普段なら枯れ木の一本もない小さな島は、即席の舞台を中心に大きな熱気に包まれていた。
その島を挟んで二隻の船が氷を避けて浮いており、それを背にふたつの陣営が対峙している。
怒声、罵声、そのほかのあらゆる汚らしい言葉。それを割って、二名の戦士が闘技の場へと進み出た。
私はその喧騒を少し離れて、即席の簡素な特等席。横には一人だけ、異種族の男が座っている。
「へへ、お客さんにいいとこ見せようって張り切っちまってよ」
隣の
オーク……私の案内役を買って出たオーク、ガルムが話しかける。その息は少しどころじゃなく酒臭い。
「まあ
オーガのうすのろどももカードじゃ負けるってことをようやく覚えたみたいだからな。丁度良かったぜ」
丸めた背に小山のような筋肉が盛り上がるオークの戦士が、咆哮じみた名乗りを上げる。
対するオーガの際立った巨体も、空気も震える雄たけびをあげた。
「戦いの場でもオークが勝つってぇのを分からせてやれ! 船長!」
ガルムが席を蹴って立ちあがったのと同時に、二人の戦士の体が弾けた。
ゴングは鳴らず、合図もない。オーガの巨体に飲まれるように飛び込んだオークが腕を振るい、破裂音が戦闘の始まりを告げる。
船にも使われる、硬くて軽い木。それに布を巻いただけの棍棒が、目の追いつかない速度で舞い、それを避け、鎧に滑らせ、あるいは棍棒で受けて、互いに巧みにいなしている。
……などと把握をしている内にも、私にはとても判断の付かない速度で入れ代わり、立ち代わり、戦場は目まぐるしく動く。
その光景に私はしばらく口を開けるのみしかなかったが、唐突にガルムが頭をかき乱した。
「あーくそ、剣だったらここまで苦戦はしねぇのによぉ!」
鈍器での単純な打ち合いでは、やはり怪力に分があるらしかった。オークの戦士は卓越した技術で腕力、体力の差を埋めようとするも、しだいに私にも分かるほど、劣勢の相を見せ始める。
両者とも身のこなしが鈍り始めるが、それでも打撃には体重が乗る。そして、オーガの大上段からの一撃が、とうとうオークに尻餅をつかせた。
追撃の蹴りで腹をやられ、オークの戦士が地面に転がる。歓声とどよめきの飛び交う中、オーガの戦士はゆっくりと、ゆっくりと腕を持ち上げ、にやつき笑いで宣言をした。
「おでの……おでの……勝ぢだぁ!!」
今、私こと異邦人の立会いの中で、決闘による勝者が決まった―――
と、その瞬間、オークの戦士が寝たままの足払いを決め、オーガの太い首筋に肘鉄を食らわせた。そして、見事に伸びた。
一瞬、静寂に包まれる場……それは本当に一瞬だった。
「今のはひきょーじゃねーのがぁ!!?」
「そんな難しい言葉をつかわなくても、戦場ではなんでもありだぜクソオーガ!」
「あんだぁ!?」
「うるせぇ!こっちこそなんだ!」
分かれた陣営が一気に沸騰し、そして詰め寄る。私は隣を見た。ガルムはすっくと立ち上がり、集団の中に飛び込んでいく。視線は宙を彷徨って、喧嘩を止める者は誰もいない。
いや、いたかもしれない。
「ちょっと待てよ、今回は立会い人がいるって話だったじゃねえか!」
私だった。集団の100の視線がこちらを向く。それは、確かに感慨深げに見届けて、立ち会ったなんてちょっと考えちゃったけど、そもそも勝負の判断なんて私には……
「いえ、えーと、あのですねえ…これは、今回は…」
言葉を濁しているうちに、誰かが誰かの頭を小突く。私は、その後の乱闘に関しても、いたって、全く無力だった。