とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅵ
Ⅴ
幻想(ゆめ)を見る。
それは、
とても哀しい現実(ゆめ)だった。
全てが壊れて。
全てが無くなって。
全てが遠ざかって。
そして、
自分は、
その全てを起こして。
全てを失った。
何もかも。
仲間も。愛も。友情も。自分も。体も。意識も。心も。
幻想も。
力も。
そして、
世界は、
終焉を迎えた。
Ⅵ
「…はえ?」
思わず、上条は声を上げる。
目を開けると、移ったのは見慣れた天井。
そして、首を回すと。
移ったのは、見慣れた――――
ギュゴォッ!
と、上条は首を瞬間的に元に戻す。
そして、冷静になってみると、その視線の先には、
歯をギラつかせたインデックスが。
「…あ、あのー?」
上条が、防御態勢をとりつつ言う。
「わ、わたくしめは、注射をうたれて寝ていたわけでして…
つまり、この不可解な現象にわたくしめは関与していないわけでして…
そして、あなたのお怒りも緩和されないわけでして?」
最後だけ、ちょっと理解不能な文章になった。
だが、それでも目の前のシスターは、コクンと頷く。
そして、
「と――――う―――――ま―――――ぁ!!!!」
そう叫び、インデックスが飛びかか――――
「…?」
ろうとした時。
上条の横で、『何か』が動いた。
それは、この不幸の根源。
つまり、常盤台中学のエースで、超能力者(レベル5)の第3位で、つまり、
「…って!ちょっとあんたねぇッ!?」
御坂美琴だった。
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅶ
なぜか、さっきまで上条と同じベッドですやすやとかわいい寝息をたてて寝ていた少女だ。
そんな可憐な美少女に、上条は思わず言った。
「ってか!全てお前のせいだからっ!?まずこの不可解な現象がおきた理由を説ぐはぁッ!?」
発言途中でインデックスに頭を噛み付かれる上条。
「え、あ、え…?私??」
途中までの発言に、戸惑う美琴。
その仕草が、なんともいえないほどかわいい。だから言った。
「すみませんっ!?なんでもいいからこの怒りボルテージMAXのシスターさんを引き剥がしてもらえませんでしょうかマジで!!」
そう叫んだ。
だって、生命の危機が現在進行形で訪れているのだ。そんな状況下で、かわいいとか可憐だとかもう関係ないよねーッ!!と上条は勝手に決め付ける。
その叫びに美琴は、
「言われなくともッ!」
と、なぜかやる気満々な声で答え、インデックスを剥がし始める。だがしかし、インデックスのあごの力が異様に強く、引き剥がせないどころかインデックスの顎が少し動いて更なる激痛が上条の体を支配する。
「-^~っ:ぉ。・っ!?」
理解できるはずがない言語を放つ上条。
それを見た美琴は、
「え?逆効果!?」
とっさに力を抜く。だが、体にかかる力がなくなったためか、やっぱりインデックスの噛み付きレベルが一つ上がってしまう。
もはや声も出せない上条。
「ちょ、もうッ!」
そう美琴が言い、少し強めの電流をインデックスに浴びせる。インデックスが少しふらっと揺れ、噛み付きから解放された上条が叫ぶ。
「だぁ!俺は今回の戦いであんまり怪我しなくて優秀だったなぁー、なんて思ったら次はこれかよっ!?
てか、俺の怪我の大半はお前のせいな気がするぞインデックス!」
「な、なにを言うのかなとうま!?そもそも、とうまが無駄な事件に首を突っ込むからいけないんだよッ!」
「の前に、あたしへの感謝の気持ちはないわけなの!?」
上条とインデックスの声量に負けじと、美琴も声のボリュームを上げる。
「あ、ありがとな」
適当に言う上条。というか、この惨事はお前のせいじゃねぇの?といいたかったところなのだが。
そして、その言葉を言った次の瞬間。
「何故お姉様が感謝の言葉をかけられ、何故私にはそれがないのですか?と、ミサカは暗に『私にも言え』と強制します」
「どういう理論だよそれ!?ってか、何もしてないのに感謝の言葉をかけられてもうれしくないだろ!」
「いいえぜんぜんっ!全く持ってうれしい限りですがっ!」
と、御坂妹に続いて病室の扉をぶち壊すような勢いで入ってくる少女。
「五和!?なんでここに?」
「説明は後回し!とりあえず今はッ!」
「なにが、とりあえず今は、よ!新参者は引っ込んでなさい!!」
「それだったら、短髪も新参者かも!」
「ふふ。あんたは知らないだろうけど、実は私たちは前から関係があったのよ」
「確かにそうだけど!事実だけど受け取れる意味がちょっとヤバい気がするのですがっ!?」
なんかヒートアップしていく彼女たちの会話に一声適当に入れ、上条はとりあえず会話から外れる。
(…さっきの夢…は?)
確か、起きる前までやけに現実的な夢を見ていた…気がする。
しかし、ぜんぜん内容が思い出せない。分かるのは、とてつもなく悪い夢。さっきみたいな展開でもいいから、何でもいいからその夢から覚めたい、と思ってしまうほどの。
確か、
自分が笑っていて、
周りの人が泣いていて、
周りの人が泣きながら俺に襲い掛かってきて、
そして自分は―――――
(…だめだ。なんか思い出せねぇ)
上条は頭に手を当てかけ、その手を引っ込める。
(まぁ、思い出せない夢より)
と、上条は目の前の『惨事』を見つめる。
(――――目の前の事件…か)
ため息をつき、そして、
「…そういえば、何でこんなことなってんだ…?」
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅷ
その後の、上条とほかの面々の壮絶なる争いを書くといろんな意味で凄いことになるので、省略する。
とりあえず、今は昼。
そして、場所は、
「…俺、何でこんなとこいるんだ…?」
このごろ疑問系ばかりだな、と感じる上条。しかし、分からないものは分からないのだから仕方がない。
「私たち、天草式十字凄教以上の組織の中心人物が、なに言ってるんですか」
五和が、少しだけ呆れたような感じで言う。
「『上条勢力』ねぇ…実感が沸かない」
あの後、五和からいろいろと話を聞いた。
まず、五和がいきなり病室に殴りこんできた理由(上条を巡る、という意味ではない)。
今回の先頭のことを、学園都市はイギリス清教伝えたらしい。
すると、イギリス清教からの増援がよこされることになった。
その増援が、天草式十字凄教、元アニェーゼ部隊だそうだ。
そして、それらと今回の戦闘にかかわった面々で、作戦会議みたいなものを行うらしい。
「…へぇ」
適当に上条が相槌を打ったところで、とある男を見つけた。
確か名前は、
「…海原、光貴?」
8月31日に、美琴をデートに誘って上条を襲った人物だ。
その海原が、隣にいる神裂クラスに露出度の高い女と話している。そしてその女の隣には、一方通行(アクセラレータ)。
「…何なんだ、あいつら」
なんとも分かんない面子だ、と上条が思ったところで。
美琴がその女を思いっきり睨み付けているのを視界が捕らえた。
「…」
上条は、ぎこちなく視線をはずす。
あれはマズい。絶対マジだ。たまに見る美琴のマジの目だ。対一方通行(アクセラレータ)のときに見たあの目だ。
…この作戦会議とやらが終わるまで、あの女の人が消し炭になっていないことを上条は天に願った。
と、そこで。
『時間となりました』
いきなり、部屋一帯に声が響いた。
「…時間?」
「ええ。あれ、聞いてませんでした?」
それに上条は、無言で頷く。
てか、五和の話が本当だとしたら、一つの組織の中心人物にそんな重要なことを教えないってのはどういうことだ、と上条は思う。
そんな上条の思いを無視し、また声が響く。
『それでは、ただいまより対反乱因子作戦会議を行います』
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅸ
「反乱因子?」
上条が、そのワードに反応を表す。
『垣根聖督の戦力の超能力者(レベル5)、絶対能力者(レベル6)、および聖督本人を指します』
「ふーん…」
適当に受け流した上条、
だったのだが。
「…ハァッ!?」
大部分の科学サイドの面々が声を上げる。
「…?どうしたのよ?」
天草式教皇代理である、クワガタのような髪形をした建宮斎字が問う。
「ちょ、え!?もう一回、今の部分!!」
美琴が、かなりおかしい日本語で叫ぶ。
しかし、機械の方はそれで通じたようだ。
機械は、やはりまるで感情のない声で言う。
『垣根聖督の戦力の超能力者(レベル5)、絶対能力者(レベル6)、および聖督本人を指します』
もう一度、丸々同じことを発言した。
それに科学サイド側は、
「…レ、ベル…6?」
海原、一方通行(アクセラレータ)と話していた、裸の上半身に淡い色の布、制服であろうブレザーを着込んでミニスカート、というある種神裂クラスの女が言った。
「…絶対、能力者…」
その言葉に、一方通行(アクセラレータ)さえも驚きの表情を隠しきれていない。
「その情報は、確かなものなのでしょうか?と、ミサカは機械相手に質問を投げかけます」
妹達(シスターズ)を代表している、御坂妹が問いかける。
『この情報が正確なものである確率は、かなり高いとされます。前回の戦闘において、大能力者(レベル4)の空間移動者(テレポーター)、白井黒子が倒した超能力者(レベル5)の話だと、垣根聖督は絶対能力者(レベル6)を所持しているそうです。数は未明』
淡々とした声で言う機械。
「…神ならぬ身にて天上の意思にたどり着くもの」
打ち止め(ラストオーダー)が、機械のような合成音ではなく、人間らしい高低がある声で言った。
「何で、そんなことがわかるのかしら?相手には、精神系能力者もいるのよ。もしかしたら、あの子の頭にそんな事を無理矢理インプットさせただけかもしれないじゃない」
「それはありえないわね」
美琴が、ほんの少しの可能性を提示したところで、突然女の声にさえぎられる。
ほとんどの人間の視線が、会議室につながる扉に向かう。
その扉を開け放ち、中に入ってきたのは、
「ッ!心理掌握(メンタルアウト)!?」
「あら。そんな能力で呼ぶのではなく、ちゃんと名前で呼んで欲しいものね。超電磁砲(レールガン)」
常盤台中学の制服を着た、縦長の黒髪ストレート、楚々とした表情を浮かべる少女が言った。
「まさか、あんた勝手に黒子の記憶を――――」
「勝手とは人聞きの悪い。私は、学園都市上層部の方に協力したまでよ」
美琴を見下すように、心理掌握(メンタルアウト)、と呼ばれた彼女は視線を下げる。
「…なぁ。心理掌握(メンタルアウト)、って何だよ?」
上条が、小さな声で御坂妹に問う。
だが、それは本人に聞こえたらしい。
「!?あ、あなた、この『心理掌握(メンタルアウト)』こと長谷田鏡子を知らないと!?それでも学園都市に在住する生徒かしらッ!?」
凄い勢いで、鏡子とやらにまくし立てられた。
「…いや…知らないものは知らないけど」
引き気味に上条は言う。というか、常盤台の制服を着ている時点で、自分の方が立場上なんじゃね?
能力云々の前に人間として俺のほうが上じゃね?と上条は思うのだが、
「…超能力者(レベル5)第5位を、あんたは知らないの…?」
美琴に呆れた声で言われて、初めて上条は驚きの声を上げた。
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ
「…呆れた」
そう、鏡子が言う。
(いやってかっ!あれ、お嬢様ってみんなこんな口調なの?俺の知ってるお嬢様っていったら、美琴に白井、それにこの人しかいないんだけど…白井は口調は丁寧だけど、性格があれだし…あれ?マジでお嬢様ってこんなモン??)
と上条が、あまりのショックにどうでもいいことを考え始める。
「…あんたね。そんなことにショック受けんなら、あんたがあいつを倒したときのショックはどれくらいのモンなのよ?」
美琴が、一方通行(アクセラレータ)の方を首で指しながら言う。
「そういえば…ぶっちゃけ、超能力者(レベル5)っつわれてもな…」
と、いきなり平静を装う上条。
それに鏡子は、
「はぁ!?何ですのその反応は!…って、え…?まさか、あ、なたが、一方通行(アクセラレータ)を
…倒した、お方…?」
発言の途中あたりから、疑問文になった言葉。
それに上条は、
「あ、一方通行(アクセラレータ)。お前、倒された経験って俺にだけ?」
「ぶっ殺すぞ」
いきなり話を振られた一方通行(アクセラレータ)だが、もういつもどおりに戻っている。
「…まぁ、お前にだけ、って言えばそうなるか」
一方通行(アクセラレータ)が思案気な顔になり、言った。
「…?」
その、そういえば2,3回倒されたっけ?のような発言に首をかしげる上条。
一方通行(アクセラレータ)の能力は絶大だ。それこそ、上条のようなレイギュラーな能力を持ってても勝てるかどうか怪しい程度。正直、あのときの勝利は――――
「あ、あなたがあの『上条当麻』様ですかッ!!??」
「はいぅ!?」
思考の途中で、いきなり大声を出されてビクる上条。
発言の主である鏡子の方を振り返ると、
上条の不幸センサーがビビッと警戒態勢を知らせる警報を鳴らした。
つまり、
「あ…ッ!い、今までの無礼な言葉遣い、まことに申し訳ございませんっ!わ、わたくしとしたことが…」
なぜか一瞬で顔を赤らめ、上条に対して考えられない口調になった鏡子が写った。
それが意味することとは、
「インデックス!?私はこの件に関しては本当に関与――――?」
いつものようにインデックスが噛み付いてきて、美琴がビリビリを飛ばしてきて…という日常(不幸)を予想して右手を突き出し、左手で頭を庇う、という体制を一瞬で完成させた上条が、いつになく無反応な彼女たちに対して不信感をあらわにする。
「んー。これくらいなら、別に何の問題もないんだよ」
「てか、これくらいで問題になるんだったら、とっくに誰かとデキチャッてるわよ」
「…?」
上条をめぐる乙女関係を代表して二人の美少女が答える。そして、その乙女関係に混ざっている少女たちは、うんうんと頷いている。
一文目の前半部分については、上条には全く自覚がないのだが。
「な、なにをっ!?このわたくしを見てそんな発言が!?」
と、鏡子が二人の発言を受けて胸を張る。
上条が改めて鏡子をしげしげと眺めてみると、
足は結構美脚。スタイルもかなりのもの。顔は、まあまあ整っている。
普通にモテるくらいかなー、と適当に上条は予想する。
「どっ、どうですか上条様ッ!?」
そんな上条の反応を見て、鏡子がいきなり接近してくる。
「いや…どう、と言われても…」
苦笑い、愛想笑いが混じった笑みを浮かべ、鏡子から顔を背ける上条。
「ほら。あんたには到底手の届かない男なのよ、そいつは」
「でも本人には自覚がないんだけどね。…自覚があったらあったでそれは怖いんだよ」
予想してましたー、と二人の少女が言う。
「な、何故っ!?何故わたくしの百戦錬磨の恋愛テクが通用しないんですのッ!?」
「百戦錬磨ぁ?そんなんじゃ通用しないわよ」
美琴が、かわいそうなものを見るような目で鏡子を眺める。
…
「あ、あのー?これは、いったい何の…?」
と、今までの不可思議現象(ドッキリ)を見てきた上条が言う。
「ほーら。自覚がないんですよ」
今度は、隣に座っている五和が苦笑混じりに言った。
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅰ
「だ、だから何の話を…」
五和に言葉を返しながらも、『ドッキリ大成功!』と赤字で書かれているであろうプレートを探す上条。
「…な、ならばわたくしの能力でッ!」
「はいはいー。当麻、ずっと頭に右手当ててなさい」
どうでもいい、とでも言いたげにざっくばらんに言葉を放つ美琴。
「え?あ、はい??」
いまいち理解しがたいが、とりあえずそれにしたがってみる上条。
「何を?そんな手など、わたくしの能力の前には壁にもなりませんのよ」
フン、と鼻で笑う鏡子。
「どうかしらね?こいつが、どうやって学園都市最強を倒したと思う?」
鏡子の行動を受け、嘲笑するような表情になる美琴。
「いや、あの。俺、さっきからずっと疎外感を感じちゃってるのですが」
上条が、不安げに美琴に説明を求める。
だが、その説明が来る前に。
バギン!
上条の頭の辺りから、幻想殺し(イマジンブレイカー)が反応したときになる音がした。
「え?」
それに真っ先に声を上げたのは、鏡子だった。上条には、その音を聞いた瞬間、全てが理解できたからだ。
「何ですか、その音は…まぁ、とりあえず演算は完璧ですから、もう上条様はわたくしのものですがっッ!」
そういい、高笑いする鏡子。
「あー、ちょっとそこそこ」
やはり、かわいそうなものを見るような目で鏡子を見ていた美琴が言う。
「何ですか?今更になって帰してくれ、なんて聞きつけませんのよ。その前に、別にそういう関係であった経歴は無さそうですがね!」
同じく高笑いする鏡子。
それに、もはや何もいえなくなった美琴が、
「…あんたの口から言ってやりなさい」
上条を、どうしようもない表情で見ていった。
「あの…何が起こったのかは理解できてんだけど、何で起こったのか理解できないんだけど?」
「それはそれで逆に良いんです、と、ミサカは唐突に会話に混ざり言います」
上条の発言に即答する、御坂妹。
「…とりあえず、こっちか」
なんか、ものすごく重大なことを見落としているような気もするが、とりあえず鏡子の方に向き直る。
「あ、あのー…お取り込み中申し訳ございませんが」
もはや高笑いから、黒子の本質を表したときのような表情になっていた鏡子の前に立ち、言う。
「多分、その『心理掌握(メンタルアウト)』っていうの、効いてないよ」
その上条の発言を聞いた瞬間、鏡子は、
「ッ!?な、何故!?制御下にある上条様から、何故そんな言葉がッ!?」
なんか、急に取り乱す鏡子。
「あー、俺の右手。幻想殺し(イマジンブレイカー)ってんだけど、これが触れた全ての『異能の力』は問答無用で消去されるから」
「…」
その言葉に、反応できない鏡子。
学園都市最強を倒した男。
そんな人間から放たれる言葉には、信憑性があった。だから鏡子は黙ったのだ。
「…いろんな意味で、あんたには無理よ?」
美琴が、鏡子に止めを刺すように言う。
それに鏡子は、
「…ってか、何やってんだよ?」
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅱ
「んあ?」
と、上条は予想していなかった声に振り向く。
(…待てよ。またさっきの展開とおんなじ、なんてことはない…よな?普通に男っぽかったし…
ッ!?ま、まずい…白井のことを思い出してしまった…)
美琴の苦悩を、本格的に理解できるんじゃないか、と感じる上条。
だがしかし、現実は別にそう危惧すべきことは起こっていなかった。
つまり、
「へぇ。あんたが『一方通行(アクセラレータ)』を潰した男、ってか?」
「いやっ!今度はそっち!?学園都市最強を倒した男を倒せば俺が学園都市最強だぁぁぁぁぁっ!!!
って思考の持ち主さんですかッ!!?」
そういうことである。
…実際問題、そんなことにはなっていないのだが、上条の脳はすでにショートしている。
「…?学園都市最強を倒したところで、じゃあそいつが最強ね、なんていくはずねぇだろ」
あっさりかえされる上条。
それに、え?てことは、なんかいきなりバトろうぜ!な展開は無しッ!?と、あらぬことを想像していた上条の表情が瞬間的に明るくなる。
「…チッ」
だが、とある白髪の最強少年のあからさまな舌打ちにより、上条の笑顔は凍りつく。
「おおー、いるとは聞いていたけど…なんかこれは面倒くさい気がするぞ?」
と、一方通行(アクセラレータ)を見つけた少年が苦笑いとともに言う。
「…長点上機学園2年、葛城妖夜」
「おお、学園都市最強に覚えられてるとは。なんか光栄だなあ」
妖夜、とか言われた少年は、一方通行(アクセラレータ)に笑みを返す。
「馬鹿が。知らない方がおかしいだろォが」
「まぁ、そういうことだな」
「…はい?」
と、二人の会話に何か不穏なものを感じてしまう上条。
「超能力者(レベル5)、『肉体変化(メタモルフォーゼ)』さンよォ」
「はいでましたよなんかよく分からんフラグッ!?俺はそんなもの全然希望してないんだけどッ!!」
「…?何言ってんだ…??」
妖夜なる者が、不思議そうに聞き返す。
「…なんというか…とりあえず」
上条が、息を吸い込み、
「不幸なんですわたし」
「どこら辺が不幸なんですか…?」
隣の五和が、なぜか頭を抱えてため息をつく。
「もはや口癖なっているそうですが…一般人から見ればよほどの幸運なのでは?」
ものすごい幸運を持って生まれた、『聖人』たる神裂が言う。
「…どこをどう見れば?」
「どんな角度から見ても、よ」
美琴が、やはり少し疲れたような表情で言ってくる。
「いやあのですね。わたくしは1週間に100回くらい殺されかけた経験があるきがするのですが」
上条が言っているのは、英国での騒乱、それに続いた対フィアンマ戦のことだ。
それに、インデックスがつっつきを入れた。
「それはただ単にとうまがでしゃばるからなんだよ」
「でしゃばらなければならない理由の大半のあなたが言うことじゃありませんよインデックスさん」
冷静なコメントを返す上条。
「…それにしても、本当に『不幸だ』と感じてらっしゃるのですか?」
部屋の隅っこでなんか錯乱しかけていた鏡子が、平静を取り戻しつつ言う。
「…えと、あの。全員そろって俺の不幸全否定ですか?」
上条が、不幸の原因であるらしい右手を見つつ、言う。
「さっきから話が全然掴めねぇんだけど…とりあえず、『こっち』の方を進めようぜ?」
妖夜が、自分の後ろを振り返りながら言う。
「…まだ、なんかあんのか…?」
上条が、やはり自分は不幸だ、と再確認しながら言った。
「ん?話は終わったのか?俺は他人の色恋沙汰とかに首を突っ込むほど曲がってないぞ」
唐突に、芯が通っているような声が響く。
「超能力者(レベル5)、『念動砲弾(アタッククラッシュ)』こと削板軍覇だ」
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅲ
「…」
それに、上条は、
「御坂を皮切りに…なんでこう次々と超能力者(レベル5)とあってしまうんだ俺…まさか、全員妹達(シスターズ)関連なのかおいッ!?」
もうあまりの自分の不幸さに、勝手に人にその不幸の原因を作ってしまう。
「ちょ、なにそれ!?確かに、わたし、一方通行(アクセラレータ)はそうだけど!ほかは関係ないじゃないッ!!」
それに、もちろん美琴は反論する。
しかし、妹達(シスターズ)ではなく美琴関連なら、一方通行(アクセラレータ)はさながら、心理掌握(メンタルアウト)とはかなりの関係を持ち、肉体変化(メタモルフォーゼ)とは大覇星祭のとき一戦交え、念動砲弾(アタッククラッシュ)は美琴の知らないところで妹達(シスターズ)とほんの少し関わりを持っている。
つまり、今この場に集っている超能力者(レベル5)は全て美琴に関わっている、と言える。
別にここがそれを認識しているわけではないのだが、この場にいる美琴を除いた超能力者(レベル5)+上条が、
「…ハァ」
「なっ…何よそのため息!?」
美琴がやはり突っかかってくる。
が、そこで、
「とりあえず、話を進めてもよろしいでしょうか」
突然、声が響く。
「戦闘可能な超能力者(レベル5)が集い、紹介も済みましたので」
「そういえば…これって、作戦会議、なんだったっけ?」
上条が、機械の声に反応して言う。
「はい。まだそろっていないメンバーもいますが、時間がかかるとのことですので」
そこで機械は、一度音を切って少し間を置く。
「それでは、会議を進めてもよろしいでしょうか?」
機械が問いかけるが、返事をするものなど一人もいない…わけではなく、打ち止め(ラストオーダー)が『オーケーだよー』とか意味が分からないはずなのに言っていた。
機械は打ち止め(ラストオーダー)の声を無視して言う。
「それでは、改めて…ただ今より、対反乱因子作戦会議を始めさせてもらいます」
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅳ
「ではまず、事の発端、および昨日の戦闘について説明させてもらいます」
機械が、無駄に丁寧な言葉でみなに伝える。
「今回の事件――――今後、反乱事件、と呼ばせてもらいます――――の発端者は、垣根聖督。垣根聖督は、学園都市第2位、垣根帝督…『未現物質(ダークマター)』の父親です。垣根帝督は、『ピンセット』を得るために起こした事件で、学園都市第1位、『一方通行(アクセラレータ)』と遭遇、戦闘を行いました。結果、垣根帝督は敗北。さらに、一方通行(アクセラレータ)による過度な攻撃により、死亡寸前まで追い詰められます。しかし、学園都市統括理事長の指示により、その後脳や心臓、肉片などを回収され、今は3つの容器にそれぞれが収められており、『生存』しています」
会話の途中から出てきた一方通行(アクセラレータ)は、特に表情を変えることなく聞いている。
隣にいる海原…ではなく、アステカの魔術師、だと思われる男や、露出度の高い女子高生などは少し表情を変化させているが、上条には理由が分からない。
「垣根聖督は、どうにかしてその情報を得たらしいのです。そして、ただ単に『生存』しているだけの息子を、元の生活に戻すために今回の『反乱事件』を起こしました」
機械は、「…だと思う」、「…だそうだ」などといった不確定な表現はしなかった。決定事項をただ冷静に報告しているのだ。
「今回の『反乱事件』の目的は、先程述べたとおり、垣根帝督を元に戻すこと。しかし、今の垣根帝督は、学園都市が作った並の核シェルターとは比べ物にならない場所で『生存』しています。そこを突破するためには、相当の戦闘力が必要とされます。ここを単純に『突破』するだけなら、超能力者(レベル5)が一人いれば十分ですが…学園都市は、それを良しとしない。そんな事をすれば自分を潰しにかかるだろう――――そう考えた垣根聖督は、『反乱因子』の作成に取り掛かったのです」
一気に言っていく機械。
「反乱因子、とは?」
そこで、神裂が疑問を口にする。
「まことに申し訳ございませんが、質問はわたしの説明の後、受け付けます。それまでは、お静かに聴いていてください」
やはり無駄に丁寧な言葉で、神裂の質問を跳ね除ける機械。
「では、話を続けさせてもらいます。
先程述べた『反乱因子』は、中途半端な力では学園都市と対立することは出来ません。そして、垣根聖督は垣根帝督の父親であるとともに、学園都市に在住する科学者でもあります」
「へぇ。そりゃァ、結構なレアじゃねェのか?」
一方通行(アクセラレータ)が口を挟んだが、誰にも反応されなかった。
「彼が担当する専攻は、『AIM拡散力場』。もちろん、息子の『未現物質(ダークマター)』のAIM拡散力場も研究対象でした。垣根聖督は、息子の能力だけでなく、様々な能力のAIM拡散力場も研究していました。彼はその研究成果をもとに、人工的に能力者を作り上げていました。これは反乱事件の前からのことです」
「能力者を…人工的に作成、ですって…!?」
美琴が、異様に反応する。似たような遭遇にある彼女だからだろうが、当の『妹達(シスターズ)』は特に反応していなかった。
「反乱事件前に作り上げた能力者は、合計47名。作り上げたものの、無能力者(レベル0)だった者は89名。能力者のうち、低能力者(レベル1)認定者は13名。異能力者(レベル2)判定は18名。9人は強能力者(レベル3)。大能力者(レベル4)は7人作り上げていました。超能力者(レベル5)、絶対能力者(レベル6)はともに0です。しかし、垣根帝督の敗北に伴い、垣根聖督に一度送られた垣根帝督から、本人のAIM拡散力場を研究に取り入れた垣根聖督は、その研究レベルを格段に増すことに成功。
その後に作られた能力者のレベルも跳ね上がり、強能力者(レベル3)が13人、大能力者(レベル4)が23人、超能力者(レベル5)が8人です」
「…超能力者(レベル5)を、8人も、ねぇ…」
あまり実感が沸かない上条は、とりあえず『凄いな』と思った。
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅴ
「はぁっ!!?」
なので上条は、突然響いた大声…いや、もはや叫びに相当驚いた。
その叫びは、高位能力者たちから発せられたものだった。
「って!何をそんなに驚いてんだよ!?」
妙な叫びのせいで、自然と声のトーンが高くなっている上条。
しかし、彼らはそんな上条お構い無しに勝手に話を進めていく。
「そういやァ…どうやって超能力者(レベル5)を8人も用意したのかは気になっていたが…」
一方通行(アクセラレータ)が、机からずり落ちた腕を直し、再び頬杖をつきながら言う。
「まさか…『造る』、なんて方法で用意したなんて…」
美琴は、もはや表情を浮かべていない。彼女の無表情なんて見たことの無かった上条は、少し引いてしまう。
「実際、どのようにして造ったのか、が問題ではなくて?」
割と平静を保っている鏡子が言う。実際は、上条に自分の能力――――心理掌握(メンタルアウト)と、自称百戦錬磨の恋愛テク――――が聞かなかったときのショックが大きすぎたせいで、ショックが緩和されているだけである。
「学園都市第2位のAIM拡散力場…例えそんなものを用いたとしても、超能力者(レベル5)はおろか、大能力者(レベル4)も造り上げることは出来ないと思うが…」
妖夜が、パニックしかけた脳を落ち着かせつつ言った。
「そこら辺は、科学者さんたちにしか理解できない方程式でもあんだろう?」
思いっきり驚いた表情のままなのに、冷静な言葉を投げかける軍覇。結構シュールに見える。
「それでも…超能力者(レベル5)は造れないんじゃ…」
一方通行(アクセラレータ)の隣に座っている、ブレザーな女子高生が無理に冷静を保ちながら言う。
しかし、その声の後に続くように、誰となく言った。
「…超能力者(レベル5)を、人工的に『造った』なら…絶対能力者(レベル6)は…?」
それは、不安を言葉にしているようにも聞こえた。
その言葉を無視し、機械は話を続け始める。
「さらに、垣根聖督は絶対能力者(レベル6)を所持している模様」
「…チッ。予想はしていたが…」
一方通行(アクセラレータ)が、唐突に首筋の電極のスイッチを入れ、言う。
回りの者は当然警戒態勢を一斉に敷くのだが、一方通行(アクセラレータ)はそんなものにかまわずに目を閉じ、何かブツブツ呟いている。
「何かの演算をしているみたいだね、ってミサカはミサカはミサカネットワークが稼動したのを感知したのを感じながら言ってみる」
と、御坂妹の隣に居る打ち止め(ラストオーダー)が、机から身を乗り出しながら言った。彼女は、あまりショックを受けていないようだ。
「…しかし、超能力者(レベル5)8人、絶対能力者(レベル6)も何人か所持、ねぇ…」
美琴が、半分ため息をつきながら言う。
「戦闘力にすれば、超能力者(レベル5)だけでも軍隊8つ分。さらに応用性、コンビネーションなども含むとするならば、少なくとも軍隊12隊分を同時に相手できると考えても良いかと、ミサカはネットワークを介しながら言います」
御坂妹が、打ち止め(ラストオーダー)を椅子に座らせながら、前を見ずに独り言のように言った。
「それに加え、『絶対能力者(レベル6)』…」
妹達(シスターズ)を何か幻想でも見ているような目で見つめている鏡子が、気を取り直しつつ言った。
「未知数の戦力…少なくとも、軍隊3つ分くらいなら無傷で潰せるんじゃねぇのか?」
妖夜が、もはや少し笑いながら言う。おそらく真剣なのだろうが…
「軍隊3つを無傷、でか…根性のかけらも見えんな」
軍覇が、表情を戻しながら言った。
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅵ
実はこの軍覇、オッレルスに敗れて以来、訓練を死ぬほど積んできていた。その訓練の成果、口調や性格も少し変わっていたのだが…やはり根っこは変わっていないらしい。
「話を続けさせてもらいます」
機械が、話に割り込んでいった。
「絶対能力者(レベル6)の戦闘能力ですが…やはり不明。ですが、単独で軍隊を5つ程度なら捨て身で潰せる、くらいの者、と予想できます」
やはり、機械は冷静な音声で喋っている。
「…ハッ。ふざけやがって」
上条が、半ば呆れ気味に言った。
「ンでェ?俺らは、そンなモンと楽しく殺し合ッてりゃいいのかァ?」
一方通行(アクセラレータ)が、少し楽しげな表情を浮かべながら言う。
「まことに申し訳ございませんが――――」
「チッ。それならいい。さっさと進めやがれ」
一方通行(アクセラレータ)が、機械の受け答えを予想したのか、忌々しそうにつぶやく。
「垣根聖督は、これほどの戦力を持っても強行突破をしようとしませんでした。まだ、学園都市には届かない…そう判断したのでしょう。そして、その学園都市を出し抜くために、まずは斥候として超能力者(レベル5)をよこした――――昨日の戦闘は、つまりは情報採取のためのものです」
「超能力者(レベル5)を斥候扱い…良い身分ですこと」
もう殆ど興味無さそうにしている鏡子。まぁ、そうなっても仕方がないといえる。
「ってことは、昨日のはお膳立て…ってことかい?」
それまで、全くの発言をしていなかったステイルが、唐突に発言する。
「はい。そうなります」
珍しく、機械が質問に答えた。そのときに説明していて、簡潔に答えられる質問だったからだろうか…?
「どんだけ、だよ…」
ステイルとは、おそらく違う意味で発言していなかった浜面が、ポツリとつぶやいた。なぜかその声は、浜面自身は部屋の墨にいるのに部屋全体に響き渡る。
「続けます」
機械的な音が、浜面の言葉をかき消す。
「昨日の戦闘で、おそらく戦闘不能に陥った超能力者(レベル5)は4人。ほかの超能力者(レベル5)は無傷です。その無傷の超能力者(レベル5)のうち、一人は精神系能力者であることが判明。能力名は、『精神操作(メンタルコントロール)』…対象を取った人物の精神を、ほとんど自在に操作できる能力、と言っていましたが、真実かは不明。その能力は、『一方通行(アクセラレータ)』の能力である程度『反射』できるものであることが判明しています。その他の超能力者(レベル5)の能力などに関しては、全く未判明です」
「待て」
そこで、一方通行(アクセラレータ)がストップをかける。
「あの女の能力…精神操作(メンタルコントロール)は、一度本人の精神に干渉し、そこから干渉できる精神を拡大させていき、さらに拡大した行動範囲内にて、相手の精神を自在に操る…ざっとこンな能力だ」
一方通行(アクセラレータ)が、一気にまくし立てるようにいった。
「根拠はおありでしょうか?」
機械が、単なる質問時とは異なる応えを示す。
「こっちは学園都市第1位の能力者だぞ。しかも、そいつの能力を一度喰らってンだ。これを信じねェってのほうが、おかしいンじゃねェか?」
一方通行(アクセラレータ)が、ふんと鼻をならして言った。
機械は数秒黙り込み、そして、
「信憑性は90%を越すものと判断。よって、一方通行(アクセラレータ)の意見を正式なものとして取り入れます」
機械が言った。
そのまま、機械は続ける。
「話を戻します。超能力者(レベル5)の戦闘能力などについては、先程述べたとおりです。絶対能力者(レベル6)については、全く予想できません。その能力は、今まで発祥し得なかった能力である、ということは予想できます」
「発祥し得なかった能力、か…」
上条は、自分の右手を見る。
おそらく、そんな能力でもあっさりと打ち消してしまうであろう、自分の力を。
「垣根聖督自身は、単なる人間です。能力者でもありません。よって、垣根聖督本人は戦力のうちに計算されておりません。結果として、『反乱因子』の戦闘能力は、最低で小国一国をつぶせる程度のものであり、最高でローマ正教の3分の2を潰せるもの、と判断されます」
「…ローマ正教…」
神裂が、一人つぶやく。
「3分の2をつぶせる1部隊、ね…」
ステイルが、煙草の煙とともに吐息を漏らす。
「では次に、昨日の戦闘について、ご本人たちから説明をもらいます」
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅶ
「はい?」
予想できなかった機械の言葉に、思わずそんな言葉を漏らす上条。
「われわれは今回、『反乱因子』を破らなければ学園都市が多大な被害を受ける、と予想しました。よって今回『反乱因子』と戦闘を行ってもらうことになったのは、『上条勢力』の主要人物と、科学サイドの主要能力者たち、ということに決定されました。なので、互いに戦闘を振り返ることにより、今後の戦闘を有利に進めることができるものと思われますので、一つ一つの戦闘を振り返らせてもらいます。その中でも、今までなしえなかった技などを繰り出した人物もいますので、その点についてご本人から説明をもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」
前半が説明、後半が頼みになっている機械の言葉。
それに、
「決定しました、だァ?」
一方通行(アクセラレータ)が、思いっきり不満の表情を浮かべて言う。
「何勝手に決めてんだクソ野郎ども。俺のことは俺が決めさせてもらうぞ」
「わたしもね。学園都市がどうなろうと知ったこっちゃないわよ」
隣の女も、薄ら笑いを浮かべながら言った。
ほかの面々も、大体同じ感想らしい。
しかし、機械はその反論を、たった一言で打ちのめした。
「あなたたちが、学園都市自体を敵に回してでも今回の戦闘に協力しない、というならば…こちらも策を練らせてもらいますが」
「…」
一同が、いっせいに黙り込む。
「協力してもらえるでしょうか?」
機械が、やはり単調な音で言った。しかし、その音にはなぜか有無を言わせない強さがあった。
そして、やはり誰も何も言えなかった。
「協力してもらえる、と受け取ってもよろしいでしょうか?」
機械が、確認を取る。
「…俺は、別になんだって良いけどな」
上条が、無神経そうに言った。
「はン。このごろ鈍ってきたからなァ、能力の方は。…勝手にしやがれ」
一方通行(アクセラレータ)は、適当な調子で言う。
ほかの面々も、さっきと同じく同じ意見らしい。
「ご協力、感謝いたします」
全く変わらず、無感情な声で言う機械。
「では、まずは――――」
と、いうことで。
大体の戦闘は、おおよそ理解できるものだからほとんどはスルーしてきた『仲間』たち。
と、そこで、
「…ん?おいステイル、これなんだ?」
上条が、超能力者(レベル5)の発火能力者(パイロキネシスト)と戦っているステイルを見て言う。
「?…ああ、このときか」
このとき、というのはステイルの身体能力が異様に上がっていたときである(2章 Ⅱ×Ⅹ Ⅶ時)。
そのときの映像を見たステイルは、
「あれは簡単なものだよ。自分の足の裏あたりに小さな炎剣を作り出し、即座に爆破させる。その爆風をうまく足の裏に集中させれば、一気に加速が出来る、ってわけさ。まぁ、扱いが難しいから普段はあんまり使わなかったものだけど」
面倒くさそうに言うステイル。
普段はあまり使わない――――その発言から見るに、その発火能力者(パイロキネシスト)はその技を使うに値する者だったのだろう。
「そんなことが出来たんですか」
感心したように言う神裂。
「…どうやっても、聖人様の身体能力には全く及ばないけどね」
苦笑いしながら言うステイル。
その後も戦闘の様子を見ていたわけだが、取立て不思議なところはなかったようだ。
あるとすれば、
「全然、浜面と滝壺が移ってないんだけど」
「ぐッ!?こ、こっちもこっちで忙しかったんだッ!」
全力で言い訳する浜面。
「忙しかったって…まさか…」
「ぜってー違う!上条、今お前が考えてるようなことはぜってーしてねぇと思うぞっ!したかったけどな!!」
上条のいかがわしそうな表情を見た浜面が、否定&肯定、という究極の答えを導き出す。
「あー、そういえば」
またぎゃあぎゃあ騒いでいる浜面を無視し、美琴が言う。
「戦闘…じゃないと思うんだけど、私たちの身体が浮いた『あれ』はなんだったわけよ?」
「…あ、そんなのもあったなぁ?」
上条が、今ようやく思い出した、という顔になる。
「身体が浮いた…?」
不思議そうな顔をする建宮。
「あー、そりゃ多分俺だ」
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅷ
適当に言う一方通行(アクセラレータ)。
「…で?その理由と、方法は?」
美琴が、一方通行(アクセラレータ)をにらみつけながら言った。
「理由は言うまでもねェだろ。超電磁砲(レールガン)の方は、今後戦力になりそうだったからなァ。それに、俺自身の強化にもつながりそうだったから、生かしておいた。上条の方は…」
そこまで言った一方通行(アクセラレータ)が、極悪な笑みを浮かべて、
「…こいつを殺すのは、俺だけの特権だ」
「やめましょうよ一方通行(アクセラレータ)さんっ!いい加減、倒される→怒り→戦闘、の無限ループから脱しませんか!?」
「ンじゃァ、さっさと俺に殺されろ」
「んな要求のめるかぁぁ!!」
当然の反論をする上条。
だが、一方通行(アクセラレータ)は気にも留めていないらしく、
「そういうことだ。こいつらに火の粉が降りかかったら、結果として俺のマイナスにつながる可能性があった。だからわざわざ炎から遠ざけてやったンだよ。なンか文句あっか」
そういい、無関心そうに目をそむける一方通行(アクセラレータ)。
そこに、また美琴が質問する。
「動機は分かった。方法はどうやったのよ」
「…チッ。めんどっちィな…あの時、助けるんじゃなかったか…?」
一方通行(アクセラレータ)は、真剣に考え込む前に、美琴が自分をにらんでいることに気づいたようで、ため息をついてから話し始める。
「空気のベクトルを操作した」
「具体的に言いなさい」
簡潔に説明しようとしたのか、それしか言わなかった一方通行(アクセラレータ)にやはり噛み付く美琴。
「…ベクトル操作した空気を、テメェらのところまで送っただけだ。その空気は俺の干渉を受けてるから、自在に操れた。こいつの右手に触れないようにするまで、繊細にな」
そこまで言うと、もう文句はねェだろ、と小さく言い、腕を組んで目を閉じる一方通行(アクセラレータ)。
美琴の方もそれで納得したのか、何も言わなかった。
「…あのー。じゃあ、『あの声』もお前のものでいいのか?」
と、そこに上条がさらに追撃をかける。
「…」
心底忌々しそうな目を上条に向ける一方通行(アクセラレータ)だったが、
「そうだ」
その一言だけ言い、また同じように目を閉じてしまった。
「では、戦闘報告についてはこれでよろしいでしょうか?」
なんか機械が勝手に、『戦闘報告』なんて物騒な呼び方をしている。実際そうなのだろうが。
無言の会議室の中、機械は次の音声を発する。
「それでは、次は今後戦闘に協力してもらう方々の紹介に移らせてもらいます」
Ⅴ
幻想(ゆめ)を見る。
それは、
とても哀しい現実(ゆめ)だった。
全てが壊れて。
全てが無くなって。
全てが遠ざかって。
そして、
自分は、
その全てを起こして。
全てを失った。
何もかも。
仲間も。愛も。友情も。自分も。体も。意識も。心も。
幻想も。
力も。
そして、
世界は、
終焉を迎えた。
Ⅵ
「…はえ?」
思わず、上条は声を上げる。
目を開けると、移ったのは見慣れた天井。
そして、首を回すと。
移ったのは、見慣れた――――
ギュゴォッ!
と、上条は首を瞬間的に元に戻す。
そして、冷静になってみると、その視線の先には、
歯をギラつかせたインデックスが。
「…あ、あのー?」
上条が、防御態勢をとりつつ言う。
「わ、わたくしめは、注射をうたれて寝ていたわけでして…
つまり、この不可解な現象にわたくしめは関与していないわけでして…
そして、あなたのお怒りも緩和されないわけでして?」
最後だけ、ちょっと理解不能な文章になった。
だが、それでも目の前のシスターは、コクンと頷く。
そして、
「と――――う―――――ま―――――ぁ!!!!」
そう叫び、インデックスが飛びかか――――
「…?」
ろうとした時。
上条の横で、『何か』が動いた。
それは、この不幸の根源。
つまり、常盤台中学のエースで、超能力者(レベル5)の第3位で、つまり、
「…って!ちょっとあんたねぇッ!?」
御坂美琴だった。
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅶ
なぜか、さっきまで上条と同じベッドですやすやとかわいい寝息をたてて寝ていた少女だ。
そんな可憐な美少女に、上条は思わず言った。
「ってか!全てお前のせいだからっ!?まずこの不可解な現象がおきた理由を説ぐはぁッ!?」
発言途中でインデックスに頭を噛み付かれる上条。
「え、あ、え…?私??」
途中までの発言に、戸惑う美琴。
その仕草が、なんともいえないほどかわいい。だから言った。
「すみませんっ!?なんでもいいからこの怒りボルテージMAXのシスターさんを引き剥がしてもらえませんでしょうかマジで!!」
そう叫んだ。
だって、生命の危機が現在進行形で訪れているのだ。そんな状況下で、かわいいとか可憐だとかもう関係ないよねーッ!!と上条は勝手に決め付ける。
その叫びに美琴は、
「言われなくともッ!」
と、なぜかやる気満々な声で答え、インデックスを剥がし始める。だがしかし、インデックスのあごの力が異様に強く、引き剥がせないどころかインデックスの顎が少し動いて更なる激痛が上条の体を支配する。
「-^~っ:ぉ。・っ!?」
理解できるはずがない言語を放つ上条。
それを見た美琴は、
「え?逆効果!?」
とっさに力を抜く。だが、体にかかる力がなくなったためか、やっぱりインデックスの噛み付きレベルが一つ上がってしまう。
もはや声も出せない上条。
「ちょ、もうッ!」
そう美琴が言い、少し強めの電流をインデックスに浴びせる。インデックスが少しふらっと揺れ、噛み付きから解放された上条が叫ぶ。
「だぁ!俺は今回の戦いであんまり怪我しなくて優秀だったなぁー、なんて思ったら次はこれかよっ!?
てか、俺の怪我の大半はお前のせいな気がするぞインデックス!」
「な、なにを言うのかなとうま!?そもそも、とうまが無駄な事件に首を突っ込むからいけないんだよッ!」
「の前に、あたしへの感謝の気持ちはないわけなの!?」
上条とインデックスの声量に負けじと、美琴も声のボリュームを上げる。
「あ、ありがとな」
適当に言う上条。というか、この惨事はお前のせいじゃねぇの?といいたかったところなのだが。
そして、その言葉を言った次の瞬間。
「何故お姉様が感謝の言葉をかけられ、何故私にはそれがないのですか?と、ミサカは暗に『私にも言え』と強制します」
「どういう理論だよそれ!?ってか、何もしてないのに感謝の言葉をかけられてもうれしくないだろ!」
「いいえぜんぜんっ!全く持ってうれしい限りですがっ!」
と、御坂妹に続いて病室の扉をぶち壊すような勢いで入ってくる少女。
「五和!?なんでここに?」
「説明は後回し!とりあえず今はッ!」
「なにが、とりあえず今は、よ!新参者は引っ込んでなさい!!」
「それだったら、短髪も新参者かも!」
「ふふ。あんたは知らないだろうけど、実は私たちは前から関係があったのよ」
「確かにそうだけど!事実だけど受け取れる意味がちょっとヤバい気がするのですがっ!?」
なんかヒートアップしていく彼女たちの会話に一声適当に入れ、上条はとりあえず会話から外れる。
(…さっきの夢…は?)
確か、起きる前までやけに現実的な夢を見ていた…気がする。
しかし、ぜんぜん内容が思い出せない。分かるのは、とてつもなく悪い夢。さっきみたいな展開でもいいから、何でもいいからその夢から覚めたい、と思ってしまうほどの。
確か、
自分が笑っていて、
周りの人が泣いていて、
周りの人が泣きながら俺に襲い掛かってきて、
そして自分は―――――
(…だめだ。なんか思い出せねぇ)
上条は頭に手を当てかけ、その手を引っ込める。
(まぁ、思い出せない夢より)
と、上条は目の前の『惨事』を見つめる。
(――――目の前の事件…か)
ため息をつき、そして、
「…そういえば、何でこんなことなってんだ…?」
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅷ
その後の、上条とほかの面々の壮絶なる争いを書くといろんな意味で凄いことになるので、省略する。
とりあえず、今は昼。
そして、場所は、
「…俺、何でこんなとこいるんだ…?」
このごろ疑問系ばかりだな、と感じる上条。しかし、分からないものは分からないのだから仕方がない。
「私たち、天草式十字凄教以上の組織の中心人物が、なに言ってるんですか」
五和が、少しだけ呆れたような感じで言う。
「『上条勢力』ねぇ…実感が沸かない」
あの後、五和からいろいろと話を聞いた。
まず、五和がいきなり病室に殴りこんできた理由(上条を巡る、という意味ではない)。
今回の先頭のことを、学園都市はイギリス清教伝えたらしい。
すると、イギリス清教からの増援がよこされることになった。
その増援が、天草式十字凄教、元アニェーゼ部隊だそうだ。
そして、それらと今回の戦闘にかかわった面々で、作戦会議みたいなものを行うらしい。
「…へぇ」
適当に上条が相槌を打ったところで、とある男を見つけた。
確か名前は、
「…海原、光貴?」
8月31日に、美琴をデートに誘って上条を襲った人物だ。
その海原が、隣にいる神裂クラスに露出度の高い女と話している。そしてその女の隣には、一方通行(アクセラレータ)。
「…何なんだ、あいつら」
なんとも分かんない面子だ、と上条が思ったところで。
美琴がその女を思いっきり睨み付けているのを視界が捕らえた。
「…」
上条は、ぎこちなく視線をはずす。
あれはマズい。絶対マジだ。たまに見る美琴のマジの目だ。対一方通行(アクセラレータ)のときに見たあの目だ。
…この作戦会議とやらが終わるまで、あの女の人が消し炭になっていないことを上条は天に願った。
と、そこで。
『時間となりました』
いきなり、部屋一帯に声が響いた。
「…時間?」
「ええ。あれ、聞いてませんでした?」
それに上条は、無言で頷く。
てか、五和の話が本当だとしたら、一つの組織の中心人物にそんな重要なことを教えないってのはどういうことだ、と上条は思う。
そんな上条の思いを無視し、また声が響く。
『それでは、ただいまより対反乱因子作戦会議を行います』
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅸ
「反乱因子?」
上条が、そのワードに反応を表す。
『垣根聖督の戦力の超能力者(レベル5)、絶対能力者(レベル6)、および聖督本人を指します』
「ふーん…」
適当に受け流した上条、
だったのだが。
「…ハァッ!?」
大部分の科学サイドの面々が声を上げる。
「…?どうしたのよ?」
天草式教皇代理である、クワガタのような髪形をした建宮斎字が問う。
「ちょ、え!?もう一回、今の部分!!」
美琴が、かなりおかしい日本語で叫ぶ。
しかし、機械の方はそれで通じたようだ。
機械は、やはりまるで感情のない声で言う。
『垣根聖督の戦力の超能力者(レベル5)、絶対能力者(レベル6)、および聖督本人を指します』
もう一度、丸々同じことを発言した。
それに科学サイド側は、
「…レ、ベル…6?」
海原、一方通行(アクセラレータ)と話していた、裸の上半身に淡い色の布、制服であろうブレザーを着込んでミニスカート、というある種神裂クラスの女が言った。
「…絶対、能力者…」
その言葉に、一方通行(アクセラレータ)さえも驚きの表情を隠しきれていない。
「その情報は、確かなものなのでしょうか?と、ミサカは機械相手に質問を投げかけます」
妹達(シスターズ)を代表している、御坂妹が問いかける。
『この情報が正確なものである確率は、かなり高いとされます。前回の戦闘において、大能力者(レベル4)の空間移動者(テレポーター)、白井黒子が倒した超能力者(レベル5)の話だと、垣根聖督は絶対能力者(レベル6)を所持しているそうです。数は未明』
淡々とした声で言う機械。
「…神ならぬ身にて天上の意思にたどり着くもの」
打ち止め(ラストオーダー)が、機械のような合成音ではなく、人間らしい高低がある声で言った。
「何で、そんなことがわかるのかしら?相手には、精神系能力者もいるのよ。もしかしたら、あの子の頭にそんな事を無理矢理インプットさせただけかもしれないじゃない」
「それはありえないわね」
美琴が、ほんの少しの可能性を提示したところで、突然女の声にさえぎられる。
ほとんどの人間の視線が、会議室につながる扉に向かう。
その扉を開け放ち、中に入ってきたのは、
「ッ!心理掌握(メンタルアウト)!?」
「あら。そんな能力で呼ぶのではなく、ちゃんと名前で呼んで欲しいものね。超電磁砲(レールガン)」
常盤台中学の制服を着た、縦長の黒髪ストレート、楚々とした表情を浮かべる少女が言った。
「まさか、あんた勝手に黒子の記憶を――――」
「勝手とは人聞きの悪い。私は、学園都市上層部の方に協力したまでよ」
美琴を見下すように、心理掌握(メンタルアウト)、と呼ばれた彼女は視線を下げる。
「…なぁ。心理掌握(メンタルアウト)、って何だよ?」
上条が、小さな声で御坂妹に問う。
だが、それは本人に聞こえたらしい。
「!?あ、あなた、この『心理掌握(メンタルアウト)』こと長谷田鏡子を知らないと!?それでも学園都市に在住する生徒かしらッ!?」
凄い勢いで、鏡子とやらにまくし立てられた。
「…いや…知らないものは知らないけど」
引き気味に上条は言う。というか、常盤台の制服を着ている時点で、自分の方が立場上なんじゃね?
能力云々の前に人間として俺のほうが上じゃね?と上条は思うのだが、
「…超能力者(レベル5)第5位を、あんたは知らないの…?」
美琴に呆れた声で言われて、初めて上条は驚きの声を上げた。
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ
「…呆れた」
そう、鏡子が言う。
(いやってかっ!あれ、お嬢様ってみんなこんな口調なの?俺の知ってるお嬢様っていったら、美琴に白井、それにこの人しかいないんだけど…白井は口調は丁寧だけど、性格があれだし…あれ?マジでお嬢様ってこんなモン??)
と上条が、あまりのショックにどうでもいいことを考え始める。
「…あんたね。そんなことにショック受けんなら、あんたがあいつを倒したときのショックはどれくらいのモンなのよ?」
美琴が、一方通行(アクセラレータ)の方を首で指しながら言う。
「そういえば…ぶっちゃけ、超能力者(レベル5)っつわれてもな…」
と、いきなり平静を装う上条。
それに鏡子は、
「はぁ!?何ですのその反応は!…って、え…?まさか、あ、なたが、一方通行(アクセラレータ)を
…倒した、お方…?」
発言の途中あたりから、疑問文になった言葉。
それに上条は、
「あ、一方通行(アクセラレータ)。お前、倒された経験って俺にだけ?」
「ぶっ殺すぞ」
いきなり話を振られた一方通行(アクセラレータ)だが、もういつもどおりに戻っている。
「…まぁ、お前にだけ、って言えばそうなるか」
一方通行(アクセラレータ)が思案気な顔になり、言った。
「…?」
その、そういえば2,3回倒されたっけ?のような発言に首をかしげる上条。
一方通行(アクセラレータ)の能力は絶大だ。それこそ、上条のようなレイギュラーな能力を持ってても勝てるかどうか怪しい程度。正直、あのときの勝利は――――
「あ、あなたがあの『上条当麻』様ですかッ!!??」
「はいぅ!?」
思考の途中で、いきなり大声を出されてビクる上条。
発言の主である鏡子の方を振り返ると、
上条の不幸センサーがビビッと警戒態勢を知らせる警報を鳴らした。
つまり、
「あ…ッ!い、今までの無礼な言葉遣い、まことに申し訳ございませんっ!わ、わたくしとしたことが…」
なぜか一瞬で顔を赤らめ、上条に対して考えられない口調になった鏡子が写った。
それが意味することとは、
「インデックス!?私はこの件に関しては本当に関与――――?」
いつものようにインデックスが噛み付いてきて、美琴がビリビリを飛ばしてきて…という日常(不幸)を予想して右手を突き出し、左手で頭を庇う、という体制を一瞬で完成させた上条が、いつになく無反応な彼女たちに対して不信感をあらわにする。
「んー。これくらいなら、別に何の問題もないんだよ」
「てか、これくらいで問題になるんだったら、とっくに誰かとデキチャッてるわよ」
「…?」
上条をめぐる乙女関係を代表して二人の美少女が答える。そして、その乙女関係に混ざっている少女たちは、うんうんと頷いている。
一文目の前半部分については、上条には全く自覚がないのだが。
「な、なにをっ!?このわたくしを見てそんな発言が!?」
と、鏡子が二人の発言を受けて胸を張る。
上条が改めて鏡子をしげしげと眺めてみると、
足は結構美脚。スタイルもかなりのもの。顔は、まあまあ整っている。
普通にモテるくらいかなー、と適当に上条は予想する。
「どっ、どうですか上条様ッ!?」
そんな上条の反応を見て、鏡子がいきなり接近してくる。
「いや…どう、と言われても…」
苦笑い、愛想笑いが混じった笑みを浮かべ、鏡子から顔を背ける上条。
「ほら。あんたには到底手の届かない男なのよ、そいつは」
「でも本人には自覚がないんだけどね。…自覚があったらあったでそれは怖いんだよ」
予想してましたー、と二人の少女が言う。
「な、何故っ!?何故わたくしの百戦錬磨の恋愛テクが通用しないんですのッ!?」
「百戦錬磨ぁ?そんなんじゃ通用しないわよ」
美琴が、かわいそうなものを見るような目で鏡子を眺める。
…
「あ、あのー?これは、いったい何の…?」
と、今までの不可思議現象(ドッキリ)を見てきた上条が言う。
「ほーら。自覚がないんですよ」
今度は、隣に座っている五和が苦笑混じりに言った。
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅰ
「だ、だから何の話を…」
五和に言葉を返しながらも、『ドッキリ大成功!』と赤字で書かれているであろうプレートを探す上条。
「…な、ならばわたくしの能力でッ!」
「はいはいー。当麻、ずっと頭に右手当ててなさい」
どうでもいい、とでも言いたげにざっくばらんに言葉を放つ美琴。
「え?あ、はい??」
いまいち理解しがたいが、とりあえずそれにしたがってみる上条。
「何を?そんな手など、わたくしの能力の前には壁にもなりませんのよ」
フン、と鼻で笑う鏡子。
「どうかしらね?こいつが、どうやって学園都市最強を倒したと思う?」
鏡子の行動を受け、嘲笑するような表情になる美琴。
「いや、あの。俺、さっきからずっと疎外感を感じちゃってるのですが」
上条が、不安げに美琴に説明を求める。
だが、その説明が来る前に。
バギン!
上条の頭の辺りから、幻想殺し(イマジンブレイカー)が反応したときになる音がした。
「え?」
それに真っ先に声を上げたのは、鏡子だった。上条には、その音を聞いた瞬間、全てが理解できたからだ。
「何ですか、その音は…まぁ、とりあえず演算は完璧ですから、もう上条様はわたくしのものですがっッ!」
そういい、高笑いする鏡子。
「あー、ちょっとそこそこ」
やはり、かわいそうなものを見るような目で鏡子を見ていた美琴が言う。
「何ですか?今更になって帰してくれ、なんて聞きつけませんのよ。その前に、別にそういう関係であった経歴は無さそうですがね!」
同じく高笑いする鏡子。
それに、もはや何もいえなくなった美琴が、
「…あんたの口から言ってやりなさい」
上条を、どうしようもない表情で見ていった。
「あの…何が起こったのかは理解できてんだけど、何で起こったのか理解できないんだけど?」
「それはそれで逆に良いんです、と、ミサカは唐突に会話に混ざり言います」
上条の発言に即答する、御坂妹。
「…とりあえず、こっちか」
なんか、ものすごく重大なことを見落としているような気もするが、とりあえず鏡子の方に向き直る。
「あ、あのー…お取り込み中申し訳ございませんが」
もはや高笑いから、黒子の本質を表したときのような表情になっていた鏡子の前に立ち、言う。
「多分、その『心理掌握(メンタルアウト)』っていうの、効いてないよ」
その上条の発言を聞いた瞬間、鏡子は、
「ッ!?な、何故!?制御下にある上条様から、何故そんな言葉がッ!?」
なんか、急に取り乱す鏡子。
「あー、俺の右手。幻想殺し(イマジンブレイカー)ってんだけど、これが触れた全ての『異能の力』は問答無用で消去されるから」
「…」
その言葉に、反応できない鏡子。
学園都市最強を倒した男。
そんな人間から放たれる言葉には、信憑性があった。だから鏡子は黙ったのだ。
「…いろんな意味で、あんたには無理よ?」
美琴が、鏡子に止めを刺すように言う。
それに鏡子は、
「…ってか、何やってんだよ?」
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅱ
「んあ?」
と、上条は予想していなかった声に振り向く。
(…待てよ。またさっきの展開とおんなじ、なんてことはない…よな?普通に男っぽかったし…
ッ!?ま、まずい…白井のことを思い出してしまった…)
美琴の苦悩を、本格的に理解できるんじゃないか、と感じる上条。
だがしかし、現実は別にそう危惧すべきことは起こっていなかった。
つまり、
「へぇ。あんたが『一方通行(アクセラレータ)』を潰した男、ってか?」
「いやっ!今度はそっち!?学園都市最強を倒した男を倒せば俺が学園都市最強だぁぁぁぁぁっ!!!
って思考の持ち主さんですかッ!!?」
そういうことである。
…実際問題、そんなことにはなっていないのだが、上条の脳はすでにショートしている。
「…?学園都市最強を倒したところで、じゃあそいつが最強ね、なんていくはずねぇだろ」
あっさりかえされる上条。
それに、え?てことは、なんかいきなりバトろうぜ!な展開は無しッ!?と、あらぬことを想像していた上条の表情が瞬間的に明るくなる。
「…チッ」
だが、とある白髪の最強少年のあからさまな舌打ちにより、上条の笑顔は凍りつく。
「おおー、いるとは聞いていたけど…なんかこれは面倒くさい気がするぞ?」
と、一方通行(アクセラレータ)を見つけた少年が苦笑いとともに言う。
「…長点上機学園2年、葛城妖夜」
「おお、学園都市最強に覚えられてるとは。なんか光栄だなあ」
妖夜、とか言われた少年は、一方通行(アクセラレータ)に笑みを返す。
「馬鹿が。知らない方がおかしいだろォが」
「まぁ、そういうことだな」
「…はい?」
と、二人の会話に何か不穏なものを感じてしまう上条。
「超能力者(レベル5)、『肉体変化(メタモルフォーゼ)』さンよォ」
「はいでましたよなんかよく分からんフラグッ!?俺はそんなもの全然希望してないんだけどッ!!」
「…?何言ってんだ…??」
妖夜なる者が、不思議そうに聞き返す。
「…なんというか…とりあえず」
上条が、息を吸い込み、
「不幸なんですわたし」
「どこら辺が不幸なんですか…?」
隣の五和が、なぜか頭を抱えてため息をつく。
「もはや口癖なっているそうですが…一般人から見ればよほどの幸運なのでは?」
ものすごい幸運を持って生まれた、『聖人』たる神裂が言う。
「…どこをどう見れば?」
「どんな角度から見ても、よ」
美琴が、やはり少し疲れたような表情で言ってくる。
「いやあのですね。わたくしは1週間に100回くらい殺されかけた経験があるきがするのですが」
上条が言っているのは、英国での騒乱、それに続いた対フィアンマ戦のことだ。
それに、インデックスがつっつきを入れた。
「それはただ単にとうまがでしゃばるからなんだよ」
「でしゃばらなければならない理由の大半のあなたが言うことじゃありませんよインデックスさん」
冷静なコメントを返す上条。
「…それにしても、本当に『不幸だ』と感じてらっしゃるのですか?」
部屋の隅っこでなんか錯乱しかけていた鏡子が、平静を取り戻しつつ言う。
「…えと、あの。全員そろって俺の不幸全否定ですか?」
上条が、不幸の原因であるらしい右手を見つつ、言う。
「さっきから話が全然掴めねぇんだけど…とりあえず、『こっち』の方を進めようぜ?」
妖夜が、自分の後ろを振り返りながら言う。
「…まだ、なんかあんのか…?」
上条が、やはり自分は不幸だ、と再確認しながら言った。
「ん?話は終わったのか?俺は他人の色恋沙汰とかに首を突っ込むほど曲がってないぞ」
唐突に、芯が通っているような声が響く。
「超能力者(レベル5)、『念動砲弾(アタッククラッシュ)』こと削板軍覇だ」
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅲ
「…」
それに、上条は、
「御坂を皮切りに…なんでこう次々と超能力者(レベル5)とあってしまうんだ俺…まさか、全員妹達(シスターズ)関連なのかおいッ!?」
もうあまりの自分の不幸さに、勝手に人にその不幸の原因を作ってしまう。
「ちょ、なにそれ!?確かに、わたし、一方通行(アクセラレータ)はそうだけど!ほかは関係ないじゃないッ!!」
それに、もちろん美琴は反論する。
しかし、妹達(シスターズ)ではなく美琴関連なら、一方通行(アクセラレータ)はさながら、心理掌握(メンタルアウト)とはかなりの関係を持ち、肉体変化(メタモルフォーゼ)とは大覇星祭のとき一戦交え、念動砲弾(アタッククラッシュ)は美琴の知らないところで妹達(シスターズ)とほんの少し関わりを持っている。
つまり、今この場に集っている超能力者(レベル5)は全て美琴に関わっている、と言える。
別にここがそれを認識しているわけではないのだが、この場にいる美琴を除いた超能力者(レベル5)+上条が、
「…ハァ」
「なっ…何よそのため息!?」
美琴がやはり突っかかってくる。
が、そこで、
「とりあえず、話を進めてもよろしいでしょうか」
突然、声が響く。
「戦闘可能な超能力者(レベル5)が集い、紹介も済みましたので」
「そういえば…これって、作戦会議、なんだったっけ?」
上条が、機械の声に反応して言う。
「はい。まだそろっていないメンバーもいますが、時間がかかるとのことですので」
そこで機械は、一度音を切って少し間を置く。
「それでは、会議を進めてもよろしいでしょうか?」
機械が問いかけるが、返事をするものなど一人もいない…わけではなく、打ち止め(ラストオーダー)が『オーケーだよー』とか意味が分からないはずなのに言っていた。
機械は打ち止め(ラストオーダー)の声を無視して言う。
「それでは、改めて…ただ今より、対反乱因子作戦会議を始めさせてもらいます」
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅳ
「ではまず、事の発端、および昨日の戦闘について説明させてもらいます」
機械が、無駄に丁寧な言葉でみなに伝える。
「今回の事件――――今後、反乱事件、と呼ばせてもらいます――――の発端者は、垣根聖督。垣根聖督は、学園都市第2位、垣根帝督…『未現物質(ダークマター)』の父親です。垣根帝督は、『ピンセット』を得るために起こした事件で、学園都市第1位、『一方通行(アクセラレータ)』と遭遇、戦闘を行いました。結果、垣根帝督は敗北。さらに、一方通行(アクセラレータ)による過度な攻撃により、死亡寸前まで追い詰められます。しかし、学園都市統括理事長の指示により、その後脳や心臓、肉片などを回収され、今は3つの容器にそれぞれが収められており、『生存』しています」
会話の途中から出てきた一方通行(アクセラレータ)は、特に表情を変えることなく聞いている。
隣にいる海原…ではなく、アステカの魔術師、だと思われる男や、露出度の高い女子高生などは少し表情を変化させているが、上条には理由が分からない。
「垣根聖督は、どうにかしてその情報を得たらしいのです。そして、ただ単に『生存』しているだけの息子を、元の生活に戻すために今回の『反乱事件』を起こしました」
機械は、「…だと思う」、「…だそうだ」などといった不確定な表現はしなかった。決定事項をただ冷静に報告しているのだ。
「今回の『反乱事件』の目的は、先程述べたとおり、垣根帝督を元に戻すこと。しかし、今の垣根帝督は、学園都市が作った並の核シェルターとは比べ物にならない場所で『生存』しています。そこを突破するためには、相当の戦闘力が必要とされます。ここを単純に『突破』するだけなら、超能力者(レベル5)が一人いれば十分ですが…学園都市は、それを良しとしない。そんな事をすれば自分を潰しにかかるだろう――――そう考えた垣根聖督は、『反乱因子』の作成に取り掛かったのです」
一気に言っていく機械。
「反乱因子、とは?」
そこで、神裂が疑問を口にする。
「まことに申し訳ございませんが、質問はわたしの説明の後、受け付けます。それまでは、お静かに聴いていてください」
やはり無駄に丁寧な言葉で、神裂の質問を跳ね除ける機械。
「では、話を続けさせてもらいます。
先程述べた『反乱因子』は、中途半端な力では学園都市と対立することは出来ません。そして、垣根聖督は垣根帝督の父親であるとともに、学園都市に在住する科学者でもあります」
「へぇ。そりゃァ、結構なレアじゃねェのか?」
一方通行(アクセラレータ)が口を挟んだが、誰にも反応されなかった。
「彼が担当する専攻は、『AIM拡散力場』。もちろん、息子の『未現物質(ダークマター)』のAIM拡散力場も研究対象でした。垣根聖督は、息子の能力だけでなく、様々な能力のAIM拡散力場も研究していました。彼はその研究成果をもとに、人工的に能力者を作り上げていました。これは反乱事件の前からのことです」
「能力者を…人工的に作成、ですって…!?」
美琴が、異様に反応する。似たような遭遇にある彼女だからだろうが、当の『妹達(シスターズ)』は特に反応していなかった。
「反乱事件前に作り上げた能力者は、合計47名。作り上げたものの、無能力者(レベル0)だった者は89名。能力者のうち、低能力者(レベル1)認定者は13名。異能力者(レベル2)判定は18名。9人は強能力者(レベル3)。大能力者(レベル4)は7人作り上げていました。超能力者(レベル5)、絶対能力者(レベル6)はともに0です。しかし、垣根帝督の敗北に伴い、垣根聖督に一度送られた垣根帝督から、本人のAIM拡散力場を研究に取り入れた垣根聖督は、その研究レベルを格段に増すことに成功。
その後に作られた能力者のレベルも跳ね上がり、強能力者(レベル3)が13人、大能力者(レベル4)が23人、超能力者(レベル5)が8人です」
「…超能力者(レベル5)を、8人も、ねぇ…」
あまり実感が沸かない上条は、とりあえず『凄いな』と思った。
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅴ
「はぁっ!!?」
なので上条は、突然響いた大声…いや、もはや叫びに相当驚いた。
その叫びは、高位能力者たちから発せられたものだった。
「って!何をそんなに驚いてんだよ!?」
妙な叫びのせいで、自然と声のトーンが高くなっている上条。
しかし、彼らはそんな上条お構い無しに勝手に話を進めていく。
「そういやァ…どうやって超能力者(レベル5)を8人も用意したのかは気になっていたが…」
一方通行(アクセラレータ)が、机からずり落ちた腕を直し、再び頬杖をつきながら言う。
「まさか…『造る』、なんて方法で用意したなんて…」
美琴は、もはや表情を浮かべていない。彼女の無表情なんて見たことの無かった上条は、少し引いてしまう。
「実際、どのようにして造ったのか、が問題ではなくて?」
割と平静を保っている鏡子が言う。実際は、上条に自分の能力――――心理掌握(メンタルアウト)と、自称百戦錬磨の恋愛テク――――が聞かなかったときのショックが大きすぎたせいで、ショックが緩和されているだけである。
「学園都市第2位のAIM拡散力場…例えそんなものを用いたとしても、超能力者(レベル5)はおろか、大能力者(レベル4)も造り上げることは出来ないと思うが…」
妖夜が、パニックしかけた脳を落ち着かせつつ言った。
「そこら辺は、科学者さんたちにしか理解できない方程式でもあんだろう?」
思いっきり驚いた表情のままなのに、冷静な言葉を投げかける軍覇。結構シュールに見える。
「それでも…超能力者(レベル5)は造れないんじゃ…」
一方通行(アクセラレータ)の隣に座っている、ブレザーな女子高生が無理に冷静を保ちながら言う。
しかし、その声の後に続くように、誰となく言った。
「…超能力者(レベル5)を、人工的に『造った』なら…絶対能力者(レベル6)は…?」
それは、不安を言葉にしているようにも聞こえた。
その言葉を無視し、機械は話を続け始める。
「さらに、垣根聖督は絶対能力者(レベル6)を所持している模様」
「…チッ。予想はしていたが…」
一方通行(アクセラレータ)が、唐突に首筋の電極のスイッチを入れ、言う。
回りの者は当然警戒態勢を一斉に敷くのだが、一方通行(アクセラレータ)はそんなものにかまわずに目を閉じ、何かブツブツ呟いている。
「何かの演算をしているみたいだね、ってミサカはミサカはミサカネットワークが稼動したのを感知したのを感じながら言ってみる」
と、御坂妹の隣に居る打ち止め(ラストオーダー)が、机から身を乗り出しながら言った。彼女は、あまりショックを受けていないようだ。
「…しかし、超能力者(レベル5)8人、絶対能力者(レベル6)も何人か所持、ねぇ…」
美琴が、半分ため息をつきながら言う。
「戦闘力にすれば、超能力者(レベル5)だけでも軍隊8つ分。さらに応用性、コンビネーションなども含むとするならば、少なくとも軍隊12隊分を同時に相手できると考えても良いかと、ミサカはネットワークを介しながら言います」
御坂妹が、打ち止め(ラストオーダー)を椅子に座らせながら、前を見ずに独り言のように言った。
「それに加え、『絶対能力者(レベル6)』…」
妹達(シスターズ)を何か幻想でも見ているような目で見つめている鏡子が、気を取り直しつつ言った。
「未知数の戦力…少なくとも、軍隊3つ分くらいなら無傷で潰せるんじゃねぇのか?」
妖夜が、もはや少し笑いながら言う。おそらく真剣なのだろうが…
「軍隊3つを無傷、でか…根性のかけらも見えんな」
軍覇が、表情を戻しながら言った。
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅵ
実はこの軍覇、オッレルスに敗れて以来、訓練を死ぬほど積んできていた。その訓練の成果、口調や性格も少し変わっていたのだが…やはり根っこは変わっていないらしい。
「話を続けさせてもらいます」
機械が、話に割り込んでいった。
「絶対能力者(レベル6)の戦闘能力ですが…やはり不明。ですが、単独で軍隊を5つ程度なら捨て身で潰せる、くらいの者、と予想できます」
やはり、機械は冷静な音声で喋っている。
「…ハッ。ふざけやがって」
上条が、半ば呆れ気味に言った。
「ンでェ?俺らは、そンなモンと楽しく殺し合ッてりゃいいのかァ?」
一方通行(アクセラレータ)が、少し楽しげな表情を浮かべながら言う。
「まことに申し訳ございませんが――――」
「チッ。それならいい。さっさと進めやがれ」
一方通行(アクセラレータ)が、機械の受け答えを予想したのか、忌々しそうにつぶやく。
「垣根聖督は、これほどの戦力を持っても強行突破をしようとしませんでした。まだ、学園都市には届かない…そう判断したのでしょう。そして、その学園都市を出し抜くために、まずは斥候として超能力者(レベル5)をよこした――――昨日の戦闘は、つまりは情報採取のためのものです」
「超能力者(レベル5)を斥候扱い…良い身分ですこと」
もう殆ど興味無さそうにしている鏡子。まぁ、そうなっても仕方がないといえる。
「ってことは、昨日のはお膳立て…ってことかい?」
それまで、全くの発言をしていなかったステイルが、唐突に発言する。
「はい。そうなります」
珍しく、機械が質問に答えた。そのときに説明していて、簡潔に答えられる質問だったからだろうか…?
「どんだけ、だよ…」
ステイルとは、おそらく違う意味で発言していなかった浜面が、ポツリとつぶやいた。なぜかその声は、浜面自身は部屋の墨にいるのに部屋全体に響き渡る。
「続けます」
機械的な音が、浜面の言葉をかき消す。
「昨日の戦闘で、おそらく戦闘不能に陥った超能力者(レベル5)は4人。ほかの超能力者(レベル5)は無傷です。その無傷の超能力者(レベル5)のうち、一人は精神系能力者であることが判明。能力名は、『精神操作(メンタルコントロール)』…対象を取った人物の精神を、ほとんど自在に操作できる能力、と言っていましたが、真実かは不明。その能力は、『一方通行(アクセラレータ)』の能力である程度『反射』できるものであることが判明しています。その他の超能力者(レベル5)の能力などに関しては、全く未判明です」
「待て」
そこで、一方通行(アクセラレータ)がストップをかける。
「あの女の能力…精神操作(メンタルコントロール)は、一度本人の精神に干渉し、そこから干渉できる精神を拡大させていき、さらに拡大した行動範囲内にて、相手の精神を自在に操る…ざっとこンな能力だ」
一方通行(アクセラレータ)が、一気にまくし立てるようにいった。
「根拠はおありでしょうか?」
機械が、単なる質問時とは異なる応えを示す。
「こっちは学園都市第1位の能力者だぞ。しかも、そいつの能力を一度喰らってンだ。これを信じねェってのほうが、おかしいンじゃねェか?」
一方通行(アクセラレータ)が、ふんと鼻をならして言った。
機械は数秒黙り込み、そして、
「信憑性は90%を越すものと判断。よって、一方通行(アクセラレータ)の意見を正式なものとして取り入れます」
機械が言った。
そのまま、機械は続ける。
「話を戻します。超能力者(レベル5)の戦闘能力などについては、先程述べたとおりです。絶対能力者(レベル6)については、全く予想できません。その能力は、今まで発祥し得なかった能力である、ということは予想できます」
「発祥し得なかった能力、か…」
上条は、自分の右手を見る。
おそらく、そんな能力でもあっさりと打ち消してしまうであろう、自分の力を。
「垣根聖督自身は、単なる人間です。能力者でもありません。よって、垣根聖督本人は戦力のうちに計算されておりません。結果として、『反乱因子』の戦闘能力は、最低で小国一国をつぶせる程度のものであり、最高でローマ正教の3分の2を潰せるもの、と判断されます」
「…ローマ正教…」
神裂が、一人つぶやく。
「3分の2をつぶせる1部隊、ね…」
ステイルが、煙草の煙とともに吐息を漏らす。
「では次に、昨日の戦闘について、ご本人たちから説明をもらいます」
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅶ
「はい?」
予想できなかった機械の言葉に、思わずそんな言葉を漏らす上条。
「われわれは今回、『反乱因子』を破らなければ学園都市が多大な被害を受ける、と予想しました。よって今回『反乱因子』と戦闘を行ってもらうことになったのは、『上条勢力』の主要人物と、科学サイドの主要能力者たち、ということに決定されました。なので、互いに戦闘を振り返ることにより、今後の戦闘を有利に進めることができるものと思われますので、一つ一つの戦闘を振り返らせてもらいます。その中でも、今までなしえなかった技などを繰り出した人物もいますので、その点についてご本人から説明をもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」
前半が説明、後半が頼みになっている機械の言葉。
それに、
「決定しました、だァ?」
一方通行(アクセラレータ)が、思いっきり不満の表情を浮かべて言う。
「何勝手に決めてんだクソ野郎ども。俺のことは俺が決めさせてもらうぞ」
「わたしもね。学園都市がどうなろうと知ったこっちゃないわよ」
隣の女も、薄ら笑いを浮かべながら言った。
ほかの面々も、大体同じ感想らしい。
しかし、機械はその反論を、たった一言で打ちのめした。
「あなたたちが、学園都市自体を敵に回してでも今回の戦闘に協力しない、というならば…こちらも策を練らせてもらいますが」
「…」
一同が、いっせいに黙り込む。
「協力してもらえるでしょうか?」
機械が、やはり単調な音で言った。しかし、その音にはなぜか有無を言わせない強さがあった。
そして、やはり誰も何も言えなかった。
「協力してもらえる、と受け取ってもよろしいでしょうか?」
機械が、確認を取る。
「…俺は、別になんだって良いけどな」
上条が、無神経そうに言った。
「はン。このごろ鈍ってきたからなァ、能力の方は。…勝手にしやがれ」
一方通行(アクセラレータ)は、適当な調子で言う。
ほかの面々も、さっきと同じく同じ意見らしい。
「ご協力、感謝いたします」
全く変わらず、無感情な声で言う機械。
「では、まずは――――」
と、いうことで。
大体の戦闘は、おおよそ理解できるものだからほとんどはスルーしてきた『仲間』たち。
と、そこで、
「…ん?おいステイル、これなんだ?」
上条が、超能力者(レベル5)の発火能力者(パイロキネシスト)と戦っているステイルを見て言う。
「?…ああ、このときか」
このとき、というのはステイルの身体能力が異様に上がっていたときである(2章 Ⅱ×Ⅹ Ⅶ時)。
そのときの映像を見たステイルは、
「あれは簡単なものだよ。自分の足の裏あたりに小さな炎剣を作り出し、即座に爆破させる。その爆風をうまく足の裏に集中させれば、一気に加速が出来る、ってわけさ。まぁ、扱いが難しいから普段はあんまり使わなかったものだけど」
面倒くさそうに言うステイル。
普段はあまり使わない――――その発言から見るに、その発火能力者(パイロキネシスト)はその技を使うに値する者だったのだろう。
「そんなことが出来たんですか」
感心したように言う神裂。
「…どうやっても、聖人様の身体能力には全く及ばないけどね」
苦笑いしながら言うステイル。
その後も戦闘の様子を見ていたわけだが、取立て不思議なところはなかったようだ。
あるとすれば、
「全然、浜面と滝壺が移ってないんだけど」
「ぐッ!?こ、こっちもこっちで忙しかったんだッ!」
全力で言い訳する浜面。
「忙しかったって…まさか…」
「ぜってー違う!上条、今お前が考えてるようなことはぜってーしてねぇと思うぞっ!したかったけどな!!」
上条のいかがわしそうな表情を見た浜面が、否定&肯定、という究極の答えを導き出す。
「あー、そういえば」
またぎゃあぎゃあ騒いでいる浜面を無視し、美琴が言う。
「戦闘…じゃないと思うんだけど、私たちの身体が浮いた『あれ』はなんだったわけよ?」
「…あ、そんなのもあったなぁ?」
上条が、今ようやく思い出した、という顔になる。
「身体が浮いた…?」
不思議そうな顔をする建宮。
「あー、そりゃ多分俺だ」
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅷ
適当に言う一方通行(アクセラレータ)。
「…で?その理由と、方法は?」
美琴が、一方通行(アクセラレータ)をにらみつけながら言った。
「理由は言うまでもねェだろ。超電磁砲(レールガン)の方は、今後戦力になりそうだったからなァ。それに、俺自身の強化にもつながりそうだったから、生かしておいた。上条の方は…」
そこまで言った一方通行(アクセラレータ)が、極悪な笑みを浮かべて、
「…こいつを殺すのは、俺だけの特権だ」
「やめましょうよ一方通行(アクセラレータ)さんっ!いい加減、倒される→怒り→戦闘、の無限ループから脱しませんか!?」
「ンじゃァ、さっさと俺に殺されろ」
「んな要求のめるかぁぁ!!」
当然の反論をする上条。
だが、一方通行(アクセラレータ)は気にも留めていないらしく、
「そういうことだ。こいつらに火の粉が降りかかったら、結果として俺のマイナスにつながる可能性があった。だからわざわざ炎から遠ざけてやったンだよ。なンか文句あっか」
そういい、無関心そうに目をそむける一方通行(アクセラレータ)。
そこに、また美琴が質問する。
「動機は分かった。方法はどうやったのよ」
「…チッ。めんどっちィな…あの時、助けるんじゃなかったか…?」
一方通行(アクセラレータ)は、真剣に考え込む前に、美琴が自分をにらんでいることに気づいたようで、ため息をついてから話し始める。
「空気のベクトルを操作した」
「具体的に言いなさい」
簡潔に説明しようとしたのか、それしか言わなかった一方通行(アクセラレータ)にやはり噛み付く美琴。
「…ベクトル操作した空気を、テメェらのところまで送っただけだ。その空気は俺の干渉を受けてるから、自在に操れた。こいつの右手に触れないようにするまで、繊細にな」
そこまで言うと、もう文句はねェだろ、と小さく言い、腕を組んで目を閉じる一方通行(アクセラレータ)。
美琴の方もそれで納得したのか、何も言わなかった。
「…あのー。じゃあ、『あの声』もお前のものでいいのか?」
と、そこに上条がさらに追撃をかける。
「…」
心底忌々しそうな目を上条に向ける一方通行(アクセラレータ)だったが、
「そうだ」
その一言だけ言い、また同じように目を閉じてしまった。
「では、戦闘報告についてはこれでよろしいでしょうか?」
なんか機械が勝手に、『戦闘報告』なんて物騒な呼び方をしている。実際そうなのだろうが。
無言の会議室の中、機械は次の音声を発する。
「それでは、次は今後戦闘に協力してもらう方々の紹介に移らせてもらいます」