とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

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19時01分
その後、さんざんな目に遭った。
コスプレ衣装は没収された。描写不可能な形相をした白井に追い掛け回され助けを求めた他の常盤台中学生は敵に周り、上条当麻は『学舎の園』の中を走り回った。休む暇も無く、針や二〇〇〇℃を超す灼熱やカマイタチが襲ってくる。周囲はそんな光景を目のあたりにしながらもいたって驚くそぶりも見せない。つまりこれは上条当麻が起こす『普通の光景』なのだろう。常盤台中学の能力開発の優秀さ感心しつつも敵に回すとこれほど恐ろしいものはないということを上条は実感していた。

もっとも、上条当麻の敵ではないのだけれども。

命からがら逃げ出し、通学路の途中にある人気の無い公園のベンチで少年は項垂れていた。
三時間ほど走り続け、彼女たちを撒いてたどり着いた先がこの公園である。いくら体力のある年頃と言えど足に疲労を感じていた。空はすでに夜。下校時間を過ぎているので人通りは極端に少ない。携帯で時刻を確認すると十九時を過ぎている。
この状況を端的に表すとこの一言に尽きるだろう。

「…不幸だー」

不幸な少年は真っ暗な空を見上げて呟いた。夜空に輝く流れ星(実際は廃棄処分された人工衛星のデブリ)に心奪われながら、先ほど自販機で購入した缶ジュースに口をつけた。
「ぶわっ!?不味っ!」
口に広がる不快な味覚に上条は思わず吐き出した。口元を袖で拭いながら缶シュースの銘柄を見る。
「ゴホッゴホッ…んー、何々…抹茶味のサイダー!?て何だこりゃあ!?しかもホットだし!缶コーヒーを買ったはずなのに、また入れ間違いかよ!」
さらには缶の種類、サイズ、デザインの色合いも似ており、薄暗い公園で確認できなかったのも無理は無い。
ようやく訪れた静かなひと時を堪能したかった上条だが、ジュース一本でその雰囲気はものの見事に崩れ去ってしまった。カクテルバーで粗茶を飲むようなものである。
「うう、不幸すぎますー」

「不幸不幸と言っておるとまた味あわせてやるぞ?上条」

後ろからふいに声をかけられた。
振り返ろうとすると頬に暖かいものが押し付けられた。缶ジュースである。
「おしるこは嫌いか貴様?私は気に入っているのだがな」
見覚えがある。『今』の上条当麻にとってはつい最近会ったばかりだ。

「バードウェイ!?何でここに!?」

「……ふむ。私がここにいることがそんなに不思議か?」
先日帰ったばかりだろ!とは言えなかった。ここは一年後の未来。あの時から会っていないとすれば、一年ぶりの再会といえる。
しかし、上条は妙な親近感を覚えた。
高級感ある紺色のコートに白のプリーツブラウス。デザインの良い薔薇の刺繍が入った黒のストレッチベロアパンツを履いていて大人びた印象を受ける。
だが、その容姿はまるで変わっていなかった。可愛らしい容姿にひそむ鋭い目つきが。
「ひ、久しぶりだなー。突然の再開に少し驚いているだけだよ」
「ああ、それだ。それだよ。その『ヒサシブリ』という日本語を忘れてしまってな。貴様にどう話しかけようか思考を巡らせていたところだ」
「…また何かあったのか?」
外見は十二歳前後の少女とはいえ、『明け色の陽射し』のボスとして君臨する魔術師である。
この学園都市に観光目的で来日していないのは明白だ。さらに彼女ほどの実力と地位を持つ者が入ってくる事自体、ただ事ではない。
バードウェイは上条の変化を察したらしく、ニヤァ、と口を大きく引きつらせながら言った。
「なあに、大それた用事ではない。確かにここに来た目的は仕事の為だが、貴様に頼らずとも安易に完遂できるモノだ。私が貴様を訪ねたのはkotatsuをもう一度堪能しくなっただけだ。ウチにもあれを取り寄せたのだがな。アンティークが並ぶリビングでは案外つまらなくて、鬱憤晴らしに部屋ごと吹き飛ばしてしまった」
そう言って軽く舌を出すバードウェイのイタズラ心満点の笑顔に、上条当麻はギョッとした。片目を閉じながら、いつの間にか右手に持っている杖をクルクルまわしている。何かの拍子で術式が発動するかもしれない。
「そ、そうですか。今はまだコタツは出していないんでー、サヨナッ!?」
ガシイッ!襟首をつかまれた。かなり強い力で。
「貴様、どこに行く気だ?」
悪意たっぷりの笑顔を浮かべながらバードウェイは言う。
「い、いやー、カミジョーさんはただ家に帰ろうとしただけですよ?インデックスが腹を空かせてるかもしれないから、早く家に帰って夕飯の準備をしなくちゃならないのでェッ!?!」
足のつま先を踏まれた。かなり強い力で。
「それは奇遇だな。私もまだ夕食が済んでいないんだよ」
「…つまり」
「そこまで言ってもまだ分からぬか。やはり貴様は私の下僕にしてやったほうがいいな」
「…つまりつまり」

「喰わせろ」
ハイ、ワカリマシタ。








「お帰りなさいとうま(当麻)」

そこに二人のエプロン姿の美少女がいた。
上条当麻がとった行動は一つ。カバンをズリ落とした。それはもうドコかの漫画みたいに。

19時23分
バードウェイと共に見慣れない自分のアパートに戻ってきた。第七学区にある高級住宅地で十四階建の高級マンション。セキュリティの優秀性は知らないが、仄かに彩られる和風庭園を一望できる玄関があるだけでもその高級感は理解できるだろう。管理人のお姉さんも気立てがいい人で上条とバードウェイを見るなり「あららー?当麻ちゃんったらー『また』?」などと話しかけてきた。その直後にバードウェイが上条の足を踏みつけた。学生寮であれば男女揃って部屋に入ろうとしようものなら即刻先生たちに捕まり両親に知らせがいく。
しかし、上条は気にすることは無いだろうと思った。

管理人はアルコールの匂いをプンプンと発し、目の焦点が合っていないほど泥酔していた。

監視カメラを見過ごすあたりが上条らしいが、少年はそんなことを考えながらエレベーターに乗り最上階へと昇った。財布にあった二枚の黒色のカードキーを見る。一枚は玄関口を開けるカードキー。二枚目は「一四〇二号」と書かれたカードキー。上条の家である。
そして彼は見た。
 エプロン姿の銀髪碧眼少女と茶髪茶眼少女が笑顔で上条を出迎えるのを。

上条の後ろに立っていたバードウェイを見るなり二人の笑顔が凍り付いたのは言うまでもないだろう。






そして今に至る。
四人用にしては比較的大きいテーブルに男一人と女三人が座り夕食を取っていた。
ハヤシライスがメインディッシュでサラダにチーズフォンデュ。加えてインデックスには蒲焼の缶詰が二パックある。
「ちょっとアンタ、食べすぎ」
「これくらい普通だよ。ね?とうま」
「あ、ああ、今日は少ない方じゃないかな」
「え!?」
「禁書目録よ。それは太るぞ」
「太らないもん!」
そんなやり取りをしながら夕食は進んでいた。上条の箸もすすんでいた。ハヤシライスもチーズフォンデュも舌をうならせる絶品だからだ。上条は三杯目に突入し、インデックスに至ってはルーを5回もつぎ足している。ハヤシライスはインデックス。チーズフォンデュとサラダは美琴が作ったらしい。しかもこのチーズ。一口食べただけでも分かるが、そこらのスーパーで売っているようなチーズは使っていない。おそらくそれに加えて美琴の腕もあるのだろう。とても美味しい。
「どうどう?とうま。美味しいでしょ、私が作ったハヤシライス!」
「ああ、美味え。インデックスが作ったとは思えないくらい…」
「ふっふ~ん。そうでしょそうでしょ。とうま、おかわりいる?」
「ああ、頼む」
得意げに話すインデックスは上機嫌で上条の食器を手に取った。
ご飯をつぎにキッチンに向かうインデックスを薄目で見ていると御坂美琴から脇腹を横から肘で小突かれた。
割と強い力で。
「いてっ、どうした?」
「…何か言うことはないの?」
インデックスとは反対に不機嫌そうな御坂美琴。
流石の上条も察することが出来た。自分の料理の評価が聞きたいのだ。
「ああ、美味いぜ。これ、チーズと牛乳の割合と加熱加減が難しいんだよな。いや、これはワインか。チーズも良いもん使ってるし、今度レクチャーしてくれよ。俺も作りてぇ。こんな美味いやつは初めてだからな」
上条の絶賛の言葉を聞いて面食らう美琴。それから少し間をおいてワザとらしく、コホンと咳をはいて、
「…フ、フン。いくら褒めたってもうお替わりは無いわよ」
「そうか。そりゃ残念だ」
なっ、と口を噤んだ美琴は顔を赤めると腕を組んでプイッと顔を背けた。
何だコイツ?と上条は美琴の挙動不審に首をかしげた。まあ、美琴がおかしいのいつものことだと考えてその疑問を放棄する。
「このチーズ、グリュイエール・アルバージュとみた」
「っ!!貴女、結構通ね…」
「もしかして一〇〇グラム八〇〇円もするあの!?」
「ああ、スイス産の安物だ」
美琴の予想以上の料理に対する入れ込みとバードウェイとの金銭感覚の違いに唖然とする上条はギギギ、と首を回して美琴の顔を見た。
赤い顔をしたまま美琴は上条の方をチラチラ見て、何かに気づいたような表情をした。
「あ、口についてるわよ」
美琴はナプキンで優しく上条の口を拭った。彼女の思わぬ行動にドキッとする上条だったが、そういう彼女の顔にも人に言えないものがある。
「…お前もついてるじゃねーか」
上条は仕返しのつもりで美琴の口元に付いている米粒を取った。
ごく自然に、それを口に含んだ。
そして気づく。

「「あ」」

事実を確認するや否や二人はみるみる顔が赤くなり、すごい勢いで顔をそらした。
恥ずかしすぎる!二人は心情まで一致した。
しかし、そんなやりとりは向かい側からは丸見えだ。

「何だそのツンデレ娘は?貴様の下僕か?」

ガチャン!とテーブルに頭をぶつける美琴。食器に直撃しなかったのは幸いだ。
そう言うバードウェイは退屈そうな顔をしていた。
「ななななな何言ってるのよアンタは!」
「図星か」
「ンなワケないでしょ!私は当麻のこ、恋人なの!」
「なら愛人の間違いだ。上条の正妻は禁書目録だろう?」
「「はぁ!?」」
ハモる上条と美琴。
「同棲しているではないか」
「ど、同棲!?」
『居候』の間違いだと上条は言いたかったが、若い男女が一緒に暮らしていること自体そのように受け取られていても不思議では無い。むしろ居候という方が異常だ。だがそんな事はお構いなしに口論はますますヒートアップしていく。
「インデックスはそっち側にとって危険なものなんでしょ?当麻はお人よしだから匿ってるだけよ!」
「何を言っている。禁書目録はイギリス清教の人間だ。上条は『枷』としての役割はあるが、安全性としては教会にいるほうがずっと高い。実際は禁書目録の意思が反映されているだけで、ここにいなければならないという適切な理由はない。そうだろう?」
少し驚いたようにインデックスは肩を震わせた。手元にあったハヤシライスを落としそうになる。上条はそれをキャッチした。
「…そうなの?アンタ」
「う、うん。それはそうだけど…で、でも私はここにいたいもん!」
「なっ!前にアンタの居候の理由を聞いた時は半信半疑で仕方無いことだと思ったけど、ここにいる理由はそれだけ!?」
「短髪には関係ないじゃん!」
「大アリよ!私は当麻の恋人なのよ!他所の女が恋人の家に住んでるなんてそんなの認められるかぁ!」
「心は私のものだ、などという勘違いは愛人にはよくあることだ」

ピタリ、と美琴の動きが止まる。
「…バードウェイ、だったけ?よっぽど死にたいらしいわね。アンタ」
「貴様こそ誰に向かって口を聞いてるつもりだ」
頭からピリピリと静電気を放つ美琴に平然と答えるバードウェイ。何故か口ごもるインデックス。

非常にまずい。
今、ここにいる御恩方を紹介しよう。
一〇万三〇〇〇冊の魔道書を保有する禁書目録―Index-Librorum-Prohibitorum。
魔術結社『明け色の陽射し』の首領であり他の魔術師を圧倒する強大な魔術師、バードウェイ。
学園都市「超能力者(レベル5)」の第一位。『超電磁砲(レールガン)』の異名を持つ御坂美琴。
学園都市最強の「絶対能力者(レベル6)」第一位。世界の英雄。上条当麻。

一見、女性関係のもつれによる口喧嘩だが、実際は国際問題に発展しかねない火ぶたがお茶の間のテーブルの上で切って落とされようとしている。原因は上条の女性関係という些細なものだが、古代文明の戦争なども案外似たようなものが発端なのかもしれない――――――――
などと現実逃避している上条当麻だった。

「インデックス。アンタ、覚悟しなさい」
「それはこっちのセリフだ、愛人。貴様こそ立場をわきまえてモノを言ったらどうだ」
「アンタは関係無いでしょ。部外者は黙ってなさい」
「禁書目録には借りがあるのでな。貴様が彼女に危害を加えようとするなら容赦はせんぞ。愛人」
「っ!愛人愛人って違うっつってんでしょ!」
ビリビリバチィ!と御坂美琴の頭から高電圧が放たれた。同時に電子レンジと液晶テレビから黒い煙が出る。
上条当麻以外は席を立ってお互いにらみ合っている。明るいムードから一転、いつの間にか一発触発の緊急事態に陥っていた。
どうしよう、と上条は考えていた。
事の発端はバードウェイの下僕発言でありそこからインデックスの居候の理由に矛先が向き美琴が上条の彼女であってインデックスの居候を快く思わないからでありバードウェイの愛人発言が美琴の神経を逆なでして今にも食ってかかりそうな勢いになってインデックスをかばうようにバードウェイが立ちはだかっており何でこんなことになったかというと上条当麻が御坂美琴という彼女がいながら年頃の美少女ことインデックスを家に置いているからであり、

結局、事の発端は「上条当麻」に帰結するのだ。

しかし、ここで上条が謝ったとしてもインデックスか御坂美琴の意見を聞くかで大きく事態が変わってしまう。しかし、上条はこの食事を楽しみたかった。だから何気なく呟いたのだ。


「お前ら、いいかげんにしろよ」


「っ!!!」
上条の言葉に三人の表情が凍り付いた。
あれ?
と首をかしげる上条。
三人は渋々と席に着きながら、
「…そうね、ちょっとどうかしてたわ私」
「…フン、まあこれはお主の問題だ。客人の私が口を出すのはおこがましいな」
「…私はここにいたいもん」
皆、恐縮している。

一番恐縮しているのは上条当麻本人だ。
(あれー!?何で皆さんそんなにビビってんのー!?『うるさい!っていうかそもそもアンタが悪いんでしょうがあああ!』的展開を予想していたんですが!?)
「ごめんさない。インデックスがここにいる理由、前にも話し合ったもんね」
「気にしてないよ、美琴ちゃん。とうまの彼女なんだから、私のこと気にしないほうがどうかしてるもん」
「…中々、複雑な恋愛事情だな」

「……………………………………………………………この空気は一体何なんでせうか?」

「そ、そういえば、当麻。当麻は何で私の作った料理が分かったの?」
いきなりの話題転換。この暗い雰囲気を打破するために美琴があわてて上条に話題を振った。バードウェイもインデックスも苦笑している。
しかし、この期待を見事に裏切ってくれるのも他ならぬ上条当麻だ。


「んー…美琴の味がしたから、かな」


皆、絶句した。
硬直から五秒後。最初に口を開いたのはインデックスだ。
「とうま、それは一体どういう意味かな?」
「えっ!!!?い、いやそのっ!別に深いイミなんて無くってですね!?言葉のアヤというかなんというか!」
「そんなに挙動不審なのはどうしてなの!?ちゃんと説明してほしいかも!!」
怖い。向かい側の席でインデックスがとても怒ってらっしゃる。整った顔立ちをしているので余計に迫力があった。美琴は、というと上条の隣で耳まで赤くしてうつむいている。
バードウェイに目を見やると、これまた退屈そうに頬づえをついていた。
「禁書目録よ。言わずもながら分かるだろう?」
「!!!な、何を!?」
「…つまり、そういうことだ。なあ?御坂美琴嬢?」


「う、うん」


小さな声で、顔を真っ赤にした美琴はコクリと頷いた。

…短い人生だったな。

「とうまあああああ!いつ、どこで短髪に手を出したのおおおおおおっ!今日という今日はとうま殺す!カミコロス!私の腹の中で溶けちゃえええええええ!」
「では私がチョコ味にしてやろう」
「そんな魔術があんの!?っていうか皆で食事の続きをしましょうよ!結局こういうオチになるわけ!?やっぱ不幸ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!」

「ちょっとー!!私の当麻に何すんのよー!!!」


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