とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

2-10

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(二日目)12時06分


「――――――――――――――…」
何か聞こえる。
「―――――――――――――……」
何か眩しい。
辺りが真っ白だ。
「――――――――――――……ラ」
誰か俺を呼んでいる。
俺の『名前』を呼んでいる。
(…誰…だ?)
「――――――――ラ」
彼はゆっくり瞼を開けた。
ぼやけた視界の中で、一人の少女の顔が映り始めた。
徐々に鮮明になり、白く濁った靄は消えて…
「起きろって言ってるでしょっ!」
ドガッ!と強烈な痛みが腹部に入った。
反射的に起き上がった彼の第一声は、
「ぐはッ!?」
こみ上げる嘔吐を無意識に抑えこみ、自身の腹にパンチを入れた張本人を見た。一瞬、視界が眩んだが、今は明確に少女の姿形を捉えていた。眼前にいる銀髪碧眼シスターを見上げた。
白いフードを被り、整った容姿を持つ少女は、彼の顔を正面から見て、円満な笑顔を見せた。全ての男を惹きつけるような魅力的な笑顔だった。


「起きた?シンラ」


シンラ、と呼ばれた男は周囲を確認した。
彼は教会にいた。
天井が高く、左右対称に備え付けられている証明が周囲を明々と照らしている。ステンドグラスが規則的に立ち並び、正面にはジーザス・クライストの十字架がある礼拝堂の内部だった。礼拝者が座る木質の長椅子が、祭壇に繋がる道をはさんで左右対称にいくつも置かれている。
そして、彼は何故か祭壇の上にいた。彼が寝転んでも十二分な大きさを持った祭壇の白いテーブルの端には4つの蝋燭があり、火はすでに消えていたがまだ新しい。
奇妙なことはそれだけではない。眼前にいる少女の後ろにも、そして大きな十字架がある正面にも、床にはこの祭壇を中心に描かれたような複雑な魔法陣があった。
五芒星を囲むように三重の円があり、最外円の直径をはみ出さない正三角形の紋章が記されている。三角形の端には三本の相異なる剣が刺さっていたが、途中で折れていた。ラインはペンキのようなもので綺麗に描かれていて、図形の隙間にはルーン文字が書かれていた。
このような教会の結婚式のように明るい場所で、自分は黒魔術的な儀式が施されたのだろうか?
彼がそう思えるくらい、不可解な模様が周囲に描かれている。
眼前の少女シスターに聞きたいことは山ずみだが、彼は一言口を開く。
「誰だお前」
途端、笑顔だった銀髪碧眼シスターは、表情を変えずに彼の頬を引っ張った。彼の顔に痛みが走る。
「いててッ!?」
「イ・ン・デッ・ク・スだよ?まだ記憶が戻ってないの?シンラ。もう一回、お前とか言ったら殺すからね♪」
彼女の手の力は緩まない。
彼はその声と顔に見覚えがあった。いや、見覚えというより推論に近い確信があった。
インデックス。
奇妙な名前。『打ち止め(ラストオーダー)』を地下街に探しに行った時に、偶然出会った少女の名前だ。
顔立ちと言い、声色と言い、記憶より大人びていたが、それはこの時代は自分が知っている時間の一年後という事を考慮すればと、彼は思った。
(…あの時の暴食ガキ女…そうか、こいつ本物の魔術師だったのか)
そう考えれば、自分が座っている祭壇を中心にして描かれている魔法陣の意味も納得できる。
そして、彼は痛がるどころか、驚愕した。
(…ちょッと待て!なぜこの女は俺に触れることが出来るンだ!?今は「反射」をデフォにッ!)
彼の様子を余所に、彼女は笑顔のまま言葉をつづけた。
「ごめんなさいは?」
「はッ…ああッ!?」
彼女を吹き飛ばそうとベクトル操作を実行するが、何も起こらない。それどころか、
指一本すら動かない。
ただ痛みが彼を襲った。頬を強く抓る痛みだけが。
「私に対して「お前」とか言った罰だよ。ご・め・ん・な・さ・い・は?」
「いででィ!?」
少女の声が礼拝堂に響く。
表情から察するに怒ってはいるが、殺意は無い。それを感じ取った彼は、しぶしぶも彼のプライドを傷つけかねない命令を承諾した。
なぜなら、彼の身体は彼女に完全に支配されているのだから。
「………ェ」
「え?聞こえないんだけど?」
彼は心に憤怒を秘めながらも、言葉を発した。

「……………すまねェ」

白髪の少年の声は小さかったが、確かに少女の耳には届いた。
シスターの格好をした背丈163センチの美少女は口をとがらせながらも腕を組んだ。
「…うーん。21点だね。それより、自分のことは思い出した?」
プライドをへし折って述べた白髪の少年の謝罪も、インデックスと名乗る少女の辛辣な言葉で一蹴された。
思わず、少女の首をへし折りたい衝動に駆られたが、上半身を起したまま、能力どころか指一つ動かない状態では彼女に触れることすらできなかった。
だが、少女に対する怒りは押しとどめた。
自分の事を思い出した?という少女の言葉が彼の頭を冷やした。
眼を覚ました第三者に初めに相手を確認するためにはまず、名前を聞く。だが、彼女は思い出したかと尋ねた。
彼女が何者かは知らないが、自分の事情を知っているのは確かだと少年は思った。
彼は自分の記憶をなぞる様に、言葉を吐いた。
「ああ。俺はシンラ。御堂シンラ。出生日は一月一日。出身はこの学園都市。父親の名前は―――」
少女は告げる。


「――貴方は『御堂シンラ』という記憶を持ったクローン人間。正確にはアレイスターの息子、シンラ=クロウリーのクローン。アレイスターの『プラン』の初期計画『ドラゴン』の要であり、人工的な『竜王の翼(ドラゴンウィング)』の発現が確認された唯一の検体」


「…ああ、そうだ」
白髪の少年、『一方通行(アクセラレータ)』、もとい『御堂シンラ』は複雑な表情を作った。思い出したというより、一年後の俺が残した記憶の残滓だった。
正直、彼には心に迫るものがあった。
現実は彼が予想していた事実より遥かに残酷だった。
『一方通行(アクセラレータ)』はアレイスターの死んだ息子のクローンだった。
確かに彼自身も自分自身の記憶が妙だと感じていたのだ。幼少期に離れ離れになったとはいえ、両親の名前も顔すらも記憶に無いというのはあり得ない。
ただ「情報」がある。
自分に両親が存在したという偽りの記憶がある。
その記憶が偽りだと知った「記憶」を思い出した。
そして、
アレイスターが謀略を企てた真の動機が理解できたのだ。

世界が、上条当麻が『魔神』と成長するための箱庭だったように、
学園都市自体が、『一方通行(アクセラレータ)』を『超能力(レベル6)』、すなわち『竜王の翼(ドラゴンウィング)』の覚醒を促すための箱庭だったのだ。
その計画はアレイスター=クロウリーは常人を遥かに超える執念と意思の元、入念な準備と無数の謀略を張り巡らせながら、進められていた。
しかし、アレイスターを突き動かす真の動機は単純なものだった。
人間の範疇を超えた彼自身も、恐らく気づいていないのかもしれない。

かつて、アレイスターは、妻子を持とうとも、己の真理を追究するためなら全てを捨てる男だった。
研究に没頭した揚句、魔術を捨て去って身を滅ぼし、妻を死に追いやった。全てを失った彼に残ったものは、親の愛無くして、心の隙間をヘロインで紛らわせる息子の姿だった。
息子の朽ち果てた姿を見たとき、彼に押し寄せた感情は想像を絶するものだっただろう。
だが、息子のDNAを元に、世界最強の存在を作り上げようとしていた事だけは分かる。
彼を覇道へと突き動かしている動機は、息子に対する、父親の不器用な愛だった。

シンラには、何とも言えない感情が込み上げる。それを外に吐くように、彼は言葉を発した。白い長髪が揺れる。
「…クソッたれが。正面切って、ツラ構えて言えッてンだよ」
『一方通行(アクセラレータ)』、もとい御堂シンラの横顔を見ていた少女、『禁書目録(インデックス)』は言う。
「親子の愛の壮大な物語っていうには、ちょっと血生臭すぎるもんね」
「…うるせえ」
その言葉に銀髪碧眼の少女は反応し、シンラを睨みつけた。
「やっぱり「この時代」のシンラのほうが良い!言葉遣いがこんな刺々しくないもん!」
「そうですかァ……ッて、ちょっと待テ」
少年にとって不快な言葉に続いて、聞き捨てならないことをその少女は発した。
白髪の少年は、手足は動かせずとも、警戒心だけはその少女に対して露わにした。彼の記憶だけが一年後に跳んできたことを何故知っているのか。その事実を知っているのは自分と『打ち止め(ラストオーダー)』、そしてその元凶である――
少年はハッとして自分の体を見た。
無傷。
服の下は分からないが、痛みは無い。
体が動かないので、眼を動かして手足を確認するが、傷一つない。
シンラは再び驚愕し、インデックスを見た。彼女は得意げな表情をして、
「どう?」
と、聞いてきたのである。
シンラはその言葉の意味することを悟り、目を見開いた。
その時、インデックスの背後の20メートル先にある大きな扉が開き、一人の少女が入ってきた。
「おや、お目覚めですか?」
声をかけてきた少女はミニスカ状態にした修道服を身に纏い、チョピンを履いている少女だった。黒のフードからは背中まである赤毛を細かい三編みにしていた。カポカポという足音と共に、インデックスの傍までやってきた。背丈はインデックスよりも頭一つ大きかったが、チョピンを脱げば、163センチのインデックスよりも小柄な少女だ。
インデックスは振り返って、傍に来た赤毛のシスターに声をかける。
「皆はどうしてる?」
「皆、へとへとですよ。魔力不足で倒れちまった部下もいたんで、広間を借りて休んでます。まあ、疲れきって寝てる者が大半ですが」
「お疲れさま。礼を言うわ」
「貴女ほどの御方から礼を言われるなんて、いち魔術師としては光栄極まりないですね」
2人のやりとりを、『一方通行(アクセラレータ)』、もとい御堂シンラは動かない体で聞いていた。彼の視線を感じたのか、目があった赤毛のシスターは一礼した。
「はじめまして。シンラさん。ローマ正教隠密旅団隊長、アニェーゼ=サンクティスです。
と言っても、本職は『神上派閥』の幹部なんですけど……以後、お見知りおきを」
自己紹介を終えたアニェーゼはシンラに近づくと、祭壇にある一つの蝋燭を取った。すると、シンラの身体を縛っていた見えない呪縛は消え、体が動くようになった。シンラは手を動かし、シャツの袖を巻くって外傷を確認していた。やはり傷一つない。
「『禁書目録(インデックス)』様の知識を元に、この魔法陣を成して、貴方の肉体を復元したんです。具合はどうです?体に違和感は覚えませんか?」
シンラは、耳を疑った。
「………は?」
ポカンとしているシンラに、インデックスは詰め寄っていった。


「シンラは首から下が無くなってたんだよ?」


彼女の言葉が上手く飲み込めないシンラに、インデックスは畳みかけるように言った。
両手を腰に当て、長い銀髪が揺れる。
「あのね。オリジナルの『竜王の翼(ドラゴンウィング)』をまともにくらって無傷なわけ無いじゃない。貴方の偽物の『竜王の翼(ドラゴンウィング)』より能力は遥かに強力なんだから。
私が一秒でも助け出すのが遅れてたら、シンラ、肉体もろとも魂も消滅してんだんだからね。少しは感謝してほしいかも」
インデックスは腰に手を据えたまま、強烈な視線でシンラを見下ろしていた。
彼女とは対照的にアニェーゼは、苦笑しながら一言付け加えた。
「禁書目録様の主導で行った『ラティエルの加護』に、私たちは魔力提供しただけですけど…」
「本当は100人の人間が生贄として必要な禁忌魔術なんだけど、私が魔法陣を書き換えて、生贄ではなく魔力のみで精製できるようにしたんだよ。
天使を騙すなんて、本っ当に大変なんだから!」
声を荒げるインデックスを見ながら、シンラはいまだに状況を把握できないでいた。
しかし、あれだけの大傷が治っていることは確かだった。世界よりも30年進んでいる医療技術を持つ学園都市すら、このような治療は不可能だ。
(…………これが、魔術?)
シンラは両手の掌に、力を込める。
触れた空気を『ベクトル操作』で身に纏い、ゆっくりと冷たい祭壇の上から下りた。
タッ、と静かな着地時になった音から、シンラは違和感を覚えた。
靴底が破けていただけではなく、右足の靴にはぽっかりと大きな穴が開いており、白い素肌が見えていた。
気を失う前、太いパイプが己の右足を貫通してしたことをおぼろげに憶えていた。
シンラの脳裏に上条当麻、否、『ドラゴン』と繰り広げた激戦が蘇ってきた。
そして、ドラゴンに大したダメージも与えられず、第二三学区ごと消滅させられ、自分は敗北したのだ。
どうやって自分を助け出したのか。疑問は多く残るが、その答えの全ては、『禁書目録(インデックス)』と名乗る少女が持っていることは明らかだった。
インデックスとアニェーゼたちの眼前に立ち、彼は警戒心を露わにして、言葉を綴る。
「……何者だ?」
シンラの強い視線と言葉に、身長163センチほどの銀髪碧眼少女は告げた。


「私、『魔神』だよ?」


そう言って、インデックスは不敵な笑顔を作る。
彼女の透き通った声は、礼拝堂に静かに響き渡った。


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