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【エリーとリフと牛】

ぽけー、と、ひなたぼっこ。
お母様の葉を軽く通した日差しがやわらかい。
お母様は今日も、おおきいなぁ………zzz……。


ずむり、ずむり、寝転ぶ体に響く音があった。
体を起こして確認。
牛だ。黒くておっきい。
そして、エリーが横座りに乗っている。

「リフー、おはようございまーす」
  「ぶもー」
「おはよう、エリー。だけどなんで牛?」
「暇かなー、と思いまして」
  「ぶもー」
「まぁ、たしかに暇なんだよねー」

くるりと後転して立ち上がる。

「エリー、お薬とってくるね」
「媚薬のたぐいは投与済みですから、滑液だけでいいですからね」
「了解わかったー」

とてとて歩いて、姫百合のところまで。
頭をぽふんと叩くと、どろどろ粘液が出てくる。
と、いけないいけない入れ物を忘れてた。
しかたがないので、両のお口に溜めていこう。

エリーと牛のところへ戻り、声が出せないので手を叩いて合図を送る。
エリーは腰にさげた巾着から種を取り出した。
ポイっと投げられ落ちて芽吹いて育って、簡易祭壇のできあがり。

微睡む牛をエリーは操り、祭壇へと導いた。わたしはその隙間にもぐりこむ。
牛の匂いがむあむあと鼻にしみ込む。荒野が見えた気がした、どこから連れてきたんだろう?

お腹の毛並みは立派で、ぐにぐに押すと筋肉の弾力。
肝心のものは薬のおかげか元気いっぱいで、
口に含んだ粘液をぶうっと吹き掛けるともっと元気になった。いい子だ。
びくびくと震えるこの子から、姫百合を掻き分けて匂いが届く。
それを嗅いでいると、いつもいつも頭の中でかすかに響く声が、
お母様の声が、じわじわと大きくなってくる。
《交わり、集めよ》《交わり、集めよ》《交わり、集めよ》
うん、がんばるよ、お母様。

さきっぽをうずめさせて、声をかける。
「エリー、準備できたよー」
「はいはーい。じゃあ、いきますよー!」

エリーがたぶん牛に目覚ましの薬を振り掛けた。
ぶも゛ー!!お゛おう!!お゛おう!!
ってすごい声で牛が鳴く。
そしてわたしの中にぐんって突き刺して、きもちいいとも苦しいともいえない感覚。

それと同時に頭がキーンと冴えて、お母様の声がまた強く響く。
《交わり、集めよ》《交わり、集めよ》《交わり、集めよ》
よだれを垂らし悲鳴じみた嬌声をあげる牛・そして私、牛と私のお祭り騒ぎ。あ、エリーが振り落とされた。

祭りの太鼓は私たちの体で、祭神は言わずもがな。
太鼓のリズムにあわせて、お母様の声がずんずん強くなる。
《交わり、集めよ》《交わり、集めよ》《交わり、集めよ》

ああ、お母様。お母様。一言だけの、お母様。生まれたときに一言。あとは、すべて残響。
もしも二言目があるとするなら、なんて言ってくれるのでしょう?

私は今日も昨日もあなたの下で、幾度も仰ぎ・幾度も祈り・幾度も笑いかけました。
だけどお母様、あなたは私のことを見てくださっているのでしょうか?

ああ、お母様。お母様。あなたの葉々のざわめきが、いつも私の子守歌。
だけどお母様、あなたは私のことを覚えていらっしゃるのでしょうか?

お母様。お母様。いつか私の還る湖の畔で、二言目があるとお姉様に聞きました。
早く早く聞きたい。聞きたい。冗談でも叱責でも愚痴でもなんでもいい。
ああ、でも、出来れば誉めていただきたい。きっと、誉めてくれますよね?

ぶも゛ーーーーー!!!!!
牛が絶叫してぶるぶると震えた。どくりと私の中に吐き出される。

同時にお母様の声が雷光となって、私を塗り潰す。
お母様の声が、じわじわと大きくなってくる。
《交わり、集めよ》《交わり、集めよ》《交わり、集めよ》

この瞬間以外はいつも、ふわふわと崩れそうな頼りない地面に立ってるようで。
お母様に声に包まれているこの時だけが、きっと、この時だけが本当に安心出来る瞬間。
だけど余韻はすぐに掻き消えて………。



「エリー、終わったよー」
「じゃあ、どかしますねー」
  「ぶ、ぶもー」
「そういえば、外の人同士が体を重なると恋が出来上がるそうですよ」
「そうなの?」
「さぁ?……リフ、恋をすると胸が暖かくなるそうですよ」
「んーー、なってる気がする」
「おおっ、……そして、胸が切なくなるそうです!」
「なってる!」
「すべてを捧げたい気持ちが!?」
「わきあがる!」
「恋です!」
「恋なんだ!」
二人で万歳のポーズ。
「リフ!リフ!牛を見つめてください!甘みをかんじますよ!」
「見つめた!……甘くならない!牛は!?」
エリーが牛の舌を舐める。
「……甘くないですね」
「ということは」
「恋ではないです」
「んーー、お肉食べてみたら甘いかも?」
「リフ、リフ、お腹壊しますよ」
「異人さんによると、マツザカギュがいいんだって。これ、マツザカギュ?」
「詳しくないので、なんとも……。ダークエルフの方に聞いてみましょうか」
「頼んだよー」

ふらりと消えるエリーに手を振るわたし。
《交わり、集めよ》《交わり、集めよ》《交わり、集めよ》
ああそうだ、吸精樹のほうにいかなくちゃ。
たぷんとわたしの宝箱にゆれる、かわいいかわいい子供たちを捧げに、わたしはとてとて歩いていった。

  • ジューカン万歳!ジューカン万歳!(挨拶) -- (名無しさん) 2013-04-21 12:45:46
  • 「お母様、あなたは私のことを見てくださっているのでしょうか? 」切ないね。還元される時に世界樹の二言目を聞く事は出来るのだろうか。神は被造物に労りの言葉をかけてくれるだろうか -- (名無しさん) 2013-04-21 18:32:19
  • やっぱりこのテンション素晴らしい。種族らしさが出ているけど他種族から見ると口ポカーンかもしれん -- (とっしー) 2013-04-21 20:09:52
  • 自然体でぶもぉお~。これが世界樹に囚われた種族の思考か! -- (としあき) 2013-04-25 18:03:45
  • なんとなくSF風味を感じる。ティプトリー的な感じ -- (名無しさん) 2013-04-25 23:10:16
  • 思わず仕事風景が浮かんで前かがみになりました。種族を創り産み出す世界樹でもそれの素になる遺伝子の集め方はとてもアナログというバランスがいいですね。しかし至る所に仕事を円滑に進めるアイテムがあるのもやはりエリスタリア -- (名無しさん) 2016-07-03 17:57:30
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最終更新:2013年04月21日 12:44