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【世界の片隅で】

強い日差しを避ける様に遺跡の入り口、庇の影の下でうなだれているのが視界に入った、だけではそう気にも留めなかっただろう。
唯、彼はもっちゃもっちゃと芋虫を咀嚼していたため青年は思わず声を掛けたのかもしれない。
猫人の彼は何か酷く疲れた表情ではあるものの、双眸には活力が満ちている。
青年が遺跡に入る前と入った後も同じ場所で座っているのを尋ねると、猫人は旅の途中だと言う。
流れる空気の如くするりと何事に絡まることなく生きる青年ではあるが、思わず言葉が口から並び出した。
遺跡を見物するのであれば案内しましょうか? いや、見物で立ち寄った訳じゃないもんで…お気遣いなく。
朝からずっと座っていますけど、体調が優れないのですか? いや、まァなんと言うか…この先をどうするもんかと思案していてな。モキュニャス。
遺跡までの道中で捕獲してきたのか、相変わらず芋虫を食している。肩に乗る獣頭の様な毛玉も同じく芋虫を頬張っている。
それはそうと、面白い眼鏡を掛けているな?もう一人の視線を感じるんだが。
青年が、どうぞと差し出した水一杯をぐびりひと飲みした猫人が言う。
分かりますか?素直にすごいですね。この眼鏡は私の視界をそのままリアルタイムでパトロンに送っています。 へぇぇ。そんなものもあるのか。こいつ(スマートフォンの画面を見つつ)なんてずっと読み込み中で止まってるってのに。
ところでここは何の遺跡なんだっけか?
何時の間にか影の下で隣り合い座っている二人。
青年もパトロンからのハードな移動、調査指示に少々疲れているのか自然と腰を落とし会話するのに興じていた。
過去栄えた文明の残照。 へぇ、で、何を目的でその残照に訪れたんで?
かつて奉られていた蛇の神、を調査するために。 …成程。何か感じ入るところがあるような気もしなくもないが、まァ気のせいか。
 事が起こるのに偶然というものは無く、今、君と彼の地の王が遭遇したのも事が成立するためのピースの一つなのだろう。キーワードは『蛇』という確信へ一歩近づいた。大いなる前進だよ。
青年のカナルイヤホンに響く声は同意も質問も求めている雰囲気はなく、唯の自己満足なのだと認識した。
おお!やっと地図の読み込みが終わった!って、ゲート遠いじゃねぇかよぉお。
立ち上がった猫人が頭を抱えるのを見て青年はまだ手を付けてないボトルを差し出した。
パトロンから貴方に進物を、と言う事なので餞別とでも思って受け取って下さい。 おぉ!助かる助かるありがとうありがとう。良き旅を!
身を翻した猫人はあっという間に走り去って行った。

で、今回の調査はこんなもので良いでしょうか? 結構結構。それでは次へ向かおうか。
青年のスマートホンが起動すると画面に地図が表示される。
…ちょっとメソポタミアは遠いのでは、ってもう旅費を振り込んでるし…。 さぁ、次なるピースを求めに行きたまえよ鳩村君。その一歩も世に起こるべくして起こる大事のピースの一つなのだ。
溜め息を一つ、眼鏡を整え掛け直し青年は石段を下りて行く。

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最終更新:2022年10月23日 21:33