【祭の酒場で起こった何か】

「あの、大丈夫ですか?」
ノーム少女ラニの眼前で突っ伏している倒れているソレは、確かに店を出る前は無かったはず。
ザッカ、サンロク、ゴブング、ランプ、爆釣り宣言と回って終えた買い物の袋を抱えているため、時間はあまり取れない。
 なんだろう? 狐人さんっぽいけど、見たことのない服を着ている。
地に伏しているため背中からしか見えないが、幼女と少女の境界線に立つような微妙な小ささ。
肌は褐色、髪と尾は淡い金色。 体表を如実に見せる服から四肢に広がる袖と裾は半透明で美しい水面の様。
「あの…大丈夫ですか?」
ラニの中では最後通告。 そろそろ手が痺れて来たので店に入らないと。
ぴこん ふり ふり ふりん
依然、返答は無いが小女の尾が立ち、環を描くようにゆる~り振れる。
「あっ!遅いと思ったら道端で突っ立って! 早くしないと仕込みが始まるってのに!」
酒場フタバ亭の両開き戸を勢い良く押し開けて飛び出し、ラニをすぐさま捕捉した鬼少女シィ。
少しばかり眉間にシワが寄っているのを見る限り、どうやらおかんむりの様。
「むぎゅう!」
音では無く、声で鳴く。 哀れ倒れる小女はシィに踏まれ一言目を発した。
「何これ?!行き倒れ?」
思わず背後三歩間バックステップで退いたシィがファイティングポーズを取る。
ぐぅぅ~~~~~
「お腹が空いたのだ~…」
確信の更に一つ上は何と言えばいいのだろう。
「シィちゃん、この子…」
「祭りの最中だってのに店の前で倒れられちゃ景気が悪くなるよ! とりあえず店長に相談しよ」
ひょいと小女を背負ったシィを先に、ラニも店へと帰る。

「おいし~ぃのだ! おかわりもういっぱいほし~ぃのだ!」
口の周りの料理の残骸も気にせず皿がふわりと空皿の上にのっかる。 既に小女の両脇に積まれた皿は上半身より高い。
「…小さいのによく食う。 しかし、一体何処に入っていくんだ」
「あらあら、これだけ食べても全然お腹が膨れないってどうしてなのかしら? ちょっと羨ましいわ」
サングラスの奥は恐らく呆れ目であろうオーガ巨漢店長。
柔らかい物言いだが手元は素早くまかない飯を作りよそう鬼人女将。
「それにしたって食べすぎだよ! 食べた分はしっかり働いて貰わないと」
「シィちゃん、急に働くとか無理だよ多分」
憤慨の両手腰ポーズを取るシィを諌めるラニだが、そんな事はお構い無しに屋根裏の住み込み部屋へと向かうシィを止めれるわけもなく。
「ラニの服なら着れそうだし。持って来る」
「シィちゃん!勝手に私の箪笥さわっちゃダメだよ!」
どたばた階上へ上がる二人を見る店長は、やれやれと溜め息をついてカウンターの奥へ食器整理に向かう。
女将は「ちょっと待っててね」と小女を諭すと、一旦山積みの食器を洗いに流しへと歩いていく。

「あれ?あのちっこいのがいない!?」
「あ、ホントだ」
ぐるぐると周囲を見渡すシィだが、さっきまであった気配はもう店内には感じない。
すぐさま外へ飛び出し通りを見るが、いない。
「あれ?何か書いてある」
ラニが小女の座っていたテーブルにひらり落ちていたナプキンに目をやると、何やら文字が。
 “ はたらいたら まけかなって おもうのだ ”
「これって」
「うわー!食い逃げだー!」
「食わせた後に目を離したこちらも悪いか」
「あらあら。あれだけ食べてすぐに走るとお腹を痛めそう」

 ── 酒場フタバ亭営業中
「あらあら?何だか竃の調子がいつもより良いわ? 炎精霊が何だか元気」
料理を次々並べる女将のフライパンや鍋を熱する炎は、確かにいつもより煌びやかで金色に輝いている様。
「あれれ?食器洗いがいつもよりラクだよ。 水精霊が倍になって手伝ってくれてる感じがする」
シィの周囲に集められる食器があれよあれよという間に洗われ磨かれ積まれていく。
[地下室が三割増しでひんやりしていて食材も酒も良い具合に馴染んでいる。 闇精霊に何かお願いでもした?]
カウンター隅にある地下貯蔵庫への床扉がギィと開き、豹の手がホワイトボードを掲げて伸び出る。
「ふぅむ。店中の精霊の力が増しているようだ」
店長は目の前の鮫とペンギンに大ジョッキを差し出し、天井と周囲を見渡し顎をさする。
「ひょっとして…あの子が何かしてくれたのかも?」
「ないない。それはなーい」
盆を運ぶラニが笑顔のままで言うそれを、洗い場から食器を運んできたシィが即否定した。

「ふむ。どうやら皆は店に残った神力に気付いていないようだ」
店の片隅であぐらをかく鉢植えから生えるソレがつぶやいた。
袋から何かを取り出しパリポリかじる小さなサボテンだけが、祭りに起こった奇跡を確信した。



お祭り無礼講ということでフタバ亭の面々他色々と混ぜてみました

  • 幼女の分神金羅様かわいい!あと最後のトゲオだけが知っている吹いた -- (名無しさん) 2013-07-14 07:42:39
  • 精霊の活性化が御利益なのね -- (名無しさん) 2013-07-15 08:21:42
  • よくスレネタ拾ってて楽しい。サボテンは一体何者?? -- (名無しさん) 2013-07-18 23:14:18
  • 色んなキャラが出てきて楽しいねー。国関係なくどこにでも現れるんだな金羅様。食事のお礼がにくいな -- (名無しさん) 2014-04-17 23:14:41
  • 賑やかな祭りに料理ありとなると金羅様も自然と引き寄せられてくるようで。純心なおもてなしにささやかな神の御利益はほっこりしますね -- (名無しさん) 2016-11-13 16:53:55
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最終更新:2013年07月14日 03:56