【Game in Future】


 時はAD20XX。
 異世界との交流も何となく進んだ、そんな時代。

 何も無い部屋に、彼は居た。
「あれ? バグった?」
 自分は確かに最近発売されたばかりの新感覚・体感型ゲーム機を起動したはずだ。
 数十年前に没落したMMORPGという分野と新ゲーム機の相乗効果は、さながら自分がゲームの世界の住人になったかのようだと評判を呼び、入手はかなりの困難を極めた。
 方々に手を尽くし、苦労の果てにようやく入手に成功、プレイに漕ぎつけた・・・のだが、今目の前にあるこの光景は何だと言うのか。
「チュートリアルか何か、か?」
 とりあえず部屋を歩いてみる。

 が、いかんせん狭い。すぐにやることが無くなってしまう。
「一体何すりゃいいんだよ!」
 思わず叫ぶ。
 すると、ポゥーンという音と共に、壁の一枚がドアに変わる。
「何がフラグだったんだよ・・・?」
 愚痴りつつも、彼は扉に手をかけ、押し開け、先に進む。

 そこに居たのは、椅子のような物に腰掛け黙々と読書する猫人女性が一匹。
 NPCか?話しかけてみよう。
「あの、ちょっと」
「煩い」
「ここは一体」
「・・・」
 会話が成立しない! と思いきや
「黙ってアレを見なさい」
 というありがたい御言葉。 指差す先にはすんげぇ古臭いテレビが置いてあった。 なんかダイアルがついてる。
 あまりに古すぎてどうやったら電源が入るのか分からなかったが、画面の前に座り込むと勝手に画面が点いた。

「さて、今日も阿呆が捕まったか・・・っておい剣子先生なに遊んでんだ」
「ふっふっふー、じゃっじゃぁ~ん! これを見よぉ~!」
「・・・何だこのトゲトゲの物体は」
「神事 in 20XX Summerにサークル『[[セダル・ヌダ]]の炉』が放つ新商品、『超奈落合金魂
神斬機后シュヴェーアト』ですよぉ! 昨日はこれを手に入れるために徹夜したようなものですからね!」
「神事は徹夜禁止だろ・・・いい年こいた女教師が、たまの休みに何やってんだ」
「煩いですねぇ助手は! この美しさが分からないうちは、まだまだ助手ですよ? そんな助手はコレで遊んでなさい」
「なんだこりゃ・・・なになに? 『figna ディエル=カー・[[ラ・ムール]] 壱発逆転王Ver』? ・・・ふむ、ふむ・・・ふむ!」

「おーい、かえってこーい」
 テレビの画面ではこちら側そっちのけで遊んでいる。
 この完全放置、どうすりゃいいんだ。

「よし、このあたりで本題に戻るとするか」
「いやぁすっかり遊んじゃいましたねぇ~。 それじゃあ行きますよ!」

「猫助!」
「剣子の!」
「「なぜなにエグ・フリングラス はっじまっるよー!!」」 

 テレビから軽快なBGMが流れる。
「児童番組かよ!」
 コンセプトとしては間違っていないだろう。

「というわけで今日もクソ太陽に捕まっちまった馬鹿野郎のためにお送りするなぜなにエグ・フリングラス、
司会はこの俺、猫助助手と」
「テレビのむこうのみんなー? こーんにーちわー!」

 多分今俺が置かれている状況について説明してくれるんだろう。
 そういう趣向であれば、チュートリアルはじっくり聞かざるを得ない。

「そんな、ひどい・・・テレビのむこうのみんなー? こーんにーちわー!」

 話が進まない。 どうなってんだ?

「そんな、ひどい・・・テレビのむこうのみんなー? こーんにーちわー!」

 アンタはどこの無限ループ王女だ!?
「こ・・・こんにち、わ?」

「はい、よく出来ました! いつも朗らか明朗会計、剣子先生の二人が務めますよ!」
「そいじゃあまずは、今お宅さんが置かれてる状況について説明しようか」

「お宅さんは、なんとかっつー頭に被るゲーム機を被ってゲームを始めようとしたところだと思う」
「結構なお値段するようですね。 よく買えましたねぇ~」
「だが、現状クソ太陽と墓石の共謀で、お宅さんの認識領域はゲーム機経由で『エグ・フリングラス』に
強制的に連結した状態になってる」
「簡単に言うと、貴方が認識可能な世界を『エグ・フリングラス』に固着した、つまりは貴方は
『エグ・フリングラス』の住人になった、ということです!」
「で、次にこの『エグ・フリングラス』だが、2010年代初頭に流行した某ライトノベルと
某携帯機用ゲームをパクって折衷したものだ」
「いいんですか、そんな事言っちゃって?」
「事実だからな。 クソ太陽が日課のゲームをやってるうちに閃いて墓石に打診、ゲームとしての土台を
墓石、主役の選定やモブ等生成をクソ太陽が担当してる」

 あのー・・・さっきから出てくる「クソ太陽」と「墓石」って?

「ああすまん、どちらも開門世界の神で、『クソ太陽』はラー、『墓石』は[[ディルカカ]]だ」
「不敬も甚だしいところですけど、御目溢しを頂いているうちはこのまま続けますね」
「で、このゲームの最終目的は『真月の最深最奥領域に居る真月神セレニアコスの打倒』、
ぶっちゃけクソ太陽の自己保身なわけだが、今はまだトライアル版だからワンフロアの突破で御役御免、
開放されるようになってるぞ」
「ちなみに元ネタに準じまして、貴方がフロア攻略中に何らかの原因でデッドエンドを迎えますと、
そのままリアルもデッドエンドシュートしますので、気を付けてくださいね☆ミ」

 デッド、エンド?

「読んで字の如く、死んで終了、です☆ミ」
「なんだその『☆ミ』は」
「重大な事実ですけど、軽い気持ちで受け止めて欲しいなーと思って。 テヘッ☆ミ」
「ペコちゃんヅラしやがって・・・おいテメェ今何歳か言ってみろや。
もちろん『17歳』は無しだからな」
「それはさておき、この部屋から出ますと、こわーいモンスターが盛り沢山!
危険が危いですから、貴方を手助けしてくれるパートナーを、お部屋に予めお招きしています!」
「過去の門開世界の住人で、一定基準をクリアしたヒトから完全ランダム選定だ。
誰かは知らんが、宜しくやってくれ」
「パートナーさんとうまく連携、協力してフロアクリアを目指してください!」
 
 
「というわけで、なぜなにエグ・フリグランスはこれで御仕舞だ。 無事生還してくれ」
「がんばってくださいねー!」

 ブツン、という音と共に画面は消え、テレビは物言わぬ箱に戻ってしまう。
 とりあえず、あの読書中の猫人さんの協力を取り付けて、生還しないといけない。
 そう思い振り返ると、
「見終わったわね」
「うぉあ!?」
「良い年こいた男が、背面取られたくらいでいちいち声を上げない。 みっともない」
「そんな、ひどい・・・」
 使いどころは間違ってないはずだ。
「さて、それじゃあこの遊戯の趣旨に則り話を進めるけれど」
 猫人さんが宙に手をかざすと、次々に周囲にウィンドウがポップアップしては消えていく。
 それも凄まじい速度で。
「その前に、学業の成績もままならないのに遊戯に現を抜かす、その弛んだ精神を叩き直す必要があるわね」
「へ?」
 言うが早く、椅子に机、黒板に教卓が用意される。
「なんでこんな時に勉強なんて・・」
「厭なら構わないわ。 そこの扉から表に出て、遊戯の続きをなさい。 私は付いて行かないけれど」
「え、なんで!?」
「最終的に協力するかしないかはこちらに裁量権がある、それだけの事よ」
「そんな、ひどい・・・」
「酷いのは貴方の学業成績よ。 中の中~下に甘んじる事を恥と思わない、緩み切った学業意識を是正するのが、今の貴方にとって遊戯より優先されるべき事項よ」
 取りつく島も無い、とは正にこの事。
 少しでも生き残る可能性を上げるために、仕方なく席に着く。


 この時はまだ、1~2時間で終わるだろうと思っていた。

 小休止で猫人さんの名前を聞いて、それを調べるまでは。

  • どう読んでも危険なゲーム。オムニバスで見せながら所々ホラーチックなのを混ぜてくるのが涼し面白かった -- (名無しさん) 2013-07-31 01:24:49
  • まず脳内に浮かんだ言葉がVRたけしの挑戦状ですね。次々と押し寄せる最新鋭技術で表現される不条理にどこまで脳が開き直って対応してくれるかという。しかしデッドエンドだけはちょっとあんまりな設定ではなかろうかと。老婆心ながら文字数が多くて画面から見切れている行を改行で調整してみました -- (名無しさん) 2016-11-27 16:54:13
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

g
+ タグ編集
  • タグ:
  • g
最終更新:2016年11月27日 16:50