主な登場人物
赤石ヒィ→猫人留学生。金髪碧眼で陸上とチアとフリーランニング同好会の掛け持ちアグレッシブ
銀城鋼助→筋肉応援団員。しょうゆ顔で援団一筋十三年
「おーい起きろー遅刻すんぞー」
「んーあとごふんー」
「古典的なことを言うんじゃありません」
「だってーコースケの胸のうえって寝心地いーんだもーん…」
「誤解を招くようなことも言うなっての」
なんなんだこの状況は。
寝苦しくて起きてみたらヒィが布団の上で丸くなってる。
というかさっきの会話、普通逆じゃね？
なんで俺は布団の中から布団の外にいるやつを起こしてるの？
「とにかくどけよヒィ、俺が起きられないじゃないか」
「そーだったーコースケを起こしに来たんだったー…」
寝ぼけ声でもぞもぞと動くけど一向に退く気配のないヒィ。
「じゃあ何で俺の布団の上でお前が寝てるのよ」
「布団をはごうとしたらー、コースケのいーにおいがしてー、眠気に負けましたー」
答えになってねぇ。
「ほんとは布団にもぐりこみたかったんだけどー」
聞いてねぇ。
「おかげでギリギリなわけだが」
「でも予鈴まで時間あるじゃん？」
「今週の団旗掲揚の当番、俺なの」
なかなか降りる気配のないヒィを布団ごと跳ね飛ばし、何とか家を出たけどあんまり余裕はない。
「そうだっけ？」
「そうだよ、一分でも遅れたら土下座ものだよ」
「じゃあお詫びに近道しよう」
言うが早いがヒィが俺の腕にまとわりついて、視界が宙に舞う。
「何すんだよ！？」
「え？近道だよ？」
着地したの道路沿いの民家の屋根です。どう見ても不法侵入です、ありがとうごさいました。
「そもそも屋根とか塀は道と言いません」
「？」
ダメだ理解してねぇ。観念して付き合うか。
垣根を越え、細い路地を進み、塀を乗り越え、工事現場を突っ切って。
「しかしお前、いつこんな道使うのよ」
「一人の時はだいたいかな？楽しいよーエクストリーム登校って感じで」
「今日はしかたないとして、これからはあぶなかっしいのはやめなさい」
ケガしたらどうすんの、この猫娘め。
「えー？パルクールの練習にもなるのにー」
「さっきからオリジナル言語を使いまくりなのは仕様ですか？」
「あっれー？コースケってば人間なのにパルクール知らないんだー？おっくれってるゥー」
ニマニマ笑うヒィ。
「パルクールっていうのはー…」
要するに自然障害人工障害を乗り越えてスタートからゴールまで如何に早く着くかというものらしい。
「でね、パフォーマンスとか競技性が入ってくるとフリーランニングになるんだよ。同好会もあって、近いうちに総体の正式種目になるかもってクレスタ先輩が…」
喜々と話すヒィだがこっちはほとんど聞く余裕はない。
さすがに電柱からアーケードの屋根に飛び移る状況で人の話なんて聞けるもんか。
ついて行くので精一杯だ。
無事に団旗掲揚を終え、先輩たちへの土下座を回避してふと思うのだが…
うちの学校は自由すぎやしないだろうか。
異世界の異種族と交流を目的とする十津那学園、その高等部。
色んな国から色んな種族が集まるわけだから多少緩いのはわかる、わかるけど…
「何なんだこの仮装学生総進撃」
「ハロウィンだからじゃない？」
「にしたって朝からやりすぎだろ」
校舎へ吸い込まれていく学生のほとんどが何かしらの仮装をしてる光景はさすがに突っ込まざるをえない。
ラノベを読みふける深窓の令嬢はやたら胴長でフラフラ歩きのデュラハンに跨がり、産業革命時代の名探偵が野良犬に餌を与え
三本腕の巨大な葡萄と蝦蛄人が着流しの岡っ引きをどつき回し、パワードスーツと落ち武者が肩を並べて歩いている。
「面白いからいいと思うよー？そだ、私たちも仮装しよーよー」
「例えば？」
「コースケが応援団長で白長ラン鉢巻でー私がチアリーダー！」
「結局いつもの格好とそんなに変わらないのね」
「ダメカナ？」
「だめですまだ俺には団長とか早過ぎだしお前も本命は陸上じゃん」
「似合うと思うけどなーコースケの晴れ姿」
本当のところ、ヒィのチアコスは色々と持て余して俺にも周りにもこれまた色々と影響がと言いたいが
「コースケって肩幅広いから黒服にサングラスでヤのつく自由業屋さんとか！」
たぶんこいつは一生気付かないと思う。
というか何でヤクザなんて知ってんだお前。
「ねーコースケー、お願いがあるんだー」
帰り支度をしていると猫なで声のヒィに話かけられた。
「お前がその声の時はイヤな予感がするので右から左に聞き流します」
「人を捕まえるのを手伝ってほしいんだー」
「スルーかよ…って何か今物騒なワードが聞こえましたが」
「どのへんが？」
「人を捕まえるのあたり」
「だって元原くんってすばしっこいんだもん」
「お前いつから武装風紀の真似事を」
「違うよー、フリーランニング同好会の勧誘だって。朝話したじゃん」
豊満な胸をふんすっ、と張って力説するヒィ。
「で、作戦なんだけど風紀委員と追いかけっこしてるとこに先回りしてはさみ打ちにします」
それ絶対話聞いてくれないパターンだよね、うん。
「ヒィ、そんなまどろっこしい事しなくても元原なら…ホラ」
俺は教室の窓際最後尾を顎でしゃくる。
ヒィの視線がそれを追い……硬直する。
「…誰あのトンカラトン」
「なぜトンカラトンをチョイスする」
元原の席にいるのは全身包帯グルグル巻きのミイラ男だ。
だが頭からは特徴的なトサカが飛び出して彼が元原であると自己主張している。
「よー、お熱いねご両人」
視線に気付いたミイラ男…もとい元原が俺とヒィに話かけてきた。
「ど、どうしたの何があったの元原くん？」
「今朝アニーに喧嘩売られて、めんどくせーから逃げた。そしたら風紀委員の釈とぶつかっていきなり殴られた。吹っ飛んだ先にアニーがいて乳揉んじまって殴られて吹っ飛んだ。また釈に殴られて五往復したくらいで記憶が飛んで気がついたら保険室でこのザマだよ」
よく無事だったなそれ。というかお前の耐久性はどうなってるんだ元原。
「その頑丈さを生かすいい競技があるんだけど、興味ないかな？かな？」
ツッコまないのか。というかいきなり直球すぎるぞヒィ。
「いつもの勧誘ってか？一応考えなかねぇけどよ、絶対めんどくせーことになるぞ」
「めんどくさいって例えば？」
「今にわかるぞー…はい、五秒前ー、四、三、二、一…ゼロ」
きーんこーんかーんこーん…きーんこーんかーんこーん…
元原のカウントダウンでチャイムが鳴る。
その途端、
「今朝は良くもやってくれたわねバカ元原！レシエお姉さまにも触らせたことがない胸を揉むなんて万死に値するわ！」
アニーが窓ガラスを蹴破って踊り込んできた。しかもカトラス刀のおまけつきで。
そして、
「元原丈児！今朝の騒動について出頭命令が出ています！神妙にしなさい！」
教室前扉より碧波羅風紀委員長のお出まし。その後方には大勢の武装風紀が控えている。
更に、
「「「我ら磊令三兄弟！振るう刃は相手を選ばﾌﾞﾍﾞﾗｯ！」」」
教室後ろ扉よりだめ押しで現れた狐人の三人組。でもソッコーで元原にノサれた。
「とまぁそういうわけよ！大人しく諦めなー！」
ドップラー効果を残して走り去る彼を風紀委員たちとアニーが追いかけていった。
「ねーコースケ」
「なんだよ」
「はさみ打ちじゃ足りないみたいだね」
「まだ諦めてなかったんかい」
「ただいまー」
「おかえりコースケ。ごはんにする？お風呂にする？それとも」
「本気にするぞというよりいつもなんでナチュラルに俺んちに帰ってるんだ寮があるだろ」
「コースケがいないと寂しいもーん」
応援団の練習から帰るとヒィに出迎えられた。
こいつはどういうわけか寮の自室より俺んちに入り浸ってる。
ほぼ毎日なので感覚が麻痺ってきてる俺も俺だけど。
「で、で、ごはん？お風呂？どっち？」
「すまねえヒィ、どっちも外で済ませてきちまった。今日は練習がハードで」
「じゃあ今日はもう休んだ方がいいかー…」
普通にしてるヒィだけど、さり気なく尻尾と耳がシュンとなる。
なにこの罪悪感。
「…なぁヒィ」
「？」
「今日さ、その、泊まってけよ」
「いいの！？」
「いいよ。その代わり明日は普通に起こせよな」
「うん！おやすみ！」
「いきなり布団に引きずりこむな気が早い歯ぐらい磨かせろ電気も消せ！」
翌朝。
「俺は普通に起こせって言ったよな」
「だってー仮装してなかったからやっとかないとなーって」
だから答えになってねぇ。
「じゃあ一応聞く。なんの仮装だよ」
布団の中、俺の腹の上で丸くなってるヒィに問いかける。
「想像妊娠の仮装だけど何か？」
「つまり外から見たら俺の腹が膨らんでて、と。そういうことか」
「ダメカナ？」
「…ダメです」
降りるなら横から降りてくれよヒィ。
下は勘弁してくれよヒィ。モーニンググローリー的な意味で。
- キャラ盛り沢山賑やか楽しい。意外に軽い口調だったコースケ -- (名無しさん) 2013-11-05 20:04:10
- 不安定な場所を鋼助を引っ張って跳べるってヒィって力持ちさん？ -- (名無しさん) 2013-11-06 20:31:17
- もう鋼助はヒィの布団かコタツ状態。このままレギュラーカップルになりそうで楽しみ -- (とっしー) 2013-11-08 01:15:08
- お題SSだけどまるっと普通に一本の流れになっているのはエクストリーム！学園キャラも交えつつ…と見せといてイチャコラじゃないですか。オチが吹いた -- (としあき) 2013-11-12 22:30:04
- ヒィにとっての両親のようでもあり兄弟でもあるような銀城の関係が何とも羨まもどかしいですね。多種多様大勢の学生の登場する風景が賑やかで楽しいのですが授業風景も見てみたいですね -- (名無しさん) 2017-10-15 18:09:01
お題
- 想像妊娠
- エクストリーム登校
- 土下座
- ヤのつく自由業
- はさみ
- おやすみ！
最終更新：2013年11月04日 03:31
