それが予言されていたなどとは露知らず、紅莉栖たちがタクシーを使ってホテルに戻ったころには、すでに時刻は夕刻に差し掛かっていた。
牧瀬紅莉栖とそのサーヴァント、キャスターこと
仁藤攻介。
今は変身を解いた白い魔法少女、
美国織莉子。
3人はホテルのロビーにある喫茶コーナーで向かい合っていた。ちなみに無用な騒ぎを避けるため、織莉子のサーヴァントのキリカは霊体化している。
当初は紅莉栖の宿泊している部屋で話し合う流れであったが、それは紅莉栖自身が強く拒絶し、人目のあるこの場所が選ばれている。
この道中もそうだったが、年齢に似合わずあくまで泰然としている織莉子に対し、紅莉栖は今も落ち着かなげだった。
「先ほどから申している通りです。
――『あの軍勢』は、私たちのいるこの街にもまもなくやって来るでしょう。
あれは、この世界に破滅をもたらすものです。退けるには、あなた方の力がどうしても必要なのです」
「――だから、何度も言ってるでしょう」
落ちついた言葉に、ぴしゃりとした紅莉栖の声が返される。
「私は嫌。というか無理。不可能よ。そんなわけのわからないバーサーカーと一緒なんて――」
「あーもう分かった!」
紅莉栖の毅然とした反駁を遮り、キャスターの声が響く。
一貫して協力を持ちかける織莉子。反対する紅莉栖。それを宥めるキャスター。
三者の同じようなやりとりが、既に三度は繰り返されていた。
「分かってない! 大体、どうしてそんなにこの子たちに肩入れ――」
「まあまあまあいったん落ち着け、みなまで言うな!」
放っておけば立ち上がりそうな紅莉栖を抑え、キャスターは織莉子のほうを向く。
「あんたらの協力、まずまず歓迎するぜ。俺としてはな」
キャスター――仁藤攻介は、織莉子の申し出に対してほぼ最初から好意的だった。
キャスターとしては、織莉子には毒に中てられた上にトランプの集団に囲まれた危ういところを助けられた立場だ。
織莉子のサーヴァントは確かにバーサーカーであるが、あの時の戦いを見る限りでは何らかの理性を保っているように確信できたのだ。――その理性の源が何なのかについては未だに分からないし、興味深いのだが。
通常のバーサーカーに理性が加わったサーヴァントというのは敵に回せば危険だ。しかし、逆に味方であればとても心強い。
織莉子いわく、彼女の『魔法少女』(キャスターの知る魔法使いとはまた異なる存在であるらしい)としての予知能力で見たものは、海を埋め尽くす艦隊。
その真偽は端的に言えばキャスターの知るところではない。しかし、実際に毒液が海を覆う場面を見、形容しがたい化け物と交戦して手を焼いたキャスターにとってみれば、まもなくあの連中の『本隊』が攻めてくるというのは大いにありそうなことだ。
加えて『艦隊』というのも、彼らの攻撃手段が砲撃や銃撃であったことを考えれば納得がいくところである。
明日の命より今日の命。ホテルに戻る途中の時点で、キャスターは彼らと手を組む腹をすでに決めつつあった。
(それに)
キャスターの言葉に、織莉子がにっこりと微笑む。
(よく見れば……超~かわい子ちゃんじゃねえか)
キャスターは、女性に弱い。
生前、敵であるはずのファントムの幹部の女性の言葉に乗せられ、仲間である晴人たちと一時的に敵対したことがある程度には。
戦闘が終わってからここに来るまでそんなことを気にする余裕はなかったが、織莉子は変身を解いた後の姿も長い髪をサイドにまとめた気品ある美少女だ。
その顔はどこかで見かけたような気もするが、そういった意味でもこの同盟はキャスターにとっては十分に心踊らされるものではあった。
「とにかく!」
ニヤつくキャスターに肱打ちを入れながら、再びピシャリと言い放ったのは紅莉栖だった。
咳き込みながらの、手加減しろよ病み上がりだぞ――とのキャスターの抗議も耳に入れず、紅莉栖は織莉子を痛罵していく。
「私は、そっちのバーサーカーの使い魔があの宗教団体の連中を食い殺すのを見てる」
「確かにあの連中は怪しいし、絡まれたら確実に危なかった。海でのことも入れたら二度も救ってもらってる。けど、危ないからって頼んでもいないのに食い殺すなんてのはもっと危ないわ」
「海から化け物軍団が攻めてくる。この世界が危ない。それはよく分かったわよ。けどだからといって、美国さんだけならともかくそっちのバーサーカーとまで『はい、仲良く一緒に戦いましょう』なんてことにはならない」
「戦いの最中に後ろから撃たれるかもしれない。あるいは、全部終わってお互いの健闘を讃えあってる最中に襲われないとも限らない。リスクが大きすぎる。少なくとも今のままじゃ同盟は無理よ」
長い台詞を一気に言い終えると、コップの水に口をつける紅莉栖。
海から来る破滅の脅威は認識しながらも、あくまで同盟には消極的になれない彼女の意見は正しいものといえるだろう。
確かに目の前の主従には危地を救われているし、その恩はある。しかし、これがセイバーやランサーであれば話は別だが、彼女のサーヴァントはバーサーカー。
生前から結びつきのある大切な存在だと織莉子は言ったが、見境なくNPCを食い殺すような存在と手を組むことはいつか必ず自分自身に危険をもたらす。
加えて、彼女は『闘わないマスター』だ。曲がりなりにも海岸で実際に共闘をしたキャスターとは違う。バーサーカーに理性が備わっていると言われても完全に納得できない。そこも、彼女にこの同盟を躊躇わせる理由であった。
(参ったな、こりゃ……)
ため息をついたのはキャスターであった。
彼にしたところで、織莉子たちに全幅の信頼を置いたわけでは無論ない。しかし、あくまでライダーではく非力なキャスターとして現界し、海から来る脅威に対する決定打を持たない自分に協力者が現れたことは正直言ってありがたかったし、紅莉栖も説得することが可能だと思っていた。
が、これではまるで押し問答になってしまっている。
こうしている間にもあの怪物たちの首魁は海を埋め尽くし、上陸を狙っているだろう。ここは諦め、引くべきか――。
「……お二人には、愛する人はいますか?」
その時沈黙を破ったのは、織莉子の声であった。
「家族、恋人、友人。心から慈しみ自らを投げ打ってでも守りたい人がいますか?
そしてその人たちを守るに到らぬ自分の無力さを嘆いたことはありますか?」
「世界は危機に陥っています。――私は戦う。私と彼女(キリカ)の世界を守るために。そして願うことなら、あなた方お二人にも力を貸してほしい。
……これが最後のお願いです。これ以上お願いしてもご協力頂けないというのであれば、致し方ありません」
凛とした声が、人のまばらなロビーに響いた。
再び三人の間には沈黙が流れ、やがて口を開いたのは紅莉栖だった。
「守りたい人を、世界を守る、ね。
同じようなことを言って、死ぬほど戦って、最後にはその『守りたい人』の片方を置いていかなきゃいけなかった人を、私は知ってる。
――あなたには、そういう覚悟はあるの?」
その言葉に、織莉子の表情が僅かに揺らいだ。
気のせいではないだろう。海岸で出会ってから今まであくまで超然と、泰然としていた彼女の態度が、紅莉栖の今の言葉で綻びを見せている。
「ニュースで見たわ。あなた、あの美国議員の娘さんでしょう?」
「え、マジでか?」
紅莉栖は聡明な少女だ。単に頭がいいだけでなく、織莉子の心の揺れ動きを見逃すようなことはない。だから、今まで押されていた分これが好機とばかりに、鋭く切り込んでいく。
「ここは結局偽りの世界だし、あなたの家族の事情なんて聞いても仕方ない。けれどね、これだけは言わせて」
「あなた、見たところまだ中学生? その年にしては場慣れしてるみたいだけどね、あいにくこっちもそれなりに大人の世界で生きてきて、こういうことには慣れっこなの。年上は敬いなさいよね」
「――それとね、父親の尻拭いのつもりなのかもしれないけど、化け物引き連れての救世主ごっこに付き合ってあげられるほど、こっちも暇じゃないのよ」
「――っ!」
「おい、お前!」
今度こそ、決定打だった。
織莉子は先ほどまでの泰然とした態度を完全に捨て去り、その表情は険しさを増している。
霊体化している彼女のサーヴァントも、はっきりと存在感を増しているのが感じられる。そこから分かるのは、怒り。主を侮辱した眼前の少女に対するどす黒い敵意が燃え盛るのが見えてくるようだった。
(……仕方ねえ)
キャスターはウィザードリングを嵌めた掌をテーブルの下で握りしめる。マスターはああいう性格だし、交渉となればこのような事態になることを予想していなかったわけではない。だが最悪の事態だ。
二人の少女が鋭く見つめ合う。視線は交差し、その二つの摩擦が巨大な熱を生み、渦と化していくようだった。
ありふれたビジネスホテルのロビーは、間もなく戦場と化す――。
「お取込み中失礼するぽん」
が、甲高い、しかし周囲に悟られぬような小さな声が響き、熱は急激に冷えていった。
「ルーラーから、討伐令のお知らせだぽん」
紅莉栖から、織莉子から、そしてキャスターからも、肩の力が急激に抜けていく。
討伐令。思わぬ知らせによって三者の気勢は削がれたが、その内容は彼らに再び緊張をもたらすものだった。
海に勢力を広げ、聖杯戦争そのものを破壊する可能性のあるライダー、
ヘドラ。それは図らずも、織莉子の予知を裏付ける形となる討伐令だった。
ファルが消え去ってからの、三者の間に流れる空気は微妙なものだった。
紅莉栖は考え事をするように下を向き、織莉子は泰然とした雰囲気を徐々に取り戻し、キャスターはそんな両者を心配げに見つめる。
そのまま時間にして何分が経過しただろうか。
「――少し、一人で考えさせて」
「おい!」
唐突にそう言うと、紅莉栖は席を立ち、キャスターの静止も聞かずにエレベーターに乗り込んでいった。
「すまねえ、あいつも悪いやつじゃねえんだ。ただ少し混乱してるだけで――」
「ええ、分かっています。私も――」
二人は場を取り直そうとする。
だがその会話を遮ったのは、ルーラーでもない、まったく別の方向からの情報だった。
▲
近代的なビジネスホテルのドアの多くはオートロックであり、この世界においてもそうであった。
紅莉栖はそのロックがかかる音を聞きながら、スリッパに履き替えることもせず、折り目正しくメイキングされたやや硬いベッドに上半身を預けた。
聖杯戦争の開始から半日強といったところだろうか。紅莉栖は天井をぼんやりと見上げながら、今日の出来事を回想していた。
といっても、戦闘や探索は全てキャスターに任せてきた以上、短い時間の中で彼女の経験した範囲はごく限られている。してみれば、先ほどの美国織莉子との交渉こそが、彼女がこの聖杯戦争の本質に触れた最初の出来事だったといえるだろう。
「はぁ……――」
ため息をつく。
有り体に言えば、彼女は美国織莉子が怖かった。最後の最後まで戦意こそ見せなかったとはいえ、その年齢とかけ離れた圧倒的な存在感が恐ろしかった。
それは当然だろう。美国織莉子はあの歴戦の魔法少女、巴マミですら初見ではそのプレッシャーのみで圧倒してみせたほどのポテンシャルを持つ。変身をしていないとはいえ、戦う力を持たない紅莉栖がまともに相対していられる相手ではないのだ。
あのような挑発を行って彼女のサーヴァントの怒りを買い、今ここで五体満足でいられるのは奇跡といっていい。
(……でも、……)
汚職疑惑の渦中、自殺した美国議員。その名は完全に忘れ去ってしまっていたが、ニュースの中で確かに耳にしたし、娘の顔もおぼろげながら記憶に残っている。肯定も否定もしなかったが、彼女はその娘ということになる。
御目方教やらヘドラやらの遥かにインパクトの大きい情報に紛れてしまい、詳しいことは改めて調べて見なければわからないだろう。
また、この世界の人物が現実成果での役目を必ずしも果たしているとは限らない。――しかし。
紅莉栖は、見てしまった。
『――それとね、父親の尻拭いのつもりなのかもしれないけど、化け物引き連れての救世主ごっこに付き合ってあげられるほど、こっちも暇じゃないのよ』
感情に任せて投げつけたこの言葉は、いったい誰に向けたものだったのだろうか。
その言葉を受けた時の彼女の表情は確かに歪んでいて、まるで泣きそうに見えて――
「ああ、もう!」
ベッドを拳で叩き、同時に状態を起き上がらせる。
怖いだとか、怒りだとかよりも、今はただひたすらイライラとする。
勝手なことばかり言う出会ったばかりの小娘――もっとも、それは向こうから見た自分も同じだろうが――なんかに僅かでも共
(シンパシー)を感じるなんて紅莉栖にしてみればありえない事だが、こうして実際にその表情が心に引っかかってしまって、どうしても離れずにいる。
考える。こうしている間にも、ヘドラは確実に自分たちに迫っている。
こんな時あの男なら、
岡部倫太郎ならばどうするのだろうか。
――きっと、そういうわだかまりも当然のように踏み越えていくのだろう。何せ彼は、スパイであった桐生萌都のことも結局は最後まで仲間と認め続けた男なのだから。
『白き魔法少女よ! 安心してこの鳳凰院凶真の軍門に下るがよい!』
こんな感じだろうか。少し違う気がする。よく分からないのはきっと、『鳳凰院凶真』としての彼のことがよく思い出せないからだ。
「……そうね」
目を見開き、中空を睨み付ける。
最終的な結論など出ない。彼女たちが信じられると決まったわけでも何でもない。そもそも同盟を組んだからといって討伐令のヘドラに対抗できる保障などない。彼女の聡明な頭脳を持ってしても、ここはあまりにも大きい難局である。
それでも彼女に決意をさせたのは、その男の存在だったのだろう。彼女は再びドアを開き、部屋を後にした。
▲
ロビーに戻ると、キャスターと織莉子は相変わらずテーブルに向かい合って座っていた。
勢いに任せて彼らを残したのは早計だったのだろう。魔力のパスが繋がっているのは確認したとはいえ、あの状況で二対一のままキャスターを残していれば一方的に殺されていた可能性だってあるのだ。
しかし、今の彼らに不穏な様子はない。二人とも、視線を同じ方に向けて、固唾を呑んで何かを見ている様子だ。
「ねえ、ちょっと」
遠慮がちに声をかけると、キャスターがそっと促した先にはテレビがあった。
『――繰り返しお伝えしていますように、先ほどK市の沖合付近において、○○新聞社の所有する報道ヘリコプターが消息を絶った模様です』
「なっ――」
突然の出来事に、紅莉栖の息は止りそうになった。緊張した面持ちのニュースキャスターがさらに情報を伝えていく。
『○○新聞のヘリコプターは、連日話題となっている汚染状況を独自に調査するためK市の沖合に向かっていましたが、先ほどから連絡が取れなくなったとのことです。
ヘリコプターにはパイロットやいずれも○○新聞社所属のカメラマンなど数人が乗っていましたが、現在のところいずれも行方は分かっていません。
なおK市の海岸付近では、ヘリコプターが消息を絶った前後より、沖合を飛ぶ、飛行機や鳥などではない謎の物体を見たという目撃情報が地元の警察などに相次いでいる模様ですが、これについても現在関連は分かっていません。
当ニュースでは予定を変更し引き続き――』
「どうやら、本当に来ちまったみたいだな」
「――ええ」
キャスターが漏らした言葉に、織莉子が頷く。
これが予知というものなのだろうか。ニュースの内容そのものも衝撃的だが、最も薄ら寒く恐ろしかったのは、まるで織莉子の見たというビジョンをなぞるように、現実が展開され始めていることだった。
「事態は急を要しています。――どうか、ご回答を」
僅かに共感(シンパシー)を抱いてしまった相手。しかしそれでも、油断をしていい相手ではないという確信をまた抱きなおす。
「わかった。けどその前に、これだけは聞かせて。――あなたは、聖杯を狙っているの?」
「それは――」
その質問に、織莉子の表情が一瞬、再び揺らぐ。
「――……この世界に来た以上、目的はあります。しかし、今はこの世界を守るほうがずっと大事です。……そうしなければ、私の意思すらも守れないのだから」
二人の少女は再び見つめあう。そこには先ほどのような熱さはないが、今度は氷が交錯しあうような冷たさが混じる。
そのまま数瞬――先に視線を外したのは、紅莉栖のほうだった。
「――……わかったわよ」
美国織莉子を完全には信用できない。今だって、こちらの質問に完全には答えていない。
それでも、早急に対抗策に出なければ討伐令のライダーに押しつぶされるだけであるということもまた、紅莉栖は理解してしまっている。
「一時だけよ。協力、するわ。けど、約束して。私たちに危害を加えたりしないことだけは」
蒼白な顔で、今できる最大限の譲歩を口にする。対する織利子の反応は早かった。
「ありがとうございます。では、約束しましょう。令呪をもって命じます。『今後、牧瀬紅莉栖とそのサーヴァントに手を出してはならない』」
これには紅莉栖だけでなく、さすがのキャスターも驚きを見せた。
「お前――!」
「わかっています。しかし、ご協力していただくには、これくらいは必須ではないかと――。
――さて、いったん小休止にしましょう。のちほど、再びこのロビーに集合ということで」
言い残し、織莉子は入口のドアを開け、夕日が濃くなってきた外に姿を消した。
「……さっきは、取り乱してごめんなさい」
二人はそれを少し呆然としながら見送っていたが、やがて紅莉栖がぽつりと口を開いた。
「なーに、いいってことよ。結局向こうに争う気はないのが分かったし、俺はゲートの勝手な行動には慣れてる。
さーて、そうと決まれば俺らも腹ごしらえでもすっか! ……しっかしなあ」
織莉子が出ていった方と紅莉栖を見比べながら、苦笑するキャスター。
「……何よ」
「いや、どうにも俺の周りには昔から、タフな女ばっかり集まるみてえだな、ってな」
ちょっとそれ、どういう意味よ――と声を上げながら。
聖杯戦争の開始とともに、朝から緊張が続いていたこの一日にも、ようやくいつもの調子が出てきたかな、と紅莉栖は実感するのだった。
▲
「ごめんなさい、キリカ」
人目につかないホテルの裏手に、織莉子の姿があった。
相も変わらず霊体化したままのキリカに向け、彼女の口から出たのは謝罪の言葉だった。
「ずいぶんと、窮屈な思いをさせてしまっているわ。けれど、もうすぐよ」
霊体のままでも、不満げに渦巻く雰囲気は伝わってくる。理由ははっきりしている。同盟が成立したあの二人、特にマスターの少女の言動が原因だ。
薄氷の上を歩くような交渉だった。泰然とした態度は変わらないが、ひとまず終わった今、織莉子は思い返して冷や汗の出る思いだった。
第一こちらの要求をあれほどまでに拒否されるとは思わなかったし、聖杯を求めているか否かを聞いてきた時は切り抜けられるかどうかは五分五分だったといっていい。
もちろんこれは織莉子が彼女の人物像を詳しく知らなかったことにも原因があるのだが、美国織莉子の中では牧瀬紅莉栖は絶対に油断ならない相手としてインプットされたといえるだろう。
そして極めつけは、この台詞だった。
『――それとね、父親の尻拭いのつもりなのかもしれないけど、化け物引き連れての救世主ごっこに付き合ってあげられるほど、こっちも暇じゃないのよ』
これを聞いたときは、率直に言って心臓を抉られるような冷たい感覚を覚えた。魔法少女としての――いや、それ以前の、彼女の始源にある思いを呼び起こさせた。
自分の行為が父親の、美国の家名の尻拭い――? 否、ありえない。しかし、その言葉は彼女の脳裏にまとわりつき、簡単には離れない。
父の影にとらわれていた自分。そんな自分を、キリカはそこから救い出してくれた。
(そう、今は彼女のためだけに生きる)
そうだ。バーサーカーに堕ちても、自分のためにこんなにも尽くしてくれる彼女。捨て去った過去の幻などのことは、今は考えてはならない。
ただサーヴァント(
呉キリカ)のために生きることだけが、マスター(美国織莉子)の存在理由。
▲
様々な想いを映しながら、電脳世界の日は暮れていく。
彼らの怒りも悲しみも願いも悪意も、全て汚泥が塗りつぶし、腐毒が覆い尽くす刻限は、間近に迫っている。
【C-2/ビジネスホテル(ロビー)/一日目・夕方】
【キャスター(仁藤攻介)@仮面ライダーウィザード】
[状態]イ級の魔力により汚染(9割方回復)
[装備]なし
[道具]各種ウィザードリング(グリフォンリングを除く)、マヨネーズ
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:出来る限り、マスターのサポートをする
1:ヘドラの迎撃準備。
2:黒衣のバーサーカー(呉キリカ)についてもう少し詳しく知りたいが……
3:グリーングリフォンの持ち帰った台帳を調べるのは後回し。
[備考]
※黒衣のバーサーカー(呉キリカ)の姿と、使い魔を召喚する能力、速度を操る魔法を確認しました
※御目方教にマスターおよびサーヴァントがいると考えています。
※御目方教の信者達に、何らかの魔術が施されていることを確認しました。
※ヘドラの魔力を吸収すると中毒になることに気付きました。キマイラの意思しだいでは、今後ヘドラの魔力を吸収せずに済ませることができるかもしれません。
【牧瀬紅莉栖@Steins;Gate】
[状態]決意
[令呪]残り三画
[装備]グリーングリフォン(御目方に洗脳中)
[道具]財布、御目方教信者の台帳(偽造)
[所持金]やや裕福
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を破壊し、聖杯戦争を終わらせる。
1:色々と考えることはあるが、今はヘドラを討つ準備を整える。
2:グリーングリフォンの持ち帰った台帳を調べるのは一旦後回し。
3:聖杯に立ち向かうために協力者を募る。同盟関係を結べるマスターを探す。
4:御目方教、
ヘンゼルとグレーテル、および永久機関について情報を集めたい。
[備考]
※黒衣のバーサーカー(呉キリカ)の姿と、使い魔を召喚する能力を確認しました。
※御目方教にマスターおよびサーヴァントがいると考えています。
※御目方教の信者達に、何らかの魔術が施されていることを確認しました。
【C-2/ビジネスホテル(裏手)/一日目・夕方】
【バーサーカー(呉キリカ)@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]健康 、不機嫌、霊体化中、令呪。『今後、牧瀬紅莉栖とそのサーヴァントに手を出してはならない』
[装備]『福音告げし奇跡の黒曜(ソウルジェム)』(変身形態)
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:織莉子を守る
1:命令は受けたが、あの女(牧瀬紅莉栖)はものすごく気に入らない。
[備考]
※金色のキャスター(仁藤攻介)の姿とカメレオマントの存在、およびマスター(牧瀬紅莉栖)の顔を確認しました
【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]魔力残量6.5割、動揺(極小)
[令呪]残り二画
[装備]ソウルジェム(変身形態)
[道具]財布、外出鞄
[所持金]裕福
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に優勝する
1:ヘドラからK市を守る。紅莉栖たちとともにヘドラを迎え撃つ準備。
2:令呪は要らないが、状況を利用することはできるかもしれない。町を探索し、ヘンゼルとグレーテルを探す
3:御目方教を警戒。準備を整えたら、探りを入れてみる
[備考]
※金色のキャスター(仁藤攻介)の姿とカメレオマントの存在、およびマスター(牧瀬紅莉栖)の顔を確認しました
※御目方教にマスターおよびサーヴァントがいると考えています
※予知の魔法によってヘドラヲ級を確認しました。具体的にどの程度まで予測したのかは、後続の書き手さんにまかせます
※夕方、K市沖合の海上にて
空母ヲ級&ライダー(ヘドラ)により報道ヘリが消息を絶ちました。このことはテレビやインターネットで報道され、確認することができます。
最終更新:2016年12月10日 12:42