(二日目)14時47分
『天使』は三メートルを超える槍を軽々と振るい、シルビアに猛然と襲いかかる。
彼女は、二刀の剣を眼前で交差し、『天使』の槍の強烈な突きを防いだ。
にやりとシルビアは笑うと、『聖痕(スティグマ)』を発動させ、純白の槍をへし折った。
“Un arbre grandit――”
(樹木に命を宿せ――)
刀身に刻まれた呪文が光りだす。メキメキィ!と太い樹木がアスファルトを突き破って『天使』の体に絡みついた。
だが、それもほんの一瞬。
ジュワッ!と、水が短時間で沸騰したような音が鳴り、『天使』の翼が樹木をドロドロに溶解した。
「っらあッ!」
その隙を、聖人は見逃さなかった。
甲冑を身につけていない首筋に剣を立てる。
『天使』は俊敏に反応し、鋭く伸びる剣先は『天使』の紫色の髪と頬を掠めて、空を貫いた。
身を引いた同時に、
ドドドドンッ!
『天使』の翼から、シルビアに向けて大量の羽が発射される。
樹木を容易に溶解させる『天使』の羽。
瞬く間に、彼女の体が白い羽に包み込まれ――
彼女は、二刀の剣を眼前で交差し、『天使』の槍の強烈な突きを防いだ。
にやりとシルビアは笑うと、『聖痕(スティグマ)』を発動させ、純白の槍をへし折った。
“Un arbre grandit――”
(樹木に命を宿せ――)
刀身に刻まれた呪文が光りだす。メキメキィ!と太い樹木がアスファルトを突き破って『天使』の体に絡みついた。
だが、それもほんの一瞬。
ジュワッ!と、水が短時間で沸騰したような音が鳴り、『天使』の翼が樹木をドロドロに溶解した。
「っらあッ!」
その隙を、聖人は見逃さなかった。
甲冑を身につけていない首筋に剣を立てる。
『天使』は俊敏に反応し、鋭く伸びる剣先は『天使』の紫色の髪と頬を掠めて、空を貫いた。
身を引いた同時に、
ドドドドンッ!
『天使』の翼から、シルビアに向けて大量の羽が発射される。
樹木を容易に溶解させる『天使』の羽。
瞬く間に、彼女の体が白い羽に包み込まれ――
“Je l'annule!”
(解き放て!)
(解き放て!)
バァン!という爆発音に、『天使』は身を震わせた。
聖人の身を包む聖鎧が解除され、白い羽は凄い勢いで吹き飛ばされた。まるで四方に飛び散る散弾銃のブレッドのように、鎧のパーツはアスファルトの地面や壁に激突する。そして、シルビアの紫色の騎士服が露わになった。
彼女は袖で額の汗を拭うと、右手に持っていた剣をアスファルトに突き刺した。胸ポケットから赤い糸を取り出し、ブロンドの長い髪を結え始める。
ポニーテールのように髪を束ね、軽く頭を回すと、再び剣を取った。
その間、『天使』は折れた槍を再生し、身構える。
『天使』は理解していた。彼女が剣を手放していても、剣に刻まれている術式が自動的に発動し、同じ罠にかかってしまうことを。
シルビアは肩を回しながら、首をコキコキと鳴らす。
「ふぅー…騎士の聖鎧は重くて性に合わないわねぇ…やっぱりこっちの方が身軽でいいわ」
『天使』は唱える。
“La llama de la purga pasa por usted――”
(清らかなる炎は、全てを浄化する――)
詠唱とともに、槍の先から火の魔術が展開され、紅蓮の炎が『天使』の身を包みこんでいく。
先ほど、五和が発動させた魔術とは比較にならないほど強大な威力を持っていた。
「…天使のくせに、人の使う魔術が使えるなんて」
「そんなに驚くことかい?」
神父の黒服に身を包んだステイル=マグヌスは、背に赤々と燃える『魔女狩りの王(インノケンティウス)』を従えたまま、
「あのツンツン頭の男に関わってからというもの、語るにも語り尽くせない程散々な目にあってね。僕は、何が起きても大抵のことには驚かないようになってしまったよ」
ステイルが右腕を上げると同時に、『魔女狩りの王(インノケンティウス)』の掌に、大きな火球が生み出された。
そして、『天使』の方角に投げ飛ばされ、直撃する。
シルビアと並び立ち、
「『あの術式』を完成させるまで、まだまだ僕たちは時間を稼がなきゃならない。神裂のように、先に倒れてくれるなよ?聖人」
「それはこっちのセリフだ。ヒヨッコが」
視線を合わせず、軽口をたたき合った二人は即座に『天使』へと足を飛ばした。
聖人の身を包む聖鎧が解除され、白い羽は凄い勢いで吹き飛ばされた。まるで四方に飛び散る散弾銃のブレッドのように、鎧のパーツはアスファルトの地面や壁に激突する。そして、シルビアの紫色の騎士服が露わになった。
彼女は袖で額の汗を拭うと、右手に持っていた剣をアスファルトに突き刺した。胸ポケットから赤い糸を取り出し、ブロンドの長い髪を結え始める。
ポニーテールのように髪を束ね、軽く頭を回すと、再び剣を取った。
その間、『天使』は折れた槍を再生し、身構える。
『天使』は理解していた。彼女が剣を手放していても、剣に刻まれている術式が自動的に発動し、同じ罠にかかってしまうことを。
シルビアは肩を回しながら、首をコキコキと鳴らす。
「ふぅー…騎士の聖鎧は重くて性に合わないわねぇ…やっぱりこっちの方が身軽でいいわ」
『天使』は唱える。
“La llama de la purga pasa por usted――”
(清らかなる炎は、全てを浄化する――)
詠唱とともに、槍の先から火の魔術が展開され、紅蓮の炎が『天使』の身を包みこんでいく。
先ほど、五和が発動させた魔術とは比較にならないほど強大な威力を持っていた。
「…天使のくせに、人の使う魔術が使えるなんて」
「そんなに驚くことかい?」
神父の黒服に身を包んだステイル=マグヌスは、背に赤々と燃える『魔女狩りの王(インノケンティウス)』を従えたまま、
「あのツンツン頭の男に関わってからというもの、語るにも語り尽くせない程散々な目にあってね。僕は、何が起きても大抵のことには驚かないようになってしまったよ」
ステイルが右腕を上げると同時に、『魔女狩りの王(インノケンティウス)』の掌に、大きな火球が生み出された。
そして、『天使』の方角に投げ飛ばされ、直撃する。
シルビアと並び立ち、
「『あの術式』を完成させるまで、まだまだ僕たちは時間を稼がなきゃならない。神裂のように、先に倒れてくれるなよ?聖人」
「それはこっちのセリフだ。ヒヨッコが」
視線を合わせず、軽口をたたき合った二人は即座に『天使』へと足を飛ばした。
同時刻。
第一二学区。
『魔神』と六人の魔術師たちが、激戦を繰り広げる戦場から一〇キロほど離れた教会では、違う意味での戦争が展開されていた。
「もがっー!インデックスさんのカレーはまじ最高です!」
「…貴方の食欲の業について、もう注意する気も失せました。アンジェレネ」
「まろやかだが、後味を残さないさっぱりした味わい。そして、口に残るピリ辛のテイスト…心に残るカレーの風味…まさしく『芸術(アート)』だっ!」
教会の大食堂では、二〇〇名を越えるシスターが、インデックス手製のカレーで賑わっていた。
扉を開けた途端、室内に漂うカレーの匂いと、ガヤガヤと騒ぐシスターたちの光景に二人は言葉を失った。
『一方通行(アクセラレータ)』こと御堂シンラは、
「なンだ、この連中は…」
隣にいたアニェーゼ=サンクティスは頭をかかえていた。頭をおさえながら、
「…見苦しいところをお見せてしまって、申し訳ありません」
シンラは、隣にいる赤毛の少女、アニェーゼがこのシスター軍団のリーダーであることは先ほど耳にしていた。この光景は彼女にとっても予想外だったのだろう。あからさまに落ち込む彼女を見たシンラは、
「…心中察するぜ」
と、小さく呟いた。
がつがつをカレーを口に入れる彼女たちは、『一方通行(アクセラレータ)』の肉体を再生するために、気を失うほどの魔力を提供した。その後に、栄養源である食物を摂取することは当然の行動である。
アニェーゼは、空席は無いかとキョロキョロと見回していたところ、
第一二学区。
『魔神』と六人の魔術師たちが、激戦を繰り広げる戦場から一〇キロほど離れた教会では、違う意味での戦争が展開されていた。
「もがっー!インデックスさんのカレーはまじ最高です!」
「…貴方の食欲の業について、もう注意する気も失せました。アンジェレネ」
「まろやかだが、後味を残さないさっぱりした味わい。そして、口に残るピリ辛のテイスト…心に残るカレーの風味…まさしく『芸術(アート)』だっ!」
教会の大食堂では、二〇〇名を越えるシスターが、インデックス手製のカレーで賑わっていた。
扉を開けた途端、室内に漂うカレーの匂いと、ガヤガヤと騒ぐシスターたちの光景に二人は言葉を失った。
『一方通行(アクセラレータ)』こと御堂シンラは、
「なンだ、この連中は…」
隣にいたアニェーゼ=サンクティスは頭をかかえていた。頭をおさえながら、
「…見苦しいところをお見せてしまって、申し訳ありません」
シンラは、隣にいる赤毛の少女、アニェーゼがこのシスター軍団のリーダーであることは先ほど耳にしていた。この光景は彼女にとっても予想外だったのだろう。あからさまに落ち込む彼女を見たシンラは、
「…心中察するぜ」
と、小さく呟いた。
がつがつをカレーを口に入れる彼女たちは、『一方通行(アクセラレータ)』の肉体を再生するために、気を失うほどの魔力を提供した。その後に、栄養源である食物を摂取することは当然の行動である。
アニェーゼは、空席は無いかとキョロキョロと見回していたところ、
「あー!もしかして君、『一方通行(アクセラレータ)』くん?」
一人の女性が大きな声を上げた。
その声で、カレーを一心不乱に食べていたシスターたちは一斉に『一方通行(アクセラレータ)』の方へ目を向けた。
突然の事に、シンラは息を詰まらせる。
反応が出遅れた『一方通行(アクセラレータ)』を横目に、アニェーゼがギラリと目を光らせる。今度はシスターたちが言葉を詰まされた。だが、彼女の口から出た言葉は皆の予想に反するものだった。
「…仕方ありません。今回ばかりは目を瞑ります」
一瞬の静寂の後、皆は歓声を上げた。
『わお!愛してます!隊長!』『流石はアニェーゼ隊長!やっぱり最高です!』などといおう声も混じり、高い声が上がるばかり。一度大きな溜息をついたアニェーゼは、
「で・す・が!」
「この後もきっちり働いてもらいやがりますからね!魔力を今のうちに蓄えておきなさい!」
『イエス!マイロード!』
ひゃっほう!という声に、彼女たちは再び食事に戻った。品位のかけらも無い。二人分の空席を見つけたアニェーゼはシンラを連れて、長いテーブルの隅に座る。『一方通行(アクセラレータ)』がふと向かい側に目をやると、そこには修道服を身に纏っていない黒スーツを着込んだ一人の女性がいた。
目が合うなりにこやかに、
「私は、オリアナ=トムソン。『神上派閥』専属の運び屋をやってまぁす。国家機密のシロモノから耳寄りな情報まで、何でもね♪」
「…まともな職種につくことをお勧めするぜ」
普通の男ならうっとりと見とれるほどの色香漂う笑顔に、シンラは自分と似た「匂い」を嗅ぎ取った。いくら高級な服や化粧で覆い尽くそうとも、体から身じみでる泥と血が入り混じった匂いは、裏社会を駆けずり回る同業者には見抜かれてしまう。
「同じことを言うのね」
「あ?」
「こうして会うのは二度目なんだけどね。今、記憶が無いんでしょう?」
『一方通行(アクセラレータ)』は思わず息をのんだ。
フフンと笑うオリアナは、言葉を続ける。
「貴方からの依頼はかなり危険なシロモノだったけど、その分マネーは、はずませてもらったから。私にとっては御贔屓の顧客よ?シンラくん。でも、ご主人様の頼みごとでもあったから、お姉さん頑張っちゃったけど♪」
「ご主人様?」
その声で、カレーを一心不乱に食べていたシスターたちは一斉に『一方通行(アクセラレータ)』の方へ目を向けた。
突然の事に、シンラは息を詰まらせる。
反応が出遅れた『一方通行(アクセラレータ)』を横目に、アニェーゼがギラリと目を光らせる。今度はシスターたちが言葉を詰まされた。だが、彼女の口から出た言葉は皆の予想に反するものだった。
「…仕方ありません。今回ばかりは目を瞑ります」
一瞬の静寂の後、皆は歓声を上げた。
『わお!愛してます!隊長!』『流石はアニェーゼ隊長!やっぱり最高です!』などといおう声も混じり、高い声が上がるばかり。一度大きな溜息をついたアニェーゼは、
「で・す・が!」
「この後もきっちり働いてもらいやがりますからね!魔力を今のうちに蓄えておきなさい!」
『イエス!マイロード!』
ひゃっほう!という声に、彼女たちは再び食事に戻った。品位のかけらも無い。二人分の空席を見つけたアニェーゼはシンラを連れて、長いテーブルの隅に座る。『一方通行(アクセラレータ)』がふと向かい側に目をやると、そこには修道服を身に纏っていない黒スーツを着込んだ一人の女性がいた。
目が合うなりにこやかに、
「私は、オリアナ=トムソン。『神上派閥』専属の運び屋をやってまぁす。国家機密のシロモノから耳寄りな情報まで、何でもね♪」
「…まともな職種につくことをお勧めするぜ」
普通の男ならうっとりと見とれるほどの色香漂う笑顔に、シンラは自分と似た「匂い」を嗅ぎ取った。いくら高級な服や化粧で覆い尽くそうとも、体から身じみでる泥と血が入り混じった匂いは、裏社会を駆けずり回る同業者には見抜かれてしまう。
「同じことを言うのね」
「あ?」
「こうして会うのは二度目なんだけどね。今、記憶が無いんでしょう?」
『一方通行(アクセラレータ)』は思わず息をのんだ。
フフンと笑うオリアナは、言葉を続ける。
「貴方からの依頼はかなり危険なシロモノだったけど、その分マネーは、はずませてもらったから。私にとっては御贔屓の顧客よ?シンラくん。でも、ご主人様の頼みごとでもあったから、お姉さん頑張っちゃったけど♪」
「ご主人様?」
シンラの問いに答えたのは、会話を聞いていた第三者だった。
ドン!とシンラとアニェーゼの眼前に大盛りのカレーが置かれた。
「と・う・まのことだよ!」
カレーを運んできた銀髪碧眼シスター、インデックスは怒りに身を震わせていた。
彼女の心境を無視してオリアナは、
「インデックスちゃん。私にもおかわりいだだける?本場のインドカレーより、私はこっちの方が好きだわ」
「この極東のカレーは、インドカレーとは別物だよ。…ちょっと待ってて」
そう言って、厨房に戻ろうとするインデックスをアニェーゼが慌てて引きとめた。
「ちょ、ちょっと!インデックスさん!貴方が雑用をする必要はありませんよ!」
「いいの。アニェーゼ。これは私が好きでやっていることだから」
「で、ですが…」
「大丈夫。食べ終わった人達は皆手伝いに回ってるから。心配しなくていいかも」
「…痛み入ります。大魔術師様」
大きく頭を下げたアニェーゼは、肩を狭くして再び席に着いた。
隣でその光景を見ていた『一方通行(アクセラレータ)』は、
「インデックスって言ったか…あいつ、そンなに偉いのか?」
「…魔術の世界では、彼女は神と崇められてもおかしくない存在なんです。ですから、魔術師たちの前ではくれぐれも軽率な言動は控えてください…」
「あの娘もご主人様と同格の『魔神』だからね。我々の世界では、知らない者はいないほどの有名人よ?もちろん、この時代の貴方も知っていることだけどね♪」
オリアナはにこにことした笑顔で、シンラとアニェーゼの会話に入った。
いまひとつ人間性が掴めない彼女に対して、『一方通行(アクセラレータ)』は警戒した視線を浴びせる。
「なンでも知ってるって顔だな」
「ええ。知ってるわよ。この作戦の意義も目的も概要も全て…」
「じゃあ、ドラゴンを倒せる唯一無二の方法ってノは何だ?」
「いきなり核心?せっかちなのねん♪」
オリアナの笑顔が癇に障ったが、『一方通行(アクセラレータ)』は無視した。
「…言っておくが、ドラゴンはいくらテメェら魔術師が束になっても勝てる相手じゃねェ…オレたち科学側と手を結んだところで、死体が増えるだけだ」
「シンラくんの言うとおりよ。今の戦力では、ドラゴンには勝てない」
オリアナはあっさりと肯定した。
戦力差は『圧倒的』ではなく、『絶対的』に負けているという事実を。
「…『君』づけは止めろ。次言ったら容赦しねェぞ」
「あらあら…怖い坊やね」
シンラは本気で言った。だが、オリアナはその殺気を真正面から受け止めつつも、顔に張り付かせた笑顔が絶えることは無かった。
「じゃあ、どうするつもりだ?」
「『法の書』って知ってる?」
オリアナの言葉に、『一方通行(アクセラレータ)』は表情を変えた。だが、彼女の表情は依然として微笑んだまま変わらない。
「貴方のお父さんが記した『法の書』にね、ドラゴンを倒すために記された伝説級の魔術があるの。私たちはそれを発動させる。それだけじゃない。『法の書』にはドラゴンの正体についても記されていた。これは――」
「ふははははははッ!!」
『一方通行(アクセラレータ)』は、オリアナの言葉を笑い声で遮った。
口を引きつらせ、声高らかに嘲笑する。
「ハッ!伝説ゥ?そんな御大層なシロモノに縋って、最後は神頼みか?魔術師ってのは現実を直視しない理想主義者(オメデタサン)が多いみたいだな。そンなだから、テメェらは科学に後れをとるンだよ」
「…その意見については、私も否定しないわ」
オリアナの笑顔を変わらない。だが、彼女が吐いた返答には、多少なりとも重みが感じられた。それを聞き流していた『一方通行(アクセラレータ)』だったが、
「でもシンラ。貴方は勘違いをしている」
「アァ?」
「伝説『級』であって、伝説とは言ってないわよ?」
「話にならねェ…一パーセントでも希望があるから諦めないってか?それは馬鹿がやることだ。
いいか?絶望的な局面から逆転する『奇跡』ってノはなァ。小説やマンガでしか有り得ないンだよ。それが現実的に起こらないから、フィクションで面白いンだ。世間で『奇跡』って言われているシロモノは、『演出された必然』なンだよ。理想と現実の分別もつかねえヤツは、人の上に立つ者である前に人間として終わってンな」
その言葉に、オリアナは腕を組んで、そっと笑みをこぼした。
柔らかくも鋭い視線で、向かい側に入る少年を見据え、
ドン!とシンラとアニェーゼの眼前に大盛りのカレーが置かれた。
「と・う・まのことだよ!」
カレーを運んできた銀髪碧眼シスター、インデックスは怒りに身を震わせていた。
彼女の心境を無視してオリアナは、
「インデックスちゃん。私にもおかわりいだだける?本場のインドカレーより、私はこっちの方が好きだわ」
「この極東のカレーは、インドカレーとは別物だよ。…ちょっと待ってて」
そう言って、厨房に戻ろうとするインデックスをアニェーゼが慌てて引きとめた。
「ちょ、ちょっと!インデックスさん!貴方が雑用をする必要はありませんよ!」
「いいの。アニェーゼ。これは私が好きでやっていることだから」
「で、ですが…」
「大丈夫。食べ終わった人達は皆手伝いに回ってるから。心配しなくていいかも」
「…痛み入ります。大魔術師様」
大きく頭を下げたアニェーゼは、肩を狭くして再び席に着いた。
隣でその光景を見ていた『一方通行(アクセラレータ)』は、
「インデックスって言ったか…あいつ、そンなに偉いのか?」
「…魔術の世界では、彼女は神と崇められてもおかしくない存在なんです。ですから、魔術師たちの前ではくれぐれも軽率な言動は控えてください…」
「あの娘もご主人様と同格の『魔神』だからね。我々の世界では、知らない者はいないほどの有名人よ?もちろん、この時代の貴方も知っていることだけどね♪」
オリアナはにこにことした笑顔で、シンラとアニェーゼの会話に入った。
いまひとつ人間性が掴めない彼女に対して、『一方通行(アクセラレータ)』は警戒した視線を浴びせる。
「なンでも知ってるって顔だな」
「ええ。知ってるわよ。この作戦の意義も目的も概要も全て…」
「じゃあ、ドラゴンを倒せる唯一無二の方法ってノは何だ?」
「いきなり核心?せっかちなのねん♪」
オリアナの笑顔が癇に障ったが、『一方通行(アクセラレータ)』は無視した。
「…言っておくが、ドラゴンはいくらテメェら魔術師が束になっても勝てる相手じゃねェ…オレたち科学側と手を結んだところで、死体が増えるだけだ」
「シンラくんの言うとおりよ。今の戦力では、ドラゴンには勝てない」
オリアナはあっさりと肯定した。
戦力差は『圧倒的』ではなく、『絶対的』に負けているという事実を。
「…『君』づけは止めろ。次言ったら容赦しねェぞ」
「あらあら…怖い坊やね」
シンラは本気で言った。だが、オリアナはその殺気を真正面から受け止めつつも、顔に張り付かせた笑顔が絶えることは無かった。
「じゃあ、どうするつもりだ?」
「『法の書』って知ってる?」
オリアナの言葉に、『一方通行(アクセラレータ)』は表情を変えた。だが、彼女の表情は依然として微笑んだまま変わらない。
「貴方のお父さんが記した『法の書』にね、ドラゴンを倒すために記された伝説級の魔術があるの。私たちはそれを発動させる。それだけじゃない。『法の書』にはドラゴンの正体についても記されていた。これは――」
「ふははははははッ!!」
『一方通行(アクセラレータ)』は、オリアナの言葉を笑い声で遮った。
口を引きつらせ、声高らかに嘲笑する。
「ハッ!伝説ゥ?そんな御大層なシロモノに縋って、最後は神頼みか?魔術師ってのは現実を直視しない理想主義者(オメデタサン)が多いみたいだな。そンなだから、テメェらは科学に後れをとるンだよ」
「…その意見については、私も否定しないわ」
オリアナの笑顔を変わらない。だが、彼女が吐いた返答には、多少なりとも重みが感じられた。それを聞き流していた『一方通行(アクセラレータ)』だったが、
「でもシンラ。貴方は勘違いをしている」
「アァ?」
「伝説『級』であって、伝説とは言ってないわよ?」
「話にならねェ…一パーセントでも希望があるから諦めないってか?それは馬鹿がやることだ。
いいか?絶望的な局面から逆転する『奇跡』ってノはなァ。小説やマンガでしか有り得ないンだよ。それが現実的に起こらないから、フィクションで面白いンだ。世間で『奇跡』って言われているシロモノは、『演出された必然』なンだよ。理想と現実の分別もつかねえヤツは、人の上に立つ者である前に人間として終わってンな」
その言葉に、オリアナは腕を組んで、そっと笑みをこぼした。
柔らかくも鋭い視線で、向かい側に入る少年を見据え、
「私の目の前にその『奇跡』がいるっていうのにね…」
と、オリアナは意味深い言葉を告げた。
『一方通行(アクセラレータ)』は、彼女の含みある視線と言葉に疑問を持った。
「…なンだと?」
「もう一度言っておくけど、私の言っていることは本当よ?ご主人様から直に聞いたのはこの私なんだから」
見る者全てを魅了するようなウインクと共に、
『一方通行(アクセラレータ)』は、彼女の含みある視線と言葉に疑問を持った。
「…なンだと?」
「もう一度言っておくけど、私の言っていることは本当よ?ご主人様から直に聞いたのはこの私なんだから」
見る者全てを魅了するようなウインクと共に、
「もちろん、ベッドの上でね♪」
と、爆弾を落とした。
その途端、周囲からブバッ!とカレーを吹きだした音が矢継ぎ早に響く。
無論、隣にいた赤毛のシスターも例外ではなかった。
カレーライスにスプーンを突き刺したまま、『一方通行(アクセラレータ)』は嘆息する。
ドダドダドダァ!とシスターがオリアナの前に詰め掛け、咽返るほどのカレーの匂いが、『一方通行(アクセラレータ)』の周囲に蔓延した。
そして、シスターの面々がその真相を探るべく口を開こうとして、
「――っ!?」
言い知れぬ殺気に、シンラは身を震った。
その途端、周囲からブバッ!とカレーを吹きだした音が矢継ぎ早に響く。
無論、隣にいた赤毛のシスターも例外ではなかった。
カレーライスにスプーンを突き刺したまま、『一方通行(アクセラレータ)』は嘆息する。
ドダドダドダァ!とシスターがオリアナの前に詰め掛け、咽返るほどのカレーの匂いが、『一方通行(アクセラレータ)』の周囲に蔓延した。
そして、シスターの面々がその真相を探るべく口を開こうとして、
「――っ!?」
言い知れぬ殺気に、シンラは身を震った。
「オリアナ……その話、くわしく聞かせてほしいかも」
いつの間にか、オリアナの背後に銀髪碧眼シスターが立っていた。
彼女の座った目と低い声に、シスターたちは一斉に声を殺す。
「あ、あはははは……インデックスちゃん?頼んでいた私のカレーは?」
オリアナの震える声が室内に空しく響く。
その光景を、向かい側の席で見ていた『一方通行(アクセラレータ)』は興味が湧かず、スプーンで掬ったカレーライスを一口頬張った。
インデックスが作ったカレーライスは、シンラの舌すらうならせる絶品だった。
彼女の座った目と低い声に、シスターたちは一斉に声を殺す。
「あ、あはははは……インデックスちゃん?頼んでいた私のカレーは?」
オリアナの震える声が室内に空しく響く。
その光景を、向かい側の席で見ていた『一方通行(アクセラレータ)』は興味が湧かず、スプーンで掬ったカレーライスを一口頬張った。
インデックスが作ったカレーライスは、シンラの舌すらうならせる絶品だった。