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【毒】

むかしむかしのことである。
一人の鬼の若君がいて、一人の蜥蜴の臣がいた。
二人は幼少のみぎりからの付き合いで、気難しげな鬼の若君もその蜥蜴の臣には朗らかに接していた。

さて、いつものように二人縁側に並びお茶をすすっていたときのことだ。
鬼の若君、胸を掻き毟り倒れる。
荒々しく息を吐き、口元からは血がたれた。
蜥蜴の臣はしかし慌てずに、布団を敷き鬼の若君を楽な姿勢に寝かせる。
そして、枕元に正座して語る。

「毒でございまする」

「……っ………っっ」

鬼の若君、息も絶え絶えに何事かを話そうとするも確とした言葉に結ばれず。
しかし、蜥蜴の臣は正確に読み取って。

「そのような心配はご無用。わたくしめこそ毒にて」

「……っ!?」

「なぜか、と問われましても。わたくしめの主筋が『そうあれ』とおっしゃったので、そうしただけのことにござりまする」

「………っっ!!」

「はい、存分にお恨みなさってくださいまし」

鬼の若君は苦悶と憤怒の表情で、蜥蜴の臣の首へと手をかけ、何もできぬまま息絶えた。
最期に己の仇に放とうとした鬼神通も放たれず怨念に凝り固まり、鬼の若君の体を食い荒らす。
讃えられた凛々しさはもはや一寸の陰にもなく、骨はねじまがり飛び出し、角も奇怪な色に染まった。

蜥蜴の臣は静かに鬼の若君の首を切り取った。
蜥蜴の長へと持ち帰り、その功に見合う褒美を問われて答える。

「その鬼の御首のみを所望いたしまする」

「よかろう。………と、それだけでも困ろうか。良き鍛冶屋も用意しよう」

「ありがたき幸せ」

鬼の若君の頭骨は鬼剣へと鍛えられた。
蜥蜴の臣その鬼剣を争乱にて振るい、鬼猛者を斬り捨てに斬り捨てる。
しかし鬼剣の呪い蜥蜴の臣を蝕み、戦いの中しだいに体腐り、
百の鬼を斬ったとき、己の首をも斬り落として果てる。
蜥蜴の長は百一の鬼を斬った功を大いに讃え、碑を打ち建てる。
また、遺言により棺には鬼剣を骸と共に納めたという。


  • いやいやいやこれめっちゃ怖いじゃないですかー。淡々と進むのがさらにぞくっとした -- (としあき) 2013-03-27 00:14:16
  • 当たり前のようにえげつないことする蜥蜴人怖いよ! -- (名無しさん) 2013-03-27 12:34:24
  • 物事に対する価値観ってのは種族だーの国だーので違いはあるんだろうけどさ…あまりにも冷淡で非情ではありませぬかござそうろう -- (とっしー) 2013-04-05 20:57:19
  • 深い深い業が深い。しかし躊躇いの一片も見えず -- (名無しさん) 2014-05-24 17:08:51
  • 淡々と行われる謀略とその後の経緯の中でも感情の起伏を見せない蜥蜴の民に決して表に出すことのなかった心を感じました -- (名無しさん) 2016-05-22 17:09:49
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最終更新:2013年08月11日 10:43