第1項 「まわるからだ」
図は8/7追加します。
導入
スキー、インラインにおいて初心者がまず一番始めにぶつかる壁にして、上級生でもなかなか脱出できない本能行動。それが「まわるからだ」です。
これはターン時、上半身・骨盤がターンの内側を向いてしまう「内旋」動作のことであり、からだをまわす動作によってスキーを操作しターンしようとする本能的な動作ともいえます。
ところが、スキーにせよインラインにせよ、こういった内旋動作を用いずともターン形成することは可能であり、むしろ身体をまわす動作はいわゆる技術系の競技で求められる細かな操作をしていく上でさまざまなデメリットを生ずることになります。
本項では身体が回ることによって生じるさまざまな弊害を説明するとともに、からだをまわさないでスキー・インラインを操作していく為のトレーニングなどを紹介していきたいと思います。
どうしてからだはまわるのか?
「からだがまわる」状況はいくつかの場合に分けることができますが、基本的には「曲がろうとする本能行動」がその根幹を成しています。すなわち、人間は本能的に身体を進行方向に向けようとするのです。(*その動作の構造解説は次項「かたむくからだ」で行います。)
図2-1
しかし、第0項でも述べた通りカービングスキーにはからだをまわさずともターンを行う技術が存在します。
「からだがまわる」という人はそもそもからだをまわさずにターンする技術を習得していないか、あるいは状況などで理性よりも本能が勝ってしまっている、ということになります。
ではどうしてからだがまわってはいけないのか?
からだがまわることによる不利は大きく3つにわけることができます
①動きの無駄
②ラインの遅れ
③内足荷重 (第2項「かたむくからだ」で詳しく触れます)
③については第2項でふれることとして、本項では①、②について詳しく解説していきたいと思います
①動きの無駄について
さて、「その場でジャンプして足の向きを左右交互に変えてください」と指示されたとき、あなたならどんな運動をしますか?
(図)2-2
多くの人は体幹の向きは変えずに足関節の向きだけを変えるのではないでしょうか?
わざわざ腰を回転させたり、全身の向きを変えるのは大変ですよね。
なぜなら向きを変える部分が中枢側に近づくほどエネルギーを必要とするからです。
これは自分で実際にやってみればわかるはずです。
要は回転させるモノが大きければ大きいほどエネルギーを必要とする。
そしてエネルギーが必要な動作であればあるほど、連続動作が難しい。
これもなんとなく分かっていただけるのではないかと思います。
競技スキーはその性質上、左右のターンを交互に素早く切り替えていく必要があります。
そして、ターン弧が小さくなればなるほど(=SG→GS→SLとなっていくに従い)素早い切り替えが求められていきます。
図2-3
連続動作しづらければしづらいほど動作の遅れが生じ易くなるわけです。
さらに動作の遅れが生じればさらにからだはまわる、という悪循環に陥るわけです。
図2-4
②ラインの遅れについて
前述の①はではターンが細かくなればなるほど動作の遅れが生じる、ということでしたが、ではターン弧の大きい競技(ex.
SG)なら身体回ってもいいのか、というとそういうわけでもありません。からだがまわると、ラインの遅れが生じてしまうからです。
まず次の図をごらんください。
図2-5
左はからだがまわっていない場合の両スキーの位置を示した図。対してからだがまわっている場合の両スキーを想定すると右のような位置になります。
ではこのような状況の何が問題なのか。次の図を見てください
図2-5
これは上の図にさらに骨盤・上半身の位置を付け加えた図になります。
この図を見て何かピンと来たでしょうか?
実は右図にあるように本当に滑ることは不可能です。
問題は(b)の部分にあります。
まず(b)の部分について見ていきましょう
この状態、横から見るとこんなことになっています。
図2-7
どう頑張っても転びますね。
図のように、ターン前半でからだがまわってしまうと、ターン前半で内傾角を作る(「雪面を掴む・捉える」と表現したりします)ことができなくなってしまうのです。
ターン前半で雪面を捉えるためには少しずつ外力と対抗する位置に重心を置く必要があります。
ターン前半では横向きにかかる遠心力がターンのピークに比較して弱いので、ただでさえターン内側に転倒しやすい状況です。そこでさらに斜面下向きに力がかかれば転倒は防ぐことのできないでしょう。
よって身体がまわってしまった場合での実際のラインは下図のようになります
図2-8
ターン前半のつかみを作ることができないので、スキーをずらしながらターンしていく必要があり、理想のラインとのずれが大きいこと・減速動作も大きいことが理解してもらえるかと思います。