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【今日のお昼の悩み頃】

本当にどうでもいい話なのだが、かれこれ20分ほど立ち尽くしている。
安物の腕時計で時刻を確認すると、既に12時半をまわっている。
困った。どうにも決まらない。財布の中身は300円。仕送りは明日。
下宿先では夕食が出るので、それまで何とか持ちこたえたらいいだけの話で、
いっそ昼食など抜いてしまってもいいのかもしれないが、いかんせん空腹だ。
昼食抜きなど筆舌に尽くしがたい。

300円という金額を考えれば、選択肢は学食しかない。
コンビニ弁当はこの額では購入出来ないし、パンやおにぎりで誤魔化されるような空腹感ではない。
そうして今、十津那学園学食『すたーしーかー』にてメニューをにらみ続けているのだ。
普段ならば迷わず「ギガ盛り牛丼おしんこ味噌汁付き」で決定するのだが、今回はそうはいかない。
探しているのは星ではない。
空腹感を満足させる確かなボリュームと、リーズナブルな価格の両立だ。

うどんはどうであろうか。
十津那学園はその立地条件から、四国のうどん県より取り寄せた本場讃岐うどんを使用している。
味付け薄めのだしに、ネギ、天かす、かまぼこを載せたシンプルな構成であり、お値段1杯250円。
これに大盛り券50円をつけて丁度300円というワケだ。
しかも十津那学食のうどんはそれだけでは終わらない。
大延国からやってきた狸人調理人による、本格大延たぬきうどんもメニューに含まれるのだ。
これは従来のたぬきうどんとは趣をまったく異にしたもので、何と中華風とも言える味わいなのだ。
炒麺の麺をうどんにして、チリソース風味を強くしたものと言えばいいだろうか。
これもジャスト500円と実にお得なのである。お得なのだが、今回は除外。

では、蕎麦はどうだろう。
経営者の趣味なのか、全国津々浦々の蕎麦がメニューにあり、全て数えあげると20種類はある。
予算内に収まるものを考えると選択肢は狭まるが、それでも山菜蕎麦300円をいただけるというものだ。
うどんに比べると大延狸人のハートを打たなかったのかオリジナルメニューは少ないが、
大延の伝統麺を地球風にアレンジしたというシロ南蛮蕎麦は自信を持ってオススメできる。
ただし550円もするので今回は除外。
やはりシンプルに大盛りかけ蕎麦を注文するのが良いのだろうか。
しかし、それでこの空腹感は満足できるのか。

それではラーメンはどうだろう。
ラーメンに関しては言うまでもなく、白味噌、赤味噌、辛味噌、塩、薄口醤油、濃口醤油、とんこつといった
スープの味付けはもとより、麺の茹で具合からトッピングの種類まで食券の段階で選択し放題。
カラメヤサイニンニクアブラマシマシなど余裕なのである。
しかし問題は、ベーシックな注文をすれば予算内に余裕で収まるものの、自分の好みに合わせた組み合わせで、
かつ300円というボリュームに合わせるとなれば、昼休み残りの時間内にてその最良の選択が見いだせるかという点だ。
それだけではない。大延狸人調理人がその総力を結集して作り上げた「とつくにラーメン」は、
ラーメンマニアの間では中華料理店「張郷金ラーメン」の看板メニューである大中麺を凌駕するとまで言われているのだ。
くそう。食いたい。とつくにラーメンを腹いっぱい食いたい。しかしあれは500円もするのだ。

「何を迷っているんだ」
不意に後ろから声をかけられた。蟲人の友人であるハイエ・トリーだ。
初対面では両目がデカいわ蟲だわ黒いわチビだわ蟲だわでどうにもとっつきにくかったものだが、
意外と愛嬌のある面もあり、いつの間にか普通に友人付き合いしている。
蟲人といえば、まるでロボットかアンドロイドのようなおカタイ人格の人ばっかりな印象だが、
それはどうも社会性蟲人の特徴らしく、彼のような蟲人はそれに該当しないのだとか。
彼はおもむろに財布から500円玉を取り出すと、欠片の迷いもなく券売機でA定食のボタンを押した。
「あー”!人が散々迷ってんのに、何でそんなアッサリと!」
思わず叫んでしまったが、彼は泰然自若として言った。
「月末でカネが足りないんだろ?貸してあげる」と。

種族柄か目が良すぎて動くものを無意識に追うようで、クルクルと目玉や頭を動かしながらも
財布から500円玉をもう一枚取り出す。私は迷わずそれを受け取った。
「さんきゅ、なんていいヤツなんだお前さんは。これで合わせて800円。
 つまりギガ盛り牛丼おしんこ味噌汁付きか、本格大延たぬきうどん大盛りか、
 シロ南蛮蕎麦大盛り玉子付きか、とつくにラーメン大盛りヤサイニンニクマシマシか、
 どれもこれもいただけるとゆーワケだ」
しかしそうなると、この中からいづれかを選択しなければなるまい。
「ボク、先に食ってるからな」
目玉をキョロリと動かして、彼はメニュー受け取りカウンターへと足を運んだ。

よぅし決まった。
明日の仕送りが入ったらギガ盛り牛丼と大延たぬきとシロ南蛮をいただくとして、
今日はとつくにラーメンをいただこうじゃないか。
ショーケースを睨みつけていた私は、ここにいたりようやく食券売り場へと足を運んだ。
しかしそれは、メニューが決まった安堵感に包まれた幸福なあゆみだ。
さあ、食券販売機よ。私を幸福へと導いてくれ。

『売り切れ』

えーマジでー


「なんだ。迷った割にキミもA定食にしたのか。しかしその選択は最良だったね。
 今日の塩こうじチキンソテーは本当に美味しい。お味噌汁も海鮮汁でボクの好みだよ。
 漬物の漬け具合も歯ごたえを残しながらも味が染み渡っているね。
 なんだい?何か言いたそうだけど」
「A定でそんな幸せそうに食べられるアンタが羨ましいわ。
 ていうか蟲人のくせに日本食に馴染みすぎじゃね?」
「祖国ではもう少し野蛮な食生活なものでね。
 可能ならチキュウに住み続けたいものだけれども、情報処理に通じたアラクネ種ならともかく、
 ボクのような普通の蜘蛛人じゃ、どこも採用してはくれないだろうね」
ハイエ・トリーは、多分ニコニコとしながらA定食を食べ続ける。
まあ確かに『素足だとガラスの上でもよじ登れます』ってだけじゃ、清掃会社しか雇用しないわね。
チキンソテーが本当に美味しかったので、ちょっと悔しい思いをした。

○お題「うどんとそばとラーメン」「ハエトリグモ」


  • 学食と言っても種族ごとに体格割引きとかないと大食い大柄な種族生徒は金がいくらあってもたらんよねとふと思った -- (とっしー) 2013-03-22 00:53:11
  • 思わず胃が鳴り涎が出てくる充実した学食解説でした。知った仲同士のやり取りと男子生徒らしさに和みました -- (名無しさん) 2016-05-08 19:42:46
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最終更新:2013年03月21日 01:23