【火精と彫刻家】

あるところにノームの気難しい彫刻家がおり、名をロウといった
ロウは日がな一日工房の暖炉のそばに座って、かりかり、かりかりと木を削っては、出来た木屑や失敗作を黙々と暖炉にくべていた
暖炉の火精霊は毎日毎日寡黙な彫刻家に静かに暖を与え、与えられる食事を喜んで平らげていた
だがある時、火精霊は不要になった習作を投げ入れようとするロウをさえぎって言った
「毎日おいしい食事をもらって本当に感謝しているが、時には私のためにも彫刻を作ってほしい」
ロウは黙って頷くと、数十年ぶりに工房を数日間留守にした

火精霊は工房に非常食として残された薪をかじりながら、主の帰りを待った
そして帰ってきたロウは、いつも使っているものとは違う木材を抱えていた
ロウは三日三晩黙々と木を削り続け、やがて暖炉の火精霊を象った立派な彫像が出来上がった
火精霊はたいそう喜んだが、ロウはおもむろにその彫像を暖炉の中の火精霊に投げ渡した
「ああ、駄目だ せっかく作ってくれたのに、私が持ったら燃えてしまうよ」
そう嘆く火精霊に、ロウはにんまりと笑みを浮かべて「手の中を見てみろ」と指を差した
はたして、彫像は火精霊の手の中にあっても焼け落ちることはなく、むしろ火中にあることでまるで火精霊の生き写しのように黒く輝いていた
それこそは火精霊のため見つけてきた燃えにくい木、ナナカマドの木材であったのだ
火精霊であっても触れることができるようにというロウの心づくしに、火精霊は火花の涙をこぼしたという



  • 何の気はないやり取りだけど種族の違いを軽く埋めるお互いの心遣いにほろりときた -- (名無しさん) 2013-07-03 00:49:34
  • ページ開いて短さにびっくり。少ないやりとりの中に溢れるお互いの心遣いに温まる -- (名無しさん) 2014-02-13 23:13:00
  • 最高傑作である -- (名無しさん) 2014-02-14 19:38:47
  • 何気ない日常のやりとりと精霊の純朴さが短いながらも心に沁みました -- (名無しさん) 2015-10-11 17:22:01
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

e
+ タグ編集
  • タグ:
  • e
最終更新:2013年08月05日 01:46