上の言葉はいらない。

  世界中の大好きを集めても 君に届けたい思いに足りない
  体中の愛がうたいだしてる ぼくらの鼓動は全ての始まりだよ ハレルヤ



 がやがや……ざわざわ……と、人ごみに特有のさざめきが舞台袖まで聞こえてくる。騒がしくはなく、大人しくもなく、これから始まることへの期待感が隠し切れなかった分だけ漏れ出しているような感じだった。
 体育館の入り口には、このイベントの名前がでかでかと書かれたポスターが貼り付けられている。
 生徒代表(プラスα)による演劇『シンデレラ』プレ公演。
 五時開演と告知してあったのだが、四時を少し過ぎたあたりから人が集まり始め、三十分後にはほとんどの座席が埋まっていた。五時五分前の現在では、立ち見客がでるほどになっている。全校生徒全教員に加え、近隣の学生なども集まっているのではないだろうか。
 この公演を見るために、ほかの場所の作業が通常の数倍のスピードで進んだというのは、誇張でもなんでもなかったりする。
 そんな本番直前の舞台裏。
「とうま、とうま。この帽子どう? 似合ってる?」
「いやーしかしすごい混み具合だなー。三〇〇人、いや五〇〇人、いやいやもっとか? そんなに椅子並べたっけかなぁ」
「ねぇねぇとうま、とうまってば」
「あれ? 客席最前列に何やら見覚えのある他校(よそ)の制服が……って美琴と白井!? なんであいつらあんな肘掛とドリンク置きのついた豪華なパイプ椅子に座ってんの!? しかもそれでも不満っぽいし! おのれブルジョワ!」
「…………………………」
「え? 言祝、何だって? かみやんマスク捕獲部隊の士官待遇? 一発ネタじゃなかったのかてか人の知らねーとこで物騒な組織運営してんじゃねーよ! お前の一声でどんだけの戦力が集まるんだ!? あのな、そんな風に考えもなしに勢力を広げてると、その内アステカスマイルに輝き殺されるぞ。あるいは糸目のロリコンに誘拐されるかもしれんし、黒光りしたサンゴが集団で襲ってくるかもってぎゃあああぁぁぁぁぁ……(フェードアウト)」
 場所柄を考慮した慎ましい悲鳴が上がる。ネズミ着ぐるみ(リバーシブルで馬に。芦田先輩渾身の力作)の上条当麻は踏み潰された足の小指をつかんでけんけんしつつ、その少女を睨んで言った。
「インデックスぅぅぅぅ! 何しやがる!(小声)」
 シスター少女は靴の踵を修道服の裾に隠しつつ、素知らぬ顔でそっぽを向く。どこから持ち出してきたのかお嬢様風の帽子など被っていたが、いつものフードの上に乗せているので似合っているとかどうとかいうレベルではない。
 その騒ぎの横で王子様ルックの吹寄が「また上条はあんな小さい子に……」とイライラ呟き、魔女装束の姫神は「まあ。今さらではあるのだけど」とひっそり腹を立てていて、上条とお揃いの着ぐるみを着た青髪ピアスは「あはははー! テンションうなぎ登りやー!」とヤケクソにわめいている。
 なぜインデックスがここにいるのかというと、それはずばり言祝栞が連れ込んだからだった。海賊放送で校内を魅了した美声に監督少女が目をつけないはずがなく、飛び入りでナレーションをさせようと目論んだのである。ちなみにその情報が知れ渡ると観客動員数は一.五倍ほど増えた。
 ちなみに、『灰姫症候(シンデレラシンドローム)』は海賊放送に文句をつけに来た教頭先生に貼り付けた。元々人気のない人だし、機嫌の悪い今は特に近寄る者もいないはずだから、公演が終わるまでは大丈夫だろう。
 さてそんな混迷とした本番直前の舞台裏で、主演女優たるサーシャ=クロイツェフは何をしているのかというと、
「はいどうぞ。サーシャちゃん」
「…………ありがとう」
 缶入り紅茶を差し出してきた言祝と、壁際に並び、それきり何を話すでもなく沈黙を続けている。
 言祝はその後も音声増幅(ハンディスピーカー)で指示を飛ばしたり、上条をおちょくったり(上手く調節してあるので音量に関わらず客席には漏れない。便利な能力だと思う)、自分の分のジュースを飲んだりしていたが、一向にサーシャの傍を離れる気配は無い。
 気まずい、という言葉の意味を嫌というほど実感する。
 何を話せばいいのか、分からない。いや、話せることなど一つもないのだ。サーシャが言祝に返せるのは、亀のような沈黙のみ。
 互いの関係が魔術サイドと科学サイドだから、魔術師と超能力者だからなんてくだらない理由からじゃない。
 任務と友達を天秤にかけてしまったことを知られるのが、どうしようもなく恥ずかしかっただけ。
 でも、このまま黙っているのは、何故か嫌だ。このまま何も言わないまま終わってしまうのは、きっと辛いという確信めいた予感がある。
 この街でサーシャが知り合った人達なら、笑い飛ばしてしまうくらいちっぽけな悩みなのだろうけど、彼女にとっては生まれて初めての苦しみだった。葛藤(ジレンマ)はロシア成教のシスターとして絶対に抱いてはいけない感情だったから。
 揺らぐ心には魔が宿る。それを嫌というほど見てきたはずなのに。
 今、サーシャには自分で自分が分からない。
 何も聞かれないことを言い訳にして、何も言わない。でもどこかで胸の内を明かしたいと思っている。
 責められないことを言い訳にして、謝らない。でもどこかで許されたいと思っている。
 ただ一つ確実に言えるのは、上条の言葉とインデックスの歌に応えたいと思っている自分がいるということだ。
 だからこの演劇だけは全力でやり遂げる。最高の演技を見せる。
 そして、その後は――
 と、
「聞かないのって聞かないの?」
「なっ」
 不意に言祝が口を開いた。思考に埋没していたサーシャは反応できずにおかしな声を上げてしまう。
 それがおかしかったのか、監督少女はくすくすと肩を揺らし、
「まあいいのですけどね。聞かないのって聞かれても聞かないよとしか答えないし、聞かないのって聞かれなくても聞かないんだからかまわないんだけど――」
「待った、シオリ、待って」
 早口言葉のようにまくし立てる言祝を、サーシャは両手を突き出して制しようとする。
 何なんだ、この状況は。
 なんであんなことがあったのに、この人は、この人達はサーシャに笑いかけることが出来るのか。
 責められるのならまだ理解できる。それが一番自然な反応だと思う。
「そうとも限らなかったりするのが、人間の面白いところなのですよ」
「……え!? 今、私、」
「ああ別に読心能力とかじゃないから。サーシャちゃん、きっと自分で思っている以上に考えてることが顔に出やすいよ」
 思いもよらないことを言われ慌てふためくが、それも監督少女の含み笑いを増量させることにしかならない。
 それをひとしきり堪能すると、言祝は空になった缶を床に置き、
「サーシャちゃんはさ、舞台に上がってくれたじゃない」
 まるで過去のことのように言う。
 私達の舞台はこれから始まるのでは、と返しかけて、違う意味なのだと気づく。
 彼女が言っているのは“ここ”ではない。
「どんな事情があったとしても、どんな秘密があるのだとしても、私にとっては私の演劇に参加してくれた“貴女が”サーシャちゃん」
 誰よりも傍若無人で、誰よりも重責を担ってきた監督少女は、サーシャにしか聞こえない声で、サーシャのためだけに言祝ぐ。

「……それがお芝居でもいいじゃない。同じ世界(ぶたい)に立ってるってことなんだからさ」

 誰も本音だけで生きているわけじゃない。演技(うそ)もつけば化粧(かめん)もつける。
 でも、だからってありのままを分かって欲しくないわけじゃない。
 矛盾していても、その両方を抱えていくのが人生だ。
 サーシャは悟った。さっきまで、自分は「友達」という「本当」だけを見て悩んでいた。それでは駄目なのだ。今日に至るまでについてきた「嘘」も、全部ひっくるめて答えを出さなければいけなかったのだ。
 魔術師と超能力者という立場の違いを下らないものと切り捨てたことの愚かさをようやく知る。そんなのは身分を偽った「嘘」を誤魔化すための方便だ。
「友達」という「本当」を大切に思うのなら、「彼らから見たサーシャ」という「嘘」も守り抜かなければならない。
 誤解も偽りも、今となっては、手放せないくらい暖かなものになってしまったのだから。
 小さく小さく、言葉がこぼれる。
「………………もう少しだけ、この舞台の上にいてもいいのかな」
「ん? 何か言った?」
 言祝が聞き返してくる。自分が言ったことなどもう忘れてしまったかのような、吹き抜けのようにすっきりとした声で。
 その向こうでは上条達がぎゃあぎゃあ騒ぎながらも最後の準備をしている。これからのために。これまでのために。
(……うん。確かに、もったいない)
 心の中であの『悪魔』に感謝してみたりして。
「別に。少し元気になっただけ」
「それは何よりなのですよ」
 差し出された手を、迷わずとる。
「本当」も「嘘」もまとめて握り締めて。



◇   ◇



 その頃。体育館の屋上。
 どこから登ったのか、土御門元春は屋根の端に腰掛けて遠くを見るような目をしていた。
 彼の尻の下では、今まさに演劇が始まろうとしている。普通ならどきどきわくわくしてもよさそうなものだが……そういう気分ではなかった。
「なんだかにゃー」
「こんなところで何してんだー? 兄貴」
 土御門が振り返ると、これまたどこから登ってきたのか義妹の舞夏がいた。メイド見習いの少女はジュースやお菓子の詰まったバスケットを提げ、ドラム缶みたいな掃除ロボットの上に正座している。この状態で屋上にまで登る方法なんてあるのだろうか。
 が、義兄もこのくらいの不条理には慣れっこなようで、気にした様子もない。
「……ん、舞夏。お前、演劇見に行かなくていいのか?」
「どうせ本公演で売り子するしなー。美味しいものは最後まで残しておくタイプだしー」
 そうか、とだけ答えて土御門は再び遠くを見る目をする。
 どうにも覇気のない義兄を、舞夏は訝しそうに見る。すると、彼がその手に何やら赤いものを持っていることに気づいた。
「何だそれー? …………絵本? 兄貴、まさかとうとうやっぱり児童文学にまで萌えを求めるように」
「淀みのなさが酷いぞ妹よ。――まあ、ちょっとメランコリック入ってるお兄ちゃんを心配してくれるのは嬉しいが」
「いいからはよ言え」
 今度はちょっぴりしょげる妹愛の伝道師、土御門元春。気を取り直して赤い絵本を開くと、表紙の裏側に落書きだらけの折り紙のようなものが貼り付けられていた。
 彼はそれを爪でつまんでピッと剥がすと、二つに四つに八つにと引き裂いていく。
 季節はずれの桜吹雪のように、細かくなった紙片が散っていく。
 最後に手の中に残った細切れを投げ捨てて、ぼそっと呟く。
「『迷子札』。……ウチのお姫様もあのびっくりホルマリンも、もう少しましなやり方があるだろうに……」
「兄貴ー? よくわからんが、ゴミのポイ捨てはいけないんじゃないかー?」
「そうだな。お兄ちゃんは悪いお兄ちゃんだ。だから皆に合わせる顔がなくて、こんなところで黄昏れてるんだ」
 それは彼の偽らざる本音だった。誰に対しても数え切れない嘘をつき続けてきた『背中刺す刃』がこのような弱みを見せる相手は、決して多くはない。
 しかし、舞夏は彼の事情は知らない。知らされていない。彼が滅多に言わない弱音を吐いているのだとしても、それと判断する基準がない。
 ただ、そういう秘密も義兄の一部だと知っているから、舞夏は何も気にすることなくいつものように接する。それが最良なのだと思っている。
「――――ところで兄貴」
「ん?」
「あれは何なんだー?」
 と、舞夏が指差したのは屋上の別の場所。そこにはスーツが所々凍りついた細目の男と特徴的なヘアースタイルに風穴が開いた男とやばい催眠術でもかけられたみたいに目がぐるぐるしている爽やかそうな少年が大の字になって倒れていた。どんなすさまじいバトルを展開していたのか、三人とも息絶え絶えである。
 耳を澄ませば、うめき声に混じってかすれた会話が聞こえてくるような気もする。
「……け、結局貴方がたは何しに来たんですか……?」
「……一端覧祭の前売りフリーパスが一枚しか手に入らなかったので……その、決して彼女のためという訳ではないのだが、確実に当日券を手に入れたく……色々と下調べを。いや、彼女が一緒に祭に行くのをとても楽しみにしていたとか、そのような理由では絶対にないのだが」
「俺はあれよ。とある女教皇(おひと)がご執心の方々が、今度のお祭りでおもしろそうなことやるって聞いてな。忙しいあのお方の代わりに記録映像でもと思ったんだが……どこの学校だか聞くの忘れたんで、早めに来て調べてたんよ。で、あんたは?」
「自分は……ちょっと訳あってこの街の近くに軟禁されてたんです。ようやく開放されたので、以前迷惑かけた人に謝りに行こうと思ったんですが――」
「が?」
「その人、自分に会うなりこう言ったんですよ。『腕の皮くらいいくらでもやるから、ちょっと変わり身やってくれ』と。その日のうちに彼はバカンスに出かけました」
「あー、その顔借り物なのな。爽やかそうなルックスしといて腹黒いなぁそいつ」
「断じて間違っても彼女に責任はない。彼女のためなどではないのだからしかし」
 土御門は激闘の果てに奇妙な友情が芽生え始めている三者をちらっと見やり、
「気にするな。そういう季節なんだ」
「そうかー」
 かなり投げやりな感じに、舞夏はうなずいた。納得した訳ではなかろうが、世の中にはそういうこともあるのだ。
 そして、土御門義兄妹は揃って校庭の方に目を向けた。
 割と無視したかった光景がそこにあった。
 なぎ倒された並木。地面ごとひっくり返された仮設ステージ。『ぐわし』になった掌のオブジェ。エトセトラエトセトラ。
 校門から体育館まで、ほぼ一直線に竜巻でも通り過ぎたかのような有様になっている。ただし、地面に氷柱が幾本も突き刺さっていたり、屋台がネジ一本にいたるまで分解されていたりするのは、通り過ぎたのがまともな竜巻ではなかったことを示しているのかいないのか。
「…………誰がこの後始末を…………」
 公演直前で生徒教員のほとんどが体育館に集まっているため、今のところ騒ぎは起こっていない。しかし、公演が終わって観客達が帰りだす前に、魔術的事象の痕跡は消しておかなければならないだろう。
 決まりきったことを恨めしそうに吐きつつ、苦労性な陰陽師は頭を抱える。結局の所、彼の役回りなんてこんなもんだった。



◇   ◇



 そして時刻は午後五時になる。
 同時に観衆は静まり返り、やがて厳かに幕が上がり始めた。
 白い少女の謳う声が、御伽噺に最初の色を着ける。

「――これはとある時代、とある国の、とある少女の物語。灰かぶりの少女と不思議な魔法使いが出会う時、奇跡の夜が始まります……」

 はじまり、はじまり。






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