【ニライカうどん食道紀② オーガサイズ、襲来 ~ナガモリ~】

その知らせが支局に飛び込んできたのは年も明けてすぐのことだった。
情報源は最近ニライカに事務所を構えた男こと蛇人のU田君だ。
U「オーガサイズのうどん屋ができたんですよ」
そうですか。
O木「あっさりしすぎちゃいます?」
牛「何を言う。わら屋の家族うどんと似たようなもんやろ」
我が心の故郷、地球の香川において量が多いうどん屋はそんな珍しいことでもないのである。
ちなみに前述のわら屋というのは高松は屋島にある老舗のうどん屋で
家族うどんとはそこで出されている名物メニュー。別名をたらいうどんとも言う。
でっかいたらいに入ったかまあげうどんだが、これの玉数がなんと十二玉!
よーするに家族連れとか仲間連れでつつくのが前提のメニューですわ。
けどたまに一人で平らげる剛の者もいるらしい。
そんなわけもあり、そして昨今の異世界交流の影響でやれ「スタバでオーガサイズ導入か?」とか、やれ「マクドでスーパーサイスミー状態の異世界人がいた」とか
そんな話が日常茶飯事だったので、我々は色物として取材を後回しにするつもりであった。
あったのだが…

牛「何せこの辺りじゃ数少ない異世界留学経験者のU田君のタレコミやからな。行かんわけにはいかんやろ」
O木「そうですねー、留学するために小遣いほとんど参考書に注ぎ込んだU田君の言うことですからね」
牛「せや、こっそり参考書の間にエロ本挟んで買おうとしたU田君やからなー」
O木「というとその後留学して初めて山手線に乗ったのはいいけど終点無いのに気がついて怖くなって鉄道警察に泣きついたU田君ですね」
牛「他に誰がおる。個人タクシーは一人しか乗せんもんやと思とったから前の客が連れ立って乗るん見て腰抜かしたU田君や」
O木「つまり代々木の駅でおんなじ読みなのに代と々で字が違うと熱出したU田君、と」
牛「おう。代ゼ○に行くつもりが間違えて代ア○に行ってうっかり入学してもうたU田君やな」
U田「あることないこと言わないでくださいよ!」
こりゃ失礼。ま、ワーワー言うたけど最後のはホンマである。
そのおかげで絵の才能に目覚めて今や自分のデザイン事務所まで立ち上げちゃったんだから人生(?)わからんもんである。
U田「あのー、ちょっといいですか」
牛「何や」
U田「このくだりいります?」
牛「いいところに気がついたね、なんだろう君。でもそんな事はどうでもいいんだよ」
別に大事な取引先の人やからフォローしとことか、ネタにしとけば笑って許してくれるやろとか
原稿白いから水増しせないかんとか、そんなことはこれっぽっちもないのである。
ないったらないのである。

そんな事があったりなかったりした(どっちやねん)数日後の昼飯時。
件のU田君が支局に遊びに来た。
折しも前日に締切を終えてフヌケモードになっていた我々には絶好のタイミングと言わず何と言う!
そういうわけでU田君ナビによるオーガサイズ探検隊が結成されたのである。
牛「ほんでどのへんにあるんや?」
U田「市場の脇です。周りの商店がたくさんあるとこあるじゃないですか。あの辺りにひっそり紛れてるんですよ」
牛「ほーなー、そらよー探さなあかんな」
田舎町とは言え、何せ人の集まる市場である。
さらにその周囲の商店街の中となれば目を皿のようにしても足らんかもしれん。
ニライカ行政府のある中心地から港湾通りを市場へと竜車を走らせること数十分。
目的地近辺だ。さてここからは道の両脇をよーに、よーに……
牛「お、行列あるぞ。あれちゃうか?」
U田「全然違いますね。ここじゃなくてもうちょっと先ですよ」
さすが市場、人がいっぱいおってわかりづらい。
U田「着きましたよ、車停めましょ」
牛「ここかー。えらい並んどるのー」
割り込みするわけにもいかんので店の前から続く行列を辿る我々。
辿って、辿って……お、ここが最後尾やな。
って最初に行列見つけたとこでないか。
U田君「なんか複雑ですねー」
牛「しゃーないしゃーない。うどん探訪にはよーあるこっちゃ」
行列を消化し、暖簾をくぐる。
まず先にうどんをもらって自分で湯がき、そこからオプションという流れだ。
典型的なセルフ型うどんである。
とりあえずオーガサイズという前置きがあったので普通のかけを注文すると……
なんと店員さん、桶を出してきてその中にセイロのうどんをこれでもかと盛ってくるではないか!
目算で確実に六玉は入れたんちゃうか?
泡食ったようになっとる私の後ろからU田君が声かけてきた。
U田君「湯がく時に気をつけないと、てぼごと釜の中に落ちますよ」
見たらわかるわい!
ともかく、一本のうどんも無駄にしたらいかん讃岐人(エセやけど)の意地にかけて……
なんでしょうかね、ここの店はどれだけ私を驚かせたら気が済むんざんしょ?
釜のヘリに引っかかっとるてぼはまぁデカいわ重いわ年期は入っとるわでもう盛りだくさんにも程がある。
あ、てぼについてなんやねんと思ってらっしゃる読者諸兄へ。
てぼというのはよくラーメン屋なんかで大将が麺湯がく時に使ってる半楕円で柄が真上についてるあのザルのことである。
正式名称は鉄砲ざるで、どちらも玉を込めるところからこの名前が…
U田君「解説する余裕はあるんですね」
牛「逆や、現実逃避や」
U田君「ならあっち見て下さい、目覚めますから」
促されて見た先には……なななななんと!「かけ」「ぶっかけ」とかかれた樽がどーんと!
ほんで前の客が柄杓で樽から出汁掬って豪快にかけとるではないか!
さらに樽の向こうで麺打っとる大将らしき人!頭から角生えとる!
この辺りで鬼とかレア過ぎるわー!!
U田君「ミノな支局長も十分レアですってば」

散々驚いて驚きあきて思考停止しオプションを取れないまま席についた。
さて肝心のうどんであるが、麺はかなりの太麺のずっしり系。
だが喉越しはなめらかで重さを感じることはあまりない。
つなぎの海藻も新鮮な物を使っているのか風味も良い。
シンプルなダシとも相まってズルズル入るうどんだ。
当初の不安もどこへやら気がつけば我々は出されたうどんを完食していた。
うーん、だがこれは後からズッカと来るんちゃうか?と不安になっていたら横にいたU田君がおもむろに立ち上がった。
牛「厠か?」
U田君「いえ、二周目行ってきます」
牛「なんとかー!?もう入るんか!?」
U田君「僕ら元々消化するの早いんですけど、ここに通い出してから磨きがかかりまして。じゃあ行ってきますー」
言うが早いがU田君は暖簾くぐって行列に並び直した。
さっきちらっと見えたけどてぼ振ってる時の彼の腕、えらい筋肉ついてたなぁ…。
こら彼の伝説にうどん屋で肉体改造しちゃった男も追加せないかんかもしれん。

店舗情報
「ナガモリ」
営業時間  5時~14時ぐらい(閉市時間により変動あり)
値段   かけ 250円 
     ぶっかけ 250円
     ざる 300円
     かやく 350円
     大はプラス30円
     オプション 50~120円
(例のごとく日本時間・日本円換算なので変動には注意)

  • 大将はなんと元イツクシモ海賊船団本艦の板前さん。婿入りを機に船を降りて店を始めたそうだ。
  • 市場で買ったものなら持ち込み可。100円で天ぷらにしてくれるぞ。
  • 雨市の日はごった返すので、天気を調べてから行こう。

  • なんかごっつええかんじや。みんなで一つを食べていいのであれば家族連れに人気がでそう!その横で一人で平らげるオーガ -- (とっしー) 2013-04-05 21:45:56
  • 昼飯ながらの会話みたいで楽しいね。しかし妙にリアルな値段設定よ -- (とっしー) 2013-04-12 23:59:17
  • 徹底した漫才口調はほれぼれする。地球の現代風な異世界まじりが秀逸。オーガサイズは一度挑戦してみたい -- (名無しさん) 2014-08-15 03:23:38
  • この独特な空気はうどん記の味として完成していますね。確かに外食産業で異種族交流の世になるとサイズ区別は大きなポイントになるでしょう。小ネタがというよりは小ネタが連続して構成された内容は思った以上に現実性があって楽しいですね -- (名無しさん) 2016-05-29 18:08:58
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最終更新:2015年08月22日 23:42