「山の上に住んでる爺さんにこのトンカチ届けてやってくれ」なんて気楽に言うもんだから、二つ返事でOKしてやったわ。
今になってみれば軽率だった。それは俺が悪かった。
けれど、その爺さんの家に行くまでに
ノームの足でも一日は掛かるってことはもっと早く教えて欲しかった。
ましてや俺は地球人だからね。
こっちに移り住んで1年経ったと言っても、お前ら亜人に比べりゃ貧相な体だろ。見たら解るよね山登りに必要な体力筋力がないことくらい。
とか、後悔の種はいくらでも出てくんだけど。居候同然で鍛冶修業させてもらってる身分なんで頼まれごとは断れない。
愚痴ってても始まらないから、慣れない山登りの準備して、山の上の爺にトンカチ届けに行くことにした。
ここまでは、許容範囲だ。
俺は頼まれごとをして、了承して、実行する。
社会人として当然の行い。
けど、なんで山登りの道案内役が親方のとこのバカ娘なんだよ。
わけわかんねーよ。
「べ、べっつに。アンタと一緒に行きたいとかじゃないわよ!?男連中は鍛冶仕事に忙しいから、私がついて行くってだけの話よ!」
うるせーわ。
地球世界の学園モノならいざしらず、異界の鍛冶場にまでツンデレ持ってきてんじゃねーよ。色ボケドワーフが。
だいたい俺はロリじゃ抜けねーの。親方が造る剛剣くらいのがっつりしたボディになって出直してきやがれ、このBit○h!
とか、口が裂けても言えない。
言ったら親方に殺される。炉にくべられて、石炭代わりに火精霊とレッツダンシング。わーキレイ、ってやかましいわ。
バカ娘の案内やだやだー。嫌な予感しかしないよー。
「何ボサッとしてんのよ!?とっとと行くわよ!」
駄々ってもどうにもならないことは分かってっから、案内役は任せてやるよ。くれぐれも厄介事だけは持ち込むなよ。
山の天気は変わりやすい。
それくらい俺でも知ってる。学がない俺でも知ってるよ。
急に雪が降ってきても驚かない。俺超冷静。
持ってて良かったユニ○ロのウルトラライトダウン。
これ一枚あるのと無いのとじゃ天と地くらの差がある。俺超快適。
隣で道案内役のバカ娘スゲー寒そうにしてる。
おいおいどんだけバカなんだよ。防寒具ぐらい持って来とけよ。そんなんだから見た目は小奇麗なのに貰い手が付かねーんだよ、小娘。
女は器量と愛嬌がなけりゃ婚期逃すぞ。俺には関係ないけどな。
「ちょっとアンタ!それ貸しなさいよ!」
もちろんそんな申し込みは断固拒否。寒さを予測できなかったお前が悪い。俺超冷徹。
お前ら亜人は寒さにも耐性あるだろうがな。俺は多分これ脱いだら死ぬぞ。パトラーッシュ。
しかし、気候の寒さに合わせて俺の態度まで冷たくしてしまうと、親方にチクられたときに危険が危ない。、ここらで一回テントでも張って休憩にしとくか。予定より遅れてしまうっつーのは、未だ見ぬ山の上の爺に悪い気もするが緊急事態だ仕方ない。
風よけ程度のテントの中で暖かいスープでもご馳走すりゃ、このバカ娘の機嫌も収まるだろ。
山の天気は変わりやすい。
それくらいは俺でも知ってる。学がない俺でも知ってるよ。
けれど、さすがにこれは変わりすぎじゃねぇか!?
めっちゃくちゃ雪積もってきてるし。見様によってはもう雪山だよこの山。
さっきまでは地面は見えてたじゃん?でも今は雪が降り積もって地面見えねぇし。
なんなら一歩歩くごとに足が取られてヤバイ。
死ぬかもしれない。
そうだ!雪山で遭難したときは女の子と裸で抱き合っても合法だって、じいちゃんが言ってた!
なーんて冗談を言う気にもならねぇ。
道案内役のバカ娘もなんか泣きそうだし。さっきから一言も喋らねぇし。
いつもの憎まれ口はどうしたツンデレ。そんな態度じゃツンデレの名が泣くぞ。
「…うぐっ。ひっく、…うわーん。ぱぱー。たすけてー。ひーん」
ホントウに泣き出しやがった・・・。
強気ツンデレキャラの名もついでに泣いている気がした。
バカ娘の気持ちがわからんわけでもないがな。こんなとこで死ぬなんて、死んでも死にきれん。
というかパパさん?こんなに危険なおつかい頼むなんて、やっぱり俺のことあまり好きじゃないのデスカ?でも僕、娘さんを奪おうなんて魂胆は微塵もないデスヨ?いや本気で。
道案内役のバカ娘が行動不能ユニットになったもんだから、行き先を知らない俺は立ち往生だ。
これだからガキのお守りは疲れるんだよ。
ドスーン。
ああ。嫌な予感だ。
どすーん。
地面揺らすような音してる。確実に。
どすーん。
音は更に強くなる。俺更にビビる。雪崩でも起きたら俺たち帰らぬ人になっちゃうなー。嫌だなー。死ぬ前に地球に戻ってベーコンエッグマフィン食べたいなー。
どっすん。
一際大きな音が鳴った。現実逃避から一気に引き戻される。
くそぅ。もう少しで想像上のベーコンエッグマフィンに齧りつけそうだったのに。
地響きは相当に近くで鳴ったようだ。
近くにあった木がバキバキと音を立てて崩れた。死を覚悟しました。
ツンデレ娘の方はビビリすぎて漏らしています。俺の膝の上で。超迷惑。最初は温かかったが、直ぐに冷える。死ねツンデレバカ娘。
「おー。おった、おった。来るのが遅いからのぉ。心配したぞぉ」
倒れた樹の後ろから現れたのは、全身毛むくじゃらの巨大モンスターだった。雪崩じゃなかったのか良かったー。
巨大モンスターに見つかっただけなら食べられるだけで済むぞヤッター。
なんだよ。結局死ぬのかよ。
「うわーん!」
バカ娘の泣テンションは、バケモノを前にマックスボルテージだ。
こういうクリーチャーは刺激しないでいた方が生存率上がるって知らんのかこのツンデレは。
「おじーちゃーん。怖かったよー」
って、
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?お爺ちゃん!?」
おいおいおい。
眼の前に居るこの化け物がお爺ちゃんかよ。
腕六本あって、目が三つある。身の丈はそびえ立つ程のこれがお爺ちゃん?
ええええぇぇぇぇ。筋肉ムキムキの親方も爺になるとこんな風になっちゃうの~?信じられん。
泣きすぎで目までおかしくなったんじゃねーのか。このバカ娘。
「ほっほ。泣くでない。異界の客人も見とるよ」
と言いながら、爺が空から降ってきた。
なーんだ。ツンデレの爺さんは降りてきたチビの方か。じゃあ納得。にしてもやけに小さいなこの爺。親方の父親だっていうからスケール間違ったボディビルダーみたいな爺を想像してたわ。
ん?けどちょっと待ってくれ。となるとこのデカブツはなんなんだ?ピンチは去ったわけじゃなかった?
「むーくんも、来てくれてありがとー。うわーん」
ツンデレ娘が怪物に向かって勢いよく抱きつく。ふさふさを堪能してる。
ああ、怪物の方とも知り合いだったのね。そりゃ良かった。
届け物のお使いのはずだったのだか、、まさか向こうから出向いて来てくれるとは。
とてもありがたい反面、俺には『お使い一つできない不出来な弟子』という烙印が親方から押されることに成るのだがな!
ダメだ。テンション上がんねー。
称号『お使い一つ出来ない不出来な弟子』を手に入れました!
装備すると、次の補正が得られます。
・親方からの信頼:-25
・男気:-15
・不良:+15
- 称号システム!そんなものもあるのか! -- 名無しさん (2013-01-28 10:37:07)
- >ノームの足でも一日は掛かる これがえらいのかそうでないのか不思議なニュアンス。最後のおまけは小技が効いてて面白い -- としあき (2013-01-29 22:54:46)
- ドワーフ娘の容姿は読む人によって色々変化しそうだ。“ロリ”という点以外は。 ドワーフでびびりっぱなしのキャラも珍しいが主人公との温度差演出に彩りを一つ加えたような面白さがある。 サクサク進んでドーンとインパクトで締めたけど、クエスト的にチェックポイント到達くらいの位置づけですか? -- 名無しさん (2013-02-05 22:54:16)
- 終始低血圧なテンションが何とも珍妙。除雪車の様なむーくんがいるのにお使いを頼んだ親方は何かを期待していたのかも?と思ったり -- 名無しさん (2014-02-13 23:33:38)
- 異世界にもしっかり根付いていたツンデレ。分かりやすいお笑い展開と珍しい種族の登場は短いながらも楽しいの一言。地球人にお気楽が合わさると何かが起こる? -- 名無しさん (2016-01-17 19:03:27)
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最終更新:2016年01月17日 19:03