とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 5-173

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匿名ユーザー

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(18.木曜日18:47)
「ぶわぁっ」
「ゴメン。手が滑った」
「ひでえぞ、姫神」

その時上条は脱衣所に腹ばいになり上半身だけをバスルームに入れていた。
右腕を伸ばして姫神秋沙の左足首を握る上条の頭に突然シャワーが浴びせられたのだった。

「お詫びに。髪を拭いてあげる」
「いや、それは、良いって」
「拭いてあげる」
「姫神様、上条さんにこれ以上余計な刺激を与えるのは勘弁して下さい」
「何の話?」
「いえ、何でもありません」
「私が手を滑らした。だから髪を拭く。なにか問題でも?」
「えーっと、そのーっ」
「拭いてあげる」
「...はい」
「じゃあ、こっち向いて座って」
「えっ?」

上条は目隠ししているのだからどっちを向いても問題ないはずであった。
それでも姫神と向かい合うのにためらいを感じる純情少年上条当麻であった。

想像1:正面に全裸の姫神が膝立ちになって頭を拭いてくれる。->目の前に姫神の胸が...
想像2:正面に全裸の姫神が立ったまま頭を拭いてくれる。->以下、自粛

上条は頭をブンブン振って2つの未来図を思考の外へ振り飛ばした。
どちらにしても上条は自分の理性を信用していなかった。
そこで姫神秋沙から右手を離さないようにしつつ体をひねって上体を起こした。
丁度バスルームの入り口で外向きに体育座りをする格好になった。

(ふぅーっ。こうでもしないと上条さんの心臓は破裂してしまいます)

姫神秋沙は上条の右手を自分の右膝に移動させつつ上条の後ろに膝立ちとなった。
そして上条の髪に付いた水気を丁寧にタオルで拭いていった。

「肩や背中まで濡れてる。こっちも拭いてあげる」

全裸の姫神秋沙に身体を拭かれているという状況に上条の思考はパンク寸前だった。
しかも背中に感じる上気した姫神秋沙の体温が上条の想像力に大量の燃料を投下していた。

(この状況はまずい。マジでヤバイ。
そうだ素数を数えよう。1,2,3,5,7...って素数って何だっけ?)

こんな状況は偶然起こるはずはない。
上条当麻は気付かなかったが、これは姫神秋沙がイタズラ心でワザと起こしたものだった。
姫神秋沙は気付かなかったが、そのイタズラ心は95%が嫉妬でできていた。

放課後、吹寄制理を振り切って二人で逃げ出した時は、嬉しかった。
公園で、御坂美琴を助けようとした上条を見て、なぜか胸が締め付けられた。
帰り道、御坂美琴の積極的な態度をみて、少し不安になった。
さっき、インデックスの身を案じる姿を見て、なぜか悲しくなった。
そして姫神秋沙は少し上条当麻を困らせてやろうと思ってやったのだった。

(クスッ。頭を拭いてあげるって言ったら。君はやっぱり大慌てしたね。
これはどんな女(こ)にも優しい君へのささやかな罰だよ)

姫神秋沙は慌てふためく上条を見たらもうこのイタズラはお終いにするつもりだった。
その瞬間までは。


(19.木曜日18:51)
その時、姫神秋沙は上条の右腕に残る薄い傷跡に気付いてしまった。
そこに傷があったことを知っている人間でなければ決して気付かないような薄い傷跡に。
姫神秋沙はそれがかすり傷でないことも、どうしてできたのかも知っている。
だから姫神秋沙は無意識のうちに指でその傷跡をなぞってしまった。
唐突に腕を触られた上条はビクンと肩を跳ね上げた。

「いっ、いったいどうしたんだ、姫神」
「この傷。私のせい」

上条の右腕は一度「三沢塾」で錬金術師に切り落とされた。
幸いカエル顔の医者に元通りに直してもらえたが、たとえ腕を無くしていても上条は後悔しなかっただろう。

「君は腕を切り落とされても。私を助けてくれた。
なのに。助けてもらった私は誰も助けられない。
私の能力(ちから)はただ「殺す」だけ」

そう言うと、上条の両肩に手を乗せたまま上条を両腕ごと抱え込むように上条の背中にしがみついた。
制服越しであった放課後とは違い、姫神秋沙の二つの膨らみは上条の背中に直接押し付けられた。
ただでさえ視覚以外の感覚が研ぎ澄まされた上条である。
押しつぶされた膨らみの質感はもとよりその先端までリアルに再現された脳内はもはや熱暴走寸前だった。

「ひっ、姫神!?」
「ゴメン。もう少しこのまま」

少しの沈黙の後、姫神秋沙が口を開いた。

「以前。監禁されていた三沢塾の隠し部屋で私がどんな扱いを受けたか知りたいって聞いたことあったよね。
あのとき君は何も聞かなかったけど。何があったと思う?」

上条は高鳴っていた心臓がいきなり冷水を浴びせられたように締め付けられた。
今まであったドキドキ感すら全て無くなってしまっていた。

「まさか、奴ら、お前に非道いことをしたんじゃ」
「いいえ。私は何もされなかった。
確かに。あの人達は私の体を隅から隅まで調べていった。
でもあの人達には判らなかった。私のどこに「吸血殺し」が宿っているのか。
だから。あの人達は私を傷付けることができなかった。
 不用意に傷付けてせっかく手に入れた希少な「吸血殺し」を失うことを恐れていたの」
「それじゃ、何を?」
「だから。彼らは塾の生徒達を使ったの。
 私と身体的特徴が似ている女子生徒もいた。
 DNAマップが一番似ているというだけで実験台にされた男子生徒もいた。
 そんな生徒達の頭に、私の脳波パターンを無理矢理書き込もうとしたの。
 能力者に別の能力を上書きすることなんてできないことは判っているハズなのに。
隠し部屋の中で皆体中から血を吹き出して倒れていった。
 私はその様子をただ眺めることしかできなかった。
私はもう誰も傷付けたくないから学園都市に来たのに。
結局、学園都市(ここ)でも私はいつも他人を傷付けていた」
「それは、姫神のせいじゃない」
「大覇星祭のとき私大ケガしたでしょ。
あのときね。とうとう私に天罰が下りたんだなって思った。
 それならこのまま死んでも仕方ないかなって。
それでもね。君を見た瞬間。急に死にたくないって思ったの。
変でしょ。他人ばかり傷付けてきた私が。自分だけは生きたいと願ったの。
私なんて生きる価値もないのに」
「バカ野郎!なに勝手なこと言ってやがる。
人は価値があるから生きているんじゃねぇ、生きているから人には価値があるんだ。
自分に生きる価値がないなんて思うそんな馬鹿げた幻想なら俺がぶっ壊してやる」

姫神秋沙は上条の背中にすがりついたまま泣いていた。
それなのに姫神秋沙には判らなかった。
今自分は悲しいのか、嬉しいのか、寂しいのか、悔しいのか
そんなことも分からないのに涙はなぜか止めどなく溢れ出てくる。

(そういえばいつからだろう?こうやって泣かなくなったのは?
あれ以前はみんなと同じように泣いたことがあったような気がする。
そうだ、あれから私は感情を表に出さないようにしたんだ。
心を閉ざせば楽になれると信じていたから。
もう他人の痛みや悲しみを感じるのには耐えられなかったから。
だからもう泣くこともなくなった。
そして、それで良いと思っていた。
でも...)

姫神秋沙は上条の背中にすがりついたまま泣き続けた。
まるで、今まで表に出せなかった感情がようやく出口を見つけて溢れ出したように。


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