─ 十二月二十五日 夕刻
ポートアイランドと遊興の中心でもある“新ポートアイランドパーク”の西向かいにある大型集合店舗“マックスGARYU”。
それまでの建設構造を引っくり返し、人間から亜人まで幅広く入店と往来を可能にした設計は、
広範な吹き抜け構造や壁の少ない通路、流水のミュージアムとも思える循環三次元水路を有する。
“これぞ我が一生最大にして最後の大仕事”
そう称して建設の陣頭指揮を取ったのは、戦後日本の建築史の名裏方と名高い“瀬都杜 富棟(せともり とね)”であった。
異世界解放区としてポートアイランドが選ばれると同時にその建設は始まり、
多くの人と亜人の共同作業によってその姿は造られた。
完成に至るまで、完成してからも何度か転機はあったものの、
今では異世界交流の一つのモデルとして居を構えている。
どうせなら中身も多種族多様を思わせる様なものにしたかったのだ。
一強一独の経営が引っ張って行くのではなく、あらゆる店舗が各々の持ち味を活かしてマックスGARYUを盛り上げる。
その舞台を皆で造り上げる、造り上げた。
地下一階、地上五階建て、天井高は3mを越える広々とした空間。
一階には二大ホームセンター“コウナン”“メフコ”が入っている。
「これは素晴らしい品ね… あ、こっちも素晴らしいわ…」
日曜大工、道工具コーナーを目を輝かせながらせわしなく動き回る小柄な女性。
落ち着いた深い黒青のスーツは、どんな姿勢になっても頭の先から爪先まで一本鉄の芯が通っているかの様な
整然とした佇まいの彼女に素晴らしく合っていた。
頭の両脇に大きな髪塊を備える彼女の背丈と同じ高さの買い物カゴ車が、何故か誰押す事でもなく追従する。
赤銅色のややごってりした買い物カゴ車がまたまた勝手に進みだし、
計測器具をしげしげと見つめているスーツの背中を少しばかり押した。
<我が主、興に更けるのもよろしいですが本来の目的をお忘れになるのはどうかと>
周囲の誰も反応しないその声に押され、女性は慌てて立ち上がり傍で商品の陳列をしていた店員に声を掛ける。
「この店の中に画材は置いてあるのかしら?」
柔らかい物言いながらも鋭い眼光に少し気圧されたのか、店員は口を浮つかせる。
「一般的な事務用品でしたら当店で取り揃えておりますが、どの様な品をお探しでしょうか?」
「ペン、インク、紙、染料… Gとかコピックだとか呼ばれている…」
戸惑う店員。 凡そ少しばかり一般的から離れたそれらの品々は取り扱ってはいない。
しかし、「ありません」とは言えないプレッシャーが彼の口を閉ざす。
「この店では揃いませんよ?」
まるで助け舟。店員の背後の上、後方の
ケンタウロスの背中の上から声を掛けたのは眼鏡をかけた小柄な女学生。
彼女を乗せるケンタウロスの手には買い物袋がいくつもぶら下がっている。
「本格的に揃えたいのなら来年入店予定の“アニメット”が良いんですけど、まだ三宮にしかないですよね。
ポーアイから出ないといけないので面倒だから、二階にある文房具“スターン商会”をお勧めします」
「そうなのですか? 何分初めての場所故、戸惑っていた処なので…」
「何なら案内しますよ? 私達も今から向かいますの」
「何と、それは助かります」
「あれ?双鏡ちゃん、画材はさっき買い終わったんじゃない?」
「…トーンをいくつか買い忘れていたの」
少し膨れっ面になった眼鏡の少女を振り向き横目で見やると、馬耳をぴくんと立ち上がらせたケンタウロスが踵を返す。
店を出て大幅エスカレーターへと向かうケンタと少女とスーツと買い物カゴ車。
「処で、貴女は何故見ず知らずの私に声をかけてくれたのですか?」
「…感じたの」
<まさか、この少女は我が主が纏いにて抑えている力を…?!>
眼鏡、少しばかり天井を仰ぎ見て
「冬の大戦を戦わんとする私達と同じ、戦士のオーラを…!」
「あぁっ!双鏡ちゃん、今日もナイス厨二だよ!」
ふるふると紅潮して振るえる馬耳をぺしっと叩く。
「健太君、声おっきいの」
程無くしてエスカレーターに差し掛かる。
勝手に進んで競り上がる床に戸惑いながらも、カゴを従えてケンタウロスの後へ続き一歩乗る。
ずんっと音がしたかは分からないが、明らかにエスカレーターの進む速度が緩やかになった。