とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 5-473

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匿名ユーザー

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土御門元春は困惑していた。
上条当麻を抹消すべく壁をぶち抜きターミネーターの如く登場したはいいが、その眼前にいたのは長く艶のある黒髪を梳かしていた姫神秋沙だった。
姫神は本能で危険を察知したのか髪を梳かしていた櫛を魔法のステッキのように土御門に向けるが、当然何も起こるはずがない。彼女は魔術師ではないのだ。
ようやく侵入者がデルタフォースの金髪だと認識すると、櫛を構えていた右手を下ろし、
「びっくりした。どうしたの?」
姫神の問いかけにようやく我に返った土御門は左手を腰に当て白々しい笑みを作る。
「いやー…遂にロリの真理を発見してにゃー。それを一秒でも早くカミやんに伝えねばと思ったんだぜい」
何やら不審な事を口走り始めたロリコンサングラスに姫神は再び櫛を構える。
墓穴を掘った、とちょっとばかり後悔した土御門は別の話題を探す。上条がいないのは既に気付いていたが、そこで別の事に気付いた。
「そういえば食いしん坊シスターはどこに行ったんだにゃー?」
ついでに三毛猫もいない、文字通り姫神と土御門の二人しかいない部屋で姫神の淡々とした声が響く。
「小萌の所へ出かけて行った」
土御門が通う高校では今日から三日間は一端覧祭の準備日という事で授業は休みだ。学校では有志の生徒が登校して準備をしている。小萌はその監督者と言ったところだろうか。
当然、土御門のように通常の授業さえまともに受けていない生徒が休日に有志で準備を志願するはずがない。てっきり上条も同類で部屋で「うだー…」としているとばかり思っていたのだが。
「カミやんは?」
「ジュース。買いに行ってくるって」
ふむ。やはり同類だったようだ。まぁ黙って待っていれば直に帰ってくるという事だ。
「ところで姫神は何でカミやんの部屋にいるんだにゃー?」
姫神はクラスメイトの吹寄と仲が良い。当然、吹寄は準備組だろうし姫神もそこの一人であると思っていたのだが。
「大覇星祭の埋め合わせ。私はいい。と言ったのに彼がどうしても。と言うから」
姫神は至って平静を装って説明するが、彼女の手の中にある櫛は凄まじい速さで高速回転している。
この野郎、今日は巫女様ルートを進めるつもりか、と上条への殺意をより固めるヒットマン土御門。
だいたいの状況を把握した土御門は壁に大穴が開いた主なき部屋で標的を待つ事にした。


「………………………………………」
「………………………………………」
微妙な沈黙だ。
土御門元春には姫神秋沙に対して負い目がある。
それは大覇星祭での事。
とある魔術師との戦闘に巻き込まれた姫神は、その魔術師の手によって瀕死の重傷を負ってしまった。
しかも自分が相手に放ったハッタリが間接的な引き金になったと知って自分の失策を恥じた。それが自分の知らないところで起こった悲劇なので尚更腹が立った。
もちろん、当時の戦況を知る者であれば彼の判断を責める事などできるはずがない。
だが、プロの魔術師として魔術に何の関係もない一般人を巻き込んだ時点で自分を許す事などできるはずがなかった。
しかもイレギュラーだったとは言え、吹寄制理まで巻き込んでしまっていた。
本来であれば、きちんと筋を通して謝るべきなのだろうが彼の立場上謝るわけにもいかない。彼女達からすれば土御門はあの一件に関わっているはずがないのだから。
そのジレンマが土御門を葛藤させる。

「土御門君。」

姫神が唐突に口を開く。
土御門はまるで摘み食いがバレた子供のように素早く姫神に視線を向ける。
「なんか。いつもと雰囲気が違う」
女という生き物は怖い。こういう時は第六感が働くのだろうか、些細な変化でも敏感に察知してくる。
この能力ばかりは科学と魔術の暗部で立ち回っている土御門といえども会得できない特殊なものだ。だが、土御門とてプロのスパイ。核心までは掴ませない。
「気のせいにゃー。土御門さんにも真面目モードになる時があるんだぜい?」
「信じられない。君は死ぬ瞬間ですらヘラヘラしてそう」
これは一度誤解を解いておくべきか。と土御門は頭を抱えかけたがその時、
ピンポーン、と平凡なインターホンが鳴り響いた。
何だ何だ。来客か?と首を傾げる二人。ここは上条の部屋だし、自分の部屋に入るのにわざわざインターホンを鳴らすわけがない。
居留守を決め込む理由もないので、とりあえずドアを開ける。
そこにいたのは、姫神と同じく黒髪の少女。
しかし彼女の服装は制服ではなく完全な私服である。
デニムパンツを穿き、真ん中にレースの入った白のシャツの上にグレーのベストを羽織っている。これでレイピアでも持っていれば貴族に見える。
「あ、あれ…?ここって上条さんのお宅じゃ…それにその声、確かアビニョンで…。」


予想外の人物のお出迎えに戸惑う天草式少女。
この人誰?と訝しげな視線を送る元巫女様。
これは修羅場の予感だにゃー、とニヤけるエージェント。

上条の与り知らぬ所で奇妙な三人組が誕生した。



浜面仕上と滝壺理后は第二学区を歩いていた。
この第二学区には『警備員』と『風紀委員』の訓練所がある。
今は常時警戒態勢にある為か、建物の至る所から物騒な音が鳴り響いている。その騒音対策の為に張り巡らされている防音壁が何者かによる包囲網にも見えてしまう。
それだけこの第二学区は殺気立っていた。
なぜそんな物騒な所に無力な少年少女(片方はレベル4)がいるかと言うと、ある人物に会う為だ。

「お、浜面~。久しぶりじゃん」
「くそっ。何でこの女はいつもこんな軽いテンションなんだよ」
待ち合わせ場所には既にジャージ女―――黄泉川愛穂が立っていた。
「いきなり電話で話があるとか言って呼び出しておいて何じゃんよ?しかも彼女まで同伴させちゃって~。も、もしや結婚!?いや~浜面も遂に所帯持ちか~」
「けっ!?ち、違えよバカ!!」
浜面は、一人であさっての方向を向きながら息子の門出を祝う母親のような顔になっている黄泉川に向かって必死に否定の言葉を返すが聞いているかどうかは怪しい。
「何じゃんよ?私はまだ未婚だから婚姻届の書き方は知らないじゃんよ。とりあえず役所に行けば教えてもらえるんじゃん?」
「そうじゃなくて…。滝壺の寮の事だよ」
トボけるジャージ女の話を無視して浜面は無理矢理用件の本筋に入る。
「滝壺には一応、学校の寮の部屋が割り当てられてるんだろ?なのに何でお前はわざわざ俺の所に滝壺を預けたんだよ?」
滝壺理后は退院後、その稀少な能力を認められ霧ヶ丘女学院へ入学した。
もっとも、彼女はもう実質的に能力を使う事ができないのでその学校に通えるとは思えないのだが…。そのあたりはある人物の強い推薦があったとかないとか…。
ともかく、浜面の言い分としては寮があるのなら寮に入り、健全な高校生活を送るべきだ、という事だった。しかし。
「浜面のくせにまともな事言うじゃん。てゆうか変な物食べた?」
「ほらなっ!絶対そう返すと思ったんだ!人が折角更正しようと頑張り出した途端にこれだよ!!」
「まあまあ。確かに浜面の言う事も一理あるのはあるじゃん。でも…」
急に黄泉川は右手を口に当て言葉を止める。
「?」
浜面が首を傾げていると、黄泉川は口を開く。
「だってさ、浜面はやっとやりたい事が見つかったって言ってたじゃんよ?それはその子を自分の手で守る事なんじゃないの?」
「うっ」
「私としては気を遣ってあげたつもりじゃん。だってそうじゃん?常に一緒にいれば、どんな魔の手が来ようともすぐに浜面が助けられるじゃんよ」
「それは…」
「それにあの時の浜面は確かに守るべきモノを守ろうとする男の目をしてたじゃん。」
「……」
「それともあれは嘘だった?勢いで思わず口走っちゃって、今度は面倒臭くなったから他人様に宜しくお願いしますって感じ?」
「それは違う!」
「だったら今のままで問題ないじゃん」
返す言葉がない。
見事なまでに言い包められた交渉人・浜面仕上。そもそも交渉にすらなっていなかったが。
「それに…その子は絶対に一人にさせちゃ駄目じゃんよ…」
ボソッ。と、聞こえるか聞こえないかというつぶやき。
浜面は聞き取れなかったのか首を傾げるが、黄泉川はサッと顔を上げ、
「まあそういう事じゃん。相談なら逐一聞くじゃんよ。じゃあ私は射撃訓練があるから。じゃ~ね~」
そう言い残すとジャージ女は颯爽と去っていった。

「はまづら」

すると、これまで口を真一文字に閉じて二人のやりとりを見ていた滝壺がポツリと言った。
「あの女の人。あんな色のジャージなんか着てて恥ずかしくないの?」
浜面はツッこむべきかどうか一瞬迷ったが、華麗にスルーした。
彼はもうシリアスなのかギャグなのかわからない場の空気についていけなくなっていた。



垣根は食堂に繋がる廊下を歩いていた。校内の見取り図は知らないが、学校の食堂がどのような場所にあるかというのは大体の見当がつく。
途中、三毛猫を抱えた白い修道服の少女が「プリンプリンーーー!」と叫んでいた。はて、この学区には神学系の学校はあったか?などと考えていると食堂に着いた。
入り口には『一端覧祭直前特別企画!先着5名様に限り特製焼きプリン250円!』という立て看板がある。
気楽なもんだ。と、乾いた笑いを浮かべつつ食堂の中に入る。
食堂にはほとんど人がいなかった。学校が自由登校日だという事もあるのだろうが、昼のピークの時間を過ぎていたので生徒のほとんどは自分の教室に帰ったのだろう。
静かな食堂というのは、どこか裏路地の静寂にも似ている。

「あら、珍しいお客さんが来たみたいだけど」

その静寂を破る声。その声は小さくもなく大きくもない。しかし身を貫くようなしっかりとした声だった。
「随分と愉快な寝床じゃねえか」
「こう見えて結構な寝心地なんだけど。あなたもどう?」
冗談じゃねえ。とばかりに垣根は椅子に腰を下ろす。
「改めて、ようこそ未元物質(ダークマター)。こうして面と向かって話をするのは初めてだけど」
雲川は椅子を繋げたベッドから起き上がりながら言う。
「俺の名前を知らないわけじゃないだろ?できれば名前で呼んで欲しいな」
失礼。とばかりに笑みで返事をすると雲川も椅子に腰を下ろし垣根と正対する。
「色々と聞きたい事があるんだが。とりあえずテメェはどこまで知っている?」
「少なくともあなたよりは知らないと思うんだけど」
「すっ呆けやがって。テメェの『役割』くらい知ってるんだよ」
「そうカリカリしなくてもいいと思うんだけど。そうね、とりあえずここ最近の学園都市の動きでも話そうか」
「そんな世間話をする為にわざわざ来たわけじゃないんだけどな」
「話をするにも順序ってものがあるんだけど。それにあなたが眠っていた間の情報とかもあるけど?」
「そうかい」
垣根は背もたれに体重をかけ、さっさと話せとばかりに視線と顎を上げる。
「『未元物質』垣根帝督は死んだ。もちろん、表向きには…だけど」
垣根は動かない。そんな事には興味がないようだ。
「それによって学園都市の順位に変動が出た。第三位の『超電磁砲』が第二位に、第五位の『心理掌握』が第三位になったわけだけど」
「へー。あの雑魚が第二位ねえ。学園都市もヤキが回ったもんだな」
「一言に雑魚って言うけど、それはあなたの次元での話でしょ?普通に考えたら『超電磁砲』だって充分脅威だけど」
「人一人も殺せないような甘ちゃんなんか使い物にならねえだろ?」
「それはあなた達のような人種じゃないからだけど。それにあの子は学園都市にかなり協力してくれてると思うけど?」
「『妹達』か。一方通行に殺される為だけに生み出されたクローン体…。まったく、同情するぜ」
雲川は何かを言いかけたが、その言葉を飲み込み別の言葉を紡ぐ。
「それと例のローマ教徒との対立だけど、今はとりあえずは小休止ってところ。何でもあっちで色々トラブルがあったらしいけど」
「ふーん」
「まぁ…この辺はあなたにとってはどうでもいいってところだろうけど」
「道理で以前に比べて街中が騒がしくなってないわけだ。この学校に至っては呑気に学園祭の準備だもんな。危機感ってのは感じないのか?」
垣根は呆れたような声で話すが、雲川は構わず話を続ける。
「とりあえずはこれが学園都市の『表』の動き。次に『裏』だけど、今活動してるのは『グループ』と『アイテム』の2つ。あなたのいた『スクール』は再編中らしいけど」
「…。『ピンセット』はどうなった?」
「『グループ』が回収した。確か回収したのは土御門とか言う男だったと思うけど」
一方通行ではなかったのか、と垣根は思った。
「(なるほど、コソ泥がいたわけか。誰だか知らんが後で回収しとくか)」
「そういえばあなたは『ピンセット』の情報は見た?」
「あぁ。大した情報は無かったけどな。一つを除いてな」
雲川はその一つが何なのかを察し、こう釘を刺した。
「その件に関しては本当に知らないぞ。私だって普通の女子高生なんだ。いつも闇にいるお前らのように汚れていないんだけど」
よく言うぜ。と垣根は鼻で笑い、
「じゃあ本題に入るか」
不適な笑いを浮かべる少年と少女は更なる闇の世界へと潜り込んでいく。


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