(二日目) 16時55分
第三学区。
セブンズタワーホテルの地下七階に、秘密裏に増設された巨大モニタールームが存在する。かつては、学園都市の裏社会を暗躍する非合法組織を運営、または監視する『ウォッチャー』が使用していた場所であり、学園長の許可が下れば『滞空回線(アンダーライン)』を通じて、より詳細な情報をモニタリングする事が出来る。
現在、『ドラゴン』の状況を逐一確認するため、学園都市に漂う全ての『滞空回線(アンダーライン)』の使用が許可されていた。第一学区から第二八学区までの各部が映し出され、特に一八学区の状況は大きなスクリーンに表示されている。
『魔神』、『天使』と対峙している五〇〇〇人以上の『妹達(シスターズ)』と御坂美琴、剣多風水、『新たなる光』の魔術師達。
負傷し戦線離脱した『騎士団長(ナイトリーダー)』、オッレルス、シルビア、ステイル=マグヌス、バードウェイの五人の魔術師、神裂火織率いる天草式十字正教は、各々で回復魔術を施している。
学園都市最高峰の技術を結集している一室なのだが、妙な構造になっていた。部屋の中央に、コードがいくつも繋がったマッサージチェアのような機械仕掛けの椅子と、何重にも分厚いセキュリティードアの付近に、一台のデスクトップがあるだけだった。ここに集約されている情報の大半は『マザー』の即時適切な処理が行われているため、手動操作の機材が圧倒的に少ないからだ。
「そう落ち込むな。結標」
「…分かってるわよ」
「ならいい」
モニターの光だけが灯る暗いホールで、黒のスーツを身に纏った雲川芹亜は、彼女の肩をたたき、
「お前の取り分は残しておいたじゃないか。まあ、男共はタダ働きになってしまったけど」
「やっぱり、そうだったのね…余計凹むわ」
先ほど、レットインドランドのルールで行ったポーカーの結果、雲川芹亜に『グループ』の報酬は巻き上げられてしまった。土御門とエツァリはチップを全て奪われ、結標はプラスマイナスゼロの元金が手元に残っていた。だが、その結果すらも、『神上派閥』の作戦本部『ジョーカー』のブレイン、雲川芹亜の配慮だった事に結標淡希は気づいていた。
「理(ことわり)を数字で説明するのが科学。理(ことわり)を神の仕業で説明するのが魔術…私にとって、科学など、分かりやすく言えばこの程度の基準(スケール)でしか無いけど」
「…ねえ、雲川。『無能力者(レベル0)』なんてウソでしょ?脳の異常な発達が貴方の能力だったりするんじゃない?」
「はははっ、それは面白いな。だけど測定では『無能力者(レベル0)』で、この切れすぎる頭は『天然』だよ。そういう意味では、私と総帥は似ているけど」
結標淡希は深い溜息をついて、
「…私が言うのもなんだけどさ…総帥だけは止めておいた方がいいわよ?超電磁砲とは別の女を家に侍らせて、行く先々で愛人を作ってるんでしょ?一度、彼の女性問題が発端で内乱が起きたわよね?イギリスの経済が一時ストップして、数十億ドルの損失が出たって聞いてたけど…」
「…アレは仕方がなかったのさ。たかだか、一〇〇人程度の美女がいる酒池肉林如きで総帥を籠絡させようなど…私もついつい『本気』になってしまったよ」
…これ以上は聞いてはいけない、と結標淡希の本能が告げていた。
「総帥の周りには女の話が絶えず、色々と噂は絶えないが、彼は驚くほど硬派だぞ?それも総帥の美点の一つなのだが……お前は知らない方がいいだろう。泥沼と化した女の抗争に、参加したくはあるまい?」
「…そんなのこっちからお断りよ。もしも、私が参戦するって言ったらどうするつもりだったの?」
「うん?万一の場合、カエルのような顔をした医者に診せるのが数分遅れるくらいだが?」
「ちょ!?雲川、それマジで言ってるでしょ!」
「HAHAHAHA」
「うわ、ウザ!っていうかムカつく!」
結標の声を聞き流し、雲川は手元にあるノートパソコンのEnterキーを押す。
中央にあるチェアが音を立てて作動し、結標の頭部を機械仕掛けのヘルメットが覆った。
「雑談はこれぐらいにして…準備はいいな?」
『勿論よ。私が成功しないと世界が終わるんだから、私がどうなっても、任務をやり終えるまでは手出ししないで』
肉声から、フィルターごしの電子音へと変わる。
「無論そのつもりだ。役割を果たす前に脳を焼き切ってしまったりしたら、私はお前を許さないし、死体を切り刻む」
デスクトップには多くのアプリケーションが展開しており、マイク付きヘッドフォンを被った雲川は、パソコンに備え付けられている小さなスイッチに電源を入れた。『Connecting Complete』の文字が表示された。
『あー…てすてす…聞こえますかー?各学区にいる魔術師達に伝えます』
雲川芹亜は告げた。
セブンズタワーホテルの地下七階に、秘密裏に増設された巨大モニタールームが存在する。かつては、学園都市の裏社会を暗躍する非合法組織を運営、または監視する『ウォッチャー』が使用していた場所であり、学園長の許可が下れば『滞空回線(アンダーライン)』を通じて、より詳細な情報をモニタリングする事が出来る。
現在、『ドラゴン』の状況を逐一確認するため、学園都市に漂う全ての『滞空回線(アンダーライン)』の使用が許可されていた。第一学区から第二八学区までの各部が映し出され、特に一八学区の状況は大きなスクリーンに表示されている。
『魔神』、『天使』と対峙している五〇〇〇人以上の『妹達(シスターズ)』と御坂美琴、剣多風水、『新たなる光』の魔術師達。
負傷し戦線離脱した『騎士団長(ナイトリーダー)』、オッレルス、シルビア、ステイル=マグヌス、バードウェイの五人の魔術師、神裂火織率いる天草式十字正教は、各々で回復魔術を施している。
学園都市最高峰の技術を結集している一室なのだが、妙な構造になっていた。部屋の中央に、コードがいくつも繋がったマッサージチェアのような機械仕掛けの椅子と、何重にも分厚いセキュリティードアの付近に、一台のデスクトップがあるだけだった。ここに集約されている情報の大半は『マザー』の即時適切な処理が行われているため、手動操作の機材が圧倒的に少ないからだ。
「そう落ち込むな。結標」
「…分かってるわよ」
「ならいい」
モニターの光だけが灯る暗いホールで、黒のスーツを身に纏った雲川芹亜は、彼女の肩をたたき、
「お前の取り分は残しておいたじゃないか。まあ、男共はタダ働きになってしまったけど」
「やっぱり、そうだったのね…余計凹むわ」
先ほど、レットインドランドのルールで行ったポーカーの結果、雲川芹亜に『グループ』の報酬は巻き上げられてしまった。土御門とエツァリはチップを全て奪われ、結標はプラスマイナスゼロの元金が手元に残っていた。だが、その結果すらも、『神上派閥』の作戦本部『ジョーカー』のブレイン、雲川芹亜の配慮だった事に結標淡希は気づいていた。
「理(ことわり)を数字で説明するのが科学。理(ことわり)を神の仕業で説明するのが魔術…私にとって、科学など、分かりやすく言えばこの程度の基準(スケール)でしか無いけど」
「…ねえ、雲川。『無能力者(レベル0)』なんてウソでしょ?脳の異常な発達が貴方の能力だったりするんじゃない?」
「はははっ、それは面白いな。だけど測定では『無能力者(レベル0)』で、この切れすぎる頭は『天然』だよ。そういう意味では、私と総帥は似ているけど」
結標淡希は深い溜息をついて、
「…私が言うのもなんだけどさ…総帥だけは止めておいた方がいいわよ?超電磁砲とは別の女を家に侍らせて、行く先々で愛人を作ってるんでしょ?一度、彼の女性問題が発端で内乱が起きたわよね?イギリスの経済が一時ストップして、数十億ドルの損失が出たって聞いてたけど…」
「…アレは仕方がなかったのさ。たかだか、一〇〇人程度の美女がいる酒池肉林如きで総帥を籠絡させようなど…私もついつい『本気』になってしまったよ」
…これ以上は聞いてはいけない、と結標淡希の本能が告げていた。
「総帥の周りには女の話が絶えず、色々と噂は絶えないが、彼は驚くほど硬派だぞ?それも総帥の美点の一つなのだが……お前は知らない方がいいだろう。泥沼と化した女の抗争に、参加したくはあるまい?」
「…そんなのこっちからお断りよ。もしも、私が参戦するって言ったらどうするつもりだったの?」
「うん?万一の場合、カエルのような顔をした医者に診せるのが数分遅れるくらいだが?」
「ちょ!?雲川、それマジで言ってるでしょ!」
「HAHAHAHA」
「うわ、ウザ!っていうかムカつく!」
結標の声を聞き流し、雲川は手元にあるノートパソコンのEnterキーを押す。
中央にあるチェアが音を立てて作動し、結標の頭部を機械仕掛けのヘルメットが覆った。
「雑談はこれぐらいにして…準備はいいな?」
『勿論よ。私が成功しないと世界が終わるんだから、私がどうなっても、任務をやり終えるまでは手出ししないで』
肉声から、フィルターごしの電子音へと変わる。
「無論そのつもりだ。役割を果たす前に脳を焼き切ってしまったりしたら、私はお前を許さないし、死体を切り刻む」
デスクトップには多くのアプリケーションが展開しており、マイク付きヘッドフォンを被った雲川は、パソコンに備え付けられている小さなスイッチに電源を入れた。『Connecting Complete』の文字が表示された。
『あー…てすてす…聞こえますかー?各学区にいる魔術師達に伝えます』
雲川芹亜は告げた。
「『並行世界(リアルワールド)』作戦―――――現時刻を持って、最終段階に入る」
二日目 16時56分31秒
「ライダーキーック!」
場所は、再び戦場へ戻る。
少女の掛け声と共に、『体内電気(インサイドエレクトロ)』で強化された肉体から、蹴りが放たれた。
的確に『闇』の首を捉え、ゴキィッ!と嫌な音が鳴る。頭部があらぬ方向に曲がった『闇』は霧散し、痕跡も残さず消えた。
「で?これは一体何なのさ?ゴキブリみたいにウヨウヨ出てくるんですけど」
背中合わせで戦っているフロリスに、ミサカ『〇〇〇〇〇号(フルチューニング)』は問いかけた。
「国を一夜で滅ぼしたとされる黒魔術、『夜舞う死を恐れぬ軍兵(ゾンビパウダー)』。ヴォドゥンの秘術。本来は死体に施すことによって、リヴィングデッドを作りだす魔術だけど、術式を変容させて、実態の無い『闇』に施して、不死身の兵隊を生み出してるみたい」
彼女の周囲には、人のカタチをしている『闇』が群れていた。各々は剣やら槍やらのカタチをした原始的な武器を持っており、動きは鈍いが、明らかな殺意を持って襲いかかってくる。四方八方から、『妹達(シスターズ)』のアサルトライフルと思われる銃撃音が鳴りやまない。彼女たちも、この『闇』の対処で精一杯なのだろうと、ゼロは推測した。
「ドラゴンって魔術も使えるの?」
「…神なんだから、なんでもアリじゃない?秘術なんて、おとぎ話にしか出てこないほどのシロモノだよ」
「なぁんだかな?私、伝説級の魔術しか見たこと無いんだけど」
「…確かに、『戦争』が起こるまで、神話クラスの魔術のバーゲンセールだったからね」
「キリが無いじゃん。こうやって倒してても意味無いじゃん」
「この術式は発動した時点で術者から独立する術式なの」
バンッ!と銃声が響く。ハッとしたフロリスの眼前で、『闇』の頭部が破裂し、消滅した。ミサカ『〇〇〇〇〇号』のベレッタW78が硝煙を上げていた。西部劇のガンマンを気取って、格好良くホルスターに銃を収めると、
「アシスト、次は無いよ?魔術師さん♪」
「それはこっちのセリフだっ!」
フロリスは御符が付加されたナイフで、眼前の『闇』を切り裂いた。
「作戦が最終段階に入ってる。もう一踏ん張り、するとしますかっ!」
ゼロは、振り下ろされる斧を掻い潜り、『闇』の懐に九ミリパラベラム弾を撃ち込んだ。バシュッ!と、大男のカタチをした『闇』は無に帰した。
場所は、再び戦場へ戻る。
少女の掛け声と共に、『体内電気(インサイドエレクトロ)』で強化された肉体から、蹴りが放たれた。
的確に『闇』の首を捉え、ゴキィッ!と嫌な音が鳴る。頭部があらぬ方向に曲がった『闇』は霧散し、痕跡も残さず消えた。
「で?これは一体何なのさ?ゴキブリみたいにウヨウヨ出てくるんですけど」
背中合わせで戦っているフロリスに、ミサカ『〇〇〇〇〇号(フルチューニング)』は問いかけた。
「国を一夜で滅ぼしたとされる黒魔術、『夜舞う死を恐れぬ軍兵(ゾンビパウダー)』。ヴォドゥンの秘術。本来は死体に施すことによって、リヴィングデッドを作りだす魔術だけど、術式を変容させて、実態の無い『闇』に施して、不死身の兵隊を生み出してるみたい」
彼女の周囲には、人のカタチをしている『闇』が群れていた。各々は剣やら槍やらのカタチをした原始的な武器を持っており、動きは鈍いが、明らかな殺意を持って襲いかかってくる。四方八方から、『妹達(シスターズ)』のアサルトライフルと思われる銃撃音が鳴りやまない。彼女たちも、この『闇』の対処で精一杯なのだろうと、ゼロは推測した。
「ドラゴンって魔術も使えるの?」
「…神なんだから、なんでもアリじゃない?秘術なんて、おとぎ話にしか出てこないほどのシロモノだよ」
「なぁんだかな?私、伝説級の魔術しか見たこと無いんだけど」
「…確かに、『戦争』が起こるまで、神話クラスの魔術のバーゲンセールだったからね」
「キリが無いじゃん。こうやって倒してても意味無いじゃん」
「この術式は発動した時点で術者から独立する術式なの」
バンッ!と銃声が響く。ハッとしたフロリスの眼前で、『闇』の頭部が破裂し、消滅した。ミサカ『〇〇〇〇〇号』のベレッタW78が硝煙を上げていた。西部劇のガンマンを気取って、格好良くホルスターに銃を収めると、
「アシスト、次は無いよ?魔術師さん♪」
「それはこっちのセリフだっ!」
フロリスは御符が付加されたナイフで、眼前の『闇』を切り裂いた。
「作戦が最終段階に入ってる。もう一踏ん張り、するとしますかっ!」
ゼロは、振り下ろされる斧を掻い潜り、『闇』の懐に九ミリパラベラム弾を撃ち込んだ。バシュッ!と、大男のカタチをした『闇』は無に帰した。
(二日目) 16時57分10秒
『元素なる弩(ガストラフェテス)』が精製される。
強固な弦が撓り、勢いよく発射された四メートルの大槍が、『天使』の槍を絡め取った。
剣多風水は、両手に二本の剣を握る。次に地盤を、スプリングを底辺とする鉄板に変えた。弾性力を利用して、空へ飛び上がる上半身を回転させ、無防備な『天使』にカットラスの斬撃を放つ。
『天使』は刃を右手で掴んだ。
剣多風水は、『金属使い(メタルオブオーナー)』の能力を発揮する。
剃りがある剣は忽ち鎖に変貌し、『天使』を拘束した。彼女は全体重を乗せて、遠心力を利用して『天使』に軌道を描かせる。地面に降り立った風水は、
「ふっ!」
ゴシャァアア!と、『天使』を地上へ叩きつけた。
右手を振り上げる剣多風水の演算は止まらない。アスファルトからいくつもの鎖が出現し、『天使』を瓦礫に縫いつけた。身動きが取れない『天使』に『妹達(シスターズ)』が追撃した。
アサルトライフルに取り付けられた大口径の銃口がポップアップされ、グレネード弾が『天使』に撃たれた。
ポンッ!と間抜けな音の後に、爆発音が鳴り響く。
改良された『幻想御手(レベルアッパー)』を使用して、ミサカネットワークを通じ、剣多風水はミサカたちとリアルタイムで情報交換し、連携を組んでいた。『天使』を攻撃する数十人のミサカを見ながら、彼女は剣を突き立てる。
「…はぁー…は、はぁー…」
黒色のメイド服が小刻みに揺れる。
肩で息をする彼女の額から、大粒の汗が零れ落ちていた。
強固な弦が撓り、勢いよく発射された四メートルの大槍が、『天使』の槍を絡め取った。
剣多風水は、両手に二本の剣を握る。次に地盤を、スプリングを底辺とする鉄板に変えた。弾性力を利用して、空へ飛び上がる上半身を回転させ、無防備な『天使』にカットラスの斬撃を放つ。
『天使』は刃を右手で掴んだ。
剣多風水は、『金属使い(メタルオブオーナー)』の能力を発揮する。
剃りがある剣は忽ち鎖に変貌し、『天使』を拘束した。彼女は全体重を乗せて、遠心力を利用して『天使』に軌道を描かせる。地面に降り立った風水は、
「ふっ!」
ゴシャァアア!と、『天使』を地上へ叩きつけた。
右手を振り上げる剣多風水の演算は止まらない。アスファルトからいくつもの鎖が出現し、『天使』を瓦礫に縫いつけた。身動きが取れない『天使』に『妹達(シスターズ)』が追撃した。
アサルトライフルに取り付けられた大口径の銃口がポップアップされ、グレネード弾が『天使』に撃たれた。
ポンッ!と間抜けな音の後に、爆発音が鳴り響く。
改良された『幻想御手(レベルアッパー)』を使用して、ミサカネットワークを通じ、剣多風水はミサカたちとリアルタイムで情報交換し、連携を組んでいた。『天使』を攻撃する数十人のミサカを見ながら、彼女は剣を突き立てる。
「…はぁー…は、はぁー…」
黒色のメイド服が小刻みに揺れる。
肩で息をする彼女の額から、大粒の汗が零れ落ちていた。
長時間の能力使用に、疲労を覚えていたのは彼女だけでは無かった。
「うぐっ…」
御坂美琴に頭痛が走る。
「お姉様、それ以上の『幻想御手(レベルアッパー)』の使用は脳に多大なダメージを与えますとミサカは…」
「ふん、それはお互い様よ。アンタだって、脳の一部が私と風水に使われていて、本調子じゃない癖に」
「それに加え、『一方通行(アクセラレータ)』の代理演算を常時行っているこの身にとっては何の支障もありませんよ、とミサカ一〇〇三二号は平気な顔でマガジンを装填します」
黄金の瞳がミサカを見つめた。一息吐くと、御坂美琴は背後に備えていたホルスターから拳銃を投げ捨てた。カラカラ…と地面を回るベレッタW78はスライドが伸びきっていた。
(オートマティック拳銃も二発が限界か…バレルが熱で溶けちゃう)
御坂美琴はミサカ一〇〇三二号から新たなベレッタW78を受け取った。彼女がベレッタを愛用している訳では無く、『妹達(シスターズ)』に配布された武器を使っているだけである。彼女はすでに一〇丁以上の拳銃を使い捨てていた。
一〇〇〇億ボルトのソレノイドによって生み出される熱は、一瞬とはいえ五万ジュールにも及ぶ。耐熱性に優れたポリマーフレームを使用しているが、拳銃サイズの武器では御坂美琴の高電圧が起こす熱には耐えきれない。故に、ハンドガンサイズの『超電磁砲(レールガン)』を実現するためには必要な消耗品であった。御坂美琴はセーフティーを解除し、ハンマーを下ろす。慣れた手つきでスライドを引き、初弾を装填した。
リアサイトとフロントサイトに『魔神』が捉えられた。
ズドンッ!と。
音速の一〇倍を超える九ミリパラベラム弾が『超電磁砲(レールガン)』となって突きぬけた。
『幻想殺し(イマジンブレイカー)』で御坂美琴の電撃が打ち消されたとしても、火薬爆発で加速された弾丸を打ち消すことはできない。幾度となく上条当麻と争って身に付けた『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の対処法。昔はパチンコ玉を使って、上条当麻を追い詰めた経験がある。
『超電磁砲(レールガン)』の衝撃を殺すが、爆風を伴うマッハ波までは防ぎきれなかった。
ミサカ『〇〇〇〇〇号(フルチューニング)』から得た『体内電気(インサイドエレクトロ)』を用いて、御坂美琴は常人を逸した脚力で空を駆ける。
ゴロゴロォォッ!!!と、一〇〇〇億ボルトの電圧が空気を瞬時に膨張し、眩い雷撃が放たれた。
『魔神』は右手を向ける。しかし、致死量を超えた電撃をまともに受けてしまう。雷鳴を轟かせる閃光が、『魔神』の体を突きぬけた。血に染まったワイシャツは焼け焦げ、吹き飛ばされた身体は瓦礫の地をバウンドした。
『魔神』に致命的なダメージを与えた。
その現実こそが、彼女を驚愕させる。
「うぐっ…」
御坂美琴に頭痛が走る。
「お姉様、それ以上の『幻想御手(レベルアッパー)』の使用は脳に多大なダメージを与えますとミサカは…」
「ふん、それはお互い様よ。アンタだって、脳の一部が私と風水に使われていて、本調子じゃない癖に」
「それに加え、『一方通行(アクセラレータ)』の代理演算を常時行っているこの身にとっては何の支障もありませんよ、とミサカ一〇〇三二号は平気な顔でマガジンを装填します」
黄金の瞳がミサカを見つめた。一息吐くと、御坂美琴は背後に備えていたホルスターから拳銃を投げ捨てた。カラカラ…と地面を回るベレッタW78はスライドが伸びきっていた。
(オートマティック拳銃も二発が限界か…バレルが熱で溶けちゃう)
御坂美琴はミサカ一〇〇三二号から新たなベレッタW78を受け取った。彼女がベレッタを愛用している訳では無く、『妹達(シスターズ)』に配布された武器を使っているだけである。彼女はすでに一〇丁以上の拳銃を使い捨てていた。
一〇〇〇億ボルトのソレノイドによって生み出される熱は、一瞬とはいえ五万ジュールにも及ぶ。耐熱性に優れたポリマーフレームを使用しているが、拳銃サイズの武器では御坂美琴の高電圧が起こす熱には耐えきれない。故に、ハンドガンサイズの『超電磁砲(レールガン)』を実現するためには必要な消耗品であった。御坂美琴はセーフティーを解除し、ハンマーを下ろす。慣れた手つきでスライドを引き、初弾を装填した。
リアサイトとフロントサイトに『魔神』が捉えられた。
ズドンッ!と。
音速の一〇倍を超える九ミリパラベラム弾が『超電磁砲(レールガン)』となって突きぬけた。
『幻想殺し(イマジンブレイカー)』で御坂美琴の電撃が打ち消されたとしても、火薬爆発で加速された弾丸を打ち消すことはできない。幾度となく上条当麻と争って身に付けた『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の対処法。昔はパチンコ玉を使って、上条当麻を追い詰めた経験がある。
『超電磁砲(レールガン)』の衝撃を殺すが、爆風を伴うマッハ波までは防ぎきれなかった。
ミサカ『〇〇〇〇〇号(フルチューニング)』から得た『体内電気(インサイドエレクトロ)』を用いて、御坂美琴は常人を逸した脚力で空を駆ける。
ゴロゴロォォッ!!!と、一〇〇〇億ボルトの電圧が空気を瞬時に膨張し、眩い雷撃が放たれた。
『魔神』は右手を向ける。しかし、致死量を超えた電撃をまともに受けてしまう。雷鳴を轟かせる閃光が、『魔神』の体を突きぬけた。血に染まったワイシャツは焼け焦げ、吹き飛ばされた身体は瓦礫の地をバウンドした。
『魔神』に致命的なダメージを与えた。
その現実こそが、彼女を驚愕させる。
(右手の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が無くなってる――――?)
御坂美琴の背中に、ゾクッと寒気が襲う。
「『妹達(シスターズ)』!最優先事項!今すぐ、ドラゴンを拘束して!手足の一、二本は構わないから!」
(ドラゴンが自閉モードに入ってる!)
悲鳴に近い『お姉様(オリジナル)』の命令に、同一遺伝子のミサカたちはすぐさまに反応する。
しかし、
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
『魔神』の口から、不自然な音が広がった。
直後、
学園都市に夜が襲いかかる。
オレンジ色の夕焼けは、一瞬で暗闇に包まれた。
突然現れた青い満月。
「『妹達(シスターズ)』!最優先事項!今すぐ、ドラゴンを拘束して!手足の一、二本は構わないから!」
(ドラゴンが自閉モードに入ってる!)
悲鳴に近い『お姉様(オリジナル)』の命令に、同一遺伝子のミサカたちはすぐさまに反応する。
しかし、
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
『魔神』の口から、不自然な音が広がった。
直後、
学園都市に夜が襲いかかる。
オレンジ色の夕焼けは、一瞬で暗闇に包まれた。
突然現れた青い満月。
「神戮―――――――――――――――――――――――――――――――――――――」
ドンッッ!!
地上が揺れる。
魔を帯びる波動が支配した。
時間が停止する。
大気が殺される。
御坂美琴は息を呑みこんだ。
彼女だけではない。
その場にいた人間たちは動きを止めた。
理屈は無かった。
合理性も無い。
ただ、本能が理解する。
自分は死ぬのだと――
地上が揺れる。
魔を帯びる波動が支配した。
時間が停止する。
大気が殺される。
御坂美琴は息を呑みこんだ。
彼女だけではない。
その場にいた人間たちは動きを止めた。
理屈は無かった。
合理性も無い。
ただ、本能が理解する。
自分は死ぬのだと――
「ぎ」
『魔神』は、
「ギィィャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハahasyutwpッ…!!!」
嗤う。
静寂な世界に、『神』の嘲笑だけが木霊した。
「……嘘…でしょ?」
『神』は、ボロボロになった赤色のシャツを破り捨てた。上半身には、五和が刺した刺し傷と、御坂美琴が撃った銃創から血が流れ、所々には、過去の戦いの証とも言える生傷の痕が残っている。『神』の首には、御坂美琴とお揃いのピンクゴールドアクアマリンのネックレスが揺れていた。
突如、禍々しく、黒い『何か』が上条当麻の全身を覆った。
体中から噴出した『何か』が右腹部の銃創と胸部の刺し傷に吸い込まれていく。そして、傷は消去された。
傷一つない筋肉質の肉体。そして、素肌に刻まれていく漆黒の紋章。
まるで群れる蛇のように這いずりまわる刻印は、『神』の顔面に到達した。
狂喜に染まった真紅の瞳が、青く輝く夜を映し出した。
「イMaジンbreakerは、消滅しタッ!余ヲ縛ル鎖は、余を妨ゲる殻は存在死ナい!」
上条当麻の声に、不穏なドラゴンの声が混じりだす。
「なぜ人は現実から目を逸らそウとする!?事象を数字や文字に置キ換えル時点で、齟齬が発生スル事は自明ノ理デハナイカ?故に、人ハ愚かであRu!たダ――――」
ドラゴンは言った。
『魔神』は、
「ギィィャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハahasyutwpッ…!!!」
嗤う。
静寂な世界に、『神』の嘲笑だけが木霊した。
「……嘘…でしょ?」
『神』は、ボロボロになった赤色のシャツを破り捨てた。上半身には、五和が刺した刺し傷と、御坂美琴が撃った銃創から血が流れ、所々には、過去の戦いの証とも言える生傷の痕が残っている。『神』の首には、御坂美琴とお揃いのピンクゴールドアクアマリンのネックレスが揺れていた。
突如、禍々しく、黒い『何か』が上条当麻の全身を覆った。
体中から噴出した『何か』が右腹部の銃創と胸部の刺し傷に吸い込まれていく。そして、傷は消去された。
傷一つない筋肉質の肉体。そして、素肌に刻まれていく漆黒の紋章。
まるで群れる蛇のように這いずりまわる刻印は、『神』の顔面に到達した。
狂喜に染まった真紅の瞳が、青く輝く夜を映し出した。
「イMaジンbreakerは、消滅しタッ!余ヲ縛ル鎖は、余を妨ゲる殻は存在死ナい!」
上条当麻の声に、不穏なドラゴンの声が混じりだす。
「なぜ人は現実から目を逸らそウとする!?事象を数字や文字に置キ換えル時点で、齟齬が発生スル事は自明ノ理デハナイカ?故に、人ハ愚かであRu!たダ――――」
ドラゴンは言った。
「在ルガママヲ受ケ入イレレバヨイノダ」
絶対的な恐怖が、少女たちの心を殺す。
断続的に鳴り響いていた銃声すら、ピタリと止まった。
誰も、声を発する事が出来ない。
呼吸すら許されない。
「レールガン、ト言ッタカ?」
その声に、御坂美琴は震えだす。
ブワッ…と、漆黒の『何か』はあるモノを形成する。
禍々しくも神々しく感じられる竜王の頭部が、人間が呑み込めそうなほど大きな口を開いた。
「ナカナカ痛カッタゾ?アレハ…」
『上条当麻』の真紅の瞳と、『竜王の顎(ドラゴンストライク)』の深紅の瞳が、彼女の心を串刺しにした。
御坂美琴の喉は冷え上がった。
「ひっ…!」
視界が揺らぐ。
無意識に涙が溢れた。
膝から力が抜けた少女は、視線を逸らし、隣を見た。
「……あ……あっ…い、いぃ…」
目に映ったのは、その場にへたり込んだミサカ一〇〇三二号が口を開き、ドラゴンを見つめたまま、失禁していた姿だった。
恐怖で、身動き一つ取れない淑女たち。
(いやだ……こんなとこで、死にたくない…)
竜王の顎が、青白く光り出す。
断続的に鳴り響いていた銃声すら、ピタリと止まった。
誰も、声を発する事が出来ない。
呼吸すら許されない。
「レールガン、ト言ッタカ?」
その声に、御坂美琴は震えだす。
ブワッ…と、漆黒の『何か』はあるモノを形成する。
禍々しくも神々しく感じられる竜王の頭部が、人間が呑み込めそうなほど大きな口を開いた。
「ナカナカ痛カッタゾ?アレハ…」
『上条当麻』の真紅の瞳と、『竜王の顎(ドラゴンストライク)』の深紅の瞳が、彼女の心を串刺しにした。
御坂美琴の喉は冷え上がった。
「ひっ…!」
視界が揺らぐ。
無意識に涙が溢れた。
膝から力が抜けた少女は、視線を逸らし、隣を見た。
「……あ……あっ…い、いぃ…」
目に映ったのは、その場にへたり込んだミサカ一〇〇三二号が口を開き、ドラゴンを見つめたまま、失禁していた姿だった。
恐怖で、身動き一つ取れない淑女たち。
(いやだ……こんなとこで、死にたくない…)
竜王の顎が、青白く光り出す。
「失セロ―――――――――オンナ」
ドバァッ!!と。
天空を貫く『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』が、周囲一帯を巻き込んで彼女たちを掻き消した。
ありとあらゆる物質は、轟音をかき鳴らし吹き飛ばされていく。
ビルを突きぬけ、学園都市の城壁を突きぬけ、山を貫通し、空を貫く。
雲が左右に引き裂かれ、青白い閃光が一本の線を描いた。
右手から解放されている『竜王の顎(ドラゴンストライク)』は現界し始め、その姿はリアルさを帯びていた。
人の腕と同じ長さがある尖った牙、二メートルを越えた口。分厚い皮膚を覆う漆黒の剛毛、そして、『魔神』と同質の真紅の瞳。
四つの眼が、『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』で焼け焦げた大地を見つめていた。
両脇には、荒廃した都市が残っている。
「…フッ」
ドラゴンが、
「フハハハハハ…」
小さな笑みをこぼした。
「…余ハ待ッテイタゾ」
そして、問いかける。
天空を貫く『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』が、周囲一帯を巻き込んで彼女たちを掻き消した。
ありとあらゆる物質は、轟音をかき鳴らし吹き飛ばされていく。
ビルを突きぬけ、学園都市の城壁を突きぬけ、山を貫通し、空を貫く。
雲が左右に引き裂かれ、青白い閃光が一本の線を描いた。
右手から解放されている『竜王の顎(ドラゴンストライク)』は現界し始め、その姿はリアルさを帯びていた。
人の腕と同じ長さがある尖った牙、二メートルを越えた口。分厚い皮膚を覆う漆黒の剛毛、そして、『魔神』と同質の真紅の瞳。
四つの眼が、『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』で焼け焦げた大地を見つめていた。
両脇には、荒廃した都市が残っている。
「…フッ」
ドラゴンが、
「フハハハハハ…」
小さな笑みをこぼした。
「…余ハ待ッテイタゾ」
そして、問いかける。
「『魔神』ヨ…」
ドラゴンの背後にいたのは、三人の少女だった。
一人は、『幻想御手(レベルアッパー)』を解き、力抜く御坂美琴。
もう一人は膝をつき、茫然自失としているミサカ一〇〇三二号。
そして、
ドラゴンに対して、二人の少女を背に立ちはだかる者は『魔神』だった。
「大丈夫?みことちゃん。ミサカ」
「…うん」
「…………」
一言も発せず、視点が定まらないミサカを見て、
「…『魔の波動』に精神をやられちゃってる。早く避難させて。魔力はこれ以上使いたくないから」
「了解…」
御坂美琴はミサカ一〇〇三二号に黒のマントを着せ、彼女の肩を担ぐ。
少女は再び、ドラゴンに目を向けた。
『歩く教会』と呼ばれる修道服を身に纏い、腰まである銀の長髪。整った容姿に碧眼の瞳、一六三センチほどの背丈。
一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記憶する世界最高の魔術師。
正式名称『Index-Librorum-Prohibitorum』。
魔法名、
「献身的な子羊は強者の知識を守る(dedicatus545)――――――――――――――」
『魔神』こと、インデックスは告げた。
大気中に溢れる莫大な魔力が、急激に収束する。
碧眼に宿る想いは、強固な意思。
ドラゴンは言った。
「ドウダ?余ト並ビ合ウ女ニハオ前コソ相応シイ。喜ベ、『魔神』。貴様ハ神ニ選バレ、生キル事ヲ許サレタノダ」
「神様は神様でも、『神(バケモノ)』に興味は無いの」
ふん、とインデックスは鼻で笑った。
「とうまはみことちゃんっていう恋人がいるのに、他の女の子といっぱい浮気するし、フラフラしてる男はもっと大っ嫌い!」
いつものように、上条当麻に説教をするが如く、インデックスは叫ぶ。
「それにね。貴女は私が好きなんじゃない」
「?」
「貴方はね。私が怖いんだよ」
「余ガ?オ前ニ恐怖ヲ抱イテイルダト?」
ドラゴンは、初めて『魔神』に振り返った。
一七九センチの身長に、ツンツンとした黒髪。
赤く染まった真紅の瞳。
露出した上半身に刻まれている漆黒の刻印。
右腕から出現した『竜王(ドラゴン)』の頭部。
『幻想殺し(イマジンブレイカー)』はすでに消滅し、上条当麻の中で再構築されたドラゴンは、封印を解かれようとしている。
「貴方は私と対等って言ったよね?それは私が貴方を滅ぼせる唯一の存在ということ。だから、私を籠絡しようとしてる」
「フハハハハハハハha!!貴様ガ余ヲ殺スダト?!」
一人は、『幻想御手(レベルアッパー)』を解き、力抜く御坂美琴。
もう一人は膝をつき、茫然自失としているミサカ一〇〇三二号。
そして、
ドラゴンに対して、二人の少女を背に立ちはだかる者は『魔神』だった。
「大丈夫?みことちゃん。ミサカ」
「…うん」
「…………」
一言も発せず、視点が定まらないミサカを見て、
「…『魔の波動』に精神をやられちゃってる。早く避難させて。魔力はこれ以上使いたくないから」
「了解…」
御坂美琴はミサカ一〇〇三二号に黒のマントを着せ、彼女の肩を担ぐ。
少女は再び、ドラゴンに目を向けた。
『歩く教会』と呼ばれる修道服を身に纏い、腰まである銀の長髪。整った容姿に碧眼の瞳、一六三センチほどの背丈。
一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記憶する世界最高の魔術師。
正式名称『Index-Librorum-Prohibitorum』。
魔法名、
「献身的な子羊は強者の知識を守る(dedicatus545)――――――――――――――」
『魔神』こと、インデックスは告げた。
大気中に溢れる莫大な魔力が、急激に収束する。
碧眼に宿る想いは、強固な意思。
ドラゴンは言った。
「ドウダ?余ト並ビ合ウ女ニハオ前コソ相応シイ。喜ベ、『魔神』。貴様ハ神ニ選バレ、生キル事ヲ許サレタノダ」
「神様は神様でも、『神(バケモノ)』に興味は無いの」
ふん、とインデックスは鼻で笑った。
「とうまはみことちゃんっていう恋人がいるのに、他の女の子といっぱい浮気するし、フラフラしてる男はもっと大っ嫌い!」
いつものように、上条当麻に説教をするが如く、インデックスは叫ぶ。
「それにね。貴女は私が好きなんじゃない」
「?」
「貴方はね。私が怖いんだよ」
「余ガ?オ前ニ恐怖ヲ抱イテイルダト?」
ドラゴンは、初めて『魔神』に振り返った。
一七九センチの身長に、ツンツンとした黒髪。
赤く染まった真紅の瞳。
露出した上半身に刻まれている漆黒の刻印。
右腕から出現した『竜王(ドラゴン)』の頭部。
『幻想殺し(イマジンブレイカー)』はすでに消滅し、上条当麻の中で再構築されたドラゴンは、封印を解かれようとしている。
「貴方は私と対等って言ったよね?それは私が貴方を滅ぼせる唯一の存在ということ。だから、私を籠絡しようとしてる」
「フハハハハハハハha!!貴様ガ余ヲ殺スダト?!」
「私は『識』ってるよ。貴方を、ドラゴンを殺す方法をね」
「図ニ乗ルナァ!!小娘ガァアア!!」
嘲笑は突如として怒号に変わる。
大気を震わす波動。
凶暴な闇が地上を覆う。
漆黒に染まった『竜王の翼(ドラゴンウイング)』がついに顕在化した。
『一方通行(アクセラレータ)』の不完全な翼とは違い、輪郭が明確に見える。
例えるならば、『堕天使』の翼。
嘲笑は突如として怒号に変わる。
大気を震わす波動。
凶暴な闇が地上を覆う。
漆黒に染まった『竜王の翼(ドラゴンウイング)』がついに顕在化した。
『一方通行(アクセラレータ)』の不完全な翼とは違い、輪郭が明確に見える。
例えるならば、『堕天使』の翼。
「お前こそ、人間を甘く見るな」
『L'homme courageux confronte plusieurs mille ennemis à une épée――』
『Le sage unifie les gens avec la connaissance abondante――』
『Lorsqu'un ange descend dans la terre, les gens se les prosterneront à l'ange――』
『Le diable tente un être humain fidèle――』
『Les êtres humains entassent et provoquent le pouvoir énorme――』
魔神は唱えた。
重複詠唱は、二重の意味を持つ言葉を並列させ、同時に二つの呪文を唱えると言った事が多い。日本語においては、掛け言葉を用いると言った方が理解しやすいだろう。母音と子音を並行させ、一つの呪文に二重の意味を持たせる。これが『二重詠唱(ダブルスペル)』の基本である。
だが、インデックスの行った重複詠唱は次元が違う。
発生する声を時間ごとずらした異時間収束詠唱であり、幾多の魔道書を応用した『五重詠唱(ペンタスペル)』。
『Le sage unifie les gens avec la connaissance abondante――』
『Lorsqu'un ange descend dans la terre, les gens se les prosterneront à l'ange――』
『Le diable tente un être humain fidèle――』
『Les êtres humains entassent et provoquent le pouvoir énorme――』
魔神は唱えた。
重複詠唱は、二重の意味を持つ言葉を並列させ、同時に二つの呪文を唱えると言った事が多い。日本語においては、掛け言葉を用いると言った方が理解しやすいだろう。母音と子音を並行させ、一つの呪文に二重の意味を持たせる。これが『二重詠唱(ダブルスペル)』の基本である。
だが、インデックスの行った重複詠唱は次元が違う。
発生する声を時間ごとずらした異時間収束詠唱であり、幾多の魔道書を応用した『五重詠唱(ペンタスペル)』。
『我、耐え忍ばん(ペル・デュラーヴォ)――!!』
『真理の力もて宇宙を征服せり(ヴィ・ヴェリ・ヴィンバースム・ヴィヴス・ヴィシー)――!!』
『大いなる獣(メガ・テリオン)――――!!』
『最高位の神よ、我に力をお与えください(ケテル=アデプタス・マイナー)――!!』
『神々の楽園(ヴァルハラ・ディ・リューベヌ)――!!』
『真理の力もて宇宙を征服せり(ヴィ・ヴェリ・ヴィンバースム・ヴィヴス・ヴィシー)――!!』
『大いなる獣(メガ・テリオン)――――!!』
『最高位の神よ、我に力をお与えください(ケテル=アデプタス・マイナー)――!!』
『神々の楽園(ヴァルハラ・ディ・リューベヌ)――!!』
光が爆発する。
三日三晩唱え続けねばならない詠唱は、『高速詠唱(クイックスペル)』によって一瞬で終わり、伝説級の大魔術が同時に発動した。
『魔神』を幾多の紋章が覆う。
魔法陣を描く色は、白、黒、赤、青、黄、緑、紫の七つ。
全ての属性を表す七色の光が世界を彩った。
解き放たれる対軍式教皇魔術。
禁忌とされた広範囲爆撃の殲滅術式。
『全能神(ゼウス)』のみが使役できる伝説の神獣。
神の崇拝によって、人々の能力を向上させる上級魔術。
天使の加護を顕在化した治癒魔術。
魔力は刻まれた術式を流れ、姿、性質を変えていく。
「ナァッ…!」
ドラゴンは圧倒された。
震える大地。
闇を切り裂く光。
その光景に、魔術師たちは絶句した。
三日三晩唱え続けねばならない詠唱は、『高速詠唱(クイックスペル)』によって一瞬で終わり、伝説級の大魔術が同時に発動した。
『魔神』を幾多の紋章が覆う。
魔法陣を描く色は、白、黒、赤、青、黄、緑、紫の七つ。
全ての属性を表す七色の光が世界を彩った。
解き放たれる対軍式教皇魔術。
禁忌とされた広範囲爆撃の殲滅術式。
『全能神(ゼウス)』のみが使役できる伝説の神獣。
神の崇拝によって、人々の能力を向上させる上級魔術。
天使の加護を顕在化した治癒魔術。
魔力は刻まれた術式を流れ、姿、性質を変えていく。
「ナァッ…!」
ドラゴンは圧倒された。
震える大地。
闇を切り裂く光。
その光景に、魔術師たちは絶句した。
(二日目)16時59分44秒
戦場から数キロ離れている天草式に、変化が訪れる。
「光る…雨?」
キラキラと光る雫が、周辺に降り注いでいた。
光は、負った傷口へと触れて、
「傷が、癒えていく…?」
意識を失った者は取り戻し、怪我は目に見える速度で治っていく。
血が溢れだしていた腹部が徐々に塞がり、神裂火織は目を覚ました。
心配していた仲間たちは声を上げた。
「プリエステスさ…ま?」
「…あ…よ…よか、った……」
「目を、開けた…プ、プリエステス様ぁ…」
「光る…雨?」
キラキラと光る雫が、周辺に降り注いでいた。
光は、負った傷口へと触れて、
「傷が、癒えていく…?」
意識を失った者は取り戻し、怪我は目に見える速度で治っていく。
血が溢れだしていた腹部が徐々に塞がり、神裂火織は目を覚ました。
心配していた仲間たちは声を上げた。
「プリエステスさ…ま?」
「…あ…よ…よか、った……」
「目を、開けた…プ、プリエステス様ぁ…」
「……すごい」
御坂美琴は目を奪われていた。
インデックスが、ドラゴンを圧倒している。
一〇〇〇億ボルトの電撃とは比べ物にならないくらいのチカラで。
普段は、当たり前のように当麻の隣を独占していて、つまらない理由で当麻に噛みつくだけの少女だった。
可愛くて、賢くて、いつも何か食べている食欲旺盛な女の子、というのが彼女の印象だった。
だが、戦場に立つとその姿は豹変する。
並び立つ者は存在しない。
最強であるがゆえに――
『魔神』であるがゆえに――
だからこそ、彼女は、上条当麻の隣にいる。
『魔神』は告げる。
御坂美琴は目を奪われていた。
インデックスが、ドラゴンを圧倒している。
一〇〇〇億ボルトの電撃とは比べ物にならないくらいのチカラで。
普段は、当たり前のように当麻の隣を独占していて、つまらない理由で当麻に噛みつくだけの少女だった。
可愛くて、賢くて、いつも何か食べている食欲旺盛な女の子、というのが彼女の印象だった。
だが、戦場に立つとその姿は豹変する。
並び立つ者は存在しない。
最強であるがゆえに――
『魔神』であるがゆえに――
だからこそ、彼女は、上条当麻の隣にいる。
『魔神』は告げる。
雲川芹亜は告げる。
「結標!」
『ああ――――分かってる…わ、よっ!』
第三学区で待機していた結標淡希の眼には、戦場のリアルタイムの映像が映されている。『竜王』、『魔神』、『超電磁砲』、『妹達』のビジョンがあり、その下にはアルファベットと数字で表された座標が羅列されていた。
強烈な頭痛に、結標淡希の意識は揺らぐ。
(――――――――っ…あっ……―――――――!)
彼女の瞳は黄金に輝いていた。
全身が震えていた。あごが震え、ガチガチと歯を鳴らす。唇を噛みしめるが、痛みがまったく感じられない。気を引き締めないと今にも意識が遠のいてしまう。
しかし、これは当然の結果だった。むしろ、こうして彼女が意識を保っている事自体、奇跡と言ってもよい。
「結標!」
『ああ――――分かってる…わ、よっ!』
第三学区で待機していた結標淡希の眼には、戦場のリアルタイムの映像が映されている。『竜王』、『魔神』、『超電磁砲』、『妹達』のビジョンがあり、その下にはアルファベットと数字で表された座標が羅列されていた。
強烈な頭痛に、結標淡希の意識は揺らぐ。
(――――――――っ…あっ……―――――――!)
彼女の瞳は黄金に輝いていた。
全身が震えていた。あごが震え、ガチガチと歯を鳴らす。唇を噛みしめるが、痛みがまったく感じられない。気を引き締めないと今にも意識が遠のいてしまう。
しかし、これは当然の結果だった。むしろ、こうして彼女が意識を保っている事自体、奇跡と言ってもよい。
なぜなら、『幻想御手(レベルアッパー)』を用いて、避難している二三〇万人の脳を統括しているのだから。
第七学区の避難シェルター内の人間だけではない。今では全学区の避難した人々は、『幻想御手(レベルアッパー)』の音楽を耳にして、気を失っている。人々は、脳内の波長を強制的に結標淡希と合わせられている。
至宝院久蘭はこの事に気づき、それを甘受した。
これこそが、ドラゴンを倒す方法だと彼女は理解していた。
エリア内のAIMが大きく歪み、雲川芹亜は膝をつく。モニターが点滅し、アラームが鳴り響くが彼女はそのスクリーンを「機械は、黙っていろっ!」と叩き壊した。
(い、今なら―――『絶対能力者(レベル6)』にも、勝て――る気が、す、る―――――)
朦朧としている意識の中で結標淡希は笑った。鼻と目から血が溢れている。
雲川芹亜は小型マイクを手に、
『第一学区から第一四学区、一六、一七、一八、二〇学区内に待機している魔術師達に告げる!今から固定座標に向け、テレポートを行う!用意はいいな!失敗は許されない!では、いくぞッ!!』
黄金の瞳は輝いた。
結標淡希はチェアに座ったまま、ケーブルを引き千切り、両手を天に上げた。
(一二五号四四分二八秒八七〇一傾斜〇〇二二―――――――――――――――固定完了。
一二五号四四分二七秒八九四五傾斜〇〇一九―――――――――――――――固定完了。
一二五号四四分二七秒八九〇六傾斜〇〇一八―――――――――――――――固定完了。
一二五号四四分二七秒八八一四傾斜〇〇一九―――――――――――――――固定完了。
九八四号三二分七八秒四八三四傾斜〇〇〇五―――――――――――――――固定完了。
九八四号三二分七八秒四八七八傾斜〇〇一二―――――――――――――――固定完了。
九八四号三二分七八秒四八二二傾斜〇〇二〇―――――――――――――――固定完了。
五一一号六九分五九秒八八八八傾斜〇〇三一―――――――――――――――固定完了。
五一一号六九分五九秒〇四七七傾斜〇〇三四―――――――――――――――固定完了。
四三八号七八分〇一秒〇〇二九傾斜〇〇〇〇―――――――――――――――固定完了。
コードP9C2000568S―シークレットコード『オメガ』。
承認しました。
『マザー』は、第一二学区エリアにおける移動先の固定座標を表示します。
以下、
EA〇〇〇一九八AA.
EA〇〇〇一九九AA.
EA〇〇〇二〇〇AA.
EA〇〇〇二〇一AA.
至宝院久蘭はこの事に気づき、それを甘受した。
これこそが、ドラゴンを倒す方法だと彼女は理解していた。
エリア内のAIMが大きく歪み、雲川芹亜は膝をつく。モニターが点滅し、アラームが鳴り響くが彼女はそのスクリーンを「機械は、黙っていろっ!」と叩き壊した。
(い、今なら―――『絶対能力者(レベル6)』にも、勝て――る気が、す、る―――――)
朦朧としている意識の中で結標淡希は笑った。鼻と目から血が溢れている。
雲川芹亜は小型マイクを手に、
『第一学区から第一四学区、一六、一七、一八、二〇学区内に待機している魔術師達に告げる!今から固定座標に向け、テレポートを行う!用意はいいな!失敗は許されない!では、いくぞッ!!』
黄金の瞳は輝いた。
結標淡希はチェアに座ったまま、ケーブルを引き千切り、両手を天に上げた。
(一二五号四四分二八秒八七〇一傾斜〇〇二二―――――――――――――――固定完了。
一二五号四四分二七秒八九四五傾斜〇〇一九―――――――――――――――固定完了。
一二五号四四分二七秒八九〇六傾斜〇〇一八―――――――――――――――固定完了。
一二五号四四分二七秒八八一四傾斜〇〇一九―――――――――――――――固定完了。
九八四号三二分七八秒四八三四傾斜〇〇〇五―――――――――――――――固定完了。
九八四号三二分七八秒四八七八傾斜〇〇一二―――――――――――――――固定完了。
九八四号三二分七八秒四八二二傾斜〇〇二〇―――――――――――――――固定完了。
五一一号六九分五九秒八八八八傾斜〇〇三一―――――――――――――――固定完了。
五一一号六九分五九秒〇四七七傾斜〇〇三四―――――――――――――――固定完了。
四三八号七八分〇一秒〇〇二九傾斜〇〇〇〇―――――――――――――――固定完了。
コードP9C2000568S―シークレットコード『オメガ』。
承認しました。
『マザー』は、第一二学区エリアにおける移動先の固定座標を表示します。
以下、
EA〇〇〇一九八AA.
EA〇〇〇一九九AA.
EA〇〇〇二〇〇AA.
EA〇〇〇二〇一AA.
『転送』を開始します―――――――――――――――――――――――――――――)
数キロから数十キロ離れている九〇〇名以上の人間を、『超能力者(レベル5)』第五位、結標淡希は『座標移動(ムーブポイント)』を使い、一か所にテレポートさせた。
役目を終えた瞬間、彼女の意識は吹き飛んだ。
数キロから数十キロ離れている九〇〇名以上の人間を、『超能力者(レベル5)』第五位、結標淡希は『座標移動(ムーブポイント)』を使い、一か所にテレポートさせた。
役目を終えた瞬間、彼女の意識は吹き飛んだ。
第一二学区。
九九九名の魔術師たちは突如、姿を現した。
その存在を感知したドラゴンは、
「――――――ナンダ?」
ドラゴンを囲むように、多くの魔術師たちは唱える。
全員の詠唱が一つとなる。
九九九名の魔術師たちは突如、姿を現した。
その存在を感知したドラゴンは、
「――――――ナンダ?」
ドラゴンを囲むように、多くの魔術師たちは唱える。
全員の詠唱が一つとなる。
『El grupo de cielos da el velo――――――』
(天界の一団がヴェールを上げる――)
(天界の一団がヴェールを上げる――)
『Todos los hombres, todas las mujeres son las estrellas――』
(すべての男、すべての女は星である――)
(すべての男、すべての女は星である――)
『Todos los números son infinitos. Hay ningún cualquier amable de diferencia allí, también――』.
(すべての数は無限。そこには如何なる差異も無し――)
(すべての数は無限。そこには如何なる差異も無し――)
『Tú como mi núcleo confidencial.Vuélvete mi corazón y mi lengua!――』
(わが秘密の中枢たるハディートよ、わが心臓、そして我が舌となれ!――)
(わが秘密の中枢たるハディートよ、わが心臓、そして我が舌となれ!――)
『Parece. Los sirve. Fue revelado por ella――』
(見よ。それはパール、パアル、クラアトに仕える、アイリスによりて啓示された――)
(見よ。それはパール、パアル、クラアトに仕える、アイリスによりて啓示された――)
『Hay él en ella, pero no hay ella en él.――』
(クハプスはクーに在るのであり、クーがクハプスで在るのではなく――)
(クハプスはクーに在るのであり、クーがクハプスで在るのではなく――)
『Ríndete culto a Dios si salgo. ¡Y debes ver a mi ser ligero vertido en ti!』
(さればクハプスを崇めよ、そして、わが光がおまえの上に降り注がれるのを見るがよい!)
(さればクハプスを崇めよ、そして、わが光がおまえの上に降り注がれるのを見るがよい!)
『Realiza un lugar para hacer quiere del tú. No se vuelve todos ley――』
(汝の意志するところを行え。それが法の全てとならん――)
(汝の意志するところを行え。それが法の全てとならん――)
同じ魔術師とはいえ、かつては騙し合い、殺し合っていた。
そして、科学を憎んでいた。
しかし、今、魔術師は一つの目的の為に互いに助け合い、共闘している。
一年前とは違う。
ドラゴンを滅ぼすためだけに、声も心も、魔力も一つになり、一つの術式を完成させる。
『法の書(リベル・ギレス)』に記されていた伝説級の大魔術、
『魔神』は命名する。
その名も――――
そして、科学を憎んでいた。
しかし、今、魔術師は一つの目的の為に互いに助け合い、共闘している。
一年前とは違う。
ドラゴンを滅ぼすためだけに、声も心も、魔力も一つになり、一つの術式を完成させる。
『法の書(リベル・ギレス)』に記されていた伝説級の大魔術、
『魔神』は命名する。
その名も――――
『並行世界(リアルワールド)――――――――――――――――――――――――!!』
時刻は、
17時00分00秒
を指していた。
17時00分00秒
を指していた。
『竜王(ドラゴン)』は初めて、気づいた。
全ては布石だったのだと。
『魔王』の襲撃も。
魔術師たちの攻防も。
能力者たちの戦いも。
この術式を完成させる為の時間稼ぎでしか無かった。
全ては布石だったのだと。
『魔王』の襲撃も。
魔術師たちの攻防も。
能力者たちの戦いも。
この術式を完成させる為の時間稼ぎでしか無かった。
あらかじめ、学園都市に潜り込んだ魔術師達は、『竜王(ドラゴン)』に悟られないように、各学区の片隅で隠れて詠唱を始めていた。『必要悪の教会(ネセサリウス)』のアニェーゼ軍団は、『一方通行(アクセラレータ)』の回復魔法の為に外されていたが、残り九九九名の魔術師は、大魔術の準備をしていた。避難した二五〇万の人々を『幻想御手(レベルアッパー)』の被験者として用い、それを『超能力者(レベル5)』第五位の『座標移動(ムーブポイント)』、結標淡希の能力を爆発的に向上させたのだ。
そして、詠唱が最終章に入る頃合いを見計らって、インデックスの合図と共に、大魔術『並行世界(リアルワールド)』を行う為の的確な位置、方角へ魔術師達を瞬時に移動させる。
これが、『並行世界(リアルワールド)』の大まかな全容である。
『竜王(ドラゴン)』は空を見上げた。
暗黒の夜に浮かぶのは、天を覆う巨大な魔法陣。『王冠(ケテル)』、『知恵(コクマー)』、『理解(ビナー)』、『慈悲(ケセド)』、『峻厳(ゲブラー)』、『美(ティファレト)』、『勝利(ネツァク)』、『栄光(ホド)』、『基礎(イェソド)』、『王国(マルクト)』を意味する一〇のセフィラが輝き、二二のパスが繋がる。
だが、『創造神(エイン・ソフ)』が作り出した世界には、もう一つの要素が足りない。それは人を『楽園(エデン)』から追放した根源であり、一一つ目のセフィラ、『知識(ダアト)』がである。
そして、一一目のセフィラが召喚され、
セフィロトの樹が完成した。
(…まさか、神と守護天使を魔力の大器として使う気か?!)
『竜王(ドラゴン)』が驚くのも無理はない。
セフィロトの樹は、魔法陣の一部でしか無かった。
生命の樹を刻んだ六つの円陣が存在し、『(始祖の六芒星)HeXagram of Crowley』を形成していた。
故に、莫大な魔力を必要とする大魔術『並行世界(リアルワールド)』を、『魔神』はセフィロトの樹をエネルギー源として実行したのだ。
グルリと、天空を覆う魔法陣は回転した。
『竜王(ドラゴン)』は戦慄する。
脚部が漆黒の『何か』に覆われ、トカゲのような、地面に食い込む足のカタチに変貌した。
だが、
「時間移動なんて、させないよ!」
『竜王の脚(ドラゴンソニック)』を解放すると同時に『魔神』が仕掛けていた術式が発動し、竜王の足は、ジュワッ!と赤い炎に包まれた。
菱形模様の網目の鎖が、竜王の足を絡め取る。
「小癪ナァ…!!」
『竜王の顎(ドラゴンストライク)』と『竜王の翼(ドラゴンウイング)』が、真の威力を発揮する。
そして、詠唱が最終章に入る頃合いを見計らって、インデックスの合図と共に、大魔術『並行世界(リアルワールド)』を行う為の的確な位置、方角へ魔術師達を瞬時に移動させる。
これが、『並行世界(リアルワールド)』の大まかな全容である。
『竜王(ドラゴン)』は空を見上げた。
暗黒の夜に浮かぶのは、天を覆う巨大な魔法陣。『王冠(ケテル)』、『知恵(コクマー)』、『理解(ビナー)』、『慈悲(ケセド)』、『峻厳(ゲブラー)』、『美(ティファレト)』、『勝利(ネツァク)』、『栄光(ホド)』、『基礎(イェソド)』、『王国(マルクト)』を意味する一〇のセフィラが輝き、二二のパスが繋がる。
だが、『創造神(エイン・ソフ)』が作り出した世界には、もう一つの要素が足りない。それは人を『楽園(エデン)』から追放した根源であり、一一つ目のセフィラ、『知識(ダアト)』がである。
そして、一一目のセフィラが召喚され、
セフィロトの樹が完成した。
(…まさか、神と守護天使を魔力の大器として使う気か?!)
『竜王(ドラゴン)』が驚くのも無理はない。
セフィロトの樹は、魔法陣の一部でしか無かった。
生命の樹を刻んだ六つの円陣が存在し、『(始祖の六芒星)HeXagram of Crowley』を形成していた。
故に、莫大な魔力を必要とする大魔術『並行世界(リアルワールド)』を、『魔神』はセフィロトの樹をエネルギー源として実行したのだ。
グルリと、天空を覆う魔法陣は回転した。
『竜王(ドラゴン)』は戦慄する。
脚部が漆黒の『何か』に覆われ、トカゲのような、地面に食い込む足のカタチに変貌した。
だが、
「時間移動なんて、させないよ!」
『竜王の脚(ドラゴンソニック)』を解放すると同時に『魔神』が仕掛けていた術式が発動し、竜王の足は、ジュワッ!と赤い炎に包まれた。
菱形模様の網目の鎖が、竜王の足を絡め取る。
「小癪ナァ…!!」
『竜王の顎(ドラゴンストライク)』と『竜王の翼(ドラゴンウイング)』が、真の威力を発揮する。
グバァァッ!!と。
絶対的なチカラによって、白の世界が生まれた。
絶対的なチカラによって、白の世界が生まれた。
天を貫く『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』。
一瞬にして、数百キロの大地を灰と化す『竜王の翼(ドラゴンウイング)』。
あのフィアンマを持ってしても、『竜王(ドラゴン)』の一部である『竜王の鉤爪(ドラゴンクロー)』を完全に操る事が出来なかった。人間の脳では、神の肉体を制御することで精一杯だ。
全知を持つ『竜王の顎(ドラゴンストライク)』だけが、己の肉体を司り、自在に操る事が出来る。
一撃でもまともに当たれば、人間は瞬時にして水と二酸化炭素となり、跡形も残らない。
『魔神』は告げる。
一瞬にして、数百キロの大地を灰と化す『竜王の翼(ドラゴンウイング)』。
あのフィアンマを持ってしても、『竜王(ドラゴン)』の一部である『竜王の鉤爪(ドラゴンクロー)』を完全に操る事が出来なかった。人間の脳では、神の肉体を制御することで精一杯だ。
全知を持つ『竜王の顎(ドラゴンストライク)』だけが、己の肉体を司り、自在に操る事が出来る。
一撃でもまともに当たれば、人間は瞬時にして水と二酸化炭素となり、跡形も残らない。
『魔神』は告げる。
『全知全能神の盾(アイギス)―――――――――!!』
『全知全能神の盾(アイギス)―――――――――!!』
『全知全能神の盾(アイギス)―――――――――!!』
『全知全能神の盾(アイギス)―――――――――!!』
『全知全能神の盾(アイギス)―――――――――!!』
『全知全能神の盾(アイギス)―――――――――!!』
『全知全能神の盾(アイギス)―――――――――!!』
『全知全能神の盾(アイギス)―――――――――!!』
『全知全能神の盾(アイギス)―――――――――!!』
あらゆる魔術や核兵器すら防ぐ絶対防御魔法。
その防護陣は、聖ピエトロ大聖堂や聖ジョージ大聖堂の防壁を遥かに上回る。
『五重詠唱(ペンタスペル)』によって、五つの黄金の盾が同時に出現し、『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』と『竜王の翼(ドラゴンウイング)』を防いだ。黄金の盾と言っても、五つの盾の周囲には、黄金の膜のような魔術障壁が、『竜王(ドラゴン)を覆うように半球体の形を象っていた。
だが、
「嘘っ!?間に合わなかったの?!」
『魔神』は驚愕する。
ビキリ!と、『全知全能神の盾(アイギス)』に亀裂が走った。
圧倒的なチカラは、絶対的なチカラには勝てない。
『並行世界(リアルワールド)』はまだ完成していない。今、天空にある巨大な術式が破壊されてしまえば、全てが水の泡だ。
『魔神』は、聡明すぎるがゆえに理解してしまった。
人間の敗北を。
その防護陣は、聖ピエトロ大聖堂や聖ジョージ大聖堂の防壁を遥かに上回る。
『五重詠唱(ペンタスペル)』によって、五つの黄金の盾が同時に出現し、『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』と『竜王の翼(ドラゴンウイング)』を防いだ。黄金の盾と言っても、五つの盾の周囲には、黄金の膜のような魔術障壁が、『竜王(ドラゴン)を覆うように半球体の形を象っていた。
だが、
「嘘っ!?間に合わなかったの?!」
『魔神』は驚愕する。
ビキリ!と、『全知全能神の盾(アイギス)』に亀裂が走った。
圧倒的なチカラは、絶対的なチカラには勝てない。
『並行世界(リアルワールド)』はまだ完成していない。今、天空にある巨大な術式が破壊されてしまえば、全てが水の泡だ。
『魔神』は、聡明すぎるがゆえに理解してしまった。
人間の敗北を。
「世界は……終わる」
『竜王(ドラゴン)』は理解した。
己の勝利を。
「フハハハハハハッ!所詮、貴様ラハ微弱タル動物ダ!幾ラ群レヨウトモ、神ニハ及バヌ!死ヲ持ッテ知ルガヨイ!」
『魔神』の目に、涙が滲んだ。
「ごめんなさい……皆」
『全知全能神の盾(アイギス)』の裂け目から、『竜王の翼(ドラゴンウイング)』の光が噴出していた。亀裂は更に増していく。
『魔神』は魔術を使って空に浮かび上がり、『竜王(ドラゴン)』と『並行世界(リアルワールド)』の魔法陣の間に立ち塞がった。
ほんの一瞬でいい。
『歩く教会』を盾にすることで、時間を稼ぐ。
彼女に出来ることはそれだけだった。
御坂美琴を含める能力者と魔術師たちは、無数の『闇』の軍勢と戦っていた。『神々の楽園(ヴァルハラ・ディ・リューベヌ)』で完全治癒を施し、負傷したウィリアム=オルウェルたちも復帰している。
『夜舞う死を恐れぬ軍兵(ゾンビパウダー)』は、半永久的に『闇』から兵を作り出す魔術であり、闇の世界である夜に、幾ら倒してもキリが無い。
だが、皆はあきらめない。
九九九名の魔術師も勝利を信じ、唱え続けている。
己の勝利を。
「フハハハハハハッ!所詮、貴様ラハ微弱タル動物ダ!幾ラ群レヨウトモ、神ニハ及バヌ!死ヲ持ッテ知ルガヨイ!」
『魔神』の目に、涙が滲んだ。
「ごめんなさい……皆」
『全知全能神の盾(アイギス)』の裂け目から、『竜王の翼(ドラゴンウイング)』の光が噴出していた。亀裂は更に増していく。
『魔神』は魔術を使って空に浮かび上がり、『竜王(ドラゴン)』と『並行世界(リアルワールド)』の魔法陣の間に立ち塞がった。
ほんの一瞬でいい。
『歩く教会』を盾にすることで、時間を稼ぐ。
彼女に出来ることはそれだけだった。
御坂美琴を含める能力者と魔術師たちは、無数の『闇』の軍勢と戦っていた。『神々の楽園(ヴァルハラ・ディ・リューベヌ)』で完全治癒を施し、負傷したウィリアム=オルウェルたちも復帰している。
『夜舞う死を恐れぬ軍兵(ゾンビパウダー)』は、半永久的に『闇』から兵を作り出す魔術であり、闇の世界である夜に、幾ら倒してもキリが無い。
だが、皆はあきらめない。
九九九名の魔術師も勝利を信じ、唱え続けている。
地上を見下ろす最期の景色としては、あまりにも惨めだった。
インデックスは心の中で、
(ごめん…とうま。約束…守れなかった)
五つの『全知全能神の盾(アイギス)』は完全に破壊され、全てを無に帰す『竜王の翼(ドラゴンウイング)』は、瞬く間に広がり始めた。
眩い閃光が、インデックスに直進する。
(終わる―――)
その時だった。
(ごめん…とうま。約束…守れなかった)
五つの『全知全能神の盾(アイギス)』は完全に破壊され、全てを無に帰す『竜王の翼(ドラゴンウイング)』は、瞬く間に広がり始めた。
眩い閃光が、インデックスに直進する。
(終わる―――)
その時だった。
バギンッ!!!
『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』と『竜王の翼(ドラゴンウイング)』が一瞬で打ち消された。
「あーっはっはっはっはっはぁ!!」
夜空に、光り輝く羽が舞い散る。
「美琴にキスしたら、顔真っ赤にしてそのまま気絶するし!」
空から、
「久しぶりだったんで、小萌先生を抱きしめたら、顔真っ赤にして倒れて授業できないし!」
少年の声が聞こえた。
彼女が一番聞きたかった声。
彼女をいつも安心させてくれる少年の声。
彼女が大好きな笑顔で、
突然現れた少年は、空中で銀髪碧眼の少女を抱きとめた。
「あーっはっはっはっはっはぁ!!」
夜空に、光り輝く羽が舞い散る。
「美琴にキスしたら、顔真っ赤にしてそのまま気絶するし!」
空から、
「久しぶりだったんで、小萌先生を抱きしめたら、顔真っ赤にして倒れて授業できないし!」
少年の声が聞こえた。
彼女が一番聞きたかった声。
彼女をいつも安心させてくれる少年の声。
彼女が大好きな笑顔で、
突然現れた少年は、空中で銀髪碧眼の少女を抱きとめた。
「ただいま。インデックス」
「とうまぁああ!!」
インデックスの瞳に涙が濡れる。
『竜王(ドラゴン)』だけでは無い。
皆、その光景に目を奪われた。
それはまるで、一枚の絵のよう。
世界を最も美しい、ボーイミーツガール。
インデックスの瞳に涙が濡れる。
『竜王(ドラゴン)』だけでは無い。
皆、その光景に目を奪われた。
それはまるで、一枚の絵のよう。
世界を最も美しい、ボーイミーツガール。
地上で戦っていた二人の聖人は、
「…おいおい。この登場は格好良すぎだろ」
「ふん。随分と登場の遅い英雄である」
暗黒の夜は、一筋の光に照らされる。
地上にいた『闇』は光を浴び、瞬時に消え去った。
その長い光の中を、二人の少年と少女はゆっくりと降り立った。
「ひぐ、ひぐっ…もうダメかとおもったよぉ……とうまぁ」
「おいおい…魔力を使い過ぎて、ボロボロじゃないか」
少女は涙でぐしゃぐしゃになっていた。少年は彼女の涙を拭いながら、
「作戦成功だな……よくやった」
ツンツンとした黒髪に、一七〇センチ前後の背丈。
白いワイシャツ、黒の制服ズボンに、真新しいスニーカーを履いている。
「…おいおい。この登場は格好良すぎだろ」
「ふん。随分と登場の遅い英雄である」
暗黒の夜は、一筋の光に照らされる。
地上にいた『闇』は光を浴び、瞬時に消え去った。
その長い光の中を、二人の少年と少女はゆっくりと降り立った。
「ひぐ、ひぐっ…もうダメかとおもったよぉ……とうまぁ」
「おいおい…魔力を使い過ぎて、ボロボロじゃないか」
少女は涙でぐしゃぐしゃになっていた。少年は彼女の涙を拭いながら、
「作戦成功だな……よくやった」
ツンツンとした黒髪に、一七〇センチ前後の背丈。
白いワイシャツ、黒の制服ズボンに、真新しいスニーカーを履いている。
一年前の上条当麻が、そこにいた。
『天使』は困惑する。
仮面のような表情に、初めて明確な感情が浮かんだ。
「うわあああああああAAAAAAAAッ!!」
『悲鳴を上げ、純白の槍を上条当麻に狙いを定めた。
インデックスは即座に反応するが、戦う余力は既にない。
「とうまっ!」
バギギギギンッ!
『天使』の槍が砕け散っていく。
突き出した右手の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が『天使』の顔面に届いた。
バギンッ!
ビキリと、『天使』の聖装に亀裂が走る。
純白の翼が散乱し、
「気づいたか?五和」
砕け散った聖装から、一人の少女が目を覚ます。
上条当麻は、彼女を抱きとめた。
「え……わ、た…し」
視点が定まらない五和は、少年の腕の中で力を失っていた。
「五和!」
「五和ちゃん!」
天草式のメンバーが駆け寄ってくる。
皆、統一性の無い武器を抱えていた。衣服はボロボロで、所々に多少の血がこびり付いているが傷一つない。彼らの先頭には長である神裂火織が、
「上条当麻…」
「もう心配すんな、火織。後は俺に任せろ」
「…はい」
気を失った五和を聖人に預けた。
彼らの間に何が起こったのか知らないが、五和が操られていた事だけは理解した。
少年は振り向く。
目の先にいるのは、全ての元凶。
『竜王(ドラゴン)』。
仮面のような表情に、初めて明確な感情が浮かんだ。
「うわあああああああAAAAAAAAッ!!」
『悲鳴を上げ、純白の槍を上条当麻に狙いを定めた。
インデックスは即座に反応するが、戦う余力は既にない。
「とうまっ!」
バギギギギンッ!
『天使』の槍が砕け散っていく。
突き出した右手の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が『天使』の顔面に届いた。
バギンッ!
ビキリと、『天使』の聖装に亀裂が走る。
純白の翼が散乱し、
「気づいたか?五和」
砕け散った聖装から、一人の少女が目を覚ます。
上条当麻は、彼女を抱きとめた。
「え……わ、た…し」
視点が定まらない五和は、少年の腕の中で力を失っていた。
「五和!」
「五和ちゃん!」
天草式のメンバーが駆け寄ってくる。
皆、統一性の無い武器を抱えていた。衣服はボロボロで、所々に多少の血がこびり付いているが傷一つない。彼らの先頭には長である神裂火織が、
「上条当麻…」
「もう心配すんな、火織。後は俺に任せろ」
「…はい」
気を失った五和を聖人に預けた。
彼らの間に何が起こったのか知らないが、五和が操られていた事だけは理解した。
少年は振り向く。
目の先にいるのは、全ての元凶。
『竜王(ドラゴン)』。
「上条当麻ァ…」
「あららら、すっかり覚醒しちゃったか…ちぃっとばかり、予定が早いな」
二人の上条当麻が、言葉を交わす。
「あららら、すっかり覚醒しちゃったか…ちぃっとばかり、予定が早いな」
二人の上条当麻が、言葉を交わす。
大魔術、『並行世界(リアルワールド)』。
それは異なる時間を繋ぐ秘術。
一年前の上条当麻は、現在の記憶を保有したままで、この時間に召喚された。
それは異なる時間を繋ぐ秘術。
一年前の上条当麻は、現在の記憶を保有したままで、この時間に召喚された。
「―――当麻様、御命令を」
いつの間にか、ミサカ一〇〇三二号は上条当麻の前で膝をつき、頭を垂れていた。
「ミサカ…無事だったか」
「…はい。御配慮、ありがとうございます」
身を案じてくれた、という当麻の配慮だけで、ミサカ一〇〇三二号は頬を赤らめた。
嬉しさのあまり、まともに少年の顔を見る事が出来ない。そんな彼女の感情を知りつつ、
「はははっ。相変わらず堅苦しいなぁ…」
上条当麻は苦笑する。
そして、
いつの間にか、ミサカ一〇〇三二号は上条当麻の前で膝をつき、頭を垂れていた。
「ミサカ…無事だったか」
「…はい。御配慮、ありがとうございます」
身を案じてくれた、という当麻の配慮だけで、ミサカ一〇〇三二号は頬を赤らめた。
嬉しさのあまり、まともに少年の顔を見る事が出来ない。そんな彼女の感情を知りつつ、
「はははっ。相変わらず堅苦しいなぁ…」
上条当麻は苦笑する。
そして、
「同志として、一人の男として、皆に頼む!神上派閥の総帥なんて関係ねぇ!俺はドラゴンを倒す!だが、俺一人じゃできない!皆!力を貸してくれ!」
『『『『イエス、ユアマジェスティ!!!』』』』
『妹達(シスターズ)』五九四七名の号令が一致する。
『闇』と戦っていたミサカ『〇〇〇〇〇号(フルチューニング)』は、大声を張り上げる当麻を見て、うんうん!と首を縦に振った。
『新たなる光』のメンバー、フロリス、ドロシー、ベイロープ、ランティスもそれに続く。
アニェーゼ=サンクティス率いる魔術師達も、
『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師達も、
三人の聖人、シルビア、ウィリアム=オルウェル、神裂火織も頷く。
オッレルス、バードウェイ、『騎士団長(ナイトリーダー)』
天草式のメンバー、ステイル=マグヌス、剣多風水、御坂美琴も、
そして、
『妹達(シスターズ)』五九四七名の号令が一致する。
『闇』と戦っていたミサカ『〇〇〇〇〇号(フルチューニング)』は、大声を張り上げる当麻を見て、うんうん!と首を縦に振った。
『新たなる光』のメンバー、フロリス、ドロシー、ベイロープ、ランティスもそれに続く。
アニェーゼ=サンクティス率いる魔術師達も、
『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師達も、
三人の聖人、シルビア、ウィリアム=オルウェル、神裂火織も頷く。
オッレルス、バードウェイ、『騎士団長(ナイトリーダー)』
天草式のメンバー、ステイル=マグヌス、剣多風水、御坂美琴も、
そして、
「ドラゴンをブチ殺してこい!親友!」
『一方通行(アクセラレータ)』こと、御堂シンラは、上条当麻の背中を叩いた。
「記憶は無事に入れ替わったみたいだな!親友っ!」
「アア…俺がヘマこくかよ!『打ち止め(ラストオーダー)』ッ!!」
『了解!『竜王の翼(ドラゴンウイング)』を起動させるよ!』
爆風を起こして、空に跳び上がる。
一人の少年を中心に、希望と言う名の炎が燃え上がった。その光景に、『竜王(ドラゴン)』は不快感をあらわにする。
「貴様ガ出テキタトコロデ、何モ変ワラヌ…何故ダ?何故、貴様ラハ余ニ平伏サヌ?」
二人は同一人物でありながら、状況は対照的だった。
一人は、絶対的な力を持ちながらも、孤独。
もう一人は、弱小でありながらも、多勢。
「本当は気づいてるんだろ?ドラゴン」
上条当麻は『(竜王)ドラゴン』に問いかける。
「…何ヲダ?」
『(竜王)ドラゴン』は、その問いが理解できなかった。
否、
理解してはならなかった。
「記憶は無事に入れ替わったみたいだな!親友っ!」
「アア…俺がヘマこくかよ!『打ち止め(ラストオーダー)』ッ!!」
『了解!『竜王の翼(ドラゴンウイング)』を起動させるよ!』
爆風を起こして、空に跳び上がる。
一人の少年を中心に、希望と言う名の炎が燃え上がった。その光景に、『竜王(ドラゴン)』は不快感をあらわにする。
「貴様ガ出テキタトコロデ、何モ変ワラヌ…何故ダ?何故、貴様ラハ余ニ平伏サヌ?」
二人は同一人物でありながら、状況は対照的だった。
一人は、絶対的な力を持ちながらも、孤独。
もう一人は、弱小でありながらも、多勢。
「本当は気づいてるんだろ?ドラゴン」
上条当麻は『(竜王)ドラゴン』に問いかける。
「…何ヲダ?」
『(竜王)ドラゴン』は、その問いが理解できなかった。
否、
理解してはならなかった。
「神とは、人が作り出した幻想!!」
「――――――――――――――ッッ!!」
その言葉に、『魔神』は絶句する。
少年は走りだした。
神の奇跡すら撃ち消す右手だけを頼りに、
「その幻想―――――――――――――――――――――――――――――――――!!」
多くの仲間に支えられ、
世界の命運を背負い、希望を託された少年が、
再び、世界の英雄へと変わる。
その言葉に、『魔神』は絶句する。
少年は走りだした。
神の奇跡すら撃ち消す右手だけを頼りに、
「その幻想―――――――――――――――――――――――――――――――――!!」
多くの仲間に支えられ、
世界の命運を背負い、希望を託された少年が、
再び、世界の英雄へと変わる。
「俺がぶち殺す――――――――――――――――――――――――――――――!!」
『無能力者(レベル0)』対『絶対能力者(レベル6)』。
すなわち、
『上条当麻(イマジンブレイカー)』対『上条当麻(ドラゴン)』。
すなわち、
『人間』対『神』。
すなわち、
『上条当麻(イマジンブレイカー)』対『上条当麻(ドラゴン)』。
すなわち、
『人間』対『神』。
最終決戦の火蓋が、切って落とされた。