事象現象物証存在。人は伝え聞くよりも実際にそれを目の前にして認識することによってはっきりと実感するのだろう。
それが一体どういうものなのかを。
人々の中に太陽神と月神の関係の真実を知る者はいないであろうと言われてはいるものの、
ラ・ムール有史以来より現在でもなお記され続ける月神の行動を見る限り誰もが月の太陽神への執着を想像するだろう。
異世界の夜に月浮かぶ刻、太陽神の光、名残を最も強く受けるラ・ムールの大地に降臨する月神。
老若既婚未婚種族関係ないが、女性のみを触媒として月神は顕現する。
何の予兆も無く、再臨の間隔の定義も無く、三姉妹神と称される内の一神が現れる。
触媒になった女性は精気を失うか気が触れるか、もしくはその身を神に取り込まれるか、まず無事で済むことはない。
顕現すると一頻り太陽神の残照を求め彷徨う。夜に太陽が在らぬことを知らぬのか、気にしてもないのか、探し物の見つかることのない徒労を何時の間にか終えて消える。
「報せのあった区域に到着っ!」
「月神の反応は消えているが警戒はそのまま!使徒が残っているかも知れない!」
王都守護隊が瓦礫の山と化した居住区の一角を捜索する。
ラ・ムール有史以来、何時の頃からかは定かでないが月神の脅威に幾度となく見舞われている国の民はその対応も親が聞かせるお伽話にされるくらいには周知されてはいるものの、その出現が予測できない以上は常に後手になる。
「今回はまた派手に暴れたもんだ…」
「生存者、触媒と思われる者を発見! …気を失っていますが息はあります!」
爆心地の様な、瓦礫の無い場に倒れている虎人の女性を保護する。
月神の降りた体はその神力に耐え切れず消滅することが多々あるため、触媒となった者が生存しているということはそれだけで運が良いことなのである。
「月の使徒は存在しません!安全確認ヨシ!」
「戸籍確認取れました。夫婦、ということですが…」
倒れかけの石材の陰で震える人影が発見、保護される。
ひどく怯え切っている虎人の男性に守護隊が問いかける。
「大丈夫か!?意識はあるようだが…立てるか?」
「何か見たのか?襲われたのか?」
精気の無い返事を繰り返す男は担架に乗せられ運ばれる。
「どうやら月神には接触していないようだが…」
「月神に魅入られてしまうとあんなものじゃ済みませんしね」
運ばれていく男は虚ろながらも、その目はずっと夜空を見続けていた。
「仮王様が王に戴冠式の招聘をかけてから、もう一年になるというのに…一体王は何処を彷徨っているというのか?!」
「常日頃之試練也。王を理解なされている仮王様にしてみれば、一年くらいは想定の範囲内であろうよ。 それに、招聘の目的は戴冠式だけではないであろうよ」
「んん?大臣、それは一体どういうことだ?」
「仮王から王へと言葉が伝わってから直ぐに水面下で動きを活発化させた…月神教の取り締まりであろうよ」
「ああ!成程! 太陽神の御力を授かった王の動きが分かるとなると、月神をおびき寄せる囮のために王を捕らえ様とするのは必然。何しろ心も魂までも月神に魅入られた者達だからな」
「王がどうにかなるようなことはなかろうが、月神教は緩やかにではあるが国政にまで影響を及ぼし始めている。ここらで対処しておかなければならぬであろうよ」
大
ゲート祭が始まって数日後、ラ・ムールの国内に王の反応が感知されるのであった。
王の帰還が波乱を呼ぶ
最終更新:2022年08月14日 20:49