【石楠花(しゃくなげ)を愛でる】

廊下の隅に不審な段ボールを見つけた。とりあえず横に積んであったプリント類の山を積みなおして重石にし、少し離れて観察してみる。
あ、出られなくてガタガタしてる。面白い。
ひとしきり楽しんだところで重石をどかしたら、中から涙目のナミカさんが出てきた。
「ひどいですよ湊くん、私がこういうところでしかお弁当食べられないって知ってるでしょう?」
「うん、昼休みのたびに見つけて悪戯するのが楽しくて楽しくて」
「うわーん、この鬼畜!」
蝦蛄人というのは明るいところにいるのが苦手らしい。だからって昼休みのたびに校内で段ボール詰めになるのはやめるべきだという僕なりのアドバイスなのだが、なかなかわかってもらえそうにない。

ナミカさんはいつもゴーグルみたいなサングラスをしている。
いわゆる校則違反にあたるようなものではない、視力が悪い人が眼鏡をするようなものだ。いや、彼女の場合は視力が「良すぎる」からかけてるわけだけれど。
たとえばこう、スパイグッズ的なおもちゃでさらさらさらっと落書きをするとだね。
「………!」
お、赤くなった赤くなった。他の人には白紙にしか見えない、ナミカさんにしか読めない秘密のお手紙って寸法だ。
「それで書くのが下ネタってどうなんですか…」
「だってリアクション面白いし」

朝、所用で始業から随分早く登校すると、ナミカさんが中庭を掃いていた。そういえば普段からあまり落ち葉を見ないと思ったら彼女が掃いていたのか。
「あ、おはようございます湊くん」
ぺこりと頭を下げると、触角も一緒に地面を向いた。
「こんな朝早くからご苦労様」
「いえ、風紀委員として当然のことですから」
にこにこと返すナミカさんに手を振って自分の仕事に向かう。
最近の風紀委員は生徒による学内警察みたいなイメージになってしまってるが、ナミカさんみたいなのもまた風紀委員の正しい姿なんだろう。
きれい好きのナミカさんには向いている仕事だと思う。本人には言わないけど。

ナミカさんの誕生日はこちらだと四月二十六日になるそうだが、調べてみたらその日の誕生花はしゃくなげなんだそうだ。
あまりにもこう…しっくり来てしまったので、つい出来心でその花を買ってきてしまった。
誕生日、例によって早朝の校内で掃除をしていたナミカさんにほいと渡してみた。
「今日が誕生日だったよね、おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
予想通りちょっと困惑しつつも笑顔を浮かべるナミカさん。僕の突飛な行動はいつものことだから、そろそろ慣れたのかもしれない。
「ところで、その花の花言葉って知ってる?」
「自分の誕生花ということで多少は。えっと、「威厳」とか「荘厳」とか…なんだか私には全然縁のない感じですね。あ、でも「危険」というのは当たってるかも、なんて」
ちょっと自嘲するような口調に、なんだかもやっとした気分がわいた。
「僕がこめたのは、あと一つの方なんだけどね」
「あとひとつ…ええっと、なんでしたっけ?」
考え込むナミカさんの隙をついて、ついっと近づいた。あ、と顔を上げたナミカさんに唇を重ねる。

「警戒心を持て、だよ」

さっとしゃくなげの花のように赤くなったナミカさんが平手を打ち、僕は二時間後の保健室で目を覚ました。


  • ダンボールルーム吹いた。蝦蛄ってえらく複雑な顔していますよねー。とつくにの人から離れた容姿の種族って物腰丁寧なのが多いような気がする -- (とっしー) 2013-03-06 12:38:28
  • かわいい! -- (名無しさん) 2013-03-06 21:21:45
  • 命知らずの恋(?)ですね、だがそれがいい! -- (名無しさん) 2013-03-07 03:16:39
  • これは良い -- (蝦夷あき) 2013-03-09 03:47:53
  • 文章うまいなー -- (名無しさん) 2013-04-12 22:20:47
  • 強面強キャラそうに見えて…のギャップが良質。なんとからかい甲斐のある -- (名無しさん) 2014-08-15 22:24:59
  • 見た目強そうなキャラほどギャップが大きいのが醍醐味よの -- (名無しさん) 2014-11-21 23:13:19
  • 蝦蛄の特徴がこれでもかと盛り込まれているナミカさんでした。地球の生物がモデルになっている異種族は性質など想像しやすくていいですね。それにしても純朴かつ強烈な拳 -- (名無しさん) 2016-03-20 17:36:10
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最終更新:2013年08月05日 01:53